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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科60巻8号

2006年08月発行

雑誌目次

特集 第59回日本臨床眼科学会講演集 (6)

トリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射を併用した光線力学療法

著者: 堀秀行 ,   田邊樹郎 ,   福留みのり ,   川崎勉 ,   出田秀尚

ページ範囲:P.1369 - P.1373

目的:中心窩下の脈絡膜新生血管に対して行った光線力学療法と,これにトリアムシノロンアセトニド40mgのテノン囊下注射を併用した3か月後の効果の比較。対象と方法:過去8か月間に,中心窩下の脈絡膜新生血管に対して光線力学療法を行った68例68眼を対象とした。51眼には光線力学療法のみを行い,17眼にはトリアムシノロン注射を併用した。結果:両群の間でlogMAR視力と中心窩網膜厚の変化量に有意差はなかった。病変部最大直径の減少量は,光線力学療法単独群よりもトリアムシノロン併用群のほうが有意に大きかった(p<0.01)。結論:中心窩下の脈絡膜新生血管に対する光線力学療法の3か月後の評価では,これ単独よりも,トリアムシノロンのテノン囊下注射を併用したほうが病変の大きさを減少させる効果が大きい。

網膜静脈分枝閉塞症の長期予後

著者: 門屋講司 ,   田中朗 ,   田中寧 ,   鈴木利根 ,   筑田眞

ページ範囲:P.1375 - P.1378

目的:網膜静脈分枝閉塞症の長期経過の検討。対象:網膜静脈分枝閉塞症の自験例97例107眼を対象とした。男性42例,女性55例で,年齢は41~75歳(平均59歳)であった。5~19年(平均9.5年)の経過を観察した。結果:12例(12%)で網膜静脈分枝閉塞症が両眼に発症した。片眼発症から他眼発症までの間隔は平均6.7年であった。硝子体出血は26眼(24%)に起こった。11眼は硝子体出血で受診し,15眼では光凝固後の経過観察中に硝子体出血が発症した。網膜静脈分枝閉塞症の発症から硝子体出血までの期間は平均5.9年であった。視力は43眼(40%)で改善し,50眼(47%)で不変,14眼(13%)で悪化した。最終視力は,63眼(59%)が1.0以上,22眼(21%)が0.5~0.9,12眼(11%)が0.2~0.4,10眼(9%)が0.1以下であった。結論:網膜静脈分枝閉塞症の発症から平均9.5年間の長期経過は比較的良好である。

極小切開白内障手術と緑内障同時手術

著者: 山川良治 ,   原善太郎 ,   鶴丸修士 ,   山本佳乃 ,   浦野哲

ページ範囲:P.1379 - P.1383

極小切開白内障手術,眼内レンズ挿入術と緑内障手術とを10眼に行った。緑内障手術として,落屑緑内障4眼には線維柱帯切開術,続発緑内障5眼と新生血管緑内障1眼には線維柱帯切除術を行った。線維柱帯切開術では下方でこれを行って眼内レンズを挿入し,上方結膜を温存した。線維柱帯切除術では輪部基底結膜弁が白内障手術の邪魔にならず,強膜弁下で眼内レンズを挿入するので,熱創や張力による創口の損傷を避けることができた。強膜弁は鼻側と耳側のいずれにも作製できた。線維柱帯切開術と線維柱帯切除術とも,右利きの術者の場合,右眼または左眼のいずれにも同じ方法を使えるので左眼の手術が容易になり,瞼裂が狭い眼でも支障がなかった。

未熟児網膜症治療例の検討

著者: 金井光 ,   大庭静子 ,   桜田伊知郎 ,   木村綾子 ,   田中香純 ,   鈴木香代子 ,   山根真 ,   門之園一明 ,   伊藤大蔵

ページ範囲:P.1385 - P.1389

目的:レーザー光凝固を行った未熟児網膜症で転帰が不良であった因子の解析。対象と方法:2004年までの4年間にレーザー光凝固を行った未熟児網膜症33例64眼を対象とした。これら症例の出生体重は428g~1,238g(平均631g),出生在胎週数は22~31週(平均25週)である。厚生省瘢痕期分類2度以上を転帰不良と定義した。結果:瘢痕期2度以上の11例と1度以下の22例の比較で,出生体重は前群が542g,後群が675gであり有意差があった(p<0.05)。治療適応となった時点での修正在胎週数は前群が34.4週,後群が36.2週であり有意差があった(p<0.05)。瘢痕期2度以上の症例は,国際分類によるzone Ⅰの未熟児網膜症に多かった。結論:出生体重が小さく,網膜血管の発育状態が不完全であり,治療適応となった時点での修正在胎週数が短いことは,レーザー光凝固で治療した未熟児網膜症の予後不良因子である。

放射線療法が奏効した急性リンパ性白血病の虹彩浸潤の1例

著者: 嘉山尚幸 ,   井出尚史 ,   小林円 ,   檀之上和彦 ,   伊勢ノ海薫子 ,   宮本鋼 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1391 - P.1395

目的:視神経と虹彩に浸潤がある急性リンパ性白血病に放射線療法が奏効した症例の報告。症例:38歳男性が両眼の霧視で受診した。1年前にフィラデルフィア(Ph)染色体陽性急性リンパ性白血病と診断され加療中であった。矯正視力は左右とも1.2で,両眼に虹彩炎,虹彩結節,乳頭の出血と浮腫があった。FISH(fluorescence ◆in situ◆ hybridization)法で前房水のPh陽性細胞を定量的に解析し,急性リンパ性白血病の視神経と虹彩浸潤と診断した。イマチニブの内服と放射線療法で眼病変は7か月後に寛解した。結論:FISH法による前房水Ph陽性細胞の解析は診断と治療効果の判定に有用である。本症例では,Ph染色体陽性急性リンパ性白血病の眼病変に放射線療法が著効を示した。

効率的な電子カルテ運用

著者: 陶山洋志 ,   中村護 ,   門田健 ,   藤原りつ子

ページ範囲:P.1397 - P.1401

目的:当院で実施している電子カルテの紹介とその効率的な運用法の検討。方法:2005年1月から電子カルテ,眼科ファイリングシステム,紙カルテを併用して眼科診療を開始した。結果:完全なペーパレス電子カルテで診療するよりも,紙カルテを残し徐々に電子カルテに移行するほうが,診療効率と安全面で利点が多かった。電子カルテの運用では,院内環境の整備と職員の協力が重要であった。結論:眼科診療で完全なペーパレス電子カルテを運用するためには,電子カルテと眼科ファイリングシステムを融合させることが必要である。

翼状片と結膜弛緩症同時手術例

著者: 加藤宗彦 ,   志和利彦

ページ範囲:P.1403 - P.1408

目的:結膜弛緩症を伴う翼状片に対し同時手術を行った症例の報告。症例と方法:結膜弛緩症を伴う翼状片7例7眼を対象とした。年齢は平均72歳であり,術後2年間の経過観察を行った。翼状片単独手術では遊離結膜弁を12時方向の結膜に作製しているが,結膜弛緩症で切除した球結膜を翼状片切除後の弁移植に使用した。結果:7例中6例で良好な術後結果を得た。1例では結膜移植弁の縫合糸が術後に切れ,12時方向の球結膜を切除して追加移植を行い,以後は経過良好である。結論:今回の術式は結膜弛緩症を伴う翼状片に有効である。

スポーツ選手の眼に関する意識と視機能

著者: 枝川宏 ,   原直人 ,   川原貴 ,   松原正男

ページ範囲:P.1409 - P.1412

目的:運動競技選手の眼についての意識と視機能の実態調査の報告。対象と方法:トップクラスと評価されるスキー選手7名を対象とした。男性6名,女性1名で,平均年齢は27歳である。眼と視機能についてアンケート調査を行い,さらに屈折,視力,コントラスト感度,調節と輻湊,深視力,眼位,眼球運動,立体視,眼圧などを測定し,眼底を含む眼科的諸検査を行った。結果:優れた競技能力があっても,競技中に十分な視力を得ていない選手が多く,適切な視力矯正が必要であった。眼についての意識は個人的レベルでは高いが,チームとしてこれに対する取り組みはなされていなかった。結論:スキーを含めた運動競技選手の視機能を十分に発揮させるために,眼科医が果たすべき役割が大きい。

健診で見いだされる5年間の正常眼圧緑内障

著者: 大越洋治 ,   板山由美子 ,   遠藤成美 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1413 - P.1418

過去5年間に東京医科大学健診センターを初回受診した23,177人を対象として,正常眼圧緑内障の有病率を検索した。このうち16,522人が40歳以上で,平均年齢は46.4歳であった。まず眼底写真をもとに乳頭縁の血管屈曲とノッチングから正常眼圧緑内障の偽陽性者を選んだ。これらをさらに眼科で精査した結果,40歳以上の者のうち2.52%が正常眼圧緑内障であった。この頻度は2003年の多治見スタディでの3.6%よりも低値である。眼底所見で乳頭縁の血管屈曲がある全例に視野異常があった。健診で正常眼圧緑内障を発見するには,乳頭縁の血管屈曲とノッチングが有力な指標となると結論される。

一次縫合がなされなかった眼球破裂の3例

著者: 高尾宗之 ,   稲用和也 ,   渡辺順 ,   渋井洋文 ,   野本洋平 ,   丸山亜紀

ページ範囲:P.1419 - P.1424

目的:一次縫合をしないで硝子体手術を行った眼球破裂3例の報告。症例と経過:症例は鈍的外傷で眼球破裂を起こした35歳男性,50歳女性,56歳男性である。初診時の視力は3例とも手動弁であった。結膜と角膜に損傷はなく,全例に硝子体出血があった。初期治療として一次縫合をせずに創傷部の自然閉鎖を待ち,受傷後19日,34日,45日に硝子体手術を行った。3例とも増殖性硝子体網膜症が発症していたが,複数回の手術で網膜が復位し,最終矯正視力として0.1,0.7,0.1が得られた。結論:眼球破裂では一次縫合を行うことが原則であるが,一定の条件が満たされれば創傷部が自然閉鎖したうえで硝子体手術をすることで良好な結果が得られる。

巨大虹彩結節を呈したサルコイドーシスの1例

著者: 本村由香 ,   安部ひろみ ,   木許賢一 ,   中塚和夫 ,   大島裕司

ページ範囲:P.1425 - P.1428

目的:巨大虹彩結節があるサルコイドーシス症例の報告。症例と経過:19歳男性が左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左手動弁であった。左眼に前房の1/4の大きさの白色結節,右眼に軽度の虹彩炎があった。全身検査でサルコイドーシスと診断した。プレドニゾロンを初回量60mg/日での経口投与を開始し,漸減とともにベタメタゾンの結膜下注射を併用した。結節は縮小し,4か月後に消失した。結論:サルコイドーシスによる巨大虹彩結節は片眼性で若年者に生じる特徴がある。ステロイド薬の全身投与と結膜下注射が奏効した。

囊胞内に血腫を伴った結膜囊胞の1例とその囊胞摘出における着色ヒーロンの有用性

著者: 中谷雄介 ,   小林顕 ,   佐々木次壽 ,   杉山和久

ページ範囲:P.1429 - P.1431

目的:結膜囊胞の症例に対し,着色したヒアルロン酸ナトリウムを併用した除去手術の報告。症例と方法:69歳女性が1か月前から右眼結膜が赤いことを主訴として受診した。血腫を伴う結膜囊胞であり,囊胞の周囲には遷延化した結膜下出血があった。2か月後に血腫が消失して透明化した囊胞を摘出した。インドシアニングリーンとヒアルロン酸ナトリウム溶液を混合し,これを囊胞内に注入して囊胞壁を染色して摘出した。結果:囊胞壁が染色され全摘出ができた。結論:透明な囊胞壁を染色して可視化し囊胞を摘出する手技は有用である。

白内障術前患者の結膜囊内常在菌と3種抗菌点眼薬の効果

著者: 志熊徹也 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1433 - P.1438

白内障手術患者204例234眼にレボフロキサシン(LVFX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB)を点眼し,その前後で細菌学的に検査した。点眼は1日5回とし,1~3日間続けた。対照として滅菌した生理食塩水を用いた。70%以上の無菌化は,LVFX群では2または3日間点眼,CMX群では1,2,3日点眼で得られたが,TOB群では得られなかった。2日以上の点眼をすることで,すべての点眼薬で50%以上の無菌化率が得られた。対照での無菌化率は平均29.2%であった。結膜囊の無菌化を得るには,今回使用した3種の抗菌薬では2日以上の点眼が望ましい。

網膜動脈閉塞症に対しYAGレーザーによる塞栓破砕術を施行した3例

著者: 大中誠之 ,   福島伊知郎 ,   岡田守生

ページ範囲:P.1439 - P.1442

目的:網膜動脈閉塞症3例3眼に行ったYAGレーザーによる塞栓破砕術の報告。症例:網膜中心動脈閉塞症1眼と網膜動脈分枝閉塞症2眼が対象で,いずれも男性で,年齢は69,71,77歳であった。発症から治療までの期間は6時間~4日であり,初診時視力は0.02,0.09,0.1であった。方法:細隙灯顕微鏡と三面鏡を使用し,動脈の栓塞部にYAGレーザーを照射した。出力は1.3~2.2 mJで,3~24発を照射した。結果:全例で照射時に塞栓の移動はなく,少量の網膜出血が生じた。1眼では照射4日目に網膜下出血が生じ,続発した硝子体出血に対し硝子体手術を必要とした。視力は2眼で改善し,1眼では不変であった。結論:YAGレーザーによる塞栓破砕術は,網膜動脈閉塞症に対する治療の選択肢になりうる。

久留米大学における羊膜移植術の術後成績

著者: 杉田稔 ,   門田遊 ,   熊谷直樹 ,   笠岡政孝 ,   久持彩子 ,   山川良治 ,   堀大蔵

ページ範囲:P.1443 - P.1447

目的:眼球表面疾患に対する羊膜移植術の結果報告。対象:2004年までの7年間に羊膜移植術を行った63例71眼を対象とした。内訳は,翼状片33眼,角膜穿孔7眼を含む角膜潰瘍13眼,角結膜腫瘍9眼,瘢痕性角結膜症6眼,遷延性角膜上皮欠損3眼,そのほか7眼である。58眼では上皮再生促進,13眼では角膜潰瘍による実質充填を目的とした。結果:58眼中54眼(93%)で上皮が再生した。13眼中9眼(69%)で角膜実質充填が成功し,角膜が穿孔した7眼中2眼で再穿孔した。羊膜による感染が2眼に生じた。結論:角結膜上皮の再生促進に羊膜移植術は有効であるが,羊膜による感染と角膜の再穿孔に注意が必要である。

黄斑浮腫に対するトリアムシノロンテノン囊下投与の成績

著者: 福家恭子 ,   賀島誠 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.1449 - P.1453

目的:黄斑浮腫に対するトリアムシノロンの後部テノン囊下投与の治療成績の報告。対象と方法:糖尿病黄斑浮腫22眼,網膜静脈分枝閉塞症9眼,網膜中心静脈閉塞症7眼にトリアムシノロン20mgを投与し,1か月以上の経過を観察した。視力はlogMARとして評価した。結果:最終視力は,糖尿病黄斑浮腫では改善5眼(23%),不変14眼(64%),悪化3眼(14%)であり,網膜静脈分枝閉塞症では改善3眼(33%),不変5眼(56%),悪化1眼(11%)であり,網膜中心静脈閉塞症では改善5眼(71%),不変2眼(29%),悪化なしであった。全症例の中心窩網膜厚は治療前と3か月後で有意差がなかった。浮腫の再発が2眼,合併症として一過性眼圧上昇が3眼にあった。結論:視力改善が全体で34%の症例にあり,その効果には限界があるが安全かつ容易であり,黄斑浮腫の初回治療として試みる価値がある。

眼科受診を契機として判明した慢性硬膜下血腫の1例

著者: 板倉勝昌 ,   宇賀潤子 ,   山根健 ,   皆本敦 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.1455 - P.1458

55歳男性が飛蚊症で某医を受診し,両眼の乳頭浮腫が発見され,紹介された。血小板減少の既往と睡眠時無呼吸症候群がある。矯正視力は左右とも1.2であった。両眼に乳頭浮腫,左眼に軽度の硝子体出血があった。左眼にマリオット盲点の拡大があり,頭部磁気共鳴画像検査(MRI)で左側の慢性硬膜下血腫が発見された。穿頭洗浄術で血腫が除去され,約2か月後に両眼の乳頭浮腫は著しく改善した。

新しい知覚刺激装置による超音波視覚補助装置

著者: 兼古悟 ,   木村浩一

ページ範囲:P.1459 - P.1461

目的:重度視覚障害者の日常生活用に開発した視覚補助装置の解説と使用経験。方法:前方にある障害物の検知には,従来の機器と同様に超音波を利用した。障害物までの距離情報は皮膚刺激の位置で示した。皮膚の擦過を刺激方法として採用し,刺激位置の弁別能を向上させた。結果:この装置を6人の健康者の前額に装着し,両眼を遮閉して使用させた。被検者は装着後ただちに,訓練することなく,障害物を避けて歩行できた。結論:本装置は従来の機器では必須であった使用前の訓練が不要であり,前方にある障害物を高精度に認識することができた。

後囊研磨に適したcapsule polishing sleeveの考案

著者: 山本早弥子 ,   谷口重雄 ,   西村栄一 ,   早田光孝 ,   西原仁

ページ範囲:P.1463 - P.1466

目的:超音波水晶体乳化吸引術で後囊に付着した残留皮質を吸引する際に,灌流吸引チップのスリーブで後囊研磨をする新しい方法の記述と成績の報告。対象と方法:スリーブはシリコーン製で,先端が灌流吸引チップを包む形になっている。従来の灌流口2個に加え,チップの吸引口と一致してスリーブにも吸引口がある。チップの先端余剰部分で後囊が研磨できる。摘出豚眼10眼と臨床例20眼に角膜切開による通常の超音波水晶体乳化吸引術を行い,灌流吸引時にこれを使用した。結果:後囊に付着した皮質はチップのスリーブの先端で後囊を研磨し,吸引をかけずに容易に除去できた。創口挿入時や後囊研磨時の角膜内皮への接触はなく,後囊の視認性が良好で,破囊例はなかった。結論:この灌流吸引チップのスリーブを使用すると安全性の高い後囊研磨ができ,灌流吸引中の後囊破損の回避に有効である。

肺大細胞癌に伴うCAR症候群の1例

著者: 森田大 ,   松倉修司 ,   中川喜博 ,   河合憲司 ,   大橋秀記 ,   柴久喜れいし ,   田尻さくら子

ページ範囲:P.1467 - P.1470

83歳男性が左眼の白内障手術を受けた。右眼には8年前に白内障手術を受けている。7年前に胃悪性リンパ腫のために胃全摘手術を受けた。左眼手術の翌日から両眼の視力が急激に低下して当科を受診した。視力は左右とも光覚弁であった。両眼の網膜動脈が狭細化し,乳頭が蒼白で,網膜電図が消失していた。全身検査で肺腫瘍が発見され,生検で肺大細胞癌と診断された。抗リカバリン抗体が陽性であり,悪性腫瘍随伴網膜症(CAR)の診断が確定した。肺大細胞癌に対しては抗癌薬が投与された。治療開始から18か月後の現在まで視機能の改善はない。

長期間経過観察することができた網膜細動脈瘤の1例

著者: 田片将士 ,   岡本紀夫 ,   三村治

ページ範囲:P.1471 - P.1474

目的:両眼に発症した網膜細動脈瘤の長期観察例の報告。症例:66歳女性が急激な左眼の視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.09であり,左眼の黄斑部に網膜下出血,網膜内出血,網膜前出血があった。網膜細動脈瘤を疑い,フルオレセイン蛍光眼底造影を行ったが,出血のため細動脈瘤は確認できなかった。右眼には上耳側に網膜動脈を囲む白濁が2か所あった。その後左眼の出血が吸収され,網膜細動脈瘤であることが確認された。6年間の経過観察中に右眼の白濁部に細動脈瘤が生じたが,破裂などはなく,右1.0,左0.6の最終視力を維持している。結論:病型と時期が異なる網膜細動脈瘤が両眼に発症することがある。

増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の眼圧上昇の原因とその変遷

著者: 西田健太郎 ,   斉藤喜博 ,   崎元晋 ,   藤野貴啓 ,   中田亙 ,   濱中紀子 ,   阪本吉広 ,   中江一人 ,   木内良明

ページ範囲:P.1475 - P.1479

増殖糖尿病網膜症に対する毛様体【扁】平部経由での硝子体手術後の眼圧上昇を524眼について検索した。172眼では1996~1997年の2年間に,352眼では2001~2004年の4年間に手術が行われた。21mmHg以上の眼圧が術後1か月以降に14日以上続いたものを眼圧上昇と定義した。術後の眼圧上昇は,172眼中26眼(15.1%),352眼中49眼(13.9%)にあり,両群間に有意差はなかった。術前の虹彩ルベオーシスが172眼中26眼(15.1%),352眼中16眼(4.5%)にあり,有意差があった(p<0.01)。眼圧上昇に対する手術件数は,前群より後群で有意に減少した。病態と術式については両群間に差がなかった。後群では黄斑浮腫に対する硝子体手術後の血管新生緑内障が6.2%の頻度で発症した。

眼窩先端部型特発性眼窩炎症2例の臨床的特徴

著者: 伊藤和彦 ,   久保田敏信 ,   廣瀬浩士

ページ範囲:P.1481 - P.1484

目的:眼窩先端部型特発性眼窩炎症2例の報告。症例と経過:2例とも女性で,年齢は70歳と58歳であった。いずれも片眼性で,患眼の初診時の矯正視力はそれぞれ零と0.04であった。CT検査で眼窩先端部にびまん性の腫瘤があった。メチルプレドニゾロンによるパルス療法で,視力は零から0.3に改善し,眼球運動制限もなくなり,眼窩内の腫瘤は消失した。他の1例は治療に反応しなかったので,メトトレキサート内服に変更した。視力は0.04から1.0に改善し,眼球運動制限がなくなり,眼窩内の腫瘤は消失した。結論:眼窩先端部型特発性眼窩炎症は著しい視力低下と眼球運動制限を特徴とする。副腎皮質ステロイドによるパルス療法またはメトトレキサート内服が奏効することがある。

強膜を穿破し眼球外浸潤した毛様体脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 清崎邦洋 ,   今泉雅資 ,   木許賢一 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1485 - P.1488

目的:眼球外に浸潤した毛様体脈絡膜悪性黒色腫の症例報告。症例:30歳女性。左眼の球結膜に黒色斑が6か月前からあった。視力と眼圧は正常範囲にあった。左眼球結膜の外直筋付着部の近くに黒色腫瘤があり,これに相当する部位の毛様体【扁】平部に隆起性病変があった。これは直径8mm大で,磁気共鳴画像検査(MRI)のT1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を呈し,軽度の造影効果を示した。悪性黒色腫を疑い,眼球摘出を行った。病理学的にはspindle A cell typeの毛様体脈絡膜悪性黒色腫であった。強膜の弾性線維間に腫瘍細胞が浸潤し,強膜が菲薄化したのち穿破した。結論:腫瘍の強膜穿破には,外眼筋付着部という解剖学的特異性が関与したと推定される。

連載 今月の話題

黄斑浮腫の画像診断―HRTおよびOCTによる評価と比較

著者: 引地泰一

ページ範囲:P.1349 - P.1353

細隙灯顕微鏡検査や双眼倒像鏡検査で眼底を立体的に観察することができるようになり,黄斑浮腫の診断に大きな寄与をもたらした。しかしこれらはアナログ情報であったため,黄斑網膜の肥厚を定量化する測定装置の開発が望まれた。こうして登場した光干渉断層計(OCT)やHeidelberg Retinal Tomography(HRT)は黄斑浮腫の診断にどこまで有効か。ここではHRTⅡレチナモジュールの紹介を中心に,OCTと比較しながら両者の診断的意味を検討してみたい。

日常みる角膜疾患41

糸状角膜炎

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1354 - P.1356

症 例

 患者:71歳,女性

 主訴:左眼異物感

 家族歴:同胞と子にアベリノ角膜ジストロフィ(Arg124His)があった。
 現病歴:角膜ジストロフィのため1984年,当科にて全層角膜移植術を施行された。その後再発した角膜混濁に対して数度にわたり電気分解療法を施行されていたが,混濁により左眼の視力が手動弁(矯正不能)と低下したために2006年1月,左眼全層角膜再移植術を施行された。術前の検査で涙液分泌はシルマーⅠ法で右眼5mm,左眼7mmと涙液分泌能の低下を認めていた。

眼形成手術手技18

眼瞼下垂―(4)眼瞼挙筋短縮術・Whitnall 靭帯吊り上げ術

著者: 野田実香

ページ範囲:P.1358 - P.1365

 眼瞼挙筋短縮術・Whitnall 靭帯吊り上げ術は, 先天性眼瞼下垂に対して行う術式である。先天性眼瞼下垂の症例で,小児期に手術をする必要があるほど高度なものに対し,筆者は第一選択で行っている。ここでは経皮的アプローチで,挙筋とミュラー筋を前転・短縮し,Whitnall 靭帯に通糸をして吊り上げる術式を紹介する。

 成人では局所麻酔下に行える術式であるが,小児の場合は全身麻酔下で行う。挙筋の短縮量はまず15 mm で行い, 仮縫合し開瞼幅をみて調整する。定量は上眼瞼瞼縁が瞳孔上縁に位置するように行う。全身麻酔下では,時に眼球が下転することがあるので,正位にあるときに定量を行う。健側が二重瞼の場合は術前にその幅を確認しておき,それに合わせる。両側の場合は基本的に二重瞼を形成する。術後に外来で抜糸ができそうかどうかを前もって確認しておく。

臨床報告

脈絡膜腫瘍と鑑別を要した黄斑部脈絡膜分離の症例

著者: 西尾恵里 ,   福島伊知郎 ,   岡田守生 ,   内田璞

ページ範囲:P.1509 - P.1512

目的:高度近視眼に生じた乳頭周囲脈絡膜分離症の報告。症例と所見:58歳女性が右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.4,左1.5で,右眼に約-5Dの近視があった。右眼の耳側コーヌスに接し,2.5乳頭径大の黄色の隆起があった。脈絡膜腫瘍が疑われたが,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,Bモード超音波検査,CT,磁気共鳴画像検査(MRI)などでこれは否定された。光干渉断層計(OCT)で脈絡膜分離が証明され,「病的近視での乳頭周囲【剥】離」と診断した。結論:乳頭周囲脈絡膜分離症は脈絡膜腫瘍に類似することがある。鑑別診断にはOCTが有用である。

光線力学的療法によって対照的な視力経過をとったポリープ状脈絡膜血管症の2例

著者: 林妍 ,   朴真紗美 ,   高橋宏和 ,   庄司拓平 ,   千原悦夫

ページ範囲:P.1513 - P.1519

ポリープ状脈絡膜血管症に対し2回の光線力学的療法を行った。1例は74歳男性で,患眼の矯正視力は0.5であった。中心窩耳側に2乳頭径大の色素上皮【剥】離と,ICG蛍光造影で中心窩鼻側にポリープ状脈絡膜血管症状の病巣があった。中心窩鼻側の病巣のみに光線力学的療法を行った。視力がいったん1.0に改善した後,網膜下血腫から硝子体出血に進展し,硝子体手術を行った。9か月後の視力は0.03であった。他の1例は71歳女性で,患眼の矯正視力は1.0であった。乳頭耳側に橙赤色の隆起病巣があった。アルゴンレーザー光凝固で病巣は黄斑に向かって拡大した。蛍光眼底造影で黄斑から2乳頭径大の範囲に複数の漏出斑があり,ICG造影で黄斑部を含み広範囲にポリープ状脈絡膜血管症があった。乳頭近くを除く全病巣に光線力学的療法を行った。病巣は瘢痕化し,視力は治療前の0.1から18か月後には1.0に回復した。これら2症例は,ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学的療法後の視力転帰が必ずしも一定でないことを示している。

眼MALTリンパ腫の5例

著者: 島田頼於奈 ,   平塚義宗 ,   村上晶

ページ範囲:P.1521 - P.1526

目的:眼の粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫5症例の報告。症例と所見:3例が女性,2例が男性,3例が両眼性,年齢は33,37,39,55,62歳であった。眼以外の臓器に転移はなかった。初診時の症状は流涙,充血,そう痒感,結膜浮腫などであり,2例はアレルギー性結膜炎として加療中であった。結膜の生検を行い,免疫染色で全例が小型から中型のB細胞型の軽症MALTリンパ腫と判定された。放射線療法で腫瘍が縮小した。結論:眼のMALTリンパ腫は結膜または眼瞼の腫瘤やアレルギー性結膜炎に類似した症状を呈することがある。生検が確定診断に有用である。

カラー臨床報告

網膜剝離を伴う脈絡膜血管腫に経瞳孔温熱療法が奏効した2例

著者: 宇野毅 ,   川村亮介 ,   川崎勉 ,   出田秀尚

ページ範囲:P.1501 - P.1507

網膜剝離を伴う脈絡膜血管腫2例に経瞳孔温熱療法が奏効した。症例1は54歳男性で,右眼に胞状の漿液性網膜剝離があった。経強膜的に網膜下液を排液した翌日に胞状剝離が消失し,黄斑部耳側に7乳頭径大の脈絡膜血管腫が発見された。経瞳孔温熱療法を行い,2か月後に表面に色素沈着を伴う血管腫の瘢痕化が得られた。視力は手動弁から0.01に改善した。症例2は77歳男性で,右眼の乳頭上方に4乳頭径大の脈絡膜血管腫があり,網膜剝離が黄斑に及んでいた。経瞳孔温熱療法を行い,3週間後に表面に色素沈着を伴う血管腫の瘢痕化が得られ網膜剝離は消退した。視力は0.08から0.4に改善した。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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