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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科59巻11号

2005年10月発行

文献概要

特集 眼科における最新医工学 III.治療への応用

眼科ドラッグデリバリー研究における薬物動態シミュレータの利用

著者: 東條角治1

所属機関: 1九州工業大学大学院情報工学専攻生命情報工学部門

ページ範囲:P.238 - P.245

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緑内障,白内障,網膜炎など眼内疾患の薬物療法では,医薬品の有効成分を眼内の標的組織へ効率よく送り込むドラッグデリバリーシステム(DDS)が必要である。100年前Paul Ehrlichによって開かれた“magic bullet(魔法の弾丸)”の医薬品開発は,1世紀を経た今日,デリバリーシステムとしての“magic gun(魔法の銃)”とともに用いられてこそ,その機能を十分発揮できると考えられるようになっている。そしてその研究法も,実験動物使用量の低減や臨床試験の簡便化などのため,従来広く行われてきたin vivoやin vitroの実験ばかりでなく,眼内薬物動態や薬効評価に「仮想実験動物」や「仮想患者」としての計算機シミュレータを有効利用する新しいin silicoアプローチが期待されている。本項では,眼科DDS研究におけるこのような新しい研究手法をまとめた。

はじめに

 点眼直後の薬物は涙液に分配し,結膜,角膜,強膜などの前眼部組織へ急速に分布した後,角膜を透過して房水へ移行する。この際,厚み0.6mmの角膜を透過して房水に達する薬物量は角膜表面に点眼された薬物の1/20程度であり,点眼液のバイオアベイラビリティ(BA)は驚くほど低い1)。水晶体や網膜,硝子体など眼深部組織に薬効成分を送達することはさらに困難である。通常の点眼液で,薬物濃度は点眼液,涙液,角膜,前房水,水晶体と変化するにつれ,おおよそ1/10ずつ低下する(10分の1則)2)。基礎実験で有望な治療薬と期待されながらなかなか実用化されないのは,眼深部標的組織へ薬効成分を効果的に送達できるデリバリーシステムがないからである。例えば,いくつかの薬物について,点眼後の水晶体濃度が点眼液濃度の0.1%程度にしか達しないことが動物実験から明らかにされている2)

 さらに眼内は,房水や硝子体など薬効成分が比較的拡散しやすい部位と,角膜,水晶体,網膜,ブドウ膜など拡散抵抗の大きな組織が混在している異質構造である。薬効成分はこれらの異質な組織を拡散するため,同一組織内ばかりでなく組織間の境界で大きく濃度変化することが予想される。薬効や副作用は標的組織である局所濃度に依存するため,実験的に測定される房水,硝子体や水晶体など組織全体としての平均濃度では,薬物濃度と薬効や副作用との関係(薬動力学/薬力学相関 pharmacokinetics/pharmacodynamics 相関:pK/pD相関)を誤解してしまうことも指摘されている1)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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