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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科6巻11号

1952年11月発行

雑誌目次

特集 眼科臨床の進歩Ⅰ

眼結核の化學療法

著者: 生井浩

ページ範囲:P.803 - P.810

Ⅰ)眼結核に對する藥劑の治療効果判定上の注意
 眼結核は身體の他病巣特に肺及び其の所屬リンパ腺の結核病巣より放出された結核菌が血流に乘じて眼組織に到達する事によつて惹起される。從て眼結核は内因性の再感染病變であり,結核アレルギー性病變である。
 今日迄結核アレルギーに關する研究は病理形態學,細菌兔疫學,生化學及び臨床醫學の各方面より行われ,微に入り細を穿つているが,各學者の得た結果が必ずしも一致しない關係上,其の概念に關しては著しい混亂がある。本稿に於て結核アレルギーに關する問題に深く立入る必要はないけれども,現在迄眼科の諸雑誌に記載された所を見ると「結核のアレルギー病變」の意義を限定されたものにとり,「結核菌によるものでなく,結核菌毒素の到達によつて惹起され且結節を作らない病變」という風に解している人が少くない樣に見受けられる。

眼結核の局所特殊療法

著者: 今泉龜撤

ページ範囲:P.811 - P.817

緒言
 結核の治療は,最近數年の間に,相次ぐ新藥の登場によつて,一紀元を劃するに到り,新しい抗結核劑が発表される毎に,その藥効が多少過大評價される傾向にあるとは云うものゝ,その眞價は誰も疑う者はないと同時に,將來に對して更に大きな期待と共に,一種の恐怖に似た感じさえ禁じ得ないのは,1人著者のみではないだろう。然し之等の抗結核劑の最初の評價は,凡て全身投與の場合であつて,眼結核の局所的特異性から,肺結核乃至は全身結核の適用の如く,多量長期間の,高價藥劑の全身投與が,如何に時間的に,経濟的に不得策で,且つは無益であるかは,眼科醫の等しく痛感することであろう。從つて眼結核の治療に當つては,抗結核劑の病巣直達法乃至介達法が,即時奏効を期待し得る効果面から,眼結核の唯一の最適方法であるばかりでなく,藥劑によつては少量を以つて最高の効果を學げ得る點と,患者負擔からする経濟面に於て,之に過ぐる方法は無いと信じている。
 現在,吾々が使用している眼科領域に於ける抗結核劑は,ストレプトマイシン,パス,チビオン,プロミン,イソニコチン酸ハイドラジツト等で,この外に補助藥劑として,コーチゾンがあるが,之等の藥劑による全身的應用は,他の機會に讓り,今回は敘上の意味から,吾々が最も愛用している之等藥劑の局所療法に就て,紙面の都合から文献的考察は除外して,專ら自家經驗に關して述べる。

ペニシリン驅梅療法

著者: 北村包彦

ページ範囲:P.818 - P.821

 驅梅療法にも抗生物質時代が來つゝある。即ちペニシリン驅梅療法の盛況がそれで,たゞペニシリン以後に出現した,新らしい抗生物質のオーレオマイシン,クロロマイセチン,テラマイシン等は驅梅劑としては現在はまだ試用品の域を脱してゐない。尠くとも我邦に於てはそう云つてよい。
 ペニシリンは現在,驅梅療法の大勢はこれが使用に傾き,殊に腦神経梅毒に對してさえペニシリン單獨療法——勿論800-1,000萬の如き高單位を以てしての——をとらんとする人々もあり,又我邦でも最近早期並びに晩期梅毒に對する相當優れた,ペニシリン單猫療法の遠隔成績が次第に明かとなつては來たが,それでもその成績は從來の砒素蒼鉛療法を凌駕するとは云へない。否,ペニシリン單獨療法よりもペニシリン重金屬併用療法の方がいろいろの點で成績がよく,殊に晩期梅毒に就て然りと云ふのが,現在多くの有力な意見のようである。

トラコーマの病原—主としてトラコーマ固定病毒を中心として

著者: 桐澤長德 ,   德田久彌

ページ範囲:P.822 - P.826

 恩師石原忍先生が學術振興會の委囑によりトラコーマ研究に着手されたのはちようど20年前の昭和8年であつた。その後10年間の共同研究者の成果は名著「トラコーマの病原」(昭和28年)に明かであるが「プロワツエク小體が病原體であろう」との結論に對しては強く反對した學者も少くなく,該小體は細胞の病的乃至人工的産物に過ぎないとの反論が學會毎にくり返されたことはわれわれの未だ耳新しい所である。一方北大越智氏を中心として,越智氏小體がトラコーマの病原に近い關係を有するとの研究が行われ,また,戰後,電子顯微鏡が實用に供されるに及び杉田,藤山,濱田氏等によつてトラコーマ組織からの電顯撮影像がいち早く提供されたのである。これらのトラコーマ探究の歴史は藤山氏の近著「トラコーマ病原」(昭和26年)中に要領よく記述されているからこゝには省略する。
 一方トラコーマ病原を一種のバイラスならんと見なす見解も2,3の學者によつて抱かれて來たが,いずれも廣く認められるほどの實驗成績はなくて今日に至つているのである。

螢光顯微鏡の臨床的應用に就て

著者: 北川淏

ページ範囲:P.827 - P.831

 結核症の診斷並に治療には結核菌の證明が最も重要である事は今更申す迄もない。特にストレプトマイシン,パス,チビオン,ハイドラジツト等有力な結核治療劑が發見せられて以來その感が一層深い。肺結核の治療特に化學療法實施上の指針としては主としてレントゲン寫眞が利用されて居るが,最近それのみでは不充分であり,結核菌の検査が絶對的條件である事が經驗されて來た。結榎菌の検出法は現在チール・ネルゼン法が廣く用いられて居るが,その検出率は極めて低率である。培養法並に動物實験法は遙かに高率である事は周知の事實なるも,特殊な技術と多額の費用を要し,小クリニックでは實施至難である缺點はさておき,その判定迄に少くとも2週間以上を要する一事は最も大きな弱點である。診斷決定に急を要する場合,例えば結核性腦膜炎の確實な診斷を決定する場合など,その決定によつて治療方針も一變し豫後に重大な影響を及ぼす事は臨床家の等しく經驗する處である。
 斯樣な場合もし培養法の成績に匹敵し,而も速座に結核菌の有無を決定し得る方法があれば,最近の進歩した結核化學療法上劃期的な貢献を呈する事であろう。この點で私は螢光顯微鏡を推賞し,少くとも結核症を臨床の對照とする臨床家の廣く採用されん事を希望する。

電子顯微鏡による検査法

著者: 赤木五郞 ,   筒井純

ページ範囲:P.832 - P.838

 數頁の書きものによつて,電子顯微鏡(以下E.M.と略記)検査法の總てを詳細に記述する事は到底可能なことではないが,ここにごくアウトラインを述べ今後この方面の研究にとりかかられる人々の手引となれば幸甚である。從つて研究の表面だけでなく裏面に横たわる失敗と苦い經驗をも述べて見たい。

Fusion frequencyの測定方法による變動の解析並びに閾値の処理に就て

著者: 神谷貞義 ,   山本純恭

ページ範囲:P.839 - P.848

 從來視機能の検査と云えば試視力表による検査が主であつたが,最近Fusion frequencyを測諸定した場合に診斷上重要な手掛りが得られる事が諸家の業績によつて明にされて,我が國でも,その方面の研究に注意が拂われる樣になつて來た。然し,この測定を眞に診斷上に役立つ樣にするためには,今日尚多くの基礎的な諸問題が未解決のまゝ殘されていて,その診斷的價値が充分に認められず,それが從來のものに比し勝れたものであるにも拘らず一般に普及しないのは殘念に耐えない。
 そこで一應,網膜の調應状態を一定にしてFu-sion frequencyに影響を與える諸要因を除いても,而も尚その測定に變動を與える要因を分析して,最も妥當だと思われる測定方法を定め,その上で測定した閾値を如何に処理すれば疾病の有無を診斷し得るかと云う問題に就て本報では述べたい。

網膜電流

著者: 廣瀨東一郞

ページ範囲:P.849 - P.852


 凡そ人として此の世に生をうけるにあたり,眼が見えぬと云う事になつたら,如何ばかり悲しむべき事であろうか。
 古來多くの眼科醫或は其の他の分野の研究者が,此の失明の歎きから一人でも多くの人を救出せんものと努力しているにも拘らず,今尚歸らざる我が眼に暗い人生を自らに鞭うちながら,一縷の望みを頼りに生きて行く人の何んと多い事であろう。

眼壓の電氣的測定法について

著者: 宇山安夫 ,   鈴木一三九

ページ範囲:P.853 - P.858

まえがき
 近來研究方法の改良に伴つて,房水及び眼壓に關する研究は僅かの間に飛躍的進歩を遂げて來ている。例えば前眼部の奧深く階されていた前房隅角の模樣は,前房隅角鏡の出現と其の利用によつて明るみに引出され,又一方房水靜脈の發見と,それに續く上鞏膜靜脈に關する多くの知見は,前隅房角鏡の研究と相俟つて,一應前房に於ける房水の流動現象を解決する糸口を與えて呉れ,房水の流れの速ささえも計算されうる程になつた。更に房水の組成の分析による結果は,房水の性成機轉に就ても從來の透過,分泌,濾過という異なる現象に對し或程度妥協の餘地のあることを示した。即ち個々の組成に就て個々の生成と吸收機轉を考えることが妥當であるといつた方向に進みつゝあるかに見受けられる。
 正常眼壓,延いては緑内障發生機序に就ては夫々の研究者によつて究明されつゝあるが,それにしても日常緑内障の發見とこれに對する治療の目安を得る爲には,先づ多くの場合眼壓自體を考慮しなければならない。それが爲に問題となるのな,結局眼壓計である。從來の機械的なマノメーター・トノメーターに代つて,こゝ數年來電氣的應用によつて作られた電氣賑壓計が廣く實用化されつゝあるのは畢竟その必要性に基く進歩に他ならないのである。この電氣マノメーター乃至トノメーターに就て,特にそれがどの樣な點で優れているかといつた觀點から批判しつゝ,その應用に就て概略の紹介を試みようと思うのである。

眼壓測定用電氣マノメーター

著者: 須田經宇

ページ範囲:P.859 - P.861

はしがき
 眼内壓を測定する方法にはTonometryとM-anometryとがあり,前者は主として臨床的に用いられ,後者は動物實驗の際に採用されて居る。ManometerはTonometerより精密に,而も比較的短時間内(数時間内)では持續的に測定し得る有利な點が特徴である。然しながらマノメーターは使用上に熟練を要する。
 マノメーターはその針を挿入する眼球の部位により前房マノメーターと,硝子體マノメーターとがあり,前者の方がより鋭敏であるが房水のもれる心配も大である。マノメーターの構造を大別すれば,開放式と閉鎖式とがあり,現在では前者の開放式マノメーターは比較的不正確なために使用されす,もつぱら後者の閉鎖式マノメーターが愛用せられている。之等のマノメーターは水銀柱又は水柱に連結されてその壓差を高さで讀みとるか,又は硝子管の一端に置かれている薄膜(例えばゴム膜)に壓を受けて之に附着しているヘーベルを介して煤紙上に記載させるのである。高さを讀みとることは連續的の微細の變化をみるのには不適當であり,記載させるには薄膜の慣性が大なるため速かなる眼壓の變化,例えば脈波の變化についていけない憾があること及び,煤紙上にヘーベルで記載するためヘーベルと煤紙の摩擦により記載の精密度が落ちることが考へられる。之等の二つの缺點を解決するために光線マノメーターが考えられDuke-Elderによつて一先ず完成せられたのである。

自記瞳孔計について

著者: 高木健太郞 ,   眞柄三夫

ページ範囲:P.862 - P.867

緒言
 瞳孔運動研究法としては從來色々の方法があるが,未だ滿足すべきものは見當らない。瞳孔運動の正確なる描寫装置の完成は臨床的にも切に要求せられる所である。そこで當教室においても幾多の努力と研讃が重ねられ,その結果,須田(昭22)は光電池による瞳孔運動の連續的描寫法を完成して一躍この方面の研究に多大の光明をもたらした。ついで眞柄(敏正)(昭23)は光電管による自記瞳孔計を發表し直流増幅器を用いて瞳孔運動の連續的描寫に成功した。更に今回著者等は之等に種々改良を加え多くの電池を全く必要としない交流電源による直流増幅器を完成し,取り扱い上の煩雑さを取り除いた瞳孔計を作成し,瞳孔運動描寫に成功したので,ここに紹介する。

角膜知覺の研究

著者: 片山太郞

ページ範囲:P.868 - P.877

1)まえがき
 知覺に關する研究は生理學に於きましては勿論の事ですが臨床醫學方面に於ぎましても重要な問題でありまして從來より各方面に種女の研究が行はれて居ります。眼科方面に於きましても各部の知覺に就きまして詳細な報告を見て居ります。就中角膜の知覺に關しましてはMglter氏(1878)が最初に毛髪を使つて検査し角膜には觸覺温覺は存在するが痛覺は無いと述べ,次にFrey(1894)氏は自作の刺戟毛を用いて測定し角膜には壓覺は無く痛覺のみが存在すると報告しました。之に対してNarel氏(1895)は消息子,硝子棒等を用いて検査を行い角膜には痙痛を感じない觸覺が存在する事を確め,v.Frey氏の説を反駁しました。其後兩者の説に夫々賛成する學者が續出しまして角膜の知覺に就きましては永く論爭されて來ました。我國に於きましては酒井氏(1914)が直径O.1mmの頭髪及び小猫の毛で作つた毛筆を用い角膜には壓覺と痛覺が共に存在すると報告し,石津氏(1922)は38種の毛を用いて健康眼と脚氣患者の角膜の知覺を比較測定しました。以上は角膜知覺の研究の大略を申したものですが初期の研究は專ら定性的な研究が行はれて居り其後漸次定量的に測定する様になつて來ました。

筋電圖測定

著者: 伊藤忠厚

ページ範囲:P.879 - P.885

 運動は骨骼筋の收縮によつて惹起される事は言をまたない所である。しかしながら,これらの觀察に當つて,特に微細な運動に於ては肉眼的觀察の不可能なる場合が多く,又この場合,如何なる骨骼筋が,これに關與しているかを知る事は難かしい事である。又異常運動が行はれる場合,如何なる筋肉が如何に作用しているか,これらの筋肉が如何なる状態にあるかを知る事は仲々困難な事である。これらの問題に對して1つの解決の道標を與えてくれるものに筋電圖がある。即ち筋電圖は,骨骼筋が如何なる形式にせよ收縮を惹起する場合,これに伴つて現はれる動作電位を誘導記録したものであり,Piperによつて1912年始められたこの研究が,Adrian及びBronkの同心型電極の應用によつて一段と發展をとげ,現在諸外國に於ては,心電圖,腦波と共に,一般開業醫にとつても必要なものとされるに至つて居り,これら筋電圖から其の筋肉の状態を知り,又その背後にある運動神經系の活動状態を知る事が出來,疾病の診斷,經過,治療に對し,重要な補助的な役割を果している。我が國に於いても,最近,時實,津山氏等の基礎並に各種疾患時の筋電圖的研究が急速に發展を遂げ,今や,基礎醫學,臨床醫學,體育,運動,人類,畜産等の各分野にわたつて活發な研究及應用が行はれている。

Hyaluronidaseの眼科的應用

著者: 淺山亮二 ,   岸本正雄

ページ範囲:P.886 - P.894

第1章 Hyaluronidaseに就て(淺山)
 Hyaluronidaseは1928Duran-Reynals,1931Mc Leanに依つて牛睾丸から抽出せられ組織の透過性を充進せしめるものとして紹介せられたもので,擴散因子(Spreading factor)浸透因子(Diffusing factor)或はReynal's factorと呼ばれていた。其後1934Meyer & Runeは肺炎菌がHyaluronic acidを水解する酵素を有する事を知ったが,此酵素は相蹤いで葡萄状球菌,溶血性連鎖状球菌,ウエルシユ菌等に發見せられHyalu-ronidaseと命名せられた。1939に至つてChain& Duthieはヒアルロニダーゼは擴散因子と同一物であると發表し,其賛成者も現われた。兩者は多少の異る點も見られるが,略々同一視しても差支え無かろうと思われる。
 ビアルロニダーゼ(廣い意味に於て此名稱を使用するならば)は哺乳動物の睾丸に最も多く含まれ,粘液,脾,皮膚,虹彩,毛樣體等に含まれている。又肺炎双球菌,溶血性連鎖状球菌,葡萄状球菌,ウエルシユ菌,蛇毒にも含まれている。此酵素の作用は,ヒアルロン酸を水解してdepoly-merizeしAcetylhexoseamineを遊離しつつ粘稠度を低下せしめる。PH4.6〜4.7が最適であるとせられ,組織内壓亢進なる機械的刺戟が此作用を著しく促進する,或は必須條件であると謂われる。

眼精疲勞の特種型

著者: 萩原朗

ページ範囲:P.895 - P.897

 眼科學の教科書を見ると,「眼精疲労には症候性眼精疲労,調節性眼精疲労,筋性眼精疲労及び神經性眼精疲労の4つがある。」と書いてあるのをよく見る。若し之が,眼精疲労は之等4種のものに分類せられるので,他のものは考えられないという意味で書かれてあるならば間違いである。只,「この4種のものが分つて居る。」の程度に解しなくてはならない。現にアニサイコニアに因る眼精疲労が,近年大いに喧傳せられて居る位である。
 又眼精疲労の分類も,も一度吟味して見る必要がある。眼精疲労が科學的の検索を初めてなされたのは,前世紀の中頃過ぎ,v.Graefeが内直筋作用不全に因る輻輳機能の缺陥が,眼痛,流涙,頭重感,頭痛等の症状を起すべきことを示唆し,Dondersが之等の症状の原因が,又眼の光學的の缺陥殊に調節作用の異常に潜むことを發見,合理的な治療法を施す必要のあることを強調した頃であると考えてよい。爾來,獨英米の學者によつて,屈折状態,調節,輻輳,眼位等の研究が旺んに行われるに連れて,それらの病理學的半面である眼精疲労が必然的に取上げられ,歩調を合せて検索を受けて來たのである。

白内障とビタミンC

著者: 宇山安夫 ,   荻野周三

ページ範囲:P.898 - P.902

いとぐち
 ビタミンCの發見は他のB1,B2に比して決して新らしいものではないが,その生理的意義は他のビタミン類が解明されているにもかかわらず,全く不明と云つて良い現状である。水晶體,房水に多量のビタミンCが存在する事が判つたのもふるく1928年古武先生のビタモザツオンの研究を嚆矢とするが,現在まで生化學者,眼科學者の多數の研究がなされたにもかかわらず,現在のところ漫然とビタミンCが水晶體酸化還元に關與していると考えられているにすぎない。又白内障とビクミンCとの關係についても,水晶體溷濁時減少するビタミンCが一次的原因によるものか,二次的原因によるものかは今尚確定されてはいないのである。
 それで私等は水晶體のビタミンCをもう一度考えなおそうと思つたのである。しかもこの場合,從來の方法とは異り,最近飛躍的な進歩をとげた酵素學に立脚してこれを代謝面よりダイナミツクに把握しようとしたのである。そして幸いにも水晶體のビタミンC代謝に關して,又白内障に關しても,いささかオリヂナルに富んだ新事實を發見する事が出來た。

ビニル管長期ブジー法による涙管閉塞竝に涙嚢炎の治療

著者: 大塚任

ページ範囲:P.903 - P.905

緒言
 涙道閉塞或いに狹窄の治療として,古來ブジー挿入が行われているが,これは繰返している中に次第に癒着を強くし,かえつて高度の閉塞を來すことが屡々であり,又一時効果があつた如く見えても再び閉塞し,涙管の開通を來すことは非常に少いことは衆知である。又慢性涙嚢炎の治療として一般には涙嚢剔出が行われて居るが,これでは流涙は治らない。又流涙の殘らないToti氏手術は合理的ではあるが手術が難しく,一般には行い難い。1945年MuldoonはVitaliumでつくつた管を鼻涙管にはめ込んで,涙嚢炎を治癒せしめる方法を考案し,昭和25年市川健三氏がこれをレヂン管に代え,これ等により,涙嚢剔出の煩雑はかなり除き得るに至つた。しかし,涙嚢炎でも容易に鼻涙管の開通しうるものがあり,かかるものは必ずしもかかる手術を要せずして,治癒せしめうる筈である。そこで私は銅線被覆に用いる鹽化ビニル管所謂エンパイヤチユーブの一種を用い,涙管閉塞に対し長期ブジー法を考案した。

レヂンチユーブによる慢性涙嚢炎手術とその後

著者: 市川健三

ページ範囲:P.906 - P.910

 眼科臨床醫報第44巻第8號に發表以後,中島,國友教授の御紹介や加藤,百々,井街氏の御追試,松原氏の御批判が發表され,又各教室及び開業されている各位の御試用を得たが,今回臨床眼科特集號に使用法並に遠隔成績に就いての報告のために貴重な紙面を提供されたことは私の最も欣びとする所である。ここに繰返しではあるが,その後氣のついた事,御教示を受けた事など總括して使用法を述べてみたいと思う。又發表以來2カ年の年月を經ているに過ぎないが,遠隔成績に就いても亦考察してみたいと思う。
 前處置として念のため細菌の検査を行い,一應ペニシリン水溶液(1cc 2000單位位)で涙嚢洗滌を前日から行つて多少でも膿を少くしておく。リピョドール等の造影劑によるレ線撮影を行つたり,消息法を行つて鼻涙管の閉塞部を知つておく事は大切であるが,涙嚢の状態を知る簡單な方法として私は次の方法を行つている。即ち消息子で下涙點から眞直ぐに鼻骨へあてて,その硬軟の感じで涙嚢の肥厚状態を察し,次にアーネルの洗滌針を下涙點に輕く挿入し,上涙點を示指で抑え,中指を輕く涙嚢部に置き,洗滌液を注入すると,中指に反動が來るからその強弱によつて涙嚢内腔の大小を推察し,手術の難易を豫測する。勿論小涙管に狹窄又は閉塞があれば手術の適應外である。

日置氏色覺計(偏光アノマロスコープ)に就いて

著者: 初田博司

ページ範囲:P.911 - P.916

まえがき
 色神の検査の目的は先天性色神異常を分類してその職業選揮を指導すると共に,後天性色神異常の性質を検討してその色神異常を生すべき疾患の診断に資するものである。
 此等の色神異常即ち色盲及び色弱の検査の方法としては從來反射光を用いる方法とスペクトル分散光を用いる方法の2つが行われている。石原氏色盲検査表の如きは前者であつて,臨床検査に際して簡易にして便利であり,後者の方式をとるものはNagel氏アノマロスコープであつて實験と色神異常の程度を數的に表現し得て精密にして確實であるという樣に夫々の特色をもつて居り,検査の深淺の必要目的に應じて何れの方法によるかを決定すべきものである。

結膜の細隙燈所見

著者: 國友昇

ページ範囲:P.917 - P.922

緒論
 我々眼科醫は皮膚科を除けば疾患の病巣を直接見得ると云う點で他の科よりも診斷學上優位に立つている。今1つ眼科に恵まれている點は血管を直接見得ると云う事である。人間の體で血管を見得る場所は色々記載されているが舌の裏を除けば他の場所では單に其の末端のみを見得るだけで我々が毎日眼底の血管を見たり結膜の血管を見たりしているのに較ぶれば其の範園に於て大變な相違がある。
 此の2つの惠まれた特長を生かす爲に我々を助けてくれているものが細隙燈であリグルストランドやトルネルの検眼鏡である。

角膜顯微鏡の構造と種類

著者: 梶浦睦雄

ページ範囲:P.923 - P.930

緒言
 現今の眼科學に於ては診斷用器械としての角膜顯微鏡が占める位置は非常に重要なもので有る。之無くしては診斷が不可能なもの,又之有るが爲に早期診斷が可能な疾患は決して珍らしく無い。それ故に日々新しい器械や附屬品が考案され,又色々の検査法が研究されて居る。然し本邦では戰爭の間に何等改善が爲されなかつたのに比べ,各國共多くの改善が實用化し,Gullstrandが初めて作つたものとは全く其の樣子を異にして居る。筆者は之等に就て簡單な解説を試み度いと思う。角膜顯微鏡は他の顯微鏡と異なる所は無い。即ち照明系(細隙燈)と觀測系(顯微鏡)及び附屬品から出來て居る。その中他と全然異なつて居るのは照明系と附屬器具で,生體眼を觀察するに適した樣に作られて居る譯で有る。之の各部分に就て必要な基本的知識を述べながら最近の動向を覗いて見よう。

妊娠中毒症と眼

著者: 田野良雄

ページ範囲:P.931 - P.937

妊娠中毒症のうち,妊娠初期の惡阻に際し認められる眼症状を別として,妊娠後半期及分娩,産褥期に於ける妊娠腎,妊娠腎臓炎,子癇前症,子癇及び常位胎盤早期剥離に際して認められる眼症状,殊に眼底變化は周知の樣に全身並に眼の診斷,豫後及び治療の上から重要である。(茲に妊娠腎臓炎と呼ぶのは既往に腎炎を經過したもの,又は既往妊娠に際し妊娠腎又は子癇のあつた經産婦で,慢性腎炎が多少共存在したと思われる婦人が妊娠したために起つたもので,「慢性腎炎+妊娠腎」と考えられる疾患である。)
 正常妊娠末期に於ても眼底検査に依り多少共網膜中心動脈狹細,ザールス氏靜脈交叉弓,乳頭周園混濁等が認められることが多い。妊娠中毒症の際には其の程度が更に著明であり,網膜中心動脈狹細及びザールス氏靜脈交又弓は特に重要である。網膜中心動脈狹細は其の全般に亙ることもあり,部分的狹細(一枝又は數枝の狹細,末梢部狹細,或は管腔の不平等)が認められることもある。之等に就てはMylius,植村,Wagener,Sc—hultz & O'Briep,Gibson.氏等の報告がある。其他動脈の蛇行,分岐角が大となり直角叉は鈍角になれるもの,動脈壁の混濁,血柱反射増強等が認められる。之等網膜動脈所見の一部は機能的變化(痙攣)であり一部は器質的變化(血管硬化)によるものであるが,兩者を區別することは分娩後の恢復状況等の經過を觀察しなければ容易ではない。

網膜血管硬化と腦

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.938 - P.947

 老年になると自然と眼球各部に色々の老人性變化を起してくることは之即ち生理的現象であつて決して病的ではない。然し中にはその變化が高度で病的と見られる場合もあるので,ここに私は自分が過去數年間に亘り注目して來た老人約500名の眼の變化,殊に網膜血管硬化と,それの身體の他器官に於ける血管硬化殊に腦血管のそれとの相互の關聯性に就いて,自分の研究を中心として考察を進めてみたい。
 普通我々が老人の眼底を觀る場合,先ず氣付くのは網膜血管の太さであり走行であると共に之に伴う色々の交叉部現象や出血白斑である。勿論ここに言う老人は所謂高血壓者をも含めた一般老人全體をさすから,この中には必然的に腎性,本態的高血壓者も含まれることは當然である。全身高血壓と網膜血管硬化像を論じたVolhard,Schieck,小柳,菅沼や,高年者の網膜血管像を論じた中泉,小松によつても明らかな通り,網膜血管硬化の状態は輕度から高度硬化迄數段階に分けることが出來るがその主なる變化は検眼鏡的には次の樣に觀察される。

最近のペニシリン療法に就て

著者: 桐澤長德

ページ範囲:P.948 - P.952

 最近,抗生物質に關する發展は愈々目ざましいものがあり,新しい有力な抗生物質が續々と登場し,ペニシリンの如き古い製藥はもはや過去のものであつて論ずる必要なしとまで極言する人もあるぐらいである。
 しかし,一般臨床家にとつては,ペニシリン(P)の利用はまだまだ捨てがたいものがあり,殊に最近の新製品は種々な特長を有して居り,この際P療法の再検討を試みることは決して無意味ではないと思う。P療法が今もなお大きな價値をもつていることは主として次の諸點に在ると思われる。

トラコーマの化學療法

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.953 - P.958

 WHOのトラコーマ會議は本年3月初旬ジュネーヴで開催された。その報告は最近まで公表を禁じられていたが,5月30日にWHOのExecutiveBoardによつて公表が許可されTechnical Rep-orts Seriesに發表されることになり,その全部又は一部の轉載が許可されたので,その大要をこゝに要約して皆樣に御知らせすることにした。なお報告書の一部はWHO Expert Committee onInternational Quarantineにかける必要上保留されているので,この部分は削除することにした。

眼疾患のコーチゾン療法

著者: 今泉龜撤

ページ範囲:P.959 - P.967

Ⅰ.緒言
 コーチゾンの眼疾患に對する應用は,Alan C.Woodsの報告を契機として,1950年來主として歐米に於て經驗され,A.C.Woodsを始めL.H.Leopold,F.H.Steffensen,Sir S.Duke-Elder 等により,既に2000例以上の症例の報告をみ,種々なる考按が試られている。本邦に於ても1951年池田氏の解説以來,生井,倉知・久保田,水川・鈴江等諸氏の豊富なる臨床經驗が誌上に見られ,本劑のdramatic abilityは,之を利用するものの齊しく讃亂を惜しまない所で,今や眼科醫にとつて藥籠必須のものとなつている。
 抑々コーチゾンの藥效に就ては,その作用がホルモン性のものか,將た又藥理作用的なものか未だ決定をみない段階にあり,その卓越した效果のよつて來る所以も,尚未定の域にある。しかし乍ら現下盛んに行はれている實驗的研究によつて,その本態の究明されるのも遠い將來ではないと思う。而してWoodsの論する如く,その主なる作用が炎症性及び滲出性状態のblocking actionであるならば,本劑は決して原因に對する治療法ではない。從つてこれを眼疾患に應用する場合,その根治或は再發防止には,各原因に對する特殊療法を夫々併用すべきである。

可動性義眼の手術に就いて

著者: 桑原安治

ページ範囲:P.968 - P.972

 第二次世界大戰を契機として義眼は硝子義眼からアクリル樹脂義眼に變り又其の可動性に就ても長足の進歩を來たした。義眼を可動性にする爲の研究は古くからなされて居つたが其等を大別すると義眼床を高くして其の運動を間接に義眼に傳達する方法と義眼臺を埋没しその義眼臺と義眼とを直接に連結せしめる直接法とがある。第二次大戰以後研究の對象となつたものは勿論直接法であつて多數の優れた業績が發表せられておる。茲には編集者の御指示により筆者の術式のみを記述し他の術式は割愛する。そして此の義眼臺埋没手術の術式は眼球の有無,眼球喪失の時期によつて各々異る。之れを大別すると4つの場合に區別する事が出來る。
 1〕眼球内容除去術を行う際に同時に施行する場合 2〕既に眼球内容除去術を行つてあるものに施行する場合 3〕眼球摘出術を行う際に同時に施行する場合 4〕既に眼球摘出術を行つてあるものに施行する場合

永久磁石を利用せる鐵片摘出用マグネツトと可動性義眼

著者: 桐澤長德

ページ範囲:P.973 - P.977

最近,永久磁石を應用したマグネツトと可動性義眼が廣く用いられるようになつたので,次に簡單に紹介することとする。(言葉の混亂を避けるために磁力による鐵片摘出用具をマグネツトとし,磁力の主體を磁石ということにする。)

可動義眼手術(ザル型)

著者: 中村陽

ページ範囲:P.978 - P.982

 今次世界大戰中の戰傷眼對策の必要に應えて,戰時中及び戰後に於ける可動義眼手術の長足の進歩は眞に目を見張るものがある。
 アメリカではGifford, Dimistry及びCutler等がこの研究に當り,又日本でも先に山本氏がアクリール酸樹脂の無刺戟性を利用し,更に桑原氏吉澤氏等が各獨自の研究をされて來ている。

最近義眼の製作法

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.983 - P.988

第1章 義眼の種類及近年義眼の進歩
第2章 プラスチツク義眼の特長及び利點

網膜色素變性症のX線療法

著者: 三國政吉

ページ範囲:P.989 - P.994

はしがき
 網膜色素變性症に對するX線照射療法としては從來眼球照射(Sgrosso 1926)間腦照射(中村正直 昭17)があつて何れも相當效果あることは認められているところであるが,頸動脈毬照射が甚だ有效に作用する事は昭和25年以來私の教室から屡々報告し來つたところである。尚又これら3者相互に比較する時は有效例數の多い事,機能増進の程度の優る事,その持續期間の長い事等何れの點に於ても頸毬照射が最も優秀である事も本年日眼總會に於て教室松元學士の報告したところである。
 ここには私の教室に於てここ數年來頸毬照射により治療した網膜色素變性症67例の成績に就て述べて見たいと思ふのであるが先づ方法,それによる成績を記し,經過及び遠隔成績等に就て遂次述べ度いと思ふ。

網膜色素變性に對する頸動脈毬摘出術の効果について—手術方法、手術後の經過及び遠隔成績

著者: 齋藤規子

ページ範囲:P.995 - P.998

 網膜色素變性の原因について現在迄に色々と述べられているが結局不明である樣に本症治療法についても從來色々の療法が行はれて居り然も何れも決定的効果を認め得ないのである。即ち從來沃度加里内服,前房穿開,虹彩切除,鹽化カルシウム液靜注を始め色々の注射,X線の眼部又は間腦照射等の方法が試みられたのであるがその結果は何れも餘り期待出來なかつたのである。然るに昭和24年兵庫醫大の井街讓博士が頸動脈毬を摘出すると効果がある事を發表されたので私共も之れを追試し從來の療法に比して遙かに効果ある事を認めた。以下此處に手術方法及び經過並びにその遠隔成績を述べて諸者諸賢の御批評を賜はれば幸いである。

網膜色素變性症の腦下垂體移植法に就いて

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.999 - P.1004

Ⅰ まえがき
 腦下垂體移植に就いてはRueder u.Wolff (1933)が尿崩症等の腦下垂體性疾患に對して始めて用いた。最近は中教授(1999)が健康人や腦下垂體性侏儒に用い發育機轉の再生を認め,また性器異常,性的神經衰弱症,老衰の防止,體質の改善等に有效であることを報告して以來樋口,吉田教授が脱毛症に利用して好成績を收めていることは既に周知のことであろう。甲状腺の實驗的移植はSchiff (1884)が,犬の腹腔内に行つたのが始めてであつて,これを人體に應用したのはVoronoffであつて,白痴の治療を試みている。
 網膜色素變性症が内分泌腺殊に腦下垂體或は甲状腺に何等かの關係があるだろうということは,奮くから想像されJohnes (1917),Lorenz (1930)は本症に甲状腺エキス,或は同ホルモンをWibaut(1931),Francosis (1934),永山(1940)は女性ホルモンを,Viallen font (1933),福留(1938),永山(1940)は腦下垂體エキス,或は同ホルモンを用いて有效であつたと報じている。

頸動脈注射療法

著者: 淸水新一

ページ範囲:P.1005 - P.1009

 頸動注では注射液が直に大腦,諸神經幹部,腦下垂體等に行く外,頸毬や洞とも關係があるから注射藥の質的,量的な違とか温度や速度でも全身反應が異り,四肢の動注とも全身血壓,血液像,血清蛋白,E.K.G.,眼壓,腦脊髓液壓や眼の臨床的所見等で差異がある事は既報の通りである。
 だが吾々眼科醫が動注をするなら必然的に頸動脈,内頸動脈更には眼動脈という事になるが,腦や網膜の樣に終末動脈では藥物の腦や神經えの特殊作用を除いても栓塞等を起した時影響が大きいから,他部での動注よりも或程度冐險的だという事になる。吾々が此を犯し,患者には首の注射という事で一種の危惧と恐怖の念を抱かせて迄も頸動注をするには,筋肉や皮下は勿論靜注に較べて何か勝つた所,動注でなければ治癒,輕快が困難だとか更には特效を奏するといつた所がなくてはならない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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