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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

特集 第58回日本臨床眼科学会講演集 (6) 特別講演

硝子体手術の進歩を振り返って

著者: 樋田哲夫

ページ範囲:P.1252 - P.1259

経毛様体扁平部硝子体手術(pars plana vitrectomy:PPV)が初めて行われてから35年が経過した。硝子体手術器機の発達と術式の変遷を初期からみてきた立場から,講演ではその進歩を振り返りつつ,これまで学んできたこと,現時点での筆者の考えを述べた。本稿ではその要旨を述べる。

学会原著

硝子体手術時にインドシアニングリーンの網膜下迷入を生じ長期間経過観察できた1例

著者: 村上智貴 ,   山下啓行 ,   山田喜三郎 ,   松本惣一セルソ ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1263 - P.1266

目的:硝子体手術中にインドシアニングリーン(ICG)が網膜下に迷入し,34か月間経過を追跡した症例の報告。症例:86歳女性の左眼に黄斑前膜と黄斑円孔があり,広さ2乳頭径の網膜剝離が併発していた。矯正視力は0.2で,強い屈折異常はなかった。経過:超音波水晶体乳化吸引術,硝子体手術,眼内レンズ挿入術,液空気置換を行った。網膜剝離は復位せず,2週間後に再び硝子体手術を行った。内境界膜をICGで染色した際にICGが円孔から網膜下に迷入し網膜剝離が拡大した。ただちに網膜下腔を繰り返し灌流した。網膜は復位し黄斑円孔は閉鎖した。網膜下のICGは境界明瞭な緑色を呈し自発蛍光を発していた。3か月後に境界鮮明な網膜萎縮になった。光干渉断層計(OCT)で網膜が菲薄化していた。ERGの振幅が減弱し,視野は固視点を含む鼻側半分が欠損していた。34か月の現在,矯正視力は0.02である。結論:網膜下に迷入したICGは長期間残存し,重篤で永続的な網膜色素上皮と感覚網膜の障害が生じた。

網膜中心静脈閉塞症に放射状視神経切開術を施行した7例

著者: 広崎嘉紀 ,   宮本秀樹 ,   柴宏治 ,   西尾恵里 ,   岩間大輔

ページ範囲:P.1267 - P.1272

網膜中心静脈閉塞症7例7眼に放射状視神経切開術を行った。5眼が虚血型,2眼が非虚血型であり,男性6例,女性1例で,年齢は56~74歳(平均67歳)であった。視力は0.01~0.4であった。白内障硝子体同時手術の後,乳頭鼻側を放射状に切開した。3~18か月(平均10.7か月)の観察で,6眼で最終視力が2段階以上改善した。視力は4眼で0.5以上,3眼では0.1未満であった。これら3眼は虚血型で,囊胞様黄斑浮腫が遷延した。5眼で網膜静脈の拡張と蛇行が改善し,3眼で穿刺部位に網脈絡膜静脈吻合が生じた。術中・術後の重篤な合併症はなかった。放射状視神経切開術は網膜中心静脈閉塞症に対して有用であると結論される。

網膜静脈分枝閉塞症に対する光凝固後のレーザー誘発性脈絡膜新生血管の2例

著者: 入山彩 ,   小畑亮 ,   柳靖雄 ,   玉置泰裕

ページ範囲:P.1273 - P.1275

網膜静脈分枝閉塞症に対する光凝固後に脈絡膜新生血管(CNV)が2例2眼に発症した。症例は57歳と63歳女性で,網膜静脈分枝閉塞症に続発した黄斑浮腫に対し,レーザーによる格子状光凝固を受けていた。光凝固から新生血管までの期間は,それぞれ7年と8年であった。新生血管は光凝固斑の縁に接し,古典的新生血管(classic CNV)の形を呈していた。前医による情報では,光凝固後の矯正視力はそれぞれ0.8と1.0であり,新生血管発症後の視力は0.15と0.04であった。両症例に対して新生血管抜去術を行ったが術後視力は不良であった。両症例とも,光凝固が脈絡膜新生血管の発症に関与した可能性がある。

小児白内障手術における後発白内障の検討

著者: 白谷徹 ,   比嘉利沙子 ,   清水公也 ,   藤澤邦俊 ,   石川均

ページ範囲:P.1277 - P.1280

目的:小児での白内障手術後に生じる後囊混濁の検討。対象:過去5年9か月間に手術を行った小児13例21眼を対象とした。手術時の年齢は6か月~15歳であり,全例に眼内レンズ挿入を行った。経過観察期間は1~50か月,平均18か月である。結果:片眼の先天白内障で弱視治療中の3眼以外の18眼では0.8以上の術後矯正視力を得た。Optic captureを行った17眼と後囊切開のみを行った2眼では後発白内障は起こらなかった。これ以外の2眼では後発白内障が生じた。結論:Optic captureは小児白内障手術後の後発白内障の予防に有効である。

柳川リハビリテーション病院におけるロービジョンケア 第10報.ロービジョンケアにおける眼科主治医の役割―レーベル遺伝性視神経症の場合

著者: 高橋広 ,   山田信也

ページ範囲:P.1281 - P.1286

目的:病気が治ることを患者は熱望するが,レーベル視神経症のように治癒しない疾患がある。これに対する適切なケアを早期に実施するための眼科主治医の役割を明らかにする。対象:過去5年間に受診したレーベル視神経症6名を対象とした。すべて男性で,年齢は1名が47歳,他は24歳以下であった。発症から半年~7年後に受診した。結果:症状や障害が固定することは知らず,疾患治癒への希望が強かった。ロービジョンケアは心のケアから始め,保有視覚を活用し,文字処理の改善を図り,就学・就労の相談にも応じた。結論:日常生活を改善するためのロービジョンケアが必要なことを眼科主治医から伝えることが肝要である。これにより障害の受容を促進し,その後のケアを容易にしQOLを向上させることが期待できる。

ディフ・クイック(R)染色による塗抹検査が有用であった真菌性角膜潰瘍の3例

著者: 小幡博人 ,   青木由紀 ,   久保田みゆき ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1287 - P.1291

目的:ディフ・クイック(R)染色による塗抹検査で迅速に診断できた真菌性角膜潰瘍3例の報告。症例:症例は57歳女性,59歳男性,66歳男性である。発症はいずれも片眼性であり,1~3週間前に角膜潰瘍と診断された。抗菌薬やステロイド薬による治療が奏効せず,当科を紹介され受診した。結果:起炎菌を同定するため,病巣部の培養と,ディフ・クイック(R)染色による塗抹検査を行った。3眼すべてに塗抹の鏡検で糸状の真菌がみられ真菌性角膜潰瘍と診断した。ピマリシン眼軟膏による治療で全例が1か月以内に治癒した。培養でFusarium属が1例に検出された。他の2例では陰性であった。結論:感染性角膜潰瘍では,培養だけでなく,ディフ・クイック(R)染色などによる塗抹検査で細菌性か真菌性かを迅速に判断することが必要である。

網膜剝離を伴う未熟児網膜症に対する硝子体手術

著者: 藤井清美 ,   日下俊次 ,   下條裕史 ,   大下貴志 ,   喜田照代 ,   岩橋佳子 ,   張野正誉 ,   初川嘉一

ページ範囲:P.1293 - P.1297

目的:重症未熟児網膜症に対する硝子体手術の評価。症例:過去3年間に硝子体手術を行った未熟児網膜症9例14眼を対象とした。在胎期間は23~27週,出生時体重は466~1,055g(平均657g)であり,初回手術時の月齢は3~12か月(平均5.3か月)であった。網膜症は2眼が4B期,12眼が5期であった。13眼にはclosed vitrectomy,角膜混濁がある1眼にはopen-sky vitrectomyを行った。結果:網膜の復位は7眼(50%)で得られ,すべて初回手術後であった。7眼では復位しなかった。結論:重症未熟児網膜症への硝子体手術で50%の復位率が得られた。さらに改善の必要があるが,硝子体手術は網膜剝離を伴う未熟児網膜症に有用である。

先天性外涙囊瘻の小学校健診における発現率

著者: 飯田文人

ページ範囲:P.1299 - P.1301

静岡市の小学校での健康診断で,先天性外涙囊瘻の頻度を調べた。対象は4校の児童1,815名で,同じ眼科医が視診,触診,手持ち細隙灯顕微鏡で診察した。先天性外涙囊瘻を30名(1.65%)に認めた。両眼性3名,片眼性27名で,男子15名,女子15名であった。学校別の頻度は1.25~1.79%の間にあった。先天性外涙囊瘻による症状は皆無であり,皮膚瘻孔の自覚もなかった。耳瘻孔の併発が2名,涙囊圧迫で皮膚瘻孔から透明な涙液が逆流するものが19名あり,膿逆流はなかった。本調査は,日本での先天性外涙囊瘻の発現率のめやすとなる。

白内障硝子体同時手術時の前房水・硝子体液細菌検出率

著者: 中静裕之 ,   島田宏之 ,   菅谷哲史 ,   川口敦里 ,   北川貴子 ,   後藤亜希 ,   荒井真司

ページ範囲:P.1303 - P.1306

目的:白内障硝子体同時手術で採取された前房水と硝子体からの細菌検出率を検索し,硝子体システムとして従来の20ゲージ(G)と25Gを使った際の検出率の差を比較する。対象と方法:10か月間に白内障硝子体同時手術を行った213眼を対象とし,手術終了時に採取した前房水と硝子体液を培養した。85眼に20Gシステム,128眼に25Gシステムを用いた。結果:細菌検出率は前房水2.0%,硝子体液1.9%であった。前房水と硝子体の双方からの培養が陽性である症例はなかった。20Gシステムでは硝子体液から1.2%に,25Gシステムでは2.3%に細菌検出を認めた。結論:白内障硝子体同時手術では眼内への細菌侵入の機会が2倍になる。硝子体液からの細菌検出率において20Gシステムと25Gシステムの間に差はなかった。

急性前部ぶどう膜炎を眼症状としたライター症候群の1例

著者: 森井香織 ,   水澤志保子 ,   田口浩司 ,   山中昭夫

ページ範囲:P.1307 - P.1311

24歳男性が3週間前からの左眼の充血と疼痛で受診した。2年前に尿道炎,その2か月後に右膝関節炎と診断されている。矯正視力は右1.5,左0.3であり,左眼前房蓄膿を伴う炎症所見があった。既往歴からライター症候群を疑い,HLA-B27が検出された。入院中の診察で尿道炎はなく,関節炎もなかった。治療により前部ぶどう膜炎は12日後に寛解した。わが国でのライター症候群の報告は107例しかなく,眼合併症の記載はさらに少ない。本症が疑われた場合の治療方針を合わせて提案する。

沖縄の超音波白内障手術におけるソフトシェル法の角膜内皮保護効果

著者: 我謝猛 ,   長嶺紀良 ,   池原正康 ,   澤口桂子 ,   中村秀夫 ,   早川和久 ,   上門千時 ,   新城百代

ページ範囲:P.1313 - P.1316

目的:沖縄県人には浅前房が多く,白内障手術で角膜内皮障害の危険が大きいため,ソフトシェル法の内皮障害保護効果を検討した。対象:4年間に超音波白内障手術を行った1,015眼のうち,術後3か月目に角膜内皮細胞密度を測定できた450眼を対象とした。ソフトシェル法を181眼,単独凝集型粘弾性物質を269眼に用いた。結果:角膜内皮細胞減少率は,ソフトシェル群が8.6%,単独凝集型粘弾性物質群が12.6%であり,有意差があった(p=0.02)。核硬度がEmery-Little分類の1~3度の422眼ではそれぞれ7.6%と12.3%であり,有意差があった(p=0.03)。浅前房182眼ではそれぞれ8.9%と16.2%であり,有意差があった(p=0.02)。ストレスインデックスはそれぞれ33.3と49.2であり,両群間に有意差があった(p=0.02)。核硬度が1~3度の症例ではそれぞれ31.1と47.1であり,両群間に有意差があった(p=0.03)。浅前房眼ではそれぞれ35.7と77.3であり,有意差があった(p=0.03)。結論:白内障手術でのソフトシェル法は浅前房眼と核硬度が1~3度の眼に対し角膜内皮保護効果がある。

前囊染色インドシアニングリーンが硝子体中に迷入した1例

著者: 三宅太一郎 ,   三田実千代 ,   目加田篤

ページ範囲:P.1317 - P.1320

目的:白内障手術中に多量のインドシアニングリーン(ICG)が硝子体に迷入した症例の報告。症例:52歳男子で,4年前に右眼の網膜剝離手術を受けている。右眼の皮質白内障が進行し視力が0.03になり,白内障手術を受けた。角膜内皮細胞数は術前2,739/mm2であった。結果:手術では前房を粘弾性物質で置換し,ICG溶液を前房に注入した。前房を洗浄し,前房に粘弾性物質を再注入してソフトシェル法下で前囊を切開し,超音波白内障吸引術を行った。その際に瞳孔の奥が暗く,倒像鏡で眼底の透見が困難であり,ICGが硝子体に迷入したことが確認できた。硝子体手術でICGで染色された硝子体をほぼ完全に切除した。ICGによる網膜の染色はなかった。術後3日目に1.5の矯正視力を得た。以後18か月後の現在まで,白色閃光による網膜電図と視野に異常はなく,角膜内皮細胞数は2,517/mm2である。結論:硝子体にICGが迷入したことで,視力を含む経過には18か月間異常が起こらなかった。硝子体に迷入したICGは0.5mgであったと推定される。

輪状締結したシリコーンバックルが上直筋を侵蝕し脱出した1例

著者: 木下太賀 ,   櫻井寿也 ,   竹中久 ,   真野富也 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.1321 - P.1324

69歳男性の右眼網膜剝離に対して手術を行った。裂孔は11時~1時の赤道部にあった。輪部の2mm後方で結膜を全周切開した。硝子体を切除し硝子体腔を空気で置換した。裂孔部に冷凍凝固を行い,10時から4時まで幅6mmのシリコーンバックル(MIRA,#220SB)を強膜に縫着した。さらに幅2.5mmのシリコーンバンド(#240EB)を4時と8時の強膜トンネルに通し輪状締結した。20%のSF6ガスを硝子体腔に注入し手術を終えた。網膜剝離は復位し,眼圧は13mmHg以下に維持されていた。約6年後に,10時~2時の範囲にシリコーンバックルがシリコーンバンドとともに結膜外に露出した。除去手術のとき上直筋は萎縮し,視認できなかった。磁気共鳴画像検査(MRI)で上直筋と強膜が癒着していた。シリコーンバックルが前方に偏位し上直筋を侵蝕したと考えられた。

網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術成績

著者: 長澤利彦 ,   内藤毅 ,   賀島誠 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1325 - P.1328

過去47か月間に29例30眼の網膜静脈分枝閉塞症に対し硝子体手術を行った。年齢は52~83歳(平均66歳)であり,推定発症から手術までの期間は13か月以内に限定した。手術の目的は,黄斑浮腫,硝子体出血,黄斑上膜であった。硝子体出血8眼と黄斑上膜1眼ではすべて視力が改善した。黄斑浮腫21眼では視力改善13眼(62%),不変5眼(24%),悪化3眼(14%)であった。晩期の網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術は概して有効であると結論される。

妊娠初期に網膜動脈分枝閉塞症をきたした1例

著者: 赤塚俊文 ,   朝比奈恵美

ページ範囲:P.1329 - P.1332

妊娠12週の31歳女性の右眼に網膜動脈分枝閉塞症が発症した。16か月前から黄体ホルモンと胎盤性性腺刺激ホルモンによる不妊治療を受けていた。矯正視力は右1.0,左1.2であり,右眼の網膜上半分が乳白色に混濁していた。C反応性蛋白と抗核抗体が陽性で,抗カルジオリピン抗体,プロテインC,ループス性抗凝固因子は正常範囲であった。下肢静脈エコー,心エコー検査は正常であった。黄体ホルモンのエストロゲン作用や胎盤性性腺刺激ホルモンの副作用として血栓形成と脳梗塞が挙げられている。今回の網膜動脈分枝閉塞症の発症に不妊治療薬が関与している可能性がある。

網膜中心静脈閉塞症に対する硝子体手術の検討

著者: 吉田慎一 ,   内藤毅 ,   賀島誠 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1333 - P.1335

目的:網膜中心静脈閉塞症に対する硝子体手術で,放射状視神経乳頭切開の併用例と非併用例の比較。対象:過去14か月間に硝子体手術を行い,3か月以上の経過を観察した網膜中心静脈閉塞症9例9眼を対象とした。発症後1~4か月の4眼には,硝子体手術に放射状視神経乳頭切開を併用した。発症後3~15か月の5眼にはこれを併用しなかった。結果:併用群での術後視力は改善3眼,不変0,悪化1眼であり,非併用群では改善1眼,不変3眼,悪化1眼であった。囊胞様黄斑浮腫(CME)は9眼中7眼で残存した。結論:放射状視神経乳頭切開は比較的安全な術式であり,網膜中心静脈閉塞症に対して奏効する可能性がある。

トリアムシノロン経テノン囊球後注入に対する患者満足度の検討

著者: 佐久間浩史 ,   小豆澤美香子 ,   樋口亮太郎

ページ範囲:P.1337 - P.1340

目的:黄斑浮腫に対するトリアムシノロンの経テノン囊球後1回注入の成績と患者の満足度の評価。対象と方法:過去6か月間にこの方法による治療を行った16例20眼を対象とした。内訳は,網膜静脈分枝閉塞症6例6眼,網膜中心静脈閉塞症2例2眼,糖尿病黄斑浮腫7例10眼,サルコイドーシス1例2眼である。自覚症状の改善や満足度をアンケートで調査した。結果:自覚症状の改善は86%,注入に対する満足は79%,再加療の希望は72%であった。黄斑浮腫は90%,視力は55%で改善し,合併症はなかった。結論:黄斑浮腫に対するトリアムシノロンの経テノン囊球後注入で高い患者の満足度が得られた。重篤な合併症はなかった。

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術のトリアムシノロン併用効果の検討

著者: 有冨紘子 ,   藤川亜月茶 ,   井内足輔 ,   今村直樹 ,   小川月彦 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1341 - P.1344

目的:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術中でのトリアムシノロン(triamcinolone acetonide)の併用効果の検討。症例:過去21か月間に硝子体手術を行った糖尿病黄斑浮腫17例21眼を対象とした。10眼にトリアムシノロンを併用し,11眼に併用しなかった。有水晶体眼では全例に水晶体摘出を行った。年齢は併用群62.6±13.5歳,非併用群59.2±10.8歳であり,併用群で6.8±3.7か月,非併用群で12.0±4.8か月の術後経過を観察した。結果:術後視力は両群で改善傾向があった。術後最終視力は併用群で非併用群よりも有意に高かった。術後最高視力に到達するまでの期間は併用群と非併用群とで有意差がなかった。術後最高視力は両群間に有意差がなかった。結論:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術中でのトリアムシノロン併用により,術後最高視力は改善するが最終視力には影響しない。

網膜色素上皮下出血から生じた網膜色素上皮裂孔の2例

著者: 久保木香織 ,   永井由巳 ,   髙橋寛二 ,   正健一郎 ,   松村美代

ページ範囲:P.1345 - P.1350

出血性網膜色素上皮剝離(出血性RPE剝離)に網膜色素上皮裂孔(RPE裂孔)が続発した2症例を経験した。59歳女性と77歳男性で,いずれも片眼に発症した。初診時の矯正視力はそれぞれ0.8と0.15であった。1例は-4.0D,他の1例は-2.75Dの近視であった。2症例とも,当初は少量の出血性RPE剝離と網膜下出血があり,短期間で出血性RPE剝離が拡大しRPE裂孔になった。裂孔の色素上皮弁は2例とも中心窩側にあった。最終的に黄斑下の線維性瘢痕が形成され,視力はそれぞれ0.07と0.1になった。RPE裂孔形成の急性期の診断では蛍光眼底造影の価値は低く,検眼鏡による観察が重要であった。

難治性黄斑円孔網膜剝離に対する全周強膜短縮術の2例

著者: 唐松純 ,   小堀朗 ,   辻隆宏 ,   玉置力也 ,   鈴木和代 ,   田中朋子

ページ範囲:P.1351 - P.1354

初回の硝子体手術が成功せず,黄斑円孔を伴う網膜剝離2眼に全周強膜短縮術を行った。2眼とも網膜は復位した。1例では視力が手動弁から0.01に改善した。眼軸長は術前の31.0mmが術後28.5mmに短縮し,乱視は術前の0.75Dが術後2.50Dになった。他の1例では視力が指数弁から0.04に改善し,眼軸長は術前の29.7mmが術後28.2mmに短縮し,乱視は術前の2.25Dが術後8.0Dになった。難治性の黄斑円孔網膜剝離に対し全周強膜短縮術が奏効した症例群である。

OCT光干渉断層計2機種による網膜厚マッププログラム測定の比較

著者: 川崎良 ,   土谷大仁朗 ,   芳賀真理江 ,   神尾聡美 ,   佐藤浩章 ,   菅野誠 ,   山本禎子 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1357 - P.1361

目的:光干渉断層計(OCT)で網膜厚を定量的に評価できる。2種類の装置による網膜厚マップ解析を比較検討した。方法:ハンフリーOCT2000とEG-Scannerを使用した。厚さを実測してあるスライドガラスを使い両機種の測定傾向を調べた。また,正常眼,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症を含む23眼の網膜厚マップを両機種で作成し比較した。結果:スライドガラスの測定で,網膜厚の回帰直線は,[OCT2000]=0.9406×[EG]となった。両機種による網膜厚マップの測定結果には有意差がなかった。相関係数は0.7609(p<0.001),回帰直線は[OCT2000]=0.9958×[EG]であった。結論:OCT2000とEGによる網膜厚マップ解析は比較可能である。

長崎大学における25Gシステムと20Gシステムの硝子体手術成績の比較

著者: 高畑太一 ,   藤本今日子 ,   三島一晃 ,   小川月彦 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1363 - P.1366

目的:黄斑前膜と黄斑円孔に対する硝子体手術で,20ゲージと25ゲージを使った成績の比較。症例:過去9か月間に硝子体手術をした20ゲージによる28眼,25ゲージによる22眼を対象とした。前群では18眼,後群では10眼に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を併用した。全例でトリアムシノロンを使用し,黄斑円孔ではインドシアニングリーンを使用した。結果:25ゲージによる手術時間は20ゲージよりも,黄斑前膜では水晶体摘出群(p=0.02),黄斑円孔では硝子体手術単独群(p=0.04)で有意に短かった。術後合併症として,20ゲージ群では高眼圧18%,25ゲージ群で高眼圧9%,低眼圧23%,脈絡膜剝離18%,網膜剝離5%が起こった。結論:25ゲージシステムを使うことで手術時間が短縮できるが,術後合併症の多いことが問題である。

網膜色素変性症に合併した黄斑円孔に対する硝子体手術

著者: 中村秀夫 ,   早川和久 ,   我謝猛 ,   長嶺紀良 ,   澤口桂子 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.1367 - P.1369

6年前に網膜色素変性症と診断された49歳女性が,2か月前からの右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.1,左0.6であった。右眼に黄斑上膜を伴う全層黄斑円孔があった。硝子体手術を行い,インドシアニングリーンを併用した内境界膜切除を行った。術後8日目に円孔は閉鎖したが,以前からあった輪状暗点が内方に拡大してきた。術後14か月目にも中心暗点があり,右視力は0.03であった。視力と視野が術後に悪化したことに,内境界膜を剝離するときの機械的侵襲,眼内照明による光傷害,インドシアニングリーンによる網膜色素上皮障害の可能性がある。

正常眼圧緑内障に後部虚血性視神経症を合併したと考えられる1例

著者: 中泉敦子 ,   杉山哲也 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦 ,   竹内栄一

ページ範囲:P.1371 - P.1375

76歳男性が8年前からの正常眼圧緑内障で受診した。矯正視力は右0.8,左0.9であり,両眼の乳頭耳側にnotchingと網膜神経線維層欠損があり,左眼視野は湖崎分類Ⅱ-b期であった。1年後に左眼視野の悪化と眼窩深部痛で再受診した。左眼に傍中心暗点と耳側上方暗点が生じていた。視力と眼底所見に変化はなく,左眼中心CFFが低下していた。磁気共鳴画像検査(MRI)で左視神経内部に限局性の高信号領域があった。その後,レーザースペックル検査で乳頭とその周囲の血流低下があった。正常眼圧緑内障に後部虚血性視神経症が併発したと推定した。

濾過胞漏出に対する保存角膜被覆術

著者: 山口美紀江 ,   小池智明 ,   海野朝美 ,   大串元一 ,   雄鹿大地 ,   岸章治

ページ範囲:P.1377 - P.1380

目的:難治性濾過胞の漏出に保存角膜による被覆を行った4眼の報告。症例と方法:症例は緑内障4例4眼で,年齢は55~73歳(平均63歳)であった。原因となった前回手術は,42年前のScheie手術1眼,3.5年前と4年前にマイトマイシンC併用の線維柱帯切除術各1眼,48年前の牛眼手術1眼である。濾過胞を切除して保存角膜で被覆し,その上を結膜で覆った。結果:全例に濾過胞様の結膜隆起があったが漏出はなくなった。眼圧は3眼が13~18mmHg,1眼が24mmHgであった。結論:保存角膜を使うことで漏出性濾過胞を処理できた。この方法では術後も濾過機能が残存していると推定される。

大量の前房出血をきたし予後不良であった特発性頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 大野克彦 ,   三好和 ,   吉村浩一 ,   山川良治 ,   広畑優

ページ範囲:P.1381 - P.1384

64歳女性の右眼に充血と疼痛が生じ,脳神経外科でBarrow C型の特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)と診断された。上眼静脈が動脈血の唯一の流出路であった。術前の矯正視力は右0.4,左1.2であり,眼圧は右30mmHg,左20mmHgで,両眼に単純糖尿病網膜症があった。経カテーテル動脈塞栓術でシャントは消失した。1か月後に右眼圧が上昇し,網膜中心静脈閉塞症が併発し,シャントの再発と上眼静脈への動脈血流入が発見された。再度の動脈塞栓術,さらに5か月後にガンマナイフ治療を行った。その1か月後に右眼圧が急上昇した。虹彩と隅角にルベオーシスはなかった。前房出血が生じ,線維柱帯切除術などを行ったが,低眼圧となり最終視力が手動弁になった。CCFによる眼静脈圧の上昇と,眼窩内静脈の血栓化が眼病変悪化の原因であると推定される。

顕微鏡的多発血管炎の眼合併症についての検討

著者: 丸田知央子 ,   坂本めぐみ ,   脇山はるみ ,   今村直樹

ページ範囲:P.1385 - P.1388

59歳男性に間質性肺炎が発症した。5年前に腎腫瘍で部分切除を受けていた。その3か月前から肩と下腿に筋肉痛があった。核周囲抗好中球細胞質抗体(P-ANCA)が陽性でCRPの上昇があり,顕微鏡的多発血管炎と診断された。副腎皮質ステロイド療法と抗凝固療法でCRP値が改善した。発症から3か月後に右眼に違和感があり,乳頭浮腫が両眼にあり,網膜中心静脈閉塞症に発展した。視力は全期間を通じて正常であった。3か月後に自然寛解した。眼底病変は顕微鏡的多発血管炎の合併症であると解釈されたが,本症例では眼合併症が全身症状と時期的に相関していない。

連載 今月の話題

トリアムシノロンによる網膜硝子体疾患の治療

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1229 - P.1235

トリアムシノロンによる網膜硝子体疾患治療が,世界中で行われている。多くの眼科医は,本治療の効果を認めている反面,潜在的危険性を危惧しているのも事実である。現在,大規模臨床試験が進行中なので,近い将来最終的評価がなされるであろうが,本治療が現在広く行われていることを考えると,現時点での総括を行うことには意味がある。本稿では,トリアムシノロンによる網膜硝子体疾患の治療について現在の考え方を述べる。

眼の遺伝病72

PRPF31遺伝子異常と網膜変性(2)

著者: 佐藤肇 ,   中村誠 ,   和田裕子

ページ範囲:P.1236 - P.1238

今回は,PRPF31遺伝子に1155-1159delGGACG/insAGGGATT変異を認めた家系を報告する。夜盲などの自覚症状のない無症候性キャリアと考えられる症例(図1,Ⅱ-2)は,高齢のために眼科諸検査を施行できなかった。

 症 例

 [症例1(図1,Ⅳ-2)]

 患者:27歳,女性

 主訴:夜盲

 家族歴:兄,父,叔父が網膜色素変性(図1)。

 現病歴:7歳頃から網膜色素変性を指摘されていた。10歳の初診時視力は右1.2,左0.9であった。両眼底には網膜色素上皮の軽度な変化が認められた。ゴールドマン動的量的視野検査では,Ⅴ-4のイソプターで狭窄はなく,Ⅰ-4のイソプターで中心約10°と狭窄しており,暗点は認められなかった。Bright flash ERGで,両眼ともにnon-recordableであった。14歳時の蛍光眼底検査では,網膜色素上皮萎縮による顆粒状の過蛍光を認めた(図2a)。20歳時のゴールドマン動的量的視野検査では,輪状暗点を認めた。

日常みる角膜疾患29

化学眼外傷

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1240 - P.1242

症 例

 患者:44歳,男性

 主訴:両眼眼痛

 現病歴:2001年5月28日,作業中にH2O2の誘導体であるメチルケトンパーオキサイド(pH 3~5)が両眼に飛入した。直後から水道水で洗眼を行ったが,両眼眼痛が持続し開瞼も困難であることから同日当科を受診した。

 既往歴・家族歴:特記事項なし。

眼形成手術手技6

術後のケア―腫れない,跡が残らない手術のために

著者: 野田実香

ページ範囲:P.1244 - P.1248

よくされる質問に,「どのくらい腫れますか」「跡は残りますか」というものがあるが,個人差があるので返答に困ることが多い。できるだけ腫れずに跡も残さないようにするためにできることについて事前に説明しておき,お互いに努力することによって納得のいく結果が得られると考えられる。手術前後に注意することにつき述べる。

 患者への説明

 事前に図1のような説明を患者に行う。

他科との連携

「はやりめ」の危機管理

著者: 澤口昭一

ページ範囲:P.1390 - P.1391

沖縄の「はやりめ」

 沖縄では気候が1年中温暖なせいか(1月に桜が咲きます)流行性角結膜炎の発症は通年性であり,南部(糸満や豊見城方面)で流行が収まってほっとしていると,次は中部(沖縄市,浦添市)が感染地帯になります。それが収束するころには北部(名護,宜野座)が始まるといった具合で,もぐらたたきのような出方,広がりをみせます。県内全体が収束していることはむしろ稀であり,日常の外来診療や,外勤帰りの病棟の診察には特に神経質になるほど気を遣って診療にあたる必要があります。普通の本土の病院では起こりえないことがここ沖縄では起こっているのです。新潟にいたころはせいぜい数年(5~10年)に1回の院内感染でした(私が奉職した18年間で2回記憶しています)。しかも季節は主に初夏で,ちょうどプールが始まる頃に流行が始まりその頃にたまたま病棟閉鎖が発生する程度でした。しかし,沖縄ではこれがほぼ毎年のように発生し,病棟閉鎖が繰り返されています。

 これまでのこの結膜炎の感染経路で明らかになったのは,①患者が深夜,救急外来を受診し,当直の若い眼科医が病棟で診察したために,その後病棟での感染が広がった,②網膜剥離で緊急手術が必要であると紹介された患者が感染していた,③外勤帰りの若い医師が入院患者の診察を行って広めた(夏期休暇没収),④眼科の入院患者の見舞いに来た見舞客の眼が赤かったのが後でわかった,⑤保育園園児を持っている職員が子供から感染していた,などですが,かなりの感染源は医療従事者が関係していることも明らかでした(そうでないことも多いが)。

臨床報告

Nd-YAGレーザーによる網膜前出血の治療

著者: 山下美恵 ,   伊東健 ,   西尾陽子 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1397 - P.1401

網膜前出血7例7眼に対して,Nd-YAGレーザーで後部硝子体膜を切開した。内訳は網膜細動脈瘤5眼と糖尿病網膜症2眼で,発症からレーザー照射までの期間は2~69日,平均16.7日であった。Peyman硝子体レンズを使い,Nd-YAGレーザーで後部硝子体膜を穿孔し,網膜前出血を硝子体腔内に拡散させた。レーザーの出力は4.0~7.0mJ,平均5.2mJであった。全例で後部硝子体膜が穿孔し,血液が硝子体腔内に拡散した。発症から2か月が経過した症例を含む6眼で,レーザー照射のみで視力が2段階以上改善した。1眼では硝子体切除術が必要であった。検眼鏡による観察で,網膜障害は皆無であった。Nd-YAGレーザーによる後部硝子体膜切開は,網膜前出血に対する有効な治療法の1つである。

眼瞼温存眼窩内容除去術による眼表面悪性腫瘍の治療

著者: 兼森良和

ページ範囲:P.1403 - P.1406

眼瞼と眼球に広く浸潤した眼表面悪性腫瘍に対しては,眼窩内容除去術が標準的な治療法である。この際に眼瞼全層を切除する従来の方法は,侵襲が大きく整容的に大きな問題があり,患者の社会復帰も容易でない。筆者は眼瞼の前葉を温存し,皮膚移植により一期的に義眼床を再建する眼瞼温存眼窩内容除去術を行っている。これによって腫瘍を根治できる一方,整容的にも満足できる結果が得られ,さらに早期の義眼装用ができ術後速やかな社会復帰が可能になった。

ガンシクロビルの硝子体注入が有効であった急性網膜壊死の1例

著者: 小林桃子 ,   市邊義章 ,   清水公也

ページ範囲:P.1407 - P.1410

60歳女性が4日前からの左眼充血,眼痛,視力低下で受診した。矯正視力は右眼1.2,左眼1.0であった。右眼には他覚的に異常がなく,左眼には強い毛様充血,角膜後面沈着物,硝子体に細胞があり,鼻側周辺の網膜に滲出性病変があった。第5病日に採取した前房水と硝子体から単純ヘルペスウイルスⅡDNAが検出され,特徴的な眼底病変と合わせ,急性網膜壊死と診断した。初診日から3日間アシクロビル静注を開始したが,硝子体混濁が強くなり,ガンシクロビルの硝子体注射を初診後2日目,5日目,11日目に行った。3回目の硝子体注射から硝子体混濁の減少が始まり,初診から85日後に視力が0.8に回復した。網膜電図では,b波がa波に先行して回復した。発病早期の急性網膜壊死にガンシクロビルの硝子体注射が奏効する可能性を示した症例である。

ベーチェット病併発白内障に対する手術の発作に与える影響

著者: 本山祐大 ,   蕪城俊克 ,   平岡美依奈 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.1411 - P.1415

ベーチェット病患者に白内障手術を行い術後の急性発作に及ぼす影響を検索した。対象は術前6か月以上と術後12か月以上の経過観察ができたべーチェット病患者27例41眼である。男性22例32眼,女性5例9眼で,年齢は15~95歳(平均46.0±13.7歳)であった。39眼には眼内レンズ挿入を同時に行った。術前視力と比較し術後6か月間の最高視力は30眼(79%)で改善,6眼(16%)で不変,2眼(5%)で悪化した。術前6か月間の発作の有無,術前3か月間の発作の有無,コルヒチン,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬の使用と薬剤数は,いずれも術後の前房または眼底の発作と有意の関係がなかった。ベーチェット病での併発,白内障に対する手術時期を検討する際に考慮されてよい結果である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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