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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科60巻6号

2006年06月発行

雑誌目次

特集 第59回日本臨床眼科学会講演集 (4)

ドルゾラミド,ブリンゾラミド,塩酸ブナゾシンの3剤目としての効果

著者: 芝龍寛 ,   井上賢治 ,   若倉雅登 ,   井上治郎 ,   富田剛司

ページ範囲:P.907 - P.911

目的:ラタノプロストとβ遮断薬を点眼中の緑内障に対し,第3剤としての塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド,塩酸ブナゾシンのいずれかの眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討。方法:ラタノプロストとβ遮断薬を点眼中の原発開放隅角緑内障または正常眼圧緑内障39例39眼で塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド,塩酸ブナゾシンのいずれかを追加点眼した症例を対象とした。投与前と投与6か月後までの眼圧を比較した。結果:塩酸ドルゾラミドと塩酸ブナゾシン群では,追加投与前と6か月後で眼圧に差がなかった。ブリンゾラミド群では,追加投与1か月後と3か月後で有意に下降した。眼圧下降幅は,追加投与2~6か月後まで3群間に差がなかった。追加投与6か月後の眼圧下降率は,ドルゾラミドとブリンゾラミド群がブナゾシン群よりも有意に高値であった。結論:ラタノプロストとβ遮断薬を点眼中の緑内障では,第3剤としての塩酸ドルゾラミドとブリンゾラミドが塩酸ブナゾシンよりも眼圧下降効果が大きい可能性がある。

糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するトリアムシノロン後部テノン囊下投与の効果の検討

著者: 畑埜浩子 ,   尾辻剛 ,   宮代美樹

ページ範囲:P.913 - P.917

目的:糖尿病網膜症または網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下投与の評価。対象と方法:黄斑浮腫がある糖尿病網膜症20眼と網膜静脈分枝閉塞症7眼に対し,初回治療として,トリアムシノロンアセトニド20mgをテノン囊下に注射した。結果:投与前のlog MAR視力は0.74,投与後の最高値は0.5であり,有意に改善した。黄斑浮腫の持続期間が6か月以内である症例では,これ以上の症例より有意に視力の改善が得られた(p=0.0205)。原疾患の種類,浮腫の性質,後部硝子体膜剝離の有無,硝子体手術の既往の有無は視力の改善に影響しなかった。結論:糖尿病網膜症または網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下投与により視力が改善し,浮腫の持続期間が6か月以内であるときには改善が大きい。

網膜細動脈瘤破裂による黄斑部血腫の層別の視力予後

著者: 野田聡実 ,   佐藤拓 ,   堀内康史 ,   岸章治

ページ範囲:P.919 - P.924

目的:網膜細動脈瘤破裂後の視力転帰と,黄斑部血腫がある層との関連の検索。方法:網膜細動脈瘤破裂により1乳頭径大以上の黄斑部血腫が生じた症例で,3か月以上の経過観察ができた64眼を検討した。男17例,女47例で,年齢は52~88歳(平均75歳)である。結果:中心窩の出血が網膜前のみ,網膜前と網膜下出血の合併,網膜下出血のみの順に視力転帰が良好であった。網膜前出血は治療法にかかわらず視力転帰が良好であり,網膜前と網膜下出血が合併した例では硝子体手術が最も有効で,網膜下出血は治療法にかかわらず視力転帰が不良であった。結論:網膜細動脈瘤破裂に伴う黄斑部血腫は出血がある層により最終視力が異なり,それぞれに応じた治療法を考慮する必要がある。

加齢黄斑変性に対する光線力学療法

著者: 脇山はるみ ,   松本牧子 ,   北岡隆

ページ範囲:P.925 - P.928

目的:加齢黄斑変性の中心窩下脈絡膜新生血管に対する光線力学療法の成績の報告。対象と方法:光線力学療法を行い,術後9か月以上の経過観察ができた56例57眼を対象とした。男性45例46眼,女性11例11眼であり,平均年齢は72.1±8.0歳であった。新生血管の型は,predominantly classic 24眼(42%),minimally classic 16眼(28%),occult 17眼(30%)であり,病変の最大径は平均3.9mmであった。光線力学療法にはベルテポルフィンを用いた。結果:視力は24眼(42%)で改善,24眼(42%)で不変,9眼(16%)で悪化した。視力転帰が良好な症例では病変の最大径が小さい傾向があった。結論:光線力学療法により約80%の症例で視力の改善または安定が得られた。

OCTオフサルモスコープのトポグラフィモードにおける網膜厚測定

著者: 溝田淳 ,   本田美樹 ,   佐久間俊郎 ,   宮内修 ,   田中稔

ページ範囲:P.929 - P.932

目的:OCT検眼鏡による網膜厚の測定とその有用性の検討。方法:OCT検眼鏡のトポグラフィモードで正常な12眼の中心窩厚を測定した。測定時間は2秒と4秒として両測定値を比較し,さらにOCT-3000による結果と比較した。結果:測定時間2秒と4秒での中心窩厚に正の相関があった(r=0.92,p<0.01)。9眼で2秒で測定した中心窩厚とOCT-3000での中心窩厚は120~210μmの範囲にあったが,両者間に有意な相関はなかった(r=0.42,p>0.05)。結論:本装置による中心窩厚の測定では,常用されているOCT-3000による結果とは必ずしも一致しなかったが,眼底の三次元画像から任意の部位を選んでその厚さを測定できることが有用であると評価できる。

2世代にわたり治療した網膜芽細胞腫の8家系

著者: 金子明博 ,   鈴木茂伸 ,   柳澤隆昭 ,   山根隆 ,   毛利誠

ページ範囲:P.933 - P.941

1967~2005年に筆者のひとりが治療した8家系16名の親子の網膜芽細胞腫患者につき,初診時年齢,病気の進行度,治療法などを比較検討した。39年間にわたる本疾患に関する変遷としては,初診時年齢は親の世代では中央値が6か月で,子の世代では1か月であった。進行眼の病期は親ではReese-Ellsworth分類でⅤ期であり,子の世代ではⅢ期であった。初回治療としての眼球摘出は,親では50%,子では6%であった。眼球保存療法の成功率は親では57%,子では71%であり,子の世代の観察期間が短いが治療法の進歩が示唆された。子の世代での早期受診が確認されたが,親が患者で本疾患に関する知識が十分にあるはずなのに,生後すぐに受診せず平均で生後1か月である現状は問題であり,生後1週間以内に眼底検査を受けるように十分に指導を徹底すべきであるとともに,何らかの方法で親に受診を勧告する方法を検討する必要があると思われた。

Tolosa-Hunt症候群に視神経炎を合併し著明な視力低下をきたした1例

著者: 菱田英子 ,   林央子 ,   鳴美貴仁 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.943 - P.946

目的:視神経炎と視力低下が生じたTolosa-Hunt症候群1例の報告。症例と経過:31歳女性が左眼深部痛で受診した。矯正視力は右1.2,左0.8であった。4日後に左眼視力が0.08に低下し全眼球運動麻痺が生じた。Tolosa-Hunt症候群に併発した視神経炎と診断した。ステロイドパルス療法で眼痛と眼球運動障害が軽快し視力は0.7に改善したが,ステロイド中止直後に再悪化し視力0になった。再度のステロイドパルス療法とプレドニゾロン内服で病状は軽快した。以後9か月間に再発はない。結論:ステロイドパルス療法後のプレドニゾロン内服はTolosa-Hunt症候群での視神経炎の再発防止に有用であった。

全層角膜移植再移植症例の検討

著者: 今村直樹 ,   田代紘子 ,   北岡隆

ページ範囲:P.947 - P.949

目的:過去3年間に行った全層角膜移植65眼のうち,再移植を必要とした13眼の臨床像の検討。対象と方法:再移植を必要とした症例は12例13眼で,平均年齢は68.3±13.2歳であった。初回の角膜移植の原因は水疱性角膜症8眼,角膜白斑3眼などであった。検索は診療録の記載に基づいた。結果:再移植を必要とした原因は拒絶反応10眼(77%),水疱性角膜症2眼(15%),角膜混濁1眼(8%)であった。再移植で手術中の合併症が2眼に生じた。いずれも手術中の硝子体圧変動に伴うものであった。術後合併症として拒絶反応が4眼(31%),感染性角膜潰瘍,眼圧コントロール不良,結膜上皮角膜侵入が各1眼に生じた。最終的な透明治癒が6眼(46%)に得られた。結論:再全層角膜移植後の透明治癒率は低く,拒絶反応を予防ないし抑制することが望ましい。

アレルギー性結膜疾患に対する涙液中総IgEのイムノクロマトグラフィ測定法の臨床的検討

著者: 中川やよい ,   石﨑道治 ,   岡本茂樹 ,   濱野孝 ,   東田みち代 ,   福本敏子 ,   渡邉潔

ページ範囲:P.951 - P.954

目的:アレルギー性結膜疾患での涙液の総IgEを測定するためのキット(LT-01)の臨床的評価。対象と方法:アレルギー性結膜疾患と対照例153人につき,臨床診断,血清中の総IgE,LT-01による涙液の総IgEを測定した。結果:臨床診断とLT-01による陽性反応は73.6%で一致し,臨床診断とLT-01による陰性反応は100%で一致した。LT-01による検査は簡便で迅速に行うことができた。結論:LT-01による涙液の総IgEの測定はアレルギー性結膜疾患の診断に有用である。

眼サルコイドーシスにおいて網膜裂孔を生じた1例

著者: 澤田有 ,   高橋永幸 ,   山木邦比古 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.955 - P.958

目的:網膜裂孔が生じた眼サルコイドーシス症例の報告。症例と所見:60歳女性が両眼の飛蚊症で受診した。矯正視力は右1.0,左0.7であり,両眼に虹彩毛様体炎,網膜滲出斑,網膜血管炎があった。鼻尖部皮疹の生検でサルコイドーシスと診断し,ベタメタゾンの点眼を開始した。2か月後に硝子体混濁が増加し,右眼血管アーケードの上方に0.5乳頭径大の網膜裂孔が発見された。裂孔周辺には網膜血管炎によると思われる出血斑がみられ,裂孔の形成にぶどう膜炎の関与が疑われた。網膜裂孔周囲に光凝固を行い,以後の経過は良好である。結論:眼サルコイドーシスにおいて網膜裂孔を生じることがあり,それによる網膜剝離の可能性にも留意する必要がある。

外傷に伴う網膜剝離の臨床像と手術成績の検討

著者: 中西秀雄 ,   喜多美穂里 ,   大津弥生 ,   雨宮かおり ,   河本知栄 ,   松本美保

ページ範囲:P.959 - P.965

目的:外傷性網膜剝離の臨床像と手術成績の検討。対象:過去9.5年間に外傷性網膜剝離の自験例57例58眼を対象とした。男性41例42眼,女性16例16眼,年齢は12~85歳(平均46歳)である。結果:外傷は非開放性が28眼で,すべて打撲が原因であった。開放性は30眼で,破裂19眼,裂傷6眼,異物5眼であった。打撲は若年男性のスポーツ外傷が多く,破裂は高年者の転倒,裂傷と異物は壮年男性の労働事故が多かった。網膜の復位は,打撲では93%,破裂では38%,裂傷と異物では80%で得られた。外傷が非開放性であり,網膜剝離の範囲が3象限以下,術前視力が0.01以上のとき,0.1以上の最終視力が得られる率が有意に高かった。結論:外傷に伴う網膜剝離では,開放性かつ眼球破裂がある症例では予後が不良である。硝子体手術は診断的および治療的に重要である。

穿孔性眼外傷の統計

著者: 石崎こずえ ,   小幡博人 ,   牧野伸二 ,   茨木信博

ページ範囲:P.967 - P.969

目的:穿孔性眼外傷の視力転帰の検索。対象:過去3年間に治療した穿孔性眼外傷37例を対象とした。すべて片眼性であり,眼球破裂14眼,強角膜裂傷18眼,眼内異物5眼であった。結果:眼球破裂では視力転帰不良例が多く,強角膜裂傷では転帰が概して良好であった。前眼部外傷では視力転帰が概して良好であり,後眼部外傷では転帰が不良であった。眼球破裂では裂傷が直筋付着部を越えると転帰不良であった。結論:穿孔性眼外傷では,裂傷の部位,とくに裂傷が直筋付着部を越えるか否かが視力予後を決定する一因である。

大動脈瘤と大動脈解離術後に併発した眼球運動異常

著者: 石川弘 ,   古賀紀子 ,   津田浩昌

ページ範囲:P.971 - P.975

目的:大動脈瘤または大動脈解離に対する手術後の眼球運動異常の検索。対象:過去3年間に手術を行った症例のうち,術後に眼球運動異常が生じた10例を対象とした。手術では人工血管置換術を超低体温下循環停止法と順行性脳灌流法下で行った。年齢は53~70歳,大動脈瘤3例,大動脈解離7例である。結果:全例が垂直または水平注視麻痺であり,前庭動眼反射とBell現象が保存され,核上性病変に特有な所見を呈した。6例では緩除に注視を促すと麻痺方向への注視ができた。全例で注視麻痺方向への視運動性眼振の誘発はなかった。5例では視運動性眼振の刺激方向に眼球が偏位し,衝動性眼球運動障害が主体であった。画像診断で3例に前頭葉,または前頭葉と脳幹との間に病巣が確認できた。これら眼球運動異常は予後が良好であった。結論:術後の眼球運動異常は,急激な脳虚血による機能的障害である可能性が高い。

外眼筋筋電図による読書時の眼球運動の分析

著者: 前田史篤 ,   木村久 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.977 - P.981

目的:読書時における外眼筋の電気生理学的検討。対象と方法:健常成人2名を対象とした。年齢は24歳と25歳,裸眼視力は1.5であった。横書きの文章を眼前40cmに保持して読ませ,その際の両眼の水平筋の筋電図と眼球電図とを記録した。結果:眼球電図はsaccadeと固視の繰り返しによる階段状波形を呈した。筋電図ではsaccadeの発現時に各眼の作動筋に高頻度バースト放電が生じ,固視時には定振幅で持続性の放電があった。結論:筋電図にはpulse-step dischargeを反映した電気的活動があり,読書時の眼位と眼球運動の基本的な出力パターンが記録できた。

レーザー生体共焦点顕微鏡で観察した外傷性再発性角膜びらんの角膜所見

著者: 高橋典久 ,   湧田真紀子 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.983 - P.988

目的:再発性角膜びらんの形態学的検討。症例と方法:34歳男性の左眼に鉄粉が飛入し,角膜異物除去術を受けた。以後角膜上皮剝離が頻発し,受傷から7か月後に紹介され受診した。フィブロネクチン点眼と角膜上皮搔爬術で治癒した。角膜の所見をレーザー生体共焦点顕微鏡(HRTⅡ(R))で検索した。結果:処置前では,翼細胞からBowman膜にかけて微細な粒状沈着物があり,上皮細胞の不規則な配列と細胞間空隙などがあった。治癒後はこれらの異常所見が消失した。結論:観察された上皮の形態変化は再発性角膜びらんに特徴的な所見であると考えられる。生体共焦点顕微鏡は生体での非侵襲的な形態学的検討を可能にし,角膜疾患の診断と治療効果の判定で有用な補助手段になりうる。

眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討

著者: 立脇祐子 ,   前野貴俊 ,   南政宏 ,   池田恒彦 ,   植木麻理 ,   佐藤文平

ページ範囲:P.989 - P.993

目的:眼球破裂の視力転帰に関係する因子の検討。症例と方法:過去10年間に鈍的外傷による眼球破裂で加療した23例23眼を対象とした。受傷時には13眼が有水晶体眼,10眼が眼内レンズ挿入眼であった。視力転帰を,受傷後視力,水晶体の有無,眼球破裂の位置と長さと方向,脱出組織との関連について検索した。結果:有水晶体眼では,破裂創が小さい,受傷後視力が光覚以上,水晶体または網膜の脱出がない症例では視力転帰が有意に良好であった。偽水晶体眼では受傷後視力だけが視力転帰と相関した。結論:眼球破裂での視力予後の予測には,破裂創の大きさ,受傷後の視力,水晶体または網膜の脱出の有無が関係する。

LASIK術後の再近視化症例の検討

著者: 松田淳平 ,   稗田牧 ,   木下茂

ページ範囲:P.995 - P.999

目的:LASIKで良好な結果が得られ,その後再び近視化した症例の解析。対象と方法:1年以上の経過観察ができたLASIK初回手術357人688眼を対象とした。術後3か月以降に1.0以上の裸眼視力が得られ,その後裸眼視力および自覚屈折度の近視化が複数回あったものを再近視化(regression)と定義した。再近視化眼の術前危険因子を解析し,再近視化と眼軸長の変化との関係の有無を検討した。これらの解析には,非再近視化群を対照にした。結果:ドライアイなど原因が別にあるものを除いた再近視化は41眼(6.0%)に起こった。術前因子については,多重ロジスティック回帰分析で,年齢と眼軸長が再近視化と相関があった(ともにp<0.001)。術後の眼軸長延長は再近視化と相関しなかった(p=0.17)。結論:高齢と眼軸長とがLASIK後の再近視化の危険因子である。

続発緑内障を合併したAIDS関連サイトメガロウイルス網膜炎

著者: 林殿宣 ,   島川眞知子 ,   濱中輝彦 ,   豊口光子 ,   山村由紀子 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.1001 - P.1005

目的:AIDS関連サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎に強い眼内炎と続発緑内障が併発した症例の報告。症例:56歳男性が5年前に再発性の帯状疱疹を契機としてHIV陽性と診断された。Highly active antiretroviral therapy(HAART)が開始されたが,3年前に中断した。その3か月後にカリニ肺炎,CMV肺炎,CMV腸炎が発症した。HAARTを再開後,右眼に強い眼内炎を伴う汎ぶどう膜炎と緑内障が発症し,ステロイド点眼を開始した。右眼前房水中にCMVのDNAが検出され,抗CMV薬を増量した。高眼圧に対し線維柱帯切除術,硝子体混濁に対し硝子体切除術を行った。病理組織検査で線維柱帯内に新生血管と大量のマクロファージの浸潤があった。結論:AIDS関連CMV網膜炎では,強い眼内炎から続発緑内障が生じる可能性がある。

ヌンチャク型シリコーンチューブ挿入術における鼻内視鏡の重要性

著者: 芳賀照行

ページ範囲:P.1007 - P.1011

目的:ヌンチャク型シリコーンチューブ(N-ST)を挿入する際の鼻内視鏡検査の評価。対象と方法:最近15か月間にN-ST挿入術を行った涙道閉塞または狭窄がある48例50側を対象とした。鼻内視鏡で挿入前に鼻涙管の開口部の形態を確認し,下鼻道を観察しながら挿入した。39側ではN-ST抜去後3か月以上の成績を検討した。結果:鼻内視鏡検査によると鼻涙管の開口部は膜性鼻涙管が長い型が66%であり,非直視下でN-STを挿入すると誤った出口からN-STが出る危険性が高いと推定された。涙液通過障害は39側中35側(90%)で改善した。結論:N-STを挿入する際に鼻内視鏡を使うことで鼻涙管の開口部の形態が確認でき,手術成績を向上することができる。

25ゲージ経結膜硝子体手術

著者: 松下新悟 ,   内藤毅 ,   賀島誠 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1013 - P.1015

目的:25ゲージシステムを使う経結膜硝子体手術の成績の報告。症例と方法:過去26か月の間にこの方法で手術をした46眼を対象とした。同期間中に行った硝子体手術の総数は789件である。本法の特徴から,周辺部の硝子体切除を必要とせず,膜処理が血管アーケード付近にとどまるものを対象とした。内訳は糖尿病網膜症17眼,網膜上膜13眼,黄斑円孔6眼,その他であり,有水晶体眼が28眼,偽水晶体眼が18眼であった。結果:術後最高視力は59%で改善,37%で不変,4%で悪化した。術後最終視力は50%で改善,35%で不変,15%で悪化した。合併症として,術後の瘻孔形成が13眼,低眼圧6眼,Seidel現象陽性が2眼にあり,一過性高眼圧,脈絡膜剝離,網膜剝離,巨大裂孔,核白内障の進行が各1眼にあった。結論:25Gシステムを使う経結膜硝子体手術は従来の20G硝子体手術システムと同等の眼内手術操作が可能であり,黄斑手術が適応の1つになる。

増殖糖尿病網膜症に続発した黄斑円孔が自然閉鎖した1例

著者: 石原克彦 ,   濱野利果 ,   下田幸紀 ,   橋本英明 ,   高橋京一 ,   岸章治

ページ範囲:P.1017 - P.1020

目的:増殖糖尿病網膜症が進展して生じた続発性黄斑円孔が自然閉鎖した症例の報告。症例と経過:47歳男性が30年前に統合失調症,2年前に糖尿病と診断された。初診時の矯正視力は右0.5,左手動弁で,左眼に視神経萎縮,両眼に乳頭前血管新生があった。右眼に汎網膜光凝固を行った。右眼では牽引性網膜剝離が黄斑部に及び,さらに全層黄斑円孔が生じ視力は0.04に低下した。10か月後に硝子体皮質と中心窩との癒着が自然に解除された。その3か月後に黄斑円孔は自然閉鎖し,視力は0.6に回復した。結論:増殖糖尿病網膜症では,増殖膜の牽引が解除されれば黄斑円孔が自然閉鎖する可能性がある。

網膜中心静脈閉塞症から網膜動脈分枝閉塞症をきたした鉄欠乏性貧血の1例

著者: 安東秀員 ,   尾藤洋子 ,   田中康之

ページ範囲:P.1021 - P.1023

目的:経過中に網膜動脈分枝閉塞症が発症した網膜中心静脈閉塞症と鉄欠乏性貧血の症例の報告。症例と経過:47歳女性の右眼に一過性の視朦が生じた。視力は1.2で,切迫型網膜中心静脈閉塞症と診断した。その5週後に再度の発作があり,右眼視力が0.04に低下した。眼底に網膜動脈分枝閉塞症の典型的な所見があった。内科で鉄欠乏性貧血が発見され鉄剤を経口投与した。4か月後に眼底所見は正常化し視力は1.0に回復した。結論:本症例では,鉄欠乏性貧血により切迫型網膜中心静脈閉塞症が生じ,乳頭の浮腫などにより網膜動脈分枝閉塞症が発症した可能性がある。

ラタノプロストのノンレスポンダーに対するレボブノロールの投与

著者: 菅野誠 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1025 - P.1028

目的:ラタノプロストが奏効しない症例に対するレボブノロールの効果の報告。対象と方法:ラタノプロストが奏効しない10症例に対してレボブノロールを1日1回点眼し,眼圧下降効果を検討した。症例の内訳は原発開放隅角緑内障1例と正常眼圧緑内障9例であり,それぞれベースライン眼圧が高い眼を対象とした。結果:ベースライン眼圧は19.1±5.0mmHgであった。切り替え後,眼圧は1か月後16.2±2.9mmHg,2か月後15.8±3.2mmHg,3か月後15.2±4.1mmHgと,それぞれ有意に下降した。3か月後の眼圧下降率は19.8±10.0%であった。結論:ラタノプロストが奏効しない症例に対しレボブノロールは有効である。

レーザーポインターによる心因性視力障害の1例

著者: 上野あづみ ,   太田浩一 ,   村田敏規 ,   中村公俊

ページ範囲:P.1029 - P.1032

目的:レーザーポインターでレーザーを照射された後に視力障害が生じた症例の報告。症例:12歳女児が同級生に右方向からレーザーポインターでレーザーをごく短時間照射された。その直後に右眼視力低下と視野欠損を自覚した。その10日後に当科を受診した。所見:矯正視力は両眼とも1.2であり,動的視野検査で異常はなく,眼底検査,OCT,蛍光眼底造影,多局所網膜電図,頭部MRIでも異常はなかった。その後も右眼の裸眼視力低下と再現性がない視野異常を訴えたが,他覚的に異常所見はなく,レンズ打消し法で良好な視力が得られた。結論:レーザー照射が誘因となった心因性視力障害と推定される症例である。

トリアムシノロンテノン囊下注入と黄斑部光凝固を併用した糖尿病黄斑浮腫の短期経過

著者: 木村忠貴 ,   林寿子 ,   田村和寛 ,   植田良樹

ページ範囲:P.1033 - P.1037

目的:トリアムシノロンアセトニド(TCA)テノン囊下注入と黄斑部光凝固の併用による糖尿病黄斑浮腫の短期効果の評価。症例と方法:糖尿病黄斑浮腫14例16眼を対象とした。全例にTCAテノン囊下注入と,その2週または4週後に黄斑部光凝固を行い,12週以上の経過を視力と網膜厚を指標として観察した。結果:TCA注入後12週間で,視力は4眼で改善し網膜厚は約半数で減少した。視力と網膜厚,浮腫の術前持続期間と視力または網膜厚の変化にはいずれも相関がなかった。32週まで追跡できた9眼では,最終検査時には治療前まで再増悪した。9眼中6眼は血糖値不良例であった。結論:TCA注入に光凝固を併用しても,血糖不良例では視力や黄斑浮腫の永続的な改善は困難である。

クリスタリン網膜症にみられたリポフスチン眼底自発蛍光

著者: 山本学 ,   河野剛也 ,   村澤牧子 ,   小野英尚 ,   上田資生 ,   林央子 ,   安宅伸介 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1039 - P.1043

目的:リポフスチン由来自発蛍光(リポフスチン蛍光)を検索したクリスタリン網膜症の症例の報告。症例:51歳男性が近医で眼底異常を指摘された。矯正視力は右1.2,左1.5で,閃輝性黄白色小斑が眼底の後極部を中心に散在していた。所見:リポフスチン蛍光は網膜萎縮がない部位にも低蛍光斑として散在し,背景蛍光には低蛍光点と過蛍光点が混在していた。45か月間の経過中,閃輝性黄白色小斑は低蛍光または過蛍光を呈しなかった。結論:クリスタリン網膜症では異常がみられない眼底部位でも異常なリポフスチン蛍光を呈する。

斜視手術後に保存強膜を用いて眼瞼形成術を施行した1例

著者: 高橋麻穂 ,   篠田健二 ,   平石剛宏 ,   坂上達志

ページ範囲:P.1045 - P.1047

目的:過去の斜視手術後に生じた下眼瞼後退に対し,保存強膜を使う眼瞼形成術が奏効した症例の報告。症例と経過:18歳女性が下直筋fibrosisによる右眼下斜視に対し,3歳と16歳時に下直筋後転術を受けた。眼位は改善したが,下直筋大量後転による,下眼瞼後退と内反症が生じた。1年前にlower eyelid retractorsの切断術を行い,いったん改善したが数か月で再発した。これに対し,保存強膜を瞼板として使う眼瞼形成術を施行した。以後9か月間経過は良好である。結論:斜視手術後の下眼瞼後退に対し,保存強膜を使った眼瞼形成術が奏効することがある。

結膜弛緩症を伴う加齢性下眼瞼内反症に対する経皮経結膜下眼瞼牽引筋腱膜短縮術

著者: 髙松太 ,   宇多重員

ページ範囲:P.1049 - P.1053

目的:結膜弛緩症を伴う加齢下眼瞼内反症に対して考案した経皮経結膜下眼瞼牽引筋腱膜短縮術の記述と成績の報告。対象と方法:結膜弛緩症を伴う加齢下眼瞼内反症3例4眼を対象とした。年齢はそれぞれ70,76,83歳である。下眼瞼を切開し皮膚を切除したのち,結膜側より通糸して眼窩隔膜までを結紮縫縮し,同じ糸で瞼板前面へ短縮(タッキング)した。結果:術後9~14か月の観察期間中,再発ないし合併症はなく,良好な結果を得た。結論:結膜弛緩症を伴う加齢下眼瞼内反症に対し,本術式は有用である。

無水晶体・無硝子体眼に対し線維柱帯切除術施行後に遅発性脈絡膜出血をきたした1例

著者: 田中克樹 ,   額田正之 ,   齋藤了一

ページ範囲:P.1055 - P.1058

目的:人工的無水晶体・無硝子体眼に線維柱帯切除術を行い,遅発性脈絡膜出血が生じた症例の報告。症例:81歳男性が29年前に白内障手術を両眼に受け無水晶体眼になっていた。矯正視力は右手動弁,左1.5,右眼瞳孔縁に偽落屑物質,左眼に硝子体の前房内脱出があった。その4年後に左眼眼圧が上昇した。前部硝子体切除術を行い,1か月後にマイトマイシンC併用線維柱切除術を行った。翌日から脈絡膜全剝離が生じ視力が無光覚,眼圧が40mmHgになった。遅発性脈絡膜出血と診断し,手術11日目に経強膜的に脈絡膜出血を除去した。以後脈絡膜剝離は減少,軽快し,最終的に眼圧は12mmHgになり矯正視力は1.0になった。結論:脈絡膜出血の危険が高い症例への緑内障手術では,術中・術後の低眼圧に注意し,強膜弁を強めに縫合するなどの対策が望ましい。

無縫合白内障術後の鈍的外傷により虹彩が消失した1例

著者: 伊藤忠 ,   大黒浩 ,   大黒幾代 ,   石川太 ,   中澤満 ,   吉田恒一

ページ範囲:P.1059 - P.1062

目的:鈍性外傷で無虹彩症になった症例の報告。症例:56歳女性が無縫合白内障手術を受けた。その2か月後に右眼を殴打され,前房出血が生じた。1週間後に視力が1.0に回復したが,無虹彩であることが発見され,受傷から2か月後に当科を受診した。細隙灯顕微鏡検査で虹彩はなく,隅角検査で毛様体突起上に虹彩根部があるのみであった。超音波生体顕微鏡検査で,虹彩根部から索状物が白内障術創近くの角膜裏面に付着していた。結論:外傷で虹彩がその根部で離断し,白内障術創から眼外に脱出し,その後創口が自己閉鎖した可能性がある。

専門別研究会

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.1063 - P.1065

 今年の色覚異常専門別研究会は,8題の演題発表予定であったが大庭紀雄(愛知淑徳大)先生の「先天第3色覚異常を考えた症例の31年後」が所用のため行けないとの連絡が事前にあり欠題となった。来年再度演題を出していただくように世話人からお願いし承諾された。また第1演題の新色覚用語については長年にわたり本会でも検討してきたことなので,その経緯を岡島先生より演題に先立ち報告していただいた。演題7の中村先生の報告については,布村元先生(布村眼科)より追加演題があったので本報告に抄録を掲載した。全体で9題の報告があり討論も活発にあり実り多い会であった。以下に研究会の報告を記載する。

レーザー眼科学

著者: 岸章治

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 「レーザー眼科学」は例年どおり一般講演,レーザーカンファランス,特別講演の3部構成で行われた。

一般講演

 一般講演は4題あり,飯島裕幸氏(山梨大学)が座長を務めた。

 八百枝潔氏(新潟大学)らは,塩酸ブナゾシン(デタントール)による正常眼圧緑内障の視神経乳頭の微小循環をレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)によって調べた。塩酸ブナゾシン点眼前,2週間後,4週間後の視神経乳頭血流を比較したところ,SBR(square blur rate)値は点眼後に有意な増加を示した。正常眼における塩酸ブナゾシンによる視神経乳頭循環への影響は過去に報告されているが,正常眼圧緑内障眼での報告はなく意義のある報告であった。

眼窩

著者: 小出良平

ページ範囲:P.1068 - P.1070

 一般演題は8題で行われ,教育講演は神戸大学 安積淳先生による「眼窩に発生する特発性炎症性病変」という講演を行った。出席者は約40名で,活発な討論が行われた。

【一般講演】

1.眼窩減圧術後に眼筋手術を要した15例

 河野智子(オリンピア眼科病院)・他

 甲状腺眼症では,眼窩減圧術後の複視に対し眼筋手術が必要となることがある。減圧術後に眼筋手術を要した15症例につき性差,年齢,臨床所見を検討した。

 年齢の平均は46歳(29~65歳),両側の減圧術例は13例(87%),片側例は2例(13%)であった。性別では男性2例,女性13例と女性が多かった。手術は,内直筋のみが7例,下直筋のみが2例,複数筋が6例であった。術後に初めて複視を自覚した症例は全体の4割であり,術前複視のない症例では内直筋のみの手術が多かった。術前から複視のある症例では複数筋の手術が多かった。また,90%以上で内直筋後転術を施行した。

 減圧術では術後に複視が出現する可能性を患者に伝えておくことが肝要と考えられた。

連載 今月の話題

ぶどう膜炎・内眼炎診療の新しいマーカー

著者: 北市伸義

ページ範囲:P.889 - P.893

「ぶどう膜炎」という用語は,最近では炎症の主座がぶどう膜にあるもののみに用い,二次的にぶどう膜に炎症が及ぶ疾患を含める際には「内眼炎」という用語が用いられるようになった。実際の臨床で診断や治療方針の決定に苦慮することの多いこれらの疾患のうち,Behçet病,サルコイドーシス,原田病の診療に役立つ最新の血液検査マーカーを3つ紹介する。

日常みる角膜疾患39

後部円錐角膜

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.894 - P.896

症 例

 患者:56歳,男性

 主訴:右眼視力低下

 現病歴:20歳の頃から右眼にハードコンタクトレンズを使用していた。30歳の頃,右眼の視力低下を自覚し近医を受診したところ両眼の円錐角膜を指摘された。以後特に加療せずにいたが,50歳頃から右眼の視力低下が著明となり再度別の近医を受診,上記診断名で角膜移植術を希望して2001年11月に当科を受診した。

 既往歴:発作性のめまい

 家族歴:なし。

眼形成手術手技16

眼瞼下垂―(2)挙筋腱膜縫着術

著者: 野田実香

ページ範囲:P.898 - P.904

 挙筋腱膜縫着術は,上眼瞼挙筋が瞼板から外れている病態に対し,挙筋腱膜を縫着する手術治療である。さまざまな方法があるが,ここでは挙筋の短縮やミュラー筋の前転は行わずに挙筋腱膜の縫着のみを行う方法を紹介する1~5)

 文中の“white line”とは眼窩隔膜が挙筋腱膜と接続する部分のことで,白くしっかりとした組織なのでこのように呼ぶことがある6,7)。多くの文献では,これは「挙筋と眼窩隔膜との接合部」や「腱膜の巻きあがった端8)」などと表現されるのみである。しかし挙筋腱膜を露出する際に眼窩隔膜を white line 直上で切開するなど,術中の指標として繰り返し出てくる重要な組織であるので,今回はこの用語を使わせていただいた。さらにそのすぐ上に低位横走靭帯(lower-positioned transverseligament)が走行しているとする説や7,9),特に横走靭帯との関連については述べていない文献など,挙筋遠位端の解剖に関してはさまざまな意見が交わされている。手術のための臨床解剖と組織学的裏づけは一致するべきであるが,混沌としているところもあり,今回は臨床解剖を優先して執筆していることをご理解いただきたい。

臨床報告

外側膝状体出血により水平区画半盲を呈した1例

著者: 藤原一哉 ,   鳥井康司 ,   田口朗

ページ範囲:P.1079 - P.1082

65歳女性が脳内出血を発症した。同時に両眼霧視を自覚し,その10日後に受診した。視力は正常で,前眼部と眼底に異常所見はなかった。視野検査で固視点から水平経線を挟んで左方に広がる同名性視野障害があった。頭部の画像診断で右側の外側膝状体部に出血巣が発見され,これによる水平区画半盲と考えられた。この視野障害の成因には,視索から外側膝状体を経て前部視放線に至る神経線維の走行と,外側膝状体での血管支配の形態が関与している。

中心暗点をきたした両側後頭側頭葉障害による相貌失認の1例

著者: 三木淳司 ,   高木峰夫 ,   谷本直之 ,   植木智志 ,   臼井知聡 ,   長谷川茂 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.1083 - P.1086

64歳男性が人の顔が判別できないことを自覚し,両側の後頭葉梗塞と診断された。自覚症状が生じてから17か月後に受診した。矯正視力は左右眼とも0.1pで,固視点から5°以内の範囲に中心暗点があった。自分を含む人の顔が判別できなかったが,視覚による身の回りの物体の認識には異常がなかった。磁気共鳴画像検査(MRI)で両側の後頭側頭葉に梗塞巣があり,左脳よりも右脳の障害が強かった。眼科関係の所見は以後もほぼ変化がなかったが,初診から4年後に急性心筋梗塞で死亡した。後頭葉から側頭葉にかけての病変が相貌失認の原因であったと推定されるが,中心暗点は稀有な併発病変である。

間質性腎炎患者に発症した進行性網膜外層壊死の1例

著者: 井上裕美 ,   高野雅彦 ,   河合裕美 ,   市邊義章 ,   清水公也

ページ範囲:P.1087 - P.1090

目的:間質性腎炎患者に発症した進行性網膜外層壊死の報告。症例と経過:68歳男性が2年前に間質性腎炎と診断され,副腎皮質ステロイドの全身投与を受けていた。1か月前に帯状疱疹が頭部と足に発症した。2週前からの左眼視力低下と両眼の視野狭窄で受診した。矯正視力は右1.2,左0.02であり,前房と硝子体の炎症所見は乏しかった。両眼の眼底に黄白色滲出斑が散在し,網膜出血や血管炎は軽度であった。前房水から水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus)が検出された。眼底所見から病変は網膜外層にあると推定し,進行性網膜外層壊死と診断した。アシクロビルとガンシクロビルを全身的に投与したが病変は急速に進行し,両眼とも失明した。発症の翌年,敗血症と多臓器不全で死亡した。結論:本症例は間質性腎炎に対する副腎皮質ステロイドの全身投与で低免疫状態にあったと推定され,進行性網膜外層壊死の視力と生命予後が不良であった。本症の迅速な診断と有効な治療法の開発が期待される。

涙囊乳頭腫の1例

著者: 藤代貴志 ,   小島孚允

ページ範囲:P.1091 - P.1094

48歳男性が1年前からの左眼涙囊部の腫脹で受診した。左側の通水テストで逆流があり鼻涙管閉塞が疑われた。頭部CTで涙囊の腫脹があり涙囊炎が推定された。抗菌薬の内服と点眼,NSチューブ挿入でいったん軽快した。4か月後に涙囊が再び腫脹し,左下涙点から腫瘍の一部が突出した。生検で乳頭腫と診断され,涙囊鼻腔吻合術または涙囊摘出術を予定し手術を行った。涙囊が腫瘤で充満していることが術中に確認され涙囊を摘出した。涙囊部腫瘍が涙囊炎様の症状で初発した症例である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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