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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科62巻12号

2008年11月発行

雑誌目次

特集 糖尿病の眼合併症

糖尿病合併症の病態―内科医からのメッセージ

著者: 安孫子亜津子 ,   羽田勝計

ページ範囲:P.1803 - P.1809

はじめに

 2006年に国連が糖尿病の撲滅を目指す採択をし,毎年11月14日を世界糖尿病デーと定めたことは記憶に新しい。世界中の糖尿病人口は増え続け,世界では糖尿病に関連する病気で約10秒に1人の割合で死亡しているという現状がある。

 わが国の糖尿病患者数も増加し続けており,2006年の国民健康・栄養調査報告によると,糖尿病が強く疑われる人は820万人,糖尿病の可能性が否定できない人も合わせると1,870万人であると報告されている。この増加の背景として,近年注目のメタボリックシンドロームがある。現在の日本の診断基準によると,40~74歳の男性のほぼ2人に1人,女性の5人に1人がメタボリックシンドロームの該当者か予備軍といわれている。

 糖尿病は長期間無治療であったり,慢性的に血糖コントロール不良状態が続くと,さまざまな血管合併症が起こる。この合併症は早期にはほとんどが無症状であるが,進行すると日常生活の質(QOL)を維持できなくなったり,健康な人と同じ寿命を確保できなくなることが糖尿病の大きな問題点である。1991~2000年におけるわが国の糖尿病患者の平均死亡時年齢は,男性68.0歳,女性71.6歳で,同時代の日本人一般の平均寿命に比して,それぞれ9.6歳,13.0歳短命であった1)。そのため,糖尿病合併症を予防し,進行を阻止するためには血糖コントロールをはじめとした治療が必要である。合併症は全身に及ぶために,内科のみならず各診療科やコメディカルとも連携を密にし,患者をトータルに診察,治療していくことも重要である。

糖尿病角膜症

著者: 近間泰一郎

ページ範囲:P.1810 - P.1815

はじめに

 糖尿病の三大合併症は,網膜症,腎症,神経症である。眼合併症では網膜症が代表的で,白内障とともに視力障害に直結する。また,視機能への直接的な影響は少ないものの,糖尿病角膜症もしばしば経験する糖尿病眼合併症の1つである。

 糖尿病を有する患者では,角膜は透明で一見正常にみえても,白内障手術,硝子体手術などの内眼手術やレーザー治療などの侵襲を契機として角膜上皮障害1,2)や角膜内皮障害3)が発症することが知られている。このような糖尿病に伴う種々の角膜障害が糖尿病角膜症4)であり,創傷治癒過程に異常があるために,一旦発症すると速やかに治癒せず治療に苦慮することがある。

 本稿では,糖尿病角膜症の臨床的所見およびその病態と治療法について概説する。

糖尿病と続発緑内障

著者: 大鳥安正

ページ範囲:P.1816 - P.1821

はじめに

 糖尿病網膜症と緑内障は,ともに我が国の失明原因の上位を占める疾患である。特に,糖尿病網膜症が悪化することにより網膜虚血が進行すると,線維血管膜が隅角に増殖し,線維柱帯の閉塞,虹彩前癒着を引き起こし,房水流出抵抗が増大することによって眼圧が上昇する血管新生緑内障(neovascular glaucoma:NVG)を併発する。NVGはひとたび眼圧が上昇すると,眼圧コントロールが困難なために失明に至ることのある難治緑内障である。

 本稿では,主に糖尿病網膜症に続発するNVGに関して解説したい。

糖尿病と網膜硝子体―病態

著者: 山本禎子

ページ範囲:P.1822 - P.1827

はじめに

 近年,糖尿病はさらに増加している。厚生労働省の平成14(2002)年度糖尿病実態調査報告によると,糖尿病有病者の推計は,糖尿病が強く疑われる人が約740万人,糖尿病の可能性を否定できない人が約880万人で,合計約1,620万人が糖尿病の可能性を有していることがわかった。平成9(1997)年度の同実態調査報告では,糖尿病が強く疑われる人が約690万人,糖尿病の可能性を否定できない人が約680万人,合計約1,370万人であったので,わずか数年の間に約250万人増加したことになる。

 糖尿病網膜症は糖尿病の重大な合併症の1つであり,視力を失うことは大きなquality of lifeの低下につながる。治療技術の進歩により失明に至る症例が減少したことで,わが国における失明原因の第1位を緑内障に譲ったが,糖尿病の増加が糖尿病網膜症の増加を招来することは必至であると考えられる。

 本稿では,現在考えられている糖尿病網膜症の病態や治療について,分子病態と臨床像からアプローチする。

糖尿病と網膜硝子体―手術

著者: 山地英孝

ページ範囲:P.1828 - P.1834

はじめに

 糖尿病に対する啓蒙や内科的治療の進歩,適切な光凝固の施行などにより,以前より重症な増殖糖尿病網膜症は減少したが,それでもなお中途失明の原因の第1位を緑内障と争う状況にあり,視力予後が現在でも不良な疾患といわざるを得ない。

 硝子体手術が適応となるのは増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy:PDR)と糖尿病黄斑症であり,PDRと糖尿病黄斑症では治療の目的が異なる。糖尿病黄斑症へは血管透過性亢進による黄斑浮腫に対して視機能の改善を目指した治療であり,また薬物療法などの治療法の選択肢もあって硝子体手術が絶対的な適応とはならない。一方,PDRは網膜虚血から発生した新生血管による増殖性変化に起因した病態であり,硝子体手術は視機能の改善というよりも失明を防ぐことを第1の目的とした治療で,手術以外に選択肢はない。重症なPDRでは増殖膜の処理が難しく,手術の難易度が高いうえに,術中の出血などにより視認性の確保が難しく,それがさらに手術を困難にしている。

 近年,PDRの硝子体手術に大きなブレイクスルーが登場した。ベバシズマブ(アバスチン®)の硝子体術前投与,照明の進化,23ゲージ(以下,G)や25Gなどの極小切開硝子体手術(micro incision vitreous surgery:MIVS)である。こういった手術補助剤や手術装置,器具の進歩によって,われわれは術中の視認性を向上させて作業効率を向上させ,さらにはより低侵襲な手術が行えるようになった。

糖尿病関連視神経症

著者: 中村誠

ページ範囲:P.1836 - P.1841

はじめに

 糖尿病の眼合併症は,高血糖ないしその他の代謝障害によって引き起こされる毛細血管症であるとまとめられている。その代表選手が糖尿病網膜症である。神経組織は透明であるため,臨床の現場でわれわれが目にすることができるのは血管成分がほとんどであり,またヒトでは,激しい増殖性変化をきたすために,血管症に注目が集まるのは仕方のないところである。しかしながら,網膜組織の実質のほとんどを構成するのは,神経細胞である。電気生理学的ないし心理物理学的検査や,近年の画像解析を用いた研究によれば,血管症の発症前後には,網膜神経の機能的・構造的障害が起きていることが示されるようになった。また,細胞生物学的な基礎研究の場においては,糖尿病網膜では神経細胞のアポトーシスやグリア細胞の活動性の変化が生じていることが明らかとなってきた(図1)。

 発症のメカニズムに関する知見の集積が進む一方,臨床的には,高齢者の中途失明原因のトップを占める虚血性視神経症と糖尿病との関連は重要な研究課題である。また,視機能障害が軽度な糖尿病乳頭症についても理解を深める必要がある。

 本稿では,こうした現状を踏まえ,基礎編として糖尿病における網膜神経障害の起こるメカニズムについて,臨床編として虚血性視神経症と糖尿病乳頭症の病態について,解説したい。

第61回日本臨床眼科学会講演集(9) 原著

片眼性から両眼性に移行したBasedow眼症の1例

著者: 宇井恵里 ,   井上立州 ,   高本紀子 ,   鈴木淳子 ,   井上トヨ子 ,   前田利根 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1869 - P.1873

要約 背景:片眼性のBasedow眼症は約10%の症例に起こるとされ,発症時期が左右眼で異なる場合がある。目的:内科治療が行われているにもかかわらず,片眼性から両眼性に進行したBasedow眼症の症例の報告。症例:32歳女性が数週間前からの左眼の瞼裂拡大で受診した。所見と経過:右眼に-6D,左眼に-5.5Dの近視があり,矯正視力は左右眼とも1.2であった。眼球突出度は右16mm,左18mmで,瞼裂高は右9mm,左11mmであった。血液検査で甲状腺機能亢進の所見があり,磁気共鳴画像検査(MRI)で左眼の上直筋と上眼瞼挙筋の肥大があった。7か月後に右眼の上眼瞼の後退と下転障害が起こり,MRIで上眼瞼挙筋の肥大があった。球後への放射線照射は奏効せず,ボツリヌス毒素の注射の効果は一過性であった。初診から20か月後に両眼の上眼瞼挙筋の延長術を行い,眼瞼後退は軽症化し,下転障害は残った。結論:片眼に発症したBasedow眼症が両眼性に移行することがあり,注意が必要である。

Immune recovery uveitisの発症に伴った網膜剝離の1例

著者: 高橋愛 ,   阪本吉広 ,   村上陽子 ,   崎元晋 ,   濱本亜裕美 ,   中田亙 ,   建林美佐子 ,   斉藤喜博

ページ範囲:P.1875 - P.1879

要約 目的:Immune recovery uveitis(IRU)の発症後に網膜剝離が生じた症例の報告。症例:49歳男性が,6か月前に右眼,1か月前に左眼に発症したサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎で紹介受診した。既往歴としてAIDS,トキソプラズマ,慢性B型肝炎,Kaposi肉腫などがあった。所見と経過:矯正視力は右1.2,左1.5であった。肝機能障害などのため,それまでのガンシクロビルと多剤併用療法(HAART)を中断した2週間後にCMV網膜炎が両眼に再発した。4か月後にIRUが左眼に生じた。増殖膜が形成し,正常網膜との境界部に裂孔を伴う牽引性網膜剝離が続発した。複数回の手術により網膜は復位し,0.5の最終視力を得た。全経過中,CMV網膜炎の病変部は剝離しなかった。結論:IRUが発症したとき,CMV網膜炎による病変部では感覚網膜と網膜色素上皮との間に癒着が生じ,このためにCMV網膜炎がある部位に網膜剝離が生じなかったと推定される。

今月の表紙

黄斑円孔

著者: 福井勝彦 ,   根木昭

ページ範囲:P.1843 - P.1843

 33歳,女性。2001年,両眼の疲労時小暗点と視力低下を主訴に当科を受診し,両眼に大きな黄斑円孔を認めた。視力は右0.07(0.4×-5.50D),左0.08(0.5×-5.00D),Titmusステレオテストによる立体視力は50秒と良好な視機能であった。眼圧は両眼とも11mmHgであった。両眼ともに前眼部,中間透光体に異常はなかった。眼底所見は,右眼の円孔上縁に数個の微小網膜円孔と架橋を伴った約1.2乳頭径大の黄斑円孔(a),左眼の円孔周囲に黄白色の顆粒状組織を伴う約1乳頭径大の黄斑円孔を認めた。走査型レーザー検眼鏡では,両眼ともに円孔底に一致したdense scotomaと円孔の上縁に安定した固視点を認めた。後部硝子体は未剝離であった。初診時から7か月間経過を観察し,両眼の円孔径と視力に変化がなかったため,両眼性の1乳頭径を超える大きな黄斑円孔でありながら良好な視機能をもつ1例として報告した(Takahashi A et al:Arch Ophthalmol 120, 2002)。初診時から5年3か月後,左眼の視力低下を自覚して再来した。右眼(0.2),左眼(0.05)であった。右眼の円孔径は2.2乳頭径大に拡大していた(b:表紙写真)。光干渉断層計にて円孔耳側に網膜分離,網膜剝離を認めた。左眼は1.2乳頭径大と拡大は少なかったが,アーケード血管を越える広範囲の黄斑円孔網膜剝離を発症していた。左眼に硝子体切除,後部硝子体剝離作製,SF6ガス置換を施行し,円孔は閉鎖しなかったが網膜は復位した。

連載 眼科図譜・352

視神経乳頭小窩にみられた網膜神経線維束欠損のOCT像

著者: 宮本理恵 ,   久保田敏昭 ,   田原昭彦 ,   鈴木亨

ページ範囲:P.1844 - P.1846

緒言

 視神経乳頭小窩はWieth1)が最初に報告した稀な先天性疾患で,25~50%には黄斑部を含んだ漿液性網膜剝離が起こることが知られている。網膜剝離による中心暗点とは別に,本疾患には弓状暗点などの視野異常が網膜神経線維束欠損で起こることも報告されている2)

 今回,視神経乳頭小窩に伴う網膜神経線維束欠損の1例をフーリエドメイン光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)で観察したので報告する。

日常みる角膜疾患・68

上輪部角結膜炎

著者: 柳井亮二 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1848 - P.1850

症例

 患者:56歳,女性

 主訴:両眼の異物感,眼痛

 現病歴:1年半前から両眼の異物感を自覚し,近医を受診した。人工涙液,抗菌薬およびステロイドの点眼による治療を受けたが,症状が改善しないため,精査・加療目的で当院を紹介され受診した。

 眼科既往歴:特記すべきことはない。

 全身既往歴・家族歴:特記すべきことはない。アレルギー,アトピー素因はなかった。

 初診時所見:視力は右0.5(1.0×+1.00D()cyl-1.00D 160°),左0.3(1.2×+1.00D()cyl-1.75D 180°)で,眼圧は右9mmHg,左9mmHg(非接触型眼圧計)であった。細隙灯顕微鏡検査では,角膜は透明平滑で前房内に炎症所見はなかった(図1a)。両眼の上方結膜に軽度の充血を認めたが,上眼瞼結膜の炎症所見および乳頭増殖は軽度であった。フルオレセイン染色では,角膜には点状表層角膜症や上皮欠損などの異常所見はなかった(図1b)。一方,両眼の上方結膜にはフルオレセインで染色されるステイニング所見を認めた(図2a,b)。中間透光体には初発白内障がみられたが,眼底には異常所見はなかった。Schirmer試験は第Ⅰ法および第Ⅰ法変法で右2mm,左1mmで,涙液メニスカスは軽度の低下がみられ,涙液層破綻時間は両眼ともに4秒以内に短縮していた。

 治療・経過:両眼の上方結膜の充血および球結膜の肥厚,ステイニングの所見より,両眼の上輪部角結膜炎と診断した。本症例の病因は,涙液の質的な機能低下により惹起された上方結膜における涙液分布の不均衡に基づくものと考えられた。治療は,人工涙液およびステロイドの点眼による保存的治療を行ったが,上方結膜の充血は改善せず,自覚症状も軽快しなかった。そこで,涙液滞留の増加および涙液分布の改善を目的として両眼の涙点プラグ挿入術を施行した。涙点プラグの挿入により涙液メニスカスが増加し,両眼の上輪部の結膜ステイニングが縮小した。その後,人工涙液およびステロイドの点眼を中止し,油性眼軟膏点入のみの治療を継続することで両眼の上方結膜のステイニングは消失し(図3a,b),自覚的な異物感や眼痛も軽快した。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・20

Vogt-小柳-原田病

著者: 北市伸義 ,   三浦淑恵 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1852 - P.1859

はじめに

 Vogt-小柳-原田病(原田病)は,サルコイドーシス,Behçet病とともにわが国のぶどう膜炎の三大疾患の1つである1)

 本病はメラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられ,日本をはじめ環太平洋地域のモンゴロイドに多く,ヨーロッパではサルディニア島出身者に多発する2)。頭痛などの前駆症状や自然軽快例があり,眼外傷の有無以外は交感性眼炎と病態は同一である3)

 歴史的には,1906年にAlfred Vogt(スイス・バーゼル大学,のちにチューリッヒ大学:図1)が“Klin Mbl Augenheilk”誌に報告した,両眼の急激な漿液性網膜剝離と睫毛白変・白髪を起こした18歳の男性症例が最初と考えられている4)。この時点では虹彩毛様体炎と睫毛白変(図2)は偶然合併した可能性が高いと考えていた。

 1914年,小柳美三(東北大学)は『日本眼科学会雑誌』にぶどう膜炎を伴う毛髪脱落,難聴の症例を報告し,今日「夕焼け状眼底」と表される特徴的な眼底を「眼底ハ夕照ノ天空ヲ観ルガ如シ」と記している。その後症例を追加して,1929年にぶどう膜炎,難聴,脱毛,白毛をきたした4症例を国際誌に報告した5)。その中で,交感性眼炎との類似性や両者の病理組織が酷似していることから,ぶどう膜の色素組織を好む病原体による疾患ではないかと考察している。また,小柳がVogtの論文を再評価したことから,のちに本疾患はVogt-小柳症候群と呼ばれるようになった。

 一方,これとは別に原田永之助(東京大学,のちに長崎で開業)は1922年,東京眼科集談会で両眼の網膜剝離を伴う急性脈絡膜炎の1例を報告した。原著は1926年,『日本眼科会雑誌』30巻4号に症例を追加して報告されている6)。その後も同様の症例報告が相次ぎ,これらは原田病と呼ばれた。

 こうして一時Vogt-小柳病(症候群)と原田病が並立することになったが,症例報告が蓄積されるにしたがって両疾患の境界は不鮮明になり,今日では両者は本質的に同一疾患と考えられるに至り,「Vogt-小柳-原田病(または症候群)」の呼称で統一されている7)

網膜硝子体手術手技・23

眼内炎

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1860 - P.1865

はじめに

 眼内炎は眼疾患の中で最も緊急性を要する疾患の1つである。術後に生じる眼内炎の場合,医療訴訟の問題とも絡むため慎重に,かつ迅速・的確に対処すべき疾患である。いざという時がいつ訪れるかわからないだけに,常日頃から眼内炎に遭遇した場合の対処法について理解を深めておく必要がある。

もっと医療コミュニケーション・11

支配欲求と服従欲求が目に出るしくみ―医師にとっての理想的な見つめ方

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.1884 - P.1887

 患者が名前を呼ばれて診察室に入った瞬間に,それまでカルテに目を落としていた医師が,もしも斜め下からあおぐようにして患者の顔を「ジロリ」と見たら,患者の心に思わず「こわいな」という威圧感が伝わってしまうことがあります。

 そもそも「にらむ」という言葉自体に,ただ単に着眼するだけでなく相手を威圧するという意味があるように,「ジロリ」とにらまれると「こわい先生」だと感じ,その後の説明が素直に耳に入ってこなくなり,萎縮した患者は自分の病状について的確に説明できなくなることもあります。

臨床報告

最近9年間の未熟児網膜症

著者: 菅達人 ,   柳川俊博 ,   清水敏成 ,   梅津秀夫

ページ範囲:P.1895 - P.1899

要約 目的:未熟児網膜症の発症と治療予後に影響する因子の報告。症例と方法:2006年までの約9年間に診療した未熟児952例を対象とした。体重が2,500g未満で在胎期間が35週未満の新生児を未熟児と定義した。結果:未熟児網膜症は952例中209例(22.0%)に,出生体重が1,000g未満の119例中106例(89.1%)に,1,500g未満の357例中192例(53.8%)に発症した。発症因子は出生時体重(p<0.001)と在胎週数(p<0.001)であった。治療因子は在胎週数(p=0.002),出生時体重(p=0.003),輸血回数(p=0.0436)であった。結論:未熟児網膜症には在胎週数と出生時体重が発症に関与し,これに加え輸血回数が治療予後に影響する。

健常な若年男性に生じた原因不明の黄斑部網膜下滲出性病変

著者: 鈴木香 ,   鈴木幸彦 ,   目時友美 ,   山崎仁志 ,   中村秀世 ,   中澤満

ページ範囲:P.1901 - P.1905

要約 目的:原因不明の黄斑下滲出が生じた症例の報告。症例:33歳男性が7日前からの右眼の深部痛と霧視で受診した。生来健康であり,格別の疾患歴はなく,職業は海上自衛隊員であった。6週間前にウシの肝臓を生食していた。所見と経過:矯正視力は右30cm指数弁,左1.5であった。右眼に結膜と毛様充血,前部ぶどう膜炎の所見があり,黄斑下に出血と滲出を伴う黄白色の隆起性病変があった。3日間の抗真菌薬投与で病変が悪化し,アセチルスピラマイシンとプレドニゾロンの内服に切り替えた。2日後から黄斑下滲出の吸収がはじまり,初診から2週間後に網膜下液は消失し,前眼部の炎症はなくなった。5か月後に黄斑部の病変は瘢痕化し,0.1の視力を得た。ウイルス,トキソプラズマ,サルコイドーシス感染などを示す検査はすべて陰性であった。結論:初診時からトキソプラズマ感染が疑われ,抗トキソプラズマ薬の投与後に病状が急速に軽快したが,この可能性を支持する諸検査は得られなかった。

裂孔併発型網膜剝離をきたしたCoats病の1例

著者: 佐藤孝樹 ,   石崎英介 ,   南政宏 ,   前野貴俊 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1907 - P.1910

要約 目的:裂孔併発型網膜剝離を併発し,硝子体手術を行ったCoats病症例の報告。症例:18歳男性に4年前から右眼視力低下があった。他医で治療を受け,6か月後に視力悪化で受診した。所見:矯正視力は右手動弁,左1.5で,右眼に網膜全剝離と網膜下の硬性白斑沈着があった。眼底上方に網膜円孔があり,網膜前線維増殖があった。裂孔併発型網膜剝離が併発したCoats病と診断し,硝子体手術,網膜下滲出物の除去,気体とシリコーンによる網膜伸展術を行った。術中所見として,前医による光凝固の部位に網膜前膜の牽引によると思われる網膜裂孔があった。結果は良好で,3年後の現在,0.1の右眼視力を維持している。結論:Coats病での網膜剝離は通常は滲出性であるが,光凝固による網膜前増殖膜の牽引で網膜裂孔が併発することがあり,注意が必要である。

加齢および眼手術に伴う結膜を主とした眼表面の知覚変化

著者: 千葉桂三 ,   寺田理 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1911 - P.1914

要約 目的:加齢または手術による角結膜の知覚変化の報告。対象と方法:65例65眼を対象とした。年齢は26~86歳(平均60歳)で,40歳以下の18眼,60歳以上の25眼,60歳以上で白内障手術の既往がある22眼の3群に分けた。Cochet-Bonnetの角膜知覚計で,角膜の中央部,輪部から5mm上方,下方,鼻側,耳側の計5か所の知覚を測定した。結果:全症例を通じ,角膜の知覚は結膜よりも鋭敏であった(p<0.05)。結膜の上方と下方の知覚は,若年群よりも高齢群が鋭敏であった(p<0.05)。手術群は結膜の全部位の知覚が高齢群よりも鋭敏であった(p<0.05)。結論:球結膜の知覚は,加齢または過去の白内障手術により鋭敏化する。これが高齢者や手術後の不定愁訴に関係している可能性がある。

黄斑上膜に対する内境界膜剝離の有無による長期成績の差異

著者: 大野尚登 ,   森山涼 ,   柳川隆志 ,   若倉雅登 ,   井上治郎

ページ範囲:P.1915 - P.1918

要約 目的:黄斑上膜への硝子体手術の成績に内境界膜剝離が及ぼす影響の報告。対象と方法:硝子体手術を行い,2年以上の経過を追えた特発性黄斑上膜49例50眼を対象とした。男性15眼,女性35眼で,年齢は53~79歳(平均65歳)であった。全例に水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入,黄斑上膜の剝離を行った。22眼では内境界膜を剝離し,28眼では剝離しなかった。視力はlogMARで評価し,0.2以上の変化を改善または悪化とした。結果:6か月後の視力は,改善41眼(82%),不変8眼(16%),悪化1眼(2%)であり,内境界膜剝離の有無は影響しなかった。術前と術後視力には正の相関があった(p<0.01)。中心窩厚は17眼で測定し,術後1か月には有意に減少し(p<0.01),内境界膜剝離の有無は影響しなかった。中心窩厚と術前視力には負の相関があり(p<0.05),術後視力とは相関しなかった。内境界膜剝離群で1眼(4.5%),非剝離群で9眼(32%)が再発した。結論:黄斑上膜への硝子体手術では,内境界膜の剝離は術後視力には影響せず,非剝離のときよりも再発が少ない。

べらどんな

緑内障は全身病

著者:

ページ範囲:P.1827 - P.1827

 緑内障は眼球だけの病変ではないという見方がある。Duke-Elderはこれを“a sick eye in a sick body”と表現したという。

 この問題に正面から取り組んだのが日本眼科全書(眼全)の「緑内障」の巻である。赤木五郎,河本正一,須田経宇の3先生が書かれた953ページの大冊である。大脳皮質や間脳にある眼圧中枢障害,自律神経障害などさまざまな説が紹介されている。

水銀中毒

著者:

ページ範囲:P.1865 - P.1865

 鯨と日本の医学の縁は深い。鯨学を飛躍的に発展させたのが,小川鼎三(おがわ・ていぞう)先生だからである。脳が専門の偉い解剖学者で,「赤核の研究」で学士院賞を昭和25年に受けられている。

 鯨の脳の解剖は動物学者にはまず無理である。ときには6kg以上もある鯨の脳の連続切片を作れるのは,医学部の解剖学者だけなのだ。

書評

「人は死ぬ」それでも医師にできること―へき地医療,EBM,医学教育を通して考える

著者: 奥野正孝

ページ範囲:P.1867 - P.1867

 台風を避けて朝早く島を出て,母校へき地医科大学での「離島医療」の講義に向かう新幹線の車内でノートパソコンを開いた。いつもこの時間は授業内容を推敲するためのとても大切な時間であるが,その前にこの本を一気に読み切ってしまったのがいけなかった。本のことが頭から離れない,というより何かが脳の中に染み渡ってしまって,いつものように働いてくれない。なぜだ? 15号車11番E席の窓から,かつて著者がいた作手村の山々が見えている。できすぎている。

 たかだか500人しかいない島の診療所での勤務が通算17年を越えた。これだけいれば,何だって知っているし,何にでも対処できて,迷うことなんかないようになるだろうと思っていた。でも結果は逆で,知れば知るほど知らないことは増えていくし,対処できることが増えていくのと同じようにできないことが増えていく。迷いなんて日常茶飯事,いったい自分の頭はどうなってるんだ,どこがいけないんだと自問自答の毎日が過ぎていた。

やさしい目で きびしい目で・107

研修医今昔物語

著者: 緒方奈保子

ページ範囲:P.1883 - P.1883

 研修医制度が変わり,スーパーローテーションが始まってはや5年目です。当然ながら私が研修医として過ごした時代とは,社会情勢も研修医の意識も大きく様変わりしています。研修先を決めるマッチングもありますし,受け入れ側も初期研修また後期研修を受け入れるに当たってきちんとしたカリキュラムを作成しています。いろいろな科をローテーションすることは多くの見識を深めるとともに,臨床の場で自分の適正を見極めるよい機会でしょう。ローテーションしてから専門を決めようと思っている研修医も多いはずです。

 私が眼科に入局した時,最初はオリエンテーション,教授回診,外来・病棟の見学,システムを教わったりと,たいして今と変わらない予定でしたが,最初の1週間が終わる時は疲れ果ててげっそりでした。その1週間が終わる金曜日の夜,堅い決心を心に秘め教授室へ行きました「すみません,先生」「ん?」「眼科を辞めます。来週から内科へ行きます」「ん?! どうして?!」「暗いんです」「ん?」「部屋が暗いんです」「診察室のこと?」「あんな暗い部屋で一生の大半を過ごしたくありません!」「う~~ん,それは……」。

ことば・ことば・ことば

毒と薬

ページ範囲:P.1891 - P.1891

 英語の名詞giftは「贈り物」ですが,ドイツ語のGiftだと「毒物」のことで,その形容詞がgiftigです。

 モーツァルトの「魔笛」は,王子パミーノが大蛇に追われる場面で始まります。そこに登場するのがgiftige Schlangeです。Schlangeは「蛇」ですから,「毒蛇」ということになります。ハブでもガラガラヘビでもマムシでも,毒蛇はすべて小さいのですが,「魔笛」ではニシキヘビのように大きなハリボテの蛇が使われています。

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あとがき

著者: 根木昭

ページ範囲:P.1930 - P.1930

 一挙に4人の日本人科学者がノーベル賞を受賞するという吉報が届きました。化学賞を受賞された下村 脩氏の研究は緑色蛍光蛋白質(GFP)の解明です。GFPは医学研究の分野でも今やなくてはならない道具となり,広く知られた名前ですが,下村氏がその発見者であったことを今回初めて知った人も多いのではないでしょうか。

 さて,日本人受賞者は増えましたが,その中に医学部出身者が1人もいないのは寂しいことで,医学部出身者としては肩身が狭いところもあります。医学生理学賞の受賞者はほとんど欧米,とりわけ米国に偏っています。研究環境,人材登用制度,方法論が整っていることは異論がありません。主要医学基礎論文数が世界第3位のわが国からこの分野の受賞が少ないのは残念なことで,獲得のための戦略が必要なようです。少し手前勝手になりますが,神戸大学出身の山中伸弥氏が開発したiPS細胞による研究が大いに発展し,受賞されることを期待したいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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