文献詳細
特集 網膜硝子体診療update
Ⅱ.非観血的治療update
文献概要
はじめに
1980年代に発見され,1994年にサイトカインの1つである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:以下,VEGF)が,糖尿病網膜症(以下,網膜症)の重症度や活動性と密接に関連していることが報告されて以来1),VEGFに関する多数の細胞生物学的および臨床的研究がなされてきた2,3)。その結果,VEGFは網膜症における血管新生および血管透過性亢進を制御する分子カスケードにおいて,最も重要な役割を担うサイトカインの1つであることが明らかになった。
サイトカイン(cytokine)とは細胞という意味の「サイト」と,作動因子という意味の「カイン」の造語である。細胞が産生する可溶性蛋白で,標的細胞表面の特異的受容体を介して,極微量(10-10~10-12M)で細胞の増殖,分化,機能発現などの生理活性を発揮する。受容体の発現が細胞や組織特異的であることが多いため,標的細胞は限定される。
サイトカインの産生は多くの場合,厳密な遺伝子発現調節または分泌調節下にコントロールされている。また,サイトカインは産生局所で機能する場合が多く,近傍の細胞に作用するパラクリン,自らの細胞に作用するオートクリンがある。サイトカイン産生細胞,受容体細胞,その結合およびシグナル伝達による機能発現には複雑なネットワークが存在し,互いに機能を相補し,制御することによって生体の恒常性を維持している。すなわち,サイトカインは生理的状態においては生体の恒常性維持のために重要な役割を担っている反面,発現異常などによって病的状態,すなわち網膜症の発症や進展に大きく関与していると考えられる。現在,網膜症の病態に関与するサイトカインとしては,表1のように実に多数のものが報告されており,網膜症に関するサイトカインの役割,意義や位置づけは解明途中にあるといっても過言ではない4)。
近年,増殖網膜症や黄斑浮腫に対する抗VEGF抗体による治療が臨床応用されるようになり,網膜症の病態におけるVEGFの位置づけがだんだんと明らかになってきた。本項においては,多数のサイトカインのなかからVEGFを中心に取り上げ,その特徴と非観血的治療の可能性の観点から論じることとする。
1980年代に発見され,1994年にサイトカインの1つである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:以下,VEGF)が,糖尿病網膜症(以下,網膜症)の重症度や活動性と密接に関連していることが報告されて以来1),VEGFに関する多数の細胞生物学的および臨床的研究がなされてきた2,3)。その結果,VEGFは網膜症における血管新生および血管透過性亢進を制御する分子カスケードにおいて,最も重要な役割を担うサイトカインの1つであることが明らかになった。
サイトカイン(cytokine)とは細胞という意味の「サイト」と,作動因子という意味の「カイン」の造語である。細胞が産生する可溶性蛋白で,標的細胞表面の特異的受容体を介して,極微量(10-10~10-12M)で細胞の増殖,分化,機能発現などの生理活性を発揮する。受容体の発現が細胞や組織特異的であることが多いため,標的細胞は限定される。
サイトカインの産生は多くの場合,厳密な遺伝子発現調節または分泌調節下にコントロールされている。また,サイトカインは産生局所で機能する場合が多く,近傍の細胞に作用するパラクリン,自らの細胞に作用するオートクリンがある。サイトカイン産生細胞,受容体細胞,その結合およびシグナル伝達による機能発現には複雑なネットワークが存在し,互いに機能を相補し,制御することによって生体の恒常性を維持している。すなわち,サイトカインは生理的状態においては生体の恒常性維持のために重要な役割を担っている反面,発現異常などによって病的状態,すなわち網膜症の発症や進展に大きく関与していると考えられる。現在,網膜症の病態に関与するサイトカインとしては,表1のように実に多数のものが報告されており,網膜症に関するサイトカインの役割,意義や位置づけは解明途中にあるといっても過言ではない4)。
近年,増殖網膜症や黄斑浮腫に対する抗VEGF抗体による治療が臨床応用されるようになり,網膜症の病態におけるVEGFの位置づけがだんだんと明らかになってきた。本項においては,多数のサイトカインのなかからVEGFを中心に取り上げ,その特徴と非観血的治療の可能性の観点から論じることとする。
参考文献
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掲載誌情報