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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科61巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 第60回日本臨床眼科学会講演集(2) 原著

アレルギー性結膜炎の対症療法:冷却シートの応用

著者: 吉井大 ,   簗島謙次 ,   小西明伸 ,   矢野博子

ページ範囲:P.515 - P.517

要約 目的:アレルギー性結膜炎の搔痒感を軽減するために瞼裂を開いた状態で眼瞼を冷却するシートの紹介と,その臨床的応用の報告。対象と方法:両眼にアレルギー性結膜炎があり,スギ花粉症の既往がある10例を対象とした。「つ」または「こ」の形をした冷却シートを眼周囲に10分間貼り付け,これを各1週間続けた。質問書による問診と眼瞼部サーモグラフィで効果を評価した。結果:搔痒感の軽減には,両型ともに63%に効果があった。「つ」型は「こ」型よりも貼り付けにくいという欠点があった。サーモグラフィによる測定で,「つ」型では4.2±0.3℃,「こ」型では3.6±0.4℃の温度低下があった。結論:アレルギー性結膜炎の搔痒感を軽減するために,冷却シートが奏効する可能性がある。

網膜血管腫状増殖に対するトリアムシノロンアセトニド併用光線力学的療法

著者: 松本英孝 ,   佐藤拓 ,   堀内康史 ,   渡辺五郎 ,   森本雅裕 ,   野田聡実 ,   岸章治

ページ範囲:P.519 - P.524

要約 目的:網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation:RAP)に対するトリアムシノロンアセトニド(triamcinolone acetonide:TA)併用光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)の効果の検討。対象と方法:TA後部テノン囊下注入併用PDTを施行したRAP 6例7眼について,治療後3か月の視力,滲出性変化を評価した。Yannuzziらの病期分類では,stage Ⅰが1眼,stage Ⅱ(retinal pigment epithelial detachment:PEDなし)が3眼,stage Ⅱ(PEDあり)が2眼,stage Ⅲが1眼であった。結果:視力は治療前0.07~0.5(平均0.26)に対し,治療3か月後0.09~0.6(平均0.33)と軽度の改善がみられた。滲出性変化は,stage Ⅰ,stage Ⅱ(PEDなし)の4眼はすべて改善した。Stage Ⅱ(PEDあり)の2眼では,1眼は改善したが,1眼では一過性の改善しか得られなかった。Stage Ⅲの1眼では滲出性変化が改善し,脈絡膜新生血管が閉塞した。結論:RAPに対するTA併用PDTは有効性が高い。

知的障害者にみられた網膜剝離

著者: 今泉寛子 ,   竹田宗泰 ,   奥芝詩子 ,   宮本寛知 ,   木下貴正 ,   荻野哲男 ,   鈴木俊一 ,   佐藤唯

ページ範囲:P.525 - P.529

要約 目的:知的障害者に発症した網膜剝離の特徴と治療結果の報告。対象:過去7年3か月間に網膜剝離を治療した知的障害者7例12眼を検索した。結果:男性6例,女性1例で,5例が両眼性であった。年齢は10~44歳(平均22歳)であった。自分の眼や顔を叩くなどの自傷行為が4例7眼にあった。網膜全剝離または網膜下増殖を伴って発見される例が多く,白内障が9眼に併発していた。手術を行った11眼中10眼ではシリコーンオイルを併用する硝子体手術を必要とし,10眼(91%)で復位が得られた。結論:知的障害者の網膜剝離には外傷性が多く,陳旧または難治なものがあり,治療では家族,精神神経科,麻酔科との連携が重要である。

ヒト結膜囊に寄生した東洋眼虫の形態的特徴

著者: 金子明生 ,   児玉俊夫 ,   石川明邦 ,   島村一郎 ,   西谷元宏 ,   鄭暁東 ,   大槻均 ,   鳥居本美 ,   首藤政親

ページ範囲:P.531 - P.536

要約 目的:ヒト結膜囊に見出された線虫の微細構造を観察することで同定できた東洋眼虫の形態的特徴の報告。症例:12月に77歳女性の左結膜囊より3隻の線虫を摘出し,光顕と走査電顕により虫体を観察した。結果:3隻の虫体は白色の糸状であり,体表に横紋理がみられた。歯牙の欠如した6角形の口腔から二分されていない食道,腸管に続き,食道の中央部に神経輪を有していた。陰門とそれに続く子宮に多数の被鞘幼虫を認め,尾部に交接刺が存在しなかったことから東洋眼虫の雌と同定した。結論:冬季に摘出された東洋眼虫の雌の子宮には多数の幼虫が存在していたことから,媒介昆虫の活動する春季に第1期幼虫を産出できるように生活史を合わせたと考えられる。

ガチフロキサシンとモキシフロキサシンの抗菌力

著者: 藤紀彦 ,   山下美恵 ,   青木瑠美 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.537 - P.540

要約 目的:フルオロキノロン4剤の抗菌力の比較。対象と方法:眼脂から同定された細菌49株を対象とし,ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX),トスフロキサシン(TFLX),レボフロキサシン(LVFX)の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。結果:グラム陽性菌37株に対するMIC90は,以下GFLX,MFLX,TFLX,LVFXの順に25.0,12.5,25.0,100.0μg/mlであった。グラム陰性菌12株に対するMIC90は,順に3.13,6.25,3.13,3.13μg/mlであった。結論:GFLX,MFLXとTFLXの3剤はLVFXと同等以上の抗菌力を有しており,有用なフルオロキノロン抗菌薬と考えられる。

網膜色素変性に対するウノプロストンの効果

著者: 宮村紀毅 ,   上松聖典 ,   築城英子 ,   隈上武志 ,   北岡隆 ,   竹原昭紀 ,   黒木明子 ,   田中陽子 ,   中村美樹

ページ範囲:P.541 - P.545

要約 目的:網膜色素変性に対するウノプロストン点眼の評価。対象と方法:網膜色素変性20例37眼に1日1回のウノプロストン点眼を約2年間続け,静的視野検査で4/Vイソプタの面積と臨床像を評価した。男性10名,女性10名であり,年齢は平均58.4±14.8歳であった。ウノプロストン点眼を行わない網膜色素変性23例46眼を対照とした。年齢は平均54.3±14.6歳であった。結果:対照群では視野面積が有意に減少したが,投与群では視野面積の減少はなかった。投与群での眼圧は有意に低下した。視力には有意差がなかった。年齢または合併症の有無は,視野面積の減少率と相関しなかった。結論:ウノプロストン点眼は網膜色素変性での視野狭窄進行に対して有効である可能性がある。

眼内レンズ毛様溝縫着術の15年後に発症した晩発感染例

著者: 中村聡 ,   宮野良子 ,   大黒浩

ページ範囲:P.547 - P.550

要約 目的:眼内レンズ(IOL)の毛様溝縫着術から15年後に発症した感染性眼内炎の報告。症例:67歳男性が右眼に突発した眼痛で受診した。15年前に眼球打撲による外傷性白内障に対し水晶体摘出術とIOL毛様溝縫着術を受け,0.8の視力があったという。所見:右眼視力は光覚弁で,前房に炎症所見があり,前房蓄膿はなく,隅角全周に虹彩前癒着があった。硝子体混濁により眼底は透見不能であった。下耳側の結膜上にIOLの縫着糸が露出し,微小膿瘍を伴っていた。細菌性眼内炎と診断しIOL摘出術と硝子体切除術を行った。縫合糸は9-0プロリンと推定された。術中に採取した前房水,硝子体,眼内レンズからStreptococcus salivariusが検出された。術後強角膜の壊死融解が進行し,眼球摘出を必要とした。結論:IOLの毛様溝縫着後に縫合糸が結膜上に露出しているときには,晩発性の感染性眼内炎が発症する可能性がある。

両眼性視神経乳頭腫脹をきたした骨髄異形成症候群の1例

著者: 新井根一 ,   滝昌弘 ,   高木規夫

ページ範囲:P.551 - P.556

要約 目的:両眼の視神経乳頭腫脹が生じた骨髄異形成症候群の症例報告。症例:44歳男性の右眼に眼痛が生じた。3年前に汎血球減少を中軸病変とする骨髄異形成症候群と診断され,血液内科で加療中であった。矯正視力は右1.0,左1.5であり,眼圧と限界フリッカ値は正常範囲であった。右眼に視神経乳頭腫脹があり,画像診断で炎症性変化が疑われた。副腎皮質ステロイド治療で眼痛は速やかに消失したが,乳頭腫脹は完全には消退しなかった。その3か月後に右眼の乳頭腫脹が再発し,左眼にも発症した。初診から17か月の現在まで乳頭腫脹が持続しているが,眼痛はなく視力も良好である。結論:本症例の視神経乳頭腫脹は,眼窩内の炎症と異形細胞の浸潤が原因であると推定される。

乳児用新作ブジーとブジー挿入長の検討

著者: 五嶋摩理 ,   新妻卓也 ,   松原正男

ページ範囲:P.557 - P.559

要約 目的:乳児の先天性鼻涙管閉塞に用いるために作製したブジーの紹介と挿入長の検討。対象と方法:長さが30~34mmの25Gブジー型涙管洗浄針を作製し,先天性鼻涙管閉塞がある乳児22眼にこれを使用した。結果:全例で1回の挿入で鼻涙管が開放できた。ブジーの挿入長は24~33mmであり,月齢と有意に相関した。ブジー挿入による合併症は皆無であった。結論:従来の乳児用ブジーは先端が鋭いために涙道壁を傷つけやすく,細い洗浄針は仮道をつくりやすい。筆者らが作製した乳児用ブジーは安全で有効である。

カリジノゲナーゼ内服後の家兎眼窩内網膜中心動脈と短後毛様動脈の血流速度の変動

著者: 山田利津子 ,   上野聰樹 ,   山田誠一

ページ範囲:P.561 - P.564

要約 目的:カリジノゲナーゼ全身投与後の家兎眼窩内動脈の血流速度の測定。対象と方法:雌家兎15匹にカリジノゲナーゼを投与し,2時間~3日後に網膜中心動脈と短後毛様動脈の流速を,超音波パルスドプラ法で測定した。結果:投与後3時間,5時間,1日後に眼圧変動率が有意に低下した。平均流速の変動率は網膜中心動脈では2時間後と3時間後,短後毛様動脈では2,3,5時間後に有意に上昇した。抵抗指数(resistance index)の変動率は,網膜中心動脈では3時間後,短後毛様動脈では2時間後と3時間後に有意に低下した。結論:カリジノゲナーゼ内服により,網膜中心動脈と短後毛様動脈の血流量が増加する。これにより網脈絡膜循環が改善する可能性がある。

ラタノプロスト点眼による傍中心窩毛細血管血流速度の変化

著者: 遠藤要子 ,   伊藤典彦 ,   神尾美香子 ,   永野葵 ,   榮木尚子 ,   門之園一明 ,   杉田美由紀 ,   水木信久

ページ範囲:P.565 - P.568

要約 目的:ラタノプロスト点眼による傍中心窩毛細血管内の血流速度の変化の報告。対象と方法:正常眼圧緑内障5例8眼を対象とした。年齢は39~56歳(平均47歳)である。フルオレセインによる蛍光造影を走査レーザー検眼鏡(SLO)で行い,移動する蛍光点を指標として傍中心窩毛細血管内の血流速度を測定した。1日1回のラタノプロスト点眼を1か月間行い,その前後で血流速度を測定した。結果:眼圧は点眼後で有意に低下し,平均血圧と眼灌流圧には差がなかった。毛細血管内の平均血流速度は点眼後で有意に増加した(p<0.05)。結論:正常眼圧緑内障眼にラタノプロストを1か月点眼すると,傍中心窩毛細血管内の血流速度が増加する。

新しい調節性輻湊の評価法

著者: 浅川賢 ,   石川均 ,   庄司信行 ,   清水公也

ページ範囲:P.569 - P.573

要約 目的:新しく考案した調節性輻湊の検査法とその評価。対象と方法:屈折異常以外に眼疾患がない15名を対象とした。男性5名,女性10名であり,年齢は18~22歳(平均21歳)である。従来のgradient法に準じてレンズ負荷前後で交代遮閉試験を行い,プリズムでAC/A比を求めた。続いて赤外線CCDカメラでPurkinje第1像の移動距離を測定し,単位調節刺激に対する両者の相関を検討した。結果:3D負荷に伴うAC/A比はfar gradient法で1.18Δ/D,near gradient法で2.55Δ/Dであった。前者に準じて算出したPurkinje像の移動距離は0.13mm/Dで,AC/A比と移動距離の間に相関があった。結論:赤外線CCDカメラによる測定は簡便であり,客観的に調節性輻湊を評価でき,臨床に応用できる可能性がある。

ルテインサプリメントにより中心暗点が縮小したLeber病の1例

著者: 大木玲子 ,   池脇淳子 ,   松本惣一 セルソ ,   今泉雅資 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.575 - P.579

要約 目的:抗酸化サプリメントの内服で視機能が向上したLeber病症例の報告。症例:26歳女性が7年前に両眼の視力低下を発症した。ミトコンドリアDNA14484変異を伴うLeber病と診断された。経過:発症から1年後に左右眼ともに矯正視力が0.02になり,以後視機能は変化しなかった。20か月前からルテインサプリメントの内服を始めた。その2か月後から自覚症状が改善し,現在の矯正視力は右0.03,左0.4になった。中心暗点は縮小し,Humphrey視野計の10-2で中心暗点内に感度がよい領域が現れた。結論:患者が内服したルテインサプリメントには,ルテインのほか多種類の抗酸化物質が含まれている。Leber病に対し抗酸化サプリメントが奏効する可能性がある。

3mm切開白内障手術による角膜乱視変化の検討

著者: 小塚勝 ,   橋本浩隆 ,   筑田眞

ページ範囲:P.581 - P.583

要約 目的:3mm切開による白内障手術の切開部位を変更することにより,惹起角膜乱視がコントロールできる可能性の検討。対象と方法:白内障手術を行った136眼を対象とした。術前の角膜乱視の主経線角度や切開部位から6群に分け,術後6か月以上観察した。結果:術前の倒乱視に対し,耳側角膜切開と角膜輪部減張切開を追加した群だけが,上耳側強角膜切開を行った群よりも角膜乱視が有意に減少した(p<0.05)。その他の群では角膜乱視がほとんど変化しなかった。結論:3mm切開による白内障手術では角膜乱視がほとんど変化しない。術前に角膜乱視がある眼に対しては乱視を矯正する手段を開発する必要がある。

角膜移植に至った水疱性角膜症例の検討

著者: 今村直樹 ,   酒井淳 ,   松本牧子 ,   北岡隆

ページ範囲:P.585 - P.588

要約 目的:角膜移植に至った水疱性角膜症の自験例の報告。対象と方法:2005年までの4年間に長崎大学眼科で水疱性角膜症に対し角膜移植を受けた30例30眼を対象とし,診療録からその臨床像を検索した。結果:水疱性角膜症の原因は,眼内レンズ挿入による白内障手術30%,急性緑内障発症後のレーザー虹彩切開20%などで,27%が原因不明であった。白内障手術から水疱性角膜症発症までの期間は37.4±44.1か月であった。緑内障発作に対するレーザー虹彩切開による水疱性角膜症発症までの期間は,予防的レーザー虹彩切開によるそれよりも有意に長かった(p=0.017)。今回の症例群では,全身的には糖尿病,眼関係では緑内障が多かった。結論:水疱性角膜症の発症には,緑内障や糖尿病などによる角膜内皮の脆弱性と眼内の炎症が関与している可能性がある。内眼手術では術後の十分な消炎が予防措置として望まれる。

アクリル球面レンズ・非球面レンズの収差の比較検討

著者: 竹尾悟 ,   永田浩章 ,   成田理会子 ,   鈴木美砂 ,   渡邉洋一郎 ,   門之園一明

ページ範囲:P.589 - P.593

要約 目的:アクリル製の球面および非球面眼内レンズ(IOL)挿入眼の高次波面収差の解析と検討。対象および方法:対象は超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った症例のうち,球面レンズを用いた37眼および非球面レンズを用いた36眼。高次波面収差測定で得られた全屈折をZernike多項式に展開してコマ様収差,球面様収差,全高次収差を定量的に解析し,そのRMS(root mean square)を比較した。瞳孔径は4.0mmに設定した。結果:術後の全高次収差およびコマ様収差は両レンズとも有意な改善がみられたが,球面様収差は非球面レンズでのみ有意な改善があった(p<0.01)。結論:非球面レンズは球面レンズに比べ,加齢に伴う球面収差増加をより若年者の正常の状態に近づける可能性がある。

ラタノプロスト点眼におけるチモロール・ゲル併用効果の検討

著者: 橋本尚子 ,   原岳 ,   國松志保

ページ範囲:P.595 - P.598

要約 目的:ラタノプロストの単剤またはチモロール併用による眼圧下降効果の報告。対象と方法:正常眼圧緑内障24例24眼を対象とした。年齢は39~69歳(平均55歳)である。ラタノプロストを4週間点眼し,治療前よりも20%以上の眼圧下降が得られたとき単剤使用と定義し,得られないときにはチモロール点眼を併用した。平均35か月の経過を観察した。結果:単剤使用で4週後に眼圧が下降した11眼では,無治療時よりも眼圧が4週と6か月後に有意に下降した(p<0.01)。チモロール併用を必要とした13眼では,眼圧が4週と6か月後に有意に下降した(p<0.01)。36か月を経過したとき,単剤使用群の55%と併用群の15%で20%の眼圧下降が維持された。結論:ラタノプロストの4週間点眼で眼圧が20%以上下降した症例では,3年後でも眼圧下降が半数以上で維持される。

血管新生緑内障に対する硝子体手術の検討

著者: 隈上武志 ,   岸川泰宏 ,   松鵜梢 ,   三島一晃 ,   北岡隆

ページ範囲:P.599 - P.602

要約 目的:血管新生緑内障に対する硝子体手術の効果の報告。症例:過去10年間に,血管新生緑内障25例28眼に対して硝子体手術を行った。男性21眼,女性7眼で,年齢は35~77歳(平均60歳)であった。原因疾患は糖尿病網膜症21眼,網膜中心静脈閉塞症7眼であった。結果:15眼(54%)で術後1か月以内に虹彩新生血管が退縮した。27眼(96%)では眼圧下降が十分でなく,追加手術が必要であった。追加手術後,3眼(11%)で眼圧が21mmHg以下にならなかった。結論:血管新生緑内障に対し,硝子体手術単独では眼圧をコントロールすることが困難である。しかし硝子体手術は眼底を透見可能にし網膜光凝固を実施できるので,有用な手段として評価される。

診断が困難であった両側眼窩MALTリンパ腫の1例

著者: 柴玉珠 ,   山崎広子 ,   麻薙薫 ,   柏村眞 ,   田丸淳一

ページ範囲:P.603 - P.608

要約 目的:6年の経過中,数回の病理診断で炎性偽腫瘍と診断され,後にMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫の診断が確定した両側眼窩腫瘍の1例の報告。症例:70歳女性が2か月前からの両側の眼球突出と視力低下で受診した。43歳のときに下垂体腺腫,3か月前に皮下のリンパ組織過形成の既往がある。画像診断で両側の眼窩内に腫瘤があり,生検で肉芽組織と診断された。経過中2回の視力低下と眼球突出の悪化があり,プレドニゾロン内服で改善した。生検で炎性偽腫瘍と診断されたが,病理組織の再検討で,MALTリンパ腫と診断された。抗CA20抗体療法などで,初診から6年後の現在まで右眼視機能を維持している。結論:MALTリンパ腫とその類縁疾患では,確定診断が困難であることを理解し,臨床経過を慎重に追うことと,入念な組織の検討が重要である。

メルファランを使用する局所化学療法が著効した両眼性網膜芽細胞腫の1例

著者: 金子明博 ,   金子卓 ,   高木誠二 ,   竹内忍 ,   毛利誠

ページ範囲:P.609 - P.614

要約 目的:難治性網膜芽細胞腫に対し,メルファランによる保存的治療法が奏効した症例の報告。症例:台湾で出生した女児が生後1年9か月で両眼の網膜芽細胞腫と診断された。両眼ともReese-Ellthworth分類のVbであった。ビンクリスチン,エトポシド,カルボプラチンの3剤併用による全身化学療法を6コース受けたが完治せず,他の3剤併用による化学療法をさらに3コース受けた。腫瘍が不活性化しないため,放射線外部照射が両眼に行われ,右眼には冷凍凝固と光凝固とが行われた。右眼に硝子体出血が発症し,生後2年10か月で当科を受診した。所見と経過:右眼に腫瘍と硝子体播種,左眼に腫瘍があった。メルファランの選択的眼動脈注入と硝子体注入を行い,さらに灌流液にメルファランを加えた硝子体手術を行った。生後3年10か月の検査で左右眼とも腫瘍の再発または転移はなく,矯正視力は右光覚弁,左0.07であった。結論:難治性網膜芽細胞腫に対し,筆者らが開発したメルファランによる保存的治療法は有効かつ安全であった。

購入から装用までの経過が決め手となったコンタクトレンズ角膜障害の1例

著者: 小林茂樹 ,   小林守治

ページ範囲:P.615 - P.619

要約 目的:海外で購入したコンタクトレンズの装用により角膜障害が生じた症例の報告。症例:30歳女性が左眼の疼痛と流涙で受診した。右眼に-5D,左眼に-4Dの近視があり,矯正視力は右1.0,左0.1であった。両眼の角膜中心部に軽度の角膜浮腫と,角膜全面にびまん性表層角膜炎があった。通常のコンタクトレンズによる角膜障害と思われたが,カナダで購入した日本では未承認のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであり,コンタクトレンズケア用品として,日本で購入したマルチパーパスソリューションを使用していた。結論:本症例の角膜障害は,マルチパーパスソリューションによる急性の細胞毒性または過敏性による可能性がある。

内頸動脈閉塞性疾患に対するステント留置後に増悪した血管新生緑内障の1例

著者: 青木由紀 ,   國松志保 ,   橋本尚子 ,   牧野伸二

ページ範囲:P.621 - P.624

要約 目的:頸動脈ステント留置後に血管新生緑内障(NVG)の増悪した症例の報告。症例:75歳男性が右眼視力低下と眼圧上昇のために受診した。左眼は内頸動脈閉塞症に伴うNVGで失明していた。右眼は1年前よりNVGを発症していたが,眼圧下降薬の使用で眼圧はコントロールされていた。頸動脈血管造影で右内頸動脈に90%狭窄がみられたため,右内頸動脈ステント留置術が施行された。術後右眼視力低下と急激な眼圧上昇をきたし来院した。右眼に対して線維柱帯切除術を行い,視力は0.4と改善し眼圧も下降した。結論:内頸動脈閉塞症に対する頸動脈ステント留置術後には,十分な眼科的管理が必要である。本症例は頸動脈ステント留置術後に急激な眼圧上昇をきたした最初の報告である。

若年者にみられたクリオフィブリノーゲン血症が原因と考えられた網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 田片将士 ,   岡本紀夫 ,   栗本拓治 ,   三村治

ページ範囲:P.625 - P.629

要約 目的:クリオフィブリノーゲン血症で発症したと考えられる網膜中心動脈閉塞症の症例の報告。症例と経過:35歳女性が右眼の一過性黒内障で受診した。13日前と9日前に同様の発作があったが自然寛解した。矯正視力は右手動弁,左1.2であり,右眼底に桜実紅斑の所見があった。蛍光眼底造影で,腕網膜時間と網膜内循環時間が延長していた。網膜中心動脈閉塞症と診断し,保存的治療を行ったが改善しなかった。内科での検査でクリオフィブリノーゲン血症と診断された。結論:40歳以下では網膜中心動脈閉塞症は稀にしか発症しない。35歳で本症が起こったのは,基礎疾患としてクリオフィブリノーゲン血症があったためと推定される。

裂孔原性網膜剝離に対する強膜内陥術(インプラント)の手術成績

著者: 大木弥栄子 ,   宮本龍郎 ,   矢野雅彦

ページ範囲:P.631 - P.633

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する強膜内陥術の成績の報告。症例:2001年1月~2005年12月の5年間に強膜内陥術を行った裂孔原性網膜剝離171例174眼を検索した。男性103眼,女性71眼であり,年齢は13~96歳(平均52歳)であった。全例に強膜半層切開,ジアテルミー凝固,シリコーンタイヤによる強膜内陥術を行った。162眼に強膜下液の排液,146眼に輪状締結術,62眼に硝子体腔内に空気を注入した。結果:網膜復位は初回手術で152眼(88%),最終的に167眼(96%)で得られた。結論:裂孔原性網膜剝離に対する強膜内陥術により,良好な初回と最終復位率が得られた。強膜への侵襲が大きく再手術の難しいことが強膜内陥術の短所である。術後の視機能や合併症などを考慮し,他の手術手技も検討される必要があると思われる。

眼瞼からの小刺傷で網脈絡膜まで穿孔して網膜全剝離に至った例の内視鏡硝子体手術での修復と経過

著者: 岡野正 ,   松野員寿

ページ範囲:P.634 - P.638

要約 目的:眼瞼経由で眼球への穿孔創による網膜剝離の治療経過の報告。症例:17歳女子の右眼に窓ガラスの破片が刺さり,その翌日に受診した。右眼の矯正視力は0.1であり,球結膜に2mmの創口と網膜全剝離があった。全長が20mmでL字形の強膜創を縫合し,水晶体を温存する硝子体手術を内視鏡を併用して行った。網膜を復位させ,眼内光凝固で裂孔を閉鎖した。瞳孔経由による視認の限界を内視鏡で補うことができた。結果:視力は術後1年で0.9,3年で1.2となった。4年後に白内障が生じ,手術を行った。受傷から7年後の現在,1.2の視力を維持している。結論:穿孔性外傷では,球結膜の創が小さくても強膜が大きく裂けていることがある。本例では迅速な対応が奏効した。

専門別研究会

画像診断

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.640 - P.641

 専門別研究会「画像診断」のプログラムは一般演題が7題,指名講演が1題,教育講演が2題であった。一般演題では本研究会の主流である超音波検査に関する演題が4題で,いずれも超音波の専門家らしく,従来からの機器でありながら巧みにその特性を利用して眼科臨床に応用し,新知見を明らかにしていた。あとの3題は副鼻腔疾患と頭蓋内疾患にみられた眼症状と眼所見をCTとMRIを軸に画像検査を行い,みごとに病態を解明した報告であった。神経眼科の観点からもきわめてすぐれた内容であった。

 研究会世話人が特別に発表者を指名して依頼する指名講演は,世界超音波医学会と国際眼科超音波診断学会の報告であった。いずれも本研究会と国際レベルで密接にリンクしている重要な学会であり,わが国からも眼科研究者が毎回すぐれた演題を発表している。両学会で討論されたアップデートな話題を紹介し,最も関心をもたれている超音波研究を解説していただいた。最後に毎年好評をいただいている「眼科画像検査の基礎」と題した基本的な教育講演が行われた。超音波検査,CT/MRI検査の特性と検査法の具体的な実施方法,得られた画像情報の正しい解釈の仕方をていねいにわかりやすく解説した。

眼科と東洋医学

著者: 吉田篤

ページ範囲:P.642 - P.645

 一般演題は10題を行った。また特別講演は和歌山市の山本昇吾先生が,昨年の「漢方のその後」の症例検討会に引き続き,昨年の補足部分としての追加説明を行った。

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.646 - P.648

 今年の色覚異常専門別研究会は,先天異常と後天異常それぞれ1題づつ2題の指定演題と6題の一般演題があった。

 岡島修(三楽病院)らの演題1「石原色覚検査表の改訂に向けて」は,国際的に評価の高い石原表の全面改定に向けて基礎データの分析を報告していた。国際版石原色覚検査表38表は,数字表と曲線表から成っている。曲線表は数字の読めない人を対象としており,実際にはほとんど使用されず判定の対象ともなっていない。一方,1980年に発刊された新色覚異常検査表(新大熊表)は石原・大熊表と呼ばれた旧版の改良型で,ランドルト環形式のため幼児にも使用可能であり,石原表の曲線表の代わりとなりうるものである。演者らは,三楽病院眼科,東京女子医科大学眼科,東京大学保健センターを受診した色覚異常者のうち,石原色覚検査表国際版38表の第1~21表で誤読数10以下であった75名を対象にして石原表・新大熊表の検査成績を検討し,石原表の各表の検出精度が高いことの確認と新大熊表自体の検出成績も石原表を補完できるほど良好であることを明らかにした。これらの結果から,改訂にあたり石原表の曲線表の代わりに新大熊表を用いれば,石原表の検出能力のさらなる向上につながると報告した。

連載 今月の話題

眼窩吹き抜け骨折へのアプローチ

著者: 中村泰久

ページ範囲:P.477 - P.482

 眼窩壁の骨折を治療する目標は,障害された機能を回復することにある。初期診療では症状・症候から骨折を疑い,特に緊急手術を要する患者を見分けることが大切である。画像診断で病態を確実に把握し,治療方針を決定する。適切な手術を行うことにより機能の回復が自ずとついてくる。しかしながら一部で行われている副鼻腔からだけの手術は,果たして適切な手術であるといえるであろうか。

日常みる角膜疾患・49

アトピー性角結膜炎

著者: 近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.484 - P.486

症例

 患者:32歳,男性

 主訴:視力障害,眼脂

 現病歴:2005年2月より前医でアトピー性角結膜炎の診断のもと0.1%フルメトロン®,ザジテン®,ヒアレインミニ0.1%®の点眼により症状は落ち着いていた。同年12月左眼角膜のほぼ中央部に潰瘍が発症した。いったん治癒したが約1か月後に潰瘍が再発し,病巣部からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)が検出された。感受性を有したハベカシン0.5%®点眼,ミノサイクリン内服で加療するとハベカシン®に耐性が生じ,0.5%バンコマイシン®点眼,コリマイC®に変更,しかし症状の改善が得られないため2006年3月当科を紹介された。

 既往歴:約5年前よりアトピー性皮膚炎,3年前に両白内障手術。

 初診時所見:視力は右0.07(矯正不能),左0.01(矯正不能),眼圧は右15mmHg,左18mmHg,細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも高度の点状表層角膜症(A3D2~3)および角膜中央部に角膜混濁がみられた。特に左眼は血管侵入を伴い浸潤性変化を強く認めた。また,球結膜は中等度の充血がみられ,瞼結膜は浮腫を伴った強い充血とビロード状の肥厚がみられた(図1,2)。

 4月初旬から入院のうえ,バンコマイシン®の点滴および点眼,多量の眼脂に対して1日4回の洗眼を点眼前に徹底した。眼脂が減少した2週間後から消炎を図る目的でリンベタPF®点眼を開始した。以降,結膜の炎症所見および角膜の浸潤性変化は軽減し,左眼視力は0.07(矯正不能)に改善した。約1か月半後の結膜眼脂培養検査ではMRSAは検出されなくなった。11月に行った検査でもMRSAは検出されておらず,現在は,生理食塩水による洗眼とベストロン®と0.1%フルメトロン®で経過観察を行っている。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・1【新連載】

若年性関節リウマチに伴う前部内眼炎

著者: 北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.488 - P.492

 炎症性眼疾患は発生部位や原因・病態が多彩であり,さらに全身疾患との関連も深いことから,眼科医がそのすべてに習熟することは容易ではありません。そこで本欄では毎号代表的な炎症性眼疾患を順に取り上げます。実際の臨床現場ですぐに役立つよう,診断のポイントや鑑別診断をはっきりさせ,最新の情報や奥義を惜しみなく盛り込みました。さらに毎回われわれが経験した具体例を提示いたしますので,そこで各疾患のおさらいをして診療のコツをつかんでいただければと思います。本公開講座を「受講」していただくことで,炎症性眼疾患にどう対処したらよいのかがしっかり身に付くことと存じます。

網膜硝子体手術手技・4

小切開硝子体手術システム

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.494 - P.499

はじめに

 経毛様体扁平部硝子体手術は,Machemerら1)により1971年に開発されて以来,長年19~20ゲージ硝子体手術システムにより行われ,手術の適応も急速に拡大し,また,手術器械の改良により手術の安全性が格段に向上した。しかし,結膜切開や強膜創の縫合が必要で術後の異物感や充血の原因になった。2002年にEugene de Juan Jr.らのグループ2,3)が25ゲージ硝子体手術システムを開発してから,経結膜的無縫合硝子体手術が可能となり,手術時間の短縮,手術侵襲の軽減につながった。また,23ゲージ硝子体手術システムも2005年にEckardt4)により開発された。

 現在では,25ゲージ硝子体カッターはボシュロム社,アルコン社,ドルク社,ニデック社,ミドラボ社などから発売されている。また,23ゲージ硝子体カッターはドルク社や,今年に入ってからアルコン社からも発売された。

 当教室では,アルコン社の25ゲージ,23ゲージシステムとミドラボ社の25ゲージ硝子体カッターを使用しているので,本稿ではそれらを中心にした小切開硝子体手術システムの特徴と,実際の手術手技について解説する。

眼科医のための遺伝カウンセリング技術・6

遺伝カウンセリングに役立つ心理的介入の理論と技術

著者: 千代豪昭

ページ範囲:P.501 - P.511

はじめに

 前2回は遺伝カウンセリングの現場で必要となるカウンセラーの基本的態度とコミュニケーション・スキルについて述べた。改めて強調する必要はないかも知れないが,遺伝カウンセラーは心理専門職ではない。クライエントが遺伝病や遺伝に関する不安や悩みを抱えていたとしても,「日常の生活は正常に保たれている」のが普通である。クライエントと初対面するカウンセラーはまずこのことを確認しなければならない。「睡眠」が確保されているか,「食事」がきちんと摂れているか,服装など「外見的なところに気配りする余裕がある」か,などは簡単に確認できる。これらに乱れがある場合は,精神科医や心理専門職へのリファーを考慮するのが原則である。遺伝カウンセリングは情報提供や教育的な介入が必要となるが,精神・肉体的な条件が正常の域を外れているクライエントにとってこのようなカウンセラーの介入を受け入れる余裕はないし,事故を誘発する危険もある。

 一般にクライエント自身が「前の状況への復帰について強い希望をもっている」限りは,遺伝カウンセラーの援助によりクライエントが自分自身で問題解決できる可能性がある。しかし,一線を越えたクライエントは苦悩から逃れたい気持ちで一杯で,ストレスが発生する前の状況に帰りたいという気持ちは失せている場合がある。このようなクライエントにカウンセリングで対応することはきわめて危険である。「日常の生活が正常に保たれているかどうか」はこの「一線」を判断する根拠となるのである。

 このような「一線」を越えていないクライエントでも背景となる遺伝病や遺伝に関する問題は重い精神的負荷を与えているのが普通だし,医師から伝えられた情報が原因で精神的ストレスが危険なほど高まっているかも知れない。むしろ,クライエントのほとんどが,このような心理的葛藤を抱えた状態で遺伝カウンセラーを訪れるのが普通である。遺伝カウンセラーは心理専門職ではないが,クライエントの心理的状況を評価し,カウンセリングで対応可能か,専門職にリファーすべきか判断できなくてはならない。遺伝カウンセラーの教育課程で心理学や臨床心理学の基礎をしっかり教育するのはこれらの判断に有効だからである。

 医学教育では主として精神病理学を教えるため,医師は個別の精神疾患についての理解はあっても,正常の人間の心理については十分な教育がなされていない傾向がある。筆者も心理学は専門外であるが,遺伝カウンセリングの現場でよく用いる理論や技術について紹介したい。日常の眼科臨床にも役立てば幸いである。

眼科医のための救急教室・4

アナフィラキシーとフルオレセイン―初期対応とコードブルー

著者: 和田崇文 ,   桝井良裕 ,   箕輪良行

ページ範囲:P.650 - P.652

はじめに

 前回までは救急の「一般論」をお話しましたが,読者の先生方のご専門を考慮し,今回はフルオレセインの副作用,特にアナフィラキシーへの対処法と院内急変対応「コードブルー」について解説します。

臨床報告

前立腺癌の転移による眼窩先端部症候群の1例

著者: 戸田桃子 ,   飯島康仁 ,   高野雅彦 ,   湯田兼次 ,   樋口亮太郎 ,   水木信久

ページ範囲:P.657 - P.660

要約 目的:前立腺癌の転移で眼窩先端部症候群が生じた症例の報告。症例:48歳男性が6週前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.01であり,眼底に異常はなかった。左眼上方を除き視野が欠損していた。経過:球後視神経炎の疑いで副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行った。6日後に左眼視力は零になり,左眼の内転不全麻痺と左前額部の知覚低下が生じた。磁気共鳴画像検査(MRI)で左眼窩先端部に径2cmの腫瘤が発見された。全身検査で骨転移を伴う前立腺癌が発見された。保存的治療を行い,10か月後に眼窩腫瘤は消失したが視力は回復しなかった。結論:球後視神経炎が疑われても,悪性腫瘍などの全身疾患が関与していることがある。

初回閉塞の2か月後に再発した頭痛と眼痛を伴う網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 奥野高司 ,   小嶌祥太 ,   藤井誠一郎 ,   福原雅之 ,   前野貴俊 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.661 - P.665

要約 目的:網膜中心動脈閉塞症が短期間で再発した1例の報告。症例:糖尿病,高血圧,動脈硬化がある64歳男性に急激な頭痛と眼痛を伴う右眼の視力低下が生じ,その40分後に受診した。毛様網膜動脈の灌流域を除く眼底に,桜実紅斑を伴うびまん性混濁があり,網膜中心動脈閉塞症と診断した。経過:前房穿刺などで所見が改善し,2週後に視力は1.0 pに回復した。抗血小板薬の内服を行っていたが,初回発作の2か月後に同様な眼痛を伴う網膜中心動脈閉塞症が再発した。治療は奏効せず,視力は10cm指数弁になった。結論:稀ではあるが,網膜中心動脈閉塞症が短期間後に再発することがある。内頸動脈狭窄,糖尿病,高血圧,動脈硬化,慢性閉塞性肺疾患などの全身病変が関与している可能性がある。

オルソケラトロジーによる視力改善への要因の検討

著者: 武田桜子 ,   廣渡崇郎 ,   松原正男

ページ範囲:P.667 - P.670

要約 目的:オルソケラトロジーで視力が改善する要因の検討。対象と方法:オルソケラトロジーレンズを処方した20例40眼を対象とした。女性15例,男性5例であり,平均年齢は31.2±3.9歳であった。全例が等価球面度数-4D以内の近視であった。裸眼視力,屈折,角膜フラットK価,e価,角膜厚,装用時間を検討した。結果:装用1週間で26眼(65%)の裸眼視力が1.0になり,8眼では4週間の装用でも裸眼視力が0.7以下であった。これら8眼では処方時の等価球面度数がすべて-3D以上であった。屈折改善度は,上記26眼では1週間で2.59±0.74D,4週間で2.68±0.91Dであり,上記8眼では1週間で1.91±0.79D,4週間で1.88±0.97Dであった。両群間には,乱視度数,e価,処方前角膜厚,装用時間については差がなく,後者でフラットKが有意に小さかった。両群とも,4週間後の角膜厚は有意に菲薄化していた。結論:オルソケラトロジーによる視力改善は,治療前の屈折が-3.0D未満で,フラットKが大きな角膜で,より早く起こった。

今月の表紙

低眼圧黄斑症

著者: 福井勝彦 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.483 - P.483

 33歳,男性。ルアーで右眼球を打撲し近医を受診した。受傷2か月後,視力の改善を得ないために当院を受診した。視力は右0.1(0.3×-2.50D),左1.5(n. c.),浅前房と角膜内皮面に色素細胞沈着がみられた。眼圧は右7mmHg,左14mmHgであった。右眼の視神経乳頭に軽度の発赤,中心窩周囲に放射状の皺襞形成と上下血管アーケード内に血管蛇行がみられた。眼底下方の鋸状縁には,前医におけるレーザー光凝固治療瘢痕が認められた。

 フルオレセイン蛍光眼底造影にて,初期に視神経乳頭の周囲および上血管アーケード領域に不正形な脈絡膜充盈遅延を示唆する低蛍光斑と,後極部網膜に小葉サイズの過蛍光斑が認められた。視神経乳頭に軽度の過蛍光がみられるものの蛍光漏出はなかった。インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,初期に視神経乳頭耳側の一部に充盈遅延,上血管アーケード内の脈絡膜静脈血管に境界不鮮明な拡張がみられた。撮影はコーワ社製PRO-Ⅲ眼底カメラを用いた。

べらどんな

小口病

著者:

ページ範囲:P.492 - P.492

 小口病は明治40年(1907)に報告された。ちょうど100年前である。

 小口忠太は陸軍病院に軍医として勤務していた。夜盲で夜間演習ができないと訴える兵隊が入院してきた。それまで各病院を転々とし,詐盲だと思われていた。

 視力は良好だが,眼底周辺部が灰白色で霜降り状であった。両親が血族結婚であること,そして兄弟にも夜盲が多いことから,新疾患であると判断した。小口は「夜盲症ノ一種ニ就テ」の論文を日眼会誌11巻に発表した。さらに2症例が加わり,グレーフェのArchivに,これをドイツ語の論文として1912年に報告した。

やさしい目で きびしい目で・88

熱く思うこと (1)危機管理

著者: 島川眞知子

ページ範囲:P.649 - P.649

 私が常々「熱く思うこと」を3回に分けて書かせていただこうと思う。

 私は大学を卒業した後,大学院も含めて大学の医局に6年間在籍し,ぶどう膜炎を主体に勉強させていただいた。その後15年間,国立国際医療センターに勤務し,一般眼科,網膜硝子体をはじめとする手術など多くの経験をし,またエイズの基幹病院であったのでエイズについて勉強をさせていただき,8年前に元の古巣の大学に戻った。子どもたちも大きくなったことだし,自分の経験を生かして,少しでも後輩たちのお役に立てれば,と意を決して教育職に就いた。

ことば・ことば・ことば

蛋白光

ページ範囲:P.653 - P.653

 いろいろな宝石がある中で,古代ローマでもっとも珍重されたのはエメラルドとオパールでした。ダイアモンドは現代風の多面体にカットしなければ美しくなく,ルビーはビルマの山岳地帯が主な産地なので,良質なものがなかったらしいのです。なお,rubyの名はラテン語の 形容詞rubeus「赤」から来ています。

 エメラルドの当時の産地はエジプト,オパールはチェコとインドでした。この両者は,現在でも正反対の理由で尊重されています。

文庫の窓から

『幼学食物能毒』にみられる目によい食材

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.672 - P.674

 「古き医書に見えたり,人長寿を保たんと思わば先第一に食事をつゝしむにあり。古人曰 食益有り,美食損有り。やまひは口より入るとおもひ,朝夕の食物能毒をわきまふべし。食療のたっとき事知らずんばあるべからず」(序文より)

 ここに紹介する『幼学食物能毒』は,『神農本草』『時珍本草』『大和本草』『食物本草』『六八本草』『日用食性』『和漢三才図絵』などのほか,古今能毒を著した書が沢山あるが,これらの書籍はみな漢字で書かれて幼童に理解し難いので,数十家の説に著者の考えも加えて食物258種の能毒を,和文を以て簡潔に記述したものである。目に関係する食物能毒について以下の如く記されている。

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あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.686 - P.686

 今春は暖かい日が続き,4月号が発行される頃には北のほうでもすっかり葉桜になっているのではないかと思います。毎年3月になると専門医試験の受験申請のため,論文の受理が急がれます。できるだけ間に合うようにと努力はいたしておりますが,よい論文になってほしいという気持ちから査読過程が長引き,編集は時間との戦いになってしまう場合があります。

 さて,「臨床眼科」では現在原著論文のほかにいくつかの連載が走っており,どれも充実した教育的内容です。外眼部疾患の診断から後眼部手術,遺伝に至るまで幅広い分野を毎月少しずつ勉強することができます。著者の先生のすばらしい原稿はもちろんのことですが,このような幅広い分野の企画がうまく調和して進んでいるのは,長い伝統を持つ編集委員会の豊富な知識と経験の積み重ねの賜物と感じています。本号から,新しい連載である「公開講座・炎症性眼疾患の診療」もスタートしました。炎症性眼疾患は病態が多彩で,まず診断学が重要です。「~炎」という病名がついている疾患でなくても多くの眼疾患で炎症がかかわっているわけですが,本講座を毎月受講することにより,炎症に関する最新の情報を得て診断のノーハウや新しい治療へのアイデアを膨らませていきたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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