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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 第57回日本臨床眼科学会講演集 (2) 原著

流行性耳下腺炎に併発した角膜内皮炎の1例

著者: 佐野友紀 ,   阿部達也 ,   笹川智幸 ,   松田英伸 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.441 - P.444

 24歳女性が前日からの左眼視力低下で受診した。有痛性腫脹が7日前に右耳介,6日前に左耳介に生じ,39.7℃に発熱した。矯正視力は右1.2,左0.01で,左眼眼圧が34mmHgであった。左眼に強い毛様充血と角膜実質の浮腫があった。流行性耳下腺炎に併発した角膜内皮炎と続発緑内障を疑い,副腎皮質ステロイドの点眼を開始した。初診の10日前に長男が流行性耳下腺炎に罹患していること,定型的な全身症状,ペア血清によるムンプスウイルス抗体値の上昇から,流行性耳下腺炎の診断が確定した。角膜内皮炎は40日後に治癒した。左眼の角膜内皮細胞密度は1,442mm2で,右眼の約50%に減少していた。流行性耳下腺炎に併発した角膜内皮炎は早期に治癒するが,角膜内皮細胞の減少があるので注意が必要である。

オートパルスシステムを有した超音波白内障手術装置の有用性

著者: 西原仁 ,   谷口重雄 ,   鈴木聡志 ,   井上吐州 ,   石田佳子 ,   西村栄一

ページ範囲:P.445 - P.448

 白内障の超音波乳化吸引術で,最適なパルスを発振する自動パルス装置を開発した。本装置でのパルス発振は毎秒50回でパルス幅が6msである。足踏みスイッチの踏み込みが90%以上であるか,吸引圧が設定値の80%以上で1秒以上持続すると,パルス幅が14msに,そして超音波発振時間が30%から70%に増強されるように設定した。本装置での超音波出力は核硬度に合わせて15~40%の範囲に,そして連続発振では40%に設定した。43眼に対して本装置による白内障手術を行った。従来の装置よりも,手術時間(p=0.02),超音波発振時間(p<0.0001),積算エネルギー(p<0.0001)の3項目の値が有意に低かった(paired-t検定)。本装置は超音波使用量を軽減させ,有用であると考えた。

白内障手術13,000眼のうち術後感染症を発症した2例の検討―手術室環境と手術時間が術野の汚染度に及ぼす影響

著者: 安間哲史 ,   三浦元也 ,   安間正子 ,   宮川典子 ,   平井陽子 ,   安野雅恵

ページ範囲:P.449 - P.455

 1998年から2003年までの16年間に当院で白内障手術を行った13,024眼のうち,2眼に術後感染が起こった。1例は慢性涙囊炎がある72歳女性で,手術2週後に牽引糸をかけた6時の部位に潰瘍が起こり,角膜膿瘍から眼内炎に発展した。他の1例は72歳男性で,眼内レンズを毛様溝に縫着後に眼内炎が発症し,硝子体手術を行った。手術中の結膜囊培養結果は,手術室の清浄度の上昇と手術時間の短縮が術中の手術の汚染度を低下させ,術中の感染予防に有効であることを示していた。手術の数日後に結膜囊から採取された菌の過半数は,術前から存在していた菌と同種であったことから,角膜切開白内障手術では感染が術後早期に起こる危険性があると考えた。複数の感染発症因子が重なった場合には,より綿密な経過観察が必要であるが,基本的な感染予防対策を忠実に行えば,術後眼内炎のほとんどは予防が可能であると結論される。

発達外来の1歳児の屈折度数の分布

著者: 小島正嗣 ,   名和良晃 ,   桝田浩三 ,   竹谷太 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.457 - P.459

 目的:1歳児での眼屈折要素の解析。対象と方法:過去33か月の期間に奈良県立医科大学未熟児発達外来で診察した1歳児181名に調節麻痺薬を点眼し,自動屈折計で測定した屈折要素,出生体重,在胎週数を検索した。結果:等価球面度数に換算した屈折値は,左右眼の間に有意の相関があった(p<0.0001)。出生体重が少ないほど,屈折値が有意に近視寄りになった(p<0.04)。屈折値と在胎週数とは有意に相関しなかった。乱視では直乱視が53%と最も多かった。結論:自動屈折計を使うことで1歳児の屈折要素の客観的測定ができた。加齢に伴う屈折要素の変化の追跡がこれで可能になることが期待される。

マイトマイシンCを用いたPRK後のエンハンスメント

著者: 鈴木高佳 ,   ビッセン宮島 弘子 ,   中村匡志 ,   菊地毅志

ページ範囲:P.461 - P.464

 19歳男性の両眼にレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractive keratectomy:PRK)を行った。術前に軸180°の正乱視を伴う-4.0Dの近視が両眼にあった。PRKの目的は,プロのボクサーになるためであった。術後1か月に両眼とも裸眼視力が1.0になった。その後両眼にヘイズが生じた。近視と乱視の戻り(リグレッション)が起こり,裸眼視力が右0.1,左0.3に低下した。初回手術から4か月後にPRKを再び実施した。レーザーで角膜前面を切除したのち,切除部に0.02%マイトマイシンCを2分間作用させた。両眼とも4日後に切除部が上皮化し,1か月後に裸眼視力が右1.0,左1.2に回復した。再手術から6か月後までこの状態がほぼ維持され,ヘイズも軽減している。マイトマイシンCを用いたことが,近視と乱視の戻りに対する再PRKが奏効した一因であると解釈される。

糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症における眼内レプチン濃度

著者: 伊東裕二 ,   木許賢一 ,   古嶋正俊 ,   松本惣一 セルソ ,   高木康宏 ,   山下啓行 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.465 - P.467

 増殖性糖尿病網膜症18眼と網膜静脈分枝閉塞症6眼に硝子体手術を行い,硝子体と血液中のレプチン濃度を測定した。全24眼に硝子体出血が発症していた。硝子体手術を行った黄斑円孔または網膜上膜22眼を対照とした。硝子体中のレプチン濃度(pg/ml)の平均±標準誤差は,糖尿病群1,162±291,網膜静脈分枝閉塞症群528±124であり,対照群での90±29よりも有意に高かった。糖尿病群と網膜静脈分枝閉塞症群の間には有意差がなかった。血中レプチン濃度には,3群間に有意差がなかった。硝子体出血が併発している糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症では,硝子体中のレプチン濃度が増加していることと,レプチンが直接または間接に眼内血管新生に関与する可能性があると結論される。

調節可能眼内レンズを用いた白内障手術の成績

著者: 本田理恵 ,   村戸ドール ,   藤島浩 ,   戸田郁子 ,   荒井宏幸 ,   坪田一男

ページ範囲:P.469 - P.474

 調節可能眼内レンズを使った白内障手術を15例20眼に行った。シリコーン眼内レンズを挿入した14眼を対照にした。最長1年間の術後経過を観察した。両群とも1.0以上の術後矯正視力が得られた。調節計で測定した調節力は対照群14眼では0であり,調節可能眼内レンズ挿入眼では術後6か月でその66%に0.35±0.30Dの調節力があった。調節力は以後減退する傾向にあり,前囊の収縮と後囊の混濁による可能性がある。

25ゲージシステムを用いた経結膜的硝子体手術の試み

著者: 木村英也 ,   黒田真一郎 ,   永田誠

ページ範囲:P.475 - P.477

 25ゲージシステムによる経結膜的硝子体手術を31例33眼に行った。内訳は特発性黄斑上膜28眼,続発性黄斑上膜3眼,網膜静脈分枝閉塞症2眼である。27眼では角膜切開による白内障手術を同時に行った。硝子体切除の効率は20ゲージシステムより劣ったが,ほぼ同様な手術成績が得られた。カニューレ挿入時に角膜切開創からの虹彩脱出が1眼にあり,4眼で強膜創縫合が必要であった。術後合併症として,一過性低眼圧が7眼,一過性ブレブ形成が10眼,結膜創からの漏出が4眼,脈絡膜剝離が4眼にあった。術後炎症や異物感の訴えはほとんどなく,低侵襲手術をすることが可能であった。

特発性黄斑円孔術後の網膜厚にICGが及ぼす影響

著者: 吉田ゆみ子 ,   熊谷和之 ,   古川真理子 ,   沖田和久 ,   出水誠二 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.479 - P.482

 特発性黄斑円孔65眼に内境界膜剝離を行い,術後の網膜厚と視力を検索した。37眼には術中にインドシアニングリーン(ICG)による染色を行い,28眼にはこれを使用しなかった。術後12か月以上を経過した時点で,中心窩とその周囲の網膜厚を光干渉断層計(OCT)で測定した。2群間の値の有意差をMann-Whitney U検定で評価した。中心窩厚は,染色群190.9±53.7μm,非染色群163.8±45.3μmであり,染色群が有意に厚かった(p=0.024)。中心窩周囲の網膜厚は,染色群281.0±30.2μm,非染色群257.5±27.9μmであり,染色群が有意に厚かった(p=0.004)。術後視力には両群間に有意差がなかった。黄斑円孔手術でのICG染色の安全性の確認がなお必要なことを示す所見である。

治療が奏効した重篤な甲状腺角結膜障害の1例―甲状腺刺激抗体の変化

著者: 高本紀子 ,   神前あい ,   尤文彦 ,   井上トヨ子 ,   前田利根 ,   井上洋一

ページ範囲:P.483 - P.486

 51歳男性が左角結膜障害と閉瞼不能で受診した。18年前に甲状腺機能亢進症と診断され加療中であったが,2年前に治療を中断した。10年前から眼瞼腫脹と眼球突出があり,2年前に角膜潰瘍が左眼に発症した。1か月前に左眼の角膜が穿孔した。初診時の矯正視力は,右0.6,左光覚弁であり,眼球突出度は右26mm,左37mmであった。瞼裂の上下幅は右12mm,左30mmであった。両眼に強い結膜充血と浮腫があり,左眼に角膜潰瘍があった。副腎皮質ステロイド薬の全身投与と球後注射,眼瞼縫合,眼窩減圧術などを行い,眼球突出と結膜浮腫は軽快した。甲状腺刺激抗体(thyroid-stimulating antibody:TSAb)は,初診時3,764%,治療後177%であった。甲状腺機能亢進症の加療でTSAbが大幅に改善した例である。

多彩な粘膜病変を呈した難治性mucous membrane pemphigoidの1例

著者: 星最智 ,   山村陽 ,   大澤秀也 ,   稲富勉

ページ範囲:P.487 - P.491

 70歳男性に進行性の両眼の結膜囊短縮と閉瞼障害が4年前からあり,他医で行われた眼瞼形成術後の術後炎症で受診した。視力は右光覚弁,左手動弁であった。両眼に上下の重度瞼球癒着と角膜上皮幹細胞疲弊があった。前鼻孔閉鎖,口腔と咽頭粘膜潰瘍があった。口腔粘膜の蛍光抗体直接法による検索で基底膜にIgGとC3の線状沈着があり,mucous membrane pemphigoid(MMP)と診断した。薬物の全身投与を行ったが,初診から6か月後に左眼に角膜穿孔が生じ,表層角膜移植,輪部移植,羊膜移植を併用する眼表面再建術を行った。いったんは軽快したが,1年後に左眼角膜穿孔が再発し全層角膜移植を行った。視力は0.01に向上したが,閉瞼障害と瘢痕形成が進行して治療用コンタクトレンズの装用が困難になり,視力が手動弁に低下した。

遊走水晶体により著明な角膜内皮細胞減少をきたしたマルファン症候群の1例

著者: 三原悦子 ,   八幡健児 ,   八田史郎 ,   井上幸次 ,   堅野比呂子

ページ範囲:P.493 - P.497

 マルファン症候群がある45歳男性が水晶体脱臼と続発緑内障で紹介され受診した。水晶体脱臼は左眼では3年5か月前,右眼では2年前に起こったが,放置されていた。受診時には両眼とも水晶体が前房に脱臼し,角膜後面に接触していた。角膜内皮細胞密度は右606/mm2,左1,282/mm2であり著明に減少していた。自己閉鎖創による水晶体嚢内摘出術を両眼に行い,以後の経過は良好である。マルファン症候群では角膜内皮に注意することが必要であることと,内皮細胞密度が低下した脱臼水晶体の摘出では,自己閉鎖創嚢内摘出術が侵襲の小さい有効な術式であることを示す症例である。

エタンブトール視神経症において視野変化が早期診断に有用であった1例

著者: 中谷雄介

ページ範囲:P.499 - P.501

 71歳女性が1か月前からの視力低下で受診した。1年前に肺結核の疑いがあり,5か月前にその診断が確定した。4か月前から,1日量750mgのエタンブトールなど3剤を内服している。矯正視力は右0.4,左0.3で,色覚異常があった。眼底と視野は正常であった。エタンブトール内服を中止したが,初診から1週目に視力は左右とも0.1に低下した。3週目にハンフリー視野検査で中心暗点と耳側狭窄が両眼に発見された。視力はさらに低下した。3か月目から視力回復が始まり,11か月後に左右とも1.0になった。本症例では18.3mg/kg/日のエタンブトール内服を3か月継続した後に視神経症が発症した。視野異常が視神経症の早期発見に有用であった。

高齢者にみられた原田病の2例

著者: 福島敦樹 ,   山本由美子 ,   西野耕司 ,   堤理子 ,   小浦裕治 ,   割石三郎 ,   政岡則夫 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.503 - P.508

 原田病は高齢者での発症は少なく,高齢者では遷延例が多いと報告されている。筆者らは高齢者にみられた原田病の2例を経験した。症例1は83歳女性,症例2は68歳男性。両症例とも臨床所見,髄液検査から原田病と診断した。症例1は副腎皮質ステロイド薬投与中に幻覚,糖尿病が出現したため,減量を早く行ったところ再燃がみられた。その後,ステロイドパルス療法を行い,以後は経過良好である。症例2は穿孔性胃潰瘍の既往があり,ステロイド薬全身投与が行えず,結膜下注射を行い改善がみられたが,再燃を認めたため,再度結膜下注射を施行し,以後は経過良好である。原田病で高齢者の場合はステロイド薬を全身投与できないことがあり,その場合はステロイド薬局所投与で対処する必要がある。

再発を繰り返し短期間で重症化した束状角膜炎の1例

著者: 板谷正博 ,   玉井浩子

ページ範囲:P.509 - P.511

 9歳女児が6か月前からの再発性角膜病変で受診した。3歳の頃から九州に帰省するたびに結膜が充血し,ハウスダストなどに過敏であった。矯正視力は右1.0,左0.8で,左眼に球結膜充血,角膜潰瘍,束状の角膜浸潤があった。左眼瞼縁にマイボーム腺梗塞,両眼瞼結膜に乳頭増殖があった。左眼の束状角膜炎と両眼のアレルギー性結膜炎と診断した。抗菌薬と副腎皮質ステロイド薬の点眼で,4日後に角膜潰瘍が消失し,結膜炎が3か月後に軽症化した。慢性アレルギー性結膜炎が束状角膜炎の再発と悪化に関与していたと推定した。

眼瞼下垂で発症した眼瞼・結膜限局性アミロイドーシスの1例

著者: 岩脇卓司 ,   石田和寛 ,   栗本康夫 ,   菊地雅史 ,   板谷正紀 ,   辻川明孝 ,   野中淳之 ,   藤原雅史 ,   近藤武久

ページ範囲:P.513 - P.516

 79歳女性が眼瞼下垂を主訴として受診した。10数年前から上眼瞼腫脹と眼瞼下垂が右眼にあった。両眼に眼瞼下垂があり,瞼裂の上下幅は左右とも2mmで,眼瞼皮膚が固く,開瞼維持が困難であった。球結膜は可動性に乏しく,固い腫瘤性変化があった。単純CTで,眼部軟組織の肥厚と,涙腺部と上眼瞼に石灰化があり,アミロイドーシスが疑われた。生検で球結膜にアミロイド沈着があったが,全身的には他臓器障害は否定され,眼瞼と球結膜に限局する原発性アミロイドーシスと診断した。

C型慢性肝炎患者におけるインターフェロン網膜症の発症因子についての検討

著者: 川崎綾子 ,   門正則 ,   水本桂子 ,   狩野吉康 ,   豊田成司

ページ範囲:P.517 - P.519

 インターフェロンの全身投与を受けている慢性C型肝炎患者107例につき,インターフェロン網膜症の発症とこれに関連する因子を検索した。男性64例,女性43例で,平均年齢は52.9±11.7歳であった。41例はインターフェロンの単独投与を受け,47例はリバビリンを併用した。投与開始から4週ごとに眼底などを検査した。視力障害などの自覚症状は皆無であったが,インターフェロン網膜症は40例(37%)に発症した。平均発症時期は投与開始から77日であった。網膜症は,男性28%と女性51%,糖尿病患者75%と非糖尿病患者34%,55歳未満24%と55歳以上50%に発症した。女性(p=0.04),糖尿病(p=0.002),年齢(p=0.05)が危険因子であった。発症率は,インターフェロン単独投与群と併用療法群の間に有意差はなく,ヘモグロビン値,血小板数,HCV-RNA量,高血圧の有無も無関係であった。以上の結果から,高齢者,女性,糖尿病患者でのインターフェロン治療では,網膜症の併発に格別の注意が必要であると結論される。

黄斑下へインドシアニングリーンが迷入しない黄斑円孔硝子体手術

著者: 山田喜三郎 ,   調枝聡治 ,   松本惣一 セルソ ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.521 - P.524

 黄斑円孔手術で内境界膜を染色するために用いられるインドシアニングリーン(ICG)が網膜下に迷入することを防ぐ方法を考案した。まず液空気置換下で円孔を粘弾性物質で被覆し,その後に内境界膜をICGで染色するものである。この手技を特発性黄斑円孔6眼に用いた。年齢は54~71歳である。術後7日目のICG蛍光眼底造影で,後極部に限局する残留蛍光がすべての症例に検出されたが,円孔部と内境界膜要約 黄斑円孔手術で内境界膜を染色するために用いられるインドシアニングリーン(ICG)が網膜下に迷入することを防ぐ方法を考案した。まず液空気置換下で円孔を粘弾性物質で被覆し,その後に内境界膜をICGで染色するものである。この手技を特発性黄斑円孔6眼に用いた。年齢は54~71歳である。術後7日目のICG蛍光眼底造影で,後極部に限局する残留蛍光がすべての症例に検出されたが,円孔部と内境界膜剝離部には蛍光がなかった。本法はICGの網膜下への迷入を防止しながら,限局した領域を染色するのに有効であった。

梅毒により急激な視力低下を生じた2例

著者: 田島亜紀 ,   玉井一司 ,   山田麻里

ページ範囲:P.525 - P.529

 後天性梅毒により急性視力障害が起こった2例を経験した。1例は85歳女性で,1週間前からの両眼霧視で受診した。1年前に白内障手術を受け,矯正視力が右0.6,左0.8であったが,受診時には右0.1,左0.2に低下していた。両眼に虹彩炎,網脈絡膜萎縮,黄斑浮腫があった。梅毒血清反応が陽性であり,梅毒性網脈絡膜炎と診断した。駆梅療法を行い,2か月後に視力が右0.7,左1.0に改善した。他の1例は36歳男性で,1週間前からの左眼霧視で受診した。3週間前から両側の手足に皮疹があった。矯正視力は右1.5,左0.5であった。左眼の視神経乳頭が発赤,腫脹し,視神経乳頭炎と診断した。血清と髄液の梅毒反応が陽性であり,皮疹は梅毒2期疹であると診断された。駆梅療法と副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行った。1週間後に左眼視力は1.0に回復し,3週間後に眼底所見はほぼ正常化した。

摘出後囊の免疫組織化学的検討を行った後部円錐水晶体の1例

著者: 藤田識人 ,   雑賀司珠也 ,   西川為久 ,   岡田由香 ,   大西克尚

ページ範囲:P.531 - P.534

 4歳男児が右眼視力障害で受診した。矯正視力は右0.2,左1.0であった。右眼の水晶体後面の中央部が半球状に突出し,混濁していた。後部円錐水晶体と診断した。左眼には異常はなかった。初診の5年後に円錐部の混濁が進行したために,水晶体乳化吸引による白内障手術を行い,後囊切開で得られた円錐部組織を免疫組織化学的に検索した。摘出組織には基底膜構造がなく,Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ型コラーゲン,ラミニン,ビメンチン,α平滑筋アクチン,フィブロネクチン,α5インテグリンの局在があった。異所性水晶体上皮細胞の線維性増殖が原因であると考えられた。

テノン囊内麻酔により前房出血,硝子体出血および球後出血をきたした1例

著者: 大野新一郎

ページ範囲:P.535 - P.538

 83歳男性の右眼に白内障手術を予定した。右眼には開放隅角緑内障と約-13Dの近視があり,左眼には落屑緑内障があった。全身的に高血圧と多発性脳梗塞の既往があった。通常の方法で2%キシロカインをテノン囊に注入した。その直後に隅角の1時の部位から前房出血が起こったので手術を中止した。その10分後には出血が前房を満たしていた。翌日に,前房出血,大量の硝子体出血,球後出血が起こっていた。術3か月後にも,前房出血と大量の硝子体出血が残っている。テノン囊内麻酔は手技が容易で合併症が少ないとされているが,高度近視や循環障害がある症例では重篤な合併症が起こりうる危険があり,注意が必要である。

挿入後14年にて沈着を生じ,摘出を要したPMMA眼内レンズの1例

著者: 澤田達 ,   佐藤文平 ,   奥野高司 ,   山谷珠美 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.539 - P.541

 14年前に眼内レンズ挿入を受けた83歳男性が左眼視力低下にて受診した。挿入された眼内レンズは混濁し,左眼矯正視力は0.8であった。治療目的にてレンズ交換を行った。摘出された眼内レンズはPMMA眼内レンズで,表面の付着物から電子顕微鏡X線マイクロアナライザーにてNaとClが検出された。沈着の原因は不明であるが内因性のものが推測された。PMMA眼内レンズ挿入眼に対しては,長期にわたる経過観察が必要であるものと考えた。

眼球破裂後眼内レンズが結膜下に脱出した1例

著者: 伏屋美紀 ,   渡辺たまき ,   永井紀博 ,   井上真 ,   黒坂大次郎 ,   小口芳久

ページ範囲:P.543 - P.546

 93歳男性が転倒して顔面左側を強打し,眼内レンズが上方の結膜下に脱出した。7年前に左眼の超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術,2年前に硝子体手術を受けていた。左眼視力は光覚弁で,眼底は透見できなかった。超音波検査で網膜剝離や脈絡膜出血はなかった。自己閉鎖創より囊内に挿入されていた6.5mmのPMMAワンピースレンズが,虹彩とともに水晶体囊ごと結膜下に脱出していた。受傷から6日後に眼内レンズを除去し,強膜縫合と硝子体腔洗浄を行った。術中所見として,白内障自己閉鎖創の強膜トンネルと硝子体手術時の強膜創が連続して離開していた。

硝子体出血を併発した加齢黄斑変性の硝子体手術

著者: 宮村紀毅 ,   宿輪恵子 ,   北岡隆

ページ範囲:P.547 - P.550

 硝子体出血が併発した加齢黄斑変性8例8眼に硝子体手術を行った。8例すべてが男性で,平均年齢は72.3±8.6歳であった。加齢黄斑変性は3眼がオカルト型,4眼が型不明,1眼がポリープ様脈絡膜血管症であった。術前視力は光覚弁から0.01であった。術式は,単純硝子体切除1眼,硝子体切除と液空気置換が7眼で,うち3眼では網膜下洗浄を行った。術後合併症として,網膜下出血1眼,硝子体出血2眼,網膜剝離2眼があった。術後視力は手動弁から0.4であり,2段階以上の改善が4眼,不変が4眼であった。硝子体出血が併発した加齢黄斑変性での硝子体手術で広範な網膜下出血が発見された場合には,組織プラスミノーゲンアクチベータを使った網膜下洗浄と,シリコーンオイルタンポナーデの併用が有効であると考える。

駆逐性出血に臨床病理的検索を行った1例

著者: 峯正志 ,   名和良晃 ,   福原潤 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.551 - P.555

 82歳女性の右眼に白内障手術を行った。13年前から糖尿病に対して薬物の経口投与,10年前からインスリン注射,2か月前から高血圧の治療が開始されている。左眼の白内障囊内全摘出術と眼内レンズ挿入術が10年前に行われ,順調な経過をとった。右眼手術にはテトラカイン点眼下で,超音波乳化吸引術を用い,眼内レンズを毛様体溝に縫着した。手術開始から45分後に縫着が終了し,強角膜創を縫合している際に強い疼痛を訴え,続いて強角膜創から虹彩と硝子体が脱出してきた。このときの血圧は250/110mmHgであった。以後駆逐性出血の状態になった。手術の5週間後,視力ゼロで疼痛が強いため,本人の希望により眼球を摘出した。摘出眼では,脈絡膜が渦静脈の付近まで広範に出血性に剝離し,眼球上方の変化が強かった。駆逐性出血は上側の脈絡膜からの出血によると推測した。

非定型的脈絡膜欠損に合併した網膜剝離に硝子体手術で治療した1例

著者: 三上尚子 ,   桜庭知己 ,   原信哉 ,   山上美情子

ページ範囲:P.565 - P.568

 76歳男性が右視野障害で受診した。右眼底には非定型的脈絡膜欠損とその下方周囲に網膜剝離がみられ,裂孔は不明であった。超音波白内障手術,硝子体切除術,ガスタンポナーデを行った。術中,脈絡膜欠損部辺縁全周には肥厚した後部硝子体膜が強く付着していた。この肥厚した変性後部硝子体膜を辺縁から剝離・除去し,後部硝子体剝離を作製すると,脈絡膜欠損部の下方辺縁に接した健常部網膜に裂孔がみられた。術後,OCTでは網膜下液が存在していたが,検眼鏡的に裂孔は閉鎖し,網膜は復位した。術中に直視下に裂孔を検索でき,裂孔への牽引を解除できる硝子体手術は,脈絡膜欠損に合併した網膜剝離に有効であると思われた。

Pit-macular症候群に対する硝子体手術後の復位過程

著者: 鹿嶋春香 ,   大串元一 ,   岸章治

ページ範囲:P.569 - P.573

 Pit-macular症候群の7例7眼に硝子体切除術とSF6ガス注入を行った。年齢は30~73歳(平均53歳)で,術前視力はすべて0.1以下であった。光干渉断層計(OCT)などを使って,術後経過を7~44か月間(平均27か月間)観察した。0.3から1.0の最終視力が得られた。網膜の5眼で完全に復位したが,うち4眼では複数回の液ガス置換が行われた。他の2眼では薄い黄斑剝離が残っている。復位が得られた5眼では網膜分離が早期に消失し,これに続いて黄斑剝離が緩慢に吸収された。黄斑復位に要した期間は5~17か月(平均9.6か月)であり,全網膜復位には7~17か月(平均11.8か月)を要した。網膜が復位した機序は,硝子体牽引の解除とガスによる網膜下液の機械的な圧排であると考えられるが,網膜下液の吸収になぜ長期間を要したかは不明である。

経瞳孔温熱療法により顕著な網膜剝離を生じた網膜血管腫の1例

著者: 鈴木綾乃 ,   橋本英明 ,   佐藤拓 ,   岸章治

ページ範囲:P.575 - P.578

 59歳女性が1年前からの右眼霧視が進行して受診した。矯正視力は右0.5,左0.9であった。右眼底の下方周辺部に限局性の網膜剝離を伴う2乳頭径大の血管腫があり,その流入・流出血管には著しい拡張はなかった。囊胞様黄斑浮腫(CME)が併発していた。光凝固を行ったが奏効せず,その2か月後に強膜経由で冷凍凝固を行った。網膜剝離とCMEが軽減しないために,5か月後に経瞳孔温熱療法(TTT)を500mW,3mm径,4スポット,60秒で実施した。その直後から網膜剝離が増悪し,視力はTTT前の0.2から0.06に低下した。その3か月後から血管腫への光凝固を7回繰り返した。光凝固開始から14か月後に血管腫は瘢痕化し,網膜剝離とCMEは消退したが,黄斑萎縮のため最終視力は0.02に低下した。TTTが血管腫内部の血管の閉塞を起こさず,血管壁を障害して血漿成分の漏出を増加させたと解釈される。

球後麻酔に対するリドカインテープの臨床的有用性の検討

著者: 川崎尚美 ,   白石敦 ,   樺沢みさと ,   大橋裕一

ページ範囲:P.579 - P.581

 添付用リドカインテープ(ペンレス(R))は皮膚局所麻酔薬として開発され,静脈留置や硬膜外麻酔における穿刺時の疼痛緩和に有効性が証明されている。今回筆者らは,内眼手術患者88例を対象とし,リドカインテープおよび抗不安薬(エチゾラム)による球後麻酔時の疼痛緩和効果につきプラセボと比較して評価した。リドカインテープ添付は球後針穿刺時の疼痛緩和に有効であったが,麻酔薬注入時の疼痛には影響しなかった。エチゾラム内服は球後針穿刺時痛,薬液注入時痛のいずれに対しても効果を認めず,またリドカインテープとの相乗効果も認められなかった。リドカインテープ貼付は球後麻酔針穿刺時の疼痛緩和に有効である。

内境界膜下血腫を伴ったテルソン症候群の硝子体手術

著者: 堀江真太郎 ,   今井康久 ,   武居尚代 ,   吉野幸夫 ,   市野瀬志津子

ページ範囲:P.583 - P.586

 黄斑前の血腫を伴うテルソン症候群の3例6眼に硝子体手術を行った。すべて男性で,年齢は11か月,22歳,47歳であった。発症から手術までの期間はそれぞれ4週,5週,2か月であった。混濁した硝子体を切除し,黄斑部を含むドーム状の血腫を覆う膜を一部開窓し,これを通じて血腫をバックフラッシュ針で吸引除去した。術中に採取した膜を電子顕微鏡で検索し,内境界膜であることが判明した。この結果から,今回のテルソン症候群症例での後極部の血腫は,内境界膜下血腫であると考えられる。本症候群での血腫が黄斑前にあるときには,血腫部の内境界膜を開窓して血腫を吸引除去することが視力回復と患者の早期社会復帰につながると考えられる。

専門別研究会

画像診断

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.588 - P.589

 第57回日本臨床眼科学会専門別研究会・画像診断は例年どおり,一般口演,指名講演,教育講演のプログラムであった。一般口演は超音波検査による血流解析,機能MRIによる小児の視機能の評価などの研究的な発表,また興味深く示唆に富む優れた症例呈示が行われた。世話人指名講演としては,スキルフルな涙道造影の所見をもとに行われる形成外科サイドの見事な手術の講演,またメキシコで開催された国際眼超音波学会(SIDUO)の詳細で楽しい報告も行われた。最後に神経眼科医からみた正常眼圧緑内障の問題点として,頭蓋内疾患とのかかわりと眼科医の役割についての教育講演が行われた。以下に,それぞれ座長を務めた方々に印象を語っていただいた。

眼先天異常

著者: 野呂充 ,   玉井信

ページ範囲:P.590 - P.591

 ■一般講演

 1.先天白内障患者家族に対するアンケートおよび患者との交流会について

 野呂 充・他(国立仙台病院)

 先天白内障は眼先天異常のなかでも重要な疾患であるが,手術後長期にわたって治療を要し,眼科医,患児,保護者にとって忍耐が必要とされる。今回演者らは,白内障患児の家族が抱えている問題を把握する目的で保護者にアンケートを行い,さらに患者家族からの要望もあったことから患者および家族との交流会を開催したので報告した。

 アンケートの対象は国立仙台病院眼科に通院中の先天白内障術後の保護者である。回答が得られたのは20家族あまりで,多かったのは,視力に関すること,将来に関する不安,コンタクトレンズの価格についてなどであった。このアンケート結果を踏まえ交流会は3月下旬に仙台市で行われ,医師1名,看護師1名,視能訓練士2名,21家族56名が参加した。その内容と参加者の声についても発表した。

眼科と東洋医学

著者: 吉田篤

ページ範囲:P.592 - P.594

 一般演題は8題発表され,特別講演は昨年に引き続き「Show the“証”」のシンポジウムを行った。

 ■一般演題

 第1席は「眼および全身不定愁訴への漢方治療の一例」と題し,神戸市の市橋宏亮先生が発表された。51歳,女性。約1か月前から霧視感,眼乾燥感,眼疲労感,全身疲労感,浮遊感などがあり,原田病大量ステロイド療法後,婦人科でのホルモン療法は無効であった。当帰芍薬散,補中益気湯,人参養栄湯,真武湯,人参湯では不眠傾向が改善しなかったが,酸棗仁湯で改善,疲労感,浮遊感も消失した。全身疲労感などの諸症状の改善に当帰芍薬散と補剤は無効であり,酸棗仁湯使用による虚労と不眠改善が端緒となり症状が改善した。虚労が訴えの中核であることに気づき,問診の習熟が課題になること,問診により本症にアプローチする必要があることを述べられた。

連載 今月の話題

緑内障大規模スタディの結果―EBMに向けて

著者: 吉冨健志

ページ範囲:P.415 - P.418

 日本緑内障学会が中心となって行った多治見スタディは,疫学的手法に基づく大規模な調査として高く評価されている。緑内障領域ではこのほかにもいくつかの大規模スタディが発表され,緑内障診療の最近のトピックスとして注目されている。それらは何を目的にどのような方法で行われ何を明らかにしたのか,それらの調査のほんとうの価値を探ってみよう。

眼の遺伝病56

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(11)

著者: 多田麻子 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.420 - P.422

 今回は,XLRS1遺伝子に,Arg102Trp変異を伴った網膜分離症の1症例を報告する。この変異は,筆者らの検索では比較的高頻度の可能性が示され,本欄のこのシリーズ(1),(5),(6)および(8)(55巻6,11,12号,56巻4号)ですでに臨床像を報告したが,Arg102Trp変異の臨床像は多様性が認められるので,比較していただきたい。

日常みる角膜疾患13

帯状角膜症

著者: 原真紀子 ,   森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.424 - P.427

 症 例

[症例1]

 患者:39歳,女性

 主訴:両眼の異物感・羞明

 現病歴:1992年頃から両眼の羞明を自覚し始め近医を受診していたが,角膜上のカルシウム沈着が次第に進行してきたため,1995年に当科を紹介され受診した。

 既往歴:慢性糸球体腎炎により1975年から人工透析を継続。

 初診時所見:視力は右眼0.3(0.8×S-1.5D),左眼0.3(0.8×S-1.75D)であった。両眼の角膜上皮下に,ほぼ瞼裂に一致した帯状の白色沈着物を認めた。

 経過および治療:ステロイド(0.1%フルメトロン(R))とコンドロイチン硫酸ナトリウム(1%コンドロン(R))点眼により経過観察していたが,徐々に病変が進行し視力が両眼とも矯正下で0.5と低下したため,2000年12月に両眼の角膜上皮掻爬術+フィブロネクチン点眼を施行した。術後は特に問題なく,視力も右眼1.0(矯正不能),左眼0.5(0.8×S-0.75D)まで改善した(図1)。

緑内障手術手技・10

線維柱帯切除術(2)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.428 - P.431

 線維柱帯切除(強角膜窓作製)

 内側フラップをできるだけ角膜寄りで切除した後(図1a),強膜を通して確認できるシュレム管より角膜側で,フラップの幅いっぱいに強膜と直角になるように切開し前房へ切り込む(図1b)。両端は前房側から引き上げるようにして幅いっぱいに切開する(図1c)。強角膜窓の作製にはよく切れるブレードを用いてもよいが,筆者は大きさや形を調節しやすいという点でケリーパンチを用いている。ケリーパンチの先を切開線に挿入し,引き上げるようにして(虹彩を傷つけないようにするため)少しずつ切除し,予定の大きさまで強角膜窓を作製する(図1d)。

 強角膜窓の幅は,内側フラップ幅ぎりぎりまで拡げるようにしている。また,輪部付近に強く漏れることを期待する場合は外側フラップ幅近くまで拡大する。強角膜窓の作製も,結膜の状態,フラップの厚さ,大きさなど,全体的な濾過の程度を予想しながら症例ごとに調節することが必要である。

私のロービジョンケア・12

障害学―盲ろう体験のすすめ

著者: 高橋広

ページ範囲:P.432 - P.435

 はじめに

 この連載で私は「感性を磨くことがたいせつだ」と言い続けてきたが,かの日野原重明先生は,すでに1988年より「6年間の医学教育の大きな目的のひとつは感性を磨くことである」と指摘されている1)。私の感性を目覚めさせ,私を視覚障害者の世界に直接導き感化したのは現国立函館視力障害センター山田信也氏であったが2),よりいっそうこの世界にのめり込ませているのは,多くの視覚障害児や視覚障害者たちである。

 連載最終回では,講演でいつも熱く語る新潟の盲ろう体験セミナーを紹介する。このセミナーは山田氏に無理やり連れて行かれたが,今ではこの体験は私の至高の宝物である。

あのころ あのとき39

CLとともに歩んだ半世紀(1)

著者: 平野潤三

ページ範囲:P.436 - P.438

 運命の出会い

 CL(コンタクトレンズ)が日本に登場したのは1952年,私が名古屋大学を出た年だ。CLは名古屋で教室出身の水谷豊先生が開発し,名大眼科で治験が始まった。当時それは最先端医療で,教授から新入りまで誰も正しい用法を知らず,したがって事故が頻発した。装用3~4時間で充血,異物感が始まり,続行すれば角膜中央にびまん性表層角結膜炎(KSD)やびらんを生じる。一同これはCLが角膜を擦るためと考え,対策としてCLを大きく,タイトにして動きを抑えた。すると眼障害はますます早期かつ高度となり,CLの将来は悲観的だった。

 若気の至り

 ふと私はこれを角膜の酸欠症状と推定した。CL周辺から酸素が最も届きにくい角膜中央に障害が初発するのはそれ故だ。とすれば,嫌気性解糖で上皮のグリコーゲンは減少し消失するはず。それを確かめるには組織化学PAS反応がよいことも文献で調べた。実は私がインターンをした病院の眼科部長が眼病理学の権威船橋知也先生(後に東京慈恵会医科大学教授)で,眼科志望の私を特に懇切に指導してくださった。お陰で私は入局時すでに眼病理標本の作り方,見方を知っていたから,一応教室に届け出たうえ,すぐ実験にかかった。指導者も協力者もないが,励ましてくれる女医がひとりだけいた。幸い当時わが教室は研究費の使用が鷹揚だったし,実験用CLは水谷先生が提供してくださった。
 

他科との連携

所変われば……

著者: 坂井讓

ページ範囲:P.596 - P.597

 長年住み慣れた神戸の医局から川崎医大に転勤して約1年半。病棟医長・医局長と肩書きをいただいたところで最初は大学の雰囲気を把握するのに精一杯の状況ですから,所詮は他科の先生方は知らない顔ばかり。当然,他科との連絡は,若いけれども川崎医大生え抜きの先生に頼っていました。

 Consultation Sheet

 先月号でも取り上げられていた問題ですが,川崎医大でも他の医療施設と同様,Consult Sheetなる書類があり,これを利用して連絡を取り合うわけです。これには実は大きな落とし穴があるのです。依頼書というものには個人の資質というのが見事に表現されてしまいます。読者の方々も何だか訳のわからない依頼書を渡されたことがおありでしょう。大学病院ですから,いろいろなレベルの者が混在していて当然ですし,各人が研修して上手になっていけばよいのです。しかし,結果的に患者側に迷惑になってはいけませんので最低レベルが必要です。それは何か。

 何を知りたいか,何をして欲しいかを記載することは必須で,これにいろいろな情報を簡潔にデコレーションしていけばよいはずです。そこで手始めに糖尿病内科とのやりとりを相談して形式を決めてもらいました(図1)。フリーで記載されているときよりも格段に使いやすくなりました。バリエーションの少ない疾患については今後も種々のパターンを作成していこうと考えています。

臨床報告

ビタミンB1 欠乏が主因であると考えられた栄養欠乏性視神経症の1例

著者: 足立格郁 ,   鈴木克佳 ,   熊谷直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.607 - P.611

 64歳男性が,ゆっくり進行する両眼の中心視野障害を12日前に自覚し受診した。20歳の頃から煙草を1日に40本吸い,日本酒を約4合毎日飲んでいた。食事はほとんど摂取していなかった。矯正視力は右0.05,左0.1で,中心フリッカー値は右11Hz,左13Hzであった。ゴールドマン視野計で両眼に盲点中心暗点があった。血液検査所見はほとんど正常範囲にあったが,チアミン(ビタミンB1)のみが低下していた。栄養欠乏性視神経症を疑い,ビタミンB複合剤を点滴投与した。矯正視力は8日後に両眼とも0.5,5週後に右0.7,左0.9に向上した。中心フリッカー値は左右ともに25Hzになり,盲点中心暗点も軽快した。不十分な食物摂取と長期間のアルコール過飲によるチアミン欠乏が,栄養欠乏性視神経症の主因であると考えられた。

横浜市大医療センターにおけるぶどう膜炎の統計

著者: 加藤陽子 ,   小豆澤美香子 ,   佐藤貴之 ,   伊藤由起 ,   亀澤比呂志 ,   野村英一 ,   西出忠之 ,   門之園一明 ,   内尾英一

ページ範囲:P.613 - P.616

 横浜市大医療センター眼科での最近3年間の内因性ぶどう膜炎105例を統計的に検討した。男性48例,女性57例であり,年齢分布では60歳代が26%,30歳代と50歳代がともに19%であった。原因別では,サルコイドーシスの完全型と眼単独型がそれぞれ10%で最も多く,原田病8%とベーチェット病5%がこれに続いた。分類不能が38%あり,汎ぶどう膜炎38%と前部ぶどう膜炎30%などがその内訳である。今回の症例群では,サルコイドーシスの頻度が高く,ベーチェット病が少ない。HTLV-1関連ぶどう膜炎がないことも地域的な特徴であると考えられた。

全層角膜移植後眼の外傷による創離開例

著者: 坂東純子 ,   横井則彦 ,   外園千恵 ,   稲富勉 ,   佐野洋一郎 ,   木下茂 ,   西田幸二

ページ範囲:P.617 - P.622

 全層角膜移植を過去に受けた眼に鈍的外傷が加わり,術創が離開した10例10眼を経験した。年齢は18~81歳,平均54.5歳であり,角膜移植から受傷までは11か月~20年,平均5年5か月であった。全例で角膜移植の術創が離開し,その範囲は90°~270°であった。水晶体または眼内レンズの脱出または脱臼が6眼,硝子体出血が5眼,網膜剝離が1眼に起こった。最終観察時に4眼では移植片が透明であり,3眼は眼球癆になっていた。受傷時に外傷を予防する措置を講じていたのは1例のみであった。全層角膜移植を受けた眼での外傷性創離開は重篤で予後不良であることが多く,患者と家族への外傷を予防する指導が望ましい。

カラー臨床報告

光学干渉断層計により特異な所見を認めたpunctate inner choroidopathyの1例

著者: 齋藤孝恵 ,   志村雅彦 ,   山口克宏 ,   玉井信

ページ範囲:P.599 - P.605

 40歳女性が左眼霧視を自覚して受診した。矯正視力は両眼とも1.0であり,左眼に軽い遠視があり,透光体に異常はなかった。左眼に視神経乳頭縁の不鮮明化があり,後極部一帯に境界が不鮮明な淡い黄白色斑が散在し,これを囲んで浅い漿液性網膜剝離があった。フルオレセイン蛍光眼底造影でこれら黄白色斑は過蛍光を呈した。これらの所見から,punctate inner choroidopathyと診断した。光干渉断層計(OCT)で,網膜深層に高輝度反射層と,これをはさんで網膜分離があり,検眼鏡的に観察された漿液性網膜剝離と白色点状病巣に相当すると考えられた。プレドニゾロン20mgを初回量とする経口投与で1か月後に自覚症状と眼底所見が改善した。6か月後には白色斑は境界鮮明な網膜下の白色瘢痕病巣になった。OCTでは当初の高輝度層が消失し,網膜色素上皮から脈絡毛細血管板にかけての高反射領域の厚さが増加し,瘢痕病巣に相当すると解釈された。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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