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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科61巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

特集 第60回日本臨床眼科学会講演集(4) 原著

極小切開白内障手術:バイマニュアル法とマイクロコアキシャル法の比較検討

著者: 樋口亮太郎 ,   戸田桃子 ,   大力千尋

ページ範囲:P.955 - P.959

要約 目的:極小切開による白内障手術でのバイマニュアル法とマイクロコアキシャル法との比較と安全性の報告。対象と方法:同一術者が白内障手術を行った169眼を検索した。49眼はバイマニュアル法,75眼はマイクロコアキシャル法,45眼は従来の方法で手術し,手術手技,手術時間,超音波作動時間,安全性を検討した。結果:初期には極小切開法に特有な合併症があったが,器具と手技を改善することで解決した。バイマニュアル法では従来法よりも手術時間が有意に長かった。マイクロコアキシャル法はバイマニュアル法に比べ,導入初期から手術時間が安定していた。角膜内皮細胞密度には3群間に差がなかった。結論:白内障手術での極小切開法では,従来法に比べて同径の眼内レンズをより小さい切開創から挿入できる。バイマニュアル法よりもマイクロコアキシャル法のほうが新規に導入しやすい。

水晶体完全脱臼と亜脱臼の原因

著者: 木下太賀 ,   真野富也 ,   櫻井寿也 ,   竹中久 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.961 - P.964

要約 目的:水晶体脱臼と亜脱臼の原因と経過の報告。対象:過去7年9か月間に手術を行った54例62眼を対象とした。脱臼と亜脱臼がそれぞれ31眼にあった。男性37名,女性17名,年齢は平均58歳であった。結果:完全脱臼の原因は,強度近視7眼,鈍性外傷7眼,Marfan症候群3眼,レーザー虹彩切開3眼,偽落屑症候群1眼,原因不明10眼であった。亜脱臼の原因は,鈍性外傷6眼,Marfan症候群2眼,レーザー虹彩切開3眼,偽落屑症候群2眼,アトピー性皮膚炎2眼,原因不明16眼であった。61眼に対して硝子体手術と経毛様体水晶体切除術を行い,45眼では眼内レンズを縫着した。結論:原因として両群とも打撲が多かった。完全脱臼では強度近視が多かった。レーザー虹彩切開後に水晶体偏位が生じた症例があり,注意が必要である。

VISULUXTMを用いたバックリング網膜剝離手術の利点と課題

著者: 越野崇 ,   星合繁 ,   鈴木茂揮 ,   折原唯史 ,   花田斉久 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.965 - P.968

要約 目的:手術顕微鏡にVISULUXTMを照明装置として使った網膜剝離手術の報告。対象と方法:過去2年間に裂孔原性網膜剝離に対して強膜バックリングを行った45眼を検索した。全例に手術顕微鏡と,これに付属する細隙灯照明(VISULUXTM)を用いた。術中の視認性,手術時間,網膜復位率,合併症などにつき,同時期に倒像鏡で観察しながら網膜剝離手術をした34眼と比較した。結果:初回復位は45眼中41眼(91%)と,34眼中30眼(88%)で得られた。両群間に有意差はなかった。手術時間はそれぞれ75.8±26.2分,85.7±32.3分であり,両群間に有意差はなかった。術中の視認性は術前の細隙灯顕微鏡による眼底検査とほぼ同じであった。結論:網膜剝離に対して強膜バックリングを行う顕微鏡手術で,VISULUXTMを照明装置として使うことにより,良好な術中の視認性と,従来の方法と同様な成績を得ることができる。

抗癌薬TS-1®の全身投与が原因と考えられた角膜上皮障害

著者: 細谷友雅 ,   外園千恵 ,   稲富勉 ,   上田真由美 ,   福岡秀記 ,   内海隆生 ,   保科幸次 ,   神野早苗 ,   三村治 ,   木下茂

ページ範囲:P.969 - P.973

要約 目的:抗癌薬TS-1®が原因と考えられる角膜上皮障害の報告。対象と方法:テガフール,ギメラシル,オテラシルカリウムを含む抗癌薬TS-1®で加療中に角膜上皮障害が生じた7例14眼を解析した。結果:男性5例,女性2例であり,年齢は71.3±8.0歳であった。原疾患の内訳は胃癌4例,乳癌,大腸癌,胆管癌各1例であった。TS-1®の投与開始から眼科受診までの期間は平均4.0か月で,それまでの総投与量は平均7.9gであった。全例が両眼性で,充血を伴わない角膜上皮障害があった。TS-1®投与を中止した5例10眼では所見が改善したが,投与を継続した2例4眼では角膜上皮障害が持続した。結論:抗癌薬TS-1®の全身投与で角膜上皮障害が生じる可能性があり,注意が必要である。

25ゲージ硝子体手術における強膜斜め刺入法による術後早期併発症の軽減効果

著者: 木村英也 ,   黒田真一郎 ,   永田誠

ページ範囲:P.975 - P.978

要約 目的:硝子体手術でのトローカの斜め刺入法と垂直刺入法による術後早期合併症を比較した報告。対象と方法:25ゲージ硝子体手術を行った138眼を対象とした。内訳は黄斑上膜88眼,黄斑円孔23眼,網膜静脈閉塞症13眼,糖尿病黄斑浮腫6眼などである。71眼ではトローカを斜めに刺入し,68眼では垂直に刺入した。結果:斜め刺入眼では,一過性低眼圧と結膜浮腫が各2眼に生じた。垂直刺入眼では,一過性低眼圧と結膜浮腫が各15眼,結膜からの眼内液漏出が7眼,脈絡膜剝離が8眼に生じた。結論:25ゲージ硝子体手術ではトローカを斜めに刺入することにより,術後早期の合併症が減り,より安全な手術ができる。

23ゲージシステム経結膜硝子体手術の経過

著者: 久保木香織 ,   大音壮太郎 ,   服部昌子 ,   糸井恭子 ,   金森章泰 ,   宮本紀子 ,   高木均

ページ範囲:P.981 - P.984

要約 目的:23ゲージ硝子体手術の評価と成績の報告。対象と方法:過去6か月間に一人の術者が23ゲージ硝子体手術を行った74例78眼を対象とした。内訳は,黄斑上膜18眼,網膜静脈分枝閉塞症15眼,増殖糖尿病網膜症12眼,網膜剝離と増殖硝子体網膜症11眼,硝子体出血11眼などである。結果:膜処理は25ゲージよりも容易に行え,強膜圧迫による周辺部硝子体切除や眼内レンズ光凝固も20ゲージと同様にできた。術中合併症として,トローカ操作による網膜剝離が1眼,灌流ポートが抜けて脈絡膜下腔への灌流液の流入が2眼にあった。1眼に術後の一過性低眼圧があった。結論:トローカ操作に注意しながら23ゲージを使うことで,各種の網膜硝子体疾患に対し侵襲が小さく,縫合を必要としない硝子体手術が可能である。

急激な経過をたどったグラム陽性桿菌による内因性眼内炎の1例

著者: 飛田秀明 ,   早野悦子

ページ範囲:P.985 - P.989

要約 目的:急速に発症進行したBacillus cereusによる内因性眼内炎1症例の報告。症例:74歳男性が直腸癌手術の目的で入院した。5日目に経中心静脈栄養カテーテル(IVH)留置が行われ,その数時間後に右眼の眼痛と視力低下を自覚した。翌日の初診時には,矯正視力は右0,左0.7であった。右眼の全眼球炎と診断し,広域感受性抗菌薬の全身と硝子体投与を行った。病変は急速に進行し,発症から7日目に眼球摘出術を必要とした。硝子体からグラム陽性桿菌であるB. cereusが検出された。全身検索で原病巣は発見されなかった。結論:B. cereusは外因性眼内炎の原因になりやすい。内因性眼内炎を起こすことは稀であるが,易感染状態では起因菌になることがあり注意を要する。

オルソケラトロジー治療の長期観察結果と問題点

著者: 前谷悟 ,   曽根隆志 ,   相田潤 ,   前谷満壽

ページ範囲:P.991 - P.995

要約 目的:オルソケラトロジーによる近視治療の長期経過と問題点の報告。対象:過去3年6か月の間にオルソケラトロジーを行った58例113眼を検索の対象とした。結果:96眼(85%)で1.0以上の裸眼視力が得られた。視力は治療早期から改善したが,9例17眼(15%)では治療を中断した。中断の理由は,早期では複視,羞明,不十分な視力改善であり,後期では角膜びらん,レンズの汚染や磨耗による効果の低下,装着時間の減少などであった。結論:オルソケラトロジーによる治療では,効果が恒久的でないことを患者にあらかじめ説明する必要がある。

8歳時より著明に視機能が向上したstage 5未熟児網膜症術後の1例

著者: 大島富太郎 ,   塚原康友 ,   宮浦望 ,   調廣子 ,   根木昭

ページ範囲:P.997 - P.1000

要約 目的:8歳時より著明に視力が向上したstage 5未熟児網膜症術後症例について報告する。症例:9歳男児。在胎24週0日,体重602gで出生。両眼に未熟児網膜症を発症,キセノン光凝固,網膜冷凍凝固を行ったが,両眼ともstage 5に進行し,水晶体切除・硝子体手術を施行。網膜は両眼とも復位したが,網膜の高度の萎縮変性を認め,精神発達遅滞もあり7歳頃まで視力は光覚程度であった。8歳時より市販の幼児用教材による訓練を開始した。結果:6か月後には2cm角程度の書字が可能になった。結論:幼児用教材が視覚の発達・評価に有用と考えられた。本例のように網膜萎縮が強く精神発達遅滞のある患児でも,訓練により実用視力を得る可能性がある。

角結膜上皮内癌に対する5フルオロウラシルのパルス点眼療法の有効性

著者: 敷島敬悟 ,   三戸岡克哉 ,   佐野雄太 ,   柴琢也 ,   北原健二

ページ範囲:P.1001 - P.1005

要約 目的:角結膜上皮内癌に対する5フルオロウラシルのパルス点眼で加療した2症例の報告と,治療プロトコールの呈示。症例と方法:角結膜上皮内癌と診断された2例を治療した。73歳男性と81歳女性で,いずれも片眼性であった。病理学的診断は,それぞれsevere dysplasia, carcinoma in situであった。5フルオロウラシルによる治療は,0.5%点眼で安全性を確認した後,1%に増量した。点眼は1日4回で4日間続けた後に1か月休薬し,これを1クールとして6クールを予定した。結果:2症例とも,上記の方法による治療で顕著な改善が得られた。角膜障害はなかった。結論:角結膜上皮内癌に対する1% 5フルオロウラシルのパルス点眼療法は,有効かつ安全であった。

緑内障患者の身体障害者手帳の申請

著者: 久保若奈 ,   中村秋穂 ,   石井祐子 ,   南雲幹 ,   井上賢治 ,   若倉雅登 ,   井上治郎

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 目的:緑内障による身体障害者手帳申請を調査した結果の報告と問題点の指摘。対象と方法:井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,視覚障害による身体障害者手帳を申請した35例を調査の対象とした。申請時の等級や重複障害申請の内訳を,身体障害者診断書と意見書の控えを資料に調査した。結果:視覚障害1級と2級の申請が65%を占め,視野障害2級が最も多かった。13例が重複障害申請で,9例は補装具の給付申請を目的とした。結論:現行の視野障害認定基準は,緑内障の視野変化の特徴から視野障害の程度を評価しにくい。手帳を申請する際には,補装具を考慮して視力障害の重複障害申請を検討すべきである。

上眼静脈の狭小化をきたした頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 澤田有 ,   中山龍子 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.1013 - P.1016

要約 目的:上眼静脈の狭小化を伴った頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)症例の報告。症例:78歳女性が6か月前からの右眼の充血で受診した。高血圧の既往があり,13年前に左眼に網膜剝離手術を受けていた。所見と経過:矯正視力は右0.15,左0.05であった。右眼には球結膜の血管拡張と蛇行,眼球突出,切迫型網膜中心静脈閉塞症などがあり,左眼には眼球陥凹があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で上眼静脈の狭小化があり,造影で静脈内に血栓があった。脳血管造影で内頸動脈硬膜枝から右海綿静脈洞瘻への短絡路があり,硬膜枝型CCFと診断した。経静脈塞栓術で症状が改善し,手術の5か月後に右眼視力は1.0になった。結論:CCFでは上眼静脈が拡張することが多いが,血栓形成ないし閉塞で狭小化することがあり,診断の際に注意が必要である。確定診断には脳血管造影が有用である。

後頭葉梗塞により相貌失認と中枢性色覚異常を呈した1例

著者: 清水恵 ,   堀江長春 ,   鈴木幸久 ,   清澤源弘 ,   石井賢二 ,   望月學

ページ範囲:P.1017 - P.1020

要約 目的:多彩な視覚認知障害を呈した後頭葉梗塞の1例の報告。症例:49歳男性に脳梗塞が発症し,その直後から相貌失認,色覚失認,視野欠損,地誌的失見当識,漢字の失読失書を訴えた。発症から1年後に眼科的な検索を行った。所見:矯正視力は右1.2,左1.5であり,両眼の視野に左同名半盲と右上四半盲があった。Panel D-15検査で第1色覚異常に近い所見が得られた。磁気共鳴画像検査(MRI)では,左上方を残し,一次視覚域全域から海馬の後方部を含む側頭後頭葉の下面と内側面に広がる脳梗塞があった。フルオロデオキシグルコースを用いた陽電子放射断層撮影(PET)では,MRIで同定された病変よりも広い範囲に糖代謝の低下があり,フルマゼニルPETではこれと同部位にベンゾジアゼピン受容体密度の著しい低下があった。以後1年間の経過中,症状の改善はなかった。結論:本症例では,頭蓋内の病変部位の診断にPETが有効であった。

Wavefront-guided LASIKによる乱視矯正

著者: 大木伸一 ,   ビッセン宮島弘子 ,   中村邦彦

ページ範囲:P.1021 - P.1024

要約 目的:乱視に対するwavefront-guided LASIKの矯正効果の報告。対象と方法:3D以上の乱視がある8眼にエキシマレーザーを使ってwavefront-guided LASIKを行った。結果:術後1か月の乱視は平均0.5D以内になり,全例で裸眼視力が向上した。矯正視力は5眼で向上し,2.5%と15%コントラスト視力は7眼で向上した。コマ収差と球面収差については,術前後で差がなかった。結論:乱視に対するwavefront-guided LASIKでは,裸眼視力が向上し,矯正視力とコントラスト視力が向上する例があるので,視機能の改善に有用である。

ウルトラスリーブを用いた水晶体超音波乳化吸引術における灌流量とリーク量

著者: 北村奈恵 ,   ビッセン宮島弘子 ,   中村邦彦

ページ範囲:P.1025 - P.1027

要約 目的:外形が小さいウルトラスリーブを使って水晶体超音波乳化吸引術を行ったときの灌流液の動態の報告。対象:ウルトラスリーブで超音波乳化吸引術を行った白内障34眼を対象とした。結果:過去に報告したマイクロスリーブと比較し,ウルトラスリーブでは毎分の灌流量が有意に少なかった。超音波作動時間,吸引時間,灌流液の漏れについては,両群間に有意差がなかった。結論:ウルトラスリーブを使って水晶体超音波乳化吸引術を行うと,従来のマイクロスリーブよりも灌流液の量が少なくなり,角膜切開創を小さくできる。

緑内障点眼治療における多剤投与から単剤投与への試み

著者: 古賀憲人 ,   濱田禎之 ,   佐藤俊介

ページ範囲:P.1029 - P.1031

要約 目的:緑内障に対する2剤以上の多剤点眼をラタノプロスト単独点眼に変更したときの眼圧下降効果の報告。対象と方法:2剤以上の多剤点眼で加療中の緑内障13例26眼を対象とした。内訳は,原発開放隅角緑内障2例,原発閉塞隅角緑内障1例,正常眼圧緑内障10例である。18眼はラタノプロストを含む多剤投与中であり,8眼はラタノプロストを含まない多剤投与中であった。ラタノプロスト単独点眼に切り替え,3か月後の眼圧を測定した。結果:26眼での眼圧は切り替え前13.5±5.0mmHg,3か月後は12.8±3.6mmHgであった。ラタノプロストを含まない多剤投与中の8眼では,切り替え前18.6±5.4mmHg,3か月後は16.4±3.8mmHgであり,有意に下降した(p=0.01)。ラタノプロストを含む多剤投与中の18眼では,切り替え前11.2±2.6mmHg,3か月後は11.2±2.1mmHgであった。結論:緑内障に対する2剤以上の多剤点眼をラタノプロスト単独点眼に変更しても,変更前の眼圧が維持できる可能性がある。

照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績

著者: 菅野誠 ,   永沢倫 ,   鈴木理郎 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1033 - P.1037

要約 目的:選択的レーザー線維柱帯形成術の半周照射と全周照射による眼圧下降効果の比較。対象と方法:選択的レーザー線維柱帯形成術を行った緑内障20眼を対象とした。内訳は原発開放隅角緑内障15眼と落屑緑内障5眼である。10眼には半周照射,他の10眼には全周照射を行った。術後の眼圧は,治療1,2,3,6か月後に測定した。結果:半周照射群での眼圧は,術前21.2±3.3mmHg,術6か月後18.0±1.9mmHgであった。全周照射群での眼圧は,術前22.6±4.1mmHg,術6か月後15.0±2.9mmHgであった。全周群では半周群よりも,術後2,3,6か月の眼圧が有意に低かった。結論:選択的レーザー線維柱帯形成術による眼圧下降効果は,半周照射よりも全周照射のほうが大きい。

緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績

著者: 小松務 ,   横田香奈 ,   松下恵理子 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.1039 - P.1043

要約 目的:各種の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績の報告。対象と方法:過去3年間に線維柱帯切開術を行い,1か月以上の経過が観察できた緑内障93例110眼を対象とした。年齢は13~92歳(平均68歳)で,緑内障の内訳は,原発開放隅角緑内障31眼,原発閉塞隅角緑内障8眼,落屑緑内障32眼,ステロイド緑内障8眼,ぶどう膜炎続発緑内障13眼,その他18眼である。81眼が有水晶体,28眼が偽水晶体,1眼が無水晶体であった。病型と濾過手術既往の有無により術後眼圧を検討し,生存率として表現した。結果:全症例の術後眼圧は平均15~16mmHgであった。平均12か月までの生存率はカットオフ値を19,16,14mmHgとした場合,それぞれ65%,47%,25%であった。病型別では落屑緑内障の生存率が最も良好であった。濾過手術既往の有無は生存率に影響しなかった。結論:線維柱帯切開術は緑内障の病型により効果が異なる。濾過手術の既往がある緑内障に対する再手術には線維柱帯切開術が選択肢の1つになる。

外傷性眼球破裂の治療成績

著者: 尾崎弘明 ,   ジェーンファン ,   梅田尚靖 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1045 - P.1048

要約 目的:外傷性眼球破裂症例の手術成績の報告。対象:過去7年間に治療した21例21眼を検索した。初診時の視力は全例が手動弁以下であった。初回手術として,20眼で裂創を縫合し,1眼は眼球を摘出した。硝子体出血または牽引性網膜剝離がある12眼には,初回手術から約2週間後に硝子体手術を行った。結果:最終視力は6眼(29%)が0.8以上,1眼が0.1から0.7,3眼が手動弁から0.09,5眼が光覚弁,4眼が光覚なしであり,2眼が眼球摘出を受けた。初診時に光覚がないこと,破裂創が15mmよりも大きいこと,網膜が脱出していることが,最終視力不良になる因子であった。結論:外傷性眼球破裂では適切な初期対応と積極的な治療が必要である。

角膜穿孔を生じたPaecilomyces属による角膜真菌症の1例

著者: 椋本茂裕 ,   井出尚史 ,   嘉山尚幸 ,   小林円 ,   伊勢ノ海薫子 ,   檀之上和彦 ,   針谷明美 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1049 - P.1052

要約 目的:急速に進行し,角膜穿孔に至ったPaecilomyces属による角膜真菌症の症例の報告。症例:78歳男性が4日前からの右眼充血で受診した。8年前から兎眼性角膜症で加療中であった。所見と経過:矯正視力は右手動弁,左0.9で,右眼に毛様充血と角膜中央部の下方に羽毛状混濁を伴う角膜潰瘍と前房蓄膿があった。潰瘍部の擦過物から糸状菌が検出され,培養でPaecilomyces lilacinusと同定された。フルコナゾールの点眼と静注と1%ピマリシン眼軟膏投与が奏効せず,ボリコナゾールの内服を行ったが,第18病日に角膜が穿孔した。結膜被覆術を行い,ボリコナゾール点眼を開始した。その後角膜膿瘍は縮小した。結論:Paecilomyces属による角膜真菌症は予後不良なことがあり,早期診断と治療が重要である。

梅毒眼感染症を契機に発見されたHIV感染症患者の1例

著者: 袖山丈男 ,   村山耕一郎 ,   魵澤伸介 ,   樺澤昌 ,   島田佳明 ,   米谷新 ,   鈴木幸彦 ,   中澤満

ページ範囲:P.1053 - P.1057

要約 目的:梅毒性眼感染症を契機としてヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染が発見された症例の報告。症例と経過:37歳男性が急激な左眼疼痛と視力低下で受診。5か月前から両眼の羞明と右眼視力低下があった。矯正視力は右0.3,左手動弁であり,両眼に虹彩炎,硝子体混濁,視神経炎,網脈絡膜炎がみられた。梅毒血清反応が強陽性であり,梅毒性ぶどう膜炎ならびに視神経炎と診断し,駆梅療法と副腎皮質ステロイド薬の治療により,視神経炎とぶどう膜炎は軽快した。全身の精査でHIV感染があることが判明した。初診から2か月後の矯正視力は右0.5,左0.7であった。結論:梅毒による眼感染症では,HIVその他の性感染症が併発している可能性に留意すべきである。

Behçet病における新規発症患者の動向

著者: 早川宏一 ,   昆野清輝 ,   高橋和臣 ,   吉冨健志 ,   山木邦比古

ページ範囲:P.1059 - P.1062

要約 目的:秋田大学眼科でのBehçet病の初診患者の動向の報告。対象と方法:2002年までの5年間に当科外来を初診したBehçet病患者を診療録の記録に基づいて検討した。その結果を1982年までの11年間と1997年までの5年間の当科での発症状況と比較した。結果:この5年間に12例がBehçet病と診断され,うち7例に眼症状があった。その内訳は男性5例,女性2例であり,年齢は平均27.0±8.8歳であった。眼症状がある7例では治療と経過観察を行った。最終受診時に13眼中6眼で視力が0.1以下であり,すべて黄斑変性と視神経萎縮がその原因であった。ぶどう膜炎のなかでBehçet病が占める頻度は,1982年までの11年間では31.9%,1997年までの5年間では5.3%,今回の5年間では3.0%であり,新規に発症する患者数は減少していた。結論:1982年までの期間と比較し,2002年までの5年間の新規発症は有意に減少している。この事実は,わが国でのBehçet病の新規発症が減少しつつあるという従来の報告と一致する。

仮面症候群を呈した中枢神経系悪性リンパ腫の1例

著者: 加茂雅朗 ,   戒田真由美 ,   柏野緑 ,   辻田裕二良 ,   進藤喜予 ,   井上健 ,   山中一浩 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1063 - P.1068

要約 目的:長期間ぶどう膜炎の症状を呈し,のちに頭蓋内の悪性リンパ腫と診断された仮面症候群症例の報告。症例と経過:63歳男性が頭痛と眩暈で受診した。眼科的に格別の異常はなかった。2か月後に両眼に飛蚊症が生じ,ぶどう膜炎と診断した。ステロイド内服で軽快した。19か月後に硝子体混濁が再燃し,治療により軽快した。初診から30か月後に左眼,その9か月後に右眼に硝子体手術を行った。その後,尿失禁と見当識障害が起こり,磁気共鳴画像検査(MRI)で悪性リンパ腫が疑われた。生検でB細胞リンパ腫の診断が確定した。抗癌薬と放射線照射で頭蓋内腫瘤と硝子体混濁は消失し,左右眼とも1.2の視力を維持している。結論:本症例は,頭蓋内の悪性リンパ腫に遷延性ぶどう膜炎が続発した仮面症候群であったと解釈される。

眼瞼縮小症候群手術における外眼角靱帯切断併用法の効果

著者: 落合敬子 ,   金子博行 ,   落合淳一 ,   根本裕次

ページ範囲:P.1069 - P.1072

要約 背景:眼瞼縮小症候群は,鼻側強膜が逆内眼角贅皮によって隠され,偽内斜視を呈する。治療として眼瞼挙筋前転術や内眼角形成術が行われるが,瞼裂の拡大効果は必ずしも十分でない。目的:本症候群に外眼角靭帯切断術を併用した結果の報告。症例:症例は1歳男児,20歳女性,22歳女性で,いずれも両眼に眼瞼縮小症候群があった。従来の手術に外眼角靭帯切断術を併用した。結果:全例で偽内斜視が改善し,鼻側強膜が瞼裂に露出した。従来の報告よりも瞼裂の水平幅が大きかった。結論:眼瞼縮小症候群に対し,外眼角靭帯切断術を併用する手術は有効で安全である。

上眼瞼挙筋前転術におけるピオクタニン染色の有用性

著者: 福本敦子 ,   吉田和彦 ,   陳進輝 ,   木嶋理紀 ,   廣瀬茂樹 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1073 - P.1075

要約 目的:上眼瞼挙筋前転術におけるゲンチアンバイオレット(ピオクタニン®)染色の有用性の報告。対象と方法:上眼瞼挙筋前転術を行った先天眼瞼下垂6例7眼を対象とした。年齢は1年5か月~5年2か月(平均3年2か月)である。挟瞼器を使い,上眼瞼挙筋と眼窩隔膜を剝離する際に,結膜側から上眼瞼挙筋をゲンチアンバイオレットで染色し,上横走靭帯までの部分を同定できるようにした。結果:全例で上眼瞼挙筋の剝離と上横走靭帯の同定ができた。術中に眼窩隔膜や上眼瞼挙筋の穿孔はなかった。結論:眼瞼下垂手術で上眼瞼挙筋前転術のゲンチアンバイオレットによる染色は有用である。

髄膜炎と副鼻腔炎に合併した両眼窩筋円錐内膿瘍の1例

著者: 吉川智穂 ,   磯村悠宇子 ,   山田雅子 ,   亀谷崇 ,   加藤千春 ,   田邊吉彦

ページ範囲:P.1077 - P.1082

要約 目的:細菌性髄膜炎と副鼻腔に続発した両眼の眼窩筋円錐内膿瘍の1症例の報告。症例:52歳男性が意識不明の状態で発見された。その3日前から体調が不良であった。細菌性髄膜炎,播種性血管内凝固症,両篩骨洞炎,両蝶形骨洞炎があった。両側の眼窩内に複数の腫瘤があり,眼窩筋円錐内の腫瘤が視神経を圧迫し,網膜皺襞と眼球運動障害があった。眼窩内の病変は抗菌薬には反応せず,手術による排膿で治癒した。Streptococcus milleri groupが検出され,膿瘍と診断された。結論:篩骨洞炎と蝶形骨洞炎から細菌感染が血行性に進展し,髄膜炎と両側の眼窩筋円錐内腫瘍が生じたものと考えられる。抗菌薬投与が無効であったのは,眼窩内膿瘍が被膜に覆われていたためと推定される。

虹彩生検で診断が確定した悪性リンパ種の1例

著者: 松山加耶子 ,   西村哲哉 ,   髙橋寛二 ,   南部裕之 ,   和田光正 ,   松村美代

ページ範囲:P.1083 - P.1086

要約 目的:虹彩の生検で診断が確定した眼内悪性リンパ腫の1例の報告。症例:79歳女性が2か月前から右眼の霧視があり,ぶどう膜炎としてステロイドにより加療中であったが悪化し,当科を受診した。1年前に扁桃の悪性リンパ腫に対し化学療法を受けている。所見:矯正視力は右指数弁,左0.9で,右眼に前房蓄膿と虹彩後癒着があり,虹彩全面に新生血管と結節状の隆起があった。周辺虹彩切除による生検で,B細胞型悪性リンパ腫と診断した。肺にも病巣があるために,放射線照射と化学療法を行った。虹彩新生血管と隆起はほとんど消失し,初診から13か月後の現在まで安定している。結論:眼外の悪性リンパ腫の既往があり,虹彩浸潤が疑われる症例では虹彩生検が有用なことがある。

出血性結膜リンパ管拡張症の1例

著者: 近藤美鈴 ,   高見淳也 ,   林暢紹 ,   福島敦樹 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.1087 - P.1089

要約 目的:自然寛解した出血性結膜リンパ管拡張症の症例の報告。症例:5歳女児が1年7か月前からの左眼充血が悪化して受診した。抗アレルギー薬の点眼を受けていた。所見と経過:矯正視力は右1.2,左1.0であり,左眼球結膜に血液が充満した拡張リンパ管と結膜下出血があった。1日2回,非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の点眼を開始した。2週間後にリンパ管内の血液はなくなり,軽度の結膜充血とリンパ管拡張のみになった。結論:出血性結膜リンパ管拡張症は自然寛解することがある。

裂孔原性網膜剝離に対するminimal surgery

著者: 岩崎真理子 ,   番裕美子 ,   尾羽澤実

ページ範囲:P.1091 - P.1094

要約 目的:Minimal surgeryを基本方針とした裂孔原性網膜剝離の手術成績の報告。対象と方法:3年9か月間に初回手術として強膜バックリングを行った裂孔原性網膜剝離72例72眼を対象とした。積極的に排液を行っていた38眼(D群)と,可能な限り行わなかったそれ以後の34眼(ND群)を比較した。結果:初回復位はD群35眼(92.1%),ND群30眼(88.2%)で得られた。ND群中2眼は上方の胞状剝離であり,バックルが不適切と考えられた。最終復位は各々38眼(100%),33眼(97.1%)で得られた。ND群では術中または術後の合併症はなかった。結論:Minimal surgeryは侵襲が小さく,安全で有効な網膜剝離に対する手術方法である。

連載 今月の話題

骨髄造血幹細胞による網膜色素変性症治療の可能性

著者: 大谷篤史

ページ範囲:P.921 - P.926

 医学の発達に伴い,多くの難治性眼疾患が内科的・外科的治療の恩恵を受けられるようになってきた。最近相次いで新治療法が出てきている滲出型加齢黄斑変性はその好例で,これまで「有効な治療がない」と説明してきた中心窩下病巣に対して光線力学的療法,抗血管新生治療が可能になった。一方,依然として眼科医を悩ます疾患は数多く存在する。その代表例の1つが網膜色素変性症であることに異論はなかろう。「遺伝子異常による進行性神経変性疾患」に対し,現在われわれは無力である。本稿では,世界中で進められている治療法開発への取組みを簡単に交えながら,筆者らが進めている骨髄細胞による網膜色素変性症治療の可能性について紹介する。

日常みる角膜疾患・51

角膜形状解析による円錐角膜の診断

著者: 寺西慎一郎 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.928 - P.932

症例

 患者:14歳,男児

 主訴:左眼視力低下

 現病歴:小学校低学年は視力良好であったが,両眼の視力低下が徐々に進行した。2年前から特に左眼の視力低下の進行を認め,眼鏡による視力矯正が不良となり,近医にて左眼の円錐角膜と診断された。今後の治療方針決定のため当科受診となった。

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない。

 初診時所見:視力は右眼0.15(0.9×S-6.25D()cyl-0.50D 90°),左眼0.03(0.15×S-9.50D)であった。細隙灯顕微鏡検査では右眼には明らかな異常所見は認めなかったが(図1a),左眼は角膜中央部やや下方の突出および菲薄化を認めた(図1b)。角膜中央部の突出部では角膜実質浅層の瘢痕性混濁を認め,実質深層にVogt's striae(keratoconus line)を認めた。前房,中間透光体,眼底には両眼ともに異常所見はなかった。ビデオケラトスコープ(TMS-4®)による角膜形状解析では,右眼に角膜中央から下方にかけて角膜曲率半径の急峻化を認めたが(図1c),左眼は高度な角膜形状変化のためデータの欠損を認めた(図1d)。Klyce/Maeda法による円錐角膜スクリーニングでは,円錐角膜指数は右眼89.8%,左眼は0.0%であった。

 Scheimpflug像を用いて角膜断面から形状解析を行うPentacam®では,右眼の角膜厚分布では明らかな菲薄化を認めなかったが(図2-1a),角膜前面の曲率半径の分布ではTMS-4®と同様の結果が得られた(図2-1b)。角膜前面と後面の高さを示すelevation mapでは角膜前面の突出(図2-1c)に一致して角膜後面の突出(図2-1d)を認め,角膜頂点は瞳孔中心よりわずかに下方に偏位していた。一方,左眼では角膜厚分布は正常範囲内であったが(図2-2a),角膜前面の曲率半径分布では中央部から下耳側にかけて広範囲に曲率の急峻化を認めた(図2-2b)。elevation mapでは角膜前面(図2-2c)および角膜後面(図2-2d)の高度な突出を認め,角膜頂点は瞳孔中心よりわずかに耳側下方に偏位していた。左眼の角膜の突出は高度で,側面からの細隙灯顕微鏡検査においても明瞭に観察されたが,Pentacam®のScheimpflug像にても左眼の角膜突出(図2-2e)は明確に定量化された。以上の所見から,左眼が進行した両眼性の円錐角膜と診断された。

 治療・経過:非球面ハードコンタクトレンズ(HCL)装用により右眼は矯正視力1.2が得られた。しかし,左眼は非球面HCLでは十分な視力補正ができなかったため,円錐角膜用の多段階カーブを有するHCLの装用を行ったところ矯正視力0.9が得られた。HCL装用にて日常生活に支障のない十分な矯正視力が得られていることから,HCL装用にて経過を観察している。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・3

アデノウイルス結膜炎

著者: 大口剛司 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.934 - P.937

はじめに

 ヒトアデノウイルス(HAdV)は現在51種類の血清型1)が知られており,さらにそのDNAの相同性などによりA~Fの6つの亜属2)に分けられている。血清型と疾患との関連を表1に示すが,結膜炎は主にB亜属のHAdV-3,7,11,D亜属のHAdV-8,19a,37,E亜属のHAdV-4によって引き起こされる。このうち,B亜属およびE亜属による結膜炎は咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever:PCF),D亜属による結膜炎は流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)として知られている。しかし眼所見においてその鑑別は明確ではなく,現在ではヒトアデノウイルス結膜炎として捉えるのが一般的である。

 ヒトアデノウイルス結膜炎は日常の眼科診療では頻繁に遭遇する疾患であり,わが国では年間約100万人ものヒトアデノウイルス結膜炎患者が発生していることが報告されている3)。また,その感染力の強さから家族内感染や院内感染がしばしば発生する。特に,院内感染は主にD亜属が原因となり,全国の大学病院で発生し4),時には社会問題にもなっている。

網膜硝子体手術手技・6

水晶体核落下,眼内レンズ落下

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.938 - P.942

はじめに

 水晶体核落下や眼内レンズ落下は超音波白内障手術や水晶体囊外摘出術の術中・術後の合併症として生じる。また,白内障術後長期間経過してから水晶体囊ごと眼内レンズが硝子体中に落下することもある。このような症例は合併症の処理であることを考慮に入れ,合併症の上塗りにならないように安全で侵襲の少ない術式を選択する必要がある。

眼科医のための遺伝カウンセリング技術・8

遺伝カウンセリングにおける「説得」の理論と技術の応用

著者: 千代豪昭

ページ範囲:P.943 - P.952

はじめに

 今回は「説得」の技術を紹介する。紹介する技術は心理学的に裏づけされたものが多く,現代社会ではセールスの現場をはじめいろいろな場面でよく知られたものである。

 誤解されては困るが,「説得」の技術を遺伝カウンセリングの現場でも積極的に応用してほしいというわけではない。もともと,遺伝カウンセリングは,クライエントに役立つ情報を提供し,クライエント自身で自律的に選択できるように援助する過程である。「自律的な選択」を重視し,無理な「説得」は禁物なのである。もしクライエントが明らかに好ましくない選択をしようとしている場合は,カウンセラーは「共感的な理解」によって,クライエントがなぜそのような選択をするのか背景を探り,周囲の環境を調整することにより好ましい選択に導くというのがロジャースのカウンセリング技術の基本である。無理な「説得」はカウンセラーの独善的な意見をクライエントに押し付け,クライエントにとっては大きな迷惑となる。遺伝カウンセリングと違って,一部のキャッチセールスなどのセールス現場における「説得」は,必ずしも購入者の利益を目的に行うものではない。セールスにも倫理はあるだろうが,購入者に一時的な錯覚を起こさせ,「その気にさせる」のが目的の場合も少なくない。

 しかし,コラム(次頁)でも紹介したように,クライエントの偏見が明らかで,どうしてもクライエントの行動を支持することができないときや,緊急的に危機介入を行わねばならない場合には遺伝カウンセラーによる「説得」が必要になる。また,人はどのようなときに「説得されやすいか」を知っておくことは,クライエントにとって真の自律的な選択をめざす遺伝カウンセラーとしても必要であろう。このような考えから「説得」のポイントを紹介してみた。

眼科医のための救急教室・6

眼科救急と救急医療の「現在と未来」

著者: 和田崇文 ,   箕輪良行

ページ範囲:P.1098 - P.1100

はじめに

 1977年,厚生省から救急医療対策実施要綱が発表され,救急医療は初期(第一次),第二次,第三次救急医療体制に層別化され,人口100万人に1施設の割合で救命救急センターが整備されました。多くの人員と医療資源を必要とする重症多発外傷や意識障害,ショック,呼吸不全などの治療に救命救急センターが果たした功績は大きいといえるでしょう。しかし,医療サイドの分類である「一次,二次,三次救急」の層別化は,時に患者側にはわかりにくいところがあります。必ずしも歩いてきた患者が軽症で,救急車で来院した患者が重症ではないため,層別化にこだわると,真の重症患者の見落としにつながる可能性があることは少しでも救急医療に携われば誰もが経験するところです。

 一方,道路交通法の改正により,交通事故件数は増加しているものの,重症交通外傷は減少しました。そして人口の高齢化と介護保険の導入により,高齢患者は長期入院治療から在宅や介護施設入所に切り替えられています。一見理想的にみえるこのシステムも,容態が急変すれば救急車で医療機関を受診することとなり,かくて救急部門に高齢者が集中し,救急システムも変革を余儀なくされます。

臨床報告

急速な血糖是正により網膜症が発症した若年発症2型糖尿病の1例

著者: 田岡香 ,   荒木里香

ページ範囲:P.1105 - P.1109

要約 目的:急激な血糖コントロールにより網膜症が起こった若年発症2型糖尿病症例の報告。症例と経過:27歳女性が13歳のときに2型糖尿病と診断された。思春期から血糖コントロールが不良になり,19歳でインスリン治療を開始した。HbAlc値は常時10%以上で,血糖値は不安定で200~400mg/mlと高かった。検眼鏡と蛍光眼底造影で網膜症はなかった。入院加療の結果,血糖値は100mg/ml台に低下し,HbAlc値は3か月で5.6%に低下した。入院から7か月後に無数の点状と斑状出血が眼底全面に生じた。視力低下はなかったが,血管透過性が亢進し,無灌流野が出現していた。汎網膜光凝固を行い,以後1年後まで網膜症の悪化はない。結論:血糖コントロールが不良な若年者では,急激な血糖是正を契機として網膜症が発症することがあり,注意が必要である。

Soemmering's ringにより眼内レンズ偏位をきたした1例

著者: 矢舩伊那子 ,   植木麻理 ,   南政宏 ,   廣辻徳彦 ,   前野貴俊 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1111 - P.1115

要約 目的:Soemmering輪により眼内レンズが偏位した症例の報告。症例:31歳女性の右眼に打撲による網膜剝離が生じた。受傷から2週後に,硝子体切除,経毛様体扁平部水晶体切除,輪状締結などを行い,網膜が復位した。水晶体の前・後囊は同じ大きさの輪として残した。その1年後に眼内レンズを二次挿入して毛様体溝に固定し,裸眼0.9,矯正1.2の視力を得た。その22か月後に視力が裸眼0.2,矯正1.2になった。肥厚したSoemmering輪があり,眼内レンズの下部が前方に偏位していた。以後4か月間,眼内レンズの傾斜はやや少なくなったが,0.2の裸眼視力が続いている。結論:経毛様体扁平部水晶体切除術で前後囊を輪状に残したとき,Soemmering輪が生じ,その肥厚により囊外に固定した眼内レンズが偏位し乱視などの屈折変化が起こる可能性がある。

乳児に生じ急速に増大した結膜皮様囊腫の1例

著者: 藤代貴志 ,   小島孚允

ページ範囲:P.1117 - P.1119

要約 目的:乳児の瞼結膜に生じ,急速に増大した皮様囊腫の報告。症例:生後6か月の女児が左眼の腫瘤で受診した。腫瘤は出生時からあり,2か月前から急速に大きくなったという。腫瘤は眼球を覆い,磁気共鳴画像検査(MRI)では下瞼結膜からの囊胞で,眼球を上右側に圧排し直径が約20mmであった。手術中の所見として腫瘤が囊胞であることが確認され,病理学的に皮様囊腫と診断された。以後10か月間に再発はない。結論:皮様囊腫が乳児の眼部に生じることは稀ではないが,本症例は,これが眼球の下鼻側に生じ急速に増大したことで注目される。

べらどんな

直線は不自然

著者:

ページ範囲:P.926 - P.926

 シベリア経由でヨーロッパに行くときには,席は右の窓側と決めている。座席番号ならJかKである。

 もちろん下界の景色を見るのが目的である。かなり北のほうを飛ぶので,6月になっても雪や氷がまだ残っていたりする。

 いつ見ても感心するのが,川がまっすぐには流れず,必ず蛇行していることだ。アマゾン川もそうらしいが,シベリアは平地に近いので,川の傾斜がゆるい。そのせいもあって,川の水に含まれる土砂が沈澱しやすい。

今月の表紙

網膜動静脈吻合

著者: 河田直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.933 - P.933

 症例は44歳の女性。以前から左眼の視力低下を自覚していたが,霰粒腫で他医を受診した。左眼の矯正不良,網脈絡膜萎縮と網膜血管拡張が認められたため,精査依頼で当院受診となった。初診時の視力は右0.01(1.2×sph-11.00D()cyl-1.00D 20°),左0.01(0.7×sph-13.00D),眼圧は非接触型眼圧計で右15mmHg,左13mmHgであった。相対的瞳孔求心路障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)は陰性,Humphrey視野計では両眼とも盲点の拡大は認めるが,mean deviationは右-3.56dB,左-2.84dBで,右眼はボーダーライン,左眼は正常範囲内であった。

 眼底所見は,両眼ともに豹紋状を呈し,視神経乳頭下方にコーヌスを伴っていた。若倉雅登病院長の診察にて,高度近視に伴う黄斑変性と網脈絡膜萎縮が視力低下の原因と診断された。網膜血管拡張に対しては,先天性の奇形と思われたため,フルオレセイン蛍光眼底造影撮影を施行したところ,動静脈の吻合が確認できた。

やさしい目で きびしい目で・90

熱く思うこと (3)炎症

著者: 島川眞知子

ページ範囲:P.1097 - P.1097

 大学でぶどう膜外来をしていると,Behçet病をはじめとするぶどう膜炎では,なぜ繰り返しこんなに強い炎症が起こってしまうのだろうかと,炎症細胞を憎々しく思う。炎症という厄介者のお蔭で,眼球内の透明性が保持できなくなってしまうのは,ほんとうに困りものである。

 一方,私が国立国際医療センターにいたときは,エイズの患者さん達をたくさん診察させていただき,多くの眼日和見感染症例を経験した。頻度の高いサイトメガロウイルス網膜炎を筆頭に,脈絡膜結核腫,梅毒性視神経炎,トキソプラズマ症,ニューモシスチス・カリニ脈絡膜症,等々である。CD4リンパ球数が低下してこれらの日和見感染が起きていないかどうか定期的にチェックするのは眼科医の重要な仕事である。なぜなら,ふつうなら外敵に対して生体防御せんと炎症が生じ,眼は痛いし,赤いし,前房や硝子体が混濁して霧視や視力低下を自覚し,速やかに自ら眼科を受診され,異常が生じていることが判明する。

ことば・ことば・ことば

RとL

ページ範囲:P.1101 - P.1101

 Glasshopperという名前のレストランが東京の副都心にあり,その前をよく通ります。店の前の看板にはバッタの絵が描いてあります。当然Grasshopperが正しいのですが,ガラスの上ではバッタも足が滑って困るのではと心配です。この3年の間,綴りは訂正されていません。

 英語では,rとlが入れ替わるだけで意味がすっかり違うことがあります。

文庫の窓から

『素問』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1120 - P.1122

 大正から昭和にかけて中国医書の研究を手がけた岡西為人は,その大冊『中国醫書本草考』(井上書店,1974)の第一章「主要な中国医籍の解題」をまずこの『素問』から始めている。私たちもしばらくはこの岡西の案内に沿って,東洋医学の書物を見ていこうと思う。

 岡西によれば「『素問』は「黄帝素問」または「黄帝内経素問」とも呼ばれ,古来伏義の易経および神農の本草経とともに,医学に関する基本的経典とされている。その内容は自然と人生との関連から人体の解剖,生理,病理,診候などに関する理論を,黄帝とその師岐伯との問答体に記述したもので,その理論の根幹をなすものは陰陽五行説である。」と解説している。

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あとがき

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 より安全で,より良質の医療を提供することは,いまさら議論の余地はありません。しかしながら,昨今のわが国における改革のなかで,医療に従事している私たちは間違いなく疲弊してきています。安全を確保するための書類や説明により多くの時間を割き,安全が担保されるという電子カルテの入力に診療と同じぐらいの労力を使っています。医師が自分で考え自分で判断するのに必要な最新の知識と技術を手に入れる時間は,もはやないというのが現状ではないでしょうか。パターナリズムの否定,すべての医療行為のマニュアル化の時代となってきますと,医師が現場で判断する必要は,もはやないのかもしれません。定められた検査を行い,定められた診断基準で診断し,定められた手術や薬剤を処方するという方向に向かっているように思えてなりません。そのような時代では,目の前の一人の患者さんに医師として対峙し,自分の持っているすべての知識と技術で問題を解決することは時にマニュアルを逸脱することになり,今日では逆に好ましくない医療と考えられているのかもしれません。

 医師の数も数字のうえでは増えているはずなのに,実際の医療現場ではまだまだ不足しています。少なくとも車で30分の圏内で,眼科の緊急事態に24時間対応していただける医療施設がどの程度あるのでしょうか。通常の診療時間外に,救急としての眼科医療を提供してくださる医療機関となると案外少ないのではないでしょうか。眼科救急にも十分な医師を提供できるまでには,眼科医の数は増えていないのが現状ではないかと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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