icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床眼科62巻3号

2008年03月発行

文献概要

連載 公開講座・炎症性眼疾患の診療・12

眼トキソカラ症

著者: 岩田大樹1 北市伸義1 大野重昭1

所属機関: 1北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野

ページ範囲:P.240 - P.244

文献購入ページに移動
はじめに

 特定の動物に寄生する寄生虫の卵や幼虫が人体に迷入した場合,ヒトが終宿主ではないため成虫にはなり得ず,幼虫のまま体内を移行し組織障害を起こすことがある。これを幼虫移行症(larva migrans)と呼ぶ。トキソカラ症は主にイヌ回虫Toxocara canis(図1),稀にはネコ回虫Toxocara catiの幼虫移行症で,幼虫移行症のなかでは最も頻度が高い。

 1950年にWilder1)が摘出眼内に寄生虫を確認したことで初めて報告され,1956年にはNicoles2)がイヌ回虫の幼虫であることを報告した。国内では1966年に吉岡3)が,網膜膠腫の診断で摘出した小児の眼球からイヌ回虫の幼虫を同定した報告が最初である。近年のペットブーム,食生活の多様化に伴う感染機会の増加,また免疫学的検査の進歩により確定診断できる症例が増加している。本疾患は硝子体混濁や牽引性網膜剝離などにより予後不良な視力障害を生じることもあるため,注意すべき疾患の1つである。

参考文献

1)Wilder HC:Nematoda endophthlmitis. Trans Am Acad Ophthalmol Otolaryngol 55:99-109, 1950
2)Nicoles RL:The etiology of visceral larva migrans. J Parasitol 42:349-362, 1956
3)吉岡久春:網膜膠腫と誤診した犬蛔虫症(Toxocara canis)による眼内炎.臨眼 20:605-610,1966
4)鈴木 崇・上甲武志・赤尾信明・他:眼トキソカラ症の診断におけるトキソカラチェックの有用性.あたらしい眼科 22:263-266,2005
5)Wilkinson CP, Welch RB:Intraocular toxocara. Am J Ophthalmol 71:921-930, 1971
6)Smith RE, Nozik RA:Uveitis:A Clinical Approach to Diagnosis and Management. 135-140, Williams and Wilkinsons, Baltimore, 1989
7)多田 玲:ぶどう膜炎における抗イヌ蛔虫抗体と眼犬蛔虫症の診断.眼紀 42:1035-1040,1991
8)藤井節子・多田 玲・湯浅武之助・他:ぶどう膜炎患者における抗犬蛔虫抗体の陽性率.臨眼 47:173-176,1993
9)土方 聡・藤田浩二・坂井潤一・他:眼トキソカラ症23例の検討.臨眼 49:1211-1214,1995
10)辻 守康:寄生蠕虫症の血清診断.Minophagen Med Rev 34:299-304,1989
11)Wu Z, Nagano I, Xu D et al:Primers for polymerase chain reaction to detect genomic DNA of Toxocara canis and T. cati. J Helminthol 71:77-78, 1997
12)春田恭照:トキソカラ症.水木信久(編):基礎からわかるぶどう膜炎.240-244,金原出版,東京,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?