icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

多局所ERGが診断に役立つ網膜疾患

著者: 近藤峰生

ページ範囲:P.9 - P.16

多局所網膜電図(多局所ERG)を用いると,わずか4分程度の検査時間で多数の局所ERGを一度に記録することができる。この多局所ERGが診断に特に有用であるのは,眼底が正常でありながら網膜の局所に機能障害を生じる疾患群である。本稿では,その代表的疾患であるAZOOR(acute zonal occult outer retinopathy)とOMD(occult macular dystrophy)について,その臨床的特徴と多局所ERG所見について述べた。

眼の遺伝病65

RPGR遺伝子異常による網膜変性(3)―450-466del17 bp変異とX染色体劣性網膜色素変性

著者: 板橋俊隆 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.18 - P.20

前回と同様,RPGR遺伝子異常を認めたX染色体劣性網膜色素変性家系の遺伝子解析結果と臨床像について示す。RPGR遺伝子は,1996年にX染色体劣性網膜色素変性,1998年にX染色体劣性錐体桿体ジストロフィの原因遺伝子として報告されている1~3)。今回の症例は両親が血族婚であり,当初は常染色体劣性遺伝の家系と考えられていた。しかしながら,今回RPGR遺伝子異常を確認したことでX染色体劣性遺伝の家系であることが判明し,遺伝子診断が有用と考えられた家系である。

 症 例

 [症例1]

 患者:36歳,男性

 家族歴:両親は血族婚であり,家系内で確認できた患者は本症例のみであった(図1)。

 現病歴:9歳頃より両眼の視力低下を自覚し,近医眼科を受診した。網膜色素変性の診断で通院加療を行っていた。1991年3月27日,精査目的にて当科を初診した。

日常みる角膜疾患22

輪部デルモイド

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.22 - P.25

症 例

 患者:7歳,男児

 主訴:右眼結膜腫瘤

 現病歴:出生後,産婦人科退院時に右眼結膜の腫瘤を指摘された。その後成長とともに腫瘤の大きさが増大してきたために,近医を受診した。精査および加療目的で当科を外来受診した。

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない。

 初診時所見:両眼とも眼位には異常を認めなかった。両眼瞼にも腫瘤などの異常所見は認められなかった。右眼下耳側角膜輪部に,結膜に比べてやや黄色調の充実性の腫瘤を認めた(図1)。腫瘤には表在性の血管を認め,中央部には毛を認めた。腫瘤の角膜辺縁には滲出物による混濁は認められなかった。結膜の充血も認められなかった。左眼外眼部には,特に異常所見は認められなかった。また右耳に副耳を認めたが,明らかな耳瘻孔は認められなかった(図2)。

 治療経過:生下時より認められた角膜輪部の充実性腫瘤と初診時所見より,輪部デルモイドと診断した。腫瘤は角膜輪部にあり,角膜への脂肪浸潤も認められず,視力への影響は低いと判断し,当科外来で経過観察を続けていた。ただし腫瘤と同側に副耳があることからGoldenhar症候群を疑い,眼症状の他に全身疾患を合併していないかを検査する目的で,近医小児科を受診し精査を行ったが,特に他の全身合併症は認められなかった。

あのころ あのとき48

研鑽の時(1)

著者: 山本節

ページ範囲:P.26 - P.28

卒後研修

 卒後臨床研修が開始され,問題もあるようですが,しっかりした医師が養成されれば喜ばしいことです。私が大学を卒業した1960年頃は,全員1年間の医師研修のインターンがありました。しかし,その頃はいまと違って何の身分保障もない無給の研修でした。卒業生の大部分の者は大学に残りましたが,私は大学と違った施設で研修したいと考え,大阪の北野病院を選びました。インターン生はいろいろな大学から20数名来ていて,お互い和気あいあいと研修を受け,楽しかった1年間の想い出があります。

 各科ローテイトの研修で,それぞれの科にはいろいろな先生がおられましたが,指導医の先生はお忙しいなかインターンの私たちによく指導してくださり,種々の検査や手術までやらせていただいたことは医師としての大きな財産になっています。例えば,外科では指導医のもとでappendicitisの手術をさせていただきましたし,小児科では赤ちゃんのルンバールをさせていただき,一発で出血もせずリコールの検査ができ,先生から上手に誉められ,大した手技でなくても本人にとっては大きな自信になりました。内科では前もって内科雑誌で勉強しておいて,地域の研究会に出て,生意気にも質問したりしていました。肝腎の眼科は2週間と短く,白内障の手術などを見学しましたが,手術顕微鏡もビデオもない時代ですから,細かい手技は十分理解できずに終わりました。外の病院での研修で,大学は大学としてのよさがあり,一般病院は病院としてのよさがみえただけでも収穫であったと思っています。

他科との連携

細菌検査室との連携

著者: 鈴木崇

ページ範囲:P.100 - P.101

眼感染症の診断において,病原体の検出は治療を考える上で必要不可欠である。検出法のなかでも,細菌・真菌の培養検査や塗抹標本の鏡検検査は直接病原体を検出できるため,診断において有用な情報を提供してくれる。その検査を行ってくれるところが細菌検査室である。大学病院や大規模な病院には必ず存在し,我々をサポートしてくれる。しかしながら,実際のところ,検体を提出した後は細菌検査室に任せっきりにしてしまい,検査の過程や意義を十分に理解していない場合が少なくない。確かに,我々は学生時代に微生物学の実習のなかでそれらの手法について学習したが,それはやはり臨床に直結したものではなく,検査の過程や意義をしっかり理解しているかは疑問である。また,臨床の現場に出るとなかなかそれらの検査について勉強する時間や機会が少なく,細菌検査室とも検査をオーダーして結果をみるだけの関係に終わっていることが多い。

 私も研修医のとき,とりあえず検体にラベルを張って提出するだけで,すべての菌が検査でき,培養検査で検出された菌は全て起炎菌だと信じていた。また,感染性角膜潰瘍の患者さんを担当し,オーベンの先生に角膜病巣部の塗抹標本鏡検をみせて頂いても,どれが菌でどれが炎症細胞なのかしっかりと理解することができなかった。しかし,感染性角膜潰瘍や眼内炎などの症例を経験する機会が増え,そのなかで起炎菌がなかなか検出できず,治療に苦慮する症例に遭遇するに伴って「どうして菌が検出されないのだろう?」と日々感じることが多くなった。そのなかで「菌の検出率を上げるためにはどのようなことをしたらよいのだろうか?」とか「塗抹標本を正確に鏡検できたら診断率も上がるのではないか?」などと考えるようになり,培養や塗抹標本などの基本的な知識を身につけたいという願望が強くなった。そこで教授に相談したところ,「大阪大学の感染症対策部の浅利先生に指導してもらうとよい」といわれ,大阪大学医学部附属病院の臨床検査室において約2週間研修をさせていただいた。

臨床報告

加齢黄斑変性症と強度近視に伴う脈絡膜新生血管に対する脈絡膜新生血管抜去術

著者: 柿木一邦 ,   小暮朗子 ,   大越貴志子 ,   鈴木高祐 ,   小暮俊介 ,   安田明弘 ,   草野良明 ,   佐久間敦之 ,   山口達夫

ページ範囲:P.55 - P.60

脈絡膜新生血管抜去術を17例17眼に行った。内訳は強度近視9眼と,Gass分類2型の加齢黄斑変性症8眼である。視力はlogMARで評価し,0.2以上の変化を有意とした。強度近視群の視力は,改善5眼,不変3眼,悪化1眼であり,加齢黄斑変性症群の視力は,改善4眼,不変1眼,悪化3眼であった。最終視力0.5以上への改善は,強度近視群で2眼,加齢黄斑変性症群で1眼にあった。術後合併症として,黄斑円孔が1眼に生じ,3眼で再発した。これらの所見から,脈絡膜新生血管抜去術により視力が0.5以上に改善するには術前視力が0.1以上ないと困難であり,術前視力が0.3以上であれば術後視力が悪化し,術前視力が0.1以上0.3未満であることが手術適応であると結論される。

小児Coats病光凝固後の長期観察

著者: 泉奈々 ,   杉本昌彦 ,   松原央 ,   久瀬真奈美 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.61 - P.64

光凝固を行った小児Coats病の長期経過を検討した。対象はCoats病7例7眼で,男5例,女2例である。初診時年齢は2歳6か月~11歳5か月(平均6歳11か月)であった。初回治療後10~26年間(平均17年間)の経過を観察した。治療としてキセノンまたはアルゴンレーザーで光凝固を行い,血管病変と周囲をその対象とした。滲出性病変は全例でいったん消失した。経過観察中に5眼で新しい血管病変と滲出が出現し,うち3眼で追加凝固が必要であった。7眼中5眼で最終視力が1.0以上であった。2眼で黄斑下に線維性組織が形成され視力が不良であったが,滲出性網膜剝離の再発はない。小児Coats病には光凝固が有効であった。新たな血管病変が出現することがあるので,長期間の経過観察を行い,状況に応じて再凝固をする必要がある。

眼窩リンパ増殖疾患の検討

著者: 漆崎教眞 ,   高比良雅之 ,   杉山和久

ページ範囲:P.65 - P.69

過去6年6か月間に経験した眼窩腫瘍65症例中24例が眼窩リンパ増殖疾患であった。粘膜関連リンパ組織型辺縁帯B細胞リンパ腫(MALTリンパ腫)15例(63%),リンパ組織過形成5例(20%),びまん性大細胞型B細胞リンパ腫4例(17%)である。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫はすべて放射線照射と化学療法で寛解した。腫瘍を全摘出した眼窩MALTリンパ腫5例中1例と粘膜MALTリンパ腫4例中2例では局所再発し,放射線照射または抗CD20抗体療法で寛解した。眼窩MALTリンパ腫では全摘出術が治療の選択肢であるが,粘膜発症例では再発率が高い可能性がある。

中心窩下脈絡膜新生血管に対するlimited macular translocationの手術成績

著者: 山崎仁志 ,   大黒浩 ,   石川太 ,   間宮和久 ,   中澤満

ページ範囲:P.71 - P.75

中心窩下血管新生10例10眼にlimited macular translocationを行い,成績を評価した。男性7例,女性3例で,年齢は50~78(平均67)歳であった。6か月前に視力が良好であり,手術時に0.4以下になっていることを条件とした。9眼が加齢黄斑変性,1例が網膜色素線条であった。最終視力は改善6眼,不変1眼,悪化3眼であった。合併症として術中に網膜剝離が2眼に生じ,術後に硝子体出血が2眼に生じたが,重篤な結果には至らなかった。

繰り返す脳卒中様発作に片眼性視神経乳頭炎を合併した小児の1例

著者: 海日瀚 ,   新明康弘 ,   新田卓也 ,   須藤章 ,   加瀬学 ,   大野重昭

ページ範囲:P.77 - P.82

11歳女児に意識消失発作があり,一過性の右手の麻痺と失語症が起こった。5か月後に左半身から始まる痙攣と全身癲癇発作があり,血管造影で右内頸動脈の一過性狭窄が同定された。2週間後に右視力低下が突発し手動弁になった。視神経乳頭炎と診断し,ステロイドパルス療法で視力は徐々に回復した。その6か月後に3度目の全身発作があり,直後に右視神経炎が再発した。さらに1年後に左同名半盲の発作が起こった。脳血管の一過性攣縮が頻発する脳卒中様発作の原因であると推定された。本症例では自己免疫異常が推測されたが証明はできなかった。

発症から1か月後に失明した網膜中心動静脈閉塞症の1例

著者: 藤原貴光 ,   町田繁樹 ,   村井憲一 ,   田澤豊

ページ範囲:P.83 - P.87

44歳女性が前日からの左眼視力低下で受診した。18歳のときから全身性エリテマトーデスがあり,プレドニゾロンを服用していた。35歳に高血圧が発症し加療中であった。矯正視力は右1.0,左光覚弁であった。左眼に乳頭浮腫と火炎状出血があり,蛍光眼底造影で網膜中心動脈には静注後10分後まで色素流入がなかった。左眼の網膜中心動静脈閉塞症と診断した。全身検査で抗リン脂質抗体症候群の状態にあった。汎網膜光凝固,ウロキナーゼ,低分子デキストラン,ワルファリンなどを投与したが,1か月後に網膜循環不全と視神経萎縮で視力が0になった。抗リン脂質抗体症候群の存在が網膜血管閉塞の背景にあったと推定した。

日本人下眼瞼の組織所見

著者: 井出醇 ,   山崎太三 ,   金井英貴 ,   三戸秀哲 ,   青島周明 ,   白澤信行

ページ範囲:P.89 - P.94

目的:眼窩前半部を含む日本人の下眼瞼組織の検討。対象:4屍体の8下眼瞼。男性3人と女性1人,年齢は64~90歳。所見:眼窩隔膜はまず前方に向かい,次いで眼輪筋の後面に沿って下眼瞼縁へと上行する。上眼瞼と異なり,両者間に線維脂肪組織はない。眼輪筋前瞼板部と前隔膜部の間を通り真皮に向かう囊眼瞼筋膜があるが,下眼瞼溝の形成はない。眼輪筋の前瞼板部と瞼板間に囊眼瞼筋膜はない。眼窩隔膜は途中で囊眼瞼筋膜と合流し,瞼板には付かない。全症例で下円蓋部下内方の膠原線維の大きな集塊内にMuller筋の小片が散在する。さらに2例でこの集塊と瞼板下縁との間に平滑筋の小片が散在する。結論:眼窩隔膜と眼輪筋との間には線維脂肪組織は存在せず,明確な下眼瞼溝もない。下眼瞼のMuller筋の形態は上眼瞼とは異なり,瞼板下縁に達していない。

硝子体切除術,網膜前膜剝離,視神経血管腫の直接レーザー光凝固を行い視機能が温存できたvon Hippel Lindau病の1例

著者: 郡司桂子 ,   大原國俊 ,   志和利彦

ページ範囲:P.95 - P.98

26歳男性が小脳血管芽腫の手術を受け,眼所見精査のために紹介され受診した。既往として12歳のときに腎腫瘍摘出を受けていた。右眼は正常で,左眼には周辺部網膜と乳頭に血管腫が各1個あった。その6年後と8年後に左眼に硝子体出血が発症した。出血が吸収した後に2個の血管腫に波長577nmでの色素レーザー照射を行い,さらに硝子体切除と黄斑前膜剝離が行われた。左眼の状態は2年後の現在まで安定している。

カラー臨床報告

ニプラジロール点眼で軽減した糖尿病黄斑浮腫の1例

著者: 永井由巳 ,   安藤彰 ,   岸本直子 ,   福島伊知郎

ページ範囲:P.41 - P.46

66歳男性が眼底検査の目的で受診した。18年前に糖尿病を発見され,食事療法を行っていたが血糖コントロールは不良であった。視力は右1.0,左0.6で,両眼に網膜出血が散在し,左眼には硬性白斑と軟性白斑があった。蛍光眼底造影で眼底後極部に血管からの色素漏出があった。これらの所見から両眼に光凝固を行った。その14週後に黄斑浮腫が出現し,矯正視力は右0.6,左0.15になった。さらに3か月後に硝子体手術,眼内光凝固,眼内レンズ挿入を行った。黄斑浮腫が軽減して視力がやや向上したのち,再び視力が右0.1,左0.2に低下した。ニプラジロール点眼を1日2回開始した。その11か月後,黄斑浮腫は寛解し視力が右0.2,左0.3に回復した。経過中のHbA1c値は6.6%以下であった。ニプラジロールに黄斑浮腫軽減効果があった症例であり,その奏効機序として,網脈絡膜循環の改善,アポトーシス抑制,細胞機能の活性化などの可能性がある。

ハイドロジェル(MIRAgel(R))を使用した網膜剝離手術の術後晩期合併症とその発症頻度についての検討

著者: 星野健 ,   松原孝 ,   福島伊知郎 ,   福地俊雄 ,   桐山直子 ,   藤関義人 ,   河原澄枝 ,   高橋寛二 ,   緒方奈保子 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延 ,   松村美代

ページ範囲:P.47 - P.53

ハイドロジェル(MIRAgel(R))を使って網膜剝離に対する強膜内陥手術を行い,その後にバックル抜去が必要になった38例39眼を検討した。患者の年齢は21~78(平均51)歳であり,男女差はなかった。バックル除去は結膜隆起,充血,眼球運動障害,複視などの出現,または定期診察で眼底所見が悪化した時点で行われた。網膜下に露出した1眼を除く38眼でバックル抜去が可能であった。網膜剝離手術からバックル摘出までの期間は6~15(平均10.7)年であり,近年は増加傾向にある。ハイドロジェルを使用した網膜剝離手術で,合併症の発症率は約6.1%であった。ハイドロジェルは1995年に製造が中止されたが,その合併症についてはなお注意が必要である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?