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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科61巻4号

2007年04月発行

連載 眼科医のための遺伝カウンセリング技術・6

遺伝カウンセリングに役立つ心理的介入の理論と技術

著者: 千代豪昭1

所属機関: 1お茶の水女子大学大学院人間文化研究科特設遺伝カウンセリングコース

ページ範囲:P.501 - P.511

文献概要

はじめに

 前2回は遺伝カウンセリングの現場で必要となるカウンセラーの基本的態度とコミュニケーション・スキルについて述べた。改めて強調する必要はないかも知れないが,遺伝カウンセラーは心理専門職ではない。クライエントが遺伝病や遺伝に関する不安や悩みを抱えていたとしても,「日常の生活は正常に保たれている」のが普通である。クライエントと初対面するカウンセラーはまずこのことを確認しなければならない。「睡眠」が確保されているか,「食事」がきちんと摂れているか,服装など「外見的なところに気配りする余裕がある」か,などは簡単に確認できる。これらに乱れがある場合は,精神科医や心理専門職へのリファーを考慮するのが原則である。遺伝カウンセリングは情報提供や教育的な介入が必要となるが,精神・肉体的な条件が正常の域を外れているクライエントにとってこのようなカウンセラーの介入を受け入れる余裕はないし,事故を誘発する危険もある。

 一般にクライエント自身が「前の状況への復帰について強い希望をもっている」限りは,遺伝カウンセラーの援助によりクライエントが自分自身で問題解決できる可能性がある。しかし,一線を越えたクライエントは苦悩から逃れたい気持ちで一杯で,ストレスが発生する前の状況に帰りたいという気持ちは失せている場合がある。このようなクライエントにカウンセリングで対応することはきわめて危険である。「日常の生活が正常に保たれているかどうか」はこの「一線」を判断する根拠となるのである。

 このような「一線」を越えていないクライエントでも背景となる遺伝病や遺伝に関する問題は重い精神的負荷を与えているのが普通だし,医師から伝えられた情報が原因で精神的ストレスが危険なほど高まっているかも知れない。むしろ,クライエントのほとんどが,このような心理的葛藤を抱えた状態で遺伝カウンセラーを訪れるのが普通である。遺伝カウンセラーは心理専門職ではないが,クライエントの心理的状況を評価し,カウンセリングで対応可能か,専門職にリファーすべきか判断できなくてはならない。遺伝カウンセラーの教育課程で心理学や臨床心理学の基礎をしっかり教育するのはこれらの判断に有効だからである。

 医学教育では主として精神病理学を教えるため,医師は個別の精神疾患についての理解はあっても,正常の人間の心理については十分な教育がなされていない傾向がある。筆者も心理学は専門外であるが,遺伝カウンセリングの現場でよく用いる理論や技術について紹介したい。日常の眼科臨床にも役立てば幸いである。

参考文献

1)カプランG(新福尚武訳):予防精神医学.朝倉書店,1970
2)キューブラー・ロスE(鈴木 晶訳):死ぬ瞬間.中央公論新社,2001
3)アギュララDC,メズイックJM(小松源助・荒川義子訳):危機療法の理論と実際.川島書店,1978

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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