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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻12号

2009年11月発行

雑誌目次

特集 黄斑手術の基本手技

黄斑手術の基本的セッティング

著者: 木村英也

ページ範囲:P.1705 - P.1709

はじめに

 黄斑部網膜は視覚情報を入力するうえで最も重要な中枢であり,そこに何らかの病変が生じれば重大な視機能障害をきたす。黄斑円孔,黄斑上膜,硝子体黄斑牽引症候群などでは,黄斑部網膜に癒着した膜様増殖膜や内境界膜を剝離することにより,解剖学的に正常に近い形状に回復させることが可能である。また,糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫なども硝子体手術の対象となってきている。

 黄斑部手術により,視機能改善が望まれる一方,手術そのものによる侵襲で視機能低下をきたす危険性も潜んでいる。より安全かつ確実に手術を行うためには,手術環境を整えて手術に臨む必要がある。

 本稿では,黄斑部手術における使用すべき光学システムや硝子体手術システムに関して説明する。

内境界膜剝離術

著者: 門之園一明

ページ範囲:P.1710 - P.1713

はじめに

 「黄斑手術の基本手技 」は,2006年から4年間にわたって筆者を含めて4名の硝子体術者により日本眼科手術学会総会教育セミナーにおいて開講されてきた連続セミナーである(図1)。その間,ある手技は姿を消し,また新しい手技が登場しと,その手術手技は洗練され現在に至っている。そして,黄斑手術は急速に一般化し,硝子体手術の重要な位置を占めるに至った。その変化に富んだ4年間,志を同じくするサージャンと時間をともにできたことは,私にとって何よりも大きな収穫であった。

 内境界膜剝離術は,硝子体手術手技の中でも難易度の高いものである。数μmの神経組織である基底膜の除去術は,おそらくすべての外科手術の中でもひときわ繊細で難しい手術といえるであろう。それゆえに,術者にとって非常に魅力のある手術でもある。本稿では,現状における本手技の基本事項を解説してみたい。

黄斑前膜手術の基本手技

著者: 瓶井資弘

ページ範囲:P.1714 - P.1720

はじめに

 黄斑前膜(上膜)は,日常診療で遭遇する頻度が高く,手術の難易度も高くないため,黄斑手術の入門に位置すると思われる。単純硝子体切除がある程度できるようになって,次のステップとして網膜付着組織の除去を始める段階の術者がまず取り組むことの多い疾患となる。

 しかし,適応を厳しくして術前に患者とよく相談し,手術も手順の計画をしっかりと立ててから臨まないと,逆に最もトラブルの多い手術となる。術前視力が比較的よい症例が多いだけに,術後の不満を耳にすることも多い。また,黄斑手術に共通したことだが,周囲組織のダメージをいかに少なく抑えるかが重要となってくる。すなわち,網膜・網膜色素上皮・脈絡膜の損傷を最小限に抑えることが求められ,初心者は十分に計画を練ってから手術に臨んでほしい。

 したがって,本稿では適応や術前にしておくべきことを詳しく述べ,続いて手術手技を解説し,最後に術後のフォローに言及した。

後部硝子体剝離

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1722 - P.1726

はじめに

 黄斑疾患の治療に硝子体手術が導入されて以来,硝子体手術が適応とされる黄斑疾患の種類は増加している。例えば黄斑上膜,黄斑円孔の治療を硝子体手術以外の方法で行うことは,現在では稀である。硝子体手術の適応が広がるにつれて,硝子体手術を学ぼうとする眼科医も増加している。黄斑疾患に対する硝子体手術の技術を習得する際のポイントは数多くあるが,まず大事なことは確実に後部硝子体剝離を作製するということである。そこで本稿では,後部硝子体剝離について解説する。

小切開手術時の黄斑手術のコツ

著者: 井上真

ページ範囲:P.1729 - P.1736

はじめに

 白内障手術では極小切開白内障手術(micro incision cataract surgery:MICS)が広まり,切開が3~4mmから2mm前後の手術へと進化している。眼内レンズの進化に先行して切開創が小さくなったが,最近は2mm以下でも安定して挿入可能な眼内レンズが開発され,ますます術式が小切開へと移行しつつある。

 硝子体手術にも小切開硝子体手術(micro incision vitrectomy surgery:以下,MIVS)が開発され,小切開への波が押し寄せている。MIVSは2002年にFujiiら1)が経結膜的強膜創に設置するカニューラと電動硝子体カッターを用いる25ゲージ(gauge:以下,G)硝子体手術システム(Millennium TSV25TM)を開発したことで始まった。当初は器具の小口径化による眼内照明の照度不足が指摘されていたが,キセノン照明器具やシャンデリア照明の普及により20G手術と遜色ない眼底観察が可能になったこともMIVSの普及を容易にした。初期は,25Gの硝子体手術器具は口径が小さいことで破損しやすい欠点もあったが2),逆に先端が細く細部にわたった手術がしやすい利点がある。さらに硝子体の切除効率が不良であった欠点も,2,500 cpm(cut per minute)が可能なMidlab社の硝子体カッターが発売されてから改善されている3)。これは硝子体カッターの開口部を大きくしただけでなく,duty cycleを大幅に改善したため,開口している時間が長いことで大幅に効率のよい硝子体切除が可能となった。

 Eckardt4)は,25G硝子体手術で困難であった器具の剛性をより20G手術に近づけるように23G硝子体手術を開発した(図1,2)。23G手術では硝子体カッターは2,500 cpmが標準となっている。次世代の硝子体手術装置では5,000 cpmが可能になり,最近では27G手術も開発され,25G,23G手術での合併症であった術後早期の低眼圧や眼内炎の発生を減少させられるのではないかと期待されている。23G手術は20G手術の延長であるのに対して,25G手術は20G手術とは異なった術式であると認識したほうがよく,ここではMIVSの利点と問題点について解説する。

連載 眼科図譜・353

両眼性の脈絡膜新生血管を伴うVogt-小柳-原田病の1例

著者: 伊勢重之 ,   丸子一朗 ,   神田尚孝 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.1738 - P.1741

緒言

 Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada disease:以下,VKH)はメラノサイトに対する自己免疫性疾患であり,急性期の眼底後極部を中心とした滲出性網膜剝離を特徴とする。日本人を含むモンゴロイドに多いが,これはメラノサイトやVKHと相関性の高い遺伝子型を持つ比率がアジア人に多いことが原因と考えられている。これまでに,脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:以下,CNV)が生じたVKHの症例がいくつか報告されているが1,2),日本人の症例における報告は少ない3,4)。今回,筆者らはVKHに両眼性の大きなCNVを伴った症例を経験したので報告する。

日常みる角膜疾患・80

マイボーム腺機能不全と角膜障害

著者: 森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1742 - P.1744

症例

 患者:72歳,女性

 既往歴:高血圧以外には特記すべき全身合併症はなかった。

 現病歴:数年前から両眼の眼刺激感,流涙,眼精疲労,眼瞼掻痒感を自覚し,市販薬を点眼したが改善しないため当院を受診した。視力は右0.6(1.2),左0.7(1.2),眼圧は右14mmHg,左14mmHgであった。涙液分泌機能はSchirmer試験第Ⅰ法で右20mmHg,左24mmHg,涙液破綻時間(break up time:BUT)は両眼とも2秒であった。両眼の角膜下方に点状表層角膜症の集簇を認めたが(図1),涙液メニスカスは正常よりもやや高かった。マイボーム腺開口部は軽度発赤し,一部練り歯磨き状のマイボム(meibum:脂質)が観察された。吉冨式マイボーム腺圧迫鉗子を用いて眼瞼を圧迫し,マイボムを圧出すると,マイボムの分泌がみられた。角膜上皮障害所見,涙液破綻時間の短縮,マイボーム腺の軽度炎症から,蒸発亢進型ドライアイおよびマイボーム腺機能不全に関連した角膜障害と診断した。温タオルによる温熱療法を開始したが,眼瞼掻痒感が持続するため,メチルプレドニゾロン眼軟膏(ネオメドロールEE眼軟膏®)の点入を開始した。眼掻痒感は徐々に改善し,角膜上皮障害も改善した。メチルプレドニゾロン眼軟膏の点入を中止し,温熱療法のみを継続することで,症状が改善した状態を維持している。

網膜硝子体手術手技・35

未熟児網膜症(1)

著者: 浅見哲 ,   野々部典枝 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1746 - P.1752

はじめに

 未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)は,発育途上の未熟な網膜血管が蘇生のための高濃度酸素投与などの環境変化の影響を受けて増殖性の変化を生じる疾患であり,進行して網膜剝離に至れば非常に予後不良な病態となり,失明率も高くなる。

 近年の新生児救命医療の目覚ましい進歩により,わが国の低出生体重児の生存率は著しく改善しており,新生児死亡率(出生千対:‰)は1950年の27.4から2008年の1.2へと減少し1),世界一の低水準を年々更新している。体重別にみても,1,000g以上の極低出生体重児の新生児死亡率は1980年の20.7%から2000年には3.8%に,500g以上の超低出生体重児の新生児死亡率は55.3%から15.2%にまで低下した2)。そのような周産期医療の進歩を受けて,法律で定める人工妊娠中絶が可能な期間という点からみても,1975(昭和50)年までは28週未満だったのが,1976年からは24週未満,1991(平成3)年には22週未満へと変更になっている。

 このように周産期医療,新生児救命医療を取り巻く環境の劇的な進歩により生存率の向上がもたらされたが,このことは取りも直さず,より未熟な超低出生体重児の割合の増加と,より重症な未熟児網膜症の増加を示している。特に近年では未熟児網膜症の最重症型であるaggressive posterior ROP(以下,AP-ROP)が増加傾向にある。

 未熟児網膜症を発症しても,適切な時期の網膜光凝固術により大部分の症例では緩解するが,それでもなお牽引性網膜剝離へと進行した症例に対しては強膜内陥術,輪状締結術,硝子体手術などの手術治療が必要となる。最近になりベバシズマブなどの抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)抗体を,適応外ではあるが未熟児網膜症にも応用できるようになり,今後の治療の方向性に劇的な変化をもたらそうとしている。

 本稿では,未熟児網膜症の分類や概念と術式の選択について解説し,次号でstage 4A~stage 5に対する強膜内陥術,輪状締結術,硝子体手術についての実際の手術手技を解説する。

説き語り論文作法・8

必要なデータ

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.1754 - P.1760

教授 よし,それでは内容に入ろう。

――図表の原稿を用意するときの心得を,印刷の仕組みから1つ1つていねいに説明した後で,教授はようやく伊集院の表の原稿の中身を読みはじめた。

教授 問題は,この表1やね。症例のデータ一覧を,出したほうがいいのか,出さないほうがいいのか。これだけ項目が多いと,ものすごくスペースをとる。それに,これは生データなんや。生データを提示するというのは,読者に解析してください,ということになる。それは,著者がサボった印や。ここから抽出できる限り抽出して,それをデータとして見せるわけやな。

 これはあくまでも君の資料として手元に持っておくべきもので,そのデータの意味を「結果」に出していくのと違うか。この全症例のデータは出さなくていいような気がする。

伊集院 例えばこの論文だと,症例のデータが表としてこれくらい出ています。

もっと医療コミュニケーション・23

患者がホッとする医師の小さなスマイル―口角挙筋の使い道

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.1766 - P.1769

 「○○さん」と名前を呼ばれて患者が診察室に入ると,たいがいの場合,医師は机に正対して椅子に座っています。そして,カルテに目を落として内容を確認しながら患者のほうへ少しずつ斜めに体を開いて,さらに視線は継続してカルテの上,というちょうど腰をねじったような背すじの状態になります。

 そのとき,患者はどこを見ているでしょうか。医師と一緒にカルテの紙面を読んでいるのでしょうか。いえ,そうではありません。専門用語が入り混じったカルテを見ても,素人には何のことかさっぱりわかりませんし,患者の位置からは文字まではあまり見えません。そこでほとんどの人はこれをあきらめます。患者の目に入るのは,患者のほうに斜めに体を開いた状態の医師の横顔ということになります。

臨床報告

非接触型前眼部測定装置ペンタカム®と超音波法,スペキュラ法による開放隅角緑内障患者の中心角膜厚測定値の比較

著者: 細田進悟 ,   結城賢弥 ,   佐伯めぐみ ,   船山智代 ,   芝大介 ,   大竹雄一郎 ,   木村至 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1777 - P.1781

要約 目的:ペンタカム®で計測した角膜厚測定値の信頼性の評価。対象と方法:広義の原発開放隅角緑内障116例116眼を対象とした。年齢は35~82歳(平均61歳)である。中心角膜厚をペンタカム®,超音波法,非接触型スペキュラ法で測定した。結果:中心角膜厚の平均値は,ペンタカム®が534.3±35.6μm,超音波法が526.5±33.9μm,スペキュラ法が512.7±38.7μmであった。これら3測定値間には有意な相関があった。ペンタカム®による測定値と超音波法とには有意差がなく(p=0.30),前者とスペキュラ法とには有意差があった(p<0.001)。結論:緑内障眼でペンタカム®により測定した中心角膜厚は,超音波法による測定値とほぼ等しく,緑内障診療に有用である。

白内障術前に診断が困難であった無色素性網膜色素変性の1例

著者: 服部秀嗣 ,   奥野高司 ,   杉山哲也 ,   福原雅之 ,   奥英弘 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1783 - P.1789

要約 目的:白内障の術前に診断が困難であった無色素性網膜色素変性の症例の報告。症例:67歳女性が視力低下で受診した。高血圧と糖尿病の既往があった。夜盲の自覚はなかった。所見:視力は右0.2,左0.1で,両眼に軽度の白内障と乳頭の蒼白化があり,中心暗点があった。蛍光眼底造影で黄斑浮腫はなく,磁気共鳴画像検査(MRI)で視神経が高輝度であり,視神経障害が疑われた。その8年後に視力が右0.02,左0.15に低下し,白内障が進行した。手術を行い,矯正視力は右0.05,左0.2になった。強い昼盲が生じ,求心性視野狭窄があり,網膜電図(ERG)はすべて記録不能であった。無色素性網膜色素変性と診断した。結論:無色素性網膜色素変性は白内障があると診断が困難であり,その可能性があればERGを行うべきである。

難治性の上眼瞼睫毛乱生症に対する埋没U字縫合法

著者: 小出美穂子 ,   星野彰宏 ,   田邊吉彦

ページ範囲:P.1791 - P.1795

要約 背景:上眼瞼の睫毛乱生に対し,Hotz原法にU字縫合を加えた方法が筆者らにより考案されている。目的:難治性の上眼瞼睫毛乱生に対し,眼瞼縁外反を同時に得るために考案した埋没U字縫合法の報告。対象と方法:Hotz原法では完治しにくく,眼瞼縁の外反が望ましいと判断された13例17眼を対象とした。年齢は15~84歳(平均51歳)であり,7眼にmarginal entropionがあった。7-0ナイロン糸で埋没縫合をした。術後6か月~3年間の経過を観察した。結果:全例で機能的ならびに整容的な改善が得られ,眼瞼縁外反も持続した。1例で縫合糸が3か月後に露出し,抜糸をしたが以後18か月間の経過は順調である。結論:難治性上眼瞼睫毛乱生に対する埋没U字縫合法で,機能的ならびに整容的な改善と持続的な眼瞼外反効果が得られた。

外転神経麻痺を初発とし,うっ血乳頭,全身所見を呈した肥厚性硬膜炎の1例

著者: 荻田小夜子 ,   菅澤淳 ,   江富朋彦 ,   奥英弘 ,   池田恒彦 ,   木村文治

ページ範囲:P.1797 - P.1802

要約 目的:外転神経麻痺で初発し,うっ血乳頭と全身症状を呈した肥厚性硬膜炎の症例の報告。症例:67歳男性が数週間前に突発した複視で受診した。6年前に肺結核と診断された。所見:視力は右1.0,左1.2で,左眼に外転神経不全麻痺があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で頭蓋内病変は否定された。プリズム眼鏡で複視は消失したが,発症から4か月後に右外転神経麻痺と上転障害が生じた。8か月後にめまい,ふらつき,頭痛,けいれんなどが生じた。10か月後にうっ血乳頭が両眼に生じ,造影MRIで肥厚性硬膜炎と診断した。ステロイドのパルス療法で1か月後に眼底が正常化し,全身症状も軽快したが,左滑車神経麻痺が残った。結論:眼の運動神経麻痺が非典型的な経過をとるときには,肥厚性硬膜炎が原因である可能性がある。

片眼にIntra-LASIK,他眼に有水晶体眼内レンズ挿入術を行った1例

著者: 冨田実 ,   青山勝 ,   中村伸男 ,   中村匡志 ,   山下順 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1803 - P.1807

要約 目的:1眼にIntra-LASIKを行い,角膜厚が不十分な他眼に虹彩支持型眼内レンズを挿入した症例の報告。症例:両眼に近視がある39歳女性がコンタクトレンズ装用が困難なため,角膜屈折矯正手術を希望して受診した。右眼に-9.75D,左眼に-7.50Dの近視があり,矯正視力は右1.5,左1.2であった。径6mmのフラップを作製した場合,術後の角膜厚が右377μm,左403μmと予想された。左眼にIntra-LASIKを行い,その翌日に右眼に虹彩支持型眼内レンズを挿入した。結果:術中・術後の経過は良好で患者は満足し,6か月後に右1.5,左1.5の裸眼視力を得た。結論:1眼にLASIKの適応があり,他眼が非適応の場合,1眼にLASIKを行い,他眼に虹彩支持型眼内レンズを挿入する方法が近視に対する有効な治療法となる可能性がある。

先天赤緑色覚異常と錐体ジストロフィに伴う後天色覚異常の合併を遺伝子解析により診断した1例

著者: 葛西梢 ,   林孝彰 ,   竹内智一 ,   北川貴明 ,   月花環 ,   神前賢一 ,   久保朗子 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1809 - P.1816

要約 目的:先天赤緑色覚異常と錐体ジストロフィに伴う後天色覚異常が合併した症例の報告。症例:57歳男性が錐体ジストロフィの精査目的で受診した。所見:矯正視力は右0.4,左0.3で,両眼黄斑部に萎縮性病変を認めた。網膜電図で錐体系反応がより高度に障害されていた。パネルD-15は1型色覚と2型色覚の軸が混在し,アノマロスコープでは混色目盛値0~73で絶対等色し,その傾きは1型2色覚より急峻で,杆体1色覚(全色盲)より緩やかであった。遺伝子解析で単一のL-Mハイブリッド遺伝子が検出され,1型色覚(強度異常)の存在が確認された。結論:1型色覚に加え,錐体ジストロフィによる中心窩錐体機能低下を合併したため,1型2色覚よりも強度の色覚異常を呈した可能性が考えられた。

べらどんな

中身で勝負

著者:

ページ範囲:P.1720 - P.1720

 雑誌“Ophthalmology”は2009年で第116巻になる。その今年からスタイルが一変した。

 医学雑誌では論文の形式がほぼ決まっている。最初のページには表題,著者名と所属,和文と英文の要約などがあり,それから本文が始まる。

網膜色素変性の種類

著者:

ページ範囲:P.1741 - P.1741

 「同じ病名なら疾患はどれも同じ」と,ものの本には書いてはないが,なんとなく一般にはそう思われているようである。

 かなり以前のことだが,網膜色素変性の予後のことで鮮やかな論文があった。視力が0.1に低下する年齢を調べたもので,平均すると優性遺伝では60歳であるのに対し,劣性遺伝だと30歳なのだという。ちょっと意外な気がしたが,優性遺伝では病気の遺伝子が1個あれば発症するのに,劣性遺伝だと対になっている染色体の両方に遺伝子があることを考え,自分なりに納得した。

今月の表紙

LASIK術後のepithelium engrowth

著者: 山本哲平 ,   根木昭

ページ範囲:P.1745 - P.1745

 症例は53歳,女性。前眼部,中間透光体,眼底に異常はなく,2003年8月に両眼のLASIK手術を施行した。術後の視力は右1.2(1.5),左1.2(1.5)であった。しかし,その後に近視の戻りがみられ,2007年6月に右眼のエンハンス手術を施行し再度屈折矯正を行った。その後,経過観察中に異物感があり,液状化したepithelium engrowth(上皮下混濁)が確認された。原因は定かではないが,LASIK術後に長期間経過してからエンハンス手術を行ったため,治癒が遅くフラップの空隙に上皮細胞が集まり,混濁したと考えられる。ステロイドの内服で多少の軽減がみられたが,混濁が瞳孔領にかかってきていたため,手術にて除去した。現在はステロイドの内服も中止し,多少の瘢痕化は残っているが混濁はなく良好である。

 撮影はトプコン社製SL-8Zのフォトスリットランプを使用し,太めのスリット25倍で行った。間接照明法では混濁部位が強調されなかったため(a),直接照明を当てて撮影した(b)。全体像を把握するには,少し広角にしてスクレラルスキャッター法などが適していたと思われる。今回は,太めのスリットを拡大することで液状化している混濁がよくわかるように撮影した。

やさしい目で きびしい目で・119

まわりの助け

著者: 白神千恵子

ページ範囲:P.1765 - P.1765

 多くの女性医師がぶちあたる壁があります。育児と仕事の両立です。家庭を優先し,仕事は非常勤のアルバイトなどで収入を得ている方が多いかもしれませんが,自分のキャリア向上やスキルアップを望む女性医師は苦悩されていることと思います。

 私には6歳になる息子がいます。大学病院では臨床,研究と,たびたびの学会出張がある忙しい勤務のなか,子育てと最小限の家事をしながら毎日の生活を続けていますが,まわりの協力がなければまったく実現できないことです。自分の体が2つあるか,1日がもっと長ければ,仕事も家事も子供の相手もじっくりできるのになぁといつも思いますが,まったくの夢物語です。母親医師が忙しい仕事を続けるためには,本来自分がするべきことを誰かほかの人が代わりにしてくれないとできないのです。

ことば・ことば・ことば

血管

ページ範囲:P.1773 - P.1773

 東洋医学の「五臓六腑」に膵臓は含まれていません。この重要な器官のことを日本人が知ったのは,1774年に出版された解剖の教科書『解体新書』で記述されてからです。

 この本をオランダ語から翻訳した杉田玄白らは,これの訳語をどうするかに苦慮しました。よい案がなく,結局は原書のKlierそのものを使って機里爾としました。発音はキリイルです。

書評

白衣のポケットの中―医師のプロフェッショナリズムを考える

著者: 黒川清

ページ範囲:P.1817 - P.1817

 この数年,「プロ」という言葉がどこの職業分野でも簡単に使われてきた。しかし,「プロ」とは誰か,その資格のありようは何か,誰が決めるのか,そんなことはお構いなしに安易に使われていたところがある。

 では,「プロ」の職業人のありようとは何か。ひとことでいえば,その集団の1人ひとりが,自らを律し,その集団全体が社会からどれだけ信頼されているか,評価されているか,であろう。グローバル時代になっては,この社会が国内だけでないところも,この問題の背景にある。

文庫の窓から

『聖済総録』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1818 - P.1821

掠奪された勅撰医書

 『聖済総録』200巻(1111-1118)は,北宋第8代皇帝徽宗の勅によって成った医書である。当館所蔵の文久元年模写『医籍年表』の政和年間の部分には,本草:『本草衍義』,傷寒:『傷寒活人書』,衆疾方論:『聖済総録』,雑説・記傳・養生・運気:『聖済経』とあり,この時期の医書編纂が盛んだったことを伝えている(図1,2)。

 徽宗という皇帝は芸術にかまけ,道教に目を眩ませて政治を誤ったとされる人物である。その悪政ぶりは「政治には熱意がなく,道教を信じ,豪奢な生活をして国費を濫費した」(参考文献6)と表現され,国費を賄うために悪貨を鋳造し,官人ばかりが潤うことになるような新法を施行し,批判を浴びた。さらには道士・劉混康の,宮城東北を高くすれば子孫が繁栄する,という言を入れて風水に適った大規模な造園をするために,全国各地から奇花珍石を集める「花石綱」という事業を行うなど,民を苦しめる要因を次々と作ってしまった。

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あとがき

著者: 根木昭

ページ範囲:P.1836 - P.1836

 本号が発刊になった頃には,福岡の第63回日本臨床眼科学会も終わっていることと思います。新型インフルエンザ流行のピークや台風の接近が会期に重なると予測され心配しています。眼科専攻医の減少も心配です。初期臨床研修制度が導入されるまでは新規専攻医の数は毎年400~450人でしたが,導入とともに減少し今年は300人に満たなかったとも聞きます。東京地区への集中も問題です。大学では教室員の減少に加え,病院収支の改善圧力から診療負担が増え,教育への人員,時間不足が深刻です。来年から少し制度の手直しが始まり,民主党は医学部の定員増を打ち出していますが,流れを止められるか疑問です。教育・研究環境の充実のための打開策を早急に講ずる必要があります。

 今月号の特集は「黄斑手術の基本手技」です。黄斑手術は今でこそ日常的な手術になりましたが,私が眼科医になった頃には黄斑領域は聖域であり,触るなど考えられないことでした。特に特発性黄斑円孔が閉鎖し視力が改善するようになったことは,近年の眼科学のトピックスの1つに挙げられます。後部硝子体剝離が起こる前に円孔が形成されるという肉眼的観察から病態を推察し,手術治療に発展させた過程は臨床医学のあるべき姿の模範といえます。当時は特発性黄斑円孔をみると,当然後部硝子体剝離による黄斑部網膜欠損だと思い込み,硝子体を詳細に観察することはなく,視力回復につながる治療など思いもよらないことでした。自らの診療姿勢を反省させられる疾患です。その後の発展は急速で,硝子体切除機器の進化,観察系の改良,硝子体の可視化などわが国も多くの貢献をしています。硝子体手術を始めた方にもベテランの方にも役立つ特集です。ぜひお目通しください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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