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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科61巻8号

2007年08月発行

雑誌目次

特集 第60回日本臨床眼科学会講演集(6) 原著

手術操作チェックリストを用いた白内障手術教育法による達成度と教育的効果

著者: 西村栄一 ,   小泉好子 ,   島田一男 ,   渡邊早弥子 ,   早田光孝 ,   西原仁 ,   綾木雅彦 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.1403 - P.1407

要約 目的:チェックリストによる超音波水晶体乳化吸引術(PEA)手術教育の達成度と教育的効果の報告。方法:対象は手術研修医師4名がPEAを行った120眼である。術式は教材に準じ,合併症の危険性がある場合は指導医師と交代した。術後指導医師がチェックリストを記入,点数化し,手術初期5眼と最新5眼を比較検討した。結果:3名の総点数,4名の項目別点数が有意に上昇した。術者交代は30眼,前囊切開時21眼(70%)と多く,初期10眼目までに26眼(87%)と集中していた。合併症は後囊破囊,チン小帯断裂各2眼(1.7%)であった。結論:本教育法はPEAの達成度とその効果を客観的に測るのに有用である。

眼内レンズ縫着術の原因と予後

著者: 下村智恵美 ,   山田知之 ,   野宗研志 ,   鈴木智 ,   小泉閑

ページ範囲:P.1409 - P.1412

要約 目的:眼内レンズの縫着術を行った症例の原因と結果の報告。症例:過去29か月間に眼内レンズを縫着した19例19眼を診療録により検索した。内訳は男性14例,女性5例であり,年齢は33~85歳(平均66歳)である。結果:縫着術を必要とした原因は,眼内レンズの脱臼8眼,水晶体亜脱臼2眼,白内障手術中の合併症6眼,計画的無水晶体眼3眼である。網膜剝離などの術後合併症の予防措置として18眼では硝子体切除を併用した。15眼では通糸を眼内から,4眼では眼外から行った。術後の矯正視力は13眼で0.5以上になった。術後の合併症として,瞳孔捕獲が7眼,眼圧上昇が8眼に起こった。結論:眼内レンズの強膜への縫着術は術後経過が不安定であり,特に瞳孔捕獲と眼圧上昇に注意する必要がある。

前房注入針を用いた脱臼眼内レンズの眼内縫着術

著者: 塙本宰 ,   木原真一 ,   北村昌也 ,   中川夏司 ,   小沢忠彦

ページ範囲:P.1413 - P.1417

要約 目的:前房注入針を用いて脱臼した眼内レンズ(IOL)を縫着した報告。対象:対象は,過去に挿入された後房IOLが脱臼した4例と落下した1例である。4例がアクリル製のスリーピース,1例がPMMA製のワンピースIOLであった。方法:まずIOLのハプティックをフックで虹彩上に出し,角膜ポートから27G前房注入針を挿入し,その内腔にハプティックを差し込む。これを眼外に引き出し,ハプティックを角膜ポートから外に出す。これに縫着用針につないだ糸を縫合し前房に戻す。反対側も同様に行う。縫着用針を角膜ポートから再挿入して毛様溝に通糸し,強膜に縫着してIOLを固定する。結果:全5例でIOLを本来の位置に固定できた。併発症は起こっていない。結論:IOLのハプティックが前房注入針に入るときには,本法は脱臼IOLに対する安全で有効な眼内縫着法である。

有硝子体眼網膜静脈分枝閉塞症に対するトリアムシノロン硝子体内注射の長期経過と薬物動態因子としての薬物塊の観察

著者: 小暮朗子 ,   大越貴志子 ,   小暮俊介 ,   山口達夫 ,   岸章治

ページ範囲:P.1419 - P.1424

要約 目的:囊胞様黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対して行ったトリアムシノロンの硝子体内注射の長期経過の報告。対象と方法:網膜静脈分枝閉塞症19例19眼を対象とした。年齢は38~80歳(平均64歳)であり,矯正視力が0.1~0.5,中心窩網膜厚が250μm以上の症例に限った。治療としてトリアムシノロン4mgを硝子体腔に注入した。結果:注入後6~27か月(平均14か月)の経過観察で5眼(26%)に21mmHg以上の眼圧上昇があった。眼圧は点眼と内服で正常化した。4眼(21%)で黄斑浮腫が悪化し,トリアムシノロンの再注入を必要とした。中心窩網膜厚とlog MARによる平均視力はいずれも有意に改善した(p<0.001)。中心窩網膜厚の減少率と,硝子体内のトリアムシノロン塊残留期間,年齢,視力との間に有意な相関があった(p<0.05)。結論:網膜静脈分枝閉塞症に対するトリアムシノロンの硝子体腔内注入は,長期にわたり安全で有効であった。硝子体腔内トリアムシノロン塊の観察は,薬物動態を評価するのに簡便で非侵襲的な手段である。

流行性角結膜炎の院内多発事例とその対策

著者: 鈴木景子 ,   倉知豪 ,   吉田宗徳 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1425 - P.1429

要約 目的:2005年7月12日から6週間の間に大学病院に多発した流行性角結膜炎(EKC)の院内感染の報告。症例と経過:他医でEKCと診断されていた女性が,6月18日に入院患者に面会にきた。7月1日に退院した患者が11日に来院し,アデノウイルス8型によるEKCが発症していた。その翌日,医師2名がEKCと診断された。以後感染者が増加し,最終的に医師4名,病院勤務者1名,入院患者34名,外来患者9名がEKCに罹患した。EKCを発症している患者の診察時のみに医師がディスポーサブルグローブを使うことではEKCの感染拡大を防げず,すべての患者の診療にディスポーサブルグローブを装用することで院内感染が終息した。結論:EKCの今回の院内感染では手指を介した接触が重大な原因であった。

新生児クラミジア結膜炎8例の検討

著者: 村瀬寛紀 ,   堀由起子 ,   堅田利彦 ,   東松敦子 ,   望月清文 ,   太田俊治 ,   山田信二 ,   澤田明 ,   三鴨廣繁

ページ範囲:P.1431 - P.1435

要約 目的:新生児クラミジア結膜炎の臨床像と経過の報告。対象と方法:過去8年5か月の間に2診療施設を受診した新生児クラミジア結膜炎8例15眼を対象とした。男児4例,女児4例であり,全例が満期自然分娩であった。確定診断にはクラミジアPCR法または蛍光抗体染色法を原則として用いた。治療には主にフルオキノロン薬の点眼液または軟膏を用いた。結果:出生から眼脂などの症状発現までの期間は平均6日,症状発現から診断確定までの期間は平均20日であった。治療開始からクラミジアPCR法または蛍光抗体染色法の所見が陰性化するまでの期間は平均92日であり,治癒までの日数は点眼回数と有意差がなかった。結論:新生児クラミジア結膜炎では診断確定までに時間を要することが多い。治療では確実な抗菌薬の長期間にわたる局所投与が必要である。

正常眼圧緑内障に対する塩酸ドネペジルの効果

著者: 吉田由紀子 ,   杉山哲也 ,   池田恒彦 ,   宇都宮啓太 ,   小倉康晴 ,   楢林勇

ページ範囲:P.1437 - P.1441

要約 背景:塩酸ドネペジルはアルツハイマー病に有効であるとされ,アセチルコリンの脳内濃度を高めて認知機能を改善し,脳血流維持の効果がある。正常眼圧緑内障患者の一部に,アルツハイマー病型の脳血流分布があることを筆者らは報告した。目的:正常眼圧緑内障に対する塩酸ドネペジルの効果の報告。対象と方法:123I-IMP SPECTによりアルツハイマー病型の脳内血流低下がある正常眼圧緑内障5例10眼を対象とした。男性3例,女性2例で,年齢は64~79歳(平均69歳)である。塩酸ドネペジル5mg/日を6か月間投与し,通常の眼科的検査のほかレーザースペックル法により乳頭血流を測定した。結果:投与前と比較し,投与6か月後に乳頭血流と脳血流が有意に増加し,Humphrey視野MD値が5眼(50%)で改善した。眼圧は不変であった。結論:塩酸ドネペジルの全身投与は,神経保護的な作用を通じ正常眼圧緑内障での視神経症に有効である可能性がある。

視力良好な前部虚血性視神経症5例の長期観察

著者: 設楽恭子 ,   塩川美菜子 ,   藤江和貴 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.1443 - P.1448

要約 目的:視力が良好な前部虚血性視神経症(AION)5例の長期経過の報告。症例:無痛性に視野異常が突発し,全経過中矯正視力1.0を維持し,発症から3年以上追跡ができたAION 5例5眼を対象とした。男性3例,女性2例であり,年齢は52~79歳(平均64歳)である。所見と経過:乳頭の部分浮腫が2眼,部分的な蒼白化または低蛍光が3眼にあった。視野検査で区域性の感度低下が全例にあった。経過観察の期間中,Humphrey視野計とfrequency doubling technologyによる平均偏差(MD)とパターン標準偏差(PSD)値の変動は2dB以内であり,悪化または改善はなかった。経過中,乳頭陥凹の拡大はなかった。結論:前部虚血性視神経症には視力が良好で進行しない軽症型がある。

脳腫瘍摘出後に一過性視力低下を示したうっ血乳頭の1例

著者: 濱島紅 ,   菅澤淳 ,   江富朋彦 ,   平尾真実 ,   渡邊敏夫 ,   奥英弘 ,   池田恒彦 ,   黒岩敏彦

ページ範囲:P.1449 - P.1453

要約 目的:うっ血乳頭で発見された脳腫瘍の摘出後に視力が一過性に低下した症例の報告。症例:49歳女性が4か月前からの両眼の霧視と,1か月前からの頭痛で受診した。経過:矯正視力は右0.5,左1.0であり,両眼にうっ血乳頭があった。髄膜腫が疑われ摘出術が行われた。手術の直後は視力が改善したが,51日後に右0.08,左0.5に低下した。両眼の視神経乳頭は蒼白化し,両眼に傍中心暗点,右眼に上方視野欠損があった。血管拡張薬と神経保護薬などの内服開始から47日後に視力は右0.2,左0.8になった。手術から3年後の現在,視力は右0.7,左1.0で安定している。結論:うっ血乳頭と視機能障害がある脳腫瘍では,頭蓋内圧が正常化しても視神経が脆弱化している可能性がある。厳重な経過観察と,状況に応じ血管拡張薬や神経保護薬などを考慮する必要がある。

うっ血乳頭で発見された硬膜動静脈瘻の1例

著者: 安部ひろみ ,   本村由香 ,   木許賢一 ,   今泉雅資 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1455 - P.1459

要約 目的:うっ血乳頭が両眼に出現し,その後重篤な視機能障害が生じ,硬膜動静脈瘻と診断された症例の報告。症例:75歳男性が2年前からの両眼の視力障害で受診した。4年前に交通事故による頭部外傷,3年前から右眼の変視症があった。所見:矯正視力は右光覚なし,左0.2であり,両眼に顕著なうっ血乳頭があった。髄液圧の亢進があり,脳血管造影で両側の後頭蓋窩硬膜動静脈瘻が発見された。手術で髄液圧は正常化したが,視神経乳頭は両側とも蒼白化した。その後意識障害が生じ,全身状態が悪化して死亡した。結論:硬膜動静脈瘻で頭蓋内圧が亢進し,うっ血乳頭が生じることがある。

鈍的外傷により虹彩支持型有水晶体眼内レンズの偏位を生じた1例

著者: 山下美恵 ,   石橋真吾 ,   久保田敏昭 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1461 - P.1463

要約 目的:鈍性外傷で虹彩支持型有水晶体眼内レンズが偏位した症例の報告。症例:52歳男性に約-8Dの近視があり,虹彩支持型有水晶体眼内レンズの挿入を受けた。その1年後,作業中に屋根を固定していたゴムが切れ左眼に当たった。所見:矯正視力は右2.0,左手動弁で,眼圧は右30mmHg,左42mmHgであった。左眼には角膜浮腫と前房出血があった。眼内レンズは下方に偏位していた。右眼には左眼と同じ眼内レンズが挿入されていたが,偏位はなかった。1mm2あたりの角膜内皮細胞数は右1,094個,左1,848個であった。結論:虹彩支持型有水晶体眼内レンズは軽微な鈍性外傷で偏位し,視機能障害が生じることがある。

OCTオフサルモスコープを用いた糖尿病黄斑浮腫の評価と治療

著者: 堀井崇弘 ,   井上さつき ,   三浦孝夫 ,   鈴間潔

ページ範囲:P.1465 - P.1469

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固の効果と,OCT検眼鏡による評価の報告。対象と方法:糖尿病網膜症があり,OCT検眼鏡(ニデック社)で黄斑浮腫がある17例24眼を対象とした。フルオレセインで検出された黄斑浮腫部にある毛細血管瘤をアルゴンレーザーで,スポットサイズ50μm,照射時間0.05~0.07秒で凝固した。結果:OCT検眼鏡のトポグラフィモードで黄斑浮腫を容易に検出できた。3か月までの経過観察で,中心窩網膜厚と中心窩から1乳頭径内の網膜厚は,いずれもその平均値が有意に減少した。結論:OCT検眼鏡は糖尿病黄斑浮腫の検出と定量化に有用である。

治療が遅れた上眼瞼結膜下異物肉芽腫の6例

著者: 森山涼 ,   中村敏 ,   渡辺孝也 ,   岡山良子 ,   井上賢治 ,   若倉雅登 ,   井上治郎 ,   中村由美

ページ範囲:P.1471 - P.1474

要約 目的:治療が遅れた上眼瞼結膜異物肉芽腫6例の報告。症例と経過:症例は異物感を主訴に受診し,病歴と角結膜所見から異物の存在が疑われた女性6例,年齢は35.0±12.9歳であった。6例中5例は埋没法重瞼術,残りの1例は歩行中に異物飛入の既往があった。全症例で角膜上皮障害があり,対応する上眼瞼結膜に肉芽腫を認めた。異物の露出は全例でなかった。病歴と所見から角膜障害の原因は肉芽腫内に埋入された異物と判断した。異物摘出術施行後,どの症例も翌日には自覚症状,他覚所見ともに改善がみられた。結論:異物を直接確認できなくても病歴と所見から異物の存在が疑われる場合は,積極的に肉芽腫を切除し異物を摘出するべきである。

123I-IMP SPECT陽性の転移性毛様体腫瘍の1例

著者: 若松芳恵 ,   浅井竜彦 ,   小出健郎 ,   青島真一 ,   堀田喜裕 ,   藤澤朋幸 ,   杉山憲嗣 ,   阪原晴海

ページ範囲:P.1475 - P.1480

要約 目的:123I-IMP single photon emission CT(IMP SPECT)が陽性の転移性毛様体腫瘍1症例の報告。症例:両親に悪性リンパ腫があり,黄斑円孔手術の既往がある46歳女性が右眼視力低下で受診した。所見と経過:矯正視力は右0.1,左1.5であり,右眼の毛様体と脈絡膜に白色腫瘤があった。IMP SPECTで右眼に123Iが集積したが,過去の脈絡膜悪性黒色腫3例でのIMP SPECTよりも集積の程度はやや低かった。初診から6週後に全網膜剝離になったため眼球を摘出し,肺腺癌の転移であることが確定した。結論:IMP SPECTは悪性黒色腫の診断に有用であるが,転移性腺癌でもこれが陽性のことがある。

難治性網膜剝離を合併した眼球温存療法後の脈絡膜悪性黒色腫に対して腫瘍切除併用硝子体手術を行った3例

著者: 金子卓 ,   金子明博 ,   平野彩 ,   高木誠二 ,   竹内忍 ,   高橋啓

ページ範囲:P.1481 - P.1486

要約 目的:3例の脈絡膜悪性黒色腫の眼球温存療法後の合併症に対し,腫瘍切除併用硝子体手術を施行した成功例の報告。症例:全例とも放射線治療後の脈絡膜悪性黒色腫で,眼底は透見できず,超音波検査により腫瘍陰影とそれに連続する網膜剝離を認め,腫瘍切除を併用した硝子体手術を施行した。結果:全例シリコーンオイル注入眼であるが,眼球は温存され 腫瘍再発や転移は認めていない。結論:腫瘍切除を併用した硝子体手術により眼球摘出を回避し眼球癆予防と視機能温存ができることが示唆された。

既製眼科用部門システムを使用しないカード型電子カルテの開発(その1)

著者: 濱中紀子 ,   中田亙 ,   神野倫子 ,   萩本憲子 ,   斉藤喜博 ,   岡垣篤彦

ページ範囲:P.1487 - P.1491

要約 目的:眼科独自で開発したカード型電子カルテシステムの運用状況と問題点を検討した。方法:標準的な総合電子カルテシステムに,可塑性が高いユーザーインターフェース層を付加した。既製の眼科専用部門カルテシステムは用いなかった。それぞれの端末は21型液晶タブレットと17型液晶画面との2画面1キーボードで構成され,マウスとタッチペンで操作した。結果:初診患者の場合,カルテ記載まで平均18秒を要したが,開示性が高まることで他部門との連携が円滑になった。結論:眼科専用部門システムの代わりとして,既製の総合電子カルテシステムにユーザーインターフェース層を付加することで,診療効果が低下しない使いやすい電子カルテシステムを構築できた。

先天白内障に対する25ゲージシステムを使用した経毛様体水晶体切除術

著者: 伊藤義徳 ,   神前賢一 ,   菊池信介 ,   渡辺朗 ,   月花環 ,   田島寛 ,   保坂大輔 ,   北原健二

ページ範囲:P.1493 - P.1496

要約 目的:25ゲージ(G)システムを使って先天白内障に対する経毛様体水晶体切除術を行った報告。症例:3歳男児が3歳児健診で視力不良であることが発見された。矯正視力は右0.09,左0.4で,両眼に白内障があった。全身麻酔下で25Gシステムを使い,経毛様体前部硝子体切除と水晶体切除術を行った。灌流液の漏出がなく,眼圧が保たれていることを確認し,無縫合で手術を終わった。結果:術後の経過は順調で,術後6か月で左右眼とも0.9の矯正視力を得た。結論:25Gシステムによる経毛様体水晶体切除術は先天白内障に対する手術法の選択肢の1つである。

角膜屈折矯正手術後の白内障手術

著者: 北澤憲孝 ,   時光元温 ,   保谷卓男

ページ範囲:P.1497 - P.1499

要約 目的:角膜屈折矯正手術の既往がある眼に対して行った白内障手術の報告。症例:1例は53歳男性で,17年前に放射状角膜切開術を両眼に受けている。他の1例は62歳男性で,3年前にLASIKを両眼に受けた。白内障手術はそれぞれの左眼と右眼に対して行われた。結果:2症例とも眼内レンズ挿入後は,術前の予想どおり遠視になった。第1例では約+7Dの遠視になり,眼内レンズの入替手術が必要になった。この例では眼軸長が29.06mmであり,術前に用いたSRK式での誤差が大きくなったと考えられた。結論:角膜屈折矯正手術の既往がある眼に白内障手術を行うときには,術後の屈折が予想とは大きく違う可能性があり,術前に十分説明する必要がある。

高度の眼内出血が初期症状としてみられた扁平上皮癌例での播種性血管内凝固症候群の1例

著者: 栗田加織 ,   河野剛也 ,   安宅伸介 ,   鳴美貴仁 ,   平山貴子 ,   井上浩二 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1501 - P.1504

要約 目的:高度の硝子体出血で初発した扁平上皮癌による播種性血管内凝固症候群の症例の報告。症例:70歳女性が右眼の変視症で受診した。右眼に網膜細動脈瘤があり,そのほかに格別な病的所見はなかった。3か月後に右眼の急激な視力低下と頭痛が生じた。硝子体出血があり,眼圧は60mmHgに亢進していた。虹彩切開術が奏効せず,悪性緑内障の診断で硝子体切除を行ったが硝子体出血は軽減せず,再出血を繰り返した。頸部の画像診断でリンパ節腫大の多発があり,生検で縦隔リンパ節扁平上皮癌が発見され,播種性血管内凝固症候群と診断された。右眼の硝子体出血は発症から4か月間の現在まで持続している。結論:コントロール不能の眼内出血では,出血傾向亢進を伴う全身疾患が関係していることがある。

糖尿病網膜症と血液流動性との関連性

著者: 鈴木基弘 ,   船津英陽 ,   菅野宙子 ,   北野滋彦

ページ範囲:P.1505 - P.1507

要約 目的:糖尿病網膜症,血液流動性,全身因子の関係の報告。対象と方法:糖尿病患者60例60眼を対象とした。男性28名,女性32名で,平均年齢は58±13歳,平均罹病期間は15.1±9.3年である。微小循環モデル測定装置(microchannel array flow analyzer:MCFAN)で血液流動性を測定し,測定値は秒/100μlとして表現した。結果:血液流動性の測定値は,網膜症がない16眼では46.8,非増殖網膜症24眼では48.4,増殖網膜症20眼では52.5であり,3群間に有意差はなかった。血液流動性には,全身因子として大血管障害,高脂血症,HbAlcが相関し,年齢,性別,罹病期間,高血圧の有無とは相関しなかった。結論:糖尿病網膜症の重篤度と血液流動性の間には有意な相関はなかった。

甲状腺眼症の上眼瞼後退に対するA型ボツリヌス毒素治療効果と眼窩MRIの筋肥大所見との検討

著者: 高本紀子 ,   神前あい ,   尤文彦 ,   井上立州 ,   前田利根 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1509 - P.1512

要約 目的:甲状腺眼症での上眼瞼後退に対するボツリヌス治療の効果と,上眼瞼挙筋や外眼筋肥大との関連の検索。症例と方法:上眼瞼後退に対して初回ボツリヌス治療を行った甲状腺眼症23例28眼を対象とし,治療効果,副作用,眼窩内の筋肥大などを検索した。結果:上眼瞼後退は23眼(82%)で改善した。瞼裂高は治療前が8~14mm(平均10.8mm),治療後が5~12mm(平均9.4mm)であり有意に減少した。磁気共鳴画像検査(MRI)による検査で,28眼中19眼に眼瞼挙筋と上直筋の1筋以上に肥大があり,9眼に肥大がなかった。筋肥大がある群では2眼(11%),筋肥大がない群では1眼(11%)で治療が無効であった。治療前にあったDalrymple徴候は28眼中14眼で消失し,Graefe徴候は28眼中1眼で消失した。結論:ボツリヌス治療は甲状腺眼症の上眼瞼後退に有効であるが,Graefe徴候は原則として改善しない。

加齢黄斑変性に対する光線力学療法後の脈絡膜循環障害を伴う症例に発症した脈絡膜新生血管

著者: 鈴木美砂 ,   荒川明 ,   成田理会子 ,   門之園一明 ,   渡邉洋一郎 ,   竹尾悟 ,   永田浩章

ページ範囲:P.1513 - P.1517

要約 目的:光線力学療法後に脈絡膜循環障害が継続し,新たに脈絡膜新生血管(CNV)が増大した症例の報告。症例:77歳男性が6か月前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.0,左0.5であり,minimally classic CNVと診断した。ベルテポルフィンによる光線力学療法を行った。3か月後,照射範囲内に新生血管が出現し,照射範囲に一致する脈絡膜循環障害がある所見が赤外蛍光造影で得られた。初回治療から10か月後の4回目の光線力学療法で,新生血管からの蛍光漏出はなくなったが,矯正視力は0.2に低下した。照射範囲内にポリープ状脈絡膜血管症が生じ,脈絡膜循環障害は継続していた。結論:加齢黄斑変性に対する光線力学療法では,脈絡膜循環障害が生じ新生血管が発症する可能性がある。

黄斑円孔術後のガス注入眼に対する短期QOL改善を目的としたガス液置換

著者: 福嶋葉子 ,   張野正誉 ,   別所建一郎 ,   勝村ちひろ ,   大家典子 ,   岩橋佳子

ページ範囲:P.1519 - P.1523

要約 背景:黄斑円孔手術後の腹臥位は患者への負担が大きい。高い円孔閉鎖率とともに腹臥位の期間短縮が望ましい。目的:術後早期にガスを抜去し良好な結果が得られた症例の報告。対象と方法:過去3年間に第3期黄斑円孔に硝子体剝離のみを作製し,C3F8で硝子体腔を充填し,術後8~14日(平均10日後)にガス液置換を行った11例11眼を対象とした。平均年齢は66歳である。内境界膜の剝離は行わず,10眼では白内障の同時手術を行った。術翌日のみを腹臥位とし,以後は側臥位を許可した。術後1~24か月(平均9か月)経過を観察した。結果:全例で円孔閉鎖と復位が得られ,早期退院が可能であった。1眼に円孔が再発し,最終的に10眼(91%)で治癒が得られた。術前と比較し,視力は70%で改善,30%で不変であった。合併症はなかった。結論:術後早期にガス液置換を行うことで黄斑円孔の治癒が得られ,短期的な患者の生活の質(QOL)を改善させることが可能である。

先天乳頭上膜の収縮により黄斑円孔をきたした1例

著者: 米田丞 ,   安宅伸介 ,   埜村裕也 ,   矢寺めぐみ ,   村澤牧子 ,   河野剛也 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1525 - P.1528

要約 目的:先天乳頭上膜の収縮により黄斑円孔が生じた症例の報告。症例:21歳女性が左眼の変視症で受診した。矯正視力は右1.5,左1.0であり,左眼眼底に乳頭から耳上側にかけて線維膜とその牽引による網膜皺襞があった。6年後に左眼視力が0.5に低下し変視症が増悪した。眼底には黄斑円孔があった。硝子体手術,内境界膜剝離術,網膜上膜除去術を行った。術中所見として,後部硝子体剝離はなく,網膜と後部硝子体膜と網膜の癒着は強固ではなかった。術後5か月で視力は1.0になり,変視症は軽快し黄斑円孔は閉鎖していた。結論:黄斑円孔が先天乳頭上膜の収縮により発症する可能性がある。

白内障術後の保清開始時期についてのアンケート調査

著者: 張野正誉 ,   大家典子 ,   福嶋葉子 ,   勝村ちひろ ,   別所建一郎

ページ範囲:P.1529 - P.1531

要約 目的:手術施設・非手術施設間の「白内障地域連携パス」作成の基礎となる情報として,白内障術後の保清開始の適切な時期のアンケート調査を行ったので報告する。対象と方法:順調な白内障手術後のシャワー,入浴,介助洗髪,自己洗髪について手術後何日目から許可するのが適当と考えるか,大阪市東淀川区の眼科医師を中心に記名式のアンケート用紙を郵送した。結果:97施設に送付し,回答は81施設から得られた(回収率約83.5%)。術後シャワーについて最も多い回答は2日目が39%であったが,1~5日に回答は散らばっていた。また,入浴開始は7日目以上が多く(1~14日),介助洗髪4~5日(1~20日),自己洗髪7日が31%(5~30日)であった。結論:適切な保清開始時期については,医師の間で考え方の大きな違いがあることが判明した。「地域連携パス」の作成にあたっては,これらの意見を取り入れながら形成していくことが重要である。

専門別研究会

眼窩

著者: 小出良平

ページ範囲:P.1532 - P.1533

 第1題は,比嘉眼科病院の恩田秀寿先生による,眼窩吹き抜け骨折における眼球運動障害の評価法についての発表であった。眼球運動障害の評価は,手術適応,術前・術後の改善度を評価するのに重要であるが,現在のところ,評価法が統一されていない。そこで昭和大学医学部眼科学教室で行われている評価法が示された。障害の程度を自覚的複視,両眼単一注視野検査,Hess赤緑試験を組み合わせ,重症度をGrade 0~5の6段階に分類した。複視の自覚のないものをGrade 0,複視の自覚はあるがHessの異常を認めないものをGrade 1,Hessの異常があり,その異常は30°以内のものをGrade 2,30°以上で眼球運動障害の方向が上下方向のみのものをGrade 3,上下方向に水平方向を伴うが正面視での複視がないものをGrade 4,正面視での複視があるものをGrade 5とし評価しているとの報告であった。

 第2題は,昭和大学の井上吐州先生が,眼窩骨折の手術時期と予後について発表された。術後複視の消失率および残存率を,(1)年齢,(2)性別,(3)手術までの期間,(4)術前の複視の重症度,(5)骨折の性状,(6)骨折部位の項目別に統計をとった。(1)および(2)に有意差はなかった。(3)は,受傷1週間以内の手術は1週間~30日以内の手術より複視の残存率が少なかった。(4)は,重症度が高いほど複視が残った。(5)は,trap door typeよりdefect typeのほうが複視が残った。(6)では,眼窩底の単独骨折より,眼窩底および内側壁複合骨折や眼窩縁を含む眼窩壁骨折のほうがより複視が残存したとの結果であった。眼窩骨折は早期に手術を行ったほうが予後良好であるが,骨折の性状や部位も予後に影響すると報告された。

連載 今月の話題

新しい眼内レンズの度数決定

著者: 高良由紀子

ページ範囲:P.1373 - P.1377

 眼内レンズパワー計算は,大きく理論式と経験式に分けられるが,いずれの計算式でも重要な要素は眼軸長,角膜屈折力,前房深度である。最近,眼軸長測定,角膜屈折力測定に新しい機器が導入されているので,これらの器械を用いた現状について述べる。また,前房深度については,眼内レンズの形状,材質が大きく関与するので,最近広く用いられているアクリル素材の眼内レンズに関連した術後屈折度変化についても述べる。

日常みる角膜疾患・53

周辺部角膜浸潤

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1378 - P.1379

症例

 患者:24歳,男性

 主訴:左眼異物感,左眼充血

 既往歴・家族歴:特記事項はない。

 現病歴:以前よりソフトコンタクトレンズを使用していたが,特に誘因なく左眼の異物感と充血を自覚したために,コンタクトレンズの処方を目的に通院していた当科を受診した。

 受診時の視力は右0.2(1.2×S-6.5D),左0.15(1.5×S-5.5D),眼圧は右9mmHg,左10mmHgであった。細隙灯顕微鏡による検査では眼瞼や睫毛の異常はみられず,明らかなマイボーム腺の異常もみられなかった。左眼角膜の8時方向に単一の円形角膜浸潤巣がみられ,同部位に一致して限局性の結膜充血がみられた(図1a)。角膜浸潤は角膜実質の中層にまで及んでいた。輪部との間には透明帯(lucid interval)がみられた。フルオレセイン染色では浸潤巣の周囲に軽度の点状表層角膜症(superficial punctate keratitis:SPK)と点状~線状の角膜上皮欠損がみられた(図1b)。

 治療経過:コンタクトレンズの使用と上記の角膜所見から左眼角膜周辺部への細胞浸潤と考え,合成ペニシリン製剤(サルペリン®)とリン酸ベタメタゾン(0.1%リンデロン®)の左眼への1日4回点眼を開始した。点眼開始後しだいに結膜充血は軽減し,8時方向にみられていた角膜浸潤巣も消失した。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・5

結核性内眼炎

著者: 小竹聡 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1380 - P.1382

はじめに

 結核はぶどう膜炎,内眼炎の原因疾患としてかつては高頻度であり,北海道大学眼科の統計でも1966~1975年の10年間ではBehçet病,サルコイドーシス,原田病に次ぐ頻度であった1)。その後は結核菌に対する抗生物質の進歩により,減少した2)。しかし,免疫抑制状態の患者にとって結核はいまだに注意すべき疾患であり,さらに最近ではまったくの健常者でも感染が散見され,ぶどう膜炎,内眼炎の鑑別診断としてはむしろ意義が高まっている。

網膜硝子体手術手技・8

黄斑下血腫除去術

著者: 菊池雅人 ,   浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1384 - P.1389

はじめに

 網膜下出血を起こす疾患としては狭義の加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:以下,PCV)などが挙げられる。黄斑下血腫は,出血を放置して約2週間も経過すると器質化が進行しその部分の網膜機能が次第に低下していくので,理想的には1週間以内に早期の治療を予定しなければならない一種の緊急疾患である。その治療として,硝子体手術による血腫の除去および硝子体腔ガス注入による血腫移動術がある。ガス注入による血腫移動術については成書に譲るとして,本稿では,実際に当教室で行っているフィブリン特異的血栓溶解薬である組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:以下,tPA)の網膜下注入を併用した黄斑下血腫除去術の手技を述べる。

眼科医のための遺伝カウンセリング技術・10

遺伝カウンセリングと倫理問題(1)

著者: 千代豪昭

ページ範囲:P.1391 - P.1401

はじめに:遺伝カウンセラーの倫理的態度とは

 倫理観は人格の一部である。人間は一人一人の個性が違うように,倫理観も一人一人異なっている。ロジャースのカウンセリングではクライエントがカウンセラーの倫理観に影響されながら自律的に判断を下すが,決してカウンセラーが自らの倫理観をクライエントに押しつけてはならない。しかし,遺伝カウンセリングは医療カウンセリングであるから,「好ましい方向」へクライエントを誘導したい。「好ましい方向」がEBM(evidence-based medicine)に基づいた医療思想,社会通念や法律に基づいているべきであることは,これまでに何度も強調した。このためには遺伝カウンセラー一人一人の倫理観が異なっていても,ある程度の共通した基本的態度は必要であろう。「基本的な倫理的態度」をどう学ぶかということが今回の連載のテーマである。

 結論から先に申しあげると,「……は好ましい」「……はよくない」と価値判断をそのまま学ぶことは好ましくない(それこそ,倫理原則に反する。倫理原則に反した教育は学習者に拒否される)。倫理的な考え方,もう少しはっきりいうと,「倫理分析」の手法を学ぶのがよいと考えている。カウンセリングの技術論からも,クライエントの倫理観をそのまま受け入れ分析してみることは,クライエントの決断や行動を理解し予測することに役立つ。教育する立場からも,学習者の倫理的判断を「その考え方は間違っている」と指摘するよりは,「なぜ,そのように考えるのか」を分析させることにより,もっと違った考え方があることに気づかせることができる。いろいろな倫理観を持ったクライエントを相手にする遺伝カウンセラーにとっては,この技術を学ぶことが重要である。最も重要な遺伝カウンセラーの倫理的態度は,クライエントのさまざまな倫理観を受け入れ理解する態度である。遺伝カウンセラーの基本的な倫理的態度は,このような倫理学習により結果的に備わってくるのではないかと考えている。そのため,筆者は倫理学の講義で最初から倫理ガイドラインの類いを暗記させるようなことはしない。偏狭な倫理観に凝り固まった遺伝カウンセラーはクライエントにとって迷惑そのものだからである。

臨床報告

眼付属器リンパ腫とクラミジア感染症の関連

著者: 吉田翼 ,   吉川洋 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.1549 - P.1553

要約 目的:眼付属器リンパ腫とクラジミア感染症の関連を検索した報告。対象と方法:凍結組織として保存されている10例の眼付属器リンパ腫からDNAを抽出し,クラジミアDNAを検索した。リンパ腫が残存または未治療の症例7例に塩酸ドキシサイクリンを投与し,16~20か月後まで追跡した。結果:眼付属器リンパ腫の組織からChlamydia psittaciのDNAは検出されなかった。塩酸ドキシサイクリンを投与した眼付属器リンパ腫7例中2例で,腫瘍がわずかに縮小し発赤が軽減した。結論:凍結組織として保存されている眼付属器リンパ腫から,クラジミアDNAは検出されなかった。

親水性アクリルレンズのカルシウム沈着実験と低分子シリコーンの関与

著者: 宮田章 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.1555 - P.1559

要約 目的:親水性アクリル眼内レンズ(IOL)に起こるカルシウム沈着に,低分子シリコーンが関与するかについての実験報告。方法:親水性アクリルIOLとしてHydroview®H60Mを用い,対象としてPMMAを素材とするUV-60SBを使った。両者ともそれぞれ6枚を使用した。IOLをシリコーンを含む蒸留水が入った容器に入れ,加熱してシリコーン付着IOLを作製した。過飽和析出法でカルシウムを沈着させ,X線光電子分析法でIOL表面のカルシウム沈着の有無を確認した。結果:シリコーンを付着させた親水性アクリルIOLとPMMA IOLの両者に,カルシウムの付着があった。シリコーンを付着させないIOLには,両者ともカルシウムの付着がなかった。結論:IOLの表面にシリコーンが付着するとカルシウムが沈着しやすい。

カラー臨床報告

視神経乳頭上に生じた網膜細動脈瘤の1例

著者: 八木文彦 ,   佐藤幸裕

ページ範囲:P.1543 - P.1547

要約 目的:硝子体出血に対する手術で,視神経乳頭上に網膜細動脈瘤が発見された症例の報告。症例:83歳女性が6週間前からの左眼視力低下で受診した。50歳の頃から肝硬変,60歳の頃から高血圧,6週間前に食道動脈瘤破裂による吐血があった。矯正視力は右0.8,左手動弁であり,左眼には硝子体出血があった。発症から6か月後に硝子体手術を行った。術中所見として,乳頭面上に1/4乳頭径大の網膜細動脈瘤が発見された。術後視力は0.9になったが,動脈瘤は次第に大きくなり,手術19か月後に1/3乳頭径大になった。動脈瘤の器質化はなかった。結論:視神経乳頭上の網膜細動脈瘤については19例20眼の報告があるが,吸収しない硝子体出血に対して手術を要した例はない。これを発見した場合,光凝固が困難なので長期の経過観察が必要である。

べらどんな

プロの一言

著者:

ページ範囲:P.1377 - P.1377

 パソコンの調子がおかしくなった。NTTやインターネットの「お助け電話」に相談してもラチがあかないし,パソコンそのものも古くなったので買い替えることにした。

 機種は現在のと同じものに決めてある。画面はなるべく大きいのにしたいので,ノートパソコンではなく,デスクトップの一体型がよい。

 購入する店も決まっている。小物などは例外だが,30年以上前から電気器具は秋葉原の○○電気に決めてあるからだ。品揃えが豊富だし,店員も知識が豊富で,親切に説明してくれる。さっそく本店に行き,19インチのデスクトップを注文し,配達してもらうことにした。

今月の表紙

加齢黄斑変性

著者: 竹内勝子 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1383 - P.1383

 症例は56歳,男性。変視を主訴に近医を受診し,黄斑変性の疑いで当科を紹介された。当科でフルオレセイン蛍光造影検査,インドシアニングリーン造影検査を行い,両検査で脈絡膜新生血管が確認されたが,視力がよいため(矯正0.7)光線力学療法は行わず経過観察していた。4か月後,諸検査で脈絡膜新生血管が拡大し,視力も下がったので光線力学療法を行った。その1か月後の蛍光眼底造影写真である。視神経乳頭内を走行する網膜毛様動脈がみられ,傍中心窩に1乳頭径弱になった脈絡膜新生血管網が網目状に観察される。それを縁取るように網膜下出血が生じ蛍光をブロックしている。またその周囲の網膜毛細血管網の一部に拡張,吻合,灌流遅延もみられる。

 写真は,ZEISS社製FF450plusにVictor社製3CCDデジタルカメラKY-F75を搭載し撮影している。

やさしい目で きびしい目で・92

恩師の言葉

著者: 清水聡子

ページ範囲:P.1535 - P.1535

 小・中・高校では多分いまでも朝礼があり,校長先生のお話というのが行われているのでしょう。何十年も前のことなのに,高校時代の校長先生のお話のなかで憶えている話があります。女子高でしたから先生方もほぼすべて女性,校長先生も当時70歳くらいの女性でした。校長先生がおっしゃるには,「女性の生き方には2種類あります。いまの世代のために生きる人,次世代のために生きる人です。いまの世代に生きる人とは自分で仕事を持ち,自分が直接社会に貢献する人です。次世代に生きる人とは子供を生み育て,次の世代を背負って立つ人たちを育成することで社会に貢献する人です。あなたたちはどちらになってもいいのですよ。」という内容でした。校長先生自身は女子教育に身を捧げられ,独身を通された方でした。校長先生でありながら人前で話をするのは苦手だったそうで,必ず話す内容をレポート用紙にまとめられ,そのレポート用紙を繰りながら訥々と話される小柄な姿に生徒から「かわいー」の声があがることもしばしばでした。とはいっても,もともと化学の先生で頭は理系,話される内容は常に理路整然としていました。

 生意気盛りの高校生,皆若くて(それなりに)美しく,年配で独身の先生方をオールドミスと馬鹿にする傾向があったため,諭す意味でこのようなお話をされたのか,さまざまな道がありますよというお話どおりのことだったのか,はたまた女子高でありながら受験校であったので,結婚なんてしなくていいからいい大学に入ってバリバリ仕事をおやりなさい,ということが実は言いたかったのか,当時もいまもわかりません。校長先生の真意が何にせよ,私はふーん,どっちでもいいんだぁ,と妙に納得したのでした。専業主婦を全面否定したり,逆に女の幸せは結婚!と固執する必要はないのですね。とにかく何らかの形で社会に貢献しなくてはということが心に刻まれたのでした。

ことば・ことば・ことば

場所

ページ範囲:P.1539 - P.1539

 病気の情報が「形」として入ることが眼科の特徴です。このために,形と一緒に,「場所」がよく問題になります。

 「場所・部位」を意味する名詞として,ラテン語ではlocus,ギリシャ語ではtoposがよく使われます。前者から派生した単語には,local,location,localizationなどがあります。

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あとがき

著者: 水流忠彦

ページ範囲:P.1574 - P.1574

 本稿を書いている現在,第21回参議院議員通常選挙が公示され,暑い選挙の夏を迎えようとしています。本誌が発刊されている頃には帰趨が決していることになります。その結果は私たちが日常行っている眼科医療や医学教育にも大きな影響を与えることになりますので,大いに気になるところです。

 最近の日本の社会や医療の状況は非常に目まぐるしく変化してきていますが,その変化の特徴を一言で表現するならば,「発展」というより「崩壊」としたほうがよいような気がします。いつの時代も社会やさまざまなシステムには「創造」と「発展」「成熟」,そして「崩壊」のサイクルがあるとされていますが,昨今の日本は残念ながら「崩壊」一色のような気がしてなりません。世界的にみれば1989年の「ベルリンの壁崩壊」がその後の激動の世界の端緒となったのでしょうが,日本に目を向けるとその後に「バブルの崩壊」「金融システムの崩壊」の危機に瀕し,現在も国や地方自治体の「財政崩壊」がささやかれる始末です。最近の話題では「年金崩壊」でしょうか。教育の現場でも「学級崩壊」から始まり「公教育の崩壊」など,教育システム全般にきしみがみられる状態で,なかなか希望の光を見いだしにくいのが実情です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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