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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科59巻11号

2005年10月発行

文献概要

特集 眼科における最新医工学 II.視機能再生工学 前眼部の再生工学

(6)サルを用いた培養角膜内皮シート移植術の開発

著者: 小泉範子1

所属機関: 1同志社大学 研究開発推進機構 再生医療研究センター

ページ範囲:P.197 - P.201

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水疱性角膜症に対する新しい治療法

 角膜内皮細胞はポンプ機能とバリア機能によって角膜実質への水輸送をコントロールし,角膜の透明性の維持に重要な役割を果たす。角膜内皮細胞は非常に増殖能が乏しい細胞であるため,角膜内皮が障害されると,デスメ膜皺襞や角膜浮腫を生じ,さらに内皮機能が低下すると水疱性角膜症となって視力は著しく低下する(図1)。水疱性角膜症にはFuchs角膜内皮ジストロフィなどの角膜変性症によるもののほか,白内障手術や硝子体手術などの内眼手術やアルゴンレーザーによる虹彩切開術によって生じる医原性のものがあり,社会の高齢化や眼科手術件数の増加によって今後もさらに増加することが懸念されている。水疱性角膜症に対する治療は全層角膜移植術(penetrating keratoplasty:PK)が行われているが,PKには角膜全層を切開することによる角膜乱視,創傷治癒の遅延,縫合糸に関連する術後のトラブルなどが伴う。

 同志社大学再生医療研究センターでは,京都府立医科大学の木下茂教授らとともに,水疱性角膜症に対する新しい治療法として再生医療の観点に基づく培養角膜内皮シート移植の開発を行っている。この治療法のコンセプトは,ドナー角膜から採取した少量の角膜内皮細胞をin vitroで培養して増殖させ,コラーゲンシートなどのキャリア上に播種して作製した培養角膜内皮シートを移植するものである(図2)。小さな切開創から,角膜を全層切開することなく培養角膜内皮細胞を前房内に挿入し角膜後面に移植することができれば,術後の乱視や縫合糸によるトラブルを回避できるほか,immunologically privileged site(免疫学的に特異な部位)である前房内に角膜内皮シートを移植することによって,全層角膜移植に比べて拒絶反応のリスクを少なくすることができる可能性がある。また,ドナー角膜の不足が問題となっている日本においては,角膜内皮細胞を培養,増殖させることにより複数の患者に移植することができるため,ドナー角膜が有効に利用でき,より多くの患者に角膜移植の機会を与えることができるメリットがあると考えられる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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