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連載 網膜硝子体手術手技・35
未熟児網膜症(1)
著者: 浅見哲1 野々部典枝1 寺崎浩子1
所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学
ページ範囲:P.1746 - P.1752
文献購入ページに移動未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)は,発育途上の未熟な網膜血管が蘇生のための高濃度酸素投与などの環境変化の影響を受けて増殖性の変化を生じる疾患であり,進行して網膜剝離に至れば非常に予後不良な病態となり,失明率も高くなる。
近年の新生児救命医療の目覚ましい進歩により,わが国の低出生体重児の生存率は著しく改善しており,新生児死亡率(出生千対:‰)は1950年の27.4から2008年の1.2へと減少し1),世界一の低水準を年々更新している。体重別にみても,1,000g以上の極低出生体重児の新生児死亡率は1980年の20.7%から2000年には3.8%に,500g以上の超低出生体重児の新生児死亡率は55.3%から15.2%にまで低下した2)。そのような周産期医療の進歩を受けて,法律で定める人工妊娠中絶が可能な期間という点からみても,1975(昭和50)年までは28週未満だったのが,1976年からは24週未満,1991(平成3)年には22週未満へと変更になっている。
このように周産期医療,新生児救命医療を取り巻く環境の劇的な進歩により生存率の向上がもたらされたが,このことは取りも直さず,より未熟な超低出生体重児の割合の増加と,より重症な未熟児網膜症の増加を示している。特に近年では未熟児網膜症の最重症型であるaggressive posterior ROP(以下,AP-ROP)が増加傾向にある。
未熟児網膜症を発症しても,適切な時期の網膜光凝固術により大部分の症例では緩解するが,それでもなお牽引性網膜剝離へと進行した症例に対しては強膜内陥術,輪状締結術,硝子体手術などの手術治療が必要となる。最近になりベバシズマブなどの抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)抗体を,適応外ではあるが未熟児網膜症にも応用できるようになり,今後の治療の方向性に劇的な変化をもたらそうとしている。
本稿では,未熟児網膜症の分類や概念と術式の選択について解説し,次号でstage 4A~stage 5に対する強膜内陥術,輪状締結術,硝子体手術についての実際の手術手技を解説する。
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