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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科62巻1号

2008年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

眼内新生血管に対する新しい薬物療法

著者: 日下俊次

ページ範囲:P.9 - P.14

 血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)は加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管形成に中心的な役割を果たす物質であるが,最近,これを特異的に阻害する薬剤が臨床応用され,話題となっている。また,VEGFは糖尿病網膜症における病態にも重要な役割を果たしており,同薬剤の治療対象として注目されている。ここでは抗VEGF薬物療法の現況について概説する。

日常みる角膜疾患・58

角膜内皮検査

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.18 - P.20

症例

 患者:67歳,女性

 主訴:両眼視力低下

 現病歴:2000年4月頃,近医で両眼の角膜内皮ジストロフィ(Fuch's角膜ジストロフィ)と白内障を指摘されて当科を紹介され受診した。その後,両眼の白内障が進行したために,2001年6月に左眼,2002年に右眼の白内障手術を施行されていた。施行前の角膜内皮細胞数は右 790cells/mm2,左 750cells/mm2であった。

 術後,次第に視力低下を自覚するようになり,角膜内皮細胞機能障害による角膜実質浮腫が出現するようになったため,2007年11月15日に角膜内皮移植術(以下,DSAEK)施行目的で当科に入院となった。

 家族歴・既往歴:特記事項なし。

 初診時所見:入院時視力は右0.7(矯正不能),左0.8(矯正不能)であり,眼圧は右10mHg,左13mmHgであった。角膜内皮面には細隙灯顕微鏡で観察される前房内に突出した微小な疣贅が認められ,軽度の角膜実質浮腫が見られた(図1a)。スペキュラマイクロスコープを用いた角膜内皮細胞検査ではguttataを伴った角膜内皮細胞層が観察され(図1b),レーザー共焦点顕微鏡では変形した角膜内皮細胞層が観察された(図1c)。

 2007年11月に右眼のDSAEKを施行し,術後一過性に角膜実質浮腫が増悪したが次第に実質浮腫は軽快した(図2a)。術後2週間後では,スペキュラマイクロスコープによる角膜内皮細胞層の観察は困難であったが(図2b),レーザー共焦点顕微鏡では正常な多角形構造を有した角膜内皮細胞層が観察された(図2c)。術後2週間後の視力は右0.4(0.9)であった。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・10

春季カタル

著者: 合田千穂 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.22 - P.25

はじめに

 カタル(catarrh)とは,ギリシャ語の「下に」を意味するcata-と「流れる」を表すreoに由来するとされる。古代ギリシャ医学では脳には粘液がたまっており,それが過剰になると下に流れ出すと考えられた。さらにカタルには目,鼻,耳,肺,腹,筋肉,関節の7つの流れがあるとされた。つまり「カタル」は分泌物が多い病態を表す。現在も眼のほかに鼻カタル,中耳カタル,気管支カタル,胃(腸)カタル,咽頭カタルなどの用語が用いられている。

 春季カタル(vernal keratoconjunctivitis:VKC)はアレルギー性結膜疾患の1つで,10歳以下の男児に多くみられる。アレルギー結膜疾患診療ガイドラインでは,結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患と定義される1)。結膜の増殖変化とは眼瞼結膜の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起をさす。眼瞼の乳頭増殖は石垣状乳頭増殖と表現される。疾患名にある「春季」の由来は春から夏にかけて症状が悪化する患者が多いためで,世界的には温帯気候,特に地中海地域に患者数,重症例がともに多い2)

網膜硝子体手術手技・13

増殖糖尿病網膜症(4)双手法増殖膜処理と止血法

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.26 - P.32

はじめに

 前号では膜分割法(membrane segmentation),膜分層法(membrane delamination)など増殖膜処理の基本的手技について解説した。今回は,煩雑な増殖膜処理を少しでもやり易くするような工夫や膜処理後の止血法について解説する。

もっと医療コミュニケーション・1【新連載】

診察室で理想的コミュニケーションを実践することの難しさ

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.34 - P.36

 医療人が患者と向き合うことが医療の原点で,これこそ今の医療に求められていることといえましょう。ところが,いざ患者と話をしましょうとか,患者のことをわかってあげましょうといわれても,今以上に何をすればよいのかわからないかもしれません。手術手技や診断技術と同じように,患者説明や面接が上手なことは診療の付加価値になりえます。もともと対話が上手な人もいますが,よりよい方法を知り,自分の長所・短所を知ることで,もっと患者や職員との関係が円滑になるかもしれません。本連載欄では診察室での医師と患者のコミュニケーションについて,さまざまな角度から考えてみることにしましょう。

臨床報告

免疫グロブリン遺伝子解析が診断に有用であった特異な球結膜下炎性偽腫瘍の1例

著者: 寺坂祐樹 ,   堅野比呂子 ,   長谷川晶子 ,   郭權慧 ,   宮崎大 ,   井上幸次

ページ範囲:P.53 - P.57

要約 目的:免疫グロブリン遺伝子解析で診断が確定した球結膜下炎性偽腫瘍症例の報告。症例:38歳女性が4か月前からの左眼充血で受診した。所見と経過:裸眼視力は左右とも1.5であり,左眼には輪部上方の球結膜下に強く充血した径10mmの腫瘤があり,前部ぶどう膜炎の所見があった。腫瘤の生検でリンパ球の浸潤があり,免疫関連リンパ様組織(MALT)の可能性が疑われた。この細胞の遺伝子解析で,免疫グロブリンH鎖J領域にモノクロナリティがなく,炎性偽腫瘍と診断した。1年後に腫瘤の全摘出を行い,遺伝子解析で診断が再確定した。結論:球結膜下の腫瘤は,臨床的・病理組織学的に炎症か腫瘍かの鑑別が困難なことがあり,遺伝子解析が診断確定に有用である。

強膜炎に対するトリアムシノロンのテノン囊内注射後に生じた眼圧上昇にトリアムシノロン除去術が著効した1例

著者: 中村徹 ,   小池正直

ページ範囲:P.59 - P.63

要約 目的:強膜炎に対してトリアムシノロンをテノン囊内に注射し,続発した眼圧上昇にトリアムシノロン除去が奏効した症例の報告。症例:34歳男性の両眼に発症した強膜炎に対し,プレドニゾロンの点眼と内服が7か月間行われた。その後トリアムシノロン(トリアムシノロンアセトニド)12mgをテノン囊内に注射した。それまで正常であった眼圧が,右37mmHg,左45mmHgに上昇したが,2か月後に正常化した。さらに2か月後に眼圧が再上昇し当科を受診した。経過:眼圧が下降しないため,受診から4か月後に左眼球結膜下にある白色のトリアムシノロン塊を除去し,3週後に眼圧は正常化した。続いて右眼に同様の処置を行い眼圧は下降した。以後現在までの2年間,眼圧下降薬を点眼しているが,眼圧は低値を保っている。結論:トリアムシノロンのテノン囊内注射後に続発した眼圧上昇に対し,トリアムシノロン塊の除去が有効であった。

Duane症候群Ⅲ型のMRI所見

著者: 岡信宏隆 ,   河野玲華 ,   大月洋 ,   三宅講二

ページ範囲:P.65 - P.69

要約 目的:40歳の女性で幼少時から左眼外斜視と眼球運動障害を自覚し,Duane症候群Ⅲ型と診断された症例のMRI所見の報告。症例と経過:家族歴はなく,両眼とも視力は1.2で眼底にも異常は認めなかった。脳幹部MRI T2-強調の斜軸像で患側の外転神経の欠損を橋レベルで認めたが,動眼神経については両側とも確認できた。眼窩MRI T1-強調の矢状断画像で患側眼窩後方の左眼外直筋筋腹が上下に2つに分離する所見を認めた。この所見を支持するように冠状断画像でも眼窩後方での外直筋の分離を認めた。結論:外直筋の2分離所見は,Duane症候群における異常神経支配が関係していると推察される。

アデノウイルス迅速診断キット「キャピリア(R)アデノアイ」の検討

著者: 吉田和彦 ,   赤沼正堂 ,   大口剛司 ,   大神一浩 ,   安里良盛 ,   大橋勉 ,   庄司純 ,   根路銘恵二 ,   日隈陸太郎 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.71 - P.74

要約 目的:ヒトアデノウイルスを迅速に診断する装置キャピリア(R)アデノアイの臨床的評価。対象と方法:研究は国内6施設で行われ,アデノウイルス結膜炎が疑われた患者の結膜擦過物100検体を対象とした。検査には免疫クロマトグラフィ法を用いるキャピリア(R)アデノアイを使用し,さらに全検体につきPCR法でアデノウイルスの同定を行った。結果:74検体からPCR法でアデノウイルスが検出された。うち60例(81%)がキャピリア(R)アデノアイで陽性と判定された。残りの26検体にはキャピリア(R)アデノアイ陽性例はなかった。アデノウイルスの血清型または結膜炎の重症度による感度の差はなかった。キャピリア(R)アデノアイによる陽性率は,結膜炎の発症から第2と第3病日で80%以上であった。結論:キャピリア(R)アデノアイはアデノウイルス結膜炎の迅速診断に有用である。

ラタノプロストとの併用療法におけるブリンゾラミド1%点眼液による眼圧,角膜および全身への影響

著者: 鈴木克佳 ,   平野晋司 ,   藤津揚一朗 ,   大田佳代子 ,   石田康仁 ,   折田朋子 ,   柳井亮二 ,   小澤摩記 ,   榎美穂 ,   相良健 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.77 - P.81

要約 目的:ラタノプロストとブリンゾラミドの併用療法による眼圧,角膜,全身への影響の報告。対象と方法:ラタノプロストとβ遮断薬の点眼を受けている原発開放隅角緑内障24眼,落屑緑内障2眼,高眼圧症2眼の合計28例28眼を対象とした。年齢は45~84歳(平均68歳)であった。眼圧は18.6±2.7mmHgであった。β遮断薬を1%ブリンゾラミド点眼に切り替え,点状表層角膜症,中心角膜厚,角膜内皮,血圧,脈拍数を検索した。結果:眼圧は点眼液を変更してから1か月後に16.7±2.8mmHg(p<0.05),3か月後に16.3±2.8mmHg(p<0.01)と有意に低下した。点状表層角膜症のADスコアは26眼(93%)で不変,1例(4%)で悪化,1例(4%)で改善した。中心角膜厚,角膜内皮,血圧,脈拍数については,点眼液変更の前後で有意な変化はなかった。結論:開放隅角緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミドによる併用療法は安全で有効である。

開瞼失行から気付かれた薬剤性パーキンソン症候群

著者: 髙木美昭 ,   奥田隆章 ,   小谷博和 ,   黒住浩一 ,   門田光裕 ,   峯克彰 ,   大野未知 ,   市川篤 ,   髙木潔子

ページ範囲:P.83 - P.87

要約 目的:眼科受診時に開瞼失行が発見され,薬剤性パーキンソン症候群と診断された症例の報告。症例:83歳女性が糖尿病網膜症の精査のため受診した。糖尿病と高血圧の既往があり,3か月前に急性心筋硬塞の発作があった。所見と経過:両眼とも強く閉瞼し,自発的または用手的に開瞼不能であった。視力は左右眼とも光覚弁で,眼圧は右48mmHg,左41mmHgであった。両眼に増殖型糖尿病網膜症,虹彩ルベオーシス,右眼に前房出血があった。開瞼不能の原因として,開瞼失行が疑われた。顔貌が仮面状で動作が緩徐であり,両上肢に静止時の振戦と筋固縮があった。心筋硬塞のあと抗うつ薬としてスルピリド150mg/日を服用中であったため,これによるパーキンソン症候群であると推定された。スルピリドを中止し,A型ボツリヌス毒素を12か所に注射した。その後自発開瞼が可能になり,スルピリド中止から3週後に静止時の振戦と筋固縮が消失した。結論:開瞼失行が薬剤性パーキンソン症候群の主要徴候である可能性があり,全身状態に注意する必要がある。

カラー臨床報告

眼底病変を有した猫ひっかき病の7例

著者: 内田哲也 ,   福田憲 ,   吉村佳子 ,   大田佳代子 ,   熊谷直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.45 - P.52

要約 目的:眼底病変を伴う猫ひっかき病7例の報告。症例:過去8年5か月の間に,血清学的にBartonella henselae抗体価が陽性である7例8眼を猫ひっかき病と診断した。男性3例3眼,女性4例5眼で,年齢は10~56歳(平均27歳)であった。初診時視力は全例が0.5以下であり,主訴は視力低下と中心暗点であった。発熱が6例,前房の炎症所見が2例,網脈絡膜の滲出斑と星芒状白斑が7例,網膜出血が6例,乳頭浮腫が5例にあった。3例には薬物投与をせず,4例には抗菌薬あるいは副腎皮質ステロイドを全身的に投与した。全例が0.7以上の最終視力を得た。結論:眼底病変を伴う猫ひっかき病は20歳以下の若年者に多く,自発的に寛解する傾向がある。眼病変が強い場合には薬物治療が必要である。

今月の表紙

Stargardt病―黄色斑眼底Ⅰ群

著者: 福井勝彦 ,   根木昭

ページ範囲:P.21 - P.21

 症例は8歳,男児。小学校入学前は視力良好(右1.2,左2.0)だったが,入学後より視力低下のため近医を受診した。色覚異常と眼底の黄斑部に変性を認め,精査目的で当科を受診した。視力は右0.06(0.1×-1.50D),左0.1(0.4×-0.50D)であった。眼圧は左右ともに16mmHg,眼位・眼球運動に異常はなかった。前眼部・中間透光体に異常は認められなかった。両眼の黄斑部に縦2乳頭径,横3乳頭径の大きさで灰色の金属様反射(beaten bronze atrophy)の変性萎縮病変がみられた(写真a)。

 フルオレセイン蛍光眼底造影は,網膜色素上皮細胞に蓄積したリポフスチンによる脈絡膜背景蛍光の遮蔽によるdark choroidで背景蛍光は全般に暗く,黄斑部は網膜色素上皮の変性萎縮により過蛍光(window defect)を示した(写真b)。インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,両眼の黄斑部の変性萎縮病巣は造影早期から後期にかけてwindow defectにより脈絡膜中大血管が他の部位より明瞭に観察できた。視野検査で黄斑部の変性萎縮病変部位に一致した中心暗点がみられた。網膜電図はa波およびb波の振幅は低いが律動様小波に異常はなかった。

べらどんな

素晴らしい年

著者:

ページ範囲:P.25 - P.25

 エリザベス女王が英国議会で「今年はひどい一年(Annus Terribilis)だった」ではじまる演説をしました。王室のスキャンダルが多発したためで,たしか1992年のことです。

 これはラテン語ですが,イギリス人にも意味は十分に伝わったはずです。「素晴らしい年」Annus Mirabilisという表現が以前からあり,Annus Terribilisはそれの裏返しだからです。1680年にロンドンに大火があり,ペストが大流行しました。17世紀の詩人Drydenがこれを詠み,Annus Mirabilisと表現しました。この機会に,「眼科にとって素晴らしい年」とはなにかを考えてみました。

やさしい目で きびしい目で・97

小児眼科の醍醐味

著者: 富田香

ページ範囲:P.33 - P.33

 小児眼科の草分け的大御所であった故・植村恭夫教授の元で勉強させていただいた。続いて国立小児病院(現国立成育医療センター)へ出張で行かせていただいたこともあって,小児眼科を自分の専門としてきた。

 学生の頃は,赤ちゃんのげっぷとともに出てくるおっぱいのヨーグルト臭いにおいも嫌いだったし,子どもが特に好きだったわけではないような記憶があるから不思議。今では,子ども大好き人間になってしまった。開業医になって20年以上が経ったが,子どもの泣き声はちっとも気にならない。むしろ待合室で泣いている子どもがいれば,その泣き声から「お腹がすいているみたい」とか「これはわがまま泣きだな」とか「どこか痛がっているから,急がなくては」など反応も早くなった。もっとも診察室で泣かせてしまうこともたまにはあるので,申し訳ないことである。できるだけ泣かせないように,そして泣かせてしまうときはできるだけ短い時間ですむように精一杯の努力は欠かせない。小さな子でも何かを始める前に,まじめな顔できちんと説明しておくと,泣いても後を引きずらないものである。子どもはびっくりするくらい,いろいろなことがわかっている。その証拠に検査が終わったとたん,晴れ晴れとした笑顔で診察室から出て行ってしまう……。

ことば・ことば・ことば

すべて

ページ範囲:P.37 - P.37

 頭にpanがつく単語がいくつもあります。全眼球炎(panophthalmitis)がその一例であり,汎網膜光凝固(panretinal photocoagulation)もそうです。「全部・すべて」を意味するギリシャ語の接頭詞panがどちらにも入っています。

 この系統でもっとも壮大なのがPangeaでしょうか。世界には六つの大陸がありますが,2億年前には一つの塊でした。これが大陸漂移説(continental drift)です。その提唱者であるドイツのWegener(1880-1930)がこの大きな塊をPangeaと命名しました。

書評

メディカルポケットカード プライマリケア

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.87 - P.87

 アメリカの研修医はアンチョコが大好きである。サンフォードガイドやワシントンマニュアルに代表されるマニュアル類。VINDICATE-P,CAGE,PECOといったアクロニム(頭字語)。「A型肝炎だけが,ウイルス性肝炎でspiking feverを起こす」,なんていう含蓄に満ちたメディカルパール(箴言)。そしてpalm pilotなどのPDA。アメリカの研修医のポケットにはたくさんの知識の元が詰まっている。

 ポケットカードも,彼らのお気に入りのひとつである。一枚のカード,表裏にびっしりと情報。その科をローテートしているときにポケットに携えておけば,パッと取り出してさっと読める。破れないし,濡れても大丈夫。ちょっと長めで,少しポケットからはみ出すくらいの方が取り出しやすい。

文庫の窓から

『難経』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.88 - P.90

秦漢時代からの医学書

 『難経』は時に『八十一難』『黄帝八十一難経』『黄帝八十一難』とも言われる書である。『難経』という書名の初出は,前回話題に取り上げた皇甫謐の著作『帝王世紀』にあるという(『宋以前醫藉攷』)。『素問』を『八十一難』と呼んでいた,という説もあるようだが,多紀元胤は『難経』の語気は素問霊枢より弱く,後漢以後の本と相通じるものが多いので後漢以後編まれたのであろう,としている。また,南京中医学院編の『難経解説』(1987初版)の序文では,張山雷(1872~1934)の「八十一難の本文は,恐らく戦国,秦漢時代に記されたものであろう。各人がそれぞれ専門について述べたもので,一時代の一人の筆によるものではない」という説を紹介し,その考えは妥当なものだろうと推定している。これらの説から,『難経』は秦漢の時代から伝えられた医学を後漢以後にまとめたものといえよう。

 八十一という数をつけたのは『素問』『霊枢』に連なる書であることを表しているとされ,「難」は難しいという意味ではなく,問難の意味であろうということが定説になっている。

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あとがき

著者: 根木昭

ページ範囲:P.104 - P.104

 あけましておめでとうございます。2008年度は診療報酬改定の年に当たり,本誌が発行されたころには大勢が決していると思われます。

 昨年,財務省は医師の給与は依然高く,業務の合理化余地はあると判断し,薬価部分を含め3.16%となった前回並みの削減幅を提案しました。また外保連では手術時間を基準とした手術点数の見直しが議論され,眼科にとっては厳しい風が吹いています。眼科では,手術は医療材料,医療機器の評価や医療技術の社会的貢献,費用対効用効果の評価を総合して判断すべきと主張しています。適正な評価が期待されます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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