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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科62巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

特集 第61回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

糖尿病網膜症の片眼硝子体手術例における健康関連QOLへの僚眼視力の影響

著者: 大八木智仁 ,   上野千佳子 ,   豊田恵理子 ,   澤田憲治 ,   澤田浩作 ,   松村永和 ,   樫本大作 ,   大喜多隆秀 ,   坂東肇 ,   池田俊英 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.253 - P.257

要約 目的:糖尿病網膜症に対して片眼に行った硝子体手術が僚眼の健康関連quality of life(QOL)に及ぼす影響の報告。対象と方法:片眼の糖尿病網膜症に硝子体手術を行った症例と,僚眼の硝子体手術後6か月以上を経て第2眼に硝子体手術を行った87例を対象とした。男性50例,女性37例で,術前の僚眼視力は,0.8以上が42例,0.4~0.7が29例,0.3以下が16例であった。QOLの評価にはVFQ-25スコアによる質問表を用いた。結果:術前と術後の視力は,群別に分けた僚眼の視力と有意差がなかった。僚眼視力が不良であるほど術前のQOLが低く,手術後のQOLの改善が良好であった。結論:糖尿病網膜症に対する硝子体手術前後のQOLには,手術眼の視力とともに僚眼の視力が大きく影響する。

視覚障害者における視覚障害等級と生活の質(QOL)評価

著者: 柳澤美衣子 ,   国松志保 ,   加藤聡 ,   鷲見泉 ,   北澤万里子 ,   田村めぐみ ,   三嶋明香 ,   落合眞紀子 ,   庄司信行

ページ範囲:P.259 - P.263

要約 目的:視覚障害者の視覚障害等級と生活の質(quality of life:以下,QOL)の関連の検索。対象と方法:身体障害者手帳を所持している92例を対象とした。男性50名,女性42名で,年齢は平均63歳であった。障害の原因疾患は,緑内障38例,黄斑変性18例,網膜色素変性10例,糖尿病網膜症7例,その他19例であった。VFQ-25とSumiの問診表を使用してQOLを評価した。結果:全体として,二つの評価表で評価したQOLは,障害等級と相関した(VFQ-25:r=0.26,p=0.015,Sumi:r=-0.37,p=0.0002)。どちらの評価表も,1級を除く障害等級とQOLとの間には相関がなかった(VFQ-25:p=0.24,Sumi:p=0.1)。結論:1級を除き,視覚障害の等級はQOLの程度を反映していない。

後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼における調節前後でのvaultingの変化

著者: 筒井健太 ,   神谷和孝 ,   相澤大輔 ,   清水公也

ページ範囲:P.265 - P.268

要約 目的:後房型有水晶体眼内レンズを挿入した眼の,調節前後での眼内レンズ後面と水晶体前面の距離(vaulting)の変化の報告。対象と方法:後房型眼内レンズを挿入された5例9眼を対象とした。年齢は29~35歳(平均32歳)であり,術前の屈折は-5~-14D(平均-9.3D)であった。前眼部光干渉断層計で調節前後の前房深度とvaultingを測定した。結果:調節前と比較し,調節後の前房深度と角膜後面から眼内レンズ前面までの距離は有意に減少した。Vaultingには一定の変化がなかった。結論:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼では,調節により水晶体前面と眼内レンズは前方に偏位するが,vaultingには一定の変化はない。

加齢および顔面神経麻痺による眼瞼下垂への手術の視野面積と緯度への影響

著者: 加茂純子 ,   海野明美 ,   矢崎三千代 ,   星野清司

ページ範囲:P.269 - P.273

要約 目的:眼瞼下垂に対する眼瞼挙上術が視野の面積と主要8経線の長さに及ぼす影響の報告。対象と方法:過去1年間に手術を行い,その前後に視野を測定できた29眼を対象とした。男性12眼,女性17眼であり,年齢は56~91歳(平均73歳)であった。Goldmann視野計のV4視標を使い,術前後の視野面積と8経線の長さを,解析ソフトで測定した。結果:手術後の視野面積は,術前に比べ平均1.29倍に広くなった(p<0.05)。術後視野の経線の長さは,術前よりも鼻側1.09倍,上鼻側1.26倍,上方1.26倍,上耳側1.74倍,耳側1.31倍といずれも有意に広くなった(p<0.05)。結論:眼瞼下垂に対する眼瞼挙上術により,視野面積と水平方向を含めた上方経線に沿う視野の長さが有意に拡大または広くなった。

小眼球に合併した白内障に水晶体切除術を行った2例

著者: 島田麻恵 ,   田中住美 ,   赤星隆幸 ,   馬場隆之

ページ範囲:P.275 - P.279

要約 目的:小眼球2例3眼に水晶体切除術を行った報告。症例:1例は43歳男性で,小眼球と閉塞隅角緑内障が両眼にあった。他医でレーザー虹彩切開術とレーザー隅角形成術などが行われていた。矯正視力は右1.0,左1.2で,眼軸長は左右ともほぼ17mmであり,前房が浅く,虹彩周辺部が角膜後面に接触していた。経毛様体扁平部水晶体切除を行った。両眼とも眼圧12mmHg,矯正視力1.2の結果を得た。他の1例は70歳女性で,左眼の白内障で受診した。10年前から閉塞隅角緑内障があった。視力は右零,左手動弁であり,右眼は眼球癆になっていた。左眼の眼軸長17.9mm,角膜径11mmで,前房が浅く,水晶体の膨化と核硬化があった。渦静脈減圧と強膜開窓術ののち超音波乳化吸引術を行った。眼圧は安定し,1.0の最終視力を得た。両症例とも重篤な合併症はなかった。結論:小眼球に併発した緑内障または白内障に対しては,適当な方法で水晶体を除去することで良好な結果が得られることがある。

ヒト免疫不全ウイルス感染者における眼病変

著者: 武田憲夫 ,   八代成子 ,   植村明弘

ページ範囲:P.281 - P.284

要約 目的:ヒト免疫不全ウイルス感染者の眼症状の検討。対象と方法:2005年までの41か月間に眼科を受診した500例を診療録により調査した。結果:年齢は10~82歳(平均37.4歳)であり,男性が91%,女性が9%であった。初診時のCD4陽性リンパ球数は200/μl未満が48.3%であった。眼病変は146例(29.2%),237眼(部位)(23.7%)にあり,retinal microvasculopathyが最も多く,サイトメガロウイルス網膜炎,免疫再構築症候群がこれに続いた。結論:ヒト免疫不全ウイルス感染に対して多剤併用療法が主流になっている現在でも,眼病変の発症があり注意が必要である。

腫瘍全摘出のみで長期経過良好な涙腺腺様囊胞癌の2例

著者: 金子明博

ページ範囲:P.285 - P.290

要約 背景:涙腺の腺様囊胞癌は,眼窩内容除去術と放射線照射を行っても再発や転移などで予後不良なことが多い。目的:涙腺の腺様囊胞癌に単純腫瘍摘出を行い,良好な長期経過をとった2症例の報告。症例:2症例とも女性で,それぞれ6歳と80歳であった。第1例は右上眼瞼腫脹を主訴とし,その1年後に涙腺の腺様囊胞癌が疑われ,側方眼窩切開で全摘出が行われ,病理学的に診断が確定した。若年者なので放射線照射などの追加治療をせず,術後13年後の現在まで経過は良好である。第2例は右上眼瞼下に腫瘤があり,良性の涙腺腫瘍が疑われた。経過観察中に腫瘤が増大し,4年後に前方眼窩切開で腫瘤を全摘出した。病理学的に涙腺の腺様囊胞癌と診断された。高齢者なので追加治療をしなかった。手術から7年後の現在まで経過は良好で転移はない。結論:今回の2症例は腫瘍の単純切除で良好な長期経過をとった。腫瘍が完全に切除され,腺様囊胞癌が2例とも篩板様構造であったこと,眼窩痛がなく神経周囲浸潤がなかったこと,1例は若年であったことが,長期経過が良好であった理由と考えられる。本疾患で予後決定遺伝子が関与している可能性がある。

眼症状を契機に明らかとなった胸腺原発の転移性脈絡膜腫瘍の1例

著者: 木内克治 ,   山田眞未 ,   植村芳子 ,   正健一郎 ,   大津弥生 ,   三木克朗 ,   西村哲哉 ,   松村美代

ページ範囲:P.291 - P.295

要約 目的:転移性脈絡膜腫瘍を契機として発見された胸腺癌の症例の報告。症例:62歳男性が4日前に突発した左眼の変視症で受診した。矯正視力は右1.0,左1.2であり,左眼黄斑の上耳側に2乳頭径大の漿液性網膜剝離があった。蛍光眼底造影ではこの部位に顆粒状過蛍光があった。17日後にこの部位に黄白色の隆起性病変が生じた。32日後には6乳頭径の大きさになり,視力は0.06になった。全身検索で胸腺癌が発見され,眼病変はこれからの転移性脈絡膜腫瘍と診断された。結論:全身的に悪性腫瘍の既往がなくても,転移性脈絡膜腫瘍が起こることがある。

美容外科埋没法重瞼術後の眼合併症とその治療

著者: 兼森良和

ページ範囲:P.297 - P.301

要約 目的:美容の目的で重瞼手術を受けた後に眼合併症が発症し,治療を必要とした3症例の報告。症例:3症例はいずれも女性で,それぞれ37,56,64歳であった。眼合併症が生じたのは,重瞼手術からそれぞれ10年,20年,2週後であった。第1例は瞼結膜の瘢痕のために眼痛と球結膜出血が生じ,副腎皮質ステロイドの点眼で軽快した。第2例は瞼板への縫合糸が露出し,経結膜的な縫合糸の摘出で治癒した。第3例は瞼結膜の炎症反応として眼痛が生じ,経皮膚的に縫合糸を除去することで治癒が得られた。結論:美容整形として縫合糸を埋没する重瞼手術を受けた後に生じた合併症で,縫合糸の露出や瞼結膜の炎症が強いときには,積極的に縫合糸を除去すべきである。

後天性眼瞼下垂として受診した高齢者における術式と術後経過の検討

著者: 五嶋摩理 ,   兼子美帆 ,   武田桜子 ,   川本潔 ,   松原正男

ページ範囲:P.303 - P.305

要約 目的:高齢者の眼瞼下垂に対する術式と術後経過の報告。対象と方法:過去4年間に後天性眼瞼下垂として手術し,術後1年以上の経過を追跡できた65歳以上の症例を診療録により検索した。118例178側で,男性28例,女性90例であり,年齢は65~88歳(平均74歳)であった。顔面神経麻痺の既往が7例7側,コンタクトレンズの長期使用が1例2側にあった。全例で余剰な皮膚と眼瞼組織切除による眼瞼形成術を行い,53側で眼瞼挙筋腱膜とミュラー筋を瞼板に縫着する腱膜修復術を行った。結果:全例で眼瞼下垂が改善し,1年以内に再手術を必要とする症例はなかった。術後3年以上の観察ができた35側では6例で再手術を行ったが,再手術率に術式による差はなかった。結論:高齢者の眼瞼下垂に対しては,余剰な眼瞼組織を切除する術式が有効であり,眼瞼の重量軽減が1つの理由として考えられる。

天草上島地域における白内障手術患者の翼状片

著者: 竹下哲二 ,   吉岡久史 ,   有村和枝

ページ範囲:P.307 - P.310

要約 目的:熊本県天草上島の居住者で白内障手術を受けた患者での翼状片の頻度。対象:2006年に上天草総合病院で白内障手術を受けた患者193名を対象とした。男性77名,女性116名で,年齢は50~95歳(平均77歳)であった。同じ時期に熊本市民病院で白内障手術を受けた患者155名を対象とした。結果:天草の患者群では男性17名18眼と女性25名33眼,合計42名(21.8%)に翼状片またはその手術跡があった。熊本の患者群では男性2名と女性1名の3名(1.9%)に片眼性の翼状片があり,天草の患者群に対し有意に少なかった(p<0.001)。結論:天草上町の居住者で白内障手術を受けた患者での翼状片の頻度は,九州本土にある熊本の患者群よりも有意に多かった。

0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性の評価

著者: 角環 ,   福島敦樹 ,   澤田桂 ,   吉田理 ,   吉田博則 ,   三好輝行 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.313 - P.317

要約 目的:季節性アレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の効果の評価。対象と方法:スギ花粉による季節性アレルギー性結膜炎の既往があり,前年度に抗アレルギー点眼薬のみで治療を受けた17例34眼を対象とした。男性3例と女性14例で,年齢は23~79歳(平均46歳)であり,5例がコンタクトレンズを装用していた。スギ花粉が飛散しはじめて眼搔痒感が出現してから塩酸オロパタジン点眼液を1日4回点眼させた。治療効果はビジュアルアナログスケール(VAS)で自覚症状について前年度と比較させ,球結膜と瞼結膜の充血,球結膜浮腫を他覚的に評価した。結果:点眼開始時の眼搔痒感スコア6.59は,点眼開始後2週間で3.91に有意に低下した。搔痒感に対する抑制効果の平均スコアは前年度治療薬が4.63であるのに対し,7.38に有意に上昇した。結論:塩酸オロパタジン点眼液は季節性アレルギー性結膜炎に対して有効であり,患者の使用感と満足度が高かった。

重症型春季カタルに対しタクロリムス軟膏を併用した1例

著者: 小沢昌彦 ,   野田美登利 ,   内尾英一

ページ範囲:P.319 - P.322

要約 目的:治療に抵抗する重症型春季カタルに対し,タクロリムス軟膏を使用した1症例の報告。症例:気管支喘息とアレルギー性鼻炎がある13歳男児の両眼に視力低下と眼痛が生じた。瞼結膜の巨大乳頭と角膜びらんが両眼にあり,春季カタルと診断された。他医で抗アレルギー薬,ステロイド薬,免疫抑制薬などの点眼を受けたが,病状が悪化し,診断から10か月後に当科を受診した。矯正視力は左右眼とも0.5であった。ベタメタゾンの点眼,トリアムシノロンの眼瞼皮下注射,乳頭切除などを行ったが,角膜障害と瞼結膜の巨大乳頭が増悪した。受診から2か月後に免疫抑制薬である0.1%タクロリムス軟膏1日2回点入を開始した。その1か月後に瞼結膜の巨大乳頭が消失し,角膜障害が改善し,視力は左右眼とも1.5になった。タクロリムス軟膏は3か月で中止したが,6か月後の現在まで再発はない。軟膏の使用を開始してしばらくの期間は,点入時に灼熱感があったが,これ以外の副作用は皆無であった。結論:治療に抵抗する重症型春季カタルに対し,タクロリムス軟膏が有効であった。

正常眼圧緑内障患者におけるニプラジロール点眼3年間投与の効果

著者: 井上賢治 ,   若倉雅登 ,   井上治郎 ,   富田剛司

ページ範囲:P.323 - P.327

要約 目的:正常眼圧緑内障に対しニプラジロールを3年間点眼した結果の報告。対象と方法:新規に0.25%ニプラジロール点眼薬を単剤として処方し,3年間の経過を追えた正常眼圧緑内障31例31眼を対象とした。男性14例,女性17例であり,年齢は29~76歳(平均52歳)であった。1か月毎に眼圧を測定し,1年毎に視野と視神経乳頭を記録し解析した。結果:眼圧は点眼開始前が16.9±1.7mmHg,点眼3年後が14.0±1.9mmHgであり,有意に下降した(p<0.0001)。ハンフリー視野計でのmean deviation値とpattern standard deviation値,ハイデルベルグ網膜断層計(HRTⅡ)のすべてのパラメータ値には,点眼前と点眼1,2,3年後で有意差がなかった。結論:正常眼圧緑内障眼にニプラジロール点眼薬を3年間投与すると,眼圧は有意に下降し,視野と乳頭形状は変化しなかった。

ラタノプロスト点眼投与中の正常眼圧緑内障に追加したニプラジロール点眼の眼圧と視野への効果

著者: 安藤彰 ,   尾辻剛 ,   福井智恵子 ,   桑原敦子 ,   嶋千絵子 ,   松山加耶子 ,   松原敬忠 ,   城信雄 ,   南部裕之 ,   松村美代

ページ範囲:P.329 - P.333

要約 目的:ラタノプロストを点眼中の正常眼圧緑内障に追加したニプラジロール点眼の眼圧と視野への影響の報告。対象と方法:ラタノプロスト点眼を1年以上継続している正常眼圧緑内障30例52眼を対象とした。年齢は37~88歳(平均64歳)であった。無治療時の眼圧16mmHg以上の高値群が35眼,以下の低値群が17眼であり,高値群では18眼,低値群では8眼にニプラジロールの追加点眼を行い,高値群の17眼と低値群での9眼ではラタノプロスト点眼を続け対照とした。全例を36か月後まで眼圧とハンフリー静的視野について検索した。結果:ニプラジロールの追加点眼により,眼圧は高値群でのみ有意に低下した。36か月後に,視野のMD値の変化は,高値群の対照眼では-2.00dB,ニプラジロールの追加点眼群で-0.49dBであった。結論:ラタノプロストを点眼中の正常眼圧緑内障では,治療前の眼圧が16mmHg以上の場合には,ニプラジロールの追加点眼で眼圧がさらに下降し,視野が維持される可能性がある。

網膜血管腫状増殖に対するbevacizumab併用光線力学的療法の治療効果

著者: 松本英孝 ,   佐藤拓 ,   堀内康史 ,   渡辺五郎 ,   森本雅裕 ,   向井亮 ,   小川淳司 ,   岸章治

ページ範囲:P.335 - P.345

要約 目的:網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation)に対する光線力学的治療とbevacizumab硝子体内投与の併用療法の効果の報告。症例と経過:男2例と女1例の3例3眼を対象とした。年齢はそれぞれ68,69,90歳であり,罹患眼の矯正視力は0.3,0.3,0.7であった。病期はYannuzziらの分類で,2眼が網膜色素上皮剝離を伴う第2期,1眼が第3期であった。結果:全例で滲出性変化が改善し,視力はそれぞれ0.9,1.0,0.8になった。第2期の2眼では,治療から3か月と7か月後に再発した。結論:網膜血管腫状増殖に対し,光線力学的療法とbevacizumab硝子体内投与の併用療法で,視力と滲出性病変を改善することができたが,再発への対策が必要である。

硝子体手術による乳頭周囲網膜神経線維層厚の変化

著者: 築城英子 ,   草野真央 ,   岸川泰宏 ,   北岡隆

ページ範囲:P.347 - P.350

要約 目的:黄斑円孔と網膜上膜に対する硝子体手術後の網膜神経線維層厚の変化の報告。対象と方法:過去2年間に手術を行った網膜上膜19眼と黄斑円孔21眼を対象とした。男性15眼,女性25眼で,年齢は46~78歳(平均66歳)であった。光干渉断層計で網膜神経線維層厚を測定した。結果:網膜神経線維層厚は術前103.5±19.2μm,術直後114.2±22.7μmであり,対応のあるt検定で有意に厚くなった(p=0.0003)。術後6か月未満,12か月未満,12か月以上では術前と変わらず,術後6か月以降では術直後よりも有意に薄くなった。結論:黄斑円孔と網膜上膜に対する硝子体手術では,網膜神経線維層厚が術直後に増大し,徐々に薄くなり術前値と同じになる。

白内障単独手術,白内障硝子体同時手術における術前後の前房深度の変化

著者: 草野真央 ,   上松聖典 ,   築城英子 ,   隈上武志 ,   北岡隆

ページ範囲:P.351 - P.355

要約 目的:白内障手術を単独または硝子体手術と同時に行ったときの前房深度の変化の報告。症例と方法:本研究は過去1年間に手術を行った79例83眼を対象とした。男性54眼,女性29眼で,年齢は39~83歳(平均66歳)であった。白内障手術はすべて水晶体乳化吸引術に眼内レンズ挿入術を併用して行った。白内障単独手術は20眼に行い,同時に20ゲージでの硝子体手術を40眼,23または25ゲージでの硝子体手術を23眼に行った。前房深度はPentacam(R)で測定した。結果:術後の前房深度は3群すべてで有意に増加した(各p<0.001)。術前に対する術後の前房深度比(mm)は,白内障単独手術群で1.27±0.80,20ゲージ群で1.69±0.54,23または25ゲージ群で1.47±0.52であった。前房深度増加率は,これら3群の間に有意差はなかった。結論:白内障手術を単独または硝子体手術と同時に行ったとき,術後の前房深度は有意に増加する。

硝子体出血と乳頭周囲網膜下出血を伴った網膜動脈分枝閉塞症の1例

著者: 竹澤美貴子 ,   牧野伸二 ,   金上千佳 ,   金上貞夫

ページ範囲:P.357 - P.360

要約 目的:硝子体出血と乳頭周囲の網膜下出血を伴った網膜動脈分枝閉塞症の症例の報告。症例:78歳男性が2日前に突発した左眼下鼻側の視野欠損で受診した。左眼矯正視力は0.6で,軽度の硝子体出血と上耳側の網膜動脈の閉塞があった。乳頭は浮腫状で,その周囲に網膜前出血があった。2週後に乳頭上方に花冠状の網膜下出血が生じ,視力は0.3になった。蛍光眼底造影で上耳側動脈枝の充盈遅延と乳頭周囲毛細血管の拡張があった。4か月後に乳頭浮腫は軽快し,出血は消失し,0.9の最終視力を得た。結論:本症例での乳頭周囲の出血は,網膜中心静脈閉塞症に伴う前部虚血性視神経症による乳頭浮腫により,乳頭周囲毛細血管が破綻して生じた可能性がある。

増殖硝子体網膜症(新分類Grade C, Type 2,3,4,5)の術後視機能

著者: 田中住美 ,   島田麻恵 ,   馬場隆之

ページ範囲:P.361 - P.365

要約 目的:硝子体手術を行った重症増殖硝子体網膜症での術後視機能の報告。対象と方法:過去1年9か月間に硝子体手術を行ったGrade Cで2,3,4,5型の増殖硝子体網膜症5例5眼を対象とした。年齢は28~60歳(平均39歳)で,原因疾患は遺伝性硝子体網膜症2眼,外傷性硝子体基底部裂孔2眼,特発巨大網膜裂孔1眼であった。いずれも陳旧性で,視力は手動弁~0.04であった。網膜前の増殖組織を処理し,全周網膜切開を行い,網膜下増殖組織を除去し,シリコーンオイルを充填し,レーザー光凝固と輪状締結を実施した。結果:全例でシリコーンオイルを抜去し,術後3.5~18か月の時点で,網膜復位が全例で得られた。矯正視力は0.03~0.3,眼圧は10~18mmHgで,Goldmann視野計のV-4視標で固視点周囲の10~50度の視野が残存していた。結論:長期間放置された重症硝子体網膜症5眼で,硝子体手術により網膜が復位し,ある程度の視機能が保存できた。

網膜有髄神経線維に伴った網膜剝離の1例

著者: 牧野伸二 ,   加藤健 ,   茨木信博

ページ範囲:P.367 - P.371

要約 目的:網膜有髄神経線維に併発した網膜剝離の症例の報告。症例:37歳男性が右眼の飛蚊症で受診した。矯正視力は右0.07,左1.2であり,右眼に-8D,左眼に-12Dの近視があった。右眼には硝子体混濁と後部硝子体剝離があり,眼底には上方の血管アーケードに沿う網膜有髄神経線維の上方に3乳頭径(DD)大の網膜欠損と思われる部位と,その周辺側に2DD大の限局性網膜剝離があった。後部硝子体剝離が完成していると判断し,網膜剝離を囲むようにレーザー光凝固を行った。10日後,網膜剝離が周辺側に進展し胞状網膜剝離になったため硝子体手術を行った。術中所見として網膜欠損と思われる部位の周辺側に網膜硝子体癒着があった。網膜は復位し0.6の最終視力が得られた。結論:本症例での網膜剝離は,以前から網膜欠損と思われる部位があり,網膜硝子体癒着による牽引が有髄神経線維のある部位に加わって発症した可能性がある。

専門別研究会

レーザー眼科学

著者: 岸章治

ページ範囲:P.372 - P.374

【一般演題】

1.加齢黄斑変性における光凝固後再発例に対する光線力学的療法 荻野哲男・他(市立札幌病院)

 荻野らは,加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration:以下,AMD)における光凝固後再発例に対する光線力学的療法(photodynamic therapy:以下,PDT)の効果を示した。狭義AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:以下,PCV),網膜内血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation:以下,RAP)に対する光凝固後再発例はPDT施行例全体の1割を占めており,PCVで多くみられ,その治療経過は良好であったと報告した。

オキュラーサーフェス―眼科アレルギー研究会

著者: 庄司純

ページ範囲:P.376 - P.378

 第16回日本眼科アレルギー研究会は2007年10月11日,京都国際会議場ルームEにおいて開催された。

 今回のシンポジウムは,「春季カタル診療の現況と進歩」をテーマとして,内尾英一先生(福岡大学)座長のもとに行われた。

画像診断

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.380 - P.382

 本年度も専門別研究会「画像診断」は,大きく広い会場(ルームD)がいっぱいの参加者で埋め尽くされ,後方は立ち見の状態であった。一般講演は8題で,超音波を用いて眼窩後部を見事に描出した画像の呈示や,眼窩内血流を工夫して測定し,その臨床的意義について考察した結果などが報告された。またCTやMRI画像による興味深い神経眼科疾患の解説が行われ,示唆に富む優れた報告であった。指名講演は超音波に関する国際学会,国内学会の詳細が報告された。本研究会は,海外での超音波関連の国際学会とリンクする唯一の組織であり,多くの理事が活躍されている。教育講演は眼科の超音波検査,CTとMRI検査の基礎について講演が行われた。例年のように各講演の座長を務められた先生方に印象記を執筆していただいた。

 なお,本研究会は今までグループディスカッション「超音波」から専門別研究会「画像診断」に引き継がれ,多くの参加者に支持されて眼科画像部門の研究発表や討論の場として貢献してきた。残念ながら,本年の開催が最後となり本研究会を閉じることとなった。長年にわたりご協力いただいた関係各位に心から感謝申し上げる。

連載 今月の話題

新しい網膜機能のイメージング法―網膜内因性信号計測法―

著者: 風戸陽子 ,   谷藤学 ,   角田和繁

ページ範囲:P.227 - P.235

 光干渉断層計など眼科における画像診断技術は,近年めざましい進歩を遂げてきた。しかし,それらは解剖学的構造の把握を目的としており,視細胞をはじめとする網膜の神経活動を捉えることはできない。筆者らが開発した,新しい網膜機能のイメージング法である網膜内因性信号計測法について概説する。

日常みる角膜疾患・60

角膜蜂刺症

著者: 川本晃司 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.236 - P.239

症例

 患者:69歳,女性

 主訴:左眼眼痛,視力低下

 現病歴:2003年11月12日,ゴルフ場の清掃作業中,蜂に左眼を刺されて受傷した。近医でアナフィラキシーショックに対する治療を受けた後,自宅近くの眼科を受診した。眼科受診時に当科外来の受診を勧められたが,患者の希望によりそのまま近医の眼科でステロイド点眼薬および内服薬で経過を観察されていた。その後,左眼の水晶体混濁と膨化,眼圧上昇,硝子体混濁がみられるようになったために,同年12月4日に当科外来を紹介され受診となった。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・12

眼トキソカラ症

著者: 岩田大樹 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.240 - P.244

はじめに

 特定の動物に寄生する寄生虫の卵や幼虫が人体に迷入した場合,ヒトが終宿主ではないため成虫にはなり得ず,幼虫のまま体内を移行し組織障害を起こすことがある。これを幼虫移行症(larva migrans)と呼ぶ。トキソカラ症は主にイヌ回虫Toxocara canis(図1),稀にはネコ回虫Toxocara catiの幼虫移行症で,幼虫移行症のなかでは最も頻度が高い。

 1950年にWilder1)が摘出眼内に寄生虫を確認したことで初めて報告され,1956年にはNicoles2)がイヌ回虫の幼虫であることを報告した。国内では1966年に吉岡3)が,網膜膠腫の診断で摘出した小児の眼球からイヌ回虫の幼虫を同定した報告が最初である。近年のペットブーム,食生活の多様化に伴う感染機会の増加,また免疫学的検査の進歩により確定診断できる症例が増加している。本疾患は硝子体混濁や牽引性網膜剝離などにより予後不良な視力障害を生じることもあるため,注意すべき疾患の1つである。

網膜硝子体手術手技・15

増殖糖尿病網膜症(6)シリコーンオイル注入,下方周辺部虹彩切除

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.246 - P.251

はじめに

 増殖糖尿病網膜症において,硝子体の切除,増殖膜処理のすべてを終えたら,次は最後の仕上げである。本稿では,牽引性網膜剝離の症例での網膜下液の排液と,シリコーンオイルの注入法,人工的無水晶体のシリコーン眼で術後に起こり得る瞳孔ブロックの予防法について解説する。

もっと医療コミュニケーション・3

頑張れといって欲しくないときもある

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.386 - P.388

情意教育

 患者が病気を受け入れる状態はいろいろです。眼科でも糖尿病網膜症や網膜色素変性症などで失明が避けられない方がいますが,気遣いと同様に言葉遣いにも神経を使います。

臨床報告

ステロイド大量療法とワーファリン(R)による厳密な抗凝固療法を行った網膜血管閉塞を伴う全身性エリテマトーデス網膜症の2例

著者: 大島由莉 ,   蕪城俊克 ,   藤村茂人 ,   川畑仁人 ,   吉田淳 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.399 - P.405

要約 目的:全身性エリテマトーデス(SLE)網膜症に対してステロイド大量投与と抗凝固療法を行った2症例の報告。症例:29歳女性が1週前からの左眼霧視で受診した。1か月前にSLEと診断されていた。矯正視力は右1.5,左0.4で,両眼とも眼底に軟性白斑が多発し,上方に静脈周囲炎があった。ステロイドの大量療法とワーファリン(R)投与で眼底所見は鎮静化し,3年後の現在,右1.5,左1.2の視力を得ている。他の1例は40歳男性で,6か月前にSLEと診断され,その頃から両眼の霧視があった。矯正視力は右0.1,左0.6で,両眼に網膜血管の白線化があった。プレドニゾロンとワーファリン(R)の経口投与3年後の現在まで眼底所見は安定している。結論:活動性のSLE網膜症にはステロイドの全身投与とプロトロンビン時間を視標とした抗凝固療法が奏効することがある。

カラー臨床報告

抗癌剤TS-1(R)内服による角膜障害の1例

著者: 坂本英久 ,   坂本真季 ,   濱田哲夫 ,   久保田敏昭 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.393 - P.398

要約 目的:抗癌剤TS-1(R)を服用中に発症した角膜障害の症例の報告。症例:76歳男性が結腸癌の手術後にTS-1(R)の服用を開始した。TS-1(R)にはテガフール,ギメラシル,オテラシルカリウムを含む代謝拮抗薬で抗腫瘍効果があるとされている。1日量100mgを2週経口投与し,2週休薬したのち再び投与する方法をとった。内服開始から11か月後に視力低下を自覚し,その1か月後に受診した。所見:矯正視力は右1.0,左0.8で,右眼には異常がなく,左眼に涙液分泌低下と角膜上皮の凹凸があった。TS-1(R)の服用を中止し,7か月後に軽快した。左眼角膜の病変に接する輪部には,生検で結膜上皮の角化像があった。結論:本症例はTS-1(R)に特徴的な角膜障害であると解釈され,これに含まれる薬剤と5-フルオロウラシルが関与している可能性がある。

べらどんな

餅は餅屋

著者:

ページ範囲:P.244 - P.244

 「カメラはデジカメ」という時代になった。海外でも,ほとんどの人が日本製のデジカメを持っている。この現象はほぼ3年前からではないかと思う。

 デジカメにもいくつものメーカーがある。広告では画素数が多いことがよく強調され,最近では一千万画素というのまで登場した。いまやデジカメの画質はフィルム式のカメラを追い越してしまったようだ。

くすりの名前

著者:

ページ範囲:P.279 - P.279

 薬品には商品名と化学名とがある。よく話題になるジェネリック薬は後者のことである。副腎皮質ステロイド薬を例にとると,プレドニゾロンが化学名で,プレドニン(R)は塩野義製薬が出している薬の商品名だ。

 数年前から円板状黄斑変性の原因になる黄斑下新生血管に有効な薬が次々と登場した。まことに結構なことであり,虹彩ルベオーシスでも奏効するらしい。ところがその商品名は,Macugen(R)とかLucentis(R)などと黄斑や光,すなわち視力に関係することを暗示してわかりやすい一方,化学名となると複雑怪奇であり,舌を噛みそうになる。上の場合だと,それぞれpegaptanibとranibizumabになる。

今月の表紙

急性網膜壊死

著者: 永野幸一 ,   大野重昭

ページ範囲:P.245 - P.245

 患者は31歳,男性。右眼の充血と視力低下を主訴に当院を受診した。視力は右0.01(0.3×-13.50D()cyl-3.00D 10°),左0.03(1.2×-13.75D()cyl-1.00D 125°)であった。右眼の豚脂様角膜後面沈着物,前房炎症,強い硝子体混濁,動脈を中心とした血管炎,採血上は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)IgM陽性であり,急性網膜壊死の疑いで入院した。

 翌日からアシクロビル,リン酸ベタメタゾンナトリウムの点滴,アスピリン内服を開始した。その後,前房水,硝子体液よりVZVが検出され急性網膜壊死と診断した。入院8日目に周辺網膜剝離が出現し,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)+経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)+レーザー光凝固+シリコーンオイル置換+輪状締結術を施行した。

書評

コミュニケーションスキル・トレーニング 患者満足度の向上と効果的な診療のために

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.371 - P.371

 このたび松村,箕輪両氏の編集による『コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度の向上と効果的な診療のために』が出版された。その帯には「ベテラン医師を対象とした云々」とある。患者面接などに関する実践的な手法については,最近の医学部での教育や臨床研修医の採用において用いられていて,自らもおおよそのことを知ってはいたが,「ベテラン医師」から見ても確かに一読するとうなずくところが多々ある。

 さて,日本語はもともと敬語が発達していて,対話する相手との距離などを測りながらそれを巧みに使うことになっていて,そこにこそ言わば教養のなせるわざがある。したがって,医師はこの面でも研鑽すべきだろうと自らは漠然と考えていた。本書にはさすがにそのような言及はないが,それよりもっと基本的な面接などに関する体系的な仕組みについて解説されている。コミュニケーションスキル・トレーニングなどという教育が微塵もなかったわれわれでも,本書にある標準的な仕組みを頭に入れて医療を展開するなら,内科診断学やSings & Symptomsの基本である患者情報をまずは効果的に得ることに役立つ。引き続く治療についても患者に大いにその気になってもらううえで,この体系的な仕組みを実践する意義は大いにあると言うべきであろう。

今日の眼疾患治療指針 第2版

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.382 - P.382

 『今日の治療指針』は,およそ医師であれば利用したことのない人はいないと思われるくらい医界に膾炙していると言ってよい。私自身,いまなお古い治療指針を紐解いて時々活用している次第である。ただ,『今日の治療指針』は他科医のための治療指針である。眼科医には,たとえば内科疾患の章については参考になる反面,眼科疾患の章は内科医には便利かもしれないが,われわれには役立たない。

 眼科医のためには,眼疾患について掘り下げた知識が必要になる。そういった意味で刊行されたのが『今日の眼疾患治療指針』の初版の主旨であったようだ。初版発行後7年を経過し,その間従来の知識で十分間に合う分野もあれば,進歩が著しい領域もある。現時点での最新の各疾患への対応の指針が示されたのが本書で,日本の眼科をリードする田野保雄教授と樋田哲夫教授の総編集の下に企画されただけあって,項目の選定にもそつがない。項目は870項目にも及び,まず診断をしてその疾患までたどり着くのが大変という場合もある。

やさしい目で きびしい目で・99

選んだ道を後悔しない

著者: 小泉範子

ページ範囲:P.385 - P.385

 育児と仕事の両立は女性医師の深刻な問題である。私の場合はありがたいことに“そのときにできること”を選択しながら,これまで自分のやりたい仕事を継続することができた。今年で卒後15年目になるが,今春からは同志社大学に新設される生命医科学部(医工学科)の准教授として学生教育,研究に携わることになった。「どうして同志社の先生になったの?」という質問には「教育に興味があったから」と模範的に答えることにしているが,正直なところ本当ではないことをここで白状する。

 私は京都府立医科大学の木下茂教授のもとで眼科臨床を学び,長男出産の直後に角膜再生医療の研究と出会った。細胞培養も動物実験も初めてで,数年間にわたる試行錯誤の末,なんとか学位論文を完成することができた。その後,この成果はスチーブンス・ジョンソン症候群をはじめとする重症眼表面疾患の治療法として臨床応用できるようになったのであるが,そのときの感動は忘れがたいものであり,眼科医としての私の進路に大きな影響を与え,現在も再生医療の研究を続ける原動力になっている。

ことば・ことば・ことば

同義語

ページ範囲:P.389 - P.389

 違った単語でありながら,意味は同じという例がよくあります。ハリー・ポッターの英語版で,魔法使いはwizardなのに,米語版ではsorcererとなっているのもそれです。どちらも16世紀からある単語で,前者はwiseと関係があり,「賢い人」が本来の意味でした。後者はフランス語からの輸入語で,語源は不明です。

 「眼科医」のことをoculistといったり,ophthalmologistといったりするのも同類です。ただし,oculistが最初に使われたのが1615年であるのに対し,ophthalmologistのほうは1834年,そしてophthalmologyが1842年と,どちらもずっと後にできました。

文庫の窓から

『金匱玉函経』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.406 - P.408

『傷寒論』と表裏の書

 『金匱玉函経』は『傷寒論』と表裏をなす書といわれ,『金匱要略』を加えた3書は,張仲景医書として後漢の頃から今に伝えられる貴重な書物である。宋臣・林億らの手によって治平3年(1066)に初刊本が出されており,その林億の序にはこの書が『傷寒論』と同体別名で,やはり王叔和(3世紀)の撰次したものであるが,晋の時代から800年をへだてているので誤りが多い。その文理は『傷寒論』とは不同の点もあるが,その意義はみな通じるからあえて臆断せず,旧によって8巻,29篇,115方として,『傷寒論』とともにこれを存す,としている。

 実際,林億らは『傷寒論』に引き続き翌年にこの『金匱玉函経』を世に送り出しており,その重要性を認識していたと思われる。だが,この宋改版が出た後,清朝の康煕56年(1717)上海の陳世傑が刊行するまで650年以上にわたり,この書が出された記録は見つかっていない。我が国においても延享3年(1746),清水敬長によって翻刻されただけで,流布した本は少ないと言われている。ちなみに,この清水敬長は山脇東洋の実弟で,実家を継いだ弟であり,敬長が『金匱玉函経』を翻刻した同じ年に東洋は『外台秘要方』を翻刻している。

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あとがき

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.424 - P.424

 ようやく待ち望んだ春が訪れ,日毎にポカポカと暖かくなってまいりました。生き物はどうしても寒い時期には行動が制限され,活発な動きができません。皆様方には,冬の間に蓄えられたエネルギーとアイディアをもとに,これからは日常診療に,また臨床研究に大いにご活躍くださいませ。

 ところで最近は,春になるとアレルギー性結膜疾患の話題を避けて通ることができません。私もそうですが,眼科医自身がスギ花粉性結膜炎などのアレルギー疾患に罹患し,つらい思いをしておられる先生方が少なくありません。患者の苦しさを理解できることは悪いことではありませんが,どうしても花粉が飛散する時期には体調不良で診療に力が入らない状態が続きます。花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患が,いまや日本人の国民病として定着してしまい,大変困ったことです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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