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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科59巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

特集 第58回日本臨床眼科学会講演集 (7) 学会原著

核硬度別寒天模擬核を用いた水晶体超音波乳化吸引手技への応用

著者: 島田一男 ,   中島佳子 ,   早田光孝 ,   西原仁 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.1467 - P.1470

目的:寒天で模擬水晶体核を作製し,豚眼での超音波白内障手術に応用した報告。方法:グレード3に相当する模擬核を寒天で作製し,水晶体実質を除去した豚眼の水晶体囊内に注入した。この模擬核をdivide & conquer法で分割し,超音波乳化手術を行った。結果:水晶体囊内で固まった模擬核は囊内で回転することができ,人眼に近い感触で溝掘りと分割ができた。分割した核の除去では,人眼に比べてやや吸引しにくかった。結論:寒天を材料とする硬度が異なる模擬核は,豚眼での超音波白内障手術の実習で,溝掘り,分割,核回転,核片除去が可能であり,手技の習得に有用であった。

ビスコカナロストミーの術後経過.シヌソトミー併用トラベクロトミーの術後経過との比較

著者: 関根新 ,   星合繁 ,   福島孝弘 ,   井之川宗右 ,   鈴木茂揮 ,   越野崇 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1471 - P.1474

目的:Viscocanalostomy(VC)と,シヌソトミーを併用した線維柱帯切開術の術後経過の比較。対象と方法:8か月間に同一術者がVCを行った27眼を検索した。うち14眼には白内障手術を同時に行った。シヌソトミーを併用した線維柱帯切開術を行った29眼を対照として比較した。うち13眼には白内障手術を同時に行った。結果:VCの術中・術後の合併症は,線維柱帯の微小穿孔22%,一過性低眼圧7%,結膜再縫合11%,一過性高眼圧19%などであった。VCのみを行った13眼中8眼(62%)と白内障手術を併用した14眼中1眼(7%)で再度の緑内障手術が必要であった。手術から48か月間の平均眼圧は14.2±5.0mmHg,対照群では12.7±2.9mmHgであり,両群間に有意差がなかった。術後48か月目の薬剤スコアは,VC群が1剤多かった。結論:VCは合併症が少ない安全な手術である。点眼を1剤多く使えば,術後4年間は対照と同様な眼圧降下が得られた。再手術例が多いことが問題である。

Multiple evanescent white dot syndromeにおけるリポフスチン自発蛍光の検討

著者: 山本学 ,   河野剛也 ,   安宅伸介 ,   大杉秀治 ,   三木紀人 ,   平林倫子 ,   戒田真由美 ,   埜村裕也 ,   山口真 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1475 - P.1479

目的:多発一過性白点症候群(multiple evanescent white dot syndrome:MEWDS)でのリポフスチン自発蛍光の検索。対象と方法:臨床的にMEWDSと診断した25歳男性,30歳女性,36歳女性の3例3眼を対象とした。Heidelberg Retina Angiogram(ハイデルベルグ・レチナ・アンギオグラム) でリポフスチン自発蛍光を検出した。結果:3眼とも,白斑の部位でのリポフスチン自発蛍光は正常または過蛍光であった。結論:網膜色素上皮の代謝機能と関連しているリポフスチン自発蛍光が,MEWDSでは正常または過蛍光を呈する。この事実は本症の解釈と経過観察で有用である。

5%食塩水と20%エタノールを用いたLASEKの術後成績の比較検討

著者: 柿木一邦 ,   安田明弘 ,   山口達夫

ページ範囲:P.1481 - P.1487

LASEKでの角膜上皮剝離に,7眼では5%食塩水,7眼では20%エタノールを使い,3か月間の経過を観察した。両群ともに術中合併症はなく,術後の疼痛,角膜浸潤,裸眼視力,矯正視力,矯正誤差,角膜厚,屈折変動,Hazeについて両群間に有意差がなかった。上皮の創傷が治癒するまでの日数は,食塩水群が2.7±0.5日,エタノール群が3.9±0.7日であり,有意差があった(p=0.0038)。上皮剝離に要する時間は,両群間に有意差がなかった。5%食塩水を使う上皮剝離は,20%エタノールよりも創傷治癒が早く,組織内脱水が軽度であると推定され,有用であると結論された。

内直筋に認められた胞巣状軟部肉腫

著者: 岩田健作 ,   手島靖夫 ,   山川良治 ,   久米慎一郎 ,   有馬信之

ページ範囲:P.1489 - P.1492

34歳男性が1年前からの左眼球結膜の腫瘤を主訴として受診した。左眼内直筋に相当する結膜下に12×10mmの境界明瞭な赤色で無痛性の腫瘤があり,周囲の上強膜血管が怒張していた。眼球運動などに異常はなかった。磁気共鳴画像検査(MRI)で腫瘤は境界が不明瞭であり,Gd造影で均一に淡く造影された。腫瘤は内直筋部に被膜で包まれるように存在し,手術時には内直筋と茎で連絡しており,全摘出できた。病理組織学的には,胞巣状構造を呈し,腫瘍細胞は大型類円形ないし多角形で,核には明瞭な核小体があった。PAS染色で,桿状または顆粒状の結晶がみられた。RT-PCRとDNA配列解析で,ASPL-TFE3キメラ遺伝子がみられ,胞巣状軟部肉腫と診断した。本疾患が眼窩に生じた稀有な例であり,遠隔転移が危惧されるが,摘出から2年後の現在まで再発または転移の徴候はない。

無症候性網膜剝離の治療方法の検討.その1.網膜格子状変性萎縮性円孔

著者: 川崎ゆたか ,   川崎勉 ,   宇野毅 ,   佐藤寛之 ,   熊丸茂 ,   出田秀尚

ページ範囲:P.1493 - P.1497

格子状変性内の萎縮性円孔による無症候性網膜剝離88眼の治療結果を検討した。進行阻止率は,冷凍凝固による塗りつぶし凝固57眼中56眼(98%),網膜剝離周囲の凝固13眼中12眼(92%),変性巣のみの冷凍凝固11眼中9眼(82%)であった。手術を行った5眼は全例が初回復位が得られた。網膜剝離の後極縁が赤道までであるか,越えていても周辺側が鋸状縁に達していない場合には,進行阻止率は96%以上であった。網膜剝離の後極縁が赤道を越え,周辺側が鋸状縁に達していると,進行阻止率は85%以上であった。剝離の範囲が全周の12分の1以上である31眼中28眼(90%)で進行を阻止できた。以上の結果は,治療方針を選択する際の参考になる。

無症候性網膜剝離の治療方法の検討.その2.網膜裂孔

著者: 川崎勉 ,   川村亮介 ,   田邊樹郎 ,   塙本宰 ,   池間昌陸 ,   出田秀尚

ページ範囲:P.1499 - P.1504

格子状変性内の裂孔(59眼)と,その他の裂孔(33眼)による無症候性網膜剝離92眼の治療結果を検討した。進行阻止率は,冷凍凝固による塗りつぶし凝固ではそれぞれ15眼中14眼(93%)と6眼中6眼(100%),網膜剝離周囲の凝固ではそれぞれ32眼中29眼(91%)と23眼中21眼(91%),変性巣のみの冷凍凝固では2眼中1眼(50%)と1眼中1眼(100%)であった。塗りつぶしが可能な症例は限られるが,もしこれが行える場合は結果が良好であった。網膜剝離が鋸状縁に達している場合には,進行阻止率は70~90%であった。牽引の方向が線状であるときには,進行阻止率が低かった。以上の結果は,治療方針を選択する際の参考になる。

ハイドロジェルレンズにおけるカルシウム沈着と対応

著者: 宮久保寛 ,   宮久保純子

ページ範囲:P.1505 - P.1509

2001年3月までの13か月間の白内障手術で,ハイドロジェル眼内レンズ(H60 M)を451眼に挿入した。276眼で13~40か月,平均34か月間の長期観察ができた。眼内レンズ表面のカルシウム沈着を213眼(77%)に発見した。その内訳は,糖尿病者62眼中53眼(85%),糖尿病網膜症34眼中30眼(88%),全身または眼疾患がない104眼中79眼(76%)などである。H60 Mでは高頻度にカルシウム沈着があり,糖尿病眼では発生頻度がやや高いが,全身異常がなくても5眼に4眼の頻度でこれが起こっている。すべての挿入眼で継続的な経過観察が必要である。

緊急手術を要した眼窩下壁骨折の1例

著者: 山口和子 ,   野田実香 ,   今野公士 ,   折原唯史 ,   出田真二

ページ範囲:P.1511 - P.1514

目的:外傷による眼窩壁骨折に対し,緊急手術を行った症例の報告。症例と経過:14歳,男子がクラブ活動中に喧嘩で右眼を殴打され,その直後に頭痛,嘔吐,右眼の高度の上下転障害が生じた。その翌日のCT検査で,右眼窩下壁が骨折し,下直筋の陰影が消失していた。右trapdoor型眼窩下壁骨折と診断し,受傷から27時間後に眼窩下壁骨折整復術を行った。眼窩下壁に眼窩下神経溝に沿う骨折線があり,下直筋は上顎洞に脱出し,絞扼されていた。脱出した組織を愛護的に整復し,骨膜を縫合した。眼球運動は正常化した。結論:若年者の眼窩壁骨折で,骨折線で筋肉が絞扼されている症例には緊急手術の適応がある。手術までの時間が短ければ組織の挫滅が少なく,機能が回復する可能性が大きくなる。

消化器癌術後数年経過して発症したビタミンA欠乏症の1例

著者: 松尾歩 ,   平岡孝浩 ,   高松俊行 ,   中野秀樹 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.1515 - P.1519

大腸癌に対する広範囲腸切除後4年で発症したビタミンA欠乏による夜盲症の1例を経験した。症例は35歳男性。主訴は夜盲。既住歴として,家族性大腸ポリポーシスによる大腸癌があり,全結腸切除と小腸半切除を施行されていた。暗順応検査では最終閾値の上昇が認められ,網膜電図(ERG)では杆体反応が著明に減弱していた。また血清ビタミン値は7IU/dlと著しく低下していた。吸収障害によるビタミンA欠乏症と診断し,ビタミンAを1日3,000単位経口投与したところ,3日で自覚症状は改善した。治療開始6週後に行った暗順応検査では若干改善が認められたものの,網膜電図では明らかな改善はなかった。その後,本症例は癌転移による全身状態悪化のため死亡した。

東京大学病院眼科における内眼炎患者の統計的観察

著者: 藤村茂人 ,   蕪城俊克 ,   秋山和英 ,   吉田淳 ,   川島秀俊 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎 ,   新家眞

ページ範囲:P.1521 - P.1525

目的:東京大学附属病院での最近の内因性内眼炎の頻度と内訳の報告。対象と方法:2003年までの3年間に初診患者として受診し,内因性内眼炎と診断された311例を対象とした。診療録を解析し,統計学的に検討した。結果:311例は同期間の眼科初診患者数の2.7%に相当した。男性136例,女性175例であり,平均年齢は49.5±17.7歳であった。部位別では,前部内眼炎153例(49.2%),汎内眼炎118例(37.9%),後部内眼炎35例(11.3%),中間部内眼炎5例(1.6%)であった。154例(49.5%)で炎症の分類診断が可能であった。最も多かったのがBehçet病9.3%で,サルコイドーシス8.0%,原田病6.1%,Posner-Schlossman症候群5.1%と続いた。結論:近年Behçet病が減少しているという報告が多いが,当院では依然として第1位にある。

黄斑部漿液性剝離を伴うサルコイド脈絡膜結節の自然経過

著者: 平岩貴志 ,   高良俊武 ,   大澤毅 ,   堀健二 ,   柴田裕史 ,   大石恵理子

ページ範囲:P.1527 - P.1530

27歳男性が18日前からのぶどう膜炎として紹介され受診した。矯正視力は左右ともに1.0であった。両眼に角膜後面豚脂様沈着物,隅角結節,硝子体混濁があった。全身検査の結果と合わせ,サルコイドーシス臨床診断群と診断した。副腎皮質ステロイド薬の点眼のみで眼炎症は消炎したが,その1年後に左眼に変視症が生じた。漿液性網膜剝離を伴う網膜下隆起病変が左眼の黄斑部にあり,さらに同様の病巣が左眼に2個,右眼に1個あった。視力は良好であった。サルコイドーシスに伴う脈絡膜肉芽腫と診断した。ステロイド薬の全身投与なしで13か月後に肉芽腫は瘢痕化した。サルコイドーシスによる脈絡膜肉芽腫の自然寛解例である。

デジタル吊秤による白内障手術時の眼灌流液の使用量測定

著者: 野原雅彦 ,   𠮷田紀子

ページ範囲:P.1531 - P.1534

白内障手術中の灌流液の重量の変化をデジタル吊秤で測定した。手術開始時に秤の目盛を0に設定し,以後は透明な袋に入った灌流液の重量をマイナスで表示させた。重量を密度1.00662g/mlで割った値を使用した灌流液の容積とした。白内障手術を行った234眼での灌流液使用量の平均は,超音波乳化吸引時104ml,灌流・吸引時45ml,手術全体で149mlであった。核硬度が上がると超音波乳化吸引時の使用量が増加したが,灌流・吸引時の値には差がなかった。この方法による灌流液の測定は,一般の点滴にも応用が可能である。

虹彩隅角新生血管を合併した増殖糖尿病網膜症に対する初回硝子体手術成績

著者: 村尾史子 ,   西野真紀 ,   賀島誠 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1535 - P.1538

目的:前房または隅角にルベオーシスがある増殖糖尿病網膜症に対し,初回手術として硝子体手術を行った成績の報告。対象と方法:過去5年間に硝子体手術を行った39眼を対象とした。男性11例14眼,女性19例25眼であり,年齢は61.3±10.6歳であった。術前眼圧が23眼では21mmHg以下であり(正常眼圧群),16眼ではこれよりも高かった(高眼圧群)。結果:初回硝子体手術で,眼圧が無治療または点眼で21mmHg以下に維持されたのは,正常眼圧群19眼(83%),高眼圧群9眼(56%)であり,両群間に有意差はなかった(p>0.14)。無治療で眼圧が21mmHg以下に維持され,かつ視力の改善が得られたのは,正常眼圧群11眼(48%),高眼圧群5眼(31%)であった。結論:ルベオーシスを伴う増殖糖尿病網膜症に対する初回硝子体手術で,高率の眼圧コントロールが得られた。

糖尿病患者網膜神経線維層厚の測定.GDx AccessとGDx VCCでの検討

著者: 小林史樹 ,   松本行弘 ,   小俣仁 ,   筑田眞

ページ範囲:P.1539 - P.1546

目的:病期が異なる糖尿病網膜症での網膜神経線維層厚を2種類の装置で測定した結果の報告。対象と方法:糖尿病173眼の網膜神経線維層厚を測定した。網膜症の程度は,網膜症なし(NDR)69眼,単純(SDR)62眼,増殖前(PPDR)24眼,増殖(PDR)18眼であった。95眼はGDx Access,78眼はGDx VCCで計測した。結果:GDx Accessでの測定値は,NDR,SDR,PPDR,PDRの順に増加した。NDRとPPDR,NDRとPDR,SDRとPDRとの間に有意差があった。Superior Maxについては,NDRとPPDR,SDRとPPDR間に有意差があった。Symmetryについては,NDRとPPDR,NDRとSDR,PDRとPPDR,PPDRとSDR間に有意差があった。GDx VCCでのInter-eye Symmetryについては,NDRとPPDR,NDRとPDR,SDRとPDR,SDRとPPDR間に有意差があった。Nerve fiber indicatorについては,SDRとPPDR,NDRとPPDR間に有意差があった。結論:網膜神経線維層厚は糖尿病網膜症の病期の進行とともに変化し,増殖前網膜症で菲薄化が最も顕著であった。菲薄化には眼底の象限による
違いがあった。

Bietti crystalline chorioretinal dystrophyの同胞例

著者: 瀬川敦 ,   松本行弘 ,   筑田眞

ページ範囲:P.1547 - P.1554

目的:クリスタリン網膜症(Bietti)の同胞例の報告。症例と所見:54歳男性が網膜色素変性として紹介され受診した。矯正視力は右眼1.2,左眼1.0であった。角膜は正常で,両眼眼底に閃輝性の結晶様黄白色沈着物が散在していた。フルオレセイン蛍光眼底造影で斑状の網脈絡膜萎縮病巣があった。網膜電図で左眼のaとb波が減弱していた。クリスタリン網膜症2期と診断した。患者には1名の弟と3名の姉妹がいた。三女である56歳の姉に10年前から夜盲,5年前から左眼視力障害の自覚があった。矯正視力は右眼1.2,左眼0.05であり,両眼の角膜実質に結晶,両眼眼底に軽度の結晶様黄白色沈着物が散在し,広範囲の萎縮病巣があった。網膜電図は両眼とも平坦型であった。クリスタリン網膜症3期と診断した。次女である58歳の姉に両眼の角膜実質に結晶があり,左眼の網膜電図が陰性型であった。長女と次男に検眼鏡的な異常はなかった。結論:クリスタリン網膜症の同胞例では,角膜のみに病変がある症例がある。

網膜下新生血管を合併した光毒性網膜症の1例

著者: 平林倫子 ,   河野剛也 ,   安宅伸介 ,   三木紀人 ,   菱田英子 ,   埜村史絵 ,   山口真 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1555 - P.1559

目的:車のヘッドライトの凝視により光毒性網膜症が発症し,その経過中に網膜下新生血管が生じた症例の報告。症例と経過:55歳男性がゆっくり近づいてきた車のヘッドライトを約20秒間凝視した。その2週間後に両眼の充血,眼痛,視力低下が起こり受診した。矯正視力は右眼0.15,左眼0.7であった。右眼黄斑部に網脈絡膜変性,左眼中心窩の鼻側にフィブリン析出と漿液性網膜剝離があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で,右眼には網脈絡膜萎縮に相当する所見,左眼には中心性漿液性網脈絡膜症に類似する所見が得られた。1週後からプレドニゾロン30mgの内服を開始した。左眼の網膜剝離は初診の3週後に消失したが,その1週後に網膜下出血が以前フィブリン析出があった部位に生じた。さらに7週後,漿液性網膜剝離が再び生じ,視力が0.15に低下した。蛍光眼底造影で網膜下新生血管網が検出された。光凝固を行い,3か月後に漿液性網膜剝離は消失した。初診から1年後に左眼視力は1.0に回復した。結論:光毒性網膜症では,経過中に漿液性網膜剝離の滲出点に網膜下新生血管網が発症することがある。

線維柱帯切開術に併用した深部強膜切除術の変法の術後短期経過

著者: 小寺由里子 ,   林寿子 ,   田村和寛 ,   木村忠貴 ,   植田良樹

ページ範囲:P.1561 - P.1565

目的:ぶどう膜強膜路への流出増加を意図して考案した深部強膜切除変法による線維柱帯切開術の短期成績の報告。対象:緑内障7眼をこの方法で手術した。内訳は原発開放隅角緑内障3眼,落屑緑内障2眼,正常眼圧緑内障2眼である。同様な内容の緑内障5眼を線維柱帯切開術単独で手術し,対照とした。結果:7眼の術前眼圧は,無治療時25.9±5.6mmHg,点眼加療後20.9±1.9mmHgであり,点眼種数1.6±0.8であった。対照群の術前眼圧は,無治療時25.0±4.7mmHg,点眼加療後は19.4±1.3mmHgであり,点眼種数2.0±1.0で,両群間に有意差はなかった。術後6か月の7眼の平均眼圧は12.3±1.6mmHg,点眼種数0.1±0.4であり,術前より有意に下降した。濾過胞の形成はなかった。術後6か月の対照群の平均眼圧は16.2±1.5mmHg,点眼種数0であり,術前より有意に下降した。7眼では対照群よりも有意な眼圧下降が得られた(p<0.05)。結論:深部強膜切除変法の併用による線維柱帯切開術で,良好な眼圧下降効果が短期的に得られた。

ラタノプロスト以外の降圧薬中止後の眼圧変化

著者: 藤川亜月茶 ,   築城英子 ,   小川月彦 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1567 - P.1569

目的:ラタノプロストを含む複数の点眼薬で加療中の症例に対し,ラタノプロスト単剤に変更した後の眼圧の検討。対象と方法:複数の点眼薬で加療中の緑内障5例7眼を対象とした。内訳は,原発開放隅角緑内障4眼,続発緑内障2眼,囊性緑内障1眼である。ラタノプロスト以外の薬剤を中止し,変更前と変更後8週間以後の眼圧を検討した。観察期間は平均61.7±6.5週であった。結果:全7眼での変更前5回の平均眼圧は16.2mmHg,変更後は15.4mmHgであり,変更前後の眼圧に有意差はなかった(p=0.21)。結論:緑内障に対するラタノプロストの単独投与により点眼薬の数と点眼回数を減少することが可能であり,コンプライアンスの向上と角膜障害の予防が期待できる。

炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例

著者: 安藤彰 ,   宮崎秀行 ,   福井智恵子 ,   南部裕之 ,   松村美代

ページ範囲:P.1571 - P.1573

82歳女性が12年前に白内障と開放隅角緑内障の同時手術を受けた。7年前に右眼の眼圧が不安定になり,β遮断薬を点眼していた。両眼とも視力は正常で,眼圧は右眼21mmHg,左眼18mmHgであった。右眼に炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミド点眼を1日2回開始した。その1週後から点眼直後に右眼の霧視を自覚していた。点眼開始から1か月後の再診時に,右眼視力は矯正0.5,右眼眼圧は12mmHgであり,右眼の角膜に上皮浮腫,実質混濁,デスメ膜の皺襞形成があった。角膜内皮細胞密度は,右眼1,161/mm2,左眼1,312/mm2であった。ブリンゾラミド点眼をやめ,さらに2か月後にほかの眼圧降下薬の点眼を中止した。点眼中止から12週後まで,角膜上皮と実質の浮腫が続き,自覚症状と視力は回復していない。12年前の内眼手術で角膜内皮細胞数が減少し,さらに炭酸脱水酵素阻害薬の点眼が残存角膜内皮の機能を障害したことが,角膜浮腫の原因になったと考えられる。

外斜視術後早期の高次波面収差の変化

著者: 名和良晃 ,   桝田浩三 ,   竹谷太 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.1575 - P.1576

目的:外斜視手術後早期の高次波面収差の変化の検討。対象と方法:同一術者による手術を受けた外斜視10人10眼を対象とした。年齢は3~56(中央値7.5)歳であった。眼位の完全矯正を目的とし,全例で内直筋の短縮と外直筋の後転を片眼に行った。術前の偏位は,-25~-45PD(平均-38.5±6.7PD)であった。術後1か月目での偏位は,0~-12PD(平均-3.7±4.5PD)であった。術前と手術1か月後の時点で,直径6mmでの角膜と眼球の高次波面収差を散瞳下で測定した。測定にはKR-9000PW(トプコン)を使った。結果:角膜と眼球のコマ収差,球面収差,高次収差のいずれについても,術前と術後間で有意差がなかった。結論:外斜視に対する片眼の前後転手術では,手術から1か月後の角膜と眼球の高次波面収差が変化しない。

視力回復に長期間を要したネコひっかき病による視神経網膜炎の1例

著者: 鈴木直洋 ,   玉井一司 ,   山田麻里 ,   東本栄治

ページ範囲:P.1577 - P.1580

目的:ネコひっかき病による視神経網膜炎の症例報告。症例:15年前からネコを3匹飼育している64歳女性に発熱と左眼霧視が生じた。8日後に受診し,矯正視力は右眼0.8,左眼0.05であった。経過:左眼底に出血を伴う乳頭腫脹と黄斑部にかけての滲出性網膜剝離があった。発熱から18日目にBartonella henselaleの血清抗体値の上昇があり,ネコひっかき病による視神経網膜炎と診断した。副腎皮質ステロイド薬のパルス療法と球後投与を行った。眼底所見は緩徐に軽快し,1年後に視力が0.7に改善したが,視神経萎縮が残った。結論:ネコひっかき病による視神経網膜炎では治癒に長期間を要することがある。

未熟児網膜症の発症・治療時期の体重増加率

著者: 伊藤彰 ,   杉山正和

ページ範囲:P.1581 - P.1584

目的:未熟児網膜症の発症と治療開始前後での体重増加率と網膜症との関連の検索。対象と方法:過去4年間に新生児科に入院した児のうち,網膜光凝固を行った20例20眼を対象とした。在胎期間が同程度で,無治療で網膜症が軽快した20例20眼を対照とした。網膜症の発症時点を起点とし,毎週の体重増加率を測定した。結果:発症前後の体重増加率は,治療群と無治療群の間に差はなかった。結論:体重増加率は,未熟児網膜症の発症または進行速度と無関係である。

小児白内障術後の無水晶体眼に発症した緑内障

著者: 中泉裕子 ,   坂本保夫 ,   山本奈未 ,   藤田信之 ,   高橋信夫

ページ範囲:P.1585 - P.1590

目的:乳幼児に行った白内障手術後に続発した緑内障の報告。症例:2003年までの24年間に,18例27眼に白内障手術を行った。9眼は無水晶体眼とし,18眼には眼内レンズを挿入した。手術時の年齢は,生後3か月~15歳,平均7.4歳であった。結果:無水晶体眼のうち6眼(67%)に緑内障が起こった。うち1眼は手術の翌日に瞳孔ブロックによる高眼圧であり,他の5眼では続発緑内障が術後15.3±2.0年に発症した。緑内障の原因として,周辺虹彩前癒着,水晶体皮質の残留,術式の問題などが推定された。眼内レンズ挿入眼では,アトピー性皮膚炎に伴う白内障1例2眼(11%)に手術の8年後に高眼圧が生じた。結論:乳幼児の白内障手術では,緑内障の発症の危険性が大きい。眼内レンズ挿入の有無にかかわらず,長期の経過観察が望ましい。

連載 今月の話題

糖尿病網膜症の疫学

著者: 川崎良 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1441 - P.1444

糖尿病網膜症(以下,網膜症)は,適切な時期に適切な治療を行うことで「失明を防ぐ」ことが可能になった。今後はよりよい視力を維持することが目標になる。現在まで,海外からは大規模な疫学研究から網膜症の危険因子が明らかにされている。本邦における疫学研究からのエビデンスの集積が望まれる。

眼科図譜344

Goodpasture症候群に発生した高血圧網膜症

著者: 山田晴彦 ,   山田英里

ページ範囲:P.1446 - P.1449

緒言
 Goodpasture症候群は1911年に記載された急速進行性糸球体腎炎の1つ1)で,血痰や咳などの肺症状を伴うことを特徴とする。この疾患の本態は肺胞毛細管基底膜,腎糸球体基底膜の共通抗原に自己抗体が作用して炎症を生じ,糸球体腎炎,肺浸潤として発生することと知られている2)。有病率は約100万人に0.5人と稀な病気で,発症年齢は20歳を中心に16~60歳の比較的男性に多くみられる3,4)。呼吸器感染1,5)や有機溶剤の使用,喫煙5)が引き金となる症例がある。筆者らは,Goodpasture症候群の患者に高血圧網膜症を発症し,経過とともに軽快した1症例を経験した。

眼の遺伝病73

PRPF31遺伝子異常と網膜変性(3)

著者: 佐藤肇 ,   和田裕子

ページ範囲:P.1450 - P.1452

PRPF31遺伝子イントロン6のスプライシング受容部位において43塩基の欠失を生じるIVS6-3 to-45del変異の家系を報告する。

 症 例

 [症例1]

 患者:32歳,女性(図1のⅢ-1)

 主訴:夜盲

 家族歴:父が網膜色素変性(図1)

 現病歴:小学校入学前から夜盲を自覚していた。26歳時の健康診断で眼底異常を指摘され初診している。当時の視力は右眼0.5,左眼0.7であった。眼底は典型的網膜色素変性を呈していた(図2)。蛍光眼底検査では,顆粒状過蛍光を認めたが,黄斑浮腫は認めなかった(図3)。Bright flash ERGはnon-recordableであった(図4)。転居のため受診が途絶えたが,帰省の際に再来した。その間自覚症状の悪化はなかった。

日常みる角膜疾患30

斑状角膜ジストロフィ

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1454 - P.1456

症例

 患者:57歳,男性

 主訴:両眼視力低下

 現病歴:40歳代のはじめより,次第に両眼の視力低下を自覚するようになったために,近医を受診した。点眼薬の処方のみで経過観察されていたが,次第に視力低下が顕著となったために,別の眼科を受診した際に,遺伝性の角膜疾患と診断され,1998年7月7日に当科外来を紹介され受診した。

 既往歴:特記すべきことはない。

眼形成手術手技7

切開・展開・止血

著者: 野田実香

ページ範囲:P.1459 - P.1463

はじめに

 術中操作の基本はメス・剪刀の使い方にある。しかし,これらの器械が最高のパフォーマンスを発揮するために必要なのは実は指や開創器による創の展開なのである。誰でも読める字を書くことができるくらい,利き手の細かい動作に個人差は少ないと考えられる。手術の技量に差があるとしたら,それは右手の動作に入る前に左手で良好な条件を整えてから行うという判断力であると考えられる(なお,本稿では利き手を右手として話を進めさせていただく)。

他科との連携

ええんちゃうかな。麻酔科との連携

著者: 北岡隆

ページ範囲:P.1622 - P.1623

今から11年前,長崎大学に赴任し,硝子体手術の件数も徐々に増え,その日は60代後半の増殖糖尿病網膜症の女性患者Tさんの硝子体手術を局所麻酔下に施行していました。

 Tさんは,糖尿病以外にも合併症が沢山ある患者で,高血圧,高脂血症,腎不全がありました。しかし何よりかなり神経質な方で,「手術はしとうなか~」と手術に対する不安を訴えており,できれば手術したくないという希望をもっていました。しかし増殖による牽引性網膜剝離が黄斑に及んでおり,手術以外に方法はないということを本人・家族に説明し,手術になりました。

臨床報告

ぶどう膜炎にみられた視神経乳頭肉芽腫にステロイドパルス療法が有効であったサルコイドーシスの1例

著者: 高階博嗣 ,   田中雄一郎 ,   鳥巣貴子 ,   徳田晶子

ページ範囲:P.1613 - P.1616

29歳女性が2か月前からの両眼霧視で受診した。矯正視力は右眼1.2,左眼1.2で,両眼とも前房内に炎症細胞があり,角膜後面沈着物と虹彩結節があった。乳頭の軽度な発赤があった。ツベルクリン反応は陰性で,両側肺門部リンパ節の腫大があり,サルコイドーシスと診断した。通院治療を6か月間中止し,初診から26か月後に再受診した。矯正視力は右眼1.2,左眼0.6で,両眼に虹彩炎の所見があった。左眼に漿液性網膜剝離を伴う2乳頭径大の橙赤色の腫瘤があり,サルコイドーシスに合併した視神経乳頭の肉芽腫と診断した。副腎皮質ステロイドのパルス療法を2回行い,肉芽腫は縮小し,1年後の現在までぶどう膜炎は鎮静化している。副腎皮質ステロイドのパルス療法がサルコイドーシスによる視神経乳頭肉芽腫に奏効した症例である。

白内障術中・術後早期合併症に対する硝子体手術

著者: 北葉月 ,   上田茂 ,   坂元有至 ,   中野哲郎 ,   上村昭典

ページ範囲:P.1617 - P.1621

白内障の術中または術後早期の合併症17例17眼に対し,硝子体手術を行った。内訳は,水晶体核落下7眼,術後の感染性眼内炎6眼と,駆逐性出血,裂孔原性網膜剝離,眼内レンズ落下,麻酔時の注射針による眼球穿孔の各1眼である。水晶体核落下例では全例で視力が改善したが,最終視力が0.5以下が3眼あり,白内障手術時の角膜障害がその原因であった。術後眼内炎では,白内障手術から眼内炎発症までの期間が2~6日,平均3日であり,硝子体手術までの期間は平均8日であった。灌流液に抗生剤を加えた硝子体手術で,速やかに炎症が鎮静化した。最終視力は16眼(94%)で改善した。白内障の術中または術後早期の合併症に対しての二次的硝子体手術が有効であった症例群である。

カラー臨床報告

成人発症型卵黄様黄斑変性症の4例

著者: 静川紀子 ,   今泉寛子 ,   奥芝詩子 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.1601 - P.1608

成人発症型卵黄様黄斑変性症の4例を経験した。1例は47歳女性,他は47歳,53歳,70歳の男性で,すべて両眼に発症していた。矯正視力は3眼が0.1~0.4,2眼が0.5~0.9,3眼が1.0以上であった。インドシアニングリーン(ICG)による赤外蛍光造影では,病変部は低蛍光,その周囲は淡い過蛍光を呈し,それぞれ網膜色素上皮細胞の凝集によるブロックとICG色素の貯留が推定された。光干渉断層計(OCT)では病変部に色素上皮層の肥厚とその内方に高反射層があり,過去の報告と一致し,網膜色素上皮細胞の凝集と網膜下の物質貯留が推測された。過去に報告がない合併症として,囊胞様黄斑浮腫が53歳男性の両眼にあった。

大量の線維素析出を伴うぶどう膜炎を発症した潰瘍性大腸炎の1例

著者: 唐尚子 ,   南場研一 ,   村松昌裕 ,   高橋理美 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1609 - P.1612

29歳女性が左眼の充血と疼痛で受診した。2年前に潰瘍性大腸炎と診断され,副腎皮質ステロイド薬による治療を受けたことがある。矯正視力は右眼1.2,左眼光覚弁であった。右眼には病的所見はなく,左眼には毛様充血,前房に強い線維素滲出,虹彩後癒着があり,眼底は透見できなかった。副腎皮質ステロイド薬点眼などで,前部ぶどう膜炎は急速に軽快し,左眼視力は翌日0.3,1か月後に1.0になった。眼底と蛍光眼底造影所見は正常であった。初診から1年後の現在まで眼病変の再発はない。潰瘍性大腸炎に伴うぶどう膜炎は一般に軽症であるとされているが,劇症型もあることを本症例は示している。

追悼

三島濟一先生

著者: 増田寛次郎

ページ範囲:P.1624 - P.1625

三島濟一先生の訃報に接し,衝撃をうけたのは,平成17年7月21日でした。

 今年の3月,私が日本失明予防協会の理事長になってその挨拶に電話でお話ししたのが,先生との最後でした。「大分体の調子もよくなったので,間もなく退院して,夏には皆と会えるだろう。車椅子になってしまったが元気だよ」といつもと変わりなく話しておられました。予定どおり退院されたことは聞いて知っておりましたが,こんなに早いご逝去とは,と驚きました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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