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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻7号

2005年07月発行

雑誌目次

特集 第58回日本臨床眼科学会講演集 (5) 学会原著

サルコイドーシスぶどう膜炎に対する硝子体手術

著者: 井上留美子 ,   田口千香子 ,   浦野哲 ,   河原澄枝 ,   原善太郎 ,   中村宗平 ,   吉村浩一 ,   疋田直文 ,   山川良治

ページ範囲:P.1047 - P.1051

目的:サルコイドーシスに併発したぶどう膜炎に対する硝子体手術の報告。対象と方法:過去10年3か月間に硝子体手術を行った20例26眼を対象とした。男性1眼,女性19例25眼で,年齢は21~74歳,平均58歳である。手術の適応は,囊胞様黄斑浮腫(CME)14眼,黄斑上膜5眼,硝子体混濁4眼,硝子体出血3眼である。全例に経扁平部硝子体手術を行い,有水晶体眼21眼中19眼には白内障同時手術を行った。結果:術後視力は18眼(69%)で2段階以上改善し,7眼(27%)で不変,1眼(4%)で低下した。23眼(89%)が最終視力0.1以上,13眼(50%)が0.5以上であった。14眼中12眼でCMEが再発または残存した。これら14眼中10眼でトリアムシノロンを使用した。その使用,不使用はCMEの再発または残存に差がなかったが,使用例すべてでCMEが消失し,2眼で再発がなかった。結論:サルコイドーシスに併発したぶどう膜炎に対し,硝子体手術は概して有効であったが,高頻度でCMEが再発した。これに対する対策が今後の課題である。

糖尿病患者の受診中断と遅延対策―新しい診療予約管理システムについて

著者: 松屋直樹 ,   前田恭男 ,   竹馬庸裕 ,   竹内浩二 ,   興梠卓也 ,   前田秀樹

ページ範囲:P.1053 - P.1056

目的:糖尿病患者の受診が中断または遅延しないことを目的として開発した診療予約管理システムの報告。方法と症例:本システムは,予約を管理するパソコン,2千回以上書き換えが可能なカード,カードライターからなる。過去8か月間に1,918名の外来患者のうち糖尿病患者は627名が本システムを使って受診した。延べ患者数は5,571名,1人あたりのカード発行回数は平均2.9回である。結果:5,571名中4,841名(86.9%)が予約当日に受診した。当日に受診しなかった患者は730名(13.1%)であり,以後6か月以上来院しない受診中断患者は1,918名中148名(7.7%)であった。糖尿病患者627名中41名(6.5%)が受診を中断した。結論:本診療予約管理システムは,糖尿病患者の受診中断または遅延の対策として有効であった。

みかけ上正常にみえる眼瞼下垂2症例の検討

著者: 各務寿子 ,   久保田敏信 ,   廣瀬浩士

ページ範囲:P.1057 - P.1060

目的:みかけは正常な眼瞼下垂2例の報告。症例と所見:症例はそれぞれ19歳と34歳の女性で,いずれにも前額部の皺と顎下げがあった。前頭筋を使うときの瞼裂高は,両症例とも左右それぞれ7mm,使わないときは4mmであった。上眼瞼縁から角膜頂点までの距離(margin reflex distance 1:MRD1)は,1例では両側1mm,他の1例では両側1.5mmであった。両症例とも挙筋機能は両側とも良好であり,眼瞼挙筋修復術を施行した。結果:両症例ともに,術後の眼瞼高はほとんど変化しなかったが,前額部の皺と顎下げが消失した。結論:前額部の皺と顎下げがあり,MRD1が1mm前後のときには,眼瞼下垂があっても正常に見える可能性がある。

マットレス縫合による固定を加えた羊膜移植術

著者: 永瀬康規 ,   中神哲司 ,   並木文子 ,   長野克彦 ,   西村香澄 ,   朝岡亮 ,   小出健郎 ,   青島真一 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.1061 - P.1065

実質欠損を伴う角膜穿孔6眼に,改良した手技による羊膜移植術を行い,穿孔を閉鎖した。実質欠損部に多層の羊膜を挿入するだけでなく,束ねた羊膜をマットレス縫合で固定し,さらに1枚の羊膜を表層に縫着するものである。欠損が大きな1例では,挿入した羊膜周囲の角膜に全層縫合糸を置き,羊膜が前房内に落下しないようにしてから,マットレス縫合で固定した。6眼中5例では術翌日に穿孔創が閉鎖した。欠損が大きな1眼では房水漏出が持続したが,手術の16日後に完全閉鎖した。本術式は角膜穿孔の閉鎖を確実にし,比較的大きな穿孔創にも有用であると評価される。

徳島大学眼科における内因性ぶどう膜炎の統計的観察

著者: 美馬彩 ,   賀島誠 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1067 - P.1071

目的:2003年までの3年間に受診した内因性ぶどう膜炎の種類と頻度を解析し,1991年までの9年間の状況と比較する。症例:最近3年間の148例,以前9年間の584例の内因性ぶどう膜炎初診患者を対象とした。結果:新来患者総数に占めるぶどう膜炎患者の比率は,最近3年間では1.95%,以前の9年間では1.78%であり,有意差はなかった。男女比は,最近3年間では1:1.4,以前の9年間では1:1.1で,有意差はなかった。病型分類はそれぞれ148例中64例(43.2%)と584例中306例(52.5%)で可能であった。64例の内訳は,サルコイドーシス14%,原田病12%,ベーチェット病6%であり,306例の内訳は,ベーチェット病19%,原田病12%,サルコイドーシス10%であった。結論:以前に比べ,最近ではべーチェット病が減少傾向にあり,サルコイドーシスが増加している。

サルコイドーシスの予後―眼科的見地から

著者: 中野聡子 ,   池脇淳子 ,   池辺徹 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1073 - P.1077

目的:自験例に基づき眼サルコイドーシスの予後を検索すること。対象と方法:過去22年間に当眼科を受診し,組織学的にサルコイドーシスの診断が確定した219例438眼を対象とした。91例182眼で5年間以上の経過観察ができた。視力予後に関係する因子,眼炎症の遷延化に関連する因子,重症サルコイドーシスに関連する眼病変について多変量解析を行った。結果:眼炎症の発症は438眼中266眼(60.7%)にあった。最終視力と最も強く関係した因子は初診時視力であった。眼炎症は43.6%で遷延化し,高齢,眼外病変の合併,副腎皮質ステロイドの全身投与が有意な遷延化因子であった。眼炎症の寛解例では89%が3年以内に寛解し,これ以後の消失は稀であった。眼外病変による重症サルコイドーシスでは眼病変がある例が多かった。結論:予後因子の解析はサルコイドーシスの病態を考える上で重要である。

乳頭新生血管にトリアムシノロンテノン囊下注射が奏効したぶどう膜炎の1症例

著者: 大下雅世 ,   坂井潤一 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1079 - P.1083

目的:肉芽腫性ぶどう膜炎に併発した乳頭新生血管に対し,トリアムシノロン(triamcinolone acetonide)の後部テノン囊下注射が有効であった症例の報告。症例:15か月前に左眼,6か月前に右眼にぶどう膜炎が発症した26歳女性。所見と経過:初診時の矯正視力は右眼0.2,左眼0.4であり,両眼に虹彩毛様体炎,網膜血管炎,硝子体出血,硝子体混濁,乳頭からの新生血管があった。蛍光眼底造影により無灌流域はなかった。ツベルクリン反応は陽性であった。トリアムシノロン20mgの後部テノン囊下注射を2週間ごとに4回行った。乳頭新生血管の退縮が始まり,注射開始から3か月後に視力は右眼1.0,左眼1.2に回復した。結論:ぶどう膜炎に併発した乳頭新生血管に対し,トリアムシノロンの後部テノン囊下注射が有効であった。

サイトメガロウイルス網膜炎発症を契機にHIV感染症が発見された1症例

著者: 正木究岳 ,   高島保之 ,   奥平晃久

ページ範囲:P.1085 - P.1088

54歳男性が両眼の網膜炎で紹介され受診した。8か月前に帯状疱疹を発症し,微熱が続き,極端な体重減少があった。過去5年間に中国とタイへの渡航歴があった。矯正視力は右眼0.2,左眼0.03であり,両眼に前部ぶどう膜炎,硝子体混濁,眼底の黄色白色滲出斑と血管炎があった。血漿と房水のサイトメガロウイルス(CMV)-DNAが著明に増加し,全身検索でヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体が陽性であった。HIV網膜炎と診断した。汎血球減少があり,骨髄抑制がないとされるホスカルネットによる抗CMV療法を行ったのち,HIVに対するhighly active antiretroviral therapy(HAART)を開始した。抗CMV療法は3週後にガンシクロビル内服に切り替えた。血中HIVウイルス量が減少し,1か月後に測定限界以下になった。CMV網膜炎は鎮静化し,発症から12か月後の現在まで再発はなく,右眼0.3,左眼0.1の矯正視力を維持している。CMV網膜炎を契機としてHIV感染が発見され,治療が奏効した症例である。

非球面および球面IOL挿入眼の高次波面収差の比較

著者: 比嘉利沙子 ,   清水公也 ,   飯田嘉彦 ,   五十嵐章史 ,   魚里博

ページ範囲:P.1089 - P.1093

目的:非球面と球面眼内レンズ(IOL)挿入眼の高次波面収差の解析と比較。対象と方法:白内障がある20例の両眼に超音波乳化吸引術を行い,1眼に球面IOL,他眼に非球面IOLを挿入した。高次波面収差測定で得られた全屈折をZernike多項式に展開し,コマ収差,球面収差,全高次収差を定量的に解析し,そのRMS(root mean square)を比較した。瞳孔径は3mmと5mmに設定した。結果:瞳孔径3mmでは,非球面IOL挿入眼の球面収差が球面IOL挿入眼よりも有意に低値であった。瞳孔径5mmでは,非球面IOL挿入眼の球面収差と全高次収差が球面IOL挿入眼よりも有意に低値であった。狭義の四次球面収差(C04)は,瞳孔径3mmと5mmのいずれについても,非球面IOL挿入眼のほうが球面IOL挿入眼よりも有意に低値であった(p<0.05)。結論:非球面IOL挿入眼では,球面IOL挿入眼よりも球面収差を軽減することが可能である。

広範囲の網膜有髄神経線維に発症した網膜剝離

著者: 渡辺朗 ,   神前賢一 ,   伊藤正臣 ,   保坂大輔 ,   月花環

ページ範囲:P.1095 - P.1098

目的:広範囲の網膜有髄神経線維がある眼底に発症した網膜剝離2例の報告。症例:38歳男性と43歳女性。男性例には右眼-11D,左眼-14Dの近視があった。左眼に扇状に広がる広範囲の網膜有髄神経線維があり,その両端に網膜裂孔が生じ,網膜剝離になった。硝子体手術で網膜が復位したが,有髄神経線維のある網膜と硝子体との癒着が強かった。女性例は幼少時より右眼視力が不良であった。視力がさらに低下し,黄斑円孔による網膜全剝離が発見された。4象限のそれぞれの方向に扇状の有髄神経線維があった。硝子体手術で網膜が復位したが,有髄神経線維のある網膜と硝子体との癒着が強かった。術後の眼軸長は右眼28.2mm,左眼24.3mmであった。結論:網膜有髄神経線維のある部位と硝子体との癒着が強固であり,網膜硝子体境界面に器質的変化があることが想定される。

増殖糖尿病網膜症硝子体手術後失明例の検討

著者: 早川宏一 ,   増山千佳子 ,   阿部徹 ,   山木邦比古 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.1099 - P.1103

目的:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に失明した症例の検討。対象と方法:2003年までの5年間に硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症159例216眼を対象とした。術後に失明した9例10眼と,しなかった150例206眼につき,失明に関与する要因を多変量解析(ロジスティック回帰分析)で検討した。結果:術後失明の原因は,血管新生緑内障5眼,牽引性網膜剝離3眼,視神経萎縮1眼,術後眼内炎1眼であった。術前に虹彩ルベオーシスがあること,再手術を施行したことが,それぞれ術後失明と有意に相関した。結論:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の失明には,術前の虹彩ルベオーシスの存在が関与する。

白内障硝子体同時手術におけるトリアムシノロンの有用性

著者: 原信哉 ,   桜庭知己 ,   柳橋さつき ,   安田尚子

ページ範囲:P.1105 - P.1110

白内障と硝子体同時手術を34眼に行った。内訳は,増殖糖尿病網膜症31眼,網膜静脈分枝閉塞症2眼,網膜中心静脈閉塞症1眼である。年齢は31~72歳,平均52歳である。術後3~6か月の経過を観察した。無作為に選んだ20眼では手術の終了直前にトリアムシノロン10mgを眼内に注入した。他の14眼ではトリアムシノロンを使用しなかった。術後のlogMAR視力と,光干渉断層計(OCT)で測定した中心窩厚は,術後24週までのどの時点でも両群間に有意差がなかった。白内障と硝子体同時手術でのトリアムシノロン使用が,術後の視力と中心窩厚に影響しないことを示す所見である。

眼底検診における診断補助システムの開発

著者: 佐藤伸平 ,   加藤聡 ,   福嶋はるみ ,   重枝崇志 ,   日間賀充寿

ページ範囲:P.1111 - P.1114

目的:眼底写真から病変部位を指摘するために開発したコンピュータ診断補助システムの有用性の検討。対象と方法:画角45°で撮影されたデジタルのカラー眼底写真を,健常眼223眼と単純糖尿病網膜症55眼につきそれぞれ1枚作製し検討の資料とした。撮影部位は第一眼位とした。滲出斑などの明色調病変と,出血などの暗色調病変をそれぞれ検出するソフトウェアで資料を自動判定させ,その精度を測定した。結果:明色調病変については敏感度99.9%,特異度91.9%であり,暗色調病変については敏感度92.4%,特異度73.1%であった。両病変を総合的に検出する場合には敏感度94.5%,特異度89.2%であった。結論:今回用いたコンピュータによる診断補助システムは,眼底写真のスクリーニング検査として高い精度があり,実際の検診に応用できる可能性がある。

蛍光眼底造影にて網膜静脈染を認めた網膜硝子体出血をきたした網膜動脈ループ症の1例

著者: 栗田加織 ,   河野剛也 ,   平林倫子

ページ範囲:P.1115 - P.1118

目的:網膜硝子体出血で発見された網膜動脈ループ形成症に蛍光眼底造影で発見された網膜血管異常の症例報告。症例:29歳女性が5日前からの飛蚊症で受診した。視力は右1.2,左1.5であった。右眼に硝子体出血と網膜下出血があり,蛍光眼底造影で乳頭から耳上側に向かう動脈にループ形成,その末梢部の走行異常と途絶,これと交叉する網膜静脈の口径不同と色素染があった。結論:ループを形成した動脈が交叉部で静脈を圧迫して静脈血のうっ滞が生じ,先天性に屈曲,狭細化した動脈から出血が起こった可能性がある。

両眼に胞状網膜剝離をきたした腎性網膜症の1例

著者: 北口善之 ,   斉藤喜博 ,   中江一人 ,   阪本吉広 ,   濱中紀子 ,   西田健太郎 ,   高橋睦 ,   岡田康平 ,   塩谷易之

ページ範囲:P.1119 - P.1123

目的:両眼に胞状網膜剝離が生じた腎性網膜症の症例報告。症例と経過:27歳女性が3か月前からの両眼の視力低下で受診した。3年前にネフローゼ症候群から糸球体硬化症と診断され,プレドニゾロンを8か月前まで内服していた。矯正視力は右眼0.02,左眼0.01。両眼の網膜に線状・火炎状出血,星芒状白斑,滲出,乳頭浮腫,広範な胞状網膜剝離があった。蛍光眼底造影で脈絡膜充盈欠損があり,その付近の網膜色素上皮と乳頭から色素漏出があった。腎不全,貧血,180/140mmHgの高血圧があり,血液透析を開始した。全身状態の改善に伴い網膜剝離と浮腫などが改善した。5か月後に右眼0.2,左眼0.15の矯正視力を得た。結論:重篤な胞状網膜剝離の原因として,腎不全のほか,高血圧と副腎皮質ステロイド薬の内服による網膜色素上皮障害が関与した可能性がある。

網膜剝離をきたしたStickler症候群の2例

著者: 曽和万紀子 ,   植木麻理 ,   堂島りつ子 ,   南政宏 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦 ,   佐藤文平 ,   本田恭子

ページ範囲:P.1125 - P.1129

裂孔原性網膜剝離がStickler症候群の2例2眼に起こった。いずれも男性で,年齢は20歳と32歳であった。1例には高口蓋と側彎があり,増殖性硝子体網膜症が発症していた。他の1例には口蓋裂,先天性難聴,膝内症があった。両症例に硝子体手術を行った。2例とも高度の硝子体液化と変性があり,硝子体が面状に網膜と癒着し,双手方による人工的後部硝子体剝離の作製と輪状締結術が必要であった。Stickler症候群に伴う網膜剝離は,異常な網膜硝子体癒着があり,高度な手技による硝子体手術が望ましい。

緑内障眼の白内障手術術後眼圧変化

著者: 加賀郁子 ,   稲谷大 ,   柏井聡

ページ範囲:P.1131 - P.1133

目的:緑内障眼に白内障手術を行った後の眼圧変動の検討。症例と方法:過去7年3か月間に白内障手術を行った原発開放隅角緑内障(POAG)92眼と落屑症候群40眼を対象とした。全例が点眼による術前眼圧が21mmHg以下で,平均眼圧はPOAG群では15.6±3.0mmHg,落屑症候群では14.9±2.7mmHgであった。白内障手術では,すべて超音波水晶体乳化吸引と眼内レンズ挿入を行った。3か月以上,平均29か月の術後経過観察を行った。結果:術後の最終眼圧は,POAG群では16.0±5.1mmHgであり,術前値と有意差がなかった(p=0.44)。落屑症候群では13.1±3.1mmHgであり,術前よりも低下していた(p=0.0013)。術後の眼圧コントロール不良は,POAG群で9眼,落屑症候群で1眼あった。これら10眼では,コントロール良好眼よりも術前眼圧値が有意に高く,後囊破損の合併が有意に多かった。結論:落屑症候群では白内障手術後に眼圧が低下する。POAGと落屑症候群で術後眼圧が上昇する危険因子は,術前の高眼圧と術中の後囊破損である。

3次元光干渉断層計であるOCTオフサルモスコープによる緑内障性視神経障害の解析

著者: 宮内修 ,   溝田淳 ,   本田美樹 ,   田中稔 ,   岡本祥正 ,   村上晶

ページ範囲:P.1135 - P.1139

目的:走査レーザー検眼鏡(SLO)と光干渉断層計(OCT)を組み合わせた3次元検眼鏡による緑内障性視神経障害の解析の報告。対象と方法:緑内障がある10眼と正常眼5眼を対象とした。SLOとOCTには,SLOに内蔵した近赤外レーザー光を用いた。B-scanによる眼底断層像測定と3次元測定画像(topography)を行い,通常のOCT画像と比較した。結果:B-scanによる乳頭の形状解析では,従来のOCTと同じような分解能と測定時間で,緑内障性視神経障害の有無と程度が判定できた。3次元測定画像では乳頭の疑似カラー3次元表示ができ,立体的な評価がしやすく,乳頭の断層像の深さに関する諸情報が連続的に得られた。結論:3次元OCT検眼鏡による乳頭の観察は緑内障の診断と経過観察に有用と考えられる。

陳旧期で診断されたLeber視神経症の1例

著者: 住岡孝吉 ,   雑賀司珠也 ,   大西克尚

ページ範囲:P.1141 - P.1144

15歳男性が両眼の視力と視野障害で紹介され受診した。6歳の時から視力の低下と回復を繰り返しながら次第に増悪し,視神経萎縮と診断されていた。受診時の矯正視力は右眼0.08,左眼0.4であった。両眼に視神経萎縮があり,蛍光眼底造影で乳頭と網膜血管の異常はなかった。両眼に中心暗点があった。病状の経過と検査所見からLeber視神経症が疑われ,承諾を得た上で遺伝子検査を行った。ミトコンドリアDNA11778番塩基対の点突然変異が検出され,Leber視神経症の診断が確定した。発症から長期間を経て診断された症例である。

木片異物による眼窩先端部症候群

著者: 岡崎嘉樹 ,   平岩貴志 ,   西田有紀 ,   大川絢子 ,   堀健二 ,   大石恵理子

ページ範囲:P.1145 - P.1148

37歳男性が酩酊して転倒し,左顔面を強打した。左眼瞼下垂が生じ,受傷から2日後に受診した。矯正視力は右眼1.0,左眼0.05であった。左眼には瞳孔散大,全方向への眼球運動障害,眼瞼下垂があった。CTで左眼の耳側から海綿静脈洞に達する低濃度の棒状陰影があった。異物による眼窩先端部症候群と診断し,経頭蓋的に異物を摘出した。異物は長さが7cmの木片であった。動眼神経麻痺は残存したが,6か月後の矯正視力は0.8に回復した。視神経に直接の損傷がなく,異物を早期に摘出したので良好な視力回復が得られたと推定される。

両側涙腺のMALTリンパ腫の1例

著者: 竹澤美貴子 ,   小幡博人 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1149 - P.1152

目的:MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫が両側涙腺に生じた症例の報告。症例と所見:65歳,男性。5年前から右上眼瞼の腫脹があり,1年前から左上眼瞼が腫脹し,受診した。両側の上眼瞼が腫脹し,その耳側に弾性硬の腫瘤が触知できた。磁気共鳴画像検査(MRI)で両側の涙腺に著しい腫大があった。左右涙腺それぞれの生検の結果,両側ともにMALTリンパ腫であった。サザンブロットによる遺伝子再構成の検索で,左右とも同じ遺伝子再構成バンドが認められ,同一のクローンによる腫瘍と判断した。臨床経過から右涙腺MALTリンパ腫が左涙腺に転移したと考えられた。全身検索で頸部への転移と骨髄浸潤が発見され,第4期と判定された。結論:両側性のMALTリンパ腫があるときには,単クローン性の確認と,クローンのパターンを知るために,遺伝子再構成の検索をすることが望ましい。

脈絡膜腫瘍像を呈した後部強膜炎の1例

著者: 横山勝彦 ,   木許賢一 ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫 ,   今泉雅資

ページ範囲:P.1153 - P.1156

66歳女性の右眼に変視症と飛蚊症が生じ,眼底に隆起性病変が発見された。脈絡膜腫瘍の疑いで,病状自覚から4週後に紹介され受診した。矯正視力は右眼0.8,左眼1.2であり,右眼眼底の右上方に,褐色の隆起性病変があった。大きさは5乳頭径×5乳頭径であり,脈絡膜皺襞と滲出性網膜剝離を伴っていた。超音波Bモードと光干渉断層計(OCT)で網膜下の隆起性病変が描出された。磁気共鳴画像検査(MRI)は腫瘤が眼内にあることを示した。初診から17日後にMRIで腫瘤は縮小化し,2か月後には腫瘤は消失していた。その6週後に右側頭部痛と右変視症が生じた。血沈が亢進し,CRPが陽性であるために側頭動脈炎と診断された。プレドニゾロンの大量療法が奏効した。後部強膜炎が脈絡膜腫瘍の原因であると推定した。

糖尿病に併発した内頸動脈閉塞症による血管新生緑内障に対し臼井法を施行した1例

著者: 山城博子 ,   手納朋子 ,   岩崎琢也 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1157 - P.1161

目的:毛様体光凝固を内頸動脈閉塞症による新生血管緑内障に対して行った症例の報告。症例:71歳男性で20年前から糖尿病があった。白内障と前増殖糖尿病網膜症があり,両眼に白内障手術と眼内レンズ挿入術を行い,汎網膜光凝固を施行した。その8か月後に虹彩ルベオーシスが左眼に起こり,両側の内頸動脈狭窄が発見された。周辺虹彩前癒着があり,網膜光凝固の追加は無効で,左眼の眼圧が28~33mmHgの範囲にあった。アルゴンレーザーによる経強膜的毛様体光凝固を臼井法により実施した。以後14か月の現在まで虹彩ルベオーシスはなく,眼圧は12~15mmHgに維持されている。結論:内頸動脈閉塞症による新生血管緑内障に対し,臼井法が奏効することがある。

角膜異物を契機として心因性視力障害をきたしたブラジル国籍成人の2症例

著者: 山田晴彦 ,   山田英里

ページ範囲:P.1163 - P.1167

角膜異物後の視力障害がブラジル国籍の男性2名に起こった。年齢は44歳と35歳である。1例は右眼の視力障害で受診し,矯正視力は右眼0.04,左眼1.0であった。右眼に+4.75D,左眼+3.5Dの遠視があり,遠視が右眼の視力障害の原因と判断した。その後左眼に金属異物が飛入し,その翌日に受診した。異物を除去した数日後に左眼矯正視力が0.08に低下した。作業場でストレスがあり,これによる心因性視力障害と診断した。就労関係の問題が解決され,受傷から6か月後に視力は1.0に回復した。他の1例は右眼角膜異物で受診した。その1か月後の矯正視力は右眼0.9,左眼1.2であったが,頭痛などの問題から就労を拒否された。さらに2か月後に矯正視力は右眼0.2,左眼0.15になった。ゴールドマン視野測定で管状視野が検出された。日本人妻との問題が関係する心因性視力障害と診断した。その後家庭内問題が解決し,視力は左右眼とも1.0に回復した。2症例とも外国人であり,日本語が不自由なために心的ストレスが生じ,心因性視力障害になったと判断した。視力障害の回復にはカウンセリングが寄与した。

連載 今月の話題

視神経炎とそれと酷似する疾患

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.1025 - P.1031

視神経炎は,一般に特発性視神経炎を指し,診断にあたっては他の視神経症を除外する必要がある。正しい診断を得るには,所見が類似する他疾患,特に最近知られてきた新しい視神経症への知識が必要である。本稿では,視神経炎とそれに臨床所見が類似して間違われやすい疾患を取り上げて考察したのち,視神経炎の治療について最近の知見を紹介する。

眼の遺伝病71

PRPF31遺伝子異常と網膜変性(1)

著者: 佐藤肇 ,   和田裕子

ページ範囲:P.1032 - P.1035

PRPF31遺伝子は,酵母のpre-mRNAスプライシング遺伝子PRP31のヒトホモログである。網膜のほかに脳,心臓,筋,肝臓,腎臓,腸,血液など多くの組織で発現している。2001年にVithanaら1)によってPRPF31遺伝子異常によって常染色体優性網膜色素変性が生じることが報告されている。今回からのシリーズは,PRPF31遺伝子異常とその臨床像について報告する。

 症 例

 [症例1]45歳,女性(図1,Ⅲ-2)

 主訴:視力低下,視野狭窄

 家族歴:祖父,おば,妹,弟,子,姪が網膜色素変性(図1)。

 現病歴:幼少時から夜盲を自覚していた。30歳頃から下方が見えにくいため,1989年に東北大学病院を初診している。当時の視力は,両眼ともに1.0であり,ゴールドマン動的量的視野検査で輪状暗点を認めた。1996年まで定期的な受診をしていた。2003年に視力低下と視野狭窄を訴え,再来した。

日常みる角膜疾患28

神経麻痺性角膜症

著者: 近間泰一郎 ,   川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1036 - P.1039

症 例

 患者:48歳,女性

 主訴:左眼の充血,視力障害

 現病歴:1996年2月15日に左三叉神経痛に対して神経血管減圧術を受け,術後約1か月頃より上記症状を自覚し,近医を受診した。角膜の知覚低下および遷延性角膜上皮欠損を認めたため神経麻痺性角膜症と診断された。フィブロネクチン点眼および抗生剤の点眼や眼軟膏および強制閉瞼により加療されいったん軽快していたが,強制閉瞼を解除すると上皮欠損が再発してくるため,精査および加療目的で1996年6月5日,当科を紹介され受診となった。

 初診時所見:視力は右眼1.0(矯正不能),左眼0.2(矯正不能),眼圧は右眼10mmHg,左眼6mmHgであった。左眼に軽度の結膜充血および角膜中央部に高度の点状表層角膜症(SPK,AD分類:A2D3)を伴った角膜びらんがみられた(図1)。前房内に炎症所見はなく,中間透光体,眼底には特に異常所見はみられなかった。角膜知覚検査では,左眼角膜の著しい知覚低下を認めた(右眼50mm,左眼10mm以下)。涙液分泌試験(シルマーⅠ法)では両眼ともに涙液分泌の低下は認められなかった。眼位,眼球運動および開瞼・閉瞼などの眼瞼機能は正常であった。

眼形成手術手技5

涙道洗浄と涙道造影

著者: 野田実香

ページ範囲:P.1041 - P.1046

涙道洗浄(以下,涙洗)は,患者に痛みを与えずに行いたいものである。特に閉塞のない患者の場合には,点眼麻酔を用いなくてもほとんど苦痛を感じさせずに終了することができる。

  痛くない涙洗の手技

 点眼麻酔も看護師も必要としない手技がある。次の事項に注意して涙洗を行う。

他科との連携

全身疾患とのかかわり

著者: 今村ひろみ

ページ範囲:P.1198 - P.1199

現在,視神経・ぶどう膜炎を専門にさせてもらっている関係で,担当する患者さんの大部分が背景に全身疾患のある症例のように思います。毎回,関連する各専門科の先生方にいろいろとご指導頂きながら診療にあたっており,日々非常に有難く思っているのですが,ときに疾患に対する認識に温度差を感じて戸惑うこともあります。私が経験したそのような症例をいくつかご紹介します。

 57歳の男性が,人工心肺下に心臓バイパス術を受けてICUに入り,術後数日目の意識回復時より,両眼の視力低下を自覚し当科を受診されました。視力は両眼とも指数弁で,20年来放置の糖尿病がありました。眼底には広汎な無灌流野を伴った糖尿病網膜症があり,両視神経乳頭は蒼白浮腫を呈していました。中心暗点を示す視野所見,眼底造影所見などと合わせて両眼の虚血性視神経症と診断し,発症は循環器系疾患と糖尿病を背景に人工心肺下の血圧変動が契機になったと考えました。すぐに執刀科の主治医と連絡を取り,ステロイドパルス療法を施行しましたが,中心暗点は残存し最終視力は両眼0.02程度でした。虚血性視神経症は一般に予後不良なので深刻な術後合併症であると考え,眼科的にはかなり慎重にムンテラしながら治療にあたったのですが,稀なケースでもあり,執刀した外科主治医側ではあまり医原性疾患としては認識されていなかったようでした。退院後,全身的には順調に回復されて外来通院を続けておられ,ご家族ともに生命にかかわる事態を回避できたことを喜ばれていましたが,やはり視力を失ったことは心残りのようでした。一方は患者さんの生命を救うという重要な使命を負う立場,他方われわれは直接生命にかかわることは滅多になくQOLの向上を主な使命とする立場であり,当然ではありますが同じ患者さんを前にして疾患に対する認識が随分ちがうものだと改めて感じたケースでした。

臨床報告

ステロイドパルス療法が奏効した両眼同時発症の特発外眼筋炎の1例

著者: 鳥巣貴子 ,   田中雄一郎 ,   徳田晶子 ,   高階博嗣 ,   杉本朝子 ,   神前あい

ページ範囲:P.1177 - P.1181

42歳女性が2週間前からの両眼の眼瞼腫脹,結膜浮腫,眼痛,複視で受診した。第一眼位は正位であったが,両眼とも全方向に眼球運動制限があった。CTで両眼の4直筋に顕著な肥大と眼球突出があり,外眼筋炎と診断した。メチルプレドニゾロンのパルス療法で翌日から眼球突出と結膜浮腫が軽減し,続いて4直筋の肥大が減少し,1か月後に眼球運動制限が消失した。以後10か月間の現在まで外眼筋炎の再燃はない。外眼筋炎に対する早期のステロイドパルス療法が著効を示した1例である。

改良版アデノチェック(R)の臨床的検討

著者: 有賀俊英 ,   三浦里香 ,   田川義継 ,   大橋勉 ,   中川尚 ,   岡本茂樹 ,   日隈陸太郎 ,   安里良盛 ,   金子久俊 ,   石古博昭 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1183 - P.1188

免疫クロマトグラフィでヒトアデノウイルス(HAdV)を迅速に診断するキットとして,アデノチェックTMが1997年に開発された。特異度は優れているが,感度がやや低いために,その改良版が試作された。現行版と改良版について,その感度を比較した。対象はウイルス性結膜炎が疑われた患者の結膜擦過物102検体のうち,分離培養でHAdVが証明された68検体である。アデノチェックTM現行版で33検体(48.5%),改良版で50検体(73.5%)が陽性であり,有意差があった(p<0.01)。現行版と改良版がともに陽性であった32例でのウイルスコピー数は3.1×107コピー,改良版陽性で現行版陰性の18検体では3.4×106コピー,両者ともに陰性の17検体では1.7×105コピーと有意にコピー数が減少した。改良版のほうがコピー数が有意に低い検体でも検出が可能であった。改良版アデノチェックTMは現行版より感度が高いと結論される。

アデノウイルス迅速診断キット「キャピリア®アデノ」の検討

著者: 大口剛司 ,   有賀俊英 ,   三浦里香 ,   島田康司 ,   中島晴彦 ,   田川義継 ,   大橋勉 ,   石古博昭 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1189 - P.1192

免疫クロマトグラフィでヒトアデノウイルス(HAdV)を迅速に診断するキャピリアTMアデノの感度と迅速診断キットとしての有用性を検索した。対象はウイルス分離培養とPCR法でHAdVが検出された113検体である。キャピリアTMアデノでは75検体(66.4%)が陽性と判定された。HAdV-37については41検体中23検体(56.5%)が陽性と判定され,陽性率がやや低かったが,他の血清型と有意差はなかった。病日別では結膜炎の発症から第5病日以降で陽性率が低かった。キャピリアTMアデノでの陽性例では,HAdV-DNAのコピー数が有意に高かった。最小検出感度は7.0×104コピー/mlであった。キャピリアTMアデノはHAdV結膜炎の迅速診断に有用なキットであると結論される。

鹿児島県における網膜色素変性患者の医療相談

著者: 吉村清利 ,   伊佐敷靖 ,   田中実 ,   岡部伯央 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1193 - P.1197

過去4年6か月間に,鹿児島県で特定疾患として認定された網膜色素変性83例に医療相談を行った。男性45例,女性38例で,相談時の年齢は23~84歳,平均60.2歳であった。疾患の内訳は,70例が定型網膜色素変性,7例が区画型網膜色素変性,6例が網膜色素変性の類縁疾患であった。定型網膜色素変性のうち,36例で遺伝形式が推定でき,32例が常染色体劣性遺伝,4例が常染色体優性遺伝であった。主な不自由な状況として,視野狭窄,視力障害,夜盲,およびこれらに関連する歩行障害が挙げられた。相談の6割以上が治療法と予後についてであった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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