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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

視神経炎の新しい考え方 “抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎”

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.1843 - P.1848

 近年発見された抗アクアポリン(AQP)4抗体は視神経炎の考え方を大きく転換させた。抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は失明率が高く,両耳側半盲や頭蓋内視神経の病変を示し,ステロイドパルス治療無効例に血漿交換治療が有効で,再発抑制には免疫抑制薬の継続投与が必要である。

眼科図譜・354

網膜海綿状血管腫の1例

著者: 加藤健 ,   牧野伸二 ,   金上千佳 ,   茨木信博

ページ範囲:P.1851 - P.1853

緒言

 網膜海綿状血管腫は比較的稀な血管性過誤腫で,小円形の血管瘤がぶどうの房状に集まって形成され,なかには遺伝性を有するもの,皮膚や頭蓋内の血管腫を伴うものもある1,2)。わが国での報告は20例程度で,黄斑部の報告例はさらに少ない3~5)。今回,網膜海綿状血管腫の1例を経験し,光干渉断層計(optical coherence tomograph:以下,OCT)検査を行ったので報告する。

日常みる角膜疾患・81【最終回】

遷延性角膜上皮欠損

著者: 柳井亮二 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1854 - P.1857

症例

 患者:59歳,男性

 主訴:右眼の霧視

 既往歴:糖尿病と高血圧に対し内服治療中であった。

 家族歴:特記すべきことはない。

 現病歴:2か月前に耳鼻科で副咽頭間隙腫瘍に対する腫瘍切除術を施行され,術後から右三叉神経麻痺と外転神経麻痺が出現した。1か月前から右眼の霧視を自覚した。近医を受診したところ角膜上皮欠損を指摘され,血清点眼による治療を受けたが角膜上皮欠損の範囲は縮小せず,当科を紹介され受診した。

 初診時所見:視力は右指数弁(矯正不能),左0.5(0.8×+0.50D()cyl-1.00D 100°),眼圧は右21mmHg,左15mmHg(トノペン®)であった。右眼の角膜は中央部から下方にかけて周堤を伴った上皮欠損がみられ,実質浮腫を伴っていた(図1)。涙液機能はSchirmerテスト第1法で右2mm,左8mmであった。角膜知覚検査は右5mm未満,左60mm(Cochet-Bonnet知覚計)であった。

 治療経過:神経麻痺性角膜症による遷延性角膜上皮欠損という診断でサブスタンスP由来のFGLM-アミド+インスリン様成長因子(IGF-Ⅰ)由来のSSSR点眼治療を開始した。翌日から角膜上皮欠損の面積が縮小し,角膜上皮が被覆された部位から実質浮腫も軽快し,角膜の透明性が徐々に回復した。角膜上皮欠損が完全に消失し(図2),治療開始1か月後に視力は右0.05(0.1×-5.00D)に改善した。以後,当院外来で経過を観察しているが,角膜上皮欠損の再発はみられず,最終診察時の視力は右0.06(0.15×-5.00D)である(図3)。

網膜硝子体手術手技・36【最終回】

未熟児網膜症(2)

著者: 浅見哲 ,   野々部典枝 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1860 - P.1865

はじめに

 前号では未熟児網膜症の概念,分類,手術時期,術式の選択などについて解説した。本号では,それぞれの術式の具体的な手術手技について解説する。

説き語り論文作法・9

考按の構造

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.1867 - P.1873

教授 60歳過ぎたオッサンが,いつまでも記憶に残してると思うなよ(笑)。先に「先週,ここまでしていただいたんですけど,今日は続きをお願いします」っていうところからいかんと……。人の気持ちを酌めるような男でないとイカンね(笑)。

 「対象と方法」まで終わったンやね?

伊集院 「結果」までみていただきました。でも,先週ご指摘いただいたところに修正を入れてあります。

もっと医療コミュニケーション・24

患者が本当に言いたいことは何でしょう?―主訴の整理をしてあげましょう

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.1878 - P.1880

 「目の中にクラクラと雲の形のようなものが見えて,それは朝から晩まで見えているというよりは,昼間外に出たときとか,室内であっても比較的明るい部屋のほうが多くて,空に浮かんでいる雲の形でいえば,こんなような形なのですが,そのとき頭も痛くなるのです。いったいどうなっているんでしょうか?」と,こんな調子でなんだかとても説明が長々しくなってしまい,何を一番言いたいのかがよく伝わらない患者がいます。聞いている医師も,時間の関係もあって焦りのような気持ちをもち,内心「困ったなあ」と思い始めます。

 こんな話を親しい友人のK先生に聞いて,私がふと思い出したのは,元夫だった心臓外科医Sの話です。彼は,患者の話がとぐろを巻いたように長くて,痛いのか痛くないのかさっぱりわからず,手術をしたいのかしたくないのかもよくわからないので,つい「そんなとぐろを巻いたような話し方は,ほとんど不定愁訴だね」と言ってしまったのでした。

臨床報告

網膜細動脈瘤破裂による黄斑部出血で黄斑円孔を生じた6例

著者: 後藤信祐 ,   川路隆博 ,   相良仁奈 ,   猪俣泰也 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.1891 - P.1894

要約 目的:網膜細動脈瘤の破裂後に黄斑円孔が発見された6症例の報告。症例:2006年1月までの43か月間に網膜細動脈瘤の破裂による黄斑部出血に対し,硝子体手術を46眼に行った。うち6眼に黄斑円孔を術中に発見した。所見:6例はすべて女性で,年齢は69~84歳(平均78歳)であった。発症から手術までの期間は8~120日(平均37日)であった。全例に内境界膜下出血と網膜下出血,3例で黄斑円孔内に器質化した血腫があった。内境界膜剝離とガスタンポナーデを行い,3例では再手術を要したが最終的に全例で円孔が閉鎖した。最終視力は0.04~0.3で,悪化した症例はなかった。結論:網膜細動脈瘤破裂で黄斑出血があるときには,黄斑円孔が生じている可能性がある。

多施設による緑内障患者の実態調査―高齢患者と若年・中年患者

著者: 増本美枝子 ,   井上賢治 ,   塩川美菜子 ,   中井義幸 ,   森山涼 ,   若倉雅登 ,   富田剛司

ページ範囲:P.1897 - P.1903

要約 目的:通院加療中の緑内障患者につき,治療内容を多施設で調査した報告。対象と方法:23施設に調査票を送り,緑内障または高眼圧患者1,935例での治療状況を調べた。男性768例,女性1,167例で,平均年齢は66.8±13.5歳である。1,228例が65歳以上の高年者,707例が65歳未満の若年中年者であった。結果:薬剤数の平均は高齢者群では1.9±1.0剤,若年中年者群では1.4±1.0剤で,有意差があった。両群ともに,単剤使用例ではラタノプロスト,2剤併用例ではラタノプロストとβ遮断点眼薬の組合せが最も多かった。高齢者群と比較し,若年中年者群では,単剤としてはゲル化剤添加チモロールとベタキソロール,2剤併用ではラタノプロストとゲル化剤添加チモロールの組合せが有意に多かった。結論:緑内障に対する点眼治療の内容は,高年者と若年中年者とでほぼ同様であった。

16歳男性に発症した網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 吉村将典 ,   滝昌弘

ページ範囲:P.1905 - P.1909

要約 目的:16歳の男性に発症した網膜中心静脈閉塞症の報告。症例:16歳男性が1週間前からの右眼視力低下で受診した。所見:矯正視力は右0.5,左1.5で,右眼に乳頭発赤と静脈蛇行を伴う網膜出血があった。血液所見は白血球の増加以外はすべて正常であった。蛍光眼底造影では血管床の閉塞や囊胞様黄斑浮腫はなかった。アスピリンとプレドニゾロン内服で1か月後に眼底所見は改善し,右眼視力が1.2に回復した。結論:本症例は乳頭血管炎に続発した非虚血性の網膜中心静脈閉塞症であると推定される。

ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切替え効果

著者: 中原久惠 ,   清水聡子 ,   鈴木康之 ,   杉田達

ページ範囲:P.1911 - P.1916

要約 目的:緑内障に対するラタノプロスト点眼をトラボプロストに切替えた結果の報告。対象と方法:0.005%ラタノプロスト点眼で加療中の110例110眼を対象とし,0.004%トラボプロスト点眼に切替え,4か月間の経過を追った。副作用で脱落した4眼を除く106例を解析した。内訳は,原発開放隅角緑内障61眼,正常眼圧緑内障28眼,原発閉塞隅角緑内障7眼,続発緑内障10眼である。結果:全症例の平均眼圧は,切替え前後で有意差はなかった。切替え前の眼圧が15mmHg以下の58眼では,2か月と4か月後の眼圧が有意に高かった。角膜上皮障害は,切替え後で有意に減少した。結論:緑内障に対するラタノプロスト点眼をトラボプロスト点眼に切替えると,角膜上皮障害は減少し,眼圧は不変または上昇する。

新診断基準を用いた眼病変からのサルコイドーシスの診断

著者: 澁谷悦子 ,   石原麻美 ,   中村聡 ,   林清文 ,   水木信久

ページ範囲:P.1917 - P.1922

要約 目的:新診断基準による眼病変からのサルコイドーシスの診断と評価。対象と方法:過去8年間に当科ぶどう膜炎外来でサルコイドーシスが疑われた197例を新診断基準で検討した。結果:サルコイドーシスと確定診断された97例のうちの臨床診断群52例と,確定診断ができなかった疑い群100例の比較では,眼病変に相違はなかったが,全身検査での陽性率に差があった。新基準で新たに「疑い群」から「臨床診断群」になった26例では,全例に両側肺門リンパ節腫脹(BHL)があった。一方,旧基準で「臨床診断群」であった症例中9例が,BHL陰性のため「疑い群」になった。結論:新診断基準ではBHL陽性による診断がつけやすくなったため,診断率が向上した。BHL陰性例の診断は今後の問題である。

先天性眼瞼下垂手術症例の術後経過と追加手術

著者: 五嶋摩理 ,   山田はづき ,   川本潔 ,   松原正男

ページ範囲:P.1923 - P.1926

要約 目的:先天性眼瞼下垂に対する初回および追加手術の結果の報告。対象と方法:過去7年間に手術を行った軽度ないし中等度の眼瞼下垂40例50眼の2年以上の経過を検索した。年齢は1~19歳(平均6.3±4.8歳)である。瞼裂狭小症候群が3例あり,2例ではすでに他医で手術が行われていた。原則として眼瞼挙筋短縮術を行い,内眼角変形には内眼角形成を行った。全例で2年以上の経過を追跡した。結果:初回手術により47眼で,追加手術により3眼で眼瞼下垂が改善し,整容的にも良好な結果が得られた。2眼では余剰皮膚や睫毛内反への手術を行った。結論:先天性眼瞼下垂に対し,眼瞼挙筋短縮術は有効であった。整容的な目的で他の手術を必要とする場合があり,成長に伴う長期観察が望ましい。

両側性朝顔症候群にもやもや病を合併した1例

著者: 河野尚子 ,   中馬秀樹 ,   齋藤真美 ,   中馬智巳 ,   直井信久 ,   杉本哲朗 ,   是枝麻子

ページ範囲:P.1927 - P.1931

要約 目的:両眼に朝顔症候群がある症例にもやもや病が併発した報告。症例:2歳10か月の男児が眼位異常で近医を訪れ,両眼の乳頭異常を発見されて紹介され受診した。所見と経過:両眼に朝顔症候群の乳頭異常があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で右視神経低形成,完全脳梁欠損があり,加えてもやもや病が疑われた。磁気共鳴血管造影(MRA)で両側の内頸動脈狭窄,中大脳動脈の狭窄,基底核領域のもやもや血管があり,両側もやもや病と診断された。左右それぞれに血行再建術が行われた。6歳8か月の現在,新しい脳梗塞はなく,矯正視力は右0.9,左0.3である。結論:朝顔症候群では,脳虚血発作がなくても,もやもや病が併発している可能性がある。

幼小児におけるOCT3000TM黄斑部網膜厚測定の再現性

著者: 髙橋慶子 ,   石川均 ,   清水公也 ,   大本文子 ,   庄司信行 ,   川守田拓志 ,   髙野雅彦

ページ範囲:P.1933 - P.1938

要約 目的:光干渉断層計(OCT)で小児の黄斑部網膜厚を測定した結果の報告と再現性の検討。対象と方法:3~9歳(平均4.8±1.6歳)の小児30眼を対象として黄斑部網膜厚を測定した。全例が1.2の矯正視力で,屈折は平均-2.91±0.92Dであった。測定にはOCT3000TMのfast macular thicknessプログラムを用い,2か月以内に同一検者が再測定した。結果:プログラムから算出されたfovea minimum,fovea,inner retinal,outer retinalの各部位での測定値には,初回と2回目の測定で差はなく,強い相関があった。結論:3~9歳の小児では,OCT3000TMで測定した黄斑部網膜厚の測定値には良好な再現性がある。

カラー臨床報告

炭酸ガス(CO2)レーザーを使用した眼窩脂肪ヘルニア手術

著者: 宮田信之 ,   金原久治 ,   岡田栄一 ,   水木信久

ページ範囲:P.1885 - P.1888

要約 目的:炭酸ガスレーザーを用いて球結膜下への眼窩脂肪ヘルニアに行った手術の報告。対象と方法:炭酸ガスレーザーで手術をした眼窩脂肪ヘルニア16例20眼を対象とした。男性17眼,女性3眼で,年齢は38~87歳(平均67歳)である。球結膜とテノン囊をレーザーで切開して露出した脂肪組織を切除し,断端を再びレーザーで止血した。ヘルニア門を閉鎖し,再脱出を防止するため,テノン囊を強膜に縫着した。結果:炭酸ガスレーザーを使用することで切開と止血が同時にでき,手術時間は10~15分であった。全例で良好な結果が得られ,術後経過も良好であった。主訴と整容的な改善について高い満足度が得られた。結論:炭酸ガスレーザーを用いる眼窩脂肪ヘルニア手術は,出血が少なく短時間で行うことができ,良好な結果が得られた。

べらどんな

生きている化石

著者:

ページ範囲:P.1848 - P.1848

 シーラカンスの生きている姿をはじめて見た。もちろんテレビでである。

 シーラカンスという魚のことはかなり以前から知られていた。出現したのは4億年前で,海にも淡水にも住み,多数の化石が残っている。しかし6千万年前に絶滅したと思われていた。恐竜がいなくなったのと同じ頃である。

モノグラフ

著者:

ページ範囲:P.1938 - P.1938

 学術書にはモノグラフ(monograph)という分野がある。「特定の主題について総合的・徹底的に扱った専門書」を意味する。

 ドイツではHandbuchがこれに相当しよう。英語のhandbookはマニュアル的なものだが,それとは違い,その分野のことなら何でも書いてある本である。

今月の表紙

網膜末梢血管拡張症

著者: 竹内勝子 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1859 - P.1859

 症例は63歳男性。人間ドックで右眼底の異常を指摘され,近医を受診し,右眼黄斑変性の疑いで紹介され,当院受診となった。初診時視力は(1.0),自覚症状は特になく,前眼部・中間透光体に明らかな異常はなかった。眼底では右眼黄斑部の毛細血管の拡張,毛細血管瘤,滲出性変化に伴う硬性白斑が観察された。蛍光眼底造影では,造影初期に毛細血管の拡張と多発する毛細血管瘤がみられ,中心窩無血管領域の拡大が観察された。また網膜周辺部にも毛細血管瘤,毛細血管の拡張とそれに伴う蛍光漏出が観察され,Leber粟状網膜血管腫と診断された。造影後期には黄斑部の拡張した毛細血管と毛細血管瘤からの蛍光漏出と囊胞様黄斑浮腫が観察された。

 撮影した眼底カメラは,ZEISS FF450PlusにデジタルカメラVictor KY-75を搭載している。

やさしい目で きびしい目で・120

私の性格―乱視編

著者: 有田玲子

ページ範囲:P.1877 - P.1877

 私は両眼,4.5ジオプトリー程度(!)の直乱視です。実はこれでも裸眼視力で0.7はあります。午前中や,体調のいいときは1.0ぐらい見えることもあります。ですので,学校の視力検査に引っかかることもなく,眼科にも行ったことがなかったので,眼科に入局するまで自分が乱視だとは知りませんでした。入局後,オーベンのK先生にオートレフの測定の仕方を教わったとき,試しに私の眼のデータをとり,K先生が測り間違いではないかとびっくりされているのが意外でした。その後,矯正してみて「世の中,こんなにクリアーにモノが見えるんだ!」いままでの自分の見え方の概念が根底から覆されるほどのショックでした。

 そういえば幼稚園の頃,塗り絵がとても苦手でした。線の内側にうまく塗ることができず,いつもはみだして塗ってしまうのです。折り紙も苦手でした。紙の端と端を合わせられないのです。それから部屋の掃除が苦手でした。自分ではきれいに掃除したつもりなのに,いつもやり直しをさせられました。親には見えているホコリが私には見えませんでした。小学校高学年になるとノートの横線が細くなります。その横線上に合わせて字を書けませんでした。そこで私は「大雑把で不器用」というレッテルを貼られ,ずっとそれが自分のコンプレックスでした。あとで検査したところ,母と弟は完全な正視で父と私が強度の乱視でした。母に私の見え方がまったく理解できなかったのもうなずけます。

ことば・ことば・ことば

ソーセージ

ページ範囲:P.1881 - P.1881

 バイキングの朝食が好きですが,オランダに行くと楽しさが倍になります。ハムが何種類もあり,それが実においしいからです。

 英語のhamは古代英語の時代からある古い単語ですが,本来は「大腿部」のことでした。シェイクスピアは,老人のことを「機知に乏しく,太腿が弱い」とハムレットに言わせています。“They have a plentiful lack of wit, together with most weak hams.”がその原文です。

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あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1952 - P.1952

 第63回日本臨床眼科学会が終わりました。母校が主催校であったため贔屓眼に見てしまうことを差し引いても,素晴らしい学会であったと思います。そのなかで特に印象に残ったのは,Ryan教授の特別講演でした。トランスレーショナル研究に関する講演でしたが,基礎研究,臨床医学,医薬産業が互いに結び付いて新しい治療を患者に提供し,さらにそれが新しい産業を作り出している今の状況を解説し,“Golden Age”という言葉で讃えられていました。ただし,これを額面どおりに受け止めるのは短慮でしょう。「これは,医学産業における米国の圧倒的勝利宣言ではないか?」と講演後にたずねたら,「でも米国は医療保険が最悪だからね」とウインクしながら答えられたところを見ると図星でしょう。医学は21世紀の主要産業になるといわれていますが,この分野でわが国が生き抜いていくには,優れた戦略と相当な努力が必要であると感じました。

 さて,本号の「今月の話題」は抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎です。中尾雄三先生が,本文文頭に「視神経炎の診断,治療,予後に関して,いままでの眼科の教科書を書き換える云々」と書かれていますが,決して誇張ではありません。偶然ですが,数か月前から私が診察していた原因不明の視神経炎の患者さんが同疾患であることがわかり,血漿交換治療を行ったところ,手動弁であった視力がわずか1週間で0.9に回復しました。この疾患の概念,治療法の出現があと数年遅かったら,件の患者さんは両眼失明していたでしょう。医学の進歩に感謝するとともに,医師は常に最新の知識を得る必要があることを痛感しました。いくら“Golden Age”に生きていても,医師にその知識がなければ,患者さんは救われません。編集委員としては,最新の知識を提供できるように努力する所存です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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