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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科60巻2号

2006年02月発行

雑誌目次

特集 どこまで進んだ 分子病態の解明と標的治療

春季カタル―IL-4,IL-13の関与と制御の可能性

著者: 熊谷直樹

ページ範囲:P.111 - P.115

はじめに

 春季カタルは巨大乳頭の形成や角膜上皮傷害など,他の臓器のアレルギー性疾患にはみられない特徴的な病変がみられ,この疾患が単なる「眼に起こったアレルギー」ではなく眼局所の要因の強く関与した眼疾患であることを示唆している。春季カタルの病態には多くの細胞や分子が関与している。筆者らはこれらのうちTh2サイトカインであるインターロイキン(IL)-4,IL-13に注目している。これら2つのTh2サイトカインは免疫系の細胞に作用してアレルギー炎症の誘導に中心的な役割を果たしているのみならず,角結膜を構成する線維芽細胞にも作用して眼のアレルギーに特徴的な病変の病態に深くかかわっている。

前眼部の免疫―眼炎症自動制御の分子機構

著者: 堀純子

ページ範囲:P.116 - P.123

眼免疫特権の意義

 炎症は本来,病原体などの非自己を排除するために必要な生体防御反応であるが,過剰な炎症は正常な自己組織まで破壊するため,自己にとって不利益な結果をもたらす。眼には免疫特権(immune privilege)1)という特殊な性質があり,眼内炎症は自動制御されているため,他臓器に比べて眼内には炎症が生じにくく,もし生じた場合でもできるだけ組織を傷めずに自然治癒することが実は多い。動物実験では,眼の免疫特権が破綻すると,自己免疫や感染に関連した内眼炎は発症しやすく,かつ重症で治癒しにくいことが証明されている。また,臓器移植のなかでトップの成功率を誇る角膜移植も,免疫特権なしでは,心臓移植や皮膚移植と同じく高頻度で拒絶される。

 ではなぜ,眼には免疫特権があるのか。角膜内皮や網膜など生体内で再生しない組織の障害は不可逆的な視機能損失に直結し,高等動物にとって高度な生命活動の存続の危機となる。免疫特権は,眼,脳,生殖器官など,高次元の生命活動に必須の臓器のみに備わっており,臓器機能温存のための炎症制御機構と考えられている。

ヘルペス性角膜炎

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.124 - P.129

はじめに

 感染症は原因が外界から来た微生物であることが明確であり,古くから,病因となっている微生物に対していわば「標的治療」をしてきたわけであるから,「どこまで進んだ」といわれても,「標的治療なんて昔からやっている」と簡単に答えてしまいそうである。しかし,感染が生じる機構や感染によって生じる炎症の「分子病態」については,微生物側の因子,ホスト側の因子,その他の環境などの因子の3つが複雑にからみ合っているために,他の疾患,例えばホスト側の因子のみで起こる遺伝子病に比べてその機構はきわめて複雑であり,「どこまで進んだ」といわれると,逆に「まだまだこれからであまり進んでいない」ということになる。まして,「分子病態に基づく標的治療」となると,「海のものとも山のものともつかない」という状況だが,ともあれ,本稿では分子病態の研究がさかんなヘルペス性角膜炎を題材に,分子病態と標的治療の最近の動向についてレビューしてみたい。

糖尿病網膜症

著者: 鈴間潔

ページ範囲:P.130 - P.135

はじめに

 糖尿病網膜症は,まず毛細血管瘤の形成から始まり,次に血管瘤からの出血や血漿成分の漏出による網膜浮腫を生じる。さらに血栓や血球による毛細血管閉塞から網膜虚血,血管新生へと進行する。特に血管新生は,放置すると硝子体出血や血管新生緑内障を引き起こし急速に失明に至る病態である。

 これまでにさまざまな増殖因子(growth factor)が糖尿病網膜症の血管病変に関係していると報告されてきた1,2)。例えば,網膜神経細胞に含まれ,細胞が破壊されたときに血管新生を誘導する塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF),成長ホルモン依存的に網膜血管新生を制御しているといわれているインスリン様成長因子1(insulin-like growth factor-1:IGF-1),結合組織増殖因子(connective tissue growth factor:CTGF)などの他の増殖因子や細胞外マトリックスの発現を誘導することにより血管を制御するトランスフォーミング増殖因子β(transforming growth factor-β:TGFβ),内因性の血管新生抑制因子として最近有名となった色素上皮由来因子(pigment epithelium derived factor:PEDF)などである。しかしこれらの増殖因子のなかでも血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が最も重要であると現在のところ考えられている。なぜなら糖尿病網膜症の特徴的な病理学的変化である血管透過性の亢進と血管新生の両方の作用をもち,高血糖や低酸素下で発現の亢進が認められるからである(図1)。

加齢黄斑変性

著者: 大島裕司

ページ範囲:P.136 - P.143

はじめに

 加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は高齢者の黄斑部に生じる疾患であり,欧米をはじめとする先進国における高齢者の中途失明や視力低下の主原因となっている。近年,さらに増加傾向がみられるが,特効的治療法は現時点ではなく,病因解明と新しい治療法の開発が待たれるところである。

 AMDの有病率や発症率を調べるために欧米では数々の疫学研究が行われてきたが,わが国においては一般住民を母集団としたpopulation-based studyが行われているのは福岡県久山町の久山町研究のみである。この久山町研究によるとわが国においてはAMDの有病率は50歳以上の0.9%であり,そのうち脈絡膜新生血管(choroidal neovascuralization:CNV)を伴う滲出型(wet type)は0.7%,地図状脈絡膜萎縮を認める萎縮型(dry type)は0.2%であった。これら有病率から,日本人のAMDは欧米の白人の有病率よりも少なく,黒人の有病率よりも多いことが推察された1)。欧米の調査ではAMDの危険因子が数多く報告されているが,わが国では加齢,男性,喫煙が危険因子として関与していると報告されている。また,その後の追跡調査によるとわが国のAMD 5年発症率は0.8%で欧米の結果とほぼ同等であり,最近5年間でわが国のAMDは増加傾向にあることがわかる2)

 Birdら3)は,1995年にAMDに関連して,加齢に伴う黄斑の変化を加齢黄斑症(age-related maculopathy:ARM)と提唱し,その国際分類を行った(表1)。ARMを初期型(early ARM)と後期型(late ARM)に大きく2つに分類し,AMDは後期型に属する。初期加齢黄斑症とはドルーゼン,hyperpigmentation,hypopigmentationなどいわゆるAMDの前駆病変といわれているものである。後期加齢黄斑症は滲出型と萎縮型に分けられ,滲出型にはCNVが関与している。

 本稿ではAMDの前駆病変である初期加齢黄斑症を含め,加齢黄斑症の分子生物学的病態解明と治療の可能性について,筆者が留学した米国ジョンズ・ホプキンス大学での経験を交えて解説したい。

緑内障性視神経症

著者: 中村誠

ページ範囲:P.144 - P.151

はじめに

 多治見スタディで明らかになったように,40歳以上の日本人の5%は緑内障であり,また3.9%は広義の原発開放隅角緑内障(primary open-angle glaucoma:POAG)である1)。POAGは,世界的にみれば6,000万人以上が罹患する失明原因の第2位を占める疾患であり2),網膜神経節細胞(retinal ganglion cell:RGC)とその軸索の進行性不可逆性の消失を特徴とした,多因子視神経疾患である3)。POAGは他の視神経疾患とは異なり,特徴的な視神経乳頭の陥凹を形成することから,以前より,篩状板での機械的圧迫,循環障害がその原因であると論争されてきた。近年の細胞生物学的研究の進歩により,このやや抽象的な機械障害説ないし循環障害説を,もう少し具体的に論じることが可能となってきた。本稿では,グリア細胞とRGCの関連を中心に,現在推定されている緑内障性視神経症の成因と標的治療を概説したい。

連載 眼科図譜346

Shaken baby syndromeの1例

著者: 竹澤美貴子 ,   牧野伸二 ,   金上千佳 ,   金上貞夫

ページ範囲:P.154 - P.156

緒言

 揺さぶられっ子症候群(shaken baby syndrome:以下,SBS)は,乳幼児,特に1歳以下の児の胸部や四肢を持って強く揺することにより,頭頸部が動揺し頭蓋内出血と眼底出血を生じるものであり,軟部組織,骨に明らかな外傷を認めないことが特徴である1)。また日常養育行為でも生じ,虐待の自覚がないことが被虐待児症候群との相違であるとされている。今回SBSが疑われた症例を経験し,経時的に眼底写真を撮影できたので報告する。

眼の遺伝病79

CYP4 V2遺伝子異常とクリスタリン網膜症(5)

著者: 助川真里絵 ,   清宮基彦 ,   和田裕子

ページ範囲:P.158 - P.160

「CYP4 V2遺伝子異常とクリスタリン網膜症(3)」(59巻4号)では,CYP4 V2遺伝子の新規Trp340X変異を持つクリスタリン網膜症の1家系を報告した。今回は,日本人クリスタリン網膜症の高頻度変異であるCYP4 V2遺伝子のIVS6-8delTCATACAGGTCATCGCG/insGC変異をもち1,2),視機能が比較的保たれていた1症例を報告する。

日常みる角膜疾患35

角膜プラーク

著者: 福田憲 ,   熊谷直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.162 - P.164

症例

 患者:9歳,男性

 主訴:両眼視力低下,そう痒感

 現病歴:7歳頃より春季カタルの診断のもと,近医にて抗ヒスタミン点眼薬(リボスチン(R)点眼)およびステロイド点眼剤(0.1%オドメール(R)点眼)の点眼治療を受けていたが,角膜病変が遷延化するため当科を紹介され受診した。

 既往歴・家族歴:アトピー性皮膚炎,喘息,アレルギー性鼻炎

 初診時所見:視力は右0.4(0.7×S-1.50D()cyl-0.50D 180°),左0.4(0.5×S-1.50D()cyl-0.50D 90°),眼圧は右12mmHg,左13mmHgであった。細隙灯顕微鏡では両眼とも上眼瞼に強い充血,浮腫,浸出物を伴った巨大乳頭を認めた。また角膜には落屑状の点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy:SPK)と右眼には角膜プラークを認めた(図1a,b)。

 治療経過:眼瞼型の春季カタルと診断し,ステロイド点眼剤を0.1%リンデロン(R)点眼に変更し,抗アレルギー点眼薬(インタール(R)点眼)と併用して加療した。約2か月後には上眼瞼の炎症は軽減し,また角膜上のSPKは消失したため,右眼の角膜プラーク除去術を施行した。術後はフィブロネクチン点眼を併用し速やかに上皮化が得られ(図1c,d),術後4日目の右眼視力は0.5(0.9×S-1.75D()cyl-0.75D 90°)と改善した。

眼形成手術手技12

眼瞼内反症 (2)下眼瞼牽引筋腱膜縫着術

著者: 野田実香

ページ範囲:P.166 - P.171

眼瞼内反症手術のうち皮膚切開を伴うものの1つに,下眼瞼牽引筋腱膜縫着術がある。今回はこの術式について具体的に述べる。

臨床報告

ブリンゾラミドの角膜内皮への影響

著者: 井上賢治 ,   庄司治代 ,   若倉雅登 ,   井上治郎 ,   富田剛司 ,   天野史郎

ページ範囲:P.183 - P.187

開放隅角緑内障31例31眼に1%ブリンゾラミド1日2回点眼を追加し,角膜に及ぼす影響を検索した。対象は原発開放隅角緑内障18眼と正常眼圧緑内障13眼で,年齢は37~80歳,平均61歳であった。追加点眼開始から3か月と6か月後の角膜内皮細胞密度は,点眼開始前よりも有意に減少した(p<0.0001)。中心角膜厚と六角形細胞出現率には,点眼開始前と6か月後とで有意な変化がなかった。緑内障型,追加点眼開始前の眼圧とそれまでに使用していた抗緑内障薬の種類は,角膜内皮細胞密度減少率と中心角膜厚の変動に影響しなかった。1%ブリンゾラミド1日2回点眼は,点眼6か月間では角膜内皮の形状と角膜厚に大きな影響を与えないと結論される。

硝子体出血と続発緑内障を発症した瘢痕期未熟児網膜症の成人例

著者: 鈴木浩之 ,   森秀夫

ページ範囲:P.189 - P.192

35歳男性に左眼視力低下が突発し,即日受診した。生下時体重が1,280gであり,酸素の投与を受けていた。運転免許をもっていたが,右眼は弱視であったという。矯正視力は右眼0.01,左眼手動弁で,眼圧は右眼15mmHg,左眼53mmHgであった。右眼に牽引乳頭があり,瘢痕期未熟児網膜症と推定した。左眼には角膜浮腫,前房出血,硝子体出血があった。保存的治療で眼圧は正常化し,硝子体出血は消失した。発症から10日後の左眼矯正視力は0.7で,-8Dの近視があった。11か月後に左眼視力は1.0となり,無治療で以後の眼圧は安定している。左眼には牽引乳頭と出血源と推定される周辺部異常血管からの蛍光漏出と無灌流域があった。緑内障の原因として,赤血球による隅角閉塞と大量出血による硝子体腔の容積増加が推定された。成人の硝子体出血に過去の未熟児網膜症が関与した1例である。

正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果

著者: 新田進人 ,   湯川英一 ,   森下仁子 ,   名和良晃 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.193 - P.196

ラタノプロストまたはβ遮断薬を点眼している正常眼圧緑内障34例34眼に1%ブリンゾラミド,または1%ドルゾラミドを追加投与し,6か月間の眼圧下降効果を検索した。ブリンゾラミドを投与した18眼では,点眼開始前の眼圧は16.3±2.5mmHgであり,点眼開始から1か月,3か月,6か月後のすべての時点で眼圧の有意な下降があった。ドルゾラミドを投与した16眼では,点眼開始前の眼圧は16.1±3.3mmHgであり,点眼開始から6か月後のみに眼圧の有意な下降があった。これまでに知られている副作用を考慮するとき,正常眼圧緑内障に対しては1%ドルゾラミドよりも1%ブリンゾラミドが有利であると結論される。

両眼先天性水晶体欠損に対して水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した1例

著者: 長尾泰子 ,   高須逸平 ,   岡信宏隆 ,   大月洋

ページ範囲:P.197 - P.200

34歳男性が1年前からの視力低下と霧視で受診した。生来近視であったという。裸眼視力は両眼とも0.4で矯正不能であった。水晶体の下方約120°に及ぶ切断状欠損が両眼にあり,軽度の白内障があった。両眼に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行した。下方のチン小帯が疎で脆弱であることに留意して円形前囊切開を行った。水晶体切除の後,水晶体囊拡張リングを囊内に挿入して囊を拡張保持して眼内レンズを囊内に固定した。右1.2,左1.0の術後視力を得た。水晶体欠損眼での白内障手術で水晶体囊拡張リングが有用であった症例である。

実験的グリスニング発生装置の開発

著者: 松井英一郎 ,   松島博之 ,   妹尾正 ,   高橋佳二 ,   向井公一郎 ,   青瀬雅資 ,   小原喜隆 ,   吉田紳一郎 ,   吉田登茂子

ページ範囲:P.201 - P.204

アクリル性眼内レンズに正確な温度負荷を繰り返すことで,閃輝性輝点(glistening particles)を発生させる装置を考案した。眼内レンズとして20DのMA60BM(アルコン社)を37℃の蒸留水に1時間,その後25℃の蒸留水に3時間浸水させ,この操作を3回繰り返した。閃輝性輝点はそのつど再現性がある同一部位に正確に発生した。操作を重ねることで,閃輝性輝点はより短時間で発生し,同一測定時間内では発生数が増加した。この方法により,閃輝性輝点の発生状況をより詳細に観察することが可能になり,その発生機序の解析や,各種眼内レンズを比較することが期待できる。

全層角膜移植術後の原疾患別術後成績と内皮細胞密度減少率の検討

著者: 原田大輔 ,   宮井尊史 ,   子島良平 ,   笠岡政孝 ,   大谷伸一郎 ,   中原正彰 ,   宮田和典 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.205 - P.209

過去4年間に某眼科病院で全層角膜移植術を行い,2年以上の経過を観察できた167例179眼を解析した。男性65例68眼,女性102例111眼であり,年齢は平均69歳であった。原疾患は角膜白斑92眼(51%),水疱性角膜症55眼(31%),円錐角膜12眼(7%),再移植14眼(8%)などである。最終診察時に149眼(83.2%)が透明治癒していた。透明治癒率は,水疱性角膜症で73%,再移植例で43%であった。全症例での累積透明治癒率は,術後2年で92.1%,5年で75.2%であった。移植片不全例が30眼あり,拒絶反応によるものが最も多く,10眼にこれが起こった。角膜内皮細胞密度減少率は,全症例では術後1年で24.1%,2年で41.9%であり,術後1年では再移植例,2年では水疱性角膜症で減少率が有意に大きかった。

原発開放隅角緑内障に対するMolteno implant手術 第2報

著者: 小俣貴靖 ,   浜中輝彦

ページ範囲:P.211 - P.215

過去5年間に原発開放隅角緑内障7例10眼に対しMolteno implant手術を行った。男性5人,女性2人,年齢は28~73歳(平均52歳)である。それまでに平均2.1回の線維柱帯切除術が行われ,抗緑内障薬として平均3.7種の点眼薬と0.8種の内服薬を使用していた。術前の眼圧は23~50mmHg(平均32.8±9.5mmHg)であった。術後772±555日の最終診察で,眼圧は14.7±4.0mmHgであり,平均1.56種の点眼薬と0.11種の内服薬を使用していた。Molteno implantとしてsingleまたはdouble plate typeを用いたが,生存率については両者間に有意差がなかった。合併症に注意すれば,Molteno implant手術は難治性原発開放隅角緑内障に有効であると結論される。

両側性中脳傍正中部梗塞による垂直one-and-a-half症候群の1例

著者: 木村友剛 ,   柏井聡 ,   黒川歳雄

ページ範囲:P.217 - P.220

48歳男性が3か月前に複視を契機として両側の視床梗塞と診断された。複視が軽快せず当科を受診した。矯正視力は右1.5,左1.2であった。第一眼位で左上斜視があり,両眼とも水平方向には運動制限がなかった。垂直運動で,左眼は上転したが右眼は上転不良であり,両眼とも下方注視麻痺があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で両側の視床梗塞と,両側の縦束吻側間室核(rostral interstitial nucleus of medial longitudinal fascicles:riMLF)を含む中脳傍正中部梗塞があった。Skew deviationと眼球運動から,両側のriMLFの障害に加えて,左riMLFからカハル間質核と後交連を経由して対側のカハル間室核とriMLFに向かう経路が障害されたために,右眼のみの上転障害とone-and-a-half症候群が起こったと考えられた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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