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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻5号

2005年05月発行

雑誌目次

特集 第58回日本臨床眼科学会講演集 (3) 学会原著

ヒアルロン酸ナトリウム溶解ICGとBSS溶解ICGでの黄斑円孔手術成績

著者: 山根真 ,   大野智子 ,   佐藤貴之 ,   伊藤由起 ,   亀澤比呂志 ,   和田浩卓 ,   中谷弥生 ,   門之園一明 ,   内尾英一 ,   柳靖雄 ,   玉置泰裕

ページ範囲:P.619 - P.623

特発性黄斑円孔33眼に硝子体手術と内境界膜剝離を行った。16眼にはインドシアニングリーン(ICG)をヒアルロン酸ナトリウム0.06%に溶解し,17眼にはbalanced salt solution(BSS)0.125%に溶解して内境界膜を染色した。走査型レーザー検眼鏡(SLO)で,術後に残存するICGを観察した。全例に円孔の閉鎖が得られ,視力の改善率に両群間に差はなかった。蛍光の残留期間は,ヒアルロン酸ナトリウムでは平均3.6か月,BSS群では7.6か月であり,蛍光の分布は前者よりも後者で広範囲であった。内境界膜染色にヒアルロン酸ナトリウムに溶解したICGを用いることで,その残留を軽減できる可能性がある。

ソフトシェルテクニックとヒーロンVの角膜内皮細胞保護効果の比較

著者: 高橋圭三 ,   大木孝太郎 ,   杉田元太郎

ページ範囲:P.625 - P.628

目的:ソフトシェルテクニック(soft shell technique:SST)とヒーロンV(Healon(R)V:HV)の角膜内皮細胞保護効果の比較。対象と方法:熟練した1人の術者によって同一の術式と器械設定で施行された眼内レンズ挿入術を伴う超音波水晶体乳化吸引術症例121眼のSST群(ヒーロンとビスコート併用)と110眼のHV群(ヒーロンVのみ使用)を術前と術後1か月の角膜内皮細胞の細胞減少率とストレスインデックス(Stress Index:SI)で統計学的に比較した。結果:細胞減少率はSST群で平均2.4%,HV群で平均2.2%であった。SIはSST群で平均17.3μm2,HV群で平均9.2μm2であった。どちらの指標においても両群に統計学的有意差がなかった。結論:両者は同等の保護効果を有する。

網膜静脈分枝閉塞に伴う黄斑浮腫に対するトリアムシノロン後部テノン囊下投与と光凝固

著者: 木村英也 ,   黒田真一郎 ,   永田誠

ページ範囲:P.629 - P.632

黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞15例15眼に網膜光凝固とトリアムシノロンの後部テノン囊下投与を行った。男性9例,女性6例で,年齢は45~88歳,平均66歳であった。発症から治療までの期間は3週間~29か月,平均6.0か月で,3~12か月,平均8.0か月の経過観察を行った。視力は11眼(73%)で2段階以上改善し,2眼(13%)で不変,2眼(13%)で2段階以上悪化した。平均視力は術前0.33,術後0.55であり,有意差があった(p=0.015)。中心窩厚は術前462±123μm,術後261±120μmで有意に減少した(p<0.0001)。6眼(40%)で黄斑浮腫が再発した。高眼圧が1眼(7%)に起こったが,これ以外の重篤な合併症はなかった。本治療は初回治療として有効であるが,再発例には追加治療が必要であると結論される。

シリコーンチューブ挿入術による仮道形成とその対策

著者: 藤井一弘 ,   井上康 ,   杉本学 ,   杉本敏樹

ページ範囲:P.635 - P.637

目的:鼻涙管閉塞症に対してシリコーンチューブを挿入後に生じた仮道形成の発見と対策の記述。対象と方法:過去10か月間にシリコーンチューブ挿入術を行った56例65側を対象とした。術中・術後の涙道内視鏡検査で仮道形成があればチューブを抜去し,涙道内視鏡下で再挿入し,単一管腔内にチューブを留置した。結果:仮道形成は14側(22%)にあり,全例で再挿入が可能であった。チューブ抜去後6か月目の通水は61側(94%)で良好であった。結論:仮道形成の発見には術中・術後の涙道内視鏡検査が重要であり,涙道内視鏡下での再挿入が有効である。

続発性黄斑前膜に対する内境界膜剝離の有用性

著者: 横田幸大 ,   橋本英明 ,   鈴木綾乃 ,   岸章治

ページ範囲:P.639 - P.642

目的:黄斑パッカーに対する内境界膜
剝離術の有用性の検討。対象と方法:3年間に硝子体手術を行った黄斑パッカー21眼を対象とした。原疾患は,網膜
剝離への硝子体手術6眼,強膜輪状締結手術6眼,増殖糖尿病網膜症への硝子体手術2眼,サルコイドーシス2眼,眼内異物2眼などである。10眼では意図的に内境界膜
剝離を行い,11眼では黄斑前膜のみを
剝離した。術後1年間の経過を評価した。結果:内境界膜
剝離を行った10眼中1眼,黄斑前膜のみを
剝離した11眼中6眼で黄斑前膜が再発した。前者の7眼,後者の4眼で2段階以上に視力が改善した。前者の6眼と後者の2眼で変視症が改善した。結論:黄斑パッカーへの硝子体手術では,意図的に内境界膜
剝離を行ったほうが結果がよい。

加齢黄斑変性の血漿アポ蛋白質とリポ蛋白質(a)およびプラスミノーゲン

著者: 田中朗 ,   門屋講司 ,   新井清美 ,   池辺朋子 ,   松本行弘 ,   田中寧 ,   筑田眞

ページ範囲:P.643 - P.646

男性の加齢黄斑変性(AMD)15例と同年齢層の12例につき,脂質代謝に関係する血漿成分を検索した。アポ蛋白質A-Ⅰについては,AMD群と対照間に有意差がなく,アポ蛋白質BはAMD群が有意に高かった(p<0.01)。リポ蛋白質(a)はAMD群が有意に高かった(p<0.05)。プラスミノーゲンについては両群間に差がなかった。対照群でみられたプラスミノーゲン活性のリポ蛋白質(a)に対する濃度依存性は,AMD群の40%で欠けていた。男性のAMDでは,アポ蛋白質Bに由来する低密度リポ蛋白質(LDL)と,リポ蛋白質(a)による網脈絡膜への脂質供給が過剰であり,線溶系にも異常がある可能性がある。

糖尿病網膜症における硝子体手術後の血管再灌流

著者: 富樫元 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.647 - P.650

目的:硝子体手術を行った糖尿病網膜症眼底の無灌流領域での再灌流の検索。対象と方法:硝子体手術を行った糖尿病網膜症48眼と,その僚眼25眼を対象とした。男性26名,女性14名で,年齢は29~81歳,平均63歳であった。術後の経過観察は3~12か月,平均6.7か月であった。手術施行時の網膜症は増殖29眼,非増殖19眼で,眼内光凝固を13眼に併用した。術前と術後の蛍光眼底造影所見から,網膜耳側縫線付近での無灌流領域の再灌流を検索した。結果:手術眼での再灌流は僚眼よりも有意に多く起こった。手術時の年齢が65歳未満,HbA1c値が7%未満のとき,再灌流が多かった。結論:糖尿病網膜症眼での無灌流領域の再灌流は,硝子体手術を行った後に起こりやすく,患者の年齢とHbA1c値が関与する。

多目的フォールダブル眼内レンズ

著者: 塙本宰 ,   川崎勉 ,   出田秀尚 ,   濱野右生

ページ範囲:P.651 - P.654

目的:アクリル性眼内レンズ(IOL)を改造し,毛様溝縫着用のフォールダブルIOLとして多目的に使えるようにした製品の記述。方法:IOLは光学径6.5mm,全長13.0mmで,hapticsは毛様溝縫着部に窪みがついている。Hapticの片方の窪みは一点での固定用で,他方のhapticの窪みには少し幅があり,縫着の際に縛った糸を窪みのなかでずらしてIOLの位置修正ができる。このIOLを使って10眼の豚眼で白内障手術を行い,IOLの囊内固定と毛様溝縫着を行った。結果:IOLの囊内固定と毛様溝縫着はどちらも4.0mmの強角膜傷から畳んで挿入できた。Hapticsに窪みを持たせることで,IOLの位置修正ができた。結論:このIOLは小切開多目的用として有望である。

再生不良性貧血にサイトメガロウイルス網膜炎を発症した1例

著者: 佐藤陽子 ,   佐藤文平 ,   宋由伽 ,   南政宏 ,   植木麻理 ,   廣辻徳彦 ,   前野貴俊 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.655 - P.658

目的:サイトメガロウイルス網膜炎を発症し,硝子体手術を施行した再生不良性貧血の症例の報告。症例:51歳女性が7年前に再生不良性貧血と診断された。輸血と副腎皮質ステロイド剤などで左眼に結膜下出血,両眼に眼底出血が生じた。その後,両眼に硝子体混濁が生じ,硝子体出血と網膜剝離が発症した。硝子体手術で網膜は復位した。多量の網膜下出血,網膜血管の白線化,網膜壊死が術中所見として観察された。血清と硝子体からサイトメガロウイルスDNAが検出され,サイトメガロウイルス網膜炎と診断した。結論:再生不良性貧血にサイトメガロウイルス網膜炎が続発すると,出血傾向のため網膜下出血が起こる可能性がある。

急激な血糖コントロール後に悪化した糖尿病網膜症の可逆性と予後

著者: 田中雅子 ,   森脇信 ,   斉藤喜博

ページ範囲:P.659 - P.662

目的:急激な血糖コントロール後に生じた糖尿病網膜症悪化の可逆性と予後の検討。対象:HbA1c値が1か月あたり1.0%以上低下し,その1年以内に網膜症が悪化した20例が対象。男性11例,女性9例で,年齢は27~72歳,平均50歳。インスリン依存糖尿病2例,非依存糖尿病18例である。経過観察は6~29か月,平均13か月である。結果:網膜症は6例で可逆的,14例で非可逆的であった。両群間に,年齢,病型,罹病期間,内科治療の有無,血圧,腎症,神経症,HbA1c値の低下状況に差はなかった。コントロール開始前の眼底所見は,可逆例では網膜症がないか,または福田分類AⅠが各3例であった。非可逆例では網膜症がないもの1例,AⅡで黄斑浮腫なしが5例,AⅡで黄斑浮腫ありが7例,BⅠで黄斑浮腫なしが1例であった。網膜症なしとA1が可逆例では100%,非可逆例で7%であり,有意差があった(p=0.0002)。コントロール開始前に黄斑浮腫がある症例では全例で黄斑浮腫が増悪した。結論:糖尿病患者に厳格な血糖管理をする際には,網膜症が悪化する可能性があるので,網膜症の重篤度と黄斑浮腫の有無に留意する必要がある。

眼窩炎症と網膜剝離を合併した後部強膜炎のMRIとPET所見

著者: 塙勝博 ,   張大威 ,   木村裕子 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.663 - P.666

25歳女性が4日前からの右上眼瞼腫脹と疼痛などで受診した。矯正視力は右0.2,左1.5であった。右眼には軽度の眼球突出,結膜充血,漿液性網膜剝離があった。磁気共鳴断層検査(MRI)で強膜と脈絡膜が肥厚し,外眼筋と涙線部に高吸収域があった。陽電子放射断層検査(PET)では異常がなかった。後部強膜炎と診断し,ステロイドパルス療法を行い,翌日から病状が軽快した。全身検査でWegener肉芽腫,関節リウマチなどの膠原病は否定された。本症例の後部強膜炎の原因は不明であるが,MRI,特にそのT1強調画像は,超音波検査やCTよりも強膜病変をより詳細かつ確実に描出していた。

日帰り計画的水晶体囊外摘出術の術後検討

著者: 北野愛 ,   白井久美 ,   雑賀司珠也 ,   山中修 ,   岡田由香 ,   大西克尚

ページ範囲:P.667 - P.669

日帰り手術として計画的水晶体囊外摘出術を29例34眼に行った。水晶体核の硬化が強い男性8例9眼,女性21例25眼で,年齢は51~86歳,平均72歳である。術後3か月で0.5以上の視力が83%に得られた。術後の円柱レンズの度数が-3D以上のものが76%であった。術中合併症として,チン小帯断裂が2眼(6%)にあり,術後合併症として術創哆開と前房出血が核1眼(3%)に生じた。日帰り手術として計画的水晶体囊外摘出術で12%の症例に術中・術後合併症があったが,最終的に全例で視力が改善した。

白内障術後3か月にわたるブロムフェナクナトリウム点眼剤投与の安全性

著者: 早川和久 ,   新城百代 ,   上門千時 ,   名嘉文子

ページ範囲:P.671 - P.675

目的:ブロムフェナクナトリウムの3か月間点眼により肝機能障害が起こるか否かの確認。対象と方法:白内障手術を行った肝機能障害がない20例35眼を対象とした。男性6例,女性14例で,年齢は69~86歳,平均75歳である。1日2回のブロムフェナクナトリウム点眼を,白内障手術後の3か月間行った。結果:点眼開始から1か月後と3か月後の肝機能検査で,異常値は皆無であった。術後の視力改善の経過は良好で,角膜上皮障害と囊胞様黄斑浮腫は皆無であった。結論:肝機能障害がない高年者では,白内障手術後3か月間のブロムフェナクナトリウム点眼による肝機能障害は発症しなかった。

高知大学眼科における裂孔原性網膜剝離の手術成績

著者: 杉本聡子 ,   小浦裕治 ,   西野耕司 ,   福島敦樹 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.677 - P.680

目的:裂孔原性網膜剝離に対する手術成績の報告。対象と方法:3年間に裂孔原性網膜剝離108例110眼に初回手術を行った。51眼には強膜内陥術,59眼には硝子体手術を行った。結果:強膜内陥術を行った51眼中,45眼(88%)が初回手術で復位し,最終的に全例が復位した。硝子体手術を行った59眼中,52眼(88%)が初回手術で復位し,最終的に58眼(98%)が復位した。両群を合わせた初回復位例は110眼中97眼(88%)であり,最終的に109眼(99%)が復位した。最終視力は,硝子体手術群で視力改善例が多かった。結論:裂孔原性網膜剝離に対する手術法の選択では,術前検査の結果と患者の年齢などを考慮すべきである。

抗リン脂質抗体症候群が原因と考えられた網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 中茎敏明 ,   西野耕司 ,   小浦裕治 ,   福島敦樹 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.681 - P.686

目的:片眼性の網膜動脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症に網膜中心動脈閉塞症が続発した,抗リン脂質抗体症候群の症例の報告。症例:59歳女性の右眼に網膜動脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症が突発し,血栓溶解療法を受けた。病状悪化でその2日後に紹介され受診した。矯正視力は右眼0.01,左眼1.0であった。発症6日後に硝子体手術と放射状視神経乳頭切開を行った。その2日後に網膜中心動脈閉塞症が起こった。血小板減少と抗カルジオリピン抗体があり,全身性エリテマトーデスに伴う抗リン脂質抗体症候群と診断した。副腎皮質ステロイド薬投与で血小板数が増加した。血栓溶解療法で動脈の循環が改善したが,静脈の循環は改善せず,最終矯正視力は0.03であった。結論:抗リン脂質抗体症候群が非若年者の網膜中心静脈閉塞症に関係することがある。

黄斑部の網脈絡膜萎縮の網膜断層像

著者: 高草木伸子 ,   李丹傑 ,   本間理加 ,   岸章治

ページ範囲:P.687 - P.691

黄斑部に網脈絡膜萎縮がある8例12眼の網膜断層像を光干渉断層計で検索した。男性7例,女性1例で,年齢は平均48歳である。内訳は,錐体ジストロフィ2眼,陳旧性の中心性漿液性網脈絡膜症3眼,輪紋状脈絡膜ジストロフィ2眼,原因不明の黄斑ジストロフィ2眼,びまん性網膜ジストロフィ2眼,鈍性外傷による網膜振盪症1眼で,全例に網膜血管の異常はなかった。黄斑萎縮部では黄斑外縁の網膜厚は正常の約74%に菲薄化し,中心窩底は正常の約36%に菲薄化していた。中心窩の陥凹の深さは正常範囲にあった。黄斑萎縮では網膜内層の厚さが保たれ,網膜外層が菲薄化していると結論される。

両眼のマリオット盲点の拡大を呈したAZOORの1例

著者: 李丹傑 ,   大串元一 ,   岸章治

ページ範囲:P.693 - P.697

29歳女性が両眼の耳側の部分的な視野欠損を自覚して受診した。矯正視力は両眼とも1.2であった。両眼の眼底で視神経乳頭周囲には幅が1DDの輪状の低色素領域があり,その外縁に色素環があった。低色素領域では網膜動脈が遠位より細くなっていた。視野はマリオット盲点が正常の2倍に拡大していた。光干渉断層計(OCT)は乳頭周囲の網膜の菲薄化を示した。フルオレセイン蛍光造影では低色素域に一致してwindow defectがあった。初診時の全視野ERGでは錐体,杆体ともに正常であったが,多局所ERGでは両眼ともマリオット盲点拡大領域に顕著な低下を示した。観察中に,左眼底の中間周辺部に新病巣が出現し,それに一致した暗点を認めた。11か月後の全視野ERGでは錐体の反応低下があった。本例は病巣の視細胞層の変性により,色素上皮萎縮と網膜血管の狭細化をきたした局所的な網膜色素変性症と考えられ,acute zonal occult outer retinopathy(AZOOR)と診断された。

インターフェロン投与中に前部虚血性視神経症を発症した1症例

著者: 篠原花奈 ,   瀬口次郎 ,   曽我部由香

ページ範囲:P.699 - P.703

48歳男性に右眼視野異常が突発した。5か月前から慢性C型肝炎に対してインターフェロンの全身投与を受けていた。視力は両眼とも1.5であったが,視神経乳頭所見,動的量的視野,蛍光造影所見などから両眼に同時発症した前部虚血性視神経症と診断した。インターフェロンの投与中止とステロイドパルス療法で視野はやや改善した。インターフェロンは網膜と視神経の循環障害を起こす可能性がある。比較的若年で前部虚血性視神経症の危険因子に乏しい本症例では,インターフェロンが前部虚血性視神経症の発症に関与した可能性がある。

脈絡膜原発悪性黒色腫の臨床病理学的検討

著者: 加瀬諭 ,   吉田和彦 ,   齋藤航 ,   南場研一 ,   辻野奈緒子 ,   村松昌裕 ,   古館直樹 ,   大野重昭

ページ範囲:P.705 - P.709

目的:脈絡膜原発悪性黒色腫で眼球摘出術を行った症例の病理学的所見の報告。症例と方法:過去4年間に脈絡膜原発悪性黒色腫と診断した4例4眼。29歳男性,50歳女性,62歳男性,66歳女性である。摘出した眼球を4%パラフォルムアルデヒドで固定し,パラフィン包埋と薄切を行い,未染標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色と脱メラニン後にヘマトキシリン染色を行った。所見:全例に胞状網膜剝離があり,1眼は全剝離であった。腫瘍径は13×13mmから25×25mmの間にあった。視力低下の自覚から眼球摘出までの期間は2~9か月であり,期間が長い症例では短い症例よりも腫瘍が大きく病期が進行する傾向があった。どの症例にも腫瘍部に多量のメラニンが沈着していた。脱メラニンを行うことで腫瘍細胞の形態学的観察が容易になり,核分裂像も観察できた。2例では紡錘型の核を有する腫瘍細胞が目立ち,他の2例では類上皮型の腫瘍細胞が混在していた。結論:脈絡膜原発悪性黒色腫は,日本では頻度が低い眼腫瘍であるが,今後の症例の蓄積と臨床病理学的解析が重要である。

著明な眼球突出を伴ったcloverleaf syndromeの1例

著者: 宇野智美 ,   岡田由香 ,   白井久美 ,   北野愛 ,   雑賀司珠也 ,   大西克尚

ページ範囲:P.711 - P.714

在胎28週の胎児に超音波検査が行われ,頭部形態異常,側脳室と第3脳室拡大があり,cloverleaf syndromeと診断された。在胎34週で帝王切開で分娩,体重は2,904gであった。両眼に眼球突出と浅い眼窩があり,ヘルテルで非突出時9mm,突出時20mmであった。前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった。生後5か月で頭蓋骨縫合切除術を行い,眼球突出は軽減し,ヘルテルで左右とも16mmになった。

専門別研究会

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.716 - P.718

平成16年(2004)11月11日(木)D1ホールにて色覚異常研究会を開催した。開始にあたって,昭和56年(1981)から平成4年(1992)まで本研究会の世話人であられた深見嘉一郎福井医科大学名誉教授(享年76歳)が8月26日に亡くなられたことが世話人から報告された。故人の冥福をお祈りして1分間の黙禱が行われた。

 一般演題は以下の4題で,座長 岡島 修(三楽病院)で活発な討論が行われた。

眼先天異常

著者: 野呂充 ,   玉井信

ページ範囲:P.720 - P.721

1.角膜潰瘍を生じた斜顔面裂の1例

植松 恵・他(国立病院機構仙台医療センター)

 顔面裂は胎生期の顔面諸突起の融合不全により生じる顔面奇形で,斜顔面裂は口唇あるいは鼻と眼瞼を結ぶ裂奇形である。演者らは斜顔面裂に角膜潰瘍を生じた1例を経験し,若干の考察を加え報告した。

 症例は9か月男児で,在胎38週4日,出生体重3,078g,自然分娩にて出生し翌日眼科を初診した。顔面形成異常(右瞼裂狭小,左眼瞼欠損,口唇裂,口蓋裂)と左角膜びらんを認め,フラビタン眼軟膏と必要に応じて抗生物質点眼・軟膏を使用した。その後,角膜病変は改善し,2003年12月11日,当院形成外科にて形成手術を施行したが下眼瞼欠損は残存した。定期的に通院加療していたが,2004年7月7日に数日前からの充血,眼脂を主訴に来院した。左眼角膜中央から上鼻側にかけて角膜浸潤を伴った潰瘍を認め入院加療を行った。抗生物質軟膏,点眼にて潰瘍は軽快した。

話題

卒後研修での眼科研修―現状の全国調査と問題点

著者: 綾木雅彦 ,   谷口重雄 ,   高木康 ,   松橋正和

ページ範囲:P.722 - P.724

新しい卒後臨床研修制度が2004年度から発足した。この制度の中で,眼科研修の現状と問題点を知るために,80大学の眼科にアンケートを送った。その結果,73大学(回収率91%)から回答があった。卒後臨床研修の中で眼科を選ぶことは全大学で可能であり,その期間は2週間~12か月までさまざまであった。眼科を選択する予定者は平均1.9名であった。2004年度の眼科入局者は,73施設の合計が92名であり,その内訳は,研修終了者53名,他科から26名などであった。23大学が,卒後臨床研修制度の発足に伴って関連病院が減ったと回答した。眼科専門医試験への対策は41大学(56%)で行われていた。回答者の大多数が,これからの眼科医数が不変ないし減少すると予想していた。

連載 今月の話題

甲状腺眼症の治療戦略―放射線治療は有効か

著者: 大塚賢二

ページ範囲:P.599 - P.603

本邦では甲状腺眼症の治療に対する考え方には種々の混乱がみられるが,国際的には,炎症早期にステロイドパルスなどの免疫抑制療法を行って症状の悪化を抑制し,その一方で眼球突出や眼球運動制限などの慢性期の不可逆的変化に対しては,必要に応じて眼窩減圧術や外眼筋手術による眼位矯正などを行うことが一般化された方針である。しかし放射線照射だけは,内外を問わずその有効性に多くの疑問をもたれながらも甲状腺眼症の治療に慣例的に用いられてきたのが現状であった。最近行われた諸外国の比較対照試験の結果はいずれもその有効性に強い疑問を呈するものであり,甲状腺眼症における放射線治療の有効性について再検討する時期にきているというべきであろう。本稿では,本邦の混乱した甲状腺眼症の治療方針を整理しながら,近年の放射線療法の比較対照試験の結果をレビューし,現在の知見から最も効果的と考えられる甲状腺眼症の治療方針を解説する。

眼の遺伝病69

CYP4 V2遺伝子異常とクリスタリン網膜症(4)

著者: 和田裕子

ページ範囲:P.604 - P.606

CYP4 V2遺伝子のIVS6-8delTCATACAGGTCATCGCG/insGC変異をもつクリスタリン網膜症の1症例を報告する。IVS6-8delTCATACAGGTCATCGCG/insGC変異によりsplicing errorが生じ,exon 7がスキップすると報告されている。この変異は,日本人クリスタリン網膜症の高頻度変異である。前回のシリーズでも同じ変異をもつクリスタリン網膜症の症例を報告しているため,以前の臨床像と比較していただきたい。

 症 例

 患者:58歳,女性(初診時45歳)

 主訴:夜盲

 家族歴:姉が近医で網膜変性と診断されている(図1)。

日常みる角膜疾患26

角膜真菌症

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.608 - P.610

症例

 患者:66歳,男性

 主訴:右眼の充血,視力低下

 現病歴:アレルギー性結膜炎に対して近医でステロイド点眼により加療されていた。2002年5月,急激な視力低下と結膜充血を認めたために近医を受診し,角膜感染症を疑われ当科を紹介され受診した。

 既往歴:1999年1月に右眼ヘルペス角膜炎。

 家族歴:特記すべきことはない。

眼形成手術手技3

眼形成的運針術(2)

著者: 野田実香

ページ範囲:P.612 - P.617

はじめに

 眼瞼の皮膚は薄く,皮下組織は粗である。また,表情筋としての眼輪筋がその下層にあり,さらに上眼瞼では挙筋腱膜,下眼瞼では牽引筋腱膜の線維が皮下組織に及んでいる。しかしながら,眉毛部周囲や鼻根部など眼瞼周囲の皮膚は厚く,皮下組織もしっかりしている。眼瞼および眼瞼周囲の皮膚を扱う際にはこれらの事項を念頭に置く必要がある。

他科との連携

救急当直と眼科医

著者: 山下美恵

ページ範囲:P.754 - P.755

産業医科大学病院は,昨年から救急指定病院となり,救急外来が本格的に始動しました。救急部といっても,本来救急部に所属する医師は7人で,夜間や休日の対応は,この救急部の医師1名と,各科の専門修練医(他医科大学の医員に相当)のなかから日替わりで指名された1名の計2名であたります。もちろん眼科の専門修練医にも2か月に1回程度の救急当直の割りあてがまわってきます。

 救急外来の受診は,患者さんが直接こられる場合と,救急隊を通して搬入される場合があります。救急部の対応は当直医師のみで対応することもありますが,手が足りなくなったり,救急車が到着するときは専門修練医の救急当直医が呼ばれます。さらに救急当直医だけでは対応しきれない専門性の高いケースでは,当該科の当直医も含めて対応します。例えば,顔面打撲で,眼窩吹き抜け骨折や視神経管骨折が疑われる症例では,耳鼻咽喉科医と一緒に眼科の当直医も呼ばれます。あるときは,頭痛の患者さんで,急性緑内障発作が疑われ,眼科で当直していた時に呼ばれたこともありました(緑内障発作ではありませんでしたが……。)。このような場合,救急当直医は,いわば予診医あるいは振り分け医のような仕事をします。救急当直医での専門修練医の仕事は,血圧測定,採血,点滴あるいは簡単な処置のみで,実際に我々専門修練医が自分の専門分野を超えた診断を行ったり,処置をくだすことはまずありません。しかし,研修医の頃に麻酔科や内科をローテートしたとはいえ,全身疾患の対応に慣れていない私達眼科医にとっては,救急当直は通常の眼科当直以上にストレスのかかる勤務で,また,眠れない夜となるわけです。

臨床報告

熊本大学医学部眼科における水疱性角膜症の現況

著者: 池間宏介 ,   松本光希 ,   筒井順一郎 ,   宮嶋聖也 ,   宮川朋子 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.735 - P.738

過去13年4か月間に水疱性角膜症と診断した104例112眼を検索した。男性52例52眼,女性52例60眼,年齢は平均70.9歳であった。年度別の頻度(新規患者数)は近年増加する傾向にあり,2002年では29眼であった。原因別では,眼内レンズ35眼(31.3%),虹彩切開術18眼(16.1%),無水晶体11眼(9.8%),緑内障10眼(8.9%)などであった。虹彩切開術後の水疱性角膜症は女性に多かった。期間を1998年までの10年間と1999年からの4年間に分けた場合,眼内レンズと虹彩切開術による医原性の水疱性角膜症が増加傾向にあった。

未熟児網膜症に関する危険因子の統計学的考察

著者: 三原悦子 ,   八幡健児 ,   柿丸晶子 ,   金田周三 ,   馬場高志 ,   石倉涼子 ,   山崎厚志 ,   井上幸次 ,   玉井嗣彦

ページ範囲:P.739 - P.743

過去6年間に当院の新生児集中治療室に入院し,眼科的に検索した193例について,未熟児網膜症の危険因子を検索した。未熟児網膜症は49例(25.4%)に発症し,36例(18.7%)が重症でレーザー治療を要した。未熟児網膜症の発症と病期に有意に関連する因子は,外科治療,動脈管開存症,出生時体重,人工換気期間,在胎週数,酸素投与期間であった。未熟児網膜症に対する治療の適応に有意に関連する因子は,人工換気期間,在胎週数,外科治療,1分のApgar scoreであった。Ⅱ型網膜症の発症に有意に関連する因子は,外科治療,酸素投与期間,人工換気期間,輸血回数であった。

網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫の治療

著者: 門脇夏子 ,   横井匡彦 ,   齋藤航 ,   村松昌裕 ,   網野泰文 ,   大野重昭

ページ範囲:P.745 - P.748

網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫14眼に対する治療効果を回顧的に評価した。8眼には光凝固を行い,6眼には硝子体手術による後部硝子体膜剝離を作製した。全例で黄斑浮腫が軽快し,視力が2段階以上向上した。光凝固群は硝子体手術群よりも,発症から期間が短く,最終視力が概して良好であった。2眼では光凝固で視力が改善せず,硝子体手術で改善した。発症から7か月以内の網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対し,光凝固と硝子体手術はともに有効であると結論される。

超音波白内障手術における高頻回パルス発振の有用性

著者: 井上吐州 ,   谷口重雄 ,   西原仁 ,   中島佳子

ページ範囲:P.749 - P.752

加齢白内障93眼に超音波手術を行い,パルス発振と連続発振による超音波積算値と核処理時間を比較した。パルス発振では,連続発振よりも超音波積算値が減少した。核処理時間については毎秒15パルス(pps)の低頻回パルス発振では連続発振よりも延長し,70 ppsの高頻回パルス発振では連続発振と同等であった。オンタイムが極端に短くなると,4msecの高頻回パルス発振のほうが12msecの低頻回パルス発振よりも核処理時間が延長した。高頻回パルス発振は,ある程度のオンタイムを維持する必要があるが,超音波使用量を減少し,乳化効果を改善する可能性がある。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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