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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科60巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 第59回日本臨床眼科学会講演集 (2) 特別講演

アトピー性皮膚炎における眼合併症と諸問題

著者: 臼井正彦

ページ範囲:P.442 - P.455

 わが国における戦後60年の社会ならびに住宅環境などの変化は,アトピー性皮膚炎(AD)患者の増加をもたらし,同時に本症に伴う白内障や網膜剝離などの眼合併症の増加にも大きく関連してきた。一般にADにおける眼合併症は20歳代を中心とする若年者に起きることが多く,これに起因する視機能障害は就学ならびに就業において大きな社会問題にもなっている。また,わが国におけるADの眼合併症についての報告は20世紀初頭から散発的にあるが,1980年代の前半から報告が多くなり,後半から急激に増加し,1990年代後半に最多となっている。しかし,欧米諸国におけるADに伴う白内障や網膜剝離の報告はそれほど多くないことから,ADによる眼合併症の増加は社会的にも眼科学的にもわが国における特有な現象で,ある意味では20世紀末の新興眼疾患の様相を呈しているといっても過言ではない。

 本稿では,ADにおける外眼部環境である結膜囊の常在細菌をはじめ合併症である角結膜炎,円錐角膜,白内障,網膜・毛様体病変についての諸問題を取り上げ,検討した結果を述べた。また,アトピー白内障の発生機序についての動物実験を行い,ADにみられる顔面皮疹への搔破や叩打癖が合併症発症の主因であることを強調し,眼部への搔破や叩打をしないように啓蒙した。

学会原著

23ゲージシステム硝子体手術の検討―結膜切開とトローカーシステムの比較

著者: 松鵜梢 ,   山田浩喜 ,   三島一晃 ,   北岡隆

ページ範囲:P.457 - P.459

目的:23ゲージ(G)システムによる硝子体手術の術式の検討。対象と方法:過去9か月間に3ポート法による硝子体手術を12眼に行った。内訳は黄斑円孔5眼,黄斑上膜4眼,網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫2眼,黄斑下血腫1眼である。ポート作製には5眼で結膜切開,7眼でDORC社製23Gトローカーによる経結膜的な方法を用いた。結果:すべての症例で重篤な合併症はなかった。23G硝子体カッターを使うことで周辺部の硝子体切除が可能であり,さらに23Gトローカーを使うことで25Gシステムと同様に経結膜手術が可能であった。結論:23Gシステムによる硝子体手術は黄斑疾患に対して有効かつ安全であった。

光線力学的療法を施行した滲出型加齢黄斑変性の臨床経過

著者: 尾花明 ,   郷渡有子 ,   永瀬康規

ページ範囲:P.461 - P.466

目的:滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学的療法の評価。対象と方法:3か月以上の経過観察が可能であった48眼を対象とした。年齢は51~87歳(平均70歳)である。結果:光線力学的療法から3か月後のインドシアニングリーン蛍光造影で新生血管は15眼(31%)で消失し,フルオレセイン蛍光造影で色素漏出が24眼(50%)で減少または消失した。光干渉断層検査(OCT)で黄斑浮腫が26眼(54%)で消失した。再治療として光線力学的療法が18眼,レーザー光凝固が2眼,トリアムシノロンのテノン囊内注入が1眼に行われた。平均8.9か月の経過観察後で,視力が38%で上昇,50%で不変,13%で低下した。術後出血が5眼に生じた。結論:滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学的療法で,浮腫の減少と病変の鎮静化が約半数に起こった。再発の抑制と無効例に対する対策が必要である。

真菌性眼内炎の内視鏡併用硝子体手術

著者: 岡野正 ,   松野員寿

ページ範囲:P.467 - P.471

真菌性眼内炎8例10眼に対し,内視鏡を併用する硝子体手術を行った。年齢は44~66歳(平均56歳)である。硝子体手術は経扁平部3門で行い,ファイバー式内視鏡を用いた。抗真菌薬を全身的に投与した。経瞳孔的に眼内の視認が困難でも,内視鏡による観察で手術が続行でき,基底部や毛様体部までの郭清をすることができた。術後6~72か月(平均30か月)の観察で形態的改善が8眼,悪化が2眼あった。矯正視力は5眼で2段階以上改善し,3眼が不変,2眼で低下した。内視鏡を併用する硝子体手術は経瞳孔的に眼内の視認が困難な症例でとくに有効で,硝子体や菌塊の郭清が可能であった。

正常妊娠後期に発症した中心性漿液性網脈絡膜症の1例

著者: 今義勝 ,   永富智浩 ,   西岡木綿子 ,   坂本英久 ,   矢壁昭人 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.473 - P.476

目的:正常妊娠後期に発症した中心性漿液性網脈絡膜症の症例の報告。症例:29歳の女性が初めて妊娠し,妊娠38週目に左眼視力低下を自覚した。産院での諸検査で妊娠中毒症など後期妊娠合併症は否定された。その11日後に自然分娩で正常児を出産した。その後右眼にも視力低下が生じ,出産から7日後に眼科を受診した。矯正視力は右0.15,左0.4であり,3乳頭径大の漿液性網膜剝離が両眼の黄斑部にあった。光干渉断層計(OCT)と蛍光眼底造影で中心性漿液性網脈絡膜症に相当する所見があった。その後ゆっくりと網膜剝離が消退復位した。出産から4か月後に矯正視力は右1.5,左1.2に回復した。結論:正常妊娠でも血液の生理的変化により脈絡膜循環障害が起こる可能性があり,これが本症例での中心性漿液性網脈絡膜症に関与していたと推定される。

ポリープ状脈絡膜血管症に対するトリアムシノロン併用光線力学治療の短期成績

著者: 安宅伸介 ,   河野剛也 ,   三木紀人 ,   菱田英子 ,   山本学 ,   高橋靖弘 ,   平林倫子 ,   戒田真由美 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.477 - P.482

目的:ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学的療法(PDT)の3か月後の治療成績の報告。対象と方法:ポリープ状脈絡膜血管症25例25眼を対象とした。男性18例,女性7例であり,年齢は53~82歳(平均73歳)であった。PDT10日後にトリアムシノロン4mgを硝子体内に注入した。視力はlogMARとして評価し,治療前は0.85であった。結果:3か月後の平均視力は治療前よりも0.18改善し,ポリープは20眼(80%)で消失した。異常血管網は18眼中16眼(89%)で残存し,うち6眼にPDTを再施行した。インドシアニングリーン蛍光造影では,PDTを行った範囲は,早期から中期は低蛍光,後期は正常蛍光を示した。結論:ポリープ状脈絡膜血管症に対しトリアムシノロンを併用するPDTで,3か月後にポリープが消失し視力が向上する可能性がある。

外傷の既往歴なく眼窩内壁・眼窩内容の篩骨洞側への膨隆と眼球陥凹がみられた1例

著者: 武田憲夫 ,   蓮尾金博 ,   八代成子 ,   上村敦子

ページ範囲:P.483 - P.486

目的:特発的に眼窩内壁が篩骨洞側に膨隆し,眼球陥凹が起こった症例の報告。症例:76歳男性が6か月前からの左眼の眼球陥凹で受診した。頭部への外傷や,鼻または副鼻腔手術の既往はなかった。所見:左眼には右眼よりも2mmの差がある眼球陥凹と上眼瞼下垂があった。眼球運動は正常で複視はなかった。CT検査で左眼窩の内壁と眼窩内容が篩骨洞側に膨隆していた。本人が希望せず,手術は行わなかった。結論:本症例でみられた特発的な眼窩内壁の篩骨洞側への膨隆は,加齢に伴う眼窩内壁の脆弱化が原因であると推定した。眼球陥凹にはこのような状態が鑑別診断の1つとして考慮されるべきである。

転移性脈絡膜腫瘍に対して放射線療法を行った1例

著者: 村澤牧子 ,   松本宗明 ,   馬場將至 ,   塩見浩也 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.487 - P.492

目的:乳癌に原発した転移性脈絡膜腫瘍に放射線療法を行った症例の報告。症例と経過:56歳女性が左眼の視力低下で受診した。5年前に左乳癌の全摘出術を受け,その後多発性骨転移で再発し抗癌薬で加療中であった。左眼黄斑の耳側に5乳頭径大の脈絡膜腫瘍があり,漿液性網膜剝離を伴っていた。乳癌の脈絡膜転移と診断した。以後の4か月間に腫瘍が拡大し,網膜剝離が水晶体後面に接触して眼圧が上昇した。全量30 Gyの放射線療法で腫瘍は縮小し,網膜剝離が減少した。その6か月後に硬性白斑が眼底に出現した。結論:乳癌に原発した転移性脈絡膜腫瘍に対し放射線照射が奏効したが,放射線網膜症が続発した。

中国人の格子状角膜ジストロフィ患者におけるTGFBI遺伝子の変異

著者: 田欣 ,   藤木慶子 ,   劉祖国 ,   王麗亜 ,   王微 ,   陳家祺 ,   謝培英 ,   藤巻拓郎 ,   金井淳 ,   村上晶

ページ範囲:P.493 - P.496

目的:中国における格子状角膜ジストロフィのTGFBI遺伝子を解析する。方法:11家系,患者26名,家系内正常者6名,正常者50名について,インフォームド・コンセントを得たうえで末梢血からゲノムDNAを抽出し,エクソン部分を増幅・精製後,直接塩基配列を調べた。結果:すでに報告のあるR124CとH626Rはそれぞれ6家系14名と2家系3名の患者に,新たにV505Dが1家系8名,P542Rが2家系2名に確認された。50名の正常者にはいずれの変異もなかった。結論:R124C変異は中国でも多く54.5%であった。ヨーロッパ,インドやベトナムにみられ日本には報告のないH626Rが中国で2家系みられたことは興味深い。

正常眼における調節微動高周波成分と屈折異常,眼優位性の関係

著者: 川守田拓志 ,   魚里博 ,   中山奈々美 ,   半田知也

ページ範囲:P.497 - P.500

目的:正常眼での調節微動高周波成分の出現頻度(HFC値)に対する屈折異常と眼優位性の関係の評価。対象と方法:屈折異常以外の眼科的疾患または眼疲労がない学生49名91眼を対象とした。調節微動の計測には自動屈折計(Speedy-K(R))と解析プログラムMF-1(ライト製作所)を使い,優位眼の決定には眼優位性定量装置(北里大)を使った。結果:低調節刺激によるHFC値は,近視の度数と正の相関があった(p<0.05)。眼優位性が強い被検者では,優位眼のHFC値が非優位眼よりも有意に高かった(p<0.05)。結論:HFC値は屈折異常の程度と眼優位性とに関連する。この事実は具体例での評価の際に考慮される必要がある。

同一処方者によるオルソケラトロジー治療の1年以上観察結果

著者: 前谷悟 ,   曽根隆志 ,   相田潤 ,   前谷満壽

ページ範囲:P.501 - P.507

目的:近視に対するオルソケラトロジー治療の長期効果の判定。対象と方法:近視眼35例67眼にオルソケラトロジー治療を行った。男性25眼,女性42眼で,年齢は8~39歳(平均13歳)である。近視は-3D未満が19眼,-3D以上-6D未満が37眼,-6~-13Dが11眼である。裸眼視力は48眼(72%)が0.1以下であった。全例で1年以上の経過を観察した。治療には酸素透過度が高いハードコンタクトレンズを使用し,一人の医師が処方した。裸眼視力,自動屈折計,角膜形状測定装置などで治療効果を判定した。結果:裸眼視力は60眼(90%)が1.0以上になった。治療効果は装用開始直後から現れる症例が多かった。効果は12か月以降も持続したが,21か月頃から低下してきた。装用開始から12か月の時点での角膜形状分析では,非対称成分による不正乱視が多かった。結論:オルソケラトロジー治療の効果は早期から良好であったが,20か月を過ぎてのレンズ交換が大きな課題である。

眼病変を合併したChurg-Strauss症候群の2例

著者: 佐藤章子 ,   宮川靖博 ,   高野淑子

ページ範囲:P.509 - P.514

目的:Churg-Strauss症候群に眼病変が併発した2症例の報告。症例:1例は46歳女性。気管支喘息,多発性神経炎,眼底出血の既往があった。初診時に両眼の新生血管を伴う閉塞性網膜血管炎,高IgE血症,好酸球増加があった。3か月後に両眼に肉芽腫性ぶどう膜炎,7か月後に網膜血管炎の再燃,19か月後に右網膜中心静脈切迫閉塞,2年後に左眼硝子体出血と血管新生緑内障が発症した。ステロイド内服と手術で軽快した。他の1例は40歳男性。アレルギーの既往はない。初診時に右眼眼窩内に多発性腫瘤,両側上顎洞炎,肺病変,高IgE血症,好酸球増加があり,ハウスダストIgE強陽性であった。眼窩腫瘤の生検で好酸球の著明な浸潤と血管炎の所見があった。ステロイド内服で眼・肺・副鼻腔病変が軽快した。結論:Churg-Strauss症候群では,喘息などのアレルギー疾患が先行するか否かにかかわらず,眼病変が発症することがある。

網膜下膿瘍様所見を呈した内因性眼内炎に対し早期硝子体手術が有効であった1例

著者: 矢寺めぐみ ,   安宅伸介 ,   大杉秀治 ,   河野剛也 ,   久保ちひろ ,   今本量久 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.515 - P.518

目的:内因性眼内炎に対し早期硝子体手術が奏効した症例の報告。症例:42歳男性の左眼に霧視が生じた。その10日前に左上歯肉膿瘍の排膿を受けて以来,熱発が続いていた。6日前から抗菌薬を内服していた。近医でぶどう膜炎と診断され,さらにCTで肝膿瘍が発見された。その翌日の受診時には,前房蓄膿と高度の硝子体混濁があった。矯正視力は右1.5,左0.2であった。硝子体手術を即日行い,術中に広範な網膜壊死と耳側網膜下に膿瘍形成が発見された。結果:手術の2週後から網膜の壊死部が瘢痕化し,5週後には左眼視力が1.2に改善した。結論:この症例は,内因性眼内炎に対し早期の硝子体手術が奏効することを示している。

虚血性視神経症を再三起こしたにもかかわらず視力が比較的良好に保たれた高血圧症の1例

著者: 山田晴彦 ,   山田英里

ページ範囲:P.519 - P.524

目的:急性前部虚血性視神経症を繰り返して発症したが,視力転帰が良好であった高血圧症の症例の報告.症例と経過:61歳女性が慢性腎炎のために血液透析を受けていた。初診時の矯正視力は右1.0,左0.9であり,左眼に視神経乳頭の萎縮があった。4年後に右眼視力が0.6に低下した。右眼の視神経乳頭は蒼白浮腫状で,蛍光眼底造影で色素の漏出があった。その7年後に矯正視力が右0.1,左0.9になった。両眼に水平半盲があり,急性前部虚血性視神経症を伴う高血圧脈絡膜症と診断した。その6か月後に視力が右眼0.7,左眼1.0に回復し,眼底所見は改善したが視野欠損は残った。結論:急性前部虚血性視神経症では多彩な症状が起こることがある。本例のように透析や高血圧などがあるときにはその危険が大きい。

急激な近視化を主訴とした原田病の1例

著者: 川添裕子 ,   高原真理子 ,   望月學

ページ範囲:P.525 - P.528

34歳男性が前日からの急激な近視化を主訴として受診した。裸眼視力は従来は左右とも1.5であったという。初診時には右眼に-3.5D,左眼に-3.0Dの近視があった。軽度の毛様充血と浅前房があったが,明らかな虹彩炎の所見はなかった。蛍光眼底造影で斑状の色素漏出,髄液に細胞増多があり,原田病と診断した。メチルプレドニゾロンによるパルス療法とプレドニゾロンの内服で多発性滲出性網膜剝離は軽快し,右眼+1.0D,左眼+0.5Dの遠視になった。この症例は,原田病が急性近視で初発する可能性があることを示している。

水疱性角膜症への全層角膜移植術の検討

著者: 田代紘子 ,   今村直樹 ,   山下美和子 ,   宮村紀毅 ,   北岡隆

ページ範囲:P.529 - P.532

目的:水疱性角膜症に対して行った全層角膜移植術の成績の評価。対象:過去52か月間に全層角膜移植術を行った水疱性角膜症の28症例29眼を回顧的に評価した。年齢は24~82歳(平均72歳)であり,ドナーの年齢は47~92歳(平均74歳)であった。水疱性角膜症の原因は,白内障手術15眼(52%),レーザー虹彩切開術8眼(28%)などであった。術後1~46か月(平均18か月)間の経過を観察した。結果:18眼(62%)で移植角膜の透明治癒が得られた。拒絶反応と内皮機能不全が透明治癒が得られなかった主原因であった。術前に緑内障がある症例では透明治癒率が低かった。術後合併症として緑内障が6眼(21%),拒絶反応と内皮機能不全が各4眼(14%)に起こった。結論:全層角膜移植術による水疱性角膜症の透明治癒率は低く,とくに術後合併症が問題である。

びまん性糖尿病黄斑浮腫・有硝子体眼に対するトリアムシノロン・テノン囊下注入の効果

著者: 鳥飼慶 ,   馬渡祐記 ,   岡元有己子 ,   伊藤康裕 ,   越山靖夫 ,   福島美紀子 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.533 - P.537

目的:びまん性糖尿病黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドをテノン囊下に注入し,その投与量が効果に及ぼす違いの検討。対象と方法:41例45眼を対象とした。全例が有硝子体眼であった。初回治療として,13眼にはトリアムシノロンアセトニドを20mg,32眼には40mgを投与した。20mg群では3~7か月(平均4.5か月),40mg群では3~16か月(平均6.8か月)の経過を観察した。結果:中心窩網膜厚の20%以上の減少が20mg群では9眼(69%),40mg群では24眼(75%)で起こった。2段階以上の視力改善が20mg群では5眼(38%),40mg群では20眼(63%)で起こった。21mmHg以上の眼圧上昇が20mg群で1眼(8%),40mg群で4眼(13%)に起こった。結論:糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下への注入は,20mgと40mg群ともに有効であった。20mg群では黄斑浮腫が消失しにくく,40mg群では眼圧上昇の合併が多かった。

妊娠後期に視力低下を訴えたリンパ球性下垂体炎の1例

著者: 高橋希実子 ,   宇佐美好正 ,   小出健郎 ,   堀田喜裕 ,   西澤茂

ページ範囲:P.539 - P.542

41歳女性の左眼に視力低下と変視症が生じ,中心性漿液性脈絡網膜症と診断された。その1か月後に当科を受診した。矯正視力は右1.5,左0.6であり,眼底に格別の異常はなかった。その3週後に低血糖,多飲,多尿が起こった。すでに妊娠後期であり,眼科受診から1か月後に出産した。汎下垂体機能低下症が疑われ,頭部の画像診断で下垂体腫瘤が発見された。視野検査で両耳側半盲があった。血中コルチゾールの低下があり,プレドニゾロン内服を行ったが,腫瘤は縮小しなかった。下垂体摘出術を行い,病理学的にリンパ球性下垂体炎と診断された。術後9日で視力と視野は正常化した。

ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体陽性例で左右眼に異なる視神経病変を呈した1例

著者: 高橋靖弘 ,   和田園美 ,   埜村裕也 ,   安宅伸介 ,   河野剛也 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.543 - P.547

目的:左右眼で異なる視神経症が生じたミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)陽性の症例の報告。症例:80歳男性が4日前からの発熱,聴力障害,右眼の視力障害で受診した。矯正視力は右0,左0.6であった。右眼の眼底所見は正常で,視神経乳頭に異常はなかった。左眼の視神経乳頭は発赤腫脹し,乳頭縁が不鮮明であった。血中のMPO-ANCAが軽度上昇していた。経過:副腎皮質ステロイド剤のパルス療法でMPO-ANCAは正常化した。右眼視力は3日後に0.2になり,7か月後には視神経萎縮が生じ0.01になった。左眼の乳頭発赤は消失し,視力は0.6を維持した。結論:本症例の視神経症は血管炎による可能性と,MPO-ANCAが陽性であったことと因果関係があったと推定される。このような症例では血管炎の発生部位,程度,病状が異なり,激しい視力変動が起こることがある。

急性骨髄性白血病患児にみられた急性網膜壊死の1例

著者: 平山貴子 ,   安宅伸介 ,   河野剛也 ,   鳴美貴仁 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.549 - P.552

目的:急性網膜壊死が発症した急性白血病患児の報告。症例:11歳女児の右眼視力が低下し,その翌日に受診した。5か月前から急性骨髄性白血病に対し免疫抑制薬で加療中であった。矯正視力は右0.03,左1.5で,右眼の眼底全周に黄白色滲出病巣と胞状網膜剝離があった。前房水から単純ヘルペスウイルスが検出され,急性網膜壊死と診断した。アシクロビルの全身投与を開始し,第11病日に輪状締結術とシリコーンオイル注入術を併用する硝子体手術を行った。結果:網膜は復位し,0.1の矯正視力が得られた。手術の7か月後にシリコーンオイルを抜去し,以後6か月後の現在まで経過は良好である。結論:急性骨髄性白血病の小児に発症した網膜剝離を伴う急性網膜壊死に対し,アシクロビルの全身投与と硝子体手術が奏効した。

肥厚性硬膜炎により眼球運動障害をきたした1例

著者: 上田資生 ,   林央子 ,   河野剛也 ,   三木紀人 ,   菱田英子 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.553 - P.557

目的:眼球運動障害が併発した肥厚性硬膜炎症例の報告。症例と経過:77歳男性が両眼性複視で受診した。8か月前から微熱と右眼充血があり,近医で強膜炎と診断され,副腎皮質ステロイド薬の点眼でいったん軽快していた。軽度の右眼球運動障害があった。1か月後に熱発し,右眼視力が低下し,強膜炎が再発し,眼瞼下垂と眼球運動障害が悪化した。造影磁気共鳴画像検査(MRI)で右の脳底部に髄膜肥厚があり,肥厚性硬膜炎と診断した。P-ANCA抗体が陽性であった。副腎皮質ステロイドのパルス療法後に内服漸減を行い,2か月目から免疫抑制薬を内服することで諸症状が改善した。結論:本症例の発熱と眼球運動障害は肥厚性硬膜炎に続発したと推定される。肥厚性硬膜炎の診断には造影磁気共鳴画像検査が有用であった。

人眼に6年間挿入されていた摘出アクリル眼内レンズのグリスニング評価

著者: 呉竹容子 ,   松本年弘 ,   吉川麻里 ,   重藤真理子 ,   佐藤真由美

ページ範囲:P.559 - P.563

目的:挿入してから6年後に摘出された眼内レンズ(IOL)でのグリスニング発生状況の実験的検索。症例と方法:86歳男性の両眼に超音波乳化吸引術とアクリルIOLの挿入が行われた。その6年後に右眼IOLが下方偏位したためIOLを摘出した。摘出IOLには1mm2あたり100個のグリスニングがあった。生理的食塩水に摘出IOLと同種の未使用IOLを入れ,食塩水の温度を33°から27°の範囲で変化させ,グリスニングの発生状況を観察した。結果:摘出IOLには温度変化の開始直後からグリスニングが生じ,温度が低下するにつれその量が増加した。未使用IOLにはグリスニングの発生がなかった。結論:眼内に挿入されたアクリルIOLは,長期にわたるグリスニングの発現と消失を繰り返していると構造が変わり,グリスニングが発生しやすくなる可能性がある。

外傷既往の固定内斜視に対する上直筋外直筋全筋腹通糸結紮法を施行した1例

著者: 加茂雅朗 ,   戒田真由美 ,   柏野緑 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.565 - P.569

76歳女性が左眼の固定内斜視と診断された。幼少時に左眼を木の枝で突いたという。視力は右1.0,左手動弁であった。CTと磁気共鳴画像検査(MRI)では,外直筋は下方に,内直筋は鼻側に偏位し,眼球後部が筋円錐の外に脱臼していた。眼球運動は全方向に不能であった。これに対し,上直筋と外直筋の筋腹に通糸結紮術を行い両直筋を縫着した。術後のCTとMRIでは外直筋は上方に,上直筋は耳側に偏位し,眼球後部の筋円錐外への脱臼は改善していた。眼球運動は軽度ではあるが可能になった。

マイトマイシンC点眼抵抗性の結膜上皮内癌に5-フルオロウラシル点眼が有効であった1例

著者: 有澤武士 ,   成田信 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.571 - P.575

目的:マイトマイシンC点眼後に再発した結膜上皮内癌に対し,5-フルオロウラシルが奏効した症例の報告。症例:75歳男性が左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.0,左0.5で,左眼の角膜にゼラチン様の異常上皮が伸展していた。生検で結膜上皮内癌と診断した。経過:0.04%マイトマイシンC点眼を1週間行い腫瘍が縮小した。3か月後に再増殖したがマイトマイシンC点眼で縮小した。6か月後に再発した腫瘍に対し1% 5-フルオロウラシル点眼を1週間行い,6週後に腫瘍は消失した。その6か月後の現在まで再発または転移はなく,左眼矯正視力0.9を維持している。結論:マイトマイシンC点眼に抵抗する結膜上皮内癌に5-フルオロウラシル点眼が奏効する症例がある。

中心窩下脈絡膜新生血管に対する経瞳孔温熱療法の治療成績

著者: 中西頼子 ,   今井尚徳 ,   本田茂 ,   山本博之 ,   塚原康友 ,   根木昭

ページ範囲:P.577 - P.580

目的:中心窩下脈絡膜新生血管に対する経瞳孔温熱療法の効果を検討する。対象:中心窩下脈絡膜新生血管を有する患者25名25眼。狭義の加齢黄斑変性症15眼,ポリープ状脈絡膜血管症8眼,その他2眼で,年齢は51~88歳(平均74歳)であった。結果:治療前の平均視力は0.11であり,治療1か月後で0.11,3か月後で0.10,6か月後で0.08であった。治療前後で平均視力に有意差はなかった。3段階以上の視力改善は治療1か月後で1眼,3か月後で2眼,6か月後で1眼であり,不変はそれぞれ24眼,19眼,18眼,悪化はそれぞれ0眼,4眼,6眼であった。中心窩の病巣部の厚さは治療前が523μm,1か月後が517μm,3か月後が500μm,6か月後が428μmであった(p=0.047)。4眼が再照射,4眼が他の治療を必要とした。結論:中心窩下脈絡膜新生血管に対する経瞳孔温熱療法の6か月後の評価で,70%以上の症例で視力が維持され病巣が退縮する傾向があった。

近視学童における0.5%トロピカミド点眼による屈折値の変化

著者: 長谷部聡 ,   宮田学 ,   浜崎一郎 ,   木村修平 ,   末丸純子 ,   大月洋

ページ範囲:P.581 - P.585

目的:トロピカミド点眼による屈折値の変化から近視学童の調節緊張を診断する可能性の検討。対象と方法:6~12歳の近視学童86名を対象とした。屈折の等価球面値は-1.25~-6.25Dであった。点眼には0.5%トロピカミドに0.5%塩酸フェニレフリンを加えた製品(ミドリンP(R))を用いた。屈折値は自覚的および赤外線自動レフラクトメータで測定した。結果:赤緑試験による自覚的屈折値は点眼前後で平均0.17±0.32D,自動レフラクトメータでは平均0.30±0.27Dの差で近視が軽減した。結論:ミドリンP(R)点眼で調節緊張を診断するためには,自覚的屈折検査において,近視症例の95%信頼区間である0.8D以上の幅で近視が軽減していることが必要条件である。

専門別研究会

眼科と東洋医学

著者: 吉田篤

ページ範囲:P.586 - P.591

一般演題は14題と多数の演題が寄せられた。今年は専門別研究会「眼科と東洋医学」の研究会も発足して20年目になり,10年前の1994年に「今まで発表した症例は今」と題して過去10年間の総括を行っている。その後10年経過したため再び1994年以降発表した症例の総括を予定している。

眼先天異常

著者: 野呂充

ページ範囲:P.592 - P.593

【一般講演】

1.眼瞼下垂を主訴とした慢性進行性外眼筋麻痺の1例

 山下あさひ(国立病院機構仙台医療センター)・他

 慢性進行性外眼筋麻痺(chronic progressive external ophthalmoplegia:CPEO)はミトコンドリア病の1つで,徐々に進行する眼瞼下垂と眼球運動障害を主徴とする。眼瞼下垂を主訴とした慢性進行性外眼筋麻痺の1例を報告する。症例は61歳男性。40歳頃から眼瞼下垂が出現し,徐々に進行した。46歳時と56歳時近医にて眼瞼下垂の手術を受けたが,また眼瞼下垂が出現したため2004年8月25日当科を紹介され初診となった。糖尿病の既往があり,56歳時両眼白内障手術を施行されている。家族歴として姉と母方の従妹が眼瞼下垂であった。初診時視力は右(1.0),左1.2であり,眼位は遠見・近見ともに正位で眼球運動は全方向で制限あり,下顎挙上がみられ対光反応には異常はなかった。眼瞼下垂がみられ,Bell現象(-)であった。前眼部,中間透光体,眼底には異常なく,網膜電位図も正常であった。神経内科に精査入院となり,右上腕二頭筋筋生検を施行し,Gomoriトリクローム染色変法にてragged-red fiberがみられ,チトクロームC酸化酵素染色で酵素の欠如した筋線維がみられた。循環器科の診察では異常はなかった。本例は,臨床症状はCPEOとして典型的で,網膜色素変性や心疾患もなく,Kearns-Sayer症候群には合致しない。組織診では典型的な所見が得られ,確定診断に至った。今後患者の希望を踏まえ,眼瞼の手術を検討したい。

オキュラーサーフェス―(1)眼科アレルギー研究会

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.594 - P.596

 専門別研究会オキュラーサーフェスは10月10日(月)午前に開催されたが,その前半部として第14回日本眼科アレルギー研究会が行われた。日本眼科アレルギー研究会はアレルギー性結膜疾患の疫学調査1)や診療ガイドライン2)の作成に携わった日本眼科医会眼アレルギー調査研究班(班長:大野重昭教授,当時・横浜市立大学眼科)を母体として,1992年に設立された。現在まで毎年1回の学術集会を開催してきている。当初は臨床眼科学会や中部眼科学会に付随した形で行われたり,研究会単独で開催されたりしたこともあった。第4回(1995年,宇都宮)以降は臨床眼科学会総会の期間中に開かれることになった。そして,第9回(2000年,東京)からは,現在のように臨床眼科学会専門別研究会のオキュラーサーフェスのなかで,ドライアイ研究会と合同で学術集会を行う形式となっている。日本眼科アレルギー研究会は学術集会以外に,アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準3)の制定やこの評価基準のための標準写真をまとめてきたほか,新しいアレルギー性結膜疾患の診療ガイドラインを日本眼科学会の依嘱を受けて作成し,近く発表されることになっている。なお日本眼科アレルギー研究会学術集会は日本アレルギー学会専門医制度の認定事業としての認定も受けている。

 今回の第14回眼科アレルギー研究会は「眼アレルギーの論点」をテーマとして,現在眼科のアレルギー領域でホットな話題や意見が分かれていることがらに焦点を当てた。海老原伸行先生(順天堂大学)と私がオーガナイザーを務め,4名のシンポジストの先生方に講演を行っていただいた。内容は「新しいガイドライン」,「抗アレルギー薬の医療経済」,「春季カタルはリモデリングなのか?」および「免疫抑制点眼薬の導入による臨床の変化」についてであり,以下にその概要を述べたい。

連載 今月の話題

東北大学におけるロービジョンケア

著者: 陳進志 ,   山田信也

ページ範囲:P.423 - P.427

きっかけ

 2003年1月,函館。「玉井先生,僕,仙台に戻るんだったら東北大でロービジョンケアをしたいんです。対象になる患者さんがものすごくたくさんいると思うんですけど。」「いいよ。」当時市立函館病院に勤めていた陳の勤務先移動を決めに玉井教授が訪れた冬の函館の寿司屋で,東北大学ロービジョン外来の設立は簡単に決まってしまった。

 陳は2000年より函館で,山田からほぼ毎週勉強会などを通じてロービジョンケアを学んでいた。2001年からは市立函館病院で通院患者を対象にプライマリーロービジョンケアを行っており,血液透析を必要とする網膜色素変性患者の再就職なども経験し,徐々にロービジョンケアに対する理解と自信を深めていた。しかし,函館では常に山田に相談しながらケアを行ってきたため,仙台において一人でロービジョンケアができるか,多少の不安もあった。また,小児や珍しい疾患の患者に対するロービジョンケアの経験はほとんどなかった。

日常みる角膜疾患37

ヘルペス性角膜炎(実質型)

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.428 - P.430

症例

 患者:24歳,男性

 主訴:右眼眼痛,流涙,眼脂

 現病歴:2000年頃からハードコンタクトレンズ(HCL)を使用していた。2003年2月から右眼充血,眼痛,流涙,眼脂が出現した。眼痛が増悪したために同年3月15日に近医眼科を受診し,角膜ヘルペスと診断されゾビラックス眼軟膏を処方された。しかし次第に実質浮腫が増悪したために3月27日当科外来を受診した。

 家族歴:なし。

 初診時所見:当科初診時視力は右0.01(0.02×S-6.00D),左(1.0×HCL)であった。眼圧は右20mmHg,左12mmHgであった。眼瞼皮膚には異常は認められなかった。細隙灯顕微鏡検査では右眼眼球結膜に軽度の充血を認めた。右眼角膜には中央部角膜実質に実質浮腫による混濁を認めた(図1a)。実質浮腫の部位に一致してデスメ膜皺襞がみられ,同部位に一致して内皮面には角膜後面沈着物がみられた。角膜中央部に上皮下浮腫を認め,フルオレセイン染色では上皮下浮腫に伴ってみられるdark spotを認めた(図1b)。左眼角膜には異常所見は認められなかった。前房内には炎症細胞は認められず,水晶体,硝子体,網膜には混濁などの異常所見は認められなかった。角膜知覚検査では右眼30mm(クシュボネ)と知覚の低下が認められた。

眼形成手術手技14

眼瞼内反症 (4)上眼瞼埋没法

著者: 野田実香

ページ範囲:P.432 - P.438

眼瞼前葉に過剰な正常組織があるため内反が生じていると考えられる場合,埋没法の適応となる。小切開で侵襲が少なく,術後に生じる皺の位置をコントロールしやすい反面,組織を切開剝離するわけではないので,内反矯正効果は切開法より劣る。

臨床報告

ステロイドパルス療法と放射線療法の併用療法が奏効した甲状腺眼症の3例

著者: 石橋真吾 ,   森田啓文 ,   田原昭彦 ,   岡田浩美 ,   山下美恵 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.607 - P.614

発症から5か月以内の甲状腺眼症の3例をステロイドパルス療法と放射線照射で治療した。40歳女性,71歳女性,81歳男性で,3例とも複視を訴え,甲状腺刺激抗体が高値であった。2例に甲状腺機能亢進があり,1例は甲状腺機能正常であった。2例に眼球突出と眼球運動障害があり,1例には視力障害と視神経症があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で外眼筋が著明に肥大し,外眼筋内に高信号があった。治療により,全例で視力障害,眼球突出,眼球運動障害,視神経症が改善し,それぞれ9か月,27か月,53か月の経過観察で再発はない。ステロイドパルス療法と放射線照射の併用は,甲状腺眼症の活動期に対する保存的治療として有効であった。

A型ボツリヌス毒素治療に併用したリドカインテープの効果

著者: 渡部暁也 ,   西起史 ,   西佳代

ページ範囲:P.615 - P.619

目的:ボツリヌス毒素の注射時に併用するリドカインテープの疼痛軽減効果の報告。対象と方法:23症例に本治療を行った。片側顔面痙攣の14名については,リドカインテープの併用なしで行った前回の治療と比較した。眼瞼痙攣の8名とMeige症候群1名については,片側にリドカインテープを用い,他側にTegaderm 3MTMを用いて二重盲検を行った。主観的な痛みを11段階で評価した。結果:顔面痙攣での疼痛は,リドカインテープ使用時で3.00,未使用時で7.94であり,62.2%の軽減効果があった。Meige症候群と眼瞼痙攣では,リドカインテープ使用側で3.78,対照側で8.56であり,55.8%の疼痛軽減効果があった。結論:ボツリヌス毒素の注射時にリドカインテープを併用すると疼痛軽減効果がある。

眼サルコイドーシスに対する積極的局所治療の有用性

著者: 菅原道孝 ,   岡田アナベル あやめ ,   若林俊子 ,   小島絵里 ,   渡邊交世 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.621 - P.626

目的:眼サルコイドーシスに対する副腎皮質ステロイド薬による積極的な局所治療の評価。対象と方法:過去5年間にサルコイドーシスまたはその疑いとされた72例を対象とした。男性8例,女性64例であり,年齢は14~79歳,平均54歳であった。組織診断群14例,臨床診断群26例,疑診断群32例であり,最低3か月,平均23か月の観察を行った。治療として,前部ぶどう膜炎に対してはステロイド点眼と,必要に応じ結膜下注射を行った。後部ぶどう膜炎に対してはトリアムシノロンの経テノン囊注入を行った。結果:視力には治療前後で有意差がなかった。前眼部所見では,前房細胞,角膜後面沈着物が,後眼部所見では硝子体混濁,網脈絡膜滲出斑,黄斑浮腫が有意に減少していた。診断群と疑診群ともに,治療前よりも治療後で病変の活動性が減少していた。結論:眼サルコイドーシスの大多数の症例で,副腎皮質ステロイド薬の局所投与のみで消炎が可能であった。

成人の心因性視覚障害―小児と比較した特異性

著者: 一色佳彦 ,   木村徹 ,   木村亘 ,   横山光伸 ,   正化圭介

ページ範囲:P.627 - P.634

8年9か月間に71例131眼を心因性視覚障害と診断した。内訳は20歳以上の成人33例59眼と15歳未満の小児38例72眼であり,病態の特徴,診断した根拠,推定された心因を比較検討した。小児では心因が単純で回復しやすい傾向があり,成人では心因が複雑で治癒が困難な傾向があった。心因性視覚障害は,眼または全身疾患が基礎にあり,多くのストレスが加重して治癒しにくい「高齢型」,ストレスが原因不明で治癒しにくい「不明型」,眼または全身疾患がなくストレスの原因が明確で治癒しやすい「単純型」の3群に分類できた。小児では単純型の頻度が58%であり,成人では高齢型と不明型が合わせて48%あり,単純型は30%であった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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