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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科60巻13号

2006年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

屈折矯正手術に役立つ眼光学(1)―ザイデルとゼルニケの波面収差表現

著者: 大沼一彦

ページ範囲:P.1995 - P.2000

 波面センサーによって眼光学系の光学特性を波面とそこから導かれる網膜上の点像で理解する時代になった。現在,波面収差の表現にはゼルニケ多項式が用いられている。一方,眼光学では,収差はザイデルの5収差として勉強してきているため,ゼルニケ表現に戸惑いを感じている方がおられると思われる。その間をつなぐことができれば,より収差に対する理解が深まり,ゼルニケの収差表現が有効に利用されることが期待できる。

眼科図譜348

地図状脈絡膜症の1例―長期経過

著者: 青山さつき ,   岡本紀夫 ,   三村治

ページ範囲:P.2002 - P.2004

緒言

 地図状脈絡膜症(geographic choroidopathy)の診断は,特徴的な眼底所見が認められれば比較的容易である。この疾患の眼底所見は,主に後極部を中心に境界鮮明な灰白色の病巣を呈する。そして,この病巣は数か月で萎縮病巣に変化する。しかしながら,未だその原因は不明であり1),治療法に関しても確立したものはない1~3)。今回筆者らは,発症時から22年という長期の経過を観察できた貴重な症例を経験することができたので報告する。

日常みる角膜疾患45

兎眼性角膜症

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.2006 - P.2007

症例

 患者:30歳,女性

 主訴:右眼視力低下,右眼閉瞼不全

 現病歴:1998年に右聴神経腫瘍を指摘され,同年に開頭腫瘍摘出術を施行された。手術後から顔面神経麻痺による右眼閉瞼不全が出現したために神奈川県内の大学附属病院眼科を受診した。右眼の兎眼性角膜症と知覚麻痺性角膜炎を指摘され加療されたが右眼の視力低下が増悪したために,精査・加療目的で1999年3月に当科を紹介され受診した。

 既往歴・家族歴:特記事項はない。

 当科初診時所見:視診により右側の口角の低下,浅い鼻唇溝に加え,右眼の閉瞼不全,結膜充血,下眼瞼の外反がみられた(図1a)。また正面視では右前頭部の皺寄せがみられなかった(図1b)。視力は右眼0.01(矯正不能)であった。右眼角膜の中央からやや下方にかけて角膜上皮びらんがあり,血管侵入を伴った角膜実質性の混濁もみられた(図2)。涙液分泌試験(シルマーI法)では涙液分泌の低下はみられなかった。角膜知覚検査では右眼の角膜知覚の有意な低下がみられた。

眼形成手術手技22(最終回)

上眼瞼皮膚切除術

著者: 久保田明子 ,   野田実香

ページ範囲:P.2008 - P.2014

はじめに

 眼瞼皮膚は老化により徐々に弾性を失い弛緩する。老人性皮膚弛緩症は,皮膚弾力の減少に重力の影響が加わって起こる。上眼瞼皮膚切除術は,この皮膚弛緩が原因で視機能的に問題が生じている場合に皮膚を切除する治療である。また東洋人は上眼瞼の皮下組織が豊富なため,これにより腫れぼったい眼瞼を呈していることがある。このような整容的な観点からもこの術式が選択されることがある。

 治療に対する十分な理解が得られた場合には,両側を一度に手術してもよい。左右のバランスを考えながら両側同時に計画できるため,筆者は可能な限りそのようにしている。患者が明らかに美容目的と考えている場合には,美容外科への受診を勧めるべきである。

眼科医のための遺伝カウンセリング技術・2

遺伝カウンセリングの目標と準備

著者: 千代豪昭

ページ範囲:P.2017 - P.2025

はじめに

 遺伝カウンセリングの方法や技術を学習する前に,まずカウンセリングについての一般的な理解を深めていただきたい。カウンセリングの目的について考えてみよう。

 もともとカウンセリングは精神医療の一領域として誕生した。何度か映画化されたブラムストーカーの「ドラキュラ」の場面から,19世紀後半の精神医療の姿が想像できる。当時は細胞学など近代的な科学が芽生えて発達しつつあった時代で,精神病についても多くの研究が行われ,治療が試みられた時代であった。しかし人間の精神領域を対象とするこの分野は,治療といってもその多くはとても科学といえるものではなかった。このような時代にフロイト(S. Freud, 1856~1939)の精神分析が登場して初めて精神医学は近代医学の仲間入りをしたともいえよう。精神分析は患者の自己を解体して再構成させるという外科治療に匹敵するもので,訓練された精神科医が担当すべきものとされた。このようなときに心理学者であるロジャース(Carl R. Rogers, 1902~1987)は新しい自己理論(次回に取り上げる予定)を唱え,カウンセリングという技法を提唱した。おそらくは多くの統合失調症や重症の気分障害には効果がなかったであろうが,軽いうつ的な状態やノイローゼと呼ばれた神経症には効果的であった。しかもカウンセリングは精神分析と違って,精神医学に通暁した医師でなくても実施が可能であった。このように最初は精神治療がカウンセリングの主な目的であったのである。

 しかし,新しく登場した薬物療法が精神医療に導入されてからは,精神病治療としてのカウンセリングの役割は薄れ,カウンセリングは心理学者たちによって,独自の地位を築いていった。厳密には心理カウンセリングと呼ばれ,第二次世界大戦後のアメリカを中心に全盛時代を迎え,次々に新しい理論や技法が開発された。カウンセリングの理論は精神医療の延長上ともいえる心理臨床の現場や教育の現場,はては商業活動まで応用されている。

 遺伝カウンセリングがわが国に導入された当時は情報提供や人類遺伝学の理論を応用した分析が中心で,人類遺伝学の研究者や医師により行われたため「遺伝相談」と呼ばれた。しかし,遺伝相談は教育的な介入を行う機会が多く,クライエントの自律的な意思決定を援助したり,本稿で取り上げる好ましい行動変容をめざす行為は単なる相談業務というよりカウンセリングに近い技術であり,専門的なトレーニングを積んだ医師や専門職のカウンセラーが担当するようになってからは「遺伝カウンセリング」と呼ばれるようになった(コラム)。

 遺伝カウンセリングは決して心理カウンセリングの一領域ではないが,カウンセリングの技法を利用したり,心理カウンセリングの理論から学ぶところが少なくない。コラムで紹介したように遺伝カウンセリング技術を学ぶためにはまず理論から勉強するのが近道と考えている。

 さて,心理療法に近い理論まで含めると,現在はおそらく50を超えるカウンセリングの理論が現場で活用されている。遺伝カウンセラーはいろいろな理論や技術を応用して日常の「カウンセリング」に対応しているが,遺伝カウンセラーを養成する立場からは,私はまずロジャースの理論を教育している。ロジャースの理論は心理専門職でない医療従事者が医療現場で用いやすいことと,カウンセラーの基本的態度を学ぶのに適しているという特徴がある。具体的なロジャースの理論やカウンセリング技術を紹介するのは次回以降に回して,今回は遺伝学的な問題を抱えたクライエントの心理特性を把握(アセスメント)し,どのような行動変容にもっていくべきかという「カウンセリングを行う前段階の準備」に必要な理論を紹介したい。

臨床報告

Stage分類を用いた特発性黄斑円孔の手術予後の検討

著者: 井上由希 ,   中馬智巳 ,   中馬秀樹 ,   直井信久

ページ範囲:P.2055 - P.2058

要約 目的:特発性黄斑円孔の手術成績をその病期と連関して評価すること。症例と方法:過去39か月間に手術を行った特発性黄斑円孔94例103眼を検索した。光干渉断層計(OCT)を使い,Gassの新分類に基づいて病期を判定した。術後視力で手術の成績を評価した。結果:黄斑円孔の病期は,stage 1が1眼,stage 2が44眼,stage 3が25眼,stage 4が23眼であった。病期別の術後相乗平均視力は,stage 1が0.8,stage 2が0.66,stage 3が0.5,stage 4が0.32であり,病期と術後視力との間に有意な相関があった(p<0.005,ANOVA)。結論:Gassによる特発性黄斑円孔の新分類は臨床病理学的な面を反映し,術後視力の推定に有用である。

角膜穿孔に至ったフザリウムによる角膜真菌症に術後ボリコナゾールが有効であった1例

著者: 加藤葵 ,   本間龍介 ,   井上順 ,   椋本茂裕 ,   上野宏樹 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.2059 - P.2062

要約 目的:術後の角膜穿孔に対してボリコナゾールが奏効したフザリウムによる角膜真菌症症例の報告。症例と経過:60歳女性が左眼の充血と眼痛で受診した。結膜充血が主な異常所見であり,結膜炎と診断した。3週間後に症状が悪化し,左眼に周辺部角膜潰瘍があった。潰瘍が急速に拡大し,角膜擦過物の培養でフザリウムが検出された。悪化から4日後に抗真菌薬であるフルコナゾールとピマリシンによる治療を開始した。22病日に角膜が穿孔し,結膜被覆術を行った。その後ボリコナゾールの点滴と点眼を行い,病変は鎮静化し,被覆部以外の角膜が透明化した。結論:ボリコナゾールはフザリウムによる角膜真菌症に対して奏効することがある。

緑内障患者に対するGoldmann圧平眼圧計とICare(R)眼圧計での眼圧値の検討

著者: 夏目恵治 ,   湯川英一 ,   竹谷太 ,   松浦豊明 ,   名和良晃 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.2063 - P.2065

要約 目的:緑内障眼でのGoldmann圧平眼圧計とICare(R)眼圧計(以下,ICare)による測定値の比較。対象と方法:ICareで21mmHg以上を示した緑内障または高眼圧患者32例44眼を対象とした。男性14例,女性18例であり,年齢は18~73歳(平均54歳)であった。結果:圧平眼圧計による測定値xは平均25.2mmHg,ICareによる測定値yは平均25.7mmHgで,両者間には有意差がなく,単回帰分析でy=0.8541x+4.1747の正の相関があった。38眼(86%)で両測定値の差が3mmHg以内であり,(y-x)は0.41±2.30mmHg(平均値±標準偏差)であった。結論:圧平眼圧計による測定が困難な緑内障または高眼圧眼に対しても,ICareはスクリーニングとして使用可能である。

頭蓋内に進展した涙腺原発と考えられるMALTリンパ腫の1例

著者: 高野しの ,   賀島誠 ,   西野真紀 ,   塩田洋 ,   久保貴之

ページ範囲:P.2067 - P.2071

要約 目的:涙腺原発と推定されるMALTリンパ腫が頭蓋内に進展した症例の報告。症例と所見:74歳女性が1年前から続く両眼の眼瞼腫脹と結膜浮腫で受診した。磁気共鳴画像検査(MRI)で頭部に腫瘍があり,両側の前頭洞,篩骨洞,蝶形洞,左涙腺背側部の眼窩内と鞍上部から左海綿静脈洞に及んでいた。両側の涙腺が腫大していた。左側涙腺腫瘍の生検でMALTリンパ腫の診断が確定した。全身検査で転移はなかった。化学療法を行い,以後20か月後の現在まで病状は安定している。結論:MALTリンパ腫は一般に悪性度が低いとされているが,これが涙腺に原発し頭蓋内に浸潤することがある。

両眼に網膜動脈分枝閉塞症が発症した1例

著者: 世古裕子 ,   岩淵美代子 ,   森田博之

ページ範囲:P.2073 - P.2081

要約 目的:両眼に網膜動脈分枝閉塞症が発症した症例の報告。症例と経過:狭心症と脳梗塞の既往がある62歳男性が起床時に左眼霧視を自覚して来院した。矯正視力は右1.0,左0.1であった。左眼乳頭から黄斑に向かう網膜が白濁し,網膜動脈分枝閉塞症と診断した。プロスタグランジンE1リポ化製剤の点滴を3日間行い,8日後に視力は0.5に改善した。初診から3週間後に網膜中心動脈閉塞症に発展し,視力が0.1以下になり回復しなかった。2年後に右眼の乳頭から黄斑下方に向かう部位に網膜動脈分枝閉塞症が発症した。矯正視力は1.0であった。プロスタグランジンE1リポ化製剤の点滴を1か月行い,アスピリンとワーファリン内服を継続した。6か月後の右眼視力は良好であった。結論:網膜動脈分枝閉塞症に対して行うプロスタグランジンE1リポ化製剤の点滴と抗凝固薬内服では,その投与期間に留意することが望ましい。

裂孔原性網膜剝離を併発したGoldmann-Favre病の1例

著者: 松川みう ,   山名隆幸

ページ範囲:P.2083 - P.2087

要約 目的:裂孔原性網膜剝離が発症したGoldmann-Favre病症例の報告。症例:17歳男性が右眼視力低下で受診した。幼時から夜盲があったという。親は血族結婚でなく,家系内に夜盲または視力不良者はいない。矯正視力は右0.03,左0.5で,右眼に耳側上方の網膜円孔から下方にかけて網膜剝離があった。両眼に,硝子体の線維状混濁と液化融解,黄斑部の反射不整,中心窩に向かう放射状の皺襞,眼底周辺部に類円形の色素斑の散在があった。網膜電図は消失型であり,光干渉断層検査(OCT)で,右黄斑部に網膜剝離,左黄斑部に網膜分離があった。経強膜手術で右眼の網膜は復位した。結論:裂孔原性網膜剝離がGoldmann-Favre病に併発する可能性がある。

アクリルシングルピースを用いた小切開眼内レンズ毛様溝縫着術

著者: 大矢康代 ,   堀尾直市 ,   谷川篤宏 ,   堀口正之

ページ範囲:P.2089 - P.2093

要約 目的:支持部が毛様溝縫着に適した構造をもつアクリル製一体型眼内レンズ(IOL)を用いた小切開IOL毛様溝縫着術の検討。対象と方法:アクリル製一体型IOLとして,支持部の先端が太く縫合糸が抜けにくい構造の,径が6.5mmのVA-65(HOYA)を使った。過去9か月間に小切開IOL毛様溝縫着術を行った15例15眼を検索した。全例が人工的無水晶体眼であった。結果:全例で視力が維持または改善した。IOLの光学部は挿入直後から瞳孔のほぼ中央に固定された。低眼圧1例を除き,IOL挿入による合併症はなかった。結論:このIOLを用いた小切開IOL毛様溝縫着術は,安全で有効であると評価される。

カラー臨床報告

CO2レーザーを使用したMuller筋タッキング法による眼瞼下垂手術

著者: 宮田信之 ,   金原久治 ,   岡田栄一 ,   水木信久

ページ範囲:P.2037 - P.2040

要約 目的:炭酸ガスレーザーを併用したMuller筋タッキングによる眼瞼下垂手術の報告。対象と方法:過去5年間に手術で矯正した眼瞼下垂160眼を対象とした。男性58眼,女性102眼であり,年齢は28~92歳(平均68歳)であった。局所麻酔の後,炭酸ガスレーザーで皮膚を切開し,さらに眼瞼挙筋とMuller筋間を剝離する。Muller筋を同定し,7-0ナイロン糸で2か所にタッキングする。効果を確認した後,皮膚縫合を行う。結果:手術は15~30分で終了した。挟瞼器は使用せず,術中の出血は少なかった。160眼すべてで眼瞼下垂が改善した。瞼裂幅は平均1.85mm拡大した。過剰矯正または角膜びらんはなかった。2眼で眼瞼下垂が再発した。結論:炭酸ガスレーザーを併用したMuller筋タッキングによる眼瞼下垂手術は安全で侵襲が小さく,確実な手術野が確保でき,皮膚を縫合する前の仮固定の状態で挙上効果を確認できる優れた術式である。

星状神経節照射の緑内障に対する効果の検討

著者: 杉山哲也 ,   小嶌祥太 ,   植木麻理 ,   廣辻徳彦 ,   池田恒彦 ,   河内明 ,   酒井雅人 ,   南敏明

ページ範囲:P.2041 - P.2045

要約 目的:星状神経節への赤外線照射の緑内障に対する効果の評価。対象と方法:眼圧コントロールが良好であるにもかかわらず,視野障害が進行した緑内障患者18例18眼を対象とした。年齢は54~84歳(平均68歳)であった。星状神経節の近傍に対する赤外線照射には直線偏光近赤外線治療器を使用し,5秒ごとに1秒の照射を10分間施行した。これを原則として週2回,6か月間継続した。眼圧,血圧,視野を測定し,施行前後に視神経乳頭血流をレーザースペックル法で計測した。結果:照射側で視神経乳頭血流が有意に増加した。眼圧は一過性に下降したが,長期的には変化がなかった。血圧は変化しなかった。ハンフリー視野は,照射側で4眼が悪化し,非照射側で7眼が悪化した。結論:星状神経節への赤外線照射で緑内障眼の視神経乳頭血流が増加し,症例により視野障害の進行が抑えられる可能性がある。

ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験

著者: 北澤克明 ,   ラタノプロスト共同試験グループ

ページ範囲:P.2047 - P.2054

要約 目的:ラタノプロストの3年間長期連用に伴う有効性と安全性の評価。対象と方法:原発開放隅角または正常眼圧緑内障140例と高眼圧症18例,計158例に対しラタノプロストを3年間投与した。男性81例,女性77例であり,年齢は27~86歳(平均58歳)であった。最終的に113例が試験実施計画に適合すると判定され,評価の対象になった。結果:投与期間中,眼圧は約3mmHg有意に下降した(p<0.01)。視野には概して悪化はなかった。眼底または隅角に臨床的に問題になる変化はなかった。3年後の虹彩色素沈着は細隙灯顕微鏡検査では41%で増加し,肉眼では1.9%で判別が可能であった。結論:3年間のラタノプロスト投与で安定した眼圧下降効果が得られた。原発開放隅角緑内障または高眼圧症では長期にわたる視野維持が期待できる。ラタノプロスト投与による虹彩色素沈着は軽微であった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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