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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻9号

2004年09月発行

雑誌目次

特集 第57回日本臨床眼科学会講演集 (7) 原著

2年以上経過観察した緑内障患者の治療成績―手術治療群と薬物治療群の比較

著者: 徳田直人 ,   井上順 ,   青山裕美子

ページ範囲:P.1645 - P.1649

 可能な限り目標眼圧に近づけるように治療した緑内障160例270眼の経過を追跡した。平均観察期間は58.6±27.6か月であった。134眼は薬物のみで治療し,136眼には手術を行った。薬物群の眼圧は15mmHg前後で推移したが,使用薬剤数を数量化した薬剤スコアは42か月の時点で6.3点であり,治療開始時の約3倍であった。手術群の術後眼圧は14mmHgで推移したが,薬剤スコアは術後12か月の時点で4.6点であった。視野障害の進行は,両群とも,治療前の湖崎分類がⅡaまでの初期症例に多かった。薬物群では薬物治療の長期化が視野障害の進行に影響した可能性があり,手術群では手術の時期と術式を再検討する必要があると思われた。

トリアムシノロン硝子体腔注入治療を行った網膜中心静脈閉塞症の6例

著者: 三宅太一郎 ,   目加田篤 ,   滝畑幸功

ページ範囲:P.1651 - P.1654

 網膜中心静脈閉塞症6例6眼に対してトリアムシノロンの硝子体腔内注入を行った。年齢は50~78歳,虚血型5眼,非虚血型1眼であった。注入時の矯正視力は手動弁から0.3であり,光凝固は行われていなかった。全例にトリアムシノロン4mgを硝子体腔に注入した。その後,全例で出血と浮腫の減少があった。2段階以上の視力改善があったのは,2週間後で5眼,3か月後で5眼,6か月後で4眼であった。注入後3週間で視力が改善しなかった1眼には放射状視神経切開術を追加し,5段階以上の視力改善を得た。トリアムシノロンの硝子体腔内注入は網膜中心静脈閉塞症に対して視力改善効果があると結論される。

警告音装置を付けたオペガード(R)ネオキット用残量目安計の使用経験

著者: 関井英一郎 ,   石井正宏 ,   目加田篤

ページ範囲:P.1655 - P.1659

 灌流液の残量を示す目盛りがオペガード(R)ネオキットとして開発された。残量が100ml以下になると警告音を発する装置を考案し,その精度,有用性,問題点を検討し,さらに実際の手術で使用した。これを用いることで,灌流液がゼロになる事故を未然に防ぐことができた。灌流液が少なくなると流速が減少する問題は,灌流液の袋の高さを調節することで大幅に改善できた。

柳川リハビリテーション病院におけるロービジョンケア第9報―視覚障害児の就学状況

著者: 高橋広 ,   山田信也

ページ範囲:P.1661 - P.1664

 当眼科では過去3年間に6~18歳までの視覚障害児54名に,心のケア,視覚補助具の選定,訓練,就学などについて助言した。これら54名の就学状況は,普通学校34名(63%),盲学校11名(20%),養護学校7名(13%),聾学校2名(4%)であった。視覚0.02未満の学童・生徒は,知的障害のある1名が養護学校に通い,7名が盲学校に就学していた。高校生になると勉学の必要から盲学校に通う割合が増した。これ以外の児童・生徒の多くは普通学校に在籍していた。視覚を用いる勉学を容易にするために,視覚補助具を含めた支援を求めている。

拡大読書器使用状況の追跡調査

著者: 国松志保 ,   加藤聡 ,   鷲見泉 ,   北澤万里子 ,   田村めぐみ ,   三嶋明香 ,   落合眞紀子 ,   新家眞

ページ範囲:P.1667 - P.1671

 目的:ビデオカメラを内蔵した拡大読書器の使用状況を追跡調査した。対象と方法:過去16か月間に眼科ロービジョン外来を受診した92例のうち,拡大読書器を購入した29名を対象とし,電話によるアンケート調査を実施した。結果:28名から回答が得られた。24名(86%)が拡大読書器を実際に使用していた。内訳は,男17名,女7名であり,年齢は42~92歳,平均69歳で,優位眼視力は0.02から0.5であった。20名(84%)がカラー機能を使用していた。視力障害の原因は,黄斑変性(29%),糖尿病網膜症(21%),緑内障(21%)などであった。結論:拡大読書器は,視力障害者の生活不自由度の改善に有用であるが,購入後のサポートが必要である。

利尻島における高頻度の屈折異常

著者: 高井佳子 ,   五十嵐羊羽 ,   佐藤慎 ,   島本恵美 ,   石子智士 ,   木ノ内玲子 ,   長南兼太郎 ,   野村秀樹 ,   下方浩史 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1673 - P.1677

 2002年10月,北海道利尻島で眼科検診を行い,約6,000人の住民のうち253人が受診した。男性90人,女性163人であり,40歳以上が230人(91%),平均年齢は64.4歳であった。右眼視力は,1.0以上が54%,0.5以下が22%であった。疾患は,白内障51.7%,緑内障6.9%,糖尿病網膜症4.4%,網脈絡膜萎縮4.0%,後部ぶどう腫2.8%などであった。無水晶体眼と偽水晶体眼を除く223人の右眼の屈折は,等価球面値としての平均が-0.3±3.1Dであった。40歳以上では,4.5%に-6D以上の近視があり,48.8%に+0.5D以上の遠視があった。40歳以上204人の眼圧は,平均13.5±2.9mmHgであった。日本での先行報告と比較し,利尻島での強度近視と遠視の頻度が有意に高く,糖尿病網膜症と緑内障の頻度は同程度であった。網脈絡膜萎縮と後部ぶどう腫の頻度が高く,強度近視との関連が推測された。

眼窩隔膜を利用した腱膜修復手術の手術成績

著者: 中嶋順子 ,   目加田篤 ,   河邊宏 ,   千原悦夫

ページ範囲:P.1679 - P.1683

 眼瞼下垂に対して,眼瞼挙筋の腱膜を瞼板に縫着する腱膜修復手術がある。眼窩隔膜を利用する腱膜修復手術を27例51眼瞼に行った。眼瞼下垂の原因は,老人性22例,コンタクトレンズ性3例,内眼手術後2例であった。手術による眼瞼挙上効果は平均4.66±1.54mmで,術後の瞼裂幅は平均8.47±1.31mmと,ともに良好であった。合併症と再発はなかった。本術式で良好な開瞼効果が得られたのは,眼瞼挙筋機能が回復したためと,挙筋とミュラー筋の連動が再構築されたためと解釈される。

眼所見から診断された酒さ性角膜炎の2例

著者: 入江都 ,   高村悦子 ,   山村由紀子 ,   荒木博子 ,   篠崎和美 ,   堀貞夫 ,   石黒直子

ページ範囲:P.1685 - P.1688

 特徴的な眼所見から酒さを疑い,2例を酒さ性角膜炎と診断した。いずれも女性で,54歳と57歳であった。1例は2年前から両眼が充血し,点状表層角膜炎と血管侵入を伴い,実質深層に及ぶ周辺部角膜混濁があった。眼瞼縁,鼻尖,頰に血管拡張と毛孔性丘疹があり,皮膚科で第2度酒さと診断された。他の1例には20年前から両眼の充血と眼瞼縁の腫瘤があった。両眼に角膜混濁と血管侵入があり,眼瞼と顔面に血管拡張と丘疹があった。両症例とも,マクロライド系抗菌薬の全身投与と,抗菌薬とステロイド薬の点眼で,眼所見,皮膚所見とも2週後に改善し,点状表層角膜炎は3か月後に消失した。酒さが血管侵入を伴う周辺部角膜混濁の原因となった2例である。

特発性脈絡膜新生血管黄斑症の自然経過

著者: 清水早穂 ,   春山美穂 ,   湯澤美都子

ページ範囲:P.1689 - P.1693

 特発性脈絡膜新生血管黄斑症14例14眼の自然経過を観察し,最終視力に影響する要因を検索した。新生血管が中心窩または傍中心窩にあり,視力が0.4以上の男性4例,女性10例である。年齢は23~48歳,平均31歳で,屈折は -0.5Dから -6.0D,平均-4.3Dである。12か月から37か月,平均26か月の経過観察で,最終視力は初診時と比較して,1眼で改善,9眼で不変,4眼で悪化し,11眼では0.4以上,7眼では1.0以上であった。10眼では,初診から平均13か月後に出血と滲出が消退した。4眼では出血と滲出が消失せず,うち3眼では増悪した。最終視力は,初診時視力,新生血管の位置,大きさ,活動性,年齢のいずれとも無関係であった。しかし,35歳以上の3眼では,35歳未満の11眼よりも有意に最終視力が不良であり(p=0.043),最終視力が初診時よりも悪化した4眼中3眼は35歳以上であった。以上の結果は治療の立案の参考になる。

半層角膜弁つき遊離結膜弁移植による損傷した濾過胞の再建術

著者: 森秀夫 ,   林央子

ページ範囲:P.1695 - P.1698

 損傷した濾過胞を再建するために,半層角膜弁つき遊離結膜弁移植を考案し,2例に実施した。1例は48歳女性で,17歳で両眼に緑内障手術を受け,右眼が失明した。36歳で左眼に再手術を受けた。今回左眼を擦り,濾過胞が損傷した。結膜縫合,有茎結膜被覆は無効であった。濾過胞を切除し,右眼の結膜弁で再建したが,輪部への縫着は困難で,縫合の追加と圧迫眼帯を要した。その2年半後に,打撲により再び濾過胞が損傷した。濾過胞を切除し,輪部に接する角膜を半層切除し,右眼から半層角膜弁つき結膜弁を移植した。縫着は容易で,良好な結果を得た。他の1例は66歳女性で,他医で白内障と緑内障の同時手術を受け,濾過胞が損傷した。結膜縫合と移植は無効であった。当科で本法を実施し,良好な結果を得た。

放射線治療が著効した脂腺癌の1例

著者: 角谷庸子 ,   安積淳

ページ範囲:P.1699 - P.1703

 92歳の女性が,4年前に始まり,次第に悪化する右下眼瞼の腫瘍,びらん,出血,疼痛で受診した。糖尿病,慢性腎不全があり,貧血,高血圧,尿路と呼吸器感染症などが併発していた。右眼は眼脂が強く,下眼瞼が膨隆し,眼瞼縁に潰瘍があった。画像診断で腫瘤は下眼瞼全体に広がり,大きさは25×40×27mmで,一部眼窩内に浸潤していた。皮膚科での生検で脂腺癌と診断された。高齢であり,全身状態が不良なので,全身麻酔下での下眼瞼全体を含む拡大切除と眼瞼再建術を行わず,放射線治療を単独で実施することにした。直径6cmの電子線一門で60 Gyを照射し,その終了後2か月で病変部の潰瘍はなくなり,腫瘍は扁平化した。脂腺癌に対する放射線治療の有効性を示す1例であった。

Leber特発性星芒状視神経網膜炎の臨床経過

著者: 池田史子 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.1705 - P.1709

 64歳男性が2日前に右眼視力低下を自覚して受診した。矯正視力は右0.3,左1.5であった。右眼の視神経乳頭が発赤・腫脹し,軟性白斑と出血がその周囲にあった。光干渉断層計(OCT)で,中心窩に網膜剝離,乳頭黄斑間に網膜外層の膨化があった。フルオレセインとインドシアニングリーン蛍光造影で乳頭に色素漏出があったが,網膜血管と黄斑部には異常所見がなかった。3週後の中心窩剝離と網膜外層膨化の吸収に伴い,星芒状白斑が出現し,特発性星芒状視神経網膜炎(Leber)と診断した。視力は1.0に改善した。視神経乳頭からの強い漏出が黄斑浮腫と中心窩剝離の原因であると推定した。星芒状白斑は黄斑浮腫の吸収過程で出現した。

組織プラスミノーゲン活性化酵素を用いてケミカルビトレクトミーを行った若年性外傷性網膜剝離の2例

著者: 小暮俊介 ,   大越貴志子 ,   小暮朗子 ,   草野良明 ,   山口達夫 ,   折原雄一 ,   宮里和明

ページ範囲:P.1711 - P.1716

 後部硝子体が剝離していない外傷性裂孔原性網膜剝離2眼を加療した。いずれも男性で,年齢は15歳と18歳であった。硝子体内に組織プラスミノーゲン活性化酵素を16μg,8,000単位注入して後部硝子体剝離を作製した。その1時間後に行った硝子体手術では,硝子体を十分かつ安全に郭清でき,両症例とも網膜が復位した。組織プラスミノーゲン活性化酵素で後部硝子体剝離を誘発することができ,若年者の網膜剝離に対する硝子体手術の安全性を向上することが期待できる。術後6か月間の経過は良好であるが,網膜への毒性にはなお注意が必要である。

加齢黄斑変性に対する中心窩近傍の脈絡膜新生血管抜去術後の読書評価

著者: 三國絵梨 ,   島田宏之 ,   藤田京子 ,   菊池由夏子 ,   湯沢美都子 ,   小田浩一

ページ範囲:P.1717 - P.1721

 目的:加齢黄斑変性に伴う傍中心窩の脈絡膜新生血管を抜去した後の,視野と読書能力の評価。対象と方法:術後視力が対側眼視力よりもよくなった11眼を対象として,暗点の種類と位置を検索し,縦と横書きの最大読書速度を測定した。結果:絶対暗点が水平方向にある4眼では,縦書きの文章で最大読書速度が平均262字/分であり,上下方向にある4眼では横書きの文章での最大読書速度が平均326字/分であった。暗点が文字に接していない4眼では,縦と横書きに対する最大読書速度に有意差があった。比較暗点のみがある3眼では,どちらの方向でも最大読書速度はほぼ同じであった。結論:絶対暗点の位置と読書能力には関連がある。傍中心窩にある脈絡膜新生血管の抜去手術では,術後の暗点の種類と位置を考慮して方針を決める必要がある。

びまん性黄斑浮腫の治療後早期の形態変化

著者: 小暮朗子 ,   大越貴志子 ,   小暮俊介 ,   草野良明 ,   安田明弘 ,   山口達夫 ,   岸章治

ページ範囲:P.1723 - P.1728

 24眼の黄斑浮腫の治療開始後早期の形態変化を検索した。原疾患は糖尿病黄斑浮腫14眼,網膜静脈分枝閉塞症5眼,網膜中心静脈閉塞症5眼である。検索には光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)3000を用い,Retinal Thickness/Volume Changeで解析した。黄斑浮腫の形態変化には4型があった。黄斑での径3mmの浮腫の厚さが40μm以上減少する中心窩陥凹型9眼,浮腫が40μm以上増加する中心窩突出型2眼,黄斑での径6mmの範囲の浮腫全体が軽減するびまん減少型6眼,浮腫の増減が混在する混合型7眼がそれである。黄斑浮腫の治癒過程にはさまざまな形態変化が生じると結論される。

Intensive care unit入院中患者の眼表面障害

著者: 杉崎顕史 ,   臼井智彦 ,   田邊樹郎 ,   福嶋はるみ ,   山上聡 ,   天野史郎

ページ範囲:P.1731 - P.1733

 集中治療部(intensive care unit:ICU)に入院中の患者の眼表面障害の頻度と原因の解明を行った。2003年4~7月まで当院ICUに入院した66例を対象とし,眼表面障害,閉瞼障害,全身管理状態,在室日数を検索した。眼表面の診察には手持ち細隙灯顕微鏡を用いた。その結果,14例17眼に角膜障害があり,その全例に意識障害と閉瞼不全があった。角膜障害例の入院日数は12.9±13.5日で,非障害群の5.2±4.9日と有意差があった(p=0.037)。結膜浮腫は15例29眼にあり,これと角膜障害の間には関連がなかった。ICUに入院している患者には,閉瞼不全による角膜障害の発症が多い。閉瞼不全例には早期から閉瞼ができる処置をすることが視機能維持に重要である。

中国における角膜ジストロフィの遺伝子変異

著者: 田欣 ,   藤木慶子 ,   劉祖国 ,   王麗亜 ,   李勤 ,   王微 ,   謝培英 ,   金井淳 ,   村上晶

ページ範囲:P.1735 - P.1737

 中国での角膜ジストロフィの遺伝子変異を検索した。対象は,河南省,山西省,吉林省など中国東北部の6施設で経過観察中の角膜ジストロフィ患者27家系59名と,家系内正常者14名,正常者50名のDNAをPCRで増幅し,塩基配列を調べた。TGFBI遺伝子に関して,顆粒状角膜ジストロフィ5家系では,R124Hが4家系,R555Wが1家系にあった。Reis-Bücklers角膜ジストロフィではR124Lが2家系にあり,格子状角膜ジストロフィでは9家系中R124Cが5家系,V505Dが1家系,H626Rが2家系にあった。膠状滴状角膜ジストロフィの1家系はM1S1遺伝子のQ118X/Y184Cであった。CHST6遺伝子に関して,斑状角膜ジストロフィ11家系中,ホモ接合が4家系,複合ヘテロが7家系にあった。以上の結果から,中国のTGFBI遺伝子のR124が,他民族と同様にhotspotであると結論される。格子状角膜ジストロフィでは新たにV505D変異が発見され,また,日本には報告がないH626Rなど,民族特有の相違がうかがえた。

左右眼で対照的な経過をたどった視神経乳頭炎の1例

著者: 本田茂 ,   戸田裕隆 ,   斎藤伊三雄

ページ範囲:P.1739 - P.1742

 33歳女性が4日前に発見された左眼の視神経乳頭腫脹で紹介され受診した。1か月前から左眼に球後痛があった。矯正視力は左右眼とも1.0であった。3日後には左眼視力が0.02に低下し,ラケット状暗点が生じていた。メチルプレドニゾロン1,000mg点滴を3日間続けるパルス療法を2回行ったが効果がなく,1年後に視力が0.01になり,視神経萎縮が生じた。左眼発症から約1年後に右眼に球後痛が生じた。右眼視力は1.0であった。2週間後に乳頭腫脹が生じ,視力は不変であった。前回と同様のパルス療法で球後痛は軽快し,乳頭腫脹が軽減した。以後数回の再発があったが,そのつどパルス療法を行い,軽快した。若年に発症し,多発性硬化症を伴わない両眼性の視神経乳頭炎が,左右眼でまったく異なる経過をとった1例である。パルス療法を早期に開始したことが,左右眼の経過の違いになった可能性がある。

虚血性視神経症の治療成績

著者: 柳橋さつき ,   佐藤章子

ページ範囲:P.1743 - P.1747

 過去7年間の虚血性視神経症の自験例14例16眼を検索した。男7例,女7例で,2例が両眼に発症した。年齢は58~84歳,平均69歳であった。15眼に対し,副腎皮質ステロイド薬と循環改善薬の全身投与,星状神経節ブロックを単独または併用した。視力は9眼(56%)で改善し,7眼(44%)で不変であった。初診時の視野は水平半盲10眼,傍中心暗点3眼,中心暗点2眼などであり,複数回視野検査ができた14眼での視野の転帰は,改善6眼,不変4眼,悪化4眼であった。虚血性視神経症は,薬物などでの治療により,視力,視野が改善することがある。

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する炭酸脱水酵素阻害薬治療

著者: 桐山直子 ,   喜多美穂里 ,   中西秀雄 ,   川越直顕 ,   有澤章子 ,   池口有紀 ,   小岸淳一 ,   河本知栄 ,   松本美保

ページ範囲:P.1759 - P.1762

 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫50眼に対して,炭酸脱水酵素阻害薬を経口投与した。網膜静脈分枝閉塞症38眼,網膜中心静脈閉塞症12眼であり,年齢は63.1±10.7歳,黄斑浮腫の推定持続期間は9.0±13.7か月であった。原則として,アセタゾラミドを1日量500mgとして4週間継続投与し,以後漸減した。治療前0.25±0.32の視力は,投薬2週後で0.31±0.39と有意に改善し(p=0.04),投薬2か月後に0.38±0.33の最高視力に達した。2段階以上の視力改善率は46%であり,平均して投薬開始から1.1か月後に最高値に達した。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)で観察した黄斑浮腫は,84%で軽減した。投薬中止または減量に伴い,30%で視力が悪化した。炭酸脱水酵素阻害薬の経口投与で,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫が約半数で改善したと結論される。

切迫型網膜中心静脈閉塞症様所見を伴う網膜上膜の手術予後

著者: 荻野哲男 ,   竹田宗泰 ,   今泉寛子 ,   奥芝詩子 ,   宮野良子

ページ範囲:P.1763 - P.1767

 過去3年間に硝子体手術を行った特発性網膜上膜216眼のうち,網膜静脈にびまん性の蛇行・拡張,すなわち切迫型網膜中心静脈閉塞症様の変化がある20眼の診療録を検索した。手術により視力が2段階以上改善したのは5眼(25%)のみであった。網膜上膜への硝子体手術では概して良好な術後視力が得られるが,網膜血管の変形または蛇行が合併していると予後が不良になりがちである。切迫型網膜中心静脈閉塞症様の変化を伴う網膜上膜では,蛍光眼底造影で黄斑部に色素漏出がなくても,手術適応の決定を慎重にする必要がある。

Retinal migraineと考えられる若年性再発性網膜動脈分枝閉塞症の1例

著者: 森井香織 ,   田口浩司 ,   近藤威 ,   山中昭夫

ページ範囲:P.1769 - P.1772

 39歳女性が左眼の上方視野欠損を突発して受診した。15年前に僧帽弁閉鎖不全症で人工弁置換術を受けて以後,抗凝固薬などを内服している。同じく,15年前から視野障害の突発が右眼または左眼に合計4回あり,他院で網膜動脈分枝閉塞症と診断されている。矯正視力は左右眼とも1.5であった。左眼の下耳側動脈の支配領域に蒼白化と浮腫があり,網膜動脈分枝閉塞症と診断した。発症から10時間後に行った蛍光眼底造影では,左眼眼底に循環障害はなかった。過去15年間に繰り返している網膜動脈分枝閉塞症が血栓による可能性は小さいと判断した。15年前の人工弁置換術以来,視覚異常を伴う片頭痛が頻発し,その発症時にはストレスが多く,興奮状態にあった。これらの状況から,自立神経失調や過呼吸に伴う網膜動脈の攣縮,いわゆるretinal migraineの発作があり,それが強いときに網膜動脈分枝閉塞症が発症したと推測した。

Acute macular neuroretinopathy 4例の検討

著者: 高橋秀徳 ,   小畑亮 ,   柳靖雄 ,   玉置泰裕

ページ範囲:P.1773 - P.1777

 稀な疾患である急性黄斑神経網膜症(acute macular neuroretinopathy)の4例6眼を過去4年間に経験した。年齢は25~55歳,平均34歳で,男性1例,女性3例である。初診視力は0.01から1.0に分布していた。6眼すべてに,暗点と一致する黄斑部外層の網膜に赤色の円形病巣があり,黄斑以外には異常がなかった。最終視力は初診時のそれとほぼ同じであった。発症の誘因として,食物アレルギー,膀胱炎に対して抗生物質を1か月内服,妊娠などがあった。本疾患にはさまざまな誘因が関与している可能性がある。

エキシマレーザー屈折矯正手術laser epithelial keratomileusisの臨床経過

著者: 松井敬子 ,   田口浩司 ,   水澤志保子 ,   山中昭夫

ページ範囲:P.1779 - P.1783

 35眼にlaser epithelial keratomileusis(LASEK)による屈折矯正手術を行った。術前の球面屈折度は -1.25Dから-11.50D,平均-5.77D±2.31Dであった。術後31眼(89%)で1.0以上の裸眼視力を得た。平均球面屈折度は,術後1週間で+0.43D,1か月で+0.50D,3か月で+0.19D,6か月で-0.11Dであった。1眼に上皮フラップ遊離が生じた以外には重篤な術中合併症はなかった。術後に角膜上皮下混濁が22眼(63%)に生じ,そのうち4眼(11%)が一過性に再近視化した。LASEKは術中の合併症が少なく,良好な裸眼視力が得られるが,上皮下混濁が高率に起こるなどの問題点がある。

頻回交換型非球面ソフトコンタクトレンズの使用経験

著者: 植田喜一 ,   永井浩一

ページ範囲:P.1785 - P.1791

 非球面デザインを採用した2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズを臨床的に評価した。27例54眼での臨床試験では,全症例で満足のいくフィッティングと良好な視力が得られ,本レンズ装用による眼障害は生じなかった。60眼でのコントラスト視力検査では,球面レンズよりも本レンズのほうがより良好な視力を得ることが多かった。30眼での波面センサーによる定量的解析では,球面レンズよりも本レンズのほうが球面収差が減少する傾向があった。この頻回交換ソフトコンタクトレンズは,矯正効果と安全性が高く,臨床的に有用であると判断された。

経過中に特異な眼底所見を呈した眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 草場留美子 ,   田口千香子 ,   吉村浩一 ,   疋田直文 ,   山川良治 ,   中島収 ,   渡邉志穂

ページ範囲:P.1793 - P.1798

 71歳女性が50日前からの両眼霧視で受診した。その直後に直腸癌の手術を受けている。前医でぶどう膜炎と診断されている。矯正視力は右0.6,左0.2であった。両眼とも前房には異常がなく,硝子体中に細胞性の混濁が多数あった。眼底後極部に黄白色の滲出斑が散在していた。悪性リンパ腫が疑われたが,これを支持する全身所見はなかった。初診から5か月後に水晶体摘出と同時に硝子体の細胞診を両眼に行い,悪性リンパ腫の診断が確定した。術後に網膜色素上皮裂孔に類似する黄白色の帯状眼底病変と漿液性網膜剝離が両眼に生じた。約1か月後にこれらの病変は自然寛解し,左右眼とも1.0の視力を得た。以後12か月の間,無治療のまま経過は良好である。観察された特異な眼底病変は,悪性リンパ腫細胞が網膜色素上皮下に浸潤したためである可能性がある。

黄色の滲出性眼底病変がみられたぶどう膜炎の3例

著者: 佐藤修司 ,   吉貴弘佳 ,   小林かおり ,   沖波聡 ,   佐竹義彦 ,   沖輝彦 ,   大坪貴子

ページ範囲:P.1799 - P.1801

 黄色の滲出性病変が眼底の広範囲にあるぶどう膜炎の3例を経験した。2例は両眼性,1例は片眼性であり,年齢は49,66,68歳であった。3例とも硝子体混濁と網膜出血を伴っていた。1例はサルコイドーシス臨床診断群と確定し,他の2例はサルコイドーシスを疑ったが確定診断に至らなかった。副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行い,眼底の滲出斑は徐々に消失した。黄色の滲出性病変が眼底にあるぶどう膜炎では,サルコイドーシス以外の原因が関係している可能性がある。

黄斑剝離を伴う裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術と強膜内陥術の成績

著者: 松野員寿 ,   尾﨏雅博 ,   岡野正 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1803 - P.1806

 黄斑剝離を伴う裂孔原性網膜剝離166眼について,硝子体手術と強膜内陥術の成績を比較した。72眼には初回手術として硝子体手術を行い,94眼には強膜内陥術を行った。初回手術で,硝子体手術群では58眼(81%),強膜内陥術群では86眼(91%)で復位が得られた。最終復位率は,それぞれ86%,94%であった。術後の最終視力は,硝子体手術群では改善74%,不変19%,悪化7%であり,強膜内陥術群では改善88%,不変9%,悪化3%であった。復位率と視力改善については両群ともほぼ同様であったが,術後の最高視力に達するまでの期間は,硝子体手術群では7.4±5.3か月,強膜内陥術群では4.2±2.6か月であり,有意差があった(p=0.005)。

家族性ドルーゼンの1例

著者: 川崎ゆたか ,   川崎勉 ,   小尾明子 ,   森田保彦 ,   鈴木浩太郎

ページ範囲:P.1807 - P.1811

 38歳女性が3か月前からの右眼のかすみを主訴として受診した。右眼に-5.25D,左眼に-4.5Dの近視があり,矯正視力は右1.5,左1.2であった。両眼の黄斑部から乳頭周囲と鼻側網膜にかけて,境界が明瞭な大小不同の黄白色の斑状病巣が多発していた。右眼の黄斑部耳下側に網膜下出血があった。フルオレセインとインドシアニングリーンによる蛍光眼底造影で,出血の部位に新生血管は検出されなかった。光干渉断層計(optical coherence tomography:以下,OCT)では,網膜色素上皮層のドーム状の隆起と,その後方に無反射の空間が多発していた。これらは,加齢性のドルーゼンについて知られているOCT所見と同様であった。通常のドルーゼンが母親の両眼にあった。以上より,この症例を家族性ドルーゼンと診断した。網膜下出血が30歳代に発症したことが異例である。

隅角搔爬術の40か月の術後経過

著者: 大八木良美 ,   塚原陽子 ,   栗本康夫 ,   近藤武久 ,   植田良樹

ページ範囲:P.1813 - P.1816

 緑内障13眼に対して,初回手術としての隅角搔爬術(goniocurettage)を白内障手術・眼内レンズ挿入術と同時に行った。内訳は原発開放隅角緑内障7眼,正常眼圧緑内障1眼,落屑緑内障5眼である。術前6か月間の平均眼圧は23.0±3.8mmHg,点眼薬の数は2.6±1.0であった。術後40か月の時点で,隅角搔爬術は12眼(92%)に奏効していた。平均眼圧は16.6±2.8mmHg,点眼薬の数は平均0.9±0.7で,眼圧は有意に下降していた(p<0.01)。以上より,ぶどう膜と強膜を経由する房水流出路を増加させると考えられている隅角搔爬術には,ある程度の眼圧下降効果があると判断される。隅角搔爬術は白内障手術に併用でき,結膜瘢痕を残さない。しかし点眼による治療を併用しても,術後の眼圧水準が16mmHg前後であることを,術式を選択するときに考慮する必要がある。

眼科救急疾患最近3年間の統計―東海大学救命救急センター開設当初3年間との比較

著者: 吉澤宏子 ,   斉藤信夫 ,   河合憲司

ページ範囲:P.1817 - P.1821

 2002年までの3年間に,東海大学医学部附属救急救命センターを受診した眼科疾患を検索し,1984年にセンターが開設してからの3年間の状況と比較した。最近3年間では,全救急患者の4.66%に相当する3,744例が眼科関係であった。開設当時の3年間では2,327例が眼科関係であり,受診者数は増加したが,全救急患者に対する割合は減少していた。年齢が高齢化する傾向があった。疾患別では角膜障害が最も多く,緊急性の低い疾患が大多数を占める点では,開院当初と同様であった。当院では3次救命センターとして,ドクターヘリコプターによる患者搬送を2000年に開始した。眼科患者の利用は少ないが,今後の活用が期待される。

連載 今月の話題

ロービジョンエイド―読み書きのニーズに対しての選び方

著者: 新井三樹

ページ範囲:P.1617 - P.1623

 ロービジョンエイドにはさまざまな種類があるが,ロービジョン患者の持つ疾患,症状も多様で,患者に合った補助具をどのように選べばよいのか迷うところである。本稿では眼科を訪れる患者の最も「メジャーなニーズ」である「読み書き」に焦点をあて,患者が日常生活の中で何を望み,医療側からそれにどのように対応できるかを具体的に解説する。さらに最新のエイドについても述べる。

眼の遺伝病61

RP1遺伝子異常と網膜変性(1)

著者: 川村后幸 ,   和田裕子 ,   田中憲児 ,   玉井信

ページ範囲:P.1624 - P.1626

 RP1遺伝子は,1999年に常染色体優性網膜色素変性(ADRP)の原因遺伝子として報告された。この遺伝子は4エクソンからなり,2,156個のアミノ酸をコードしている。RP1遺伝子は,視細胞の代謝,発達に重要な働きをすると考えられている。原因遺伝子異常はエクソン4に集中し,さらにmissense変異では病気の原因遺伝子異常にならないという特徴がある。またArg677Stop変異は,海外ではロドプシン遺伝子のPro347Leu変異,Pro23His変異についで高頻度の変異である。

 今回筆者らは,96家系のADRPについて,RP1遺伝子すべてのエクソンを用いてスクリーニングし,2336~2337delCT変異を一家系に認めたので報告する1)。また,96人の遺伝子変異のスクリーニングの結果も併せて報告する。

日常みる角膜疾患18

淋菌感染症

著者: 森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1628 - P.1630

 症例

 患者:21歳,男性

 現病歴:2週間ほど前より膿性分泌物をともなう排尿時痛を自覚し,近医泌尿器科を受診し,淋菌性尿道炎と診断,加療されていた。泌尿器科症状が出現した4日後より左眼の眼脂,流涙が出現し,翌日より眼瞼腫脹を伴ってきたため,近医の眼科を受診し,抗生剤点眼で加療された。眼脂の分泌は改善せず,眼症状発生後12日目に視力低下に気づき近医を再診し,左眼の角膜穿孔を指摘され,当科を紹介され受診した。

 初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼手動弁(矯正不能)であった。左眼には眼瞼腫脹,結膜充血,多量の膿性眼脂を認めた。左眼角膜には広範な角膜潰瘍を認め,角膜中央部下耳側は角膜穿孔をきたしており前房は消失していた(図1)。水晶体の混濁は不明,眼底も透見不能であった。超音波検査では,眼内に特記すべき所見を認めなかった。

緑内障手術手技・15

ビスコカナロストミー(2)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1632 - P.1635

 シュレム管内粘弾性物質注入

 粘弾性物質の種類

 原法では,できるだけ粘稠度の高いものを使用したほうがよいとされており,現状で入手可能なものはヒーロンV(R)である。普通のヒーロンでもよいという報告もあるが,原法にしたがうならヒーロンV(R)を使用する。

 シリンジの固定

 viscocanalostomy針をつけた粘弾性物質のシリンジを針先がシュレム管の走行に一致するように利き手でしっかりと固定する(図1a)。粘弾性物質が硬い場合,かなりの力を要するため,針先が揺れ,シュレム管を破ってしまう心配があるので,十分な固定を確保しなければならない。場合によっては両手でシリンジを固定するようにしてもよい。片手の場合は,反対の手でフラップを持ち上げてシュレム管を確認しながら針を挿入することになるが,上方に引っ張り過ぎるとシュレム管が裂けるため,折り曲げるようにすることがポイントである。両手の場合はフラップに8~9-0バージンシルク糸を通糸し,角膜側へできるだけ力を掛けないように引っ張り,シュレム管を確認するとよい(図1b)(筆者は糸の端に小クレンメを挟み,固定しないで自然の重みで反対方向に引っ張るようにしている)。

あのころ あのとき44

「ERG・EOGの臨床」―作成段階の思い出と余禄

著者: 渡邉郁緒

ページ範囲:P.1638 - P.1640

 小生が眼科学専攻に至った経緯,名古屋大学医学部眼科学,基礎研究のための名古屋大学環境医学研究所,ドイツHamburg大学で,全ての上司が“金は出すが,口は出さない”的な態度で,自分自身で積極的に知識・技能の修得,研究および臨床面の計画設計をしなければならなかったことなどに関しては既に他紙に記載している(渡邉郁緒:私の修行時代.眼科診療プラクティス46:156-158,1999)。

 名古屋大学医学部眼科での16年の間,長い間の教授不在(さらに一部の期間は助教授不在)の期間があったが,ERG,蛍光眼底検査を中心とした網膜病変の臨床と動物実験に集中でき,たいへん楽しい毎日の連続であった。

他科との連携

看護部門との痛み分け

著者: 松山茂生

ページ範囲:P.1642 - P.1643

 「他科との連携」との題目で執筆の依頼をいただいたが,国立大学自体の運営が国から法人へと大きく変化し,臨床もさることながら独立行政法人としての大学病院の運営の一端を担う時間が大幅に増えた今,大学病院における医師と看護士の連携にまつわる個人的な一考を書き記すことをご容赦いただきたい。

 現在,広島大学は,大学院大学への移行・日本医療機能評価機構の受審・国立大学の独立行政法人化・新たな卒後研修制度の導入など,まさにダイナミックな変貌の最中にある。確かにこれらの改革のなかで,今まで「惰性からあたりまえ」と錯誤されてきた大学病院独特の理不尽な状況のいくつかは,これらを機会に新しく生まれ変わった感がある。しかし,実際にこの4月から導入された大学病院の独立行政法人化と卒後研修制度の導入は,われわれ大学病院勤務医にとって大きな痛手となっている。そもそも大学病院の独立行政法人化は,国家予算の支出を抑える目的で行われた国家公務員の定員削減が,小泉内閣による構造改革・規制緩和・民営化の波にのって,国立大学病院にまで及んだものと理解している。しかし,大学病院の予算面や人事面での管理・運営はもとより,急患の多い大学病院には導入不可能と思われる労働基準法の解釈など,まだまだ現実には適応しきれていない事象が目白押しである。それにもまして,研修という名のもとに,これまでマンパワーとして縁の下で実質的に大学病院を支えてくれていた研修医が,この4月から少なくとも2年間は補充がないという状況は,眼科などの大学病院マイナー系の科の実務運営上,きわめて切実な問題である。日々の外来や日当直,あるいは他科と比べて非常に回転の早い定期の入院手術だけでも,医員以上で回すとなれば十分に過重労働であるが,それに加えて,大学病院の性質上多くみられる緊急入院や臨時手術は,小泉首相のいう「改革の痛み」や「痛み分け」という言葉だけではとても言い表すことはできない。

臨床報告

網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫に対する硝子体手術の成績

著者: 中馬智巳 ,   荻野誠周 ,   沖田和久 ,   出水誠二 ,   塩屋美代子 ,   上田佳代 ,   新城歌子

ページ範囲:P.1823 - P.1829

 黄斑浮腫のある網膜中心静脈閉塞症30眼に対して硝子体手術を行い,1年以上の長期経過を検討した。最終的な蛍光眼底造影所見から,非虚血群9眼と虚血群21眼に分類した。非虚血眼での相乗平均視力は術前0.22,術後0.93であり,有意に改善した(p<0.005)。虚血眼での相乗平均視力は術前0.07,術後0.09であり,有意差がなかった。しかし16眼(76%)では術前と比較して最終視力が不変または改善していた。術後の虹彩ルベオーシスが1眼に発症した。以上の所見から,網膜中心静脈閉塞症に併発する遷延性の黄斑浮腫が視力低下の主原因である場合に,硝子体手術が有効であると結論される。

当院における糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術成績

著者: 岩間大輔 ,   宮本秀樹 ,   柴宏治 ,   廣崎嘉紀

ページ範囲:P.1831 - P.1836

 糖尿病黄斑浮腫15例20眼に対して硝子体手術を行った。18眼には白内障手術を併用した。後部硝子体剝離があるか,または未剝離で視力が0.4以下の11眼には内境界膜剝離を行った。12~19(平均14)か月の経過観察を行い,最終視力は改善が10眼,不変が8眼,悪化が2眼であった。内境界膜剝離を行った11眼では,改善が5眼,不変が5眼,悪化が1眼であった。蛍光眼底造影で後極部の色素漏出は13眼(65%)で軽減し,内境界膜剝離群では9眼(82%)で軽減した。重篤な術後合併症はなかった。糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術が有効であり,症例によっては内境界膜剝離が奏効すると結論される。

光干渉断層計およびスキャニングレーザーポラリメータ(GDx VCC)による神経線維層厚測定の比較

著者: 樋田太郎 ,   岩尾圭一郎 ,   佐藤修司 ,   岩切亮 ,   小林かおり ,   小林博

ページ範囲:P.1837 - P.1842

 光干渉断層計(OCT3000)およびスキャニングレーザーポラリメータ(GDx VCC)を用いて健常眼(52眼)および緑内障眼(31眼)の視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定し,比較検討を行った。OCTおよびGDxの測定結果は,健常眼の全周平均厚が97.3μm,56.78μm,緑内障眼では64.2μm,44.82μmであった。すべての測定項目でOCTはGDxより高い値を示した。また,すべての測定項目でOCTおよびGDxの測定値間に有意な相関があった。健常眼および緑内障眼での全周平均厚の変動係数は,それぞれOCTで5.5%,9.4%,GDxで2.8%,3.7%であった。すべての測定項目でGDxが有意に良好な再現性を示した。

増殖硝子体網膜症術後の白内障手術後に前囊収縮をきたした1例

著者: 泉直宏 ,   引地泰一 ,   花田一臣 ,   横田陽匡 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1843 - P.1846

 28歳男性が視力障害で受診した。幼少時から精神発達遅滞があり,目を叩くなどの自傷行為を繰り返していた。両眼に増殖硝子体網膜症があり,それぞれに輪状締結術,硝子体手術,シリコーンオイル注入術が行われた。術後の経過は順調であったが右眼の白内障が進行し,初診から6か月後に超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,シリコーンオイル抜去術を行った。使用した眼内レンズはソフトアクリル製であった。前囊の収縮が進行し瞳孔領を完全に覆ったので,6か月後に前囊を切除した。その組織学的所見として,線維芽様細胞と膠原線維の増殖があった。自傷行為,増殖硝子体網膜症,シリコーンオイル注入などが複合的に前囊収縮の原因になったと推定した。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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