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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

特集 第57回日本臨床眼科学会講演集 (6) 原著

インドシアニングリーン染色を用いた黄斑円孔手術の長期成績

著者: 亀澤比呂志 ,   門之園一明 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1405 - P.1407

 特発性黄斑円孔31例31眼に対し,インドシアニングリーン染色を用いて内境界膜剝離と硝子体手術を行った。2年以上の経過観察で初回円孔閉鎖が93%,最終閉鎖が100%で得られた。全例で視力が改善し,平均視力は術前0.20,最終観察の時点で0.69であった。手術の2年後に行ったGoldmann動的量的視野検査で,明らかな視野異常はなかった。全経過中,格別の合併症はなかった。本法による特発性黄斑円孔手術の長期経過は良好であると結論されるが,さらに長期間の追跡が必要である。

ヒーロンVと空気を使用した眼内レンズ挿入(第2報)

著者: 大西健夫 ,   岡田法子 ,   小出良平

ページ範囲:P.1409 - P.1414

 空気で水晶体囊を拡張させ,シリコーン眼内レンズ(IOL)をインジェクターで挿入する白内障手術を40眼に行った。通常の方法でヒーロンV(R)を使ってIOLを挿入し,behind the lens(BTL)法で除去した20眼をBTL群,少量のヒーロンVと空気を使ってIOLを挿入し,rock'n roll(R&R)法で除去した10眼をR&R1群,同様に中等量のヒーロンVを使った10眼をR&R2群とした。手術から24時間後のR&R1群の眼圧は,他の2群よりも低値であった。手術から4時間後の眼圧が30mmHg以上の症例は,BTL群2眼,R&R1群0眼,R&R2群1眼であった。少量のヒーロンVと空気でIOLを挿入しR&R法で除去する方法は,術後眼圧の上昇予防に有効な可能性がある。

後発白内障に対するYAGレーザー切開後の後囊線維性再混濁

著者: 坂上欧

ページ範囲:P.1415 - P.1417

 網膜色素変性症の既往がある71歳男性が両眼の視力低下で受診した。矯正視力は右手動弁,左0.3であった。網膜電図は記録不能で,求心性視野狭窄があったが,中心視野は右10°,左5°は保たれていた。白内障があり,両眼に超音波破砕吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。術後視力は右0.15,左0.7に改善した。2か月後に前囊収縮が起こり,視力は右手動弁,左0.06に低下した。YAGレーザーによる前囊切開術を行い,視力は右0.2,左0.6に改善した。白内障手術から2年後に後囊の線維性後発白内障が両眼に発症した。YAGレーザーによる後囊切開術で十字形の切開窓を作製したが,その10か月後に線維性混濁が左眼後囊に発生していた。再度のレーザー切開術にもかかわらず線維性の後囊混濁が再発したのは,網膜色素変性症で好発する前囊収縮と似た要因が関与している可能性がある。

核硬度別超音波パワー上限設定を行ったオシレーション付加超音波白内障手術装置の乳化吸引効率

著者: 鈴木聡志 ,   谷口重雄 ,   西原仁

ページ範囲:P.1419 - P.1421

 核硬度別に超音波出力の上限を設定したオシレーション付加超音波白内障手術装置(ネオソニックスTM)の核乳化吸引効率を検討した。摘出豚眼で水晶体核を吸引し,水晶体囊にカートンNTMを注入して模擬核を作製した。核の硬度はEmery-Little分類のG2またはG3とした。超音波出力はG2では15%,G3では20%とし,4分割核を上限設定作動(オン)と非作動(オフ)で乳化吸引するときの超音波作動時間と乳化吸引時間を各5回測定した。G2の模擬核での超音波作動時間の平均は,オンで17.5秒,オフで25.8秒であり,乳化吸引時間の平均は,オンで18.3秒,オフで31.3秒であった。G3の模擬核での超音波作動時間の平均は,オンで22.0秒,オフで29.0秒であり,乳化吸引時間の平均は,オンで27.0秒,オフで33.5秒であった。核硬度別に超音波出力の上限を設定した超音波白内障手術装置は,超音波作動時間と乳化吸引時間を短縮する。

Retinal angiomatous proliferationに対する治療

著者: 新井恵子 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.1423 - P.1428

 Retinal angiomatous proliferation 13例16眼を治療した。男性6眼,女性10眼であり,年齢は70~86歳であった。治療として,平均3.8回の光凝固(10眼),トリアムシノロン後部テノン囊下注入(4眼),低線量放射線療法(1眼),経瞳孔温熱療法(1眼)を行った。治療後の観察期間は3~92か月(平均27か月)であった。光凝固を行った10眼ではすべて病変が中心窩外にあり,視力は6眼で改善または不変であった。病変が中心窩に達している4眼では,黄斑所見が3眼で悪化し,視力は3眼で改善または不変であった。以上の所見は,病変が中心窩外にあるときには光凝固を繰り返して行うことが有効であることを示している。病変が中心窩に達していると難治であるので,手術を含めた治療法を検討する必要がある。

高齢者ドナーを用いた全層角膜移植の検討

著者: 南波敦子 ,   濱田直紀 ,   山上聡 ,   天野史郎

ページ範囲:P.1429 - P.1432

 80歳以上のドナー角膜を用いた全層角膜移植術の有用性について検討した。過去2年間にアイバンクから提供されたドナー角膜96眼の角膜内皮細胞をスペキュラマイクロスコープで観察した。ドナー角膜は80歳以上33眼,80歳未満63眼であった。別の検討として,1986~1998年の12年間に初回手術として全層角膜移植を施行した80眼の術後5年目での透明治癒率,術後視力を検討した。ドナー角膜の内訳は80歳以上22眼,80歳未満58眼であった。ドナー角膜の内皮細胞密度は,80歳以上では2,512個/mm2,80歳未満では2,720個/mm2であり,80歳以上のドナーで有意に少なかった(p=0.04)。一方,全層角膜移植を行った80眼での5年後の透明治癒率と術後視力は,いずれも80歳以上と80歳未満との間で有意差が認められなかった。以上のことから,80歳以上の高齢者ドナー角膜を用いた全層角膜移植術は臨床的に有用である。

肥満率(body mass index)を考慮した角膜トリプル手術

著者: 山田高広 ,   後藤晋

ページ範囲:P.1433 - P.1436

 全層角膜移植,白内障摘出,眼内レンズ挿入を同時に行う角膜トリプル手術では,高硝子体圧が術中合併症の原因になる。本手術での患者の肥満度(body mass index)の意義を過去13年間に行った35例36眼について検討した。後半の7年間には,肥満度が26.0以上のとき,追加手術としてのcore vitrectomyができるよう,輪部強膜半層切開をあらかじめ準備した。術前の十分な眼球圧迫によるソフトアイ作製で手術成績が向上した。術中に合併症が起こった症例と硝子体切除術を必要とした症例では,肥満度が有意に高値であった。角膜トリプル手術では眼球圧迫によるソフトアイ作製に加え,肥満度が高い症例に硝子体手術ができる準備をしておくことが安全であると結論される。

βブロッカー点眼と防腐剤が涙液・眼表面に及ぼす影響

著者: 石岡みさき ,   島崎潤 ,   八木幸子 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1437 - P.1440

 βブロッカー薬である0.5%チモロール点眼薬に含まれる防腐剤塩化ベンザルコニウムが涙液と眼表面に及ぼす影響を検索した。対象は抗緑内障薬の初回投与を受ける18例で,これを2群に分け,1群には防腐剤含有,他の1群には防腐剤非含有の点眼をした。点眼開始から3か月後での涙液機能と角膜知覚には,両群間に差がなかった。フルオレセインスコアは防腐剤含有群が非含有群より高く,涙液破壊時間は点眼開始から1か月後より非含有群で延長していた。チモロール点眼では,防腐剤による角膜上皮障害の可能性に留意する必要がある。

糖尿病網膜症と血小板由来マイクロパーティクル

著者: 緒方奈保子 ,   今泉正仁 ,   宮代美樹 ,   生水晃 ,   野村昌作 ,   松村美代

ページ範囲:P.1441 - P.1444

 血小板由来マイクロパーティクル(platelet-derived microparticles:PMPs)は活性化された血小板から放出され,凝固反応と細胞接着を促進し,毛細血管閉塞の原因になる。PMPsが糖尿病網膜症に関与している可能性を検索するため,2型糖尿病患者92例についてPMPsを測定した。内訳は,網膜症なし25例,単純網膜症13例,前増殖網膜症25例,増殖網膜症29例である。PMPsの平均値は507±15/104pltであり,200~350/104pltとされている基準範囲より,著明に増加していた。PMPs値と網膜症の程度との間には有意な相関がなかった。PMPs値は,血管床閉塞がある24眼では平均582±27/104pltであり,閉塞がない30眼での426±23/104pltよりも有意に増加していた。糖尿病ではPMPsが増加し,さらにPMPsが糖尿病網膜症の進行に関与している可能性があると結論される。

C型慢性肝炎のインターフェロン治療に合併する網膜症とその背景因子

著者: 中島理幾 ,   大木隆太郎 ,   米谷新 ,   河口康典 ,   持田智 ,   藤原研司

ページ範囲:P.1445 - P.1448

 インターフェロン網膜症が発症する危険因子を同定する目的で,慢性C型肝炎44症例につき,前向き研究を行った。全例が抗ウイルス薬であるインターフェロンβ治療を受けていた。男性30例,女性14例で,年齢は21~72歳(平均54歳)であった。治療開始前に眼底に異常がないことを確認し,以後2~4週ごとに散瞳して眼底検査を行った。33~352日(平均155日)の観察期間中に,30例(68%)に網膜中心静脈閉塞症2例を含む網膜症が生じた。発症群と非発症群間のχ2検定で,年齢(p=0.0023),治療前アルブミン値(p=0.0379),治療中のアルブミン最低値(p=0.0067)が網膜症の発症と有意な相関があった。多変量解析から,治療中のアルブミン最低値(p=0.0105)と性別(男性>女性,p=0.0385)が網膜症の発症と有意に相関した。解析の共通の結果として,治療中のアルブミン最低値が網膜症の発症と有意に相関した。年齢,体重,肥満指数,肝機能,血小板数,ウイルス型は網膜症の発症と相関しなかった。

混濁により摘出を要したハイドロジェル眼内レンズの2例

著者: 埜村裕也 ,   小松敏郎 ,   本山貴也 ,   埜村史絵 ,   菱田英子 ,   安成隆治 ,   上江田信彦 ,   若狭研一 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1449 - P.1452

 ハイドロジェル眼内レンズを挿入した36例52眼中の2眼に眼内レンズの混濁と視力低下が生じた。1例は83歳女性で,両眼に白内障手術と眼内レンズ挿入を受けた。29か月後に右眼のレンズ混濁が生じた。他の1例は66歳男性で,両眼に白内障手術と眼内レンズ挿入を受けた。16か月後に右眼のレンズ混濁が生じた。2例ともレンズを摘出し,アクリル眼内レンズを挿入した。摘出した眼内レンズ表面にカルシウム塩の沈着があった。ハイドロジェルレンズ挿入眼では,この可能性のために長期間の観察が望ましい。

摘出ハイドロフィリックアクリル眼内レンズ

著者: 高橋麻子 ,   渡辺博 ,   中目沙衣子 ,   田中康一郎 ,   柳川真愛 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.1453 - P.1456

 5症例5眼で親水性アクリル眼内レンズが混濁し,摘出した。年齢は51~69歳(平均62.8歳)であり,摘出までの期間は12~25か月(平均18.4か月)であった。全症例に糖尿病網膜症があり,汎網膜光凝固が行われていた。2症例2眼には硝子体手術,4症例では透析が行われていた。摘出した眼内レンズには光学部表面のみに大小の顆粒状の結晶があり,カルシウムとリンが元素分析で証明された。糖尿病,硝子体手術,透析は親水性アクリル眼内レンズが混濁する危険因子である。

眼虚血症候群による血管新生緑内障の検討

著者: 樋口亮太郎 ,   遠藤要子 ,   岩田慎子 ,   杉田美由紀 ,   水木信久

ページ範囲:P.1457 - P.1461

 眼虚血症候群による血管新生緑内障6例の臨床像と転帰を検索した。男性5例,女性1例で,年齢は41~80歳(平均70歳)であった。基礎疾患として,高血圧と高脂血症が各5例,糖尿病と脳梗塞が各3例,緑内障が2例にあった。全例で腕-網膜時間が著明に延長していた。全例に汎網膜光凝固と毛様体冷凍術を行い,線維柱帯切除術,ウロキナーゼ大量療法,脳血管バイパス術を各1例に行った。2例で新生血管が消退し,線維柱帯切除術で眼圧が下降した。4例で新生血管が消退せず,うち1例ではバイパス術でも眼循環が改善せず失明に至った。眼虚血症候群による血管新生緑内障は予後不良であり,危険因子がある患者ではその発症の可能性を考えて各種検査を行う必要がある。

ドセタキセルによって涙道閉塞をきたした3例

著者: 加藤秀紀 ,   尾本聡 ,   久保寛之 ,   西尾佳晃 ,   上岡康雄 ,   北原健二 ,   小林直

ページ範囲:P.1463 - P.1466

 抗癌薬ドセタキセルで加療中の3症例に涙点閉鎖または涙小管閉塞が生じた。第1例は61歳男性で,胃癌に対するドセタキセル投与開始から2か月後に右眼の上下涙点と左眼の上涙点の閉鎖が生じた。第2例は54歳女性で,乳癌に対するドセタキセル投与開始から9か月後に両眼の上下涙点の閉鎖が生じた。第3例は61歳女性で,乳癌に対するドセタキセル投与開始から5か月後に右眼下涙点の閉鎖が生じた。涙点切開またはシリコーン管留置を行い,涙小管閉塞がない場合には涙道機能が回復した。ドセタキセルを投与中の患者には涙道閉鎖の可能性があり,早期発見または予防が望ましい。

半導体レーザーと鼻内視鏡を用いたDCR鼻外法術後再閉塞例への再建術

著者: 松場真弓 ,   金光聖隆 ,   秋月裕則

ページ範囲:P.1467 - P.1469

 鼻外法による涙囊鼻腔吻合術後の再閉塞5名6例に対して再建術を行った。鼻内視鏡下で半導体レーザーを用いて閉塞部を切開し,NS-tubeを留置する方法である。術後1年以上の観察で,涙道の開存が全例で得られた。本方法は,皮膚を再切開して行う鼻外法による再建よりも侵襲が小さく,閉塞部の同定も容易であった。さらにレーザーを使うことで術後の肉芽瘢痕形成による再閉塞が予防できたと評価される。

眼窩に発生した末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍の1例

著者: 田村千恵 ,   小島孚允 ,   原岳 ,   兼子耕

ページ範囲:P.1471 - P.1475

 7歳女児が1か月前からの右眼の眼瞼腫脹で受診した。矯正視力は右0.04,左1.2であった。右眼は耳側方向に突出し,上眼瞼鼻側に腫瘤を触知でき,眼底に乳頭浮腫と血管拡張があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で右眼窩の筋円錐上方に腫瘤があった。骨浸潤はなかった。横紋筋肉腫を疑い,腫瘍を全摘出した。腫瘍は40mm×30mm×25mmの大きさで,多結節状で軟らかく,割面は白色,充実性であった。免疫組織化学染色で上皮性,間葉系,神経系のマーカーすべてが陽性であり,未分化な神経原性の悪性腫瘍と診断した。摘出から3週間後に腫瘍が再発した。化学療法と放射線照射で腫瘍は消失し,1.0の矯正視力を得た。摘出組織の再検討から,末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍(peripheral primitive neuroectodermal tumor)の診断が確定した。この腫瘍の眼窩原発例の報告は国内にはなく,海外に9論文がある。

ポリープ状脈絡膜血管症のインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見と黄斑所見の関係

著者: 左近允徳啓 ,   森隆三郎 ,   山西朗子 ,   纐纈侑子 ,   川村昭之 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.1477 - P.1481

 初診時視力が0.5以上のポリープ状脈絡膜血管症(PCV)34例35眼のビデオカメラ型インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)所見と黄斑所見,視力との関係を検討した。平均20か月の経過観察期間で黄斑所見の悪化は19眼(54%)にみられた。2段階以上の視力低下は16眼46%に認められ,原因はいずれも黄斑所見の悪化であった。初診時IAで黄斑所見の悪化した眼では,ポリープ内に集簇した血管瘤様過蛍光や,ポリープからの色素漏出所見がみられた。また経過中にポリープの増加がみられた。初診時視力が比較的よいものに限ってみると,PCVの視力予後は良好ではなかった。初診時視力が比較的良好でも黄斑所見の悪化を示唆するIA所見がみられる場合には,早期に治療を検討する必要があると考えた。

重症糖尿病網膜症における光線投影測定

著者: 八木達哉 ,   杉本昌彦 ,   福永崇樹 ,   大澤俊介 ,   脇谷佳克 ,   井戸正史 ,   福喜多光志 ,   久瀬真奈美 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.1483 - P.1486

 以前報告した光線投影測定計に改良を加え,本装置を用いてゴールドマン視野計で視野測定が不可能で,視力が光覚なしから指数弁までの重症糖尿病網膜症24例28眼を対象に,光線投影の方向を答えさせる方法で視機能評価を試みた。ゴールドマン視野計で視野測定が不可能な症例でも,光線投影測定において輝度変化による量的な視機能評価が可能であった。

全層角膜移植術後に外傷性創離開を起こす患者背景因子

著者: 岸本修一 ,   天野史郎 ,   山上聡 ,   濱田直紀

ページ範囲:P.1495 - P.1497

 過去8年間に全層角膜移植術後の外傷性創離開が7例7眼に起こった。男性4例,女性3例で,年齢は23~79歳(平均51歳)であった。原疾患は円錐角膜2眼,角膜白斑2眼,水疱性角膜炎2眼,球状角膜1眼であった。4眼では受傷前の矯正視力が両眼とも0.1以下であった。創離開への処置後の最終視力は,4眼で受傷前よりも低下した。全層角膜移植術後に外傷性創離開が起こる患者側の背景因子として,両眼の視力不良,比較的若年で活動が活発である,角膜全体が菲薄な球状角膜などがあった。

抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎に発症した球後視神経炎

著者: 忍田栄紀 ,   松本行弘 ,   鈴木利根 ,   筑田眞 ,   桜井祐成

ページ範囲:P.1499 - P.1503

 53歳女性が5日前からの左眼視力低下で受診した。8か月前に抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連腎炎と診断された。プレドニゾロンの大量療法のあと,1日量5mgを内服中であった。矯正視力は右1.0,左0.3であり,左眼に中心暗点があった。球後視神経炎と診断し,初診の10日後からプレドニゾロン内服を1日量40mgから開始した。3日後に左眼視力は1.2になり,その1か月後に中心暗点は消失した。本症例はANCA関連腎炎に続発した球後視神経炎の最初の報告例である。視神経炎がANCA関連腎炎の部分病変である可能性がある。

10年後に再発した原田病の1例

著者: 東芝孝彰 ,   小出健郎 ,   堀田喜裕 ,   加藤勝

ページ範囲:P.1505 - P.1508

 53歳女性が両眼の充血と視力低下で受診した。4週前から頭痛があった。矯正視力は左右眼とも1.2であったが,軽度の遠視があった。両眼に乳頭の発赤,腫脹があり,乳頭から黄斑にかけて漿液性網膜剝離があった。特徴的な蛍光造影所見があり,原田病と診断した。プレドニゾロン大量療法で網膜剝離は消退した。いったん前部ぶどう膜炎が生じたが,初診から1年5か月後に夕焼け眼底を残して治癒した。初診から9年8か月後に左眼視力が低下した。矯正視力は左右眼とも1.2であったが,左眼に乳頭発赤と黄斑部に漿液性網膜剝離があった。原田病の再発と診断した。副腎皮質ステロイド薬のテノン囊下注射で網膜剝離は消失した。全経過を通じて耳鳴と髄液細胞増加はなかった。いったん完治した原田病が約10年後に再発した稀有な例である。

網膜静脈分枝閉塞症における出血領域の血管走行による新たな分類

著者: 中山智寛 ,   大西貴子 ,   孫裕権 ,   猪原博之 ,   原吉幸

ページ範囲:P.1509 - P.1513

 網膜静脈分枝閉塞症80眼について,静脈が閉塞した動静脈交叉部での動脈と静脈の位置関係により分類し,視力を規定するある法則を発見した。眼底後極部で網膜の動脈枝が静脈枝よりも黄斑側にある眼では,第1分岐部の静脈枝が太い動脈で圧迫されることになる。このような症例では静脈が閉塞した結果としての出血が黄斑にかかることが多く,視力が不良である。80眼中で網膜静脈分枝閉塞症が黄斑内に生じたのは40眼,黄斑外は17眼,黄斑内外に及ぶものが23眼であった。今回の法則に合致したものは,それぞれ35眼(88%),17眼(100%),7眼(30%)であった。この法則は網膜静脈分枝閉塞症での視力予後の判定に有用である。

LASIKにおける2機種のマイクロケラトームの使用経験

著者: 田川考作 ,   河崎一夫 ,   東出朋巳

ページ範囲:P.1515 - P.1517

 2種類のケラトームでlaser in situ keratomileusis(LASIK)を155眼に行い,吸引時間,合併症,再手術などについて比較した。ケラトームはいずれもMORIA社製で,手動直進式のLSK-ONEを76眼,電動回転式のM2を79眼に用いた。合併症のうち不整なフラップはM2で有意に少なかった。フリーキャップ,ボタンホール,不完全フラップ,眼角切開,角膜上皮剝離,輪部出血,上皮迷入,再手術については,両者間に有意差がなかった。吸引時間は,LSK-ONEが24.5±19.8秒,M2が26.1±5.8秒で,両者間に有意差がなかったが,前者のほうがばらつきが大きかった。LSK-ONEに比べ,M2は熟練を要せずに安定して使用できると判断された。

濃度・分子量の異なる粘弾性物質を用いた白内障手術術後早期眼圧上昇の比較検討

著者: 檀之上和彦 ,   井出尚史 ,   嘉山尚幸 ,   渡辺達摩 ,   伊勢ノ海一之 ,   小宅知世子 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1519 - P.1522

 濃度と分子量が異なる3種類の粘弾性物質を用いて59眼に白内障手術を行い,術後眼圧上昇を比較した。粘弾性物質は高濃度高分子群19眼(ヒーロンV(R)),高分子群15眼(ヒーロン(R)),中分子群25眼(オペリード(R))である。手術には超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を用い,粘弾性物質はbehind the lens法で吸引除去した。眼圧は術前24時間,術後5,24,48時間と1週間に測定した。平均眼圧は各群とも術後5時間で有意に上昇し,術後48時間で有意に低下した。眼圧変化値と変化率は各群間に有意差がなかった。白内障術後早期の眼圧上昇に,粘弾性物質の濃度と分子量は大きく影響しないと結論される。

眼底所見の経過が追えた眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 加藤睦子 ,   藤田亜希子

ページ範囲:P.1523 - P.1527

 75歳女性が1か月前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.0,左0.3であった。左眼眼底の耳側に大小の黄白色滲出斑と腫瘤性病変があり,広範な滲出性網膜剝離,網膜出血,びまん性硝子体混濁があった。右眼と全身には異常がなかった。1週後に前房に細胞が播種状に出現し,豚脂状角膜後面沈着物が生じた。初診から6週後に眼底腫瘤が拡大する一方,滲出斑と網膜炎様の所見は軽快した。さらに2週後,硝子体混濁が進行し,左眼視力は手動弁に低下した。硝子体の細胞診で悪性リンパ腫の診断が確定した。局所放射線照射で眼底腫瘍は瘢痕化し,0.2の視力を回復した。以後11か月後の現在まで経過は良好である。眼内の悪性リンパ腫はぶどう膜炎に類似した所見を呈することが多いが,進行性で広範な腫瘤形成を中軸病変とした一例である。

Kearns-Sayre症候群の1例

著者: 清水陽子 ,   島川眞知子 ,   三宮曜香 ,   亀山和子 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.1529 - P.1532

 40歳女性が眼瞼下垂と外眼筋麻痺で受診した。糖尿病,心伝導障害,感音性難聴の既往があった。25歳のとき完全房室ブロックの発作があり,ぺースメーカー挿入時の筋生検でミトコンドリア脳筋症と診断された。矯正視力は左右眼とも0.9で,高度の眼球運動障害と眼瞼下垂が両眼にあった。眼底に骨小体様の色素沈着を伴わない非典型的な網膜色素変性症の所見があり,網膜電図は消失型であった。動的視野検査で盲点拡大以外に格別の異常はなかった。網膜色素変性症,眼瞼下垂,心伝導障害の三主徴があることから,成人型のKearns-Sayre症候群と診断した。発症が遅かったことが本症例の特徴である。

上方弁状裂孔による裂孔原性網膜剝離に対する術後長期滞留性ガスタンポナーデを用いない硝子体手術の成績

著者: 内野裕一 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.1533 - P.1537

 眼底上方に弁状裂孔がある網膜剝離に対する硝子体手術と液空気置換の成績を評価した。男性16例,女性9例の合計25例25眼に手術を行った。年齢は46~85歳(平均62歳)である。24眼が有水晶体眼,1眼が偽水晶体眼であった。外傷,黄斑円孔,増殖性硝子体網膜症などを伴う症例は除外した。通常の方法で硝子体手術と液空気置換を行い,眼内光凝固で裂孔を閉鎖した。その結果,初回手術で24眼(96%),複数回手術で25眼(100%)で復位が得られた。術後120~773日(平均295日)の観察期間内に,黄斑前膜1眼,遷延性虹彩炎1眼,裂孔周囲の増殖膜形成1眼以外には格別の合併症はなかった。眼底上方の弁状裂孔を原因とする網膜剝離に対する硝子体手術では,単純な液空気置換が有効であり,必ずしも長期滞留性ガスを必要としない。

硝子体手術後の遅発性視野欠損の1例

著者: 古谷達之 ,   前田利根 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1539 - P.1541

 68歳女性が緑内障で受診した。右眼に+2.75D,左眼に+2.5Dの遠視があり,矯正視力は1.0であった。両眼に乳頭陥凹と緑内障性視野欠損があった。両眼が狭隅角であり,レーザー虹彩切開術を行った。その14か月後に左眼の視野が0.2に低下し,黄斑円孔が生じていた。手術は後部硝子体剝離を作製したのち,20%SF6で硝子体内容を置換した。灌流空気は加湿しなかった。術後5日間,顔面を下向きに保ち,円孔は閉鎖した。その16か月後に白内障手術を行い1.0の矯正視力を得た。硝子体手術から26か月後に左眼の耳側下方に視野欠損を自覚し,視野検査でそれが確認された。黄斑円孔への手術後に行った2度の視野検査では視野異常はなかった。硝子体手術の際の空気灌流に続発した晩発性視野障害の可能性がある。

初期白内障における愁訴と高次波面収差

著者: 高崎恵理子 ,   伊藤美沙絵 ,   相澤大輔 ,   藤澤邦俊 ,   鈴木雅信 ,   魚里博 ,   清水公也

ページ範囲:P.1543 - P.1547

 初期白内障における手術希望者の愁訴と高次収差の関係を検討した。初期白内障があり,矯正視力0.8以上の70例95眼を2群に分けた。白内障手術を希望する48眼と希望しない47眼である。平均年齢は,前群68±9歳,後群66±7歳であった。眼球光学系全体と角膜の波面収差を測定し高次収差を比較した。手術希望群に羞明,霧視,複重視,色異常についてアンケート調査を行い,愁訴を強度と弱度の2群に分けて高次収差を比較した。眼球光学系全体の高次収差は,手術希望群0.272μm,非希望群0.201μmであり有意差があった(p<0.001)。羞明と霧視の強度群では,弱度群よりも眼球光学系全体の高次収差が有意に高かった(p<0.01)。初期白内障での高次収差は手術希望の有無と関連し,愁訴を客観的に評価できる可能性がある。

特別レポート

有効なロービジョン者(児)の支援のために

著者: 田淵昭雄 ,   山田信也 ,   田中憲児 ,   山田敏夫 ,   花田妙子 ,   山縣祥隆

ページ範囲:P.1548 - P.1563

 ■総括

 ロービジョンケア(以下,ケア)は最近の眼科臨床のなかでも欠かせない領域になってきている。これまで治療不可能であったロービジョンに至る眼疾患,特に網膜硝子体疾患に対する積極的なチャレンジなど,新しい治療は眼科医にとって極めて魅力あるものである。眼科医は単に障害された視覚が改善されることのみに自己満足しているのではなく,そのことによって障害者(児)の生活の質(quality of life:QOL)の向上につながること,さらに,これらの新しいチャレンジにもかかわらずロービジョンに陥る者や児に対しても責任をもって対処しなければならないことにも理解が深まってきている。

 日本臨床眼科学会においてもケアに関する演題が多くなり,本シンポジウムにおいても日常診療でのケア導入を開始したり,これから始めようと考えている施設から多くの参加者があった。

連載 今月の話題

硝子体検査法―細隙灯顕微鏡による硝子体の診かた

著者: 梯彰弘

ページ範囲:P.1377 - P.1383

 近年糖尿病網膜症,黄斑裂孔,高度近視など多くの網膜疾患で硝子体の関与が明らかにされつつあり,硝子体手術の適応疾患が急速に増加している。したがって,その手術適応の決定や予後予測などには個々の症例において正確に硝子体および網膜硝子体境界面の形態変化を観察,診断することが改めて重要となる。今回は最も基本的な検査ではあるがまだ一般に眼科臨床医に浸透しているとは言いがたい,細隙灯顕微鏡による硝子体の診かたの基本を概説する。

眼の遺伝病60

CRX遺伝子異常による網膜変性―615delC変異と錐体杆体ジストロフィ

著者: 板橋俊隆 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1384 - P.1386

 1997年,CRX遺伝子が錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子であることが報告され1,2),現在では錐体杆体ジストロフィにおいて20種類以上のCRX遺伝子変異が報告されている3)。また1997年,Swainら2)がCRX遺伝子Arg41Trp変異の患者に,網膜電位図(ERG)において陰性b波を認めたことを報告している。以前に筆者ら4)は,Arg41Trp変異を認めた錐体杆体ジストロフィの日本人の家系を示したが,その家系の患者には,ERG陰性b波を認めなかった。今回筆者らは,CRX遺伝子615delC変異をもち,ERG陰性b波を示した錐体杆体ジストロフィ1例の遺伝子解析結果と臨床像について報告する。本症例より,ERG陰性b波を示す錐体杆体ジストロフィの患者は,CRX遺伝子変異をもっている可能性が考えられる。

日常みる角膜疾患17

Avellino角膜ジストロフィ

著者: 森重直行 ,   山田直之 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1388 - P.1392

 症例

 53歳女性。幼少時より両眼の角膜疾患を指摘されていた。学童期の視力は右0.7程度,左0.3程度であった。最近徐々に視力低下をきたしてきたため,精査および加療目的で当科を受診した。両親はいとこ婚で,両親・兄弟が角膜疾患を指摘されていた。母親が角膜移植を受けている。

 初診時,視力は右0.3(0.4),左0.01(0.03),眼圧は右20mmHg,左21mmHgであった。角膜知覚は右50mm,左60mm(Cochet-Bonnet角膜知覚計)で両眼とも正常範囲内,Schirmer試験では両眼とも35mmで涙液分泌機能にも異常はみられなかった。両眼の角膜中央部を中心に,上皮下に灰白色の沈着物を認めた(図1)。角膜沈着物は癒合していたが,角膜輪部にまでは混濁は至っていなかった。眼底は角膜混濁のため透見困難であった。

緑内障手術手技・14

ビスコカナロストミー(1)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1394 - P.1396

 セッティング

 ビスコカナロストミー(viscocanalostomy)もトラベクロトミーの場合とほとんど同様に考えればよい。シュレム管を介する術式の場合,基本的にほとんどトラベクロトミーと同様である。

 ベッド,顕微鏡,制御糸

 ビスコカナロストミーは濾過胞を形成しない術式であるため,アプローチの方向は上下いずれからでもよい。したがって,ベッド,顕微鏡,制御糸の掛け方もトラベクロトミーの場合と同じように考える。

あのころ あのとき43

網膜と取り組んだ40年(2)

著者: 安藤文隆

ページ範囲:P.1398 - P.1400

 6時虹彩切除

 1978年9月から約1年ドイツはエッセン大学へ留学する機会を持った。そのとき,Machemer教授の愛弟子の1人Dr. Laquaから硝子体手術を学んだが,ちょうどその頃ヨーロッパでもオキュトームによるthree port systemが普及し始めており,難治性網膜剝離や増殖性硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症なども硝子体手術の対象疾患に加わってきていた。眼内レーザー装置がいまだ開発されていなかった当時では,眼内・外からの冷凍処置とガスタンポナーデのみでは重症例の治癒率はあまり高くはなかったと思われた。そんななかオランダはロッテルダムのDr. Zivojnovicは,硝子体手術後の眼内タンポナーデ物質としてシリコーンオイルを使用し好成績を上げているらしいとの話を,私と同じ時期にDr. Zivojnovicと同郷のユーゴスラヴィアから来ていた留学生に聞いた。そして彼に誘われ,オランダのロッテルダムへDr. Zivojnovicの硝子体手術を見に出かけた。彼の素晴らしい手術とシリコーンオイル注入下の術後写真をたくさん見せてもらった。その後,帰国前に再度ロッテルダムを訪れ,さらにDr. Zivojnovicの勧めで,彼のシリコーンオイルの師に当たるケンブリッジのDr. Scottを尋ね,約1週間滞在して手術を見学し,いろいろ話を聞いた。

 帰国前にはDr. Laquaから網膜剝離や増殖性変化のある症例には当分手を出すなと強く指示されていたが,いざ帰国してみると重症の増殖糖尿病網膜症症例や増殖性硝子体網膜症症例が多く,手術せざるをえない状態であった。眼内レーザー装置もまだない時代に,硝子体手術初心者がこのような難症例に手を出せたのは,シリコーンオイルについてのある程度の知識を持ち帰っていたためである。こんな折,他院で一度手術をして再発した外傷性網膜剝離の症例が紹介されてきた。水晶体は既に除去されて無水晶体の状態であり,12時方向には虹彩切除がされていた。硝子体切除を行い,裂孔の部には経強膜冷凍処置を行い,シリコーンオイルを注入して手術を終えた。翌日の回診時,患者は眼痛を訴えていた。診察するとシリコーンオイルが前房に出ていて,眼圧も高い。シリコーンオイルを入れ過ぎてしまったのかと思い,緊急処置としてシリコーンオイルを少し抜去し,眼圧を下げた。

他科との連携

耳鼻科と協同で行う涙囊鼻腔吻合術(鼻内法)

著者: 八田史郎

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 涙道疾患は眼科医によって治療されることが多いのですが,涙道の入口は眼にあり,出口はわれわれが普段目にすることのない鼻腔内にあるため,ちょうど眼科と耳鼻科の境界の分野といえます。涙囊鼻腔吻合術(DCR)は,鼻外法はともかく鼻内法となるとわれわれ眼科医にはちょっと近づきがたいとお考えの先生も多いのではないでしょうか。

 しかし,流涙や眼脂といった訴えをもった患者さんは眼科をまず訪れることが多いため,涙囊炎を含む涙囊疾患は眼科医が主導して治療されている場合が多いと思います。私もDCRを鼻外法でときどき(年間10数人程度)はしていましたが,鼻内法については最近まで経験がありませんでした。

臨床報告

慢性期の視束管開放術により視野の改善が得られた症例

著者: 鳥居廣明 ,   藤澤博亮 ,   坂元健一 ,   原田克巳 ,   米田浩 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.1567 - P.1571

 52歳男性が競艇中の事故で左側頭葉を挫傷し,左眼に視力障害が生じた。事故から8か月後に受診した。矯正視力は右1.5,左0.15で,右眼に右上4半盲,左眼に求心性視野狭窄があった。左眼に視神経萎縮があった。画像検査で,左眼窩上骨折,左頰骨弓骨折,左側頭葉に挫傷による変化があった。視神経管骨折の所見はなかった。左視束管開放術を行い,左眼視力に変化がなかったが,視野が顕著に改善した。視束管開放術は受傷から2週間以内が適応とされているが,本症例のようにある程度の視力と視野狭窄がある場合には,慢性期であっても奏効することがある。

ぶどう膜炎に続発した緑内障の手術治療成績

著者: 岡田康平 ,   木内良明 ,   伊東奈美 ,   斉藤喜博 ,   中島正之 ,   池田恒彦 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.1573 - P.1577

 ぶどう膜炎に続発した緑内障24例30眼に手術を行った。原因疾患は,ベーチェット病6眼,サルコイドーシス4眼,原田病4眼,原因不明16眼である。術式は,すべてマイトマイシンC併用線維柱帯切除術である。目標眼圧を21mmHg以下とし,生命表を用いて検討した結果,生存率は術後24か月で81.6%であり,15mmHg以下としたときは34.7%であった。ぶどう膜炎の病型,同時に行った白内障手術の有無,副腎皮質ステロイド薬の有無は手術の成績に無関係であった。以上,マイトマイシンCを併用しても,線維柱帯切除術後の眼圧調整率は時間とともに低下し,15mmHg以下に維持できる確率は低かった。

新しいアデノウイルス結膜炎迅速診断キットの検討

著者: 有賀俊英 ,   大口剛司 ,   大神一浩 ,   白取謙治 ,   大橋勉 ,   藤原理太郎 ,   大口正樹 ,   高橋俊明 ,   日隈陸太郎 ,   安里良盛 ,   青木功喜 ,   田川義継 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1579 - P.1583

 アデノウイルス結膜炎の迅速診断用キットであるイムノカードSTアデノウイルスTM「眼・咽頭用」を臨床的に評価し,これと類似しているアデノチェックTMと比較した。対象はウイルス性結膜炎が疑われた患者の結膜擦過物100検体である。64検体からアデノウイルスが分離された。両キットの陽性率は,イムノカードSTTMが63%,アデノチェックTMが77%であり,有意差がなかった。血清型,結膜炎の病期,発症後の日数についても,両キット間に差がなかった。以上の結果から,イムノカードSTTMはアデノチェックTMと同様に,アデノウイルスの迅速診断に有用であると判断した。

高度の漿液性網膜剝離を合併した網膜色素上皮裂孔の1例

著者: 福永崇樹 ,   佐宗幹夫 ,   佐野徹 ,   渡辺聡 ,   伊藤良和 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.1585 - P.1589

 55歳男性が2か月前からの両眼の視力低下で受診した。13年前に当科で多発性後極部網膜色素上皮症と診断されている。矯正視力は右0.8,左0.3であった。右眼の黄斑部耳側に網膜色素上皮裂孔があり,その下方に胞状の網膜剝離があった。網膜裂孔はなかった。左眼には多発性の網膜色素上皮剝離と滲出斑があった。蛍光眼底造影で右眼の網膜色素上皮裂孔部に過蛍光と色素漏出があり,これが網膜剝離の原因であると推定した。裂孔部と網膜剝離とが連絡しないように,左下側臥位での安静を続け,その4か月後に網膜剝離は消失した。網膜色素上皮裂孔に伴う漿液性網膜剝離が,必ずしも光凝固や手術によらずに自然寛解することを示す症例である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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