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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科62巻6号

2008年06月発行

雑誌目次

特集 第61回日本臨床眼科学会講演集(4) 原著

涙小管炎の起炎菌に関する検討

著者: 杉田真一 ,   大江雅子 ,   木下太賀 ,   山田知之 ,   竹中久 ,   櫻井寿也 ,   張國中 ,   前野貴俊 ,   真野富也 ,   北澤俊美

ページ範囲:P.851 - P.855

要約 目的:涙小管炎の症例から分離同定した起炎菌と,その抗菌薬に対する感受性の報告。対象と方法:過去88か月間に涙小管炎と診断された23例23眼を対象とし,診療録に基づいて検索した。男性5例,女性18例であり,年齢は平均72歳であった。結果:好気性菌16種,嫌気性菌10種が培養同定され,うち嫌気性菌は15眼(65%)から検出された。Peptostreptococcus microsが最も多く,6眼で検出された。アクチノミセスなどの放線菌は6眼で検出された。薬剤に対する感受性検査では,全39菌株中25株(64%)がペニシリン系の抗菌薬に最も高い感受性を示した。結論:涙小管炎では嫌気性菌の関与が大きいことが推定されるが,細菌培養のみで起炎菌を特定することは困難である。

眼瞼けいれん患者における2006年ドライアイ診断基準の適用

著者: 若倉雅登 ,   井上治郎

ページ範囲:P.857 - P.860

要約 目的:眼瞼けいれん患者の所見が日本の2006年版ドライアイ診断基準でどのように判定されるかの報告。対象:本態性眼瞼けいれんの65例130眼を対象とした。男性14例,女性51例で,年齢は40~82歳(平均63歳)である。24例では治療の既往がなく,41例ではボツリヌス毒素による治療を2か月以内には受けていなかった。結果:全例に眼表面の異常を示唆する自覚症状があり,羞明が最も多かった。45例(69%)が過去にドライアイと診断され治療を受けていたが,すべて効果がなかった。Schirmer Ⅰ法で5mm以下の陽性が27眼(21%),涙液層破壊時間5秒以内が75眼(58%)にあった。以上の所見は,ボツリヌス毒素による加療歴の有無で差がなかった。39眼(30%)ではフルオレセイン染色試験が3点以上であった。今回の130眼をドライアイの診断基準で評価すると,32眼(25%)がドライアイ確定,51眼(39%)がその疑いと判定された。結論:ドライアイの新診断基準では多数の眼瞼けいれん患者がドライアイと判定され,正しい治療を受けられないことになる。ドライアイの診断では,眼瞼けいれんを除外することが必要である。

甲状腺眼症の斜視手術成績の検討

著者: 川田浩克 ,   大庭正裕 ,   大黒浩

ページ範囲:P.861 - P.864

要約 目的:甲状腺眼症での斜視に対する手術成績の報告。対象と方法:斜視手術を行った甲状腺眼症12例を対象とした。男性8例,女性4例で,年齢は24~65歳(平均54歳)であった。内斜視1例,上下斜視11例であり,手術は複視が生じてから12か月以降に行った。罹患筋の後転術を第一選択とし,術前の牽引試験で罹患筋の伸展障害を確認した。結果:全例で最終眼位は良好であり,通常の斜視手術よりも効果が高かった。予想矯正量が大きい症例では,術後の過矯正が多かった。結論:甲状腺眼症に生じた斜視では,手術効果が通常の斜視手術よりも高く,予想矯正量が大きい症例では過矯正になりやすい傾向がある。これは罹患筋と周囲組織との癒着が強いためと推測される。

サルコイドーシス旧診断基準と新診断基準の患者分布の比較

著者: 大下雅世 ,   後藤浩 ,   大井桂子 ,   坂井潤一

ページ範囲:P.865 - P.868

要約 目的:サルコイドーシス診断基準の改訂を機に,眼症状がある本症の診断の再評価の報告。対象と方法:2006年までの10年間に眼所見から本症が疑われた188例を対象とし,旧診断基準と新診断基準でどのように判定されるかを検討した。男性49例,女性139例で,平均年齢は47.1±18.1歳である。結果:新診断基準によると,確定診断は188例中45%から52%に増加し,23例が疑診群から確定診断群に,11例が臨床診断群から疑診群に移行した。これら11例はすべて両側肺門リンパ節腫脹がない症例であった。結論:サルコイドーシスの診断率を向上するためには,眼以外の臓器についても積極的に精査する必要がある。

原田病に対する副腎皮質ステロイド薬全身投与時の合併症

著者: 家里康弘 ,   太田浩一 ,   朱さゆり

ページ範囲:P.869 - P.873

要約 目的:原田病に対するステロイド全身投与時の全身的合併症の報告。対象と方法:過去7年4か月間に加療した原田病のうち,発症から1か月以内の29例を検索した。男性15例,女性14例であり,年齢は13~71歳(平均46歳)で,すべて両眼発症であった。ステロイドは病状に応じ,3例には点眼,内服は9例,点滴は17例であり,うちパルス療法は12例に行った。結果:合併症として,内服群で糖尿病が1例に生じ,点滴群では糖尿病が3例,十二指腸潰瘍が1例,ウイルス血症が13歳の小児1例に生じた。さらに点滴群で胎児死亡が1例,原因不明の死亡が1例にあった。結論:原田病に対するステロイド薬の全身投与では,全身的合併症の可能性があり,十分な説明と慎重な投与が望ましい。

網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果

著者: 澤田浩作 ,   池田俊英 ,   大八木智仁 ,   坂東肇 ,   大喜多隆秀 ,   樫本大作 ,   森田真一 ,   松村永和 ,   澤田憲治 ,   上野千佳子 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.875 - P.878

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対するベバシズマブの硝子体内注射の効果の報告。対象と方法:黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症43例43眼を対象とした。男性21例,女性22例であり,年齢は42~85歳(平均66歳)であった。10眼にはすでに硝子体手術,6眼には光凝固,5眼にはトリアムシノロンのテノン囊下注射が行われていた。ベバシズマブ1.0mgを硝子体腔内に注射した。視力はlogMARで評価し,0.2以上または以下の変化を改善または悪化と判定した。結果:投与1か月後で19眼(44%),3か月後で23眼(53%)で改善した。黄斑部網膜厚の平均値は,投与前の535μmから1か月後の304μmに有意に改善した(p<0.01)。29眼では網膜厚が20%以上減少した。10眼(23%)では黄斑浮腫の再発はなかった。結論:ベバシズマブの硝子体内注射により,23%の症例で永続的な黄斑浮腫軽減が得られた。残りの再発例に対しては,光凝固などを含めた追加治療が必要であった。

前囊切開時の水晶体動揺を指標にしたZinn小帯脆弱度分類の試み

著者: 谷口重雄 ,   田口央子 ,   西村栄一 ,   近藤美鈴 ,   小沢忠彦 ,   宮脇貴也

ページ範囲:P.879 - P.883

要約 目的:白内障手術中の円形前囊切開時の水晶体動揺と前囊の皺襞に基づくZinn小帯の脆弱度の分類。症例と方法:水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った687眼を対象とした。Zinn小帯の脆弱度は,前囊切開の開始時に水晶体動揺と皺襞がないもの(0度),動揺と皺襞があるもの(1度),引き裂き時に皺襞があるもの(2度),メスと高粘度の粘弾性物質を必要とするもの(3度),これに加えて水晶体の振盪と脱臼があるもの(4度)とした。結果:133眼が0度,533眼が1度,10眼が2度,2眼が3度,9眼が4度と判定された。水晶体乳化吸引術中に水晶体囊を支持する器具と眼内レンズ縫着術を必要とした例は,0度ではいずれも0%,1度ではそれぞれ0.1%,2度では80%と10%,3度では100%と0%,4度ではいずれも100%であった。結論:白内障手術での円形前囊切開時の水晶体動揺と前囊の皺襞に基づくZinn小帯の脆弱度の分類は,器具と術式の選択に有用である。

翼状片手術後に強膜膿瘍をきたした慢性腎不全患者の1例

著者: 多田憲太郎 ,   角環 ,   福島敦樹 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.885 - P.887

要約 目的:翼状片の手術後に強膜膿瘍が生じた慢性腎不全患者の報告。症例:20年前から高血圧,痛風,腎不全があり,1年前から透析を受けている71歳男性が,左眼の翼状片手術を受けた。遊離結膜弁移植が行われ,弁は上方の輪部付近から採取され,その部位のテノン囊は露出したままであった。5週間後に眼痛と充血が生じ,結膜弁の採取部位に強膜膿瘍があった。複数の抗生物質とステロイド剤の点眼は無効で,その4週間後に当科を受診した。強膜中層に及ぶ膿瘍があり,薬物が奏効しなかったため,膿瘍を切除した。抗生物質の点眼のみで術後の経過は良好であり,膿瘍の再発はなかった。結論:薬物療法に抵抗する強膜膿瘍には,排膿と切除が有効である。

傍乳頭網膜血管腫の1例

著者: 高橋淳士 ,   太田勲男 ,   廣川博之 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.889 - P.895

要約 目的:傍乳頭血管腫の長期観察例の報告。症例:43歳男性が左眼視力低下を主訴として受診した。矯正視力は左右とも1.5であった。左眼の乳頭が軽度に発赤腫脹し,黄斑部にかけて滲出性網膜剝離があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で乳頭の耳側縁が早期から過蛍光を呈し,後期には網膜剝離の部位に色素貯留があった。2週間後に左眼視力は0.5に低下し,その2週間後に灰白色腫瘤が乳頭の耳側縁に出現した。初診から18か月後に傍乳頭血管腫と診断し光凝固を行った。その後,新たに滲出を伴う白色腫瘤が出現した。発症から5年後に血管腫は2.5乳頭径大になり,乳頭黄斑線維束萎縮が生じ,視力は0.01になった。結論:腫瘤が顕著化する以前から長期にわたって経過を追跡できた本症例は,傍乳頭血管腫の稀有な例である。

乾癬に伴うぶどう膜炎の検討

著者: 奥貫陽子 ,   毛塚剛司 ,   臼井嘉彦 ,   竹内大 ,   坂井潤一 ,   後藤浩

ページ範囲:P.897 - P.901

要約 目的:乾癬に伴うぶどう膜炎の臨床的な特徴の報告。症例:過去64か月間に受診した乾癬に伴うぶどう膜炎患者5例を診療録の記録から検索した。結果:男性2例,女性3例で,年齢は29~52歳(平均37歳)であった。ぶどう膜炎が3年以上前からある4例では両眼に発症し,罹患期間が短い1例では片眼発症であった。前部ぶどう膜炎が9眼すべてにあり,角膜後面沈着物を伴う非肉芽腫性虹彩毛様体炎があった。前房蓄膿が2例,虹彩後癒着が2例にあった。明らかな中間部または後眼部炎症はなかったが,囊胞様黄斑浮腫が3例に出現し,視力障害が永続化した。HLA検査を行った4例すべてがHLA-A2陽性であった。結論:乾癬に伴うぶどう膜炎は,非肉芽腫性の急性前部ぶどう膜炎の形をとり,高頻度に囊胞様黄斑浮腫が併発し,HLA-A2との相関が高い。

柳川リハビリテーション病院におけるロービジョンケア.第12報.眼科医療から就労支援団体・機関への連携

著者: 高橋広 ,   工藤正一

ページ範囲:P.903 - P.909

要約 背景:視覚障害者の就労環境はきわめて厳しい。目的:雇用継続のために就労を支援する団体や機関との連携についての現状の報告。対象と方法:過去7年間に当院でロービジョンケアを行い,就労または雇用で問題が生じた141例を対象とした。男性104例,女性37例で,年齢は18~64歳である。原因疾患では網膜色素変性が71例で最も多かった。これら141例の連携先,ロービジョンケア前後の就労や雇用状態を検討した。結果:63例(45%)が患者団体を含む就労支援団体または機関,26例(18%)が患者団体のみと連携した。これら89例のうち,障害の受容に至っていない42例(47%)は「中途視覚障害者の復職を考える会」と連携し,28例(66%)が仕事を継続できた。連携しなかった例では在職者が減り,無職者が増えた。結論:眼科医療側の対応のみで視覚障害者の雇用の継続は困難であり,就労を支援する団体または機関と積極的に連携することが望まれる。

黄斑部錐体機能から推察する網膜色素変性の左右差

著者: 辰巳郁子 ,   中村元 ,   大石明生 ,   佐々原学 ,   小嶌洋史 ,   栗本雅史 ,   大谷篤 ,   吉村長久

ページ範囲:P.911 - P.915

要約 目的:網膜色素変性での錐体機能の左右差の検討。対象と方法:過去11か月間に網膜色素変性と診断した初診患者71例を対象とした。男性31例,女性40例で,すべて両眼発症であり,年齢は平均45±16歳であった。黄斑部局所網膜電図と光干渉断層計(OCT)を用い,視力はlogMARで評価した。症例はOCTで描出される視細胞の内節と外節の境界線の所見から,2mm以下の1型と2mmを超える2型に分類した。結果:病初期と推定される1型は24人48眼,進行期と推定される2型は21人42眼で,年齢はそれぞれ48±18歳,45±17歳であった。視力は両型とも左右眼の間に弱い相関があった。網膜電図の振幅は,1型では弱い相関,2型では強い相関が左右眼の間にあった。網膜電図のb波とOP波は,1型,2型ともに左右眼の間に強い相関があった。潜時は両型ともにa波とb波ともに左右眼の間に弱い相関があり,OP波には強い相関が左右眼の間にあった。結論:網膜色素変性での錐体機能は,病初期から両眼がほぼ同等に障害される。

角膜・水晶体を貫き硝子体深部まで刺さった銅線刺傷例

著者: 岡野正 ,   松野員寿

ページ範囲:P.917 - P.921

要約 目的:銅線による眼球刺傷例の報告。症例:34歳男性が電気工事中に1.2mm径の銅線が左眼に刺さった。その4時間後に,銅線が刺入したまま受診した。所見と経過:視力は30cm/指数弁であった。銅線は角膜,虹彩,水晶体を貫き,硝子体まで14mmの深さまで刺さっていた。その1時間後に18mmの長さの銅線を抜去し,角膜創を縫合し,水晶体を乳化吸引した。眼底は正常であった。房水の培養で菌は陰性であった。10か月後に眼内レンズを挿入し,7年後まで経過を観察した。視力は受傷から1週後に0.4,2か月後に1.0,4か月~7年後は1.2であった。視野に異常はなく,眼球銅症は起こらなかった。結論:眼球の穿孔性外傷では,刺入物が栓として機能すれば,眼球内容の脱出や変形が防げる。ただちに抜去せずに,専門医による手術を受けることが良策である。

見過ごされていた内頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 倉重由美子 ,   大石明生 ,   宮本和明 ,   田村寛 ,   森下志帆 ,   吉村長久

ページ範囲:P.923 - P.927

要約 目的:網膜色素変性による高度の視機能障害のため自覚症状がなく,見過ごされていた内頸動脈海綿静脈洞瘻の症例の報告。症例:83歳女性が右眼結膜充血で受診した。13歳のときに網膜色素変性と診断され,11年前に視覚障害者2級に認定された。1年前に両眼の白内障手術を受けた。所見:矯正視力は右0.02,左0.01であり,中心暗点があった。右眼の球結膜の拡張と蛇行,眼瞼下垂,外転障害があったが,複視の自覚はなかった。頭部の画像検査で右側の上眼静脈の拡張があり,脳血管造影で内頸動脈海綿静脈洞瘻の診断が確定した。血管塞栓術を行い,球結膜血管の拡張と蛇行ならびに外転障害は消失した。結論:網膜色素変性などで高度の視機能障害がある患者では複視を自覚しないことがあり,眼球運動の診察では注意が望まれる。

眼底写真による上方視神経低形成検出の限界

著者: 岡野真弓 ,   吉弘和展 ,   内川義和 ,   深井小久子 ,   尾崎峯生

ページ範囲:P.929 - P.933

要約 目的:眼底写真のみで上方視神経低形成の検出が可能であるか否かの検討。対象と方法:上方視神経低形成と診断された4名5眼を対象とした。年齢は19~22歳(平均21歳)であった。上方視神経低形成は,下方に楔状視野欠損があり,視野異常に対応する網膜神経線維層の菲薄化と乳頭リムの狭細化があるものとした。健常者17名34眼を対照とした。緑内障を専門とする眼科医7名が,無作為に配列された上方視神経低形成と健常者の眼底写真のなかから,上方視神経低形成の写真を抽出した。結果:眼底写真のみによる上方視神経低形成の偽陰性率は43%すなわち感度は57%,偽陽性率は2%すなわち特異度は98%であった。結論:眼底写真のみで上方視神経低形成を検出することは困難である。

原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術の成績

著者: 扇谷晋 ,   星合繁 ,   花田斉久 ,   鈴木茂揮 ,   栗原秀行 ,   稲見達也

ページ範囲:P.935 - P.938

要約 目的:原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術の成績の報告。対象と方法:過去5年間に隅角癒着解離術を行った24例27眼を対象とした。男性11眼,女性16眼であり,年齢は平均71.0±7.3歳であった。全例に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を併用し,レーザー隅角形成術は行っていない。結果:眼圧平均は術前31.1±10.9mmHg,術後15.1±3.9mmHgであり,25眼(93%)が成功と判定された。術後の投薬状況は,改善または同等であった。術後合併症としての眼圧上昇または角膜浮腫は,そのほとんどが1週間以内に改善した。24か月以上経過を追えた症例で眼圧が21mmHg以下に維持できたのは,急性発作があった例では95%,なかった例では85%であった。結論:原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術は,水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術の併用で効果があり,急性緑内障発作がある症例ではさらに有効である。

急性閉塞隅角緑内障に対する硝子体手術を併用した超音波白内障手術成績

著者: 渡邊一郎 ,   家木良彰 ,   鎌尾浩行 ,   桐生純一

ページ範囲:P.939 - P.943

要約 目的:急性閉塞隅角緑内障に対し,初回治療として硝子体手術を併用した白内障手術の成績の報告。対象と方法:過去20か月間に手術を行った14例16眼を対象とした。男性4眼,女性12眼であり,年齢は57~86歳(平均74歳)であった。術前眼圧は平均56.3mmHgであった。全例に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行い,硝子体手術(core vitrectomy)を6眼に,隅角癒着解離術を1眼に行った。10眼は水晶体乳化吸引術の経験が3年未満の術者が施行した。結果:全例で眼内レンズを囊内に固定できた。隅角癒着解離術とレーザー虹彩切開術を各1例に行った以外は,術後に問題はなかった。最終眼圧は全例が22mmHg以下で,平均11.8mmHgであり,16眼中12眼が無投薬であった。結論:急性閉塞隅角緑内障に対し,硝子体切除を併用した水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術は眼圧を低下させ,術中または術後の合併症が少なく,手術経験年数が短い術者でも可能である。

ポリープ状脈絡膜血管症による硝子体出血に対する硝子体手術

著者: 後藤輝彦 ,   今井雅仁 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.945 - P.949

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症による硝子体出血に対して行った硝子体手術の成績の報告。症例:過去7年間に手術を行った14例14眼を対象とし,診療録をもとに検索した。結果:男性13例,女性1例で,年齢は57~81歳(平均70歳)であった。ほとんどの症例が網膜下血腫として受診し,その経過中に硝子体出血が発症した。術中に大量の網膜下血腫が11例にあった。シリコーンオイルタンポナーデを6眼に行った。網膜下血腫が少量であった1例を除く13眼では黄斑萎縮が残り,術後最終視力が0.1以下であり,うち5眼では手動弁以下であった。結論:硝子体出血が併発したポリープ状脈絡膜血管症は,多量の網膜下血腫があることが多く,視力転帰が不良である。

加齢黄斑変性症に対するベバシズマブ併用光線力学療法

著者: 櫻井寿也 ,   前野貴俊 ,   木下太賀 ,   山田知之 ,   田野良太郎 ,   福岡佐知子 ,   吉田稔 ,   川村博久 ,   竹中久 ,   張國中 ,   真野富也

ページ範囲:P.951 - P.955

要約 目的:加齢黄斑変性に対し,硝子体内ベバシズマブ注入に光線力学療法を併用した成績の報告。対象と方法:出血性または漿液性網膜色素上皮剝離を伴う加齢黄斑変性6眼6例を対象とした。男性4例,女性2例で,年齢は60~88歳(平均73歳)である。ベバシズマブ1.25mgを硝子体内に注入し,その翌日に光線力学療法を実施した。視力はlogMARで評価した。結果:6か月後の視力は,2眼(33%)で不変,4眼(67%)で2段階以上改善した。網膜色素上皮剝離は5眼で消退した。結論:網膜色素上皮剝離を伴う加齢黄斑変性に対し,硝子体内ベバシズマブ注入と光線力学療法の併用は有効なことがある。

短照射小スポット汎網膜光凝固の長期成績

著者: 芳賀照行

ページ範囲:P.957 - P.961

要約 目的:糖尿病網膜症に対する短照射小スポット汎網膜光凝固の長期成績の報告。症例と方法:汎網膜光凝固を行った糖尿病網膜症15例29眼を対象とした。男性7例,女性8例で,年齢は47~75歳(平均67歳)で,糖尿病網膜症は軽症25眼,重症4眼であった。光凝固には緑色レーザーを用い,照射時間は0.1秒,凝固斑は100μm,出力は0.08~0.12Wに設定した。1回に約200発,総計1,500~2,000発の凝固斑を置いた。術後1年以上の経過を追った。結果:3例5眼で小数視力が2段階以上低下した。うち2例4眼では汎網膜光凝固から1年以上後に黄斑浮腫が増悪し,他の1眼では白内障が進行した。これ以外の症例では視力が維持された。結論:糖尿病網膜症に対する短照射小スポット汎網膜光凝固は,1年後の評価でほぼ有効であった。

成人発症型卵黄様黄斑変性症と軟性ドルーゼンの鑑別に光干渉断層計が有用であった1例

著者: 澤田有 ,   藤原聡之 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.963 - P.967

要約 目的:成人発症型卵黄様黄斑変性症と軟性ドルーゼンの鑑別に光干渉断層計(OCT)が有用であった症例の報告。症例:70歳男性が右眼の変視症で受診した。矯正視力は左右とも1.0であり,右眼黄斑部に1/3乳頭径大の黄色の病変があり,左眼にはこれと似ているがやや崩れたものがあった。眼底所見から成人発症型卵黄様黄斑変性症が疑われた。OCTで病変部の網膜色素上皮の隆起があり,その上の網膜構造は正常であった。成人発症型卵黄様黄斑変性症に特徴的な網膜下の貯留物はなく,他の検査所見と合わせ軟性ドルーゼンと診断した。結論:非侵襲的に網膜の構造や貯留物の有無を描出できるOCTによる検査は,成人発症型卵黄様黄斑変性症と他の疾患との鑑別に有用であった。

OCTで診断され硝子体手術が有効であった視神経乳頭小窩黄斑症候群の1例

著者: 濱島紅 ,   森秀夫

ページ範囲:P.969 - P.972

要約 目的:光干渉断層計(OCT)で初めて視神経乳頭小窩の診断が確定し,硝子体手術で治癒した1症例の報告。症例:38歳男性が4年前に左眼の視力低下を自覚した。4か月前に某医を受診し,視力は0.7であった。初診時の矯正視力は右1.5,左0.2であり,左眼の後極部に広範な網膜浮腫があった。OCTは網膜分離の所見を示した。乳頭は一見すると正常であったが,OCTで乳頭小窩の所見があった。治療として,超音波水晶体摘出,トリアムシノロン併用の硝子体手術,眼内レンズ挿入,SF6ガス注入を行った。網膜分離は消失し,30か月後に視力は1.0に回復した。結論:乳頭小窩の診断にOCTが有用であり,硝子体手術が有効であった。

中心窩下に迷入残存した液体パーフルオロカーボンを除去した1例

著者: 今津幸典 ,   井上麻衣子 ,   木村育子 ,   小林聡 ,   鈴木美砂 ,   渡邉洋一郎 ,   門之園一明

ページ範囲:P.973 - P.976

要約 目的:中心窩下に残存したパーフルオロカーボンを除去した症例の報告。症例:32歳男性の右眼網膜剝離に対して硝子体手術が行われ,シリコーンオイル下で復位した。網膜剝離が再発して増殖硝子体網膜症になった。パーフルオロカーボンを用い,復位が得られた。26日後に中心窩下に円形の隆起が発見され,光干渉断層計で網膜下に楕円形の空間があった。視力は0.08であった。パーフルオロカーボンの網膜下迷入と診断し,術後40日目に中心窩の耳側網膜を切開し,これを除去した。術後,中心窩の陥凹が再構築され,視力は0.2に改善した。結論:中心窩下に迷入したパーフルオロカーボンを中心窩耳側の網膜切開により除去することができ,視機能が改善した。

専門別研究会

眼科と東洋医学

著者: 吉田篤

ページ範囲:P.979 - P.984

 一般演題は8題を行った。抄録6番目の黒木先生の発表が変更になり,抄録の症例を後半の症例検討会に回し,一般演題では新しい症例を報告された。後半の症例検討会では「こんな時どうする」という内容で竹田眞先生の座長のもと,眼科で漢方を使っていて困っている症例をいくつか報告し検討した。

連載 今月の話題

硝子体手術の最近の進歩

著者: 門之園一明

ページ範囲:P.829 - P.832

 近年の硝子体手術は飛躍的に進歩した。新しい手術顕微鏡やキセノン光源の応用など多くの器具の開発により,われわれはかつてない良好な眼底の視認性を得ることができるようになった。その結果,双手法や小切開硝子体手術などの手術手技が急速に発達した。これらの治療技術の進歩により,特に増殖糖尿病網膜症や黄斑疾患の治療成績は格段に向上した。一方,ハイテクノロジーに支えられた手術技術がいかに進歩しても,手術の習得に,先生(師匠)から生徒(弟子)への技術の伝達と個人の経験の積み重ねの重要性は変わらない。その意味で,先駆者の業績も忘れてはならない。

日常みる角膜疾患・63

顆粒状角膜ジストロフィ

著者: 山田直之 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫 ,   日野田裕治

ページ範囲:P.834 - P.837

症例

 62歳女性,主訴は両眼の異物感。2007年7月に近医を受診し,角膜ジストロフィを認めたため精査を目的に当院を紹介され受診した。初診時の視力は右0.2(1.0),左0.5(1.0)で,両眼とも角膜実質浅層に強く小さな顆粒状混濁を認めた(図1)。臨床所見からは顆粒状角膜ジストロフィもしくはAvellino角膜ジストロフィを疑った。問診では,両親は血族結婚ではなく,家系内に他に角膜ジストロフィ患者はいなかった。

 インフォームド・コンセントを取得後採血し,TGFBI遺伝子について遺伝学的検討を行い,R555W(ヘテロ接合体)を認めたため(図2),顆粒状角膜ジストロフィと診断した。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・15

クラミジア結膜炎

著者: 赤沼正堂 ,   北市伸義 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.838 - P.841

はじめに

 クラミジア眼感染症の原因となるChlamydia trachomatisは,細菌と同じくDNAとRNAをもち分裂増殖するが,一方でウイルスのように増殖に必要なエネルギーを宿主細胞に依存する,という細菌とウイルスの中間的な性質をもつ微生物である。現在ではウイルスよりややグラム陰性菌に近い微生物と考えられている。

 眼病変は3つに分類され(表1),古くはトラコーマという眼疾患として多くみられていたが,衛生環境の改善や有効な治療薬の登場によってわが国で新鮮例をみることはほとんどなくなった。しかしアフリカ,南西アジア,東南アジア,ラテンアメリカや太平洋島嶼国の一部ではいまなお失明の主要原因の1つであり,公衆衛生上の課題となっている。一般にアフリカ・中近東はA型が,アジアではB型とC型が多いとされる。

 現在わが国では,性的な接触が原因となり粘膜や皮膚を介してヒトからヒトへ感染する性感染症(sexually transmitted disease:STD)として,成人,新生児の封入体結膜炎が多くみられる。いまなお生殖器-結膜-泌尿器におけるクラミジアの生態は不明なことが多い。また,最近C. pneumoniaは慢性濾胞性結膜炎の原因となるという報告もある1)

網膜硝子体手術手技・18

開放性眼外傷(3)眼内異物(硝子体内,網膜内)

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.842 - P.846

はじめに

 眼内異物は開放性眼外傷のなかで,早期に眼内炎をきたす可能性が高く,一次的に硝子体手術まで施行するべき病態である。前回は前房内異物の摘出方法と,硝子体内に鉄片異物がとどまっている症例での外傷性白内障,硝子体の処理法を述べた。今回は前号からの続きとして,硝子体内異物の実際の摘出法と,網膜内異物の摘出法を解説する。

もっと医療コミュニケーション・6

霧のように消えた医療パフォーマンス学会の秘密―医師につける薬はパフォーマンス学のマインドとスキル

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.988 - P.990

 ギリシャ時代のヒポクラテス先生ほど権威的な存在ではないにせよ,いまだに医師は「お医者様」であり,特別に高い社会的地位にあることは変わりがないでしょう。

 そのドクター相手に,「日頃の患者さんとのコミュニケーションをより良質で効率のよいものに変えていきませんか」と提案し,具体的な改善戦略とスキルをお伝えするのですから,筆者としては大変な緊張です。

 しかし,餅は餅屋。ほんの少しの自己表現改革でも多くの果実を手中にできることを,私はこれまで30年間,日本におけるパフォーマンス心理学の創始者でありパイオニアとしてさまざまな職種において実証してきました。

 日々の診療でお忙しい先生方に,この連載が少しでもお役に立つことを願っています。

臨床報告

マイボーム腺吸引器の試作

著者: 寺田理 ,   千葉桂三 ,   妹尾正

ページ範囲:P.995 - P.999

要約 背景:マイボーム腺機能不全症の治療として梗塞したマイボーム腺を鉗子で圧迫する方法がとられるが,疼痛があることと処置に時間がかかることが問題である。目的:市販の美容機器を用いて試作したマイボーム腺吸引器の報告。方法:市販の美容機器の先端に1mlの注射器の外筒を加工したものを装着し,吸引器とした。これを乾燥感や異物感のある高齢者20例40眼に対して使用した。結果:本吸引器によるマイボーム腺吸引で疼痛を訴える患者は少なかった。軽傷例では数回瞼縁部をなぞるだけで分泌物を除去できた。重症例には温熱療法を併用した。結論:試作したマイボーム腺吸引器は簡便かつ短時間で疼痛がなく,マイボーム腺梗塞の治療に有用である。

レーザー虹彩切開術後に発症した水疱性角膜症に対する全層角膜移植手術成績の検討

著者: 松田理江 ,   山田直之 ,   原田大輔 ,   近間泰一郎 ,   相良健 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1001 - P.1005

要約 目的:レーザー虹彩切開術に続発した水疱性角膜症に対する全層角膜移植術の成績の報告。対象と方法:過去12年間に水疱性角膜症に対して行われた全層角膜移植術104眼を診療録により検索した。20眼ではレーザー虹彩切開が治療的に行われ,13眼では予防的に行われた。71眼では水疱性角膜症が白内障手術後に生じた。結果:全層角膜移植で角膜の透明治癒は,レーザー虹彩切開後に水疱性角膜症では33眼中30眼(88%),白内障手術後にこれが発症した71眼では15眼(21%)で得られた。両群間には有意差があった(p<0.03)。結論:レーザー虹彩切開術後に発症した水疱性角膜症に対し,全層角膜移植術は有効である。

今月の表紙

Meesmann角膜ジストロフィ

著者: 小林泰子 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.833 - P.833

 症例は71歳男性。幼少時から両眼の視力が不良で日中に羞明を自覚することが多かった。両角膜全域にわたり上皮下の微小囊胞を認めた。遺伝子検査により,Meesmann角膜ジストロフィ(R135G)と確定診断した。

 Meesmann角膜ジストロフィの微小囊胞は,ほとんどが透明で直接光での観察では消えてしまうため,虹彩からの反帰光を利用して角膜にフォーカスを合わせた。撮影に際し注意した点は病変部位を高倍率で撮影したことで,次のような撮影条件を設定した。患者の視線は正面を保ち,倍率25倍,絞り22,フラッシュステップ3,周辺フラッシュなしで,スリット長9mm,スリット幅2mmの光を右眼に当て,カメラを耳側に振りスリット光が虹彩からの反帰光となるように位置を調整して撮影した。撮影機材は,ZEISS社製フォトスリットランプ40SL-P(カメラはCanon EOS-1)を使用した。

書評

まんが 医学の歴史

著者: 坂井建雄

ページ範囲:P.850 - P.850

 医学史を飾る先人たちの著作を手に取り,その事蹟を詳しく知ると,それぞれの時代のなかで医学を築き上げてきた英智と努力に心洗われる思いがする。古代ギリシャのヒポクラテスは,さすがに紀元前400年頃というだけあって,解剖や病気についての理解は表面的なものにとどまるが,「誓い」のなかに記された医師としての倫理には現代にも通じるものがある。ローマ帝国の2世紀に博学を誇ったガレノスの著作には鋭い論理の切れ味があり,解剖学の優れた観察をもとに古代の医学理論を集大成した業績は,あらゆる意味で西洋医学の原点である。

 16世紀のヴェサリウスが著した『ファブリカ』の解剖図の圧倒的な迫力と人を魅了する芸術性は,人体の観察をもとに近代医学を再出発させた原動力であった。17世紀のハーヴィーによる血液循環論,18世紀のブールハーフェによる医学教育の革新が果たした役割については言うまでもない。

標準眼科学 第10版

著者: 田野保雄

ページ範囲:P.967 - P.967

 記念すべき『標準眼科学』第10版が発行された。3年ごとに必ず改訂されている教科書なので,次の11版がお目見えする頃には,『標準眼科学』の歴史は30年を数えることになる。これだけの長期間,本書を支えてこられた関係者の方々に,まずは敬意を表したい。

 さて,言わずもがな,本書はわが国を代表する眼科学教科書の1冊である。これまで多くの医学生がこの本で眼科学を学んできたし,またそのなかから眼科に入局し,研修医になってからもお世話になったという人も少なくないであろう。ここまで多くの読者に支持された『標準眼科学』の魅力を,10版を手にして改めて考えてみた。

べらどんな

電子辞書

著者:

ページ範囲:P.915 - P.915

 親戚の子から聞いた話だが,近頃の中高生は英和辞典を使わないのだそうだ。電子辞書がその代わりであり,鞄にいれて学校にも持っていくのだという。

 たいがいなことには驚かないつもりだが,これにはびっくりした。理由はいろいろあるが,とにかく時間がかかって面倒ではと心配になるのだ。

犬も歩けば

著者:

ページ範囲:P.976 - P.976

 スカンジナビア半島は,北側がノルウェー,南側がスウェーデンであり,その先が蟹の鋏のような形をしている。この鋏に頭が半分入っているのがユトランド半島で,北側がデンマーク領,南側がドイツ領でKiel大学がある。

 このKiel大学から新しい角膜疾患が1938年に報告された。病変は角膜上皮だけに限局し,ごく小さな混濁が全面に分布している。若干の刺激症状があるが,視力障害は軽度であり,高齢になって水疱形成や角膜びらんがない限り,格別の治療はいらない。この角膜ジストロフィは,これを最初に記述したMeesmann(メースマン)の名で呼ばれる習慣になっている。

やさしい目で きびしい目で・102

家づくりにもインフォームド・コンセント(?)を

著者: 木村内子

ページ範囲:P.987 - P.987

 家を建てて1年もしないうちにリフォームする愚かな人はあまりいないと思う。その愚かな私の話である。そもそも東京都の道路計画で住んでいる家を引越さなければならなくなった。

 女の引越しは60までというではないか。64歳になっていた私はあまりのんびりもしていられず,新しく土地を買ってしまった。

ことば・ことば・ことば

他人の空似

ページ範囲:P.991 - P.991

 4月号のこの欄に「脈絡膜の悪性黒色腫は転移をしない」という趣旨の話を書きましたが,これは完全な思い違いであり,ここにお詫びとともに取り消させていただきます。

 眼の悪性黒色腫では,むしろ限外への転移が大きな問題です。転移は肝臓と肺に多いので,いったんこれが起こると致死的であること,そして転移の時期がまちまちで5年とか10年後に起こる例すらあるために長期にわたる追跡が必要とされています。日本では頻度が小さいことでもあり,眼の悪性黒色腫をみたら眼腫瘍の専門家oncologistに一任するべきです。

文庫の窓から

『金匱要略』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1006 - P.1008

節略本の節略本

 『金匱要略』は宋臣林億らが『傷寒論』と,その同体異名の書といわれる『金匱玉函経』の刊行の後3番目に出した医書である(1066年)。一般には『傷寒論』が急性病を扱い,『金匱要略』は慢性病を扱っていると言われてきた。また,張仲景の著した傷寒と雑病について述べた原著(仮に『傷寒雑病論』と呼ぶ)の前半部分が『傷寒論』,後半部分が『金匱要略』だとも言われる。しかし,詳しくみていくと事はさほど簡単ではない。

 『金匱要略』の林億序に述べられている次第は以下のようである。

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あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 今月号も,学術論文および教育的内容が豊富で楽しんでいただける企画が目白押しです。その合間に木村内子先生による「やさしい目で きびしい目」でのコラムが光っています。木村先生は,長い間勤務医師を続けられ,この間,そしていまも眼科女性医師の支援をいろいろ考えてくださっている女性医師の味方です。家づくりという眼科とは関係ない話題のなかに,professionalismについて示唆しています。

 「もっと医療コミュケーション」欄では,医師以外の方が医師をどのような目で見ておられるかをお示しいただいたように思われ,読者の先生の反応はいろいろだと存じます。耳の痛くなるような医師は確かに存在するかもしれません。患者さんには罪はないので,おっしゃるとおりスマイルで接しなければなりません。しかし,日本の勤務医,特に少なくとも大学に勤務する医師は,いろいろな身分のなかで臨床,研究を切り盛りし,生活ぎりぎりの給与のなかから学会に行って勉強したりしています。患者さんには,サービス業でしょと言われ,それを真摯に受け止めて,例えば休日でも患者さんやその家族からお話をするご要望があれば出勤し,患者さんとのコミュケーションに努めています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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