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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻5号

2004年05月発行

雑誌目次

特集 第57回日本臨床眼科学会講演集 (3) 原著

網膜静脈閉塞症に伴う囊胞様黄斑浮腫に対するトリアムシノロン硝子体注射の有効性

著者: 小林茂樹 ,   木村隆 ,   劉新毅 ,   今泉信一郎

ページ範囲:P.681 - P.685

 網膜静脈分枝閉塞症6例6眼と網膜中心静脈閉塞症7例7眼に合併した囊胞様黄斑浮腫に対してトリアムシノロンの硝子体注入を1回行った。注入後18~192日,平均87日間,経過を観察した。注入後の視力は注入前に比べて有意に向上した。光干渉断層計(OCT)で測定した中心窩厚は,注入の30日後に有意に減少した(p<0.0001)。網膜静脈閉塞症に合併した囊胞様黄斑浮腫に対し,トリアムシノロンの硝子体注入が有効な治療法の1つと結論される。

インドシアニングリーンを用いた内境界膜剝離後に鼻側視野欠損を生じた3例

著者: 築城英子 ,   藤川亜月茶 ,   宮村紀穀 ,   小川月彦 ,   北岡隆

ページ範囲:P.687 - P.690

 特発性黄斑円孔3例3眼にインドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)を使った内境界膜剝離を行い,鼻側視野欠損が生じた。2例では水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入を同時に行った。これら3眼すべてに,鼻側視野欠損の原因になりうる病変は,術中・術後ともになかった。当院では,今までのICGを使わない同様の手術では,このような鼻側視野欠損は起こっていない。視野欠損の原因として,ICGの網膜に対する毒性の関与と,今回の3例すべてが左眼発症であり,右利きの術者が左手で光源を操作していたために耳側がより強く露光された可能性がある。

自然消失と再発を繰り返した液状後発白内障

著者: 中村昌弘 ,   江口万祐子 ,   伊勢武比古 ,   小俣仁 ,   筑田眞

ページ範囲:P.691 - P.694

 82歳女性が超音波乳化吸引術と眼内レンズ(IOL)の囊内挿入術による白内障手術を右眼に受けた。IOLはハイドロジェル製で,+22Dであった。手術から12か月後にIOLと後囊の間隙に液状物が貯留し,前眼部画像解析装置(EAS-1000)で高い散乱光強度を示していた。貯留物はその3か月後に減少し,6か月後に自然消失した。さらにその6か月後に再発したが,その後,6か月後に消失した。術後の全経過を通じ,矯正視力は1.2であった。いわゆる液状後発白内障の1例であり,その診断と経過追跡に前眼部画像解析装置が有用であった。

ボツリヌス療法は根治療法となりうるか

著者: 木村亜紀子 ,   鈴木温 ,   鈴木克彦 ,   三村治

ページ範囲:P.695 - P.698

 ボツリヌスA型毒素治療の効果を自験例371例について検討した。内訳は眼瞼痙攣153例と片側顔面痙攣218例である。平均年齢は65.6±11.6歳で,全例で1年以上の経過を追えた。複数回の治療により,眼瞼痙攣14例(9.2%)と顔面痙攣26例(11.9%)で,臨床症状が少なくとも1年間以上完全に消失した。これら奏効率は,従来報告されている自然寛解率よりも高く,本治療による効果であると判断された。症状が寛解した症例では,ほかの症例よりも,発症から短期間で本治療を開始していた。さらにこのような症例では,数回の治療で臨床症状が消失する可能性がある。

眼瞼痙攣と片側顔面痙攣におけるボツリヌス毒素治療―治療間隔および再治療率からみた治療効果の検討

著者: 林恵子 ,   壷内鉄郎 ,   藤江和貴 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.699 - P.702

 本態性眼瞼痙攣346例と片側顔面痙攣225例に対してA型ボツリヌス毒素の注射を繰り返して行った。注射の平均間隔は,眼瞼痙攣が4.7±1.7か月,顔面痙攣が6.1±2.1か月で,有意差があった(p<0.0001)。治療の繰り返しによる効果の明らかな漸減はなかった。両群とも,約70%の症例が再治療を希望した。再治療を希望しない30%の症例での脱落理由は,治療の無効または症状の軽快で,後者はとくに顔面痙攣で多かった。以上の結果から,ボツリヌス毒素による治療は,本態性眼瞼痙攣と片側顔面痙攣に対して有効であると結論される。

Wavefront-guided LASIKにおけるPreVue(R)lensの有用性

著者: 中村匡志 ,   ビッセン宮島弘子 ,   鈴木高佳 ,   菊地毅志

ページ範囲:P.703 - P.706

 目的:Wavefront-guided LASIKの際に,予定された照射術式で作製した検眼用レンズ(PreVueTMレンズ)で術前視力を測定し,その有用性を評価する。症例と方法:LASIKを受ける18例34眼が対象。年齢は18~53歳で平均34.5歳,等価球面度数は-1.63から-6.5D,平均-3.74Dであった。本レンズで矯正した視力を,術前矯正視力,術後の裸眼と矯正視力と比較し,さらにアンケート調査を行った。結果:本レンズによる術前の矯正視力は全例で1.0以上であった。術後1か月での裸眼視力は,30眼(89%)で本レンズによる視力と同等またはそれ以上であった。術後矯正視力は,31眼(91%)で本レンズによる視力と同等またはそれ以上であった。結論:本レンズで矯正した術前視力は,必ずしも術後の視力と一致しなかった。しかし,85%以上の例で,術後視力が本レンズによる視力と同等またはそれ以上であったことから,wavefront-guided LASIKの安全性を事前に確認するのに本レンズは有用である。

超広角レンズを用いた共焦点式走査型レーザー検眼鏡インドシアニングリーン蛍光造影

著者: 山本学 ,   富井順一郎 ,   鳴美貴仁 ,   加藤良武 ,   有本佐知子 ,   平山貴子 ,   矢寺めぐみ ,   白木邦彦

ページ範囲:P.707 - P.710

 Heidelberg Retina Angiogramによるインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影に,接触型の超広角撮影用前置コンタクトレンズを使用した。加齢黄斑変性21眼を含む25眼を対象とした。蒸留水1.0mlに溶解したICG12.5mgを静注し,直後に生理食塩水5mlでフラッシュした。最大150度の範囲まで撮影ができ,全例で渦静脈までの広範囲な造影像が得られた。超広角レンズを使う蛍光造影では,装置のアラインメントを確保し,レンズと撮影装置の距離を維持するなど,若干の慣れが必要であった。本システムは脈絡膜全体の循環動態を検索するのに有用であった。

インターフェロン網膜症の発症因子

著者: 河本ひろ美 ,   神谷和孝

ページ範囲:P.711 - P.713

 インターフェロンの投与を受けた慢性肝炎72名について,インターフェロン網膜症の発症を検索した。B型肝炎5名,C型肝炎67名であり,12例では投与開始時に糖尿病があった。インターフェロン網膜症は72例中28例(39%)に発症した。糖尿病がない60例では20例(33%),糖尿病がある12例では8例(67%)に発症した。インターフェロンαの単独投与を受けた11例では2例(18%),インターフェロンβ単独投与の30例では17例(57%),インターフェロンαとリバビリンを併用した31例では8例(26%)に発症した。尿蛋白陰性の42例では9例(21%),陽性の30例では18例(60%)に網膜症が発症した。血小板減少と網膜症発症には関連がなかった。肝炎に対するインターフェロンの全身投与では糖尿病の合併と尿蛋白陽性,すなわち腎障害が網膜症発症の危険因子であると考えられる。

新規に開発した非侵襲性周辺前房深度計による周辺前房深度の測定再現性

著者: 長田康介 ,   柏木賢治 ,   田川耕治 ,   中山淳二

ページ範囲:P.715 - P.718

 目的:新規に開発した走査型前房深度計の評価。方法:細隙灯顕微鏡にCCDカメラを装着した本装置は,角膜中央部から輪部に向かって移動し,0.4mm間隔で前房深度を自動測定する。3名の操作熟練者が,正常者5例10眼を本装置で測定し,検者内と検者間の測定値を検討した。本装置に未経験な研修医3名と医療補助員3名について本装置による測定技術習得の容易性を評価し,検者内と検者間の測定値を検討した。結果:操作熟練者の検者内測定変動係数は,全測定点の平均で7.4±2.3%,検者間のそれは6.7±0.7%であり,輪部に近いほど増大する傾向があった。操作習得に要した時間は数分で,研修医と医療補助員の間に有意差がなく,測定値変動も熟練者と差がなかった。結論:本装置は検者内と検者間の測定再現性が高く,非医師にも操作の習得が容易である。本装置は狭隅角のスクリーニングに使える可能性がある。

翼状片の術式別手術成績の比較

著者: 柿沼有里 ,   小幡博人 ,   加藤正夫 ,   神原千浦 ,   原岳 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.719 - P.722

 過去77か月間に128眼に対して行った翼状片手術の成績を検討した。初回手術114眼,再手術14眼である。初回手術として,単純切除55眼,有茎結膜弁移植32眼,遊離結膜弁移植27眼を行った。初回手術での再発は,単純切除14眼(25%),有茎結膜弁移植2眼(6%),遊離結膜弁移植2眼(7%)にあった。術後1年での累積生存率は,それぞれ0.559,0.829,0.827であったが,各群間に有意差はなかった。再発までの平均期間は,それぞれ141日,109日,104日であった。再手術例での再発率は,それぞれ60%,50%,33%であり,再々発までの平均期間はそれぞれ32日,70日,64日であった。再手術例は初回手術例よりも再発率が高く,再々発までの期間が短かった。翼状片の手術では,初回から弁移植を用いる術式が望ましいと考える。

鼻涙管閉塞症の第一選択治療

著者: 鈴木亨

ページ範囲:P.723 - P.726

 涙道内視鏡のプローブをブジーのように用いて,鼻涙管の閉塞部をモニターで見ながら正確に穿破すれば,鼻涙管閉塞症に対する涙管チューブ挿入術の治療成績の向上が期待できる。今回,慢性涙膿炎を含む鼻涙管閉塞症47例に対して施行した涙管チューブ挿入術において,閉塞部穿破をブジーで行った治療群21例と涙道内視鏡で行った治療群26例とに分け,その術後経過を比較した。その結果,ブジーでは52%の成功率しかなかったのに対し,涙道内視鏡では81%の成功率で有意に成績の向上がみられた(p=0.04,χ2テスト)。涙管チューブ挿入術は外来で施行できて侵襲が小さい。涙道内視鏡を用いることで治療成績も向上し,鼻涙管閉塞症の第一選択治療法として考えてよい。

涙囊鼻腔吻合術の手術適応と成績

著者: 孫裕権 ,   大西貴子 ,   中山智寛 ,   猪原博之 ,   原吉幸

ページ範囲:P.727 - P.730

 過去7年6か月間に涙囊鼻腔吻合術を行った282例を検索した。年齢は16~91歳,平均65歳であり,男性67例,女性215例であった。術式は鼻外法が72例,鼻内法が210例であり,後者が増加する傾向があった。成功率と手術時間では,鼻内法が優れていた。過去30か月間の鼻内法174例では,閉塞部位は涙囊下部から骨性鼻涙管移行部が最も多く,鼻中隔彎曲症が多かったが,手術には支障がない例が多かった。涙囊鼻腔吻合術では,鼻外法と鼻内法それぞれの特性を生かして手術適応を決める必要がある。

鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術の成績

著者: 藤井一弘 ,   井上康 ,   杉本学 ,   奥田芳昭 ,   那須好滋 ,   杉本敏樹

ページ範囲:P.731 - P.733

 鼻涙管閉塞症62例74眼に対して涙道内視鏡を併用してシリコーンチューブ挿入術を行い,チューブ抜去から1か月以上後の経過を評価した。65眼(88%)では抜去後の通水が良好であった。涙道内視鏡を導入する以前に筆者らが行った同じ手技による成績は,77眼中55眼(71%)が有効であり,両者間に有意差があった(p<0.05)。涙道内視鏡を併用したシリコーンチューブ挿入術は,鼻涙管閉塞症への治療として有効である。

慢性涙囊炎に対する涙道内視鏡を用いたシリコーンチューブ留置再建術

著者: 井上康 ,   杉本学 ,   奥田芳昭 ,   那須好滋 ,   杉本敏樹 ,   藤井一弘

ページ範囲:P.735 - P.739

 内視鏡による観察下でシリコーンチューブ留置術を行った慢性涙囊炎62例74側を検索した。33側(45%)では永続性のある涙道再建が得られなかった。内視鏡による観察で,経過不良の主な原因は,涙囊下部の膜様組織形成とその収縮,ならびに仮道形成であった。収縮に対しては内視鏡でみながら拡張することが可能であり,仮道形成に対しては内視鏡による直視下で管を適切な位置に再挿入できた。涙道内視鏡は,慢性涙囊炎に対するシリコーンチューブ留置術の術後管理とチューブの再挿入に有用であった。

ポリープ状脈絡膜血管症における巨大血腫の前兆としての鮮赤色ポリープ

著者: 高橋牧 ,   佐藤拓 ,   萩村徳一 ,   堀内康史 ,   山田優子 ,   岸章治

ページ範囲:P.741 - P.746

 血腫を生じたポリープ状脈絡膜血管症で,「鮮赤色ポリープ」というべき所見を得た。これはオレンジ病巣や出血性網膜色素上皮剝離とは異なる鮮赤色を呈し,蛍光眼底造影蛍光造影では淡い顆粒状過蛍光を,インドシアニングリーン蛍光造影では色素上皮剝離部内に後期まで旺盛な漏出を示す複数個のポリープ病巣として観察された。血腫を生じた本症146眼のうち,5乳頭径以上の巨大な血腫が55眼(38%)にあった。「鮮赤色ポリープ」がある15眼(10%)のうち11眼(73%)が巨大血腫であった。「鮮赤色ポリープ」の存在は巨大血腫の前兆である。

Stage 5の未熟児網膜症に対する硝子体手術成績

著者: 北善幸 ,   竹内忍

ページ範囲:P.747 - P.749

 過去19か月間に,stage 5未熟児網膜症8例12眼に対して硝子体手術を行った。手術時の月齢は5~16か月,平均9か月であった。術前所見として,角膜混濁が4眼,完全な水晶体後部線維増殖が9眼,硝子体出血が1眼にあった。後極の部分復位を含めて9眼(75%)に網膜復位が得られた。在胎週数が短く,出生体重が軽く,網膜剝離の形がclosed funnelであると,手術の難度が高くなった。硝子体手術により網膜復位率が高くなったために,網膜剝離を伴う未熟児網膜症を失明から救える機会が多くなったと結論される。

光干渉断層計のアーチファクト―OCT1とOCT3の比較

著者: 堀内康史 ,   萩村徳一 ,   佐藤拓 ,   高橋牧 ,   岸章治

ページ範囲:P.751 - P.756

 眼底疾患の断層像を光干渉断層計OCT1とその改良型であるOCT3で撮影し,画像のアーチファクト(人工産物)を検討した。アーチファクトとしては,(1)音響反射(acoustic shadow)様の後方信号の消失または減弱,(2)網膜色素上皮萎縮による脈絡膜からの信号増強,(3)傾斜面などでの散乱による信号減弱,(4)網膜血管が実際よりも後方に描出される現象,などがあった。光干渉断層計の画像は組織切片に類似するが,反射信号の情報に起因するアーチファクトを含み,撮影時の条件でも画像が変化するので,読影には注意する必要がある。

サルコイドーシスの眼炎症および自己免疫疾患合併

著者: 中野聡子 ,   池脇淳子 ,   池辺徹 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.757 - P.761

 過去22年間に生検でサルコイドーシスと診断した自験例219例を検討した。自己抗体検査を行った148例のうち,自己免疫疾患の合併が25例,自己抗体のみの陽性が70例にあり,ともに高率に眼病変が発症していた。眼病変がある107例では,自己免疫疾患群と自己抗体陽性群では,高齢女性の割合と皮膚病変発症率が高かった。サルコイドーシスと自己免疫疾患を合併する症例があることは,共通の免疫学的背景の可能性を示唆している。

手指化膿巣が原発巣と考えられた内因性眼内炎の1例

著者: 矢島有希子 ,   小松崎優子 ,   平塚義宗 ,   横山利幸 ,   村上晶

ページ範囲:P.763 - P.766

 32歳女性が3週間前からの左眼視力低下で受診した。12年前に全身性エリテマトーデスと診断され,プレドニゾロン内服を続けていた。3年前から腰椎圧迫骨折後の腰痛に対してジクロフェナックを内服していた。3か月前にすべての手の指先に化膿巣が出現した。矯正視力は1.2,左指数弁であり,左眼には前房蓄膿と硝子体混濁があった。白血球増加や肝膿瘍などの全身異常はなかったが,両指先に化膿巣があった。採取された硝子体と手指から,薬剤感受性が等しいメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出され,転移性細菌性眼内炎と診断した。易感染状態にある場合には皮膚感染巣でも眼内炎の原発巣になりえること,消炎鎮痛薬の内服中では眼内炎の症状が出現しにくいこことを示す症例である。

全層角膜移植手術成績

著者: 城間弘喜 ,   友寄絵厘子 ,   荻堂哲司 ,   早川和久 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.767 - P.771

 過去32か月間に行った全層角膜移植56例58眼を検討した。原因疾患は水疱性角膜症39眼(67%),角膜白斑9眼(15%),角膜変性症6眼(10%)と,円錐角膜,角膜潰瘍,角膜穿孔,角膜熱傷の各1例である。水疱性角膜症35眼,角膜白斑7眼,角膜変性症6眼の計51眼(88%)で角膜透明治癒が得られた。合併症として,術後緑内障が9眼(16%),拒絶反応が6眼(10%)に起こった。全層角膜移植では術後緑内障に注意する必要があり,術後の眼圧管理が重要である。

角膜移植ハイリスク症例に対するシクロスポリン全身投与の効果と安全性

著者: 大本雅弘 ,   榛村重人 ,   ドールムラト ,   島崎潤 ,   坪田一男

ページ範囲:P.773 - P.776

 過去2年間に行った全層角膜移植例のうち,拒絶反応が危惧されるハイリスク症例50例51眼に対して,シクロスポリンの全身投与を行った。角膜血管新生が2象限以上にある3眼と,再手術48眼をハイリスクと定義した。平均14.9±10.2か月の観察期間中に,37眼(73%)で透明治癒が得られ,13眼(26%)で拒絶反応が起こった。副作用として,吃逆,腹痛,高血圧,軽度意識障害,排尿痛が各1例にあった。副作用はいずれも一過性であり,プロトコルを遵守することで,シクロスポリンの全身投与を比較的安全に行うことができ,予後の改善に有用であると判断された。

ヘルペス性角膜実質炎後の角膜の電子顕微鏡的観察

著者: 隈上武志 ,   高見由美子 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.777 - P.780

 樹枝状角膜炎から円板状角膜実質炎になった2眼に全層角膜移植を行い,得られた角膜を透過型電子顕微鏡で検索した。17年前に発症し,2年後に再発が1回あった61歳女性では,角膜上皮細胞の層が少なく,表層の2~3層以外は暗細胞で,基底細胞も暗細胞であった。Bowman膜はほぼ正常で,変形が強い実質細胞を含み,核に変形像があった。内皮細胞は明細胞で,ミトコンドリアの変形萎縮があった。高電子密度の顆粒が多数あった。電子密度が高い限界膜に囲まれた空胞の中に無構造物質があった。20年前に発症し,複数回の再発があった51歳男性では,Bowman膜が障害され,特異な結晶構造の好酸球が実質に浸潤し,膠原線維束の走行が乱れていた。Bowman膜と角膜実質の障害が高度にあったのは,ヘルペス性角膜実質炎の頻回再発の結果であると推定した。摘出した角膜を検索することは,術後の治療方針の参考にもなる。

片眼の眼瞼浮腫で発症した甲状腺眼症の1例

著者: 森加奈 ,   小幡博人 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.781 - P.783

 39歳女性が左上眼瞼の腫脹を主訴に近医を受診し,ステロイド眼軟膏,抗生剤眼軟膏,抗アレルギー点眼薬を処方された。2か月経過したが改善しないため当科を受診した。初診時,左上眼瞼に浮腫状の腫脹を認めた。磁気共鳴画像検査(MRI)では悪性リンパ腫が疑われたため,左上眼瞼の生検を施行した。しかし病理組織学的に異常はなかった。初診から2か月後の再診時に,左眼にGraefe徴候,Dalrymple徴候を認め,甲状腺眼症を疑い血液検査を施行した。Free T3とfree T4は高値,TSHは低値であり,Basedow病と診断された。片眼の眼瞼腫脹の鑑別診断として甲状腺疾患も常に念頭に置く必要がある。

硝子体手術後に発症したメチシリン耐性黄色ぶどう球菌による術後眼内炎の1例

著者: 秦聡 ,   賀島誠 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.785 - P.787

 75歳女性が右眼の加齢黄斑変性として19か月前から治療を受けていた。1か月前に網膜下出血が起こり紹介され受診した。矯正視力は右0.3,左1.0であった。右眼に加齢黄斑変性に伴う網膜下出血があったが,すでに瘢痕化し始めていた。その4年後に左眼に黄斑下出血が起こり,視力が0.4に低下した。左眼に硝子体切除,黄斑下新生血管抜去,経毛様体水晶体切除,眼内レンズ挿入,C3F6ガス置換を行った。1日5回のレボフロキサシン点眼を術前の3日間行った。手術の2日後に前房蓄膿を伴う眼内炎が発症した。即日再手術を行い,眼内レンズを摘出し,バンコマイシンを含む各種抗生物質を投与した。その後,眼内炎が再発したが,抗生物質の投与などで治癒した。再手術から4日後に採取した前房水からメチシリン耐性黄色ぶどう球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)が分離された。本症例は,硝子体手術後の眼内炎がMRSAを含む多剤耐性菌によって起こりうることを示している。

特発性黄斑円孔に対する硝子体手術後の俯き姿勢により急性心筋梗塞を発症した1例

著者: 山﨑眞吾 ,   上田朗裕

ページ範囲:P.797 - P.800

 69歳女性が左眼の特発性黄斑円孔に対し硝子体手術を受けた。6年前に両側の大腿骨骨頭壊死に対して手術を受けている。心電図を含む手術前の全身検査で異常はなかった。手術の2日前に入院し,俯き姿勢の練習を始めた。経毛様体扁平部硝子体切除,超音波水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入,内境界膜剝離除去ののち,C3F8で液-ガス置換を行った。術中に問題はなかった。術後1日目には異常所見はなかった。術後2日目の午前8時の朝食後に嘔吐があり,胸痛と冷汗が出現した。ただちに俯き姿勢を解除した。その直後に心電図検査などが行われ,急性心筋硬塞と診断され,治療を開始した。動脈造影で左冠状動脈前下行枝の狹窄があり,冠状動脈形成術で狭窄が解除された。硝子体手術に続いて俯き姿勢を長時間継続したことが急性心筋硬塞を誘発したと推定した。

網膜静脈分枝閉塞症の範囲と黄斑光干渉断層像

著者: 山口由美子 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.801 - P.803

 網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion:BRVO)における黄斑浮腫の網膜光干渉断層像がBRVOの範囲により,どのような影響を受けるかを検索した。発症から3か月以内の黄斑部を含むBRVO74眼を対象とした。BRVOの範囲を血管アーケード内群29眼,眼底の1象限以内群32眼,眼底の2象限以内群13眼に分類した。中心窩厚と囊胞様変化の頻度は各群間に有意差はなかった。黄斑剝離の頻度は,アーケード内群:17%,1象限内群:44%,2象限内群:62%であった(p<0.01)。BRVOの範囲は,それが広いほど黄斑部の漿液性網膜剝離の頻度が高かったが,中心窩厚や囊胞様変化の頻度には影響しなかった。

高気圧酸素療法施行後に視力改善をみた網膜静脈閉塞症のOCT所見

著者: 湯川英一 ,   小島正嗣 ,   松浦豊明 ,   竹谷太 ,   桝田浩三 ,   丸谷弘 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.805 - P.809

 高気圧酸素療法(hyperbaric oxygenation:HBO)を施行し,視力の改善をみた網膜静脈閉塞症の3例について光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)を用いてHBO施行前後での黄斑浮腫の変化を比較した。1例はHBO施行後に明らかな浮腫の軽減が認められたが,2例では浮腫の軽減はわずかであり,HBOの奏効機序としては浮腫の軽減だけではなく,網膜虚血細胞への直接的な作用も視力改善に関与している可能性も考えられた。

妊娠中毒症を合併した妊娠・分娩の後に網膜中心静脈閉塞型乳頭血管炎をきたした1例

著者: 小田盛司 ,   雑賀司珠也 ,   加藤格 ,   大西克尚

ページ範囲:P.811 - P.814

 26歳女性が妊娠中毒症の後,正常分娩で第1子を出産した。出産の5週間後に右眼視力が低下し,その3日後に受診した。矯正視力は右0.03,左1.5で,右眼には-3.5D,左眼には約-4.0Dの近視があった。右眼には網膜血管の強い拡張と蛇行,乳頭の発赤と腫脹,散在性の網膜出血があった。蛍光眼底造影で乳頭に過蛍光があったが,網膜血管閉塞と新生血管はなかった。視神経乳頭血管炎に併発した網膜中心静脈閉塞症と診断した。副腎皮質ステロイド薬のパルス療法,血栓溶解薬の点滴,抗凝固薬の内服を行った。発症から5週後に眼底所見は軽減し,0.8の矯正視力を得た。

若年者に発症した両眼の網膜静脈閉塞症の1例

著者: 小林晋二 ,   山崎広子

ページ範囲:P.815 - P.818

 25歳女性が右眼視力低下を主訴として受診した。気管支喘息があり,少なくとも過去10年以上,副腎皮質ステロイド薬を内服していた。矯正視力は右0.15,左0.8であった。右眼に網膜中心静脈閉塞症,左眼に切迫型網膜中心静脈閉塞症の所見があった。左眼はいったん寛解したが,初診から5年後に視力が0.2に低下した。半側(hemi)網膜中心静脈閉塞症の所見があった。経過中に高血圧,糖尿病はなく,血液一般検査所見は正常であり,抗リン脂質抗体症候群あるいは高粘稠症候群は否定された。このような若年成人の両眼に網膜中心静脈閉塞症が発症したことは異例なことであり,長期間の副腎皮質ステロイド薬の内服で血栓形成が誘発された可能性がある。

後眼部より睫毛が発見された特異な眼外傷の1例

著者: 川口亜佐子 ,   難波幸子 ,   石原美香 ,   宮崎大 ,   山崎厚志 ,   井上幸次

ページ範囲:P.819 - P.822

 18歳男性が作業中,左眼に径2mmの鋼線が刺入した。その直後から眼痛と出血,視力低下があり受診した。左眼角膜の上耳側から中央部に及ぶ裂傷があった。前房出血があり,中間透光体と眼底は透見できなかった。手術の当日に角膜を縫合し,前房を洗浄した。術後のX線とCT検査で異物は発見されなかった。受傷から2週間後に超音波検査で硝子体出血と網膜剝離が推定された。白内障手術と硝子体切除術を行い,硝子体腔内に2本,網膜下の血腫内に1本の線状異物が発見された。異物は3本とも黒色であり,長さが5ないし7mmで,1本には毛根があった。これら異物はすべて受傷時に迷入した睫毛であると判定された。以後の経過は良好で,0.5の最終視力を得た。

流行性角結膜炎の院内感染の検討

著者: 井上昌幸 ,   四宮加容 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.823 - P.826

 流行性角結膜炎の院内感染が,2003年3月10日に当院の病棟で発生した。入院患者4例と外来患者10例を臨床所見から流行性角結膜炎と診断した。これら14例をアデノチェック(R)で検索し,11例が陽性であった。5例に中和抗体値測定とウイルスの分離を行い,4例でアデノウイルス37型が同定された。検査器具や医療従事者を介した感染が原因として考えられた。病棟内で発生した翌日から感染対策委員会を招集し,新規に作成したプロトコールに基づいて感染拡大の予防を徹底した。診療機器と手指の消毒,スタッフへの指導,患者への説明会,別室での診療,入院制限などにより,病棟閉鎖や外来制限をすることなく,初発から44日目に警戒体制を解除できた。

専門別研究会

レーザー眼科学

著者: 岸章治

ページ範囲:P.827 - P.828

 本研究会の世話人は,今回から岡野正教授(東京医大霞ヶ浦)から岸章治(群馬大)に受け継がれた。研究会は岸章治の挨拶で始まった。今回の研究会は3部構成とし,最初にレーザーに関する一般口演,次に「レーザーカンファランス」というセッションを設けた。これは統一テーマのもとに症例を呈示して,それに関して討論するという試みである。最後に今回の目玉として宇山昌延教授による特別講演が行われた。

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.829 - P.832

 平成15年10月31日,名古屋国際会議場436会議室で9:00から12:00で開催,一般演題5題と学校健診から色覚検査が除かれたことに関するフォーラムが行われた。一般演題は,座長:山出新一(滋賀医大)で行われた。

 (1)成人色覚外来受診者の動機の変化について中村かおる・他(東京女子医大)が報告した。厚生労働省が,2001年10月から労働安全衛生規則を一部改正し,色覚異常者に対して根拠のない雇用制限を行わないように指導を始め,その影響で,成人の色覚外来への受診動機に変化が生じてきていることについて具体的な7症例を呈示した。症例1(24歳,第2色盲:D)は鉄道技術研究施設,症例2(24歳,D)は電力会社,症例3(21歳,第2色弱:DA)は映像関係企業への採用内定後,診断書を求められ受診した。いずれも配属決定の資料にするためで,色覚検査結果により採用を取り消しされることはない症例であった。症例4(25歳,D)は自動車製造業の研究職で,テストコースを走行するにあたり悪条件での信号機の見分け困難を自覚しており,症例5(20歳,D)は放送業務で,映像品質管理に必要なランプの識別困難のために業務に支障を感じ受診した。症例6(30歳,D)は牧場で就業中,生産動物の排泄物による健康管理の失敗が重なり解雇されていた。症例7(26歳,D)は電気工事関係勤務中,電気コードの色識別での失敗により契約破棄に至ったため,色誤認への対策を求め受診した。配属や職場環境に対する意識が芽生え,積極的に情報を求める企業が目立ち始めて,色覚異常者への雇用制限緩和が確実に進んでいることが示唆された。しかし色覚異常者自身には色誤認の自覚がまだ不十分であり,失敗回避への対策が必要であると報告した。

連載 今月の話題

ポリープ状脈絡膜血管症の診断と治療

著者: 吉村長久

ページ範囲:P.655 - P.661

 日本人の滲出性加齢黄斑変性をみたら,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:PCV)ではないかと考えるべきである。診断には,細隙灯顕微鏡とコンタクトレンズを用いた詳細な眼底観察に加え,インドシアニン蛍光眼底造影検査が有用である。治療法は確立していないが,現時点では光凝固術がPCV治療の第一選択である。

眼の遺伝病57

ミトコンドリア遺伝子異常(2)

著者: 菊地未来 ,   和田裕子 ,   阿部俊明 ,   玉井信

ページ範囲:P.662 - P.664

 はじめに

 Leber遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:レーベル病)はミトコンドリアDNAに点突然変異がみられ,10~30歳代にかけて両眼性に急性もしくは亜急性の視力障害で発症する。多量のアルコールやタバコの摂取,頭部外傷などの既往も発症に関与するといわれている。

 ミトコンドリアDNAの塩基変異として3460,11778,14484番塩基の変異が報告されている。日本人は最も予後不良とされる11778変異がほぼ90%を占め,0.1以下の視力低下と中心暗点をきたすことが多い。今回,外傷を契機に発症した11778変異を伴ったレーベル病の1例を報告する。

日常みる角膜疾患14

細菌性角膜潰瘍―治療

著者: 森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.666 - P.670

 症例

 患者:72歳,男性

 初診:2003年2月19日

 主訴:右眼視力低下,眼痛,眼脂

 現病歴:1週間ほど前から徐々に視力低下をきたしていた。眼脂や流涙も生じてきたため近医を受診した。右眼角膜潰瘍の診断で,オフロキサシン点眼,セフジニル内服,フロモキセフナトリウム点滴で加療されたが改善しないため,当科を紹介され受診した。

 既往歴:40年ほど前に爆発事故による両眼の角膜熱傷。

緑内障手術手技・11

隅角癒着解離術(1)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.672 - P.674

 セッティング

 患者の位置,ベッド,顕微鏡

 隅角癒着剝離術(goniosynechiolysis:GSL)の場合,セッティングが最も重要であり,手術の成功の鍵はこれによるところが大きいと思われる。したがって,ほかの緑内障手術と比較し,より念入りに行う必要がある。

 12時方向の癒着解離を行う場合,患者の頭の位置はやや顎が上がるくらいにセットするが,下方部位の癒着剝離を行う際には顎を下げる必要があり,あらかじめ頭の傾きを変えることができるようにベッドの固定台を調節しておく(術中に頭の高さを変えられるベッドが望ましい)。また,ベッドの腕の固定アームなどは,顔を傾けた際,むしろ手術操作に邪魔となるので取り外しておく。さらに術者の座る位置も,鼻側,耳側と上方の3方向からアプローチするため,最初から場所を確保したり,フットペダルの操作も楽にできるよう調節しておく必要がある。顕微鏡も鏡筒が自由に回転できたり,あおりが使用できるようにしておく。

あのころ あのとき40

CLとともに歩んだ半世紀(2)

著者: 平野潤三

ページ範囲:P.675 - P.677

 1952年,名大でCLの誕生に立ち会って以来今日まで50余年,私はその健全な成長発育を願い,CLの改良,開発,および副作用の原因究明と対策に努めてきた。その間に幾度か忘れ難い「あのころ・あのとき」があった。

 血管新生機構の解明

 CLの副作用に角膜の血管侵入がある。特にSCL装用者に多い。すでに私は1958年CLの角膜障害は酸素欠乏(anoxia)によることを実証したので,血管新生もまた同じ病因と考えた。一方,戦前はその主要原因はトラコーマ(Tr)で,国民眼病といわれたTrも戦後には減少し絶滅したが,1950年代にはまだ残党がかなりいて,名古屋のスラム街,王子町にはTr診療所があり,私はそこでTr後遺症をイヤというほどみた。結膜瘢痕,瞼球癒着,角膜乾燥,血管侵入(pannus),睫毛乱生で,失明かそれに近い老人が多かった。

他科との連携

食事会から出た病院経営戦略

著者: 三村治

ページ範囲:P.678 - P.679

 合コンから食事会へ

 私は食べることが大好きです。家内と2人で「異常高エンゲル係数夫婦」といい合っているくらいです。そんな私ですが,日頃お世話になっている製薬会社のMRさんや器械屋さんたちにお礼の意味を兼ねてときどき食事をご馳走することにしています。もとより大学病院勤務の薄給の身,それほど大盤振る舞いはできませんが,医局の若い女医さんたちも誘い,いわば合コンのノリで楽しく行っているつもりでした。しかし,先日某国産器械メーカーの2人を食事に誘い,その食事会の話を家内にしたところ,驚くことに「私も行きたい」というではありませんか……。その時点で医局の美女軍団を誘うことは諦め(残念ですが妻の年齢を考えれば道義的にとても許されることではありません),家内と4人で馴染みの懐石料理を食べにいくことになりました。

臨床報告

眼内レンズ光学部のエッジ形状と表面性状が水晶体上皮細胞の生理活性に及ぼす影響

著者: 馬嶋清如 ,   山本直樹 ,   糸永興一郎

ページ範囲:P.835 - P.839

 眼内レンズ光学部の前面中央部にウシ水晶体上皮細胞を培養し,レンズ後面に増殖,伸展した細胞を検索した。FasとssDNAを有する細胞がもっとも多かったのは,エッジが直角で鋭く,キャストモールディングで製造され,タンブルポリッシュされていない眼内レンズであった。FasとssDNAとはアポトーシスの視標であるため,このような形状で表面が粗な眼内レンズでは,その前面に培養したウシ水晶体上皮細胞が後面に増殖,伸展する過程で抑制を受けると結論される。

オフロキサシン耐性Corynebacteriumによる周辺部角膜潰瘍の1例

著者: 佐藤克俊 ,   松田彰 ,   岸本里栄子 ,   網野泰文 ,   田川義継 ,   大野重昭

ページ範囲:P.841 - P.843

 65歳女性が1か月前からの右眼痛で紹介され受診した。約2年前から片眼または両眼の痛みが繰り返していた。そのつど角膜潰瘍と診断され,オフロキサシン,フルオロメトロン,ベタメタゾンなどの点眼で短期間に治癒していた。今回の受診時に,右角膜の2か所に浅い周辺部角膜潰瘍があり,全周に角膜浅層の混濁と血管侵入があった。オフロキサシン点眼とプレドニゾロン内服は無効であった。オフロキサシン耐性のCorynebacteriumが角膜擦過物から培養された。1日6回のセフメノキシム点眼に変えたところ,1週間後に潰瘍は治癒した。角膜潰瘍の治療では,耐性菌による可能性があることを示す症例である。

トリアムシノロン併用硝子体手術後に生じた眼内炎の1例

著者: 吉田ゆみ子 ,   熊野けい子 ,   古川真理子 ,   熊谷和之 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.845 - P.848

 64歳女性が左眼の変視症と黄斑上膜で受診し,矯正視力は0.9であった。超音波水晶体吸引術,眼内レンズ囊内挿入術,硝子体切除,黄斑上膜剝離を行った。トリアムシノロン(triamcinolone acetonide)を硝子体灌流液に混入した。術中経過は順調で,3週後の矯正視力は1.2であった。手術5週後に左眼の霧視が突発し,視力が0.01に低下した。前眼部の炎症は軽度であったが,硝子体混濁があり,感染性眼内炎が疑われた。4日間抗生剤を全身投与し,5日目に灌流液に抗生剤を混入する硝子体手術を行った。4日後に再燃したが,抗生剤の硝子体内注入などで炎症は消失し,1.5の最終視力が得られた。経過中の細菌検査はすべて陰性であった。トリアムシノロン併用の硝子体手術後に生じる眼内炎は,遅発性で前眼部の炎症が隠蔽される可能性があることを示す症例である。

糖尿病を有する白内障手術患者の前房内グルコース濃度

著者: 井上賢治 ,   奥川加寿子 ,   加藤聡

ページ範囲:P.849 - P.852

 糖尿病がある22例22眼に白内障手術を行い,前房水のグルコース濃度を測定した。年齢は56~90歳,平均74.7±9.9歳であり,手術前の空腹時血糖値は73~387mg/dl,平均171±82mg/dlであった。白内障手術を行い,糖尿病のない56例56眼を対照とした。年齢は平均75.5±7.6歳,空腹時血糖値は平均95±119mg/dlであった。前房水グルコース濃度は,糖尿病群が155±41mg/dl,対照群が91±22mg/dlであり,有意差があった(p<0.0001)。糖尿病群での前房水グルコース濃度は,血中HbA1cと有意に相関し(p<0.0002),血糖値,尿糖値,糖尿病罹病期間,年齢とは相関しなかった。糖尿病患者での前房水グルコース濃度が血糖コントロールの状態を反映し,白内障発症に関係している可能性があると結論される。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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