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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科62巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

特集 第61回日本臨床眼科学会講演集(7) 原著

Descemet膜小穿孔を用いた濾過手術と線維柱帯切除術との降圧効果および安全性の比較

著者: 小林博 ,   小林かおり

ページ範囲:P.1443 - P.1449

要約 目的:線維柱帯切除術とDescemet膜小穿孔による濾過手術の安全性と効果の比較。対象と方法:薬物治療でも眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障50名50眼を対象とした。25眼にはDescemet膜小穿孔による濾過手術,25眼には線維柱帯切除術を行い,12か月の経過を観察した。結果:術前眼圧はDescemet膜小穿孔群24.6±2.7mmHg,線維柱帯切除術群24.8±2.6mmHgで,有意差はなかった。術後の眼圧はDescemet膜小穿孔群で3か月後11.4±2.0mmHg,6か月後11.8±2.4mmHg,12か月後12.6±2.7mmHgで,線維柱帯切除術群でもほぼ同様であり,両群間に有意差はなかった。合併症として,線維柱帯切除術群で浅前房が4眼(16%),低眼圧が5眼(20%)に生じ,いずれもDescemet膜小穿孔群より有意に高率であった(p=0.0371,p=0.0187)。Descemet膜小穿孔群では術中のDescemet膜穿孔が1眼にあった。結論:緑内障眼に対し,Descemet膜小穿孔による濾過手術と線維柱帯切除術とは同様の眼圧下降効果があった。前者は後者よりも合併症が少なかった。

Visual hand displayによる生後6か月までの視力発達の測定

著者: 勝海修 ,   高橋奈津実 ,   荻嶋優 ,   伊藤純子 ,   石井裕子 ,   太刀川貴子 ,   宮永嘉隆 ,   井上治郎 ,  

ページ範囲:P.1451 - P.1456

要約 目的:手持ち視力測定器(visual hand display:VHD)で測定した生後6か月までの乳児の視力の報告。対象と方法:生後1~36週までの乳児47名を対象とした。男児28名,女児19名で,38例が生後24週未満であった。視力測定には直径20cmの円板の両側に2種類の縞模様が描かれているVHDを使った。これを眼前で動かし,縞模様を追従できるかどうかで視力を決定した。結果:視力は生後4週で0.01,8週で0.016,12週で0.036,16~20週で0.05~0.06であった。この結果は,従来のpreferential lookingまたはTeller acuity cardによる結果とほぼ一致した。結論:VHDによる視力測定法は,生後6か月までの乳児の視機能評価に有用であった。

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績

著者: 武末佳子 ,   山中時子 ,   向野利寛 ,   山名泰生 ,   纐纈有子

ページ範囲:P.1457 - P.1460

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の成績の報告。対象と方法:9年7か月間に糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を行った93例123眼を対象とした。男性72眼,女性51眼で,年齢は39~78歳(平均61歳)である。硝子体手術は20ゲージ3ポートシステムで行い,後部硝子体膜を剝離し,黄斑周囲の網膜前透明膜を除去した。手術の補助薬剤は使用しなかった。術後の経過は6か月以上(平均31.8か月間)観察した。結果:3眼を除き黄斑浮腫は徐々に消退した。視力は改善54眼(44%),不変56眼(46%),悪化13眼(10%)で,最終観察時に31眼が0.6以上であった。結論:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は,多数例で黄斑浮腫と視力を改善し,視力を長期間維持できた。

網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術の長期手術成績

著者: 大野克彦 ,   鶴秀敏 ,   照屋健一 ,   米澤博文 ,   中村宗平 ,   吉村浩一 ,   山川良治

ページ範囲:P.1461 - P.1465

要約 目的:網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術の長期成績の報告。症例と方法:放射状視神経切開術を行った網膜中心静脈閉塞症30例30眼を対象とした。男性18例,女性12例で,年齢は48~83歳(平均67歳)であった。術後12~49か月(平均21か月)の経過を追った。結果:相乗平均視力は,術前0.05,最終診察時0.09で,有意に改善した(p=0.01)。各症例での最終視力は,改善14眼(47%),不変12眼(40%),悪化4眼(13%)であり,術後に耳側視野狭窄が7眼(23%),血管新生緑内障が4眼(13%)に起こった。結論:網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術は,1年以上の観察でおおむね良好な経過を示した。術後合併症として,視野狭窄と血管新生緑内障に留意する必要がある。

悪性腫瘍随伴網膜症と診断された網脈絡膜病変の1例

著者: 田邉智子 ,   高村浩 ,   上領勝 ,   山本禎子 ,   大黒浩 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1467 - P.1471

要約 目的:両眼のぶどう膜炎と当初診断され,最終的に悪性腫瘍随伴網膜症(cancer-associated retinopathy)と判明した症例の報告。症例:70歳女性が右眼の続発緑内障で紹介され,受診した。5年前からぶどう膜炎が両眼にあり,2年前に横行結腸癌の手術を受け,抗癌薬を内服中であった。所見:矯正視力は右0.1,左0.15で,眼圧は左右とも10mmHgであった。両眼には周辺前癒着(PAS)が隅角にあり,眼底の色素が粗で黄白色斑が散在し,動脈が狭窄していた。網膜電図は減弱し,視野狭窄があった。血清の抗リカバリン抗体が陽性であり,悪性腫瘍随伴網膜症と診断した。白内障手術を行い,右0.07,左1.0の視力を得た。初診から16か月後の現在まで,経過は良好である。結論:本症例では,結腸癌が悪性腫瘍随伴網膜症の原因であったこと,結腸癌よりも先に網膜症が発症したこと,眼病変が非特異的であったことが注目される。

視力良好の加齢黄斑変性症例に対するベバシズマブ療法

著者: 足立知子 ,   高橋秀徳 ,   上田高志 ,   入山彩 ,   小畑亮 ,   井上裕治 ,   柳靖雄 ,   玉置泰裕

ページ範囲:P.1473 - P.1476

要約 目的:視力が良好な加齢黄斑変性症に対するベバシズマブ硝子体内注入の効果の報告。対象:加齢黄斑変性症8例8眼を対象とした。男性4例,女性4例で,年齢は51~75歳(平均68歳)である。6眼にはポリープ状脈絡膜血管症,2眼には狭義の加齢黄斑変性症があった。全例で視力は0.5以上であった。ベバシズマブ1.25mgを硝子体内に注入した。結果:6か月以上の経過観察で,7眼で網膜剝離または網膜色素上皮剝離が減少した。脈絡膜新生血管とポリープ状病変は全例で残存した。結論:視力が良好なAMDに対するベバシズマブの硝子体内注入は安全であり,奏効する可能性がある。

眼内内視鏡による毛様体扁平部囊胞と関連因子

著者: 須田考一 ,   友安幸子 ,   山本真由 ,   小池昇 ,   高橋春男

ページ範囲:P.1477 - P.1479

要約 目的:眼内内視鏡で観察した毛様体扁平部囊胞に関する知見の報告。対象と方法:過去3年間に白内障手術を行った883眼を対象とした。男性377眼,女性506眼で,水晶体核を除去した後,上方の強角膜創から内視鏡を挿入し,水晶体囊越しに毛様体扁平部を観察した。結果:囊胞は66眼(7.5%)にあり,うち8眼(12.1%)では両眼性であった。囊胞の存在率は男性10.9%,女性4.9%であり,有意差があった(p<0.05)。平均年齢は囊胞群74.2歳,無囊胞群73.3歳で有意差はなかった。高血圧は囊胞群の53%,無囊胞群の27.5%にあり,有意差があった(p<0.05)。両眼に囊胞がある8眼中7眼(87.5%)に高血圧があった。結論:白内障患者での毛様体囊胞は男性に多く,高血圧者に多い。

非接触型光学式眼軸長測定器によるシリコーンオイル注入眼に対する測定精度

著者: 吉田則彦 ,   市川一夫 ,   玉置明野 ,   吉崎憲治

ページ範囲:P.1481 - P.1484

要約 目的:シリコーンオイル注入眼での非接触型光学式眼軸長測定器による精度の報告。対象と方法:硝子体手術でシリコーンオイルを注入し,その後これを抜去した26眼で眼軸長を測定した。測定にはIOL MasterTMを用いた。うち13眼ではシリコーンオイル抜去後に眼内レンズを挿入し,その前後で眼軸長を測定した。結果:眼軸長の平均は,シリコーンオイル抜去前24.28±3.03mm,抜去後24.26±2.87mmで,両群間に有意差はなかった。シリコーンオイル注入眼での眼軸長は,超音波による測定値と同じであった。結論:IOL MasterTMで測定したシリコーンオイル注入眼の眼軸長は,抜去と同時に挿入する眼内レンズの屈折力の決定に使うことができる。

角膜から得られたアカントアメーバを遺伝学的に同定した1例

著者: 髙岡紀子 ,   八木田健司 ,   遠藤卓郎 ,   松原正男

ページ範囲:P.1485 - P.1490

要約 背景:アメーバの遺伝学的な分類は比較的新しく,型別の臨床症状や薬剤感受性などの違いは知られていない。目的:角膜炎の患者から分離されたアカントアメーバの遺伝学的分類。症例と方法:35歳女性が9日前からの左眼の充血と疼痛で受診した。3年前に購入したソフトコンタクトレンズを週に1回だけ装用していた。アカントアメーバ角膜炎を疑い,擦過物の培養で診断が確定した。アメーバの18SrDNA遺伝子をPCR-シークエンス法で解析し,GenBankに登録されているデータと照合して遺伝子タイプを調べた。結果:本症例のアメーバは18SrDNA分類のT4と同定された。結論:アメーバの遺伝学的な分類は診断と治療に有用であり,感染経路の予測など予防医学にも価値がある。

涙囊に発生した化膿性肉芽腫の1例

著者: 権田恭広 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.1491 - P.1494

要約 目的:涙囊部に生じた化膿性肉芽腫の症例の報告。症例:86歳女性が左涙囊部の腫脹で受診した。2年前から涙囊炎として治療を受けていたが,最近になり腫脹が増大した。所見:左内眼角の下方に20mm×15mmの発赤と腫脹があり,圧痛は軽度であった。涙管の通水はなく,膿や血の逆流はなかった。CTで涙囊部に15mm×8mmの均一な陰影があった。涙囊を切開したところ内腔に腫瘤塊があり,涙囊を摘出した。病理学的に,毛細血管の増生と炎症細胞の浸潤がある肉芽組織であり,悪性ではなく,化膿性肉芽腫と診断した。結論:化膿性肉芽腫が涙囊炎に類似する所見を呈することがある。

メトトレキセート硝子体注射が著効した滲出性網膜剝離を伴う網膜下増殖型のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例

著者: 山本紗也香 ,   杉田直 ,   岩永洋一 ,   石田友香 ,   菅本良治 ,   望月學 ,   倉田盛人 ,   北川昌伸

ページ範囲:P.1495 - P.1500

要約 目的:メトトレキセート(MTX)の硝子体内注入が奏効した原発性眼内リンパ腫の症例の報告。症例:57歳男性が1か月前からの両眼の霧視で受診した。矯正視力は右0.7,左0.9で,前部ぶどう膜炎,硝子体混濁,網膜下の白色病巣が両眼にあった。硝子体混濁が進行し,5週間後に滲出性網膜剝離が右眼に生じた。生検で眼内リンパ腫が疑われ,初診から7週間と9週間後にMTXを硝子体内に注入した。網膜下の混濁と網膜剝離は寛解した。初診から16週間後に硝子体生検とMTX注入を左眼に行った。免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成があり,IL-10濃度が高く,細胞診class Vより眼内リンパ腫の診断が確定した。MTXの硝子体内注入を両眼に繰り返し,眼病変は治癒した。初診から6か月後に前頭葉に腫瘍が発見され,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。結論:網膜下に浸潤する原発性眼内リンパ腫にMTXの硝子体内注入が奏効した。

白内障手術後に生じた術後壊死性強膜炎の2例

著者: 宮本陽子 ,   齋藤航 ,   岩田大樹 ,   奥谷梨絵子 ,   田川義継 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1501 - P.1504

要約 目的:白内障手術後に生じた術後壊死性強膜炎(surgically induced necrotizing scleritis:SINS)の2例の報告。症例と経過:2例とも男性で,それぞれ70歳と71歳であった。小切開による水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を片眼に受けた。強膜創を中心に壊死性強膜炎がそれぞれ2か月と3か月後に発症し,術後壊死性強膜炎と診断した。1例ではプレドニゾロン内服で20か月後に治癒した。他の1例では強膜が穿孔し,プレドニゾロン内服の後に強膜を移植し,穿孔創が閉鎖した。結論:術後壊死性強膜炎では,早期診断と十分な量の副腎皮質ステロイドの全身投与が必要である。

自治医科大学眼科における時間外救急診療の統計的観察

著者: 佐々木誠 ,   茨木信博

ページ範囲:P.1505 - P.1510

要約 目的:当院における時間外眼科救急診療の統計的観察。対象と方法:2005年10月から1年間の時間外受診症例を対象とし,受診日,件数,地理的分布,主訴,診断名,処置,入院,緊急性の有無について診療録から調査した。結果:年間総受診件数は1,410件,曜日別の1日平均受診件数は,祝日13.3件,日曜7.5件,土曜4.3件,平日2.2件であった。89%は30km圏内からの受診であった。主訴は異物飛入が最も多く,疼痛,打撲の3つで7割を占めていた。入院件数は3.0%,手術件数は2.2%,緊急性の高い疾患は5.7%であった。結論:緊急性の高い疾患の割合は低く,1次医療と考えられる疾患であった救急患者が大部分を占めていた。

産後視力障害で発見されたリンパ球性下垂体炎の1例

著者: 服部知明 ,   中沢陽子 ,   間瀬光人

ページ範囲:P.1511 - P.1514

要約 目的:産後に視力と視野障害が発症し,非観血的治療で寛解したリンパ球性下垂体炎の症例の報告。症例:37歳の女性が子宮内感染の兆候があり,帝王切開で出産した。12日後に左眼の視力低下で受診した。所見:矯正視力は右1.2,左0.8で,両眼に非典型的な耳側半盲があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で下垂体前葉の肥大があった。周産期の女性,乳汁分泌不全,血清プロラクチン低下などからリンパ球性下垂体炎を疑い,プレドニゾロンの経口投与を開始した。9日後に左眼矯正視力が1.5になり,12日後に視野が正常化し,MRIで下垂体腫瘤が顕著に縮小した。以後9か月後の現在まで治癒した状態にある。結論:本症例は臨床所見とステロイドの全身投与が奏効したことから,リンパ球性下垂体炎であった可能性が高い。

手術創の角膜実質層間に発症した角膜感染症の1例

著者: 田上美和 ,   藤原りつ子 ,   門田健 ,   陶山洋志 ,   宍田克己 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1515 - P.1518

要約 目的:白内障手術後に生じた角膜実質層間感染症の症例の報告。症例:81歳男性が右眼の眼痛と充血で受診した。1年前から点状表層角膜症があり,フルオロメトロンを点眼していた。7年前に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を,3年前に線維柱帯切除術を右眼に受けた。所見:右眼視力は0.4で,白内障手術の強角膜創に一致して羽毛状の角膜浸潤と血管侵入があった。抗菌薬と抗真菌薬に反応せず,7週間後に前房蓄膿を伴う眼内炎が生じた。硝子体手術を行い,眼内レンズを摘出し,角膜層間を洗浄した。前房水,眼内レンズ,硝子体の培養検査は陰性であった。術後に病変は消退し,0.8の最終視力を得た。結論:本症例では病巣が白内障の手術創と一致し,層間に感染が広がったと推定される。層間の角膜感染症は,保存的治療が奏効しないときには外科的治療が選択肢の1つになる。

ステロイドレスポンダーの臨床的特徴

著者: 小島亜有子 ,   久保田敏昭 ,   森田啓文 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1519 - P.1522

要約 目的:ステロイドレスポンダーの臨床的特徴の報告。対象と方法:副腎皮質ステロイドの点眼または内服で眼圧が5mmHg以上上昇し,かつ25mmHg以上になった17症例をステロイドレスポンダーと定義した。7例は全身投与,10例では点眼が原因であった。男性9例,女性8例で,年齢は15~82歳(平均49歳)であった。診療録の記述からその特徴を検索した。結果:屈折は右眼-3.58±2.72D,左眼-3.50±2.58Dであった。ステロイド投与開始から最高眼圧に達するまでの期間は,全身投与群では9.8±13.5か月,点眼群では10.5±12.7か月であった。最高眼圧は全身投与群31.7±5.3mmHg,点眼群40.6±13.7mmHgであった。眼圧の上昇率は全身投与群143.0±103.1%,点眼群154.1±100.9%であった。すべての項目で投与方法による有意差はなかった。全身投与群では両眼の眼圧が上昇し,点眼群では点眼側の眼圧だけが上昇した。結論:ステロイド投与では,点眼だけでなく全身投与でも眼圧が上昇することがあり,かつ長期の経過観察が必要である。

輪状締結術後眼にBaerveldt緑内障インプラントを施行した1例

著者: 禅野誠 ,   平松類 ,   植田俊彦 ,   藤澤邦見 ,   小出良平

ページ範囲:P.1523 - P.1527

要約 目的:輪状締結術後に発症した血管新生緑内障に対してBaerveldt緑内障インプラントを挿入した症例の報告。症例:51歳男性が視力低下で受診した。1年前に糖尿病が発見され,両眼に汎網膜光凝固を受けた。脳梗塞と腎不全が生じ,血液透析が行われていた。所見と経過:矯正視力は右0.8,左0.3であった。右眼に増殖糖尿病網膜症と網膜剝離が生じ,初診の13か月後に水晶体乳化吸引術,硝子体手術,輪状締結術が行われた。その1か月後に虹彩ルベオーシスが生じ,線維柱帯切除術を行ったが眼圧は42mmHgに上昇した。初診から35か月後にBaerveldtインプラントを赤道部に挿入した。3年後の現在,眼圧は13mmHgに維持されている。結論:輪状締結術の後であってもBaerveldtインプラントの挿入が可能であり,奏効することがある。

選択的レーザー線維柱帯形成術の術後治療成績

著者: 尾崎弘明 ,   ジェーンファン ,   尾崎恵子 ,   木村篤仁 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1529 - P.1532

要約 目的:選択的レーザー線維柱帯形成術の結果の報告。症例と方法:緑内障の28例35眼を対象とした。男性16例,女性12例で,年齢は平均66.9±13.8歳であり,18眼が有水晶体,17眼が偽水晶体眼であった。病型は原発開放隅角緑内障26眼,正常眼圧緑内障6眼,落屑緑内障3眼で,3か月以上,平均8.8か月の経過を追った。Nd:YAGレーザーの照射部位は下方半周とし,70~90発の照射をした。結果:平均眼圧は,術前21.1±5.3mmHg,術後3か月16.1±4.7mmHg,術後6か月15.1±3.6mmHgであった。眼圧下降率は19眼(54%)が20%以上,16眼(46%)が20%未満であった。未満群のうち6眼(17%)に再照射を行い,3眼(9%)に線維柱帯切除術を行った。術前に2剤以下の点眼をしている症例は,それ以上の症例よりも有効であった(p<0.05)。結論:選択的レーザー線維柱帯形成術は,安全で眼圧下降効果がある。高眼圧の緑内障では,観血的手術の前に考慮してよい治療である。

ステロイド緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績

著者: 田邉祐資 ,   菅野誠 ,   永沢倫 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1535 - P.1538

要約 目的:ステロイド緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の効果の報告。症例:ステロイドの全身投与によるステロイド緑内障7例7眼の隅角全周にSLTを行った。男性5例,女性2例で,年齢は56~72歳(平均64歳)である。ステロイドの投薬期間は11.3±3.5年で,投与開始から6.1±3.1年後から眼圧が上昇し,2.9±0.6剤の抗緑内障薬を点滴していた。SLTを行った後も点眼治療とステロイド内服は継続した。結果:平均眼圧(mmHg)は,術前26.6±5.3,SLT1か月後20.3±3.1,3か月後17.7±2.4,6か月後16.2±1.3であった。いずれの時点でも,術前に比べて眼圧は有意に低かった。結論:SLTはステロイドの全身投与に続発したステロイド緑内障に有効である。

中心性漿液性脈絡網膜症を生じた糖尿病網膜症の1例

著者: 山田英里 ,   山田晴彦 ,   柳原順代 ,   山田日出美

ページ範囲:P.1539 - P.1544

要約 背景:糖尿病網膜症と中心性漿液性脈絡網膜症は原因病変の場が異なる別個の疾患である。目的:中心性漿液性脈絡網膜症が発症した糖尿病網膜症の症例の報告。症例:65歳男性が左眼視力の低下で受診した。左眼に核白内障があった。白内障手術で視力は1.5に回復した。16か月後に単純型糖尿病網膜症が両眼に起こり,その3か月後に左眼の変視を訴えた。視力は0.7で,黄斑部に漿液性網膜剝離があり,光干渉断層計でも確認された。蛍光眼底造影で中心窩の鼻側に蛍光漏出があり,網膜色素上皮剝離があった。光凝固で中心性漿液性脈絡網膜症は治癒した。5か月後とその10か月後に中心性漿液性脈絡網膜症が再発し,蛍光漏出点は3回とも別の箇所にあった。いずれも光凝固で治癒し,以後再発はない。結論:本症例での糖尿病網膜症は軽症であり,糖尿病と脈絡膜循環障害の併発は偶然である可能性が高い。

クエン酸シルデナフィル(バイアグラ®)の過剰服用後に変視症を自覚したポリープ状脈絡膜血管症の1例

著者: 中島未央 ,   林孝彰 ,   神野英生 ,   酒井勉 ,   渡辺朗 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1545 - P.1549

要約 目的:クエン酸シルデナフィル(バイアグラ®)を過剰服用した後に変視症が生じ,ポリープ状脈絡膜血管症が発見された症例の報告。症例:67歳男性が左眼の変視症で受診した。心房細動があり,2年前から抗凝固薬と強心薬を服用していた。バイアグラ®を1回あたり150mgで複数回内服し,その2か月後に変視症を自覚した。所見:矯正視力は右1.2,左0.7で,左眼の黄斑部に漿液性網膜剝離があった。3か月後に左眼視力が0.15に低下し,蛍光眼底造影でポリープ状脈絡膜血管症の診断が確定した。トリアムシノロンを併用した光線力学療法が行われ,視力は0.3に改善したが,黄斑病変は瘢痕化した。結論:バイアグラ®の過剰服用とポリープ状脈絡膜血管症との因果関係は明らかでないが,前者が後者を悪化させた可能性は否定できない。

黄斑浮腫を伴う網膜静脈閉塞症への硝子体手術施行眼に対するベバシズマブ硝子体注入の効果の検討

著者: 呉香代 ,   柳靖雄 ,   小畑亮 ,   井上裕治 ,   高橋秀徳 ,   入山彩 ,   足立知子 ,   上田高志 ,   玉置泰裕

ページ範囲:P.1551 - P.1555

要約 目的:網膜静脈閉塞症に続発した黄斑浮腫眼に硝子体手術を行い,その後ベバシズマブを硝子体に注入した結果の報告。対象と方法:14例14眼を対象とした。網膜中心静脈閉塞症2眼,網膜静脈分枝閉塞症12眼で,男性9眼,女性5眼であった。14眼中7眼には硝子体手術の既往があった。全例に黄斑浮腫があり,ベバシズマブ1.25mgを硝子体に注入した。視力はlogMARで評価し,0.2以上の変化を有意とした。結果:術後5か月間の観察で,視力は全例で改善または不変であった。初回投与前と投与2週間後で,中心窩厚は12眼で減少し,硝子体手術の既往とは無関係であった。黄斑浮腫は11眼で改善,3眼で不変であり,硝子体手術の既往とは無関係であった。結論:ベバシズマブの硝子体内投与は黄斑浮腫に有効であり,硝子体手術の既往とは無関係である。

ポリープ状脈絡膜血管症における自然経過および光線力学療法後の予後の検討

著者: 羽根田思音 ,   山本禎子 ,   土谷大仁朗 ,   深尾彰 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1557 - P.1562

要約 目的:光線力学療法を行ったポリープ状脈絡膜血管症と行わなかった症例の経過報告。対象:ポリープ状脈絡膜血管症56例56眼を対象とした。25眼は光線力学療法が可能になる前の症例で「非治療群」とし,39眼には光線力学療法を行って「治療群」とした(重複あり)。結果:非治療群の視力は,12か月後に21%,24か月後に54%で悪化した。眼底所見は,12か月後に26%,24か月後に59%で悪化し,その悪化因子は男性であり,病変が中心窩下にあることであった。治療群の視力は,12か月後に21%,24か月後に52%で悪化した。眼底所見は,12か月後に47%,24か月後に80%で悪化した。視力の悪化因子は多発性ポリープ状病巣であることで,単発病巣よりもハザード比が3.6倍であった。結論:ポリープ状脈絡膜血管症での視力と眼底所見は2年以上の経過中に半数以上で悪化し,性別,病変部位,病像が予後と関連する可能性がある。

分子遺伝学的検査により確定診断し得たBest病の1例

著者: 王春霞 ,   小出健郎 ,   細野克博 ,   中西伸夫 ,   蓑島伸生 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.1563 - P.1567

要約 背景:卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病)ではVMD2に多種類の遺伝子変異があり,その多くはミスセンス変異である。目的:分子遺伝学的検査で従来未知の遺伝子変異が発見され,診断が確定したBest病の症例の報告。症例:50歳女性が6年前からの両眼の疲労感で受診した。母親と2名の兄が黄斑変性と診断され,26歳の娘も黄斑に異常があるといわれた。所見:矯正視力は右1.2,左0.8であった。右眼に偽前房蓄膿様,左眼に瘢痕化した黄斑異常があり,卵黄様黄斑ジストロフィに類似していた。末梢血の白血球からDNAを抽出し,その解析からVMD2遺伝子のエクソン8にヘテロ変異c.886A>G(Asn296Asp)があった。結論:卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病)の眼底所見を呈する症例に,VMD2遺伝子のAsn296Asp変異が新知見として発見され,診断が確定した。

連載 今月の話題

レーザー生体共焦点顕微鏡による角膜の観察

著者: 小林顕

ページ範囲:P.1417 - P.1423

 生体共焦点顕微鏡を用いることにより,角膜を構成する細胞層や神経線維の前額断面が非侵襲的に生体観察できる。従来の白色光源の製品に加え,レーザー光源共焦点顕微鏡が開発され,より解像度の高い画像が得られるようになった。本稿では,レーザー生体共焦点顕微鏡について概観し,その臨床的有用性について解説する。

日常みる角膜疾患・66

虹彩角膜内皮症候群

著者: 鈴木克佳 ,   相良健 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1426 - P.1429

症例

 患者:70歳,男性

 現病歴:約3か月前から右眼の霧視感を自覚して近医を受診したところ,右眼の白内障,左眼の虹彩萎縮と角膜内皮異常を指摘され,精査目的で当科へ紹介された。

 既往歴・家族歴:特記すべきことはない。

 初診時所見:視力は右0.8(1.2×S+2.00D()cyl-0.50D 10°),左1.0(1.0×+1.75D()cyl-1.00D 10°),眼圧は右15mmHg,左15mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査では,左眼の虹彩萎縮と鼻側への瞳孔偏位,角膜内皮面輝度の上昇があった(図1)。

 角膜中央部でのスペキュラーマイクロスコープによる観察では,角膜内皮細胞密度および六角形細胞率の減少と,細胞内にdark areaがあった(図2a)。3時から10時にかけてSchwalbe線を越える周辺虹彩前癒着があった(図2b)。右眼には皮質白内障があったが,角膜や虹彩に異常所見はなかった。

 片眼性に角膜内皮異常,虹彩萎縮,周辺虹彩前癒着があり,眼内炎症はなかったことから,虹彩角膜内皮症候群(iridocorneal endothelial syndrome:ICE syndrome)のサブタイプであるChandler症候群と診断した。

 経過:角膜浮腫による視力低下や眼圧上昇を来していないため,無治療で経過観察中である。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・18

ヘルペス虹彩毛様体炎

著者: 北市伸義 ,   三浦淑恵 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1430 - P.1435

はじめに

 ヘルペス(herpes)の名はギリシア語のherpetosに由来する。Herpetosは蛇のように蛇行・匍行するという意味であるから,水疱が這うように広がる皮膚所見が語源と考えられる。その後,古代ギリシア語のhはラテン語に入ってsに変化したため,今日の英語のserpent(ヘビ),serpiginous(匍行性)などと語源は同一である。

 ヘルペスウイルスはヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである。線状の二本鎖DNAをゲノムとしてもち,正20面体のカプシドがエンベロープに包まれた直径120~200nmの球状粒子形である。α・β・γの3つの亜科に分類され,その種類は約100種あるが,ヒトを宿主とするヒトヘルペスウイルス(human herpes virus:HHV)はHHV-1~8の8種類が知られている(表1)1)

 ヘルペスウイルス性虹彩毛様体炎は単純ヘルペス1型(herpes simplex virus 1:HSV-1,図1),単純ヘルペス2型(HSV-2),水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)による虹彩毛様体炎であり,臨床的に次のように分類される。

 1.HSV虹彩毛様体炎

 1)角膜ヘルペスに併発するHSV虹彩毛様体炎

  (i)上皮型角膜ヘルペスに併発したHSV虹彩毛様体炎

  (ii)実質型角膜ヘルペスに併発したHSV虹彩毛様体炎(角膜ぶどう膜炎)

 2)角膜ヘルペスに併発しないHSV虹彩毛様体炎

 2.VZV虹彩毛様体炎

 1)眼部帯状疱疹に併発したVZV虹彩毛様体炎

 2)眼部帯状疱疹に併発しないVZV虹彩毛様体炎

網膜硝子体手術手技・21

開放性眼外傷(6)眼球破裂,強角膜穿孔の2次的硝子体手術(2)

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1436 - P.1441

はじめに

 前号では,重篤な眼球破裂,強角膜穿孔に対する手術の中で,嵌頓した網膜の解除の手技まで解説した。

 破裂,穿孔により巨大な鋸状縁断裂となった網膜の端には基底部の硝子体が付着しており,それを放置しておくと術後に増殖し,再剝離の原因となる。また,網膜下にも既に増殖組織が形成されている場合が多い。

 本号では,網膜下・網膜上増殖膜の処理からシリコーンオイルの注入まで解説する。

もっと医療コミュニケーション・9

医師も「言語調整動作」を学ぼう

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.1572 - P.1575

 眼科医師のためのある勉強会の席上で,「患者のQOLにどれだけの関心をもっているか。患者のQOLに関心をもつことこそ,患者との対話が円滑に進み,結果的によい治療方法がみつかるはずである」という研究発表がありました。

 実際,卑近な例ですが,私がクラシックバレーの連続ジャンプで左足の股関節を傷めたとき,その分野では日本でトップレベルの3病院であるA病院,B病院,C病院の整形外科を訪ねました。そこでの医師の対応が,このQOLの問題を考えるための例題かのように,三者三様でまったく異なっていたのです。

臨床報告

春季カタルに対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果

著者: 合田千穂 ,   南場研一 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1583 - P.1588

要約 目的:春季カタルに対する0.1%シクロスポリン点眼の効果の報告。症例と方法:春季カタル15例27眼を対象とした。男性23眼,女性4眼で,年齢は9~45歳(平均20歳),罹病期間は2か月~9年(平均3年9か月)であった。病型は13例が眼瞼型,2例が輪部型であった。13例にアトピー性皮膚炎,5例にアレルギー性鼻炎,4例に喘息があった。0.1%シクロスポリンとしてパピロック®ミニ(参天製薬)を1日3回点眼してもらい,6か月間の経過を追った。結果:視力1.0以上の眼は,点眼開始前74%,3か月後92%,6か月後76%であった。眼圧には投与前後で変化があった。3か月後に瘙痒感が改善し,眼瞼結膜の充血と腫脹,巨大乳頭,球結膜の充血,角膜上皮障害の各項目が有意に改善した。結論:春季カタルに対する0.1%シクロスポリン点眼は有効であった。

男性先天赤緑色覚異常者における遺伝子診断の有用性

著者: 林孝彰 ,   竹内智一 ,   久保朗子 ,   北原健二 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1589 - P.1594

要約 目的:男性先天赤緑色覚異常者における遺伝子診断についての検討。対象と方法:26例に対し,アノマロスコープによる診断に加え,パネルD-15を用いてpassを軽度異常,failを強度異常とする程度判定を行った。L・M視物質遺伝子配列をpolymerase chain reaction法で決定し,上流(5'端)の2つの遺伝子から想定される視物質の分光吸収極大波長の差を波長差として求めた。結果:1型色覚異常が11例,2型色覚異常が15例であった。異常3色覚者の85%(11/13例)で波長差が検出され,2色覚の13例全例で波長差は検出されなかった。軽度異常と強度異常を分類するための特徴的な遺伝子配列は見出せなかった。結論:遺伝子診断法は異常3色覚と2色覚の鑑別に有用と考えられた。

今月の表紙

脈絡膜悪性黒色腫

著者: 佐生亜希子 ,   石垣純子 ,   中澤満

ページ範囲:P.1425 - P.1425

 症例は55歳,女性。2007年4月,1か月前からの右眼の飛蚊症を主訴に当科を初診した。視力は右0.9(1.0),左1.2(1.5)であり,眼圧は正常で左右差はなかった。両眼に軽度の白内障を認めたが,その他の中間透光体に異常はなかった。右眼の鼻側眼底に,周囲に褐色色素を伴う隆起性病変がみられたが,周囲の出血,血管の怒張や収束はなかった。蛍光眼底造影で隆起頂点に無血管領域を認め,軽度な造影剤の漏出を認めた。その後1か月の経過では変化はなかったが,3か月後の定期検査時に隆起性病変の増大,周囲の褐色色素範囲の拡大と散布を認めたため,MRIを試行したところT1強調像で低信号,T2強調像でも低信号を示す5mm程度の腫瘤を同部位に認めた。腫瘤は造影剤投与後,増強効果が認められた。RI検査でも同部位に集積を認め,悪性黒色腫と診断された。現在,重粒子線治療を施行中である。

 この写真はKOWA社製の眼底カメラVX-10 iを用い,造影初期より画角50°で鼻側の隆起性病変を撮影した。隆起が大きいため,フォーカスとカメラ内蔵の補正レンズをすべて+寄りにし,腫瘍境界の血管にピントを合わせ,立体感を得ることができた。

べらどんな

中国の眼科用語

著者:

ページ範囲:P.1435 - P.1435

 6月に国際眼科学会が香港であった。実に立派な会場で,前方後円の形をしている。後円に相当するのが武道館のような建物で,10年前に香港が中国に返還されたときに使われた。

 これに接して前にあるのが東京の国際フォーラムのような6階建てで,その両側に高層のホテルが立っている。事前登録だけで1万2千人の参加者があったが,狭さはまったく感じなかった。

進歩と退歩

著者:

ページ範囲:P.1527 - P.1527

 CDは1979年に発明された。実に便利である。片面に75分の曲が入るが,これはベートーベンの第9交響曲を考えて決めたのだそうだ。

 共同発明者のフィリップスとソニーは特許をとらないことにした。これで誰でもCDを作れるようになり,一挙にそれまでのLPを駆逐してしまった。

書評

脳の機能解剖と画像診断

著者: 齊藤延人

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 このたび,「Klinische Neuroanatomie und kranielle Bilddiagnostik」が真柳佳昭氏の翻訳で医学書院から出版された。本書は1986年日本語訳発刊の『CT診断のための脳解剖と機能系』と1995年発刊の『画像診断のための脳解剖と機能系』に続く第三版ともいえる最新版である。微妙なタイトルの変化が改訂の要点を的確に表している。本書の性格を要約すると頭部断層画像図譜であり,神経解剖学書であり,神経機能系の解説書である。三者の用途を一冊に備えた実用的な書であると言える。

 第一章では獲得目標などが述べられており,本書を活用する前に目を通しておくとよい。第二章が「断層画像診断と目印構造」と題する本書の中心を成す図譜の部分である。A4版の大きなページに1枚ずつ図が配置され見やすいばかりでなく,見開き2ページの左ページに図譜が,右ページにMRIが配置されていて,図譜とMRIを対比できるようになっている。MRIはT1強調画像とT2強調画像がおおむね交互に採用され,各撮影法での構造を確認できるようになっている。さらに図譜では動脈と静脈,末梢神経がそれぞれ赤,青,黄色に色分けされていてとても見やすいものとなっている。前額断,矢状断,軸位平面の各断面シリーズが記載され今日のニーズに応えており,ページの端は各断面シリーズで色が塗り分けられていて,該当ページの探しやすさにも配慮されている。また,脳幹・小脳は,Meynert軸(正中線で第四脳室の底面を通る軸)に直交する厚さ5mmスライスの断面シリーズとして別に記されている。特に脳幹部分は拡大図も示され,その中にさまざまな神経核や伝導系が色つきで図示されている。近年のMRI画像の進歩は脳幹内部の構造にも迫りつつあるが,時機を得た内容と言える。

やさしい目で きびしい目で・105

帰国子女随想

著者: 五嶋摩理

ページ範囲:P.1571 - P.1571

 私が産まれ育ったのはニューヨーク市内である。小学校は,リバーデールの公立小学校(皇太子妃雅子様が一時通っておられた)で,1学年5クラスあり,2年生からは学力別クラス編成であった。さまざまな人種が集まっていたが,大体ユダヤ系が3割,アフリカ系が1~2割,アジア系が1割ほどで,当時ヒスパニック系は少なかった。日本人は1学年に数人いた。授業中,高学年の生徒が低学年の生徒を1人ずつ担当して勉強を教える時間があり,みんな張り切って教えていた。休み時間も“big sister”と呼ばれる中・高学年のボランテイアが低学年の教室に出張して,先生の指示のもとで面倒をみていた。給食はカフェテリア方式で,余ったらアイスクリームのおかわりができるのが楽しみだった。放課後は,ユダヤ人の子はJewish schoolへ行き,プロテスタントの子は聖書の勉強会があり,それぞれバスで送迎があった。カトリックの子は日曜日に教会に行き,聖歌隊に参列した。宗教や民族が違っても,クラス代表として全校集会のときに米国の国旗をもって壇上で国歌を歌う“color guard”になるのが最高の名誉で,私も6年生になってやっと“color guard”に指名されたのが一番の思い出である。

 地元の公立中学校では,小学校で一定以上の成績であれば(上位4分の1程度)2年で中学を卒業できるクラス(SPと呼ばれていた)に進学するかを自分で決めることができた。ゆっくりと中学校生活を送りたいと考える人のほうが多かったが,私はSPを選び,そのおかげで2年後に日本に帰国するときにぎりぎりで卒業できた。成績表は,日本と違い,テストの点数以上に授業中の積極的な発言が重視されていたので,悔しい思いもした。

ことば・ことば・ことば

塞栓と血栓

ページ範囲:P.1579 - P.1579

 網膜中心動静脈やその分枝の閉塞はどちらもocclusionです。しかし少し前までは,動脈の場合には塞栓,そして静脈だと血栓と呼んでいました。英語ならembolismとthrombosisです。どうもこれは血管閉塞の原因として血液のことを重視し,血管壁のことを考えなかったからではという感じがします。

 そもそもembolismという単語は一般用語でした。それも古代のローマ・ギリシャ時代からです。閏年には2月28日の次にもう1日を挿入します。これがembolismだったのです。

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あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1606 - P.1606

 北京オリンピックの興奮も醒め,勉学や食欲の秋をお迎えのことと思います。ここに『臨床眼科』9月号をお届けいたします。

 「今月の話題」は小林顕先生による「レーザー生体共焦点顕微鏡による角膜の観察」です。これまで多くの形態研究に新しい知見をもたらしてきたレーザー共焦点顕微鏡の眼科臨床への応用編ということで,通常の細隙灯顕微鏡ではわかりにくかったさまざまな微細所見が見事に提示されています。かつてOCTがそうであったように,近い将来,このような診療器具が多くの医療機関で配備され,さらに正確な診断や病態の理解に役立てられる日が来るのではと予感させられます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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