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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

特集 第58回日本臨床眼科学会講演集 (8) 学会原著

CVL(cilio-vitreo-lenticular)ブロックの7例

著者: 福田恒輝 ,   佐々木元子 ,   吉田博則 ,   横山光伸 ,   三好輝行

ページ範囲:P.1679 - P.1684

虹彩切開術あるいは白内障手術を行った7例7眼に,毛様体・硝子体・水晶体ブロックが生じた。男性1例,女性6例で,34歳の1例を除き,全例が60~70歳台であった。3眼に眼内レンズの前方偏位による近視化があり,2眼に眼圧上昇があった。全例に前部硝子体切除術を施行した。全例で浅前房と狭隅角が改善し,眼内レンズの前方偏位による近視化が改善し眼圧が正常化した。虹彩切開術あるいは白内障手術後に浅前房と狭隅角が持続するときには,毛様体・硝子体・水晶体ブロックが関与している可能性があり,前部硝子体切除術が有効である。

ベーチェット病患者を対象とした抗TNFα抗体の前期第Ⅱ相臨床試験成績

著者: 中村聡 ,   堀貞夫 ,   島川眞知子 ,   望月學 ,   杉田直 ,   川島秀俊 ,   上野聰樹 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1685 - P.1689

目的:ベーチェット病でのぶどう膜炎に対して投与したインフリキシマブの前期第Ⅱ相臨床試験の報告。対象と方法:免疫抑制薬が奏効せず,ぶどう膜炎発作を繰り返すべーチェット病難治例13症例に,インフリキシマブを10週の間に4回点滴投与した。1回の投与量は5mgまたは10mg/kgとした。結果:眼発作の回数が有意に減少し視力が改善した。下痢と嘔気が頻度の高い副作用であり,感染症や自己抗体の出現があった。結論:ヒト-マウスキメラ型抗TNFαであるインフリキシマブの全身投与が,ベーチェット病でのぶどう膜炎に奏効する可能性がある。

コルヒチンにより血清中CK上昇を認めたベーチェット病の6例

著者: 高本光子 ,   蕪城俊克 ,   吉田淳 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.1691 - P.1694

目的:コルヒチン投与で血清クレアチンホスホキナーゼ(creatine phosphokinase:CK)値が上昇したべーチェット病6例の報告。症例:ベーチェット病6例の内訳は,完全型4例と不全型2例で,年齢は28~64歳,平均44歳であり,男性5例と女性1例であった。全例がコルヒチン1mgを内服中で,5例がシクロスポリンを併用し,2例に抗TNFα抗体の使用歴があった。結果:自覚症状として筋力低下,筋肉痛,痺れ,体重減少などが生じ,同じ時期にCK値が著しく上昇していた。自覚症状はミオパチーであると解釈された。コルヒチンを減量または中止した数週後に,自覚症状は改善し,CK値は低下した。結論:ベーチェット病に対するコルヒチン投与でミオパチーが生じることがある。投与中は自覚症状についての問診と定期的な血液検査が望ましい。

白内障手術時のトリアムシノロン前房内注入の検討

著者: 近藤裕美 ,   比嘉利沙子 ,   清水公也 ,   久保祐輔 ,   藤澤邦俊

ページ範囲:P.1695 - P.1699

目的:白内障手術時にトリアムシノロンを前房に注入したときの,術後炎症の軽減効果と副作用の検討。対象と方法:両眼に白内障手術を行った27名54眼を対象とした。全身疾患がない健康人11名と糖尿病患者16名である。それぞれ片眼にトリアムシノロン3.2mgを注入し,他眼にBSSのみを注入して対照とした。術後3か月まで経過を追った。結果:糖尿病者では,前房のフレア値がトリアムシノロンの注入眼では非注入眼よりも有意に低かった(p<0.05)。矯正視力,眼圧,角膜内皮細胞減少率,中心窩網膜厚の変化については両群間に有意差がなかった。結論:糖尿病者での白内障手術では,術中にトリアムシノロンを前房内に注入することで,術後早期の前房のフレア値の軽減が期待できる。

視神経鞘髄膜腫の1例

著者: 山内紀子 ,   かせ谷鉄志 ,   居軒賢二 ,   大石なみき ,   久保江理 ,   都筑昌哉 ,   赤木好男 ,   有島秀孝 ,   半田祐二 ,   久保田紀彦

ページ範囲:P.1701 - P.1704

目的:視神経鞘髄膜腫1例の報告。症例:53歳女性が10年前に始まった左眼視力障害で受診した。所見と経過:矯正視力は右1.2,左0であり,左眼の直接対光反応が消失していた。眼球突出度は右14mm,左20mmであった。左眼に上転と内転障害,眼底に網膜のびまん性浮腫,乳頭浮腫,網膜血管の蛇行があった。CT検査で左眼窩内に直径25mmの腫瘍像があり,磁気共鳴画像検査(MRI)では,T1強調画像で腫瘍は視神経と等信号,T2強調画像で灰白質と同程度のやや高信号があり,内部に点状の低信号領域があった。造影MRIで腫瘍は均一に増強された。摘出した眼窩内腫瘍の病理診断は視神経鞘髄膜腫であった。術後の視力回復は得られなかったが眼球運動が改善した。結論:視神経鞘髄膜腫では早期発見と治療が望ましい。本症例では残存腫瘍の再発を警戒する必要がある。

フタラール消毒薬(ディスオーパ(R))による白内障手術後の水疱性角膜症

著者: 幸野敬子 ,   土坂寿行 ,   前田利根 ,   小原沢英彰 ,   堀純子

ページ範囲:P.1705 - P.1709

フタラール0.55%溶液で手術器具の消毒を行い,2日間に7例8眼に対し超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術による白内障手術を行った。全例に角膜内皮障害が生じた。4眼では術翌日に著しい角膜浮腫があり,約3週後に角膜裏面の色素沈着,虹彩萎縮,ぶどう膜外反などの虹彩壊死が生じた。2眼は水疱性角膜症になり,6眼では最終的に角膜が透明化したが,角膜内皮細胞密度が術前よりも12~57%,平均35.3%減少した。これらの角膜障害は,白内障手術器具に残留したフタラールが眼内灌流液中に溶出した結果と考えられた。

両眼性視神経乳頭腫脹を呈した骨髄異形成症候群の1例

著者: 佐々壽一 ,   坂井譲 ,   田淵昭雄 ,   和田秀穂

ページ範囲:P.1711 - P.1714

52歳女性が両眼の視力低下で受診した。2年前に貧血を契機として骨髄異形成症候群と診断された。矯正視力は右0.6,左0.2で,両眼に網膜出血と視神経乳頭腫脹があった。全身的に貧血と汎血球減少があり,免疫抑制療法と輸血などを開始した。15か月後に視力は正常化し,眼底所見も大きく改善した。骨髄異形成症候群で乳頭腫脹が生じた報告はない。慢性化した貧血が急激に悪化し,血小板減少がこれに加わったことで発症したと推定される。

結膜弛緩症による流涙症への球結膜固定術の検討

著者: 井之川宗右 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1715 - P.1717

流涙の原因が結膜弛緩症に基づく症例があると考え,流涙症を訴え,涙液分泌量が正常もしくは減少しており,鼻涙管が正常に機能している患者のうち点眼により改善のみられない5例5眼に対し,下方結膜を伸展しナイロン糸で3方向を強膜に固定する方法を施行した。全例で術後の涙液メニスカスは正常化し,5眼中4眼で流涙の症状は改善された。手術侵襲や今後の手術への影響を考えると,結膜弛緩症手術の第一選択として結膜固定術は最適であると思われるが,長期経過では効果が不十分である可能性が考えられる。

特異な経過をたどった強膜化角膜の1例

著者: 立脇祐子 ,   齋藤総一郎 ,   渡邊浩子 ,   植木麻理 ,   清水一弘 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1719 - P.1723

目的:緑内障と網膜剝離が併発した両眼の強膜化角膜の1症例の報告。症例と経過:在胎39週,3,110gで正常分娩をした男児。出生直後に両眼の眼球突出と角膜混濁があり,角膜への血管侵入と混濁が強く,球結膜との境界が不明瞭で,虹彩など眼内部が透見不能であり。触診で高眼圧であった。CT検査で前房が深かった。全身的に格別の異常はなかった。生後5日目の超音波検査で,両眼に網膜全剝離を認め,緑内障手術,角膜移植,硝子体手術などで視機能改善が期待できないと判断した。以後,眼圧変動に伴い,眼球は拡大と縮小を繰り返し,6か月後に左眼,1年後に右眼が眼球癆になった。結論:出生直後から強膜化角膜があり,これに併発した網膜剝離と高眼圧が病状を修飾した症例である。

虹彩コロボーマに伴う白内障手術に虹彩整復術を併用した2例

著者: 三浦光生 ,   西出忠之 ,   野村英一 ,   門之園一明 ,   水木信久

ページ範囲:P.1725 - P.1728

目的:虹彩コロボーマに伴う白内障手術に虹彩整復術を併用し,視機能と患者の満足度を検討する。症例:虹彩コロボーマ白内障の患者2例に対し,白内障手術と虹彩整復術を同時に行った。虹彩整復術は10-0ポリプロピレン糸を用いて虹彩欠損部を眼内で2か所縫合した。結果:視力は改善し,角膜形状や視野に大きな変化はなかった。患者の満足も得られた。結論:コロボーマ白内障に対し,術後の視機能改善と美容上の改善のために白内障手術に虹彩整復術を併用することは有用である。

硝子体手術に至った後部ぶどう腫を有する増殖糖尿病網膜症の1例

著者: 村井克行 ,   植木麻理 ,   南政宏 ,   片岡英樹 ,   廣辻徳彦 ,   前野貴俊 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦 ,   渡邊浩子

ページ範囲:P.1729 - P.1733

目的:後部ぶどう腫がある高度近視眼に増殖糖尿病網膜症が生じ,硝子体手術を必要とした症例の報告。症例:59歳女性が9か月前に糖尿病と診断された。血糖コントロールは良好で,HbA1c値は6%台にある。前医で両眼に汎網膜光凝固を受けた後,当科を受診した。右眼に-4.5D,左眼に-11Dの近視があり,矯正視力は右0.2,左0.04であった。右眼に増殖前糖尿病網膜症,左眼に後部ぶどう腫,硝子体出血,血管アーケードに沿い増殖膜と牽引性網膜剝離があった。左眼に硝子体手術を行った。後部ぶどう腫周囲に強固な網膜硝子体癒着があった。結論:後部ぶどう腫がある高度近視眼でも増殖糖尿病網膜症が生じる可能性がある。硝子体手術を行う際には,高度近視眼に特有な硝子体変化に留意する必要がある。

網膜静脈閉塞症に対するt-PA硝子体腔投与後の術後早期の中心窩網膜厚変化

著者: 小暮俊介 ,   大越貴志子 ,   小暮朗子 ,   山口達夫

ページ範囲:P.1735 - P.1741

網膜静脈閉塞症に伴う囊胞様黄斑浮腫10眼に対し,組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)4万単位を硝子体腔に投与した。内訳は網膜静脈分枝閉塞症6眼と網膜中心静脈閉塞症4眼である。推定発症から投与までの期間は1~13か月(平均3.3か月)であり,観察期間は3~8か月(平均5.4か月)であった。logMAR視力の平均は,術前1.12,1日後1.08,2日後0.94,10日後0.84,1か月後0.83であり,10日後以降は有意に改善していた(p<0.01)。6眼(60%)で術後1か月のlogMAR視力が0.2以上改善し,その内訳は網膜中心静脈閉塞症2眼(50%),網膜静脈分枝閉塞症4眼(67%)であった。中心窩網膜厚の平均値は術前743μm,1日後612μm,2日後466μm,10日後323μm,1か月後342μmであり,2日後以降は有意に減少していた(p<0.01)。観察期間中に合併症はなかった。網膜静脈閉塞症に伴う囊胞様黄斑浮腫に対し,t-PAの硝子体腔投与は有効な治療法と思われる。

Sheathotomy術後ごく早期から視力が改善した網膜静脈分枝閉塞症の1例

著者: 多鹿三和子 ,   目加田篤 ,   関井英一郎 ,   瀧畑幸功 ,   岡田明

ページ範囲:P.1743 - P.1748

目的:動静脈交叉部鞘切開術が奏効した網膜静脈分枝閉塞症症例の報告。症例:72歳女性が6か月前からの左眼視力低下で受診した。左眼に下耳側の網膜静脈分枝閉塞症があり,矯正視力は0.09であった。1か月後に動静脈交叉部鞘切開術を行った。その8時間後の眼底写真で交叉部近位の静脈に血流増加があり,蛍光眼底造影で静脈充盈遅延が改善していた。視力は,1週後0.6,6週後0.8,10週後1.0,6か月後1.2であった。結論:網膜静脈分枝閉塞症に対し,動静脈交叉部鞘切開術が著効を示すことがある。

視神経萎縮で発見された神経梅毒の1例

著者: 照屋健一 ,   新井三樹 ,   山川良治

ページ範囲:P.1749 - P.1753

37歳男性に羞明が生じ,2か月後に受診した。矯正視力は右0.4,左0.8で,両眼に視神経萎縮と高度の視野狭窄があった。頭部と副鼻腔の画像検査で異常はなかった。その8か月後に視力が右0.06,左0.04に低下した。血清と髄液TPHAが強陽性であり,髄液に細胞増加があった。神経梅毒による視神経症と診断し,ペニシリン大量投与とプレドニゾロン内服を行った。視機能障害が進行し,治療開始から1年後に両眼とも手動弁になった。経過中に眼以外の神経症状はなかった。神経梅毒が視神経萎縮として発症した1例である。

徳島大学における屈折異常弱視と不同視弱視の検討

著者: 四宮加容 ,   木虎亜希子 ,   岡本里江 ,   久保弥栄子 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1755 - P.1758

目的:2003年4月までの17年10か月間に当科で治療を開始した屈折異常弱視と不同視弱視169例の報告。症例:症例の内訳は,3歳児健診に視力検査が導入された1991年4月よりも前に75例(前期群),それ以後に94例(後期群)である。前期群と後期群での屈折異常弱視はそれぞれ31例と44例であり,不同視弱視はそれぞれ37例と57例である。結果:治療開始の平均年齢は,屈折異常弱視では前期群6.1歳と後期群4.9歳であり,不同視弱視ではそれぞれ6.5歳と5.3歳であった。治療開始年齢は,後期群が前期群よりも有意に早かった。治療期間は両群間に有意差がなかった。後期群では,就学前に治療が終了できる例が多かった。4歳未満で治療を開始した例では,中途脱落と視力の再低下が少なかった。結論:3歳児健診に視力検査が導入された1991年以後では,弱視の治療開始が早くなり,視力転帰が向上した。

ミトコンドリアDNA3460変異がみられたレーベル遺伝性視神経症の1例

著者: 高橋知美 ,   三橋玉絵 ,   神尾聡美 ,   高村浩 ,   山下英俊 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.1759 - P.1763

13歳男児が2か月前からの急激な視力低下で受診した。矯正視力は右0.03,左0.02であった。両眼の前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなく,蛍光眼底造影でも病的所見はなかった。ゴールドマン視野検査で両眼に中心暗点が検出された。磁気共鳴画像検査(MRI)で両眼の球後視神経炎が疑われ,ステロイドパルス療法を行った。視力は左右とも0.5に改善したが,視野には変化がなかった。その後の遺伝子検査でミトコンドリアDNA3460変異が検出され,レーベル遺伝性視神経症の診断が確定した。日本人の本疾患では,大多数が11778変異であるとされている。本症例が3460変異であったことが,不完全ながら視力の回復が得られた理由であると推定される。

連載 今月の話題

網膜色素変性と緑内障の類似性

著者: 大黒浩 ,   横井由美子 ,   石川太 ,   大黒幾代

ページ範囲:P.1655 - P.1657

眼科領域において遺伝性網膜変性の代表疾患である網膜色素変性と,眼圧依存および非依存因子により発症する緑内障は,臨床的にも病態生理学的にもまったく異なる疾患として扱われてきた。しかし最近の多くの病態研究によれば,網膜色素変性および緑内障はそれぞれの標的細胞である網膜視細胞および網膜神経節細胞がアポトーシスという共通の病的メカニズムで死滅することが明らかになり,両疾患に共通点のあることがわかってきた。したがって網膜神経細胞のアポトーシスを抑制することは,両疾患に対する新たな治療法になりうる可能性を秘めている。

眼の遺伝病74

PRPF31 遺伝子異常とは?

著者: 佐藤肇 ,   和田裕子

ページ範囲:P.1658 - P.1660

PRPF31 遺伝子

 PRPF31 遺伝子は,19番染色体長腕(19q13.4)に位置し,14エキソンから構成されており499個のアミノ酸をコードしている。S. cerevisiaeのpre-mRNAスプライシング遺伝子であるPRP31と相同性が高い。2001年にこのPRPF31遺伝子が常染色体優性網膜色素変性家系(RP11)の原因遺伝子であることが証明された1)。網膜のほか脳,心臓,筋,血液など広範な組織で発現している。

 遺伝子のコード配列(エキソン)は非コード配列(イントロン)によって分断されている。転写産物(pre-mRNA)中のイントロンは,転写後ただちに数種のsnRNP(small nuclear ribonucleoprotein)が関与するスプライシングという過程で除去される。snRNPの大きな複合体をspliceosomeというが,PRPF31蛋白はこのspliceosomeを構成するU4/U6 snRNPとU5 snRNPをつなぎ合わせる役割をしている2,3)(図1)。

日常みる角膜疾患31

糖尿病角膜症

著者: 近本信彦 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1662 - P.1665

症 例

 患者:65歳,女性

 主訴:右眼の霧視感

 現病歴:2003年4月初旬,右眼霧視感を自覚し近医を受診した。網膜裂孔に伴う硝子体出血を指摘され原因裂孔に対し網膜光凝固を施行した。その後,再度硝子体出血をきたし吸収されないため,5月30日,当科を紹介され受診した。

 既往歴:約30年前より糖尿病,インスリン療法中。

 家族歴:特記すべきことなし。

 初診時所見:視力は右眼前手動弁(矯正不能),左0.8(1.0)で,眼圧は右14mmHg,左16mmHg(NCT)であった。両眼の上下眼瞼とも睫毛乱生やマイボーム腺機能不全はみられなかった。両眼とも角膜は透明で上皮障害はなかった。シルマーテスト第Ⅰ法で右2mm,左7mm,角膜知覚検査では右20mm,左25mm(Cochet-Bonnet知覚計)であり,両眼において涙液減少症と角膜知覚低下を認めた。中間透光体には加齢性白内障(Emery-Little分類,grade 3)がみられた。右眼眼底は硝子体出血のため透見不良であったが,超音波検査において網膜剝離を認めた。左眼は糖尿病網膜症を認めなかった。

眼形成手術手技8

術後の整容面に関する話合い

著者: 野田実香

ページ範囲:P.1666 - P.1670

はじめに

 眼形成手術で機能的改善を果たしても,整容面に問題が生じると患者は満足しない。そこで問題となるのが,人によって手術に求めるものが違うということである。機能面の改善だけで満足する場合,美容面を期待していた場合,そもそも手術に頼るべき問題ではなかった場合などさまざまである。医師の価値観を押し付けてはならず,訴えに傾聴し,手鏡を持たせて確認しながら相談する必要がある。

 重要と思われる点を以下に挙げる。

  1)術前のシミュレーション

  2)患者の気づいていない点も指摘して確認しておくこと

  3)術中の確認

  4)些細なことだが気になりやすい点の把握

  5)本人が手術に何を求めているのか聞出し

他科との連携

誰がDr. コトーになるのか,なれるのか―僻地・離島医療にかかわり始めて

著者: 藤田敦子 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1673 - P.1675

はじめに

 今回,「他科・他部門との連携」についての原稿を依頼されました。私が他科との連携について日頃考えていることと,いままで多くの先生がここに述べられたこととの間に大きな違いはありません。そこで今回は純粋な意味での「他科との連携」ではありませんが,私たちの取り組みについて述べさせていただきます。

 さて,鹿児島大学は関連施設として多くの離島病院を抱えていますので,「他科との連携」を越えた「離島病院との連携」を行っています。この連携は,都会の病院では考えられない独特なものですが,そこでの経験は医療の本質に迫るものが多く,われわれにさまざまなことを教えてくれます。とりわけ,都会の病院で研修を済ませてから鹿児島大学に入局された先生には強い印象を与えるようです。そのことについて私も書いてみましたが,私が書いた文章よりも,実際に経験した藤田敦子先生の書いたもののほうが数段優れていましたので,それをお示しいたします。(坂本泰二)

臨床報告

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離に対する硝子体手術の手術成績

著者: 広瀬育隆 ,   櫻井真彦 ,   村上仁司 ,   佐藤浩介 ,   高瀬正郎 ,   村田茂之 ,   井上治郎

ページ範囲:P.1785 - P.1790

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離26例28眼に対して硝子体手術を行った。年齢は15~35歳,平均24.1歳であり,対象は顔面叩打との関連が疑われる毛様体上皮裂孔,高度白内障,裂孔不明眼などの症例に限定した。すべての裂孔を検出する目的で,水晶体は前囊を残して切除した。硝子体を基底部まで切除し,毛様体ひだ部裂孔例では,裂孔縁の水晶体囊を切除した。将来の顔面叩打の際の眼球変形を抑制する目的で,全例に輪状締結を,網膜裂孔例ではさらにバックルを置いた。27眼は初回手術で復位し,1眼は再手術で復位した。アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離に対し,この術式による硝子体手術は有効であった。

慢性涙囊炎に対するブリムヌンチャク型シリコーンチューブの挿入

著者: 五嶋摩理 ,   新妻卓也 ,   井藤紫朗 ,   朝岡勇 ,   松原正男

ページ範囲:P.1791 - P.1794

目的:鼻涙管閉塞に対するブリムヌンチャク型シリコーンチューブ挿入術の報告。対象と方法:慢性涙囊炎がある鼻涙管閉塞10例に,従来の改良型である単管式ブリムヌンチャク型シリコーンチューブを挿入した。全例が片側性であり,年齢は62~82歳(平均72歳)であった。3~8か月間チューブを留置し,抜去後平均3か月間の経過を追跡した。結果:抜去後の再閉塞は皆無であり,全例で排膿が改善していた。結論:慢性涙囊炎がある鼻涙管閉塞に単管式ブリムヌンチャク型シリコーンチューブ挿入は有効であった。チューブそのものによる狭窄や閉塞が軽いことがその理由と考えられる。

カラー臨床報告

光干渉断層計(OCT3)の角膜疾患への応用

著者: 高橋博 ,   斉藤森 ,   斎藤克也 ,   岩瀬真実 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.1775 - P.1779

光干渉断層計(OCT3)で正常または病的角膜を検索した。疾患は角膜ジストロフィ,角膜穿孔,エキシマレーザーによる治療的角膜切除前後などである。被検者の顔を固定してOCTの焦点を角膜に合わせ,3mmまたは5mm長で走査した。正常眼では,角膜上皮と内皮が高反射を示した。顆粒状,斑状,格子状ジストロフィでは,それぞれでの混濁の深さを同定できた。治療的角膜切除例では,切除前にあった実質浅層の混濁消失が確認できた。角膜ヘルペスによる穿孔例では,穿孔部の自然治癒過程が観察できた。光干渉断層計による角膜所見は,弱拡大での光学顕微鏡によるそれと似ている。これを細隙灯顕微鏡検査と併用することで,角膜の病態と経過観察で新知見を得ることができる。

滲出性網膜剝離を伴った先天性網膜動静脈吻合の1例

著者: 尾辻太 ,   右田博敬 ,   加藤整 ,   大島健司

ページ範囲:P.1781 - P.1784

9歳女児が2年前からの右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.1,左1.5であり,左眼は正常であった。右眼の黄斑部が強く拡張蛇行した血管に覆われ,拡張血管の周囲に黄白色の滲出物があった。下方眼底には滲出を伴う網膜剝離と血管瘤があった。先天性網膜動静脈吻合と診断した。網膜剝離に対し冷凍凝固,強膜輪状締結術,ジアテルミーによる強膜穿刺を行った。術後6か月に滲出性網膜剝離は消失した。血管の拡張蛇行は3年後に軽減し,0.1の視力を維持している。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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