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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

特集 第62回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

ヒーロンV®の角膜内皮細胞保護作用―術後1年の観察

著者: 橋本尚子 ,   原岳 ,   原孜 ,   原玲子 ,   原たか子 ,   成田正弥 ,   峯則子

ページ範囲:P.285 - P.288

要約 目的:白内障手術で使用するビスコート®とヒーロンV®が角膜内皮に及ぼす影響の報告。対象と方法:白内障手術を行った67眼を対象とした。無作為に選んだ33眼にはビスコート®,34眼にはヒーロンV®を用いた。術前と術後1,3,12か月に角膜内皮細胞の密度を測定した。結果:術前と術後12か月の角膜内皮細胞密度は,ビスコート®群ではそれぞれ2,268±369と2,170±417であり,ヒーロンV®群では2,333±196と2,234±302であった。角膜内皮細胞の減少率は,前者で3.8%,後者で4.2%であり,両群間に有意差はなかった。結論:ヒーロンV®にはビスコート®と同様な角膜内皮細胞の保護効果がある。

聖隷横浜病院でロービジョンケアを行った身体障害者手帳取得者の現況

著者: 西田朋美 ,   大森雅子 ,   斉藤奈緒子 ,   神尾美香子 ,   河野真穂 ,   稲森由美子

ページ範囲:P.289 - P.292

要約 目的:ロービジョンケアを受け,その後に視覚障害者の手帳を取得した症例の現況報告。対象と方法:当院で過去3年間にロービジョンケアを受けた62例を対象とした。結果:男性33例,女性29例で,年齢は31~95歳(平均71歳)であった。原因疾患として,糖尿病網膜症が19例,緑内障が12例だった。ロービジョンケア開始時に30例が手帳を所持し,うち6例はその後に等級変更を必要とした。ロービジョンケア開始後に32例が手帳を初めて取得した。最終等級は2級が20例,5級が19例であった。結論:新規の手帳申請者が高齢者に多く,手帳を取得する該当者への情報提供が眼科臨床で必要である。

緑内障検診におけるHeidelberg Retina TomographⅡ(version 3.0)GPSの有用性

著者: 澤田有 ,   石川誠 ,   佐藤徳子 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.293 - P.296

要約 目的:HRTⅡ(Heidelberg Retina TomographⅡ version 3.0)の緑内障検診における有用性の検討。対象と方法:緑内障検診に参加した710人1,420眼を対象とした。1次検診でHRTⅡ測定をし,そのGPS globalの結果を,視野と乳頭所見で判定した緑内障の臨床診断と比較した。結果:HRT測定は参加者の94.3%で可能であり,うち82.9%に信頼性のある結果が得られた。臨床診断での緑内障の疑いとHRTのボーダーラインの分類法により,感度は55.2~100%,特異性は58.6~86.4%であった。結論:GPSに基づくHRTⅡ測定は,集団検診で緑内障を検出するのに利用できる可能性がある。

正常眼圧緑内障患者における持続型カルテオロール点眼薬の効果

著者: 井上賢治 ,   若倉雅登 ,   井上治郎 ,   富田剛司

ページ範囲:P.297 - P.301

要約 目的:正常眼圧緑内障に対する持続型カルテオロール点眼の効果の報告。対象と方法:正常眼圧緑内障37例37眼を対象とした。アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼液を1日1回点眼させ,12か月間の眼圧を測定した。Humphrey視野検査を投与前と投与12か月後に行った。結果:眼圧は投与前17.0±1.8mmHg,投与6か月後14.6±2.0mmHg,投与12か月後14.6±1.7mmHgで,有意に下降した(p<0.0001)。投与開始後12か月間の眼圧下降幅は2.2~2.6mmHg,眼圧下降率は12.7~14.7%であった。投与前後での視野に平均偏差(mean deviation)の変化はなかった。副作用のため,2例(5.1%)で点眼を中止した。結論:アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬は,正常眼圧緑内障に対し,良好な眼圧下降効果と安全性がある。

寄生虫性網膜囊胞症に対し硝子体手術を施行した1例

著者: 増田高央 ,   山地英孝 ,   白神千恵子 ,   福田恒輝 ,   大垣修一 ,   原田正和 ,   影井昇 ,   白神史雄

ページ範囲:P.303 - P.306

要約 目的:寄生虫による網膜囊胞症の症例の報告。症例:24歳男性が4か月前からの急激な左眼視力低下で受診した。東アフリカのマラウィに2年間滞在し,帰国直後に視力障害が生じた。他医での検査で,IgE値と有鉤囊虫抗体値が上昇していた。所見と経過:矯正視力は右1.2,左0.6で,左眼黄斑部に黄白色病巣があり,硝子体の下方に白色の球体があった。硝子体手術で黄斑部の病巣と白色球体を切除し,シリコーンオイル充填を行った。摘出標本には虫体は証明されなかった。内科的検索で小腸に長い扁平な虫体が確認され,有鉤条虫と判定された。0.1の最終視力が得られた。結論:寄生虫による網膜囊胞症の初期には鑑別診断が困難な事例がある。通常とは異なる所見と経過や患者背景に留意し,血液検査や寄生虫の抗体検査を行う必要がある。

糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニドの治療効果の比較

著者: 大野尚登 ,   森山涼 ,   菅原道孝 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.307 - P.309

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニド(以下,トリアムシノロン)の硝子体注入の効果の比較。対象と方法:糖尿病黄斑浮腫がある20例24眼を対象とした。男性10例と女性10例で,平均年齢は62歳であった。14眼にはベバシズマブ,10眼にはトリアムシノロンの硝子体注入を行った。術後24週までの経過を追跡した。視力はlogMARで評価し,中心窩網膜厚は光干渉断層計で測定した。結果:術後の視力と中心窩網膜厚は両群ともに改善した。両群間に有意差はなかった。治療による眼圧上昇はなかった。結論:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブまたはトリアムシノロンの硝子体注入は短期的に有効であった。両者間に効果の差はなかった。

硝子体手術既往のある増殖硝子体網膜症における残存硝子体皮質

著者: 田中住美 ,   島田麻恵 ,   堀貞夫 ,   馬場隆之

ページ範囲:P.311 - P.314

要約 目的:医原性増殖硝子体網膜症で,残存硝子体皮質が病態に及ぼす影響の報告。症例:34か月間に硝子体手術を行った硝子体手術の既往がある増殖硝子体網膜症新分類grade C 27例27眼を対象とした。網膜表面に接着した均質の半透明または透明膜を残存皮質と定義し,その範囲,部位,網膜再剝離の原因になった網膜裂孔との関係を,トリアムシノロンアセトニド併用の硝子体手術で検討した。結果:残存皮質は24眼にあり,近傍のレーザー凝固斑,医原性裂孔,2次性黄斑円孔が開放していた。結論:硝子体手術の既往がある増殖硝子体網膜症では,残存硝子体皮質が裂孔の再開放の原因になる可能性がある。

63歳時に輪状暗点を契機に診断されSAG遺伝子変異(1147delA)が認められた小口病

著者: 林孝彰 ,   竹内智一 ,   月花環 ,   神前賢一 ,   常岡寛

ページ範囲:P.315 - P.321

要約 目的:輪状暗点で小口病と診断された症例の報告。症例:63歳男性に1年前から視野異常があり,眼底異常が発見されて受診した。幼少時から夜盲があった。同胞4人に眼底疾患はなく,両親は近親婚でなかった。所見:視力は右1.2,左1.5で,眼底後極部の網膜色素上皮の萎縮と,その周囲に金箔様の反射が両眼にあった。長時間の暗順応で水尾・中村現象が陽性であった。Goldmann視野検査で固視点から20°に輪状暗点があり,網膜電図で杆体反応の消失,最大応答と錐体系反応の低下があった。多局所網膜電図で全体的に応答密度の低下があった。6年後の視力は不変であったが,輪状暗点が拡大していた。末梢血液からDNAを抽出し,SAG遺伝子の翻訳領域をpolymerase chain reaction法で増幅し,1147delA変異のホモ結合が証明された。結論:1147delA変異がある小口病には,進行性の錐体機能低下と進行性の視野障害がある可能性がある。

HIV網膜症とCD4陽性Tリンパ球数および血漿中HIV RNA量との関連

著者: 武田憲夫 ,   八代成子 ,   植村明弘

ページ範囲:P.323 - P.326

要約 目的:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)網膜症でのCD4陽性Tリンパ球数と血漿中HIV RNA量の報告。対象と方法:HIV網膜症と診断された105例163眼につき,CD4数とHIV RNA量を診療録で検索した。結果:163眼中149眼(91.3%)ではCD4数が200/μl未満であり,これ以上の14眼中13眼ではHIV RNA量が2.1×104コピー/ml以上であった。163眼中144眼(88.3%)ではHIV RNA量が1×104コピー/ml以上であり,これ未満の19眼中16眼ではCD4数が200/μl未満であった。結論:HIV網膜症が発症した眼の多くでは,CD4陽性Tリンパ球が少なく,血漿中HIV RNA量が高い。

血管瘤型傍中心窩毛細血管拡張症と糖尿病

著者: 西村真一 ,   佐藤健一

ページ範囲:P.327 - P.330

要約 目的:特発性傍中心窩毛細血管拡張症と糖尿病との関連の報告。対象と方法:過去6年間に特発性傍中心窩毛細血管拡張症と診断した5症例を検索した。問診により糖尿病の有無を判定した。結果:全例が男性で,4例が片眼性,1例が両眼性であり,年齢は51~73歳(平均61歳)であった。全例が血管瘤型で,Gass分類1群であった。1例には黄斑部外にも毛細血管瘤があった。罹患眼の視力は0.15~1.2の範囲にあった。5例中3例(60%)に糖尿病があり,うち2例は片眼例であった。結論:特発性傍中心窩毛細血管拡張症の患者には糖尿病が併発している可能性がある。

視細胞内節外節接合部ラインの不明瞭化とその改善を認めた急性網膜色素上皮炎の1例

著者: 高野恵利 ,   林孝彰 ,   竹内智一 ,   常岡寛

ページ範囲:P.331 - P.336

要約 目的:急性網膜色素上皮炎の症例の報告。症例:29歳男性が数日前からの左眼傍中心暗点で受診した。前駆症状はなかった。所見:矯正視力は右1.2,左0.7で,両眼に強度の近視があった。右眼には異常がなく,左眼の中心窩上耳側に1/3乳頭径の黄白色滲出斑とその中央に灰白色点があった。蛍光眼底造影とあわせ,急性網膜色素上皮炎と診断した。光干渉断層計で滲出斑に一致して脈絡膜の高反射があり,視細胞内外節の接合部ラインが滲出斑の周辺部から中心窩まで不明瞭であった。8週間後にこの接合部ラインは明瞭になり,視力は1.0に回復した。結論:急性網膜色素上皮炎では視細胞内外節の接合部ラインが不明瞭化することがあり,この境界線の明瞭化が視力の改善に関連した可能性がある。

メトトレキサート大量療法が有効であった転移性眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 細川海音 ,   寺田佳子 ,   山根貴司 ,   原和之 ,   寺田欣矢 ,   佐々木達也 ,   野田昌昭

ページ範囲:P.337 - P.340

要約 目的:化学療法により寛解したのち,眼と脳に再発した悪性リンパ腫に大量メトトレキサート療法が奏効した症例の報告。症例と所見:71歳女性が5か月前からの左眼霧視で受診した。18か月前に悪性リンパ腫が頸部に発症し,化学療法で寛解していた。矯正視力は右0.5,左手動弁で,左眼に硝子体混濁,両眼に網膜滲出斑があった。左眼の硝子体生検で悪性リンパ腫と診断した。放射線療法で左眼の病変は軽快したが,1か月後に右眼に硝子体混濁が生じ,視力が0.07に低下した。同時期に脳内転移が発見された。大量メトトレキサート療法で右眼と脳内病変は寛解し,7か月後に右眼視力は0.4に改善した。結論:眼内と脳に転移した悪性リンパ腫に対し,大量メトトレキサート療法が有効であった。

片眼の白内障手術による両眼視機能の検討

著者: 野崎令恵 ,   勝海修 ,   福嶋紀子 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.343 - P.345

要約 目的:片眼に白内障手術と眼内レンズ挿入が行われた症例での立体視と不等像視の報告。対象と方法:片眼に白内障手術が行われた11例を対象とした。男性7例,女性4例で,年齢は39~79歳(平均66歳)であった。僚眼の視力はすべて1.0以上であった。手術では水晶体乳化吸引術を行い,眼内レンズを囊内に固定した。視力,立体視,不等像視の検査は,術前と術後1か月に実施した。結果:術後の視力と立体視は全例で改善した。不等像視は増加2例,不変3例,減少6例であった。増加した2例は,眼軸長が26mm以上であった。結論:片眼への白内障手術と眼内レンズ挿入で立体視が改善する。眼軸が長い眼では両眼手術が望ましい。

連載 今月の話題

緑内障性視神経症は構造障害が機能障害に先行するのか

著者: 中村誠

ページ範囲:P.261 - P.266

 緑内障性視神経症では,視野変化に先んじて視神経乳頭の構造変化が生じる一方,後期には明らかな乳頭変化を検出しにくく,進行の有無はもっぱら視野変化で判定する。このため,構造と機能障害には直線的な相関はないとされる。しかし,これは必ずしも,緑内障性視神経症において網膜神経節細胞死を代償する機能の余剰能を反映しているわけではない。また,日常汎用される静的視野の測定点が少ないことに主要因があるわけでもないようである。はたして本当に構造障害は機能障害に先行しているのであろうか。

日常みる角膜疾患・72

アレルギー性結膜炎

著者: 近藤由樹子 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.270 - P.272

症例

 患者:31歳,女性

 主訴:両眼の瘙痒感

 現病歴:10年ほど前から慢性的な眼瘙痒感と時に異物感・眼痛があり,前医でアレルギー性結膜炎と診断された。クロモグリク酸ナトリウム点眼による治療を受けたが改善せず,当院を受診した。

 既往歴:前医で皮膚テストを行ったところ,ハウスダストに陽性反応があった。花粉症やコンタクトレンズ装用歴はなく,アトピー性皮膚炎はなかった。

 家族歴・生活歴:特記すべきことはない。

 初診時所見:視力は右1.2(1.5),左1.0(1.2)で,眼圧は右12mmHg,左12mmHg(非接触型眼圧計)であった。細隙灯顕微鏡検査では,両眼の角膜は透明・平滑で上皮障害はなく,前房内に炎症はなかった。眼球結膜に充血はなく,眼瞼結膜に軽度の充血と浮腫,結膜乳頭を認めた(図1)。中間透光体および眼底には明らかな異常はなかった。

 経過:慢性的な眼瘙痒感と眼瞼結膜の充血・浮腫,結膜乳頭を認め,皮膚テストでハウスダストに陽性反応があったことから,臨床的に通年性アレルギー性結膜炎と診断した。0.1%フルオロメトロンとフマル酸ケトチフェン点眼による治療を開始した。経過中に十分な症状の改善が得られず,フマル酸ケトチフェン点眼をオロパタジン塩酸塩点眼に変更し,0.1%フルオロメトロン点眼と併用した。次第に眼瘙痒感は軽快し,結膜充血も改善を認め,0.1%フルオロメトロン点眼は中止し,オロパタジン塩酸塩点眼のみを継続した。

網膜硝子体手術手技・27

裂孔原性網膜剝離(2)―強膜内陥術(2)―部分的バックリング

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.274 - P.281

はじめに

 前号では冷凍凝固術まで解説した。本号では部分的バックリング手術における,裂孔のマーキング以降の手技について述べる。

もっと医療コミュニケーション・15

患者との会話での医師のストレス解消法―パフォーマンス学の三つのCで切り抜けよう

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.350 - P.352

 午後2時のJ大学の整形外科では,朝一番から待っていた患者たちの診察がそのまま続いていて,A先生はこの間一度の休憩もなく,昼食もとらずにずっと診察をしていました。

 午後2時に診察室に呼ばれた私に,A先生は「本当にいつもこんな状態なのですよ。とにかく患者の予約を次々に受けていて,窓口に来ている患者に『今から帰ってください』ということは一切できないので,毎度こんな具合になってしまいます。この時間になるともう本当に疲れてしまって,お腹も空いてくるから困りものですよ。どうしてもイライラしてしまうこともあります」とおっしゃいました。

臨床報告

Humphrey MATRIX®での視野測定における学習効果

著者: 吉井稔章 ,   湯川英一 ,   丸岡真治 ,   松浦豊明 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.357 - P.360

要約 目的:Humphrey Matrix®による視野測定での学習効果の報告。対象と方法:視野測定を受けたことがない健常者30例30眼を対象とした。Humphrey Matrix®で,閾値測定を日を変えて4回行った。固視不良率が30%以上,偽陽性率または偽陰性率が20%以上の症例は除外し,最終的に23例を対象とした。すべて医学生または病院職員で,男性8例と女性15例であり,年齢は21~38歳(平均28歳)であった。結果:パターン標準偏差値と検査時間については学習効果がなく,平均偏差値(MD)のみ,1回目の測定値と2回目以降3回の測定値の平均間に1.46±0.92dBの感度改善があった。結論:Humphrey Matrix®による視野測定には学習効果があり,2回目以降の検査結果を用いるべきである。

斜視手術が角膜形状に及ぼす影響

著者: 松田弘道 ,   柴琢也 ,   久保寛之 ,   原崇彰 ,   吉田正樹 ,   常岡寛

ページ範囲:P.361 - P.365

要約 目的:斜視手術前後での角膜形状の変化の報告。対象と方法:斜視手術を行った27例49眼を対象とした。年齢は5~81歳(平均26歳)であった。原則として,外斜視38眼には外直筋の後転,内斜視6眼には内直筋の後転,上下斜視5眼には下斜筋の後転を行った。角膜形状は術前と手術1か月後に,Pentacam,OrbscanⅡ,TMS-4で計測した。手術は500眼以上の斜視手術の経験がある医師と,50眼以下の医師の2名で行った。結果:PentacamとOrbscanⅡでは,角膜の前面と後面の形状に有意差はなかった。TMS-4では,surface asymmetry index,simulated keratometric cylinder change,coefficient of variation of corneal powerに有意差があった。術者間に有意差はなかった。結論:斜視手術の前後で角膜の前面と後面の形状に著しい変化は生じない。

乳児に対するICare®眼圧計の有用性

著者: 池田仁英 ,   湯川英一 ,   岡本全弘 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.367 - P.370

要約 目的:乳児に対するICare®眼圧計の使用結果の報告。対象と方法:緑内障の疑いがあるか,全身疾患で小児科から紹介された1歳未満の乳児18例36眼を対象とした。トリクロホスナトリウムシロップを内服させ,睡眠中に上半身を起こした状態でICare®眼圧計で眼圧を測定し,続いて仰臥位でPerkins圧平眼圧計で眼圧を測定した。結果:ICare®眼圧計とPerkins圧平眼圧計での眼圧は,それぞれ6~37mmHg(平均14.6±7.0mmHg)と8~42mmHg(平均17.1±7.0mmHg)であり,有意差があった(p<0.05)。両測定値の差は-3~7mmHg(平均2.4±2.0mmHg)であり,31眼でPerkins圧平眼圧計による値が高かった。両眼圧計による測定値には正の相関があり,単回帰分析でy=0.9559x+3.0906の1次式が成立した。結論:Perkins圧平眼圧計で眼圧値がやや高かったのは,仰臥位で眼圧が上昇した可能性がある。ICare®は乳児に対する眼圧スクリーニングに有用である。

全層角膜移植後に発症する拒絶反応におけるレシピエントとドナー間の性差の影響

著者: 田中敦子 ,   原田大輔 ,   川本晃司 ,   山田直之 ,   森重直行 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.371 - P.374

要約 目的:全層角膜移植でレシピエントとドナー間の性差が拒絶反応の発症に影響するか否かについての報告。対象と方法:過去6年間に全層角膜移植を受けた290例334眼を対象とした。男性177眼,女性157眼で,年齢は3~93歳(平均62歳)である。結果:40眼(12.0%)に拒絶反応が生じた。その頻度は,レシピエントとドナーの性が同じ172眼では22眼(12.8%),性が異なる162眼では18眼(11.1%)であり,両群間に有意差はなかった。ドナーとレシピエントがそれぞれ男性-男性である111眼では16眼(14.4%),女性-女性の61眼では6眼(9.8%),男性-女性の96眼では13眼(13.5%),女性-男性の66眼では5眼(7.6%)に拒絶反応が生じた。これら4群間に有意差はなかった。結論:全層角膜移植で,レシピエントとドナーの性は拒絶反応の発症に影響しない。

今月の表紙

多発消失性白点症候群

著者: 山口純 ,   中澤満

ページ範囲:P.269 - P.269

 症例は47歳,女性。2007年6月に右眼の中心部の見づらさを感じ,近医を受診後,当科を紹介されて受診した。視力は右0.08(0.4),左0.2(1.2),眼圧は正常で左右差はなかった。眼底所見では,右眼の網膜深層に,眼底後極部から赤道部にかけて1/4~1/3乳頭径の境界不鮮明な白色滲出斑が多数散在し,視神経乳頭は境界不鮮明で腫脹・発赤を呈していた。左眼に異常所見はなかった。フルオレセイン蛍光造影検査では,滲出斑は造影早期にはwindow defectによる過蛍光,後期はstainingによる過蛍光を示し,視神経乳頭は後期に過蛍光を示した。インドシアニングリーン蛍光造影検査では,後期になると滲出斑と一致する境界明瞭な低蛍光がみられた。また,網膜電図の減弱,眼球電図でのL/D比の低下,Goldmann視野計による視野検査での中心暗点・Mariotte盲点拡大も生じていたが,約1か月後には自然経過にて視力0.1(1.0)となり滲出斑がほぼ消失したため,多発消失性白点症候群(multiple evanescent white dot syndrome:MEWDS)の典型例と考えられた。

 撮影はHeidelberg Engineering社製の共焦点レーザー検眼鏡(Heidelberg Retina Angiograph 2:HRA2)を用い,レンズは画角55°のワイドフィールドレンズを使用した。造影後期になると全体的に暗くなるので,低蛍光・過蛍光を表現するために輝度とコントラストに注意しながら撮影を行った。

べらどんな

白子の受難

著者:

ページ範囲:P.281 - P.281

 アフリカのタンザニアで白子症(アルビノ)の人々が迫害されているという。

 白子症の人々は社会的弱者である。髪と皮膚が白く,人目につくだけでなく,生きていくのにさまざまな障害がある。強い眼振と羞明があって視力が悪いうえに,皮膚癌の頻度も高い。

パーキンジ現象

著者:

ページ範囲:P.306 - P.306

 外国の地名や人名の発音は楽ではない。英語を習いはじめた中学1年のとき,「ロンドンはランドゥンと言え」と教わり,違和感をもったことを覚えている。

 中国関係が難しい。毛沢東はMao Tse-tungだったのが,Mao Zedong,北京はPekingではなくBeijingになった。それでも現地の発音はベイジンではなく,昔も今もペイチンである。

書評

臨床ERG,運・鈍・根

著者: 秋山健一

ページ範囲:P.341 - P.341

 こんなに内容のある,面白い本は読んだことがなく,しかも知らず知らずのうちにかなりの勉強になった。この本の実現には故樋田哲夫教授の示唆もあったようだが,対談風にまとめてかつ内容を失うことなく伝えている点ですばらしいと思った。

 同じ年齢の同じことをしている人がこれだけのことを成し遂げていると思うと圧倒的な力で押しつぶされ,先を読むことができなくなる。少しづつ読んで,自分に言い訳をして,先を読むという具合で読み進んでいった。それでいて,内容は大変面白く,臨床研究が少しずつ結果を出していく様子がよくわかった。それは,福岡伸一著のベストセラー『生物と無生物のあいだ』を読んだときと同じような面白さであった。偶然とか運というものは,ただ待っていて授かるものではなく,長い,たゆまない努力の過程で呼び寄せたり,作り上げていくものであることがよくわかる。つまり,決して受動的なものではなく,むしろ必然性をもった因果であると感じられる。

やさしい目で きびしい目で・111

おしゃべり大好き

著者: 国松志保

ページ範囲:P.349 - P.349

 「あなたはおしゃべりだから,人相手のお仕事をするといいんじゃない」。

 高校生だった私に,よく母が言いました。

 本当に,私は小さい頃からおしゃべりが大好きで,学習塾に行くのも友達とおしゃべりできるから,という理由でかなり積極的に参加していました。そんな母の勧めもあり,医学部に進学,卒業後は眼科医として,念願の「1日中しゃべっている仕事」に就きました。大学病院の外来はとても忙しく,視力検査などの検査,問診,診察……と,確かに1日中しゃべり,満足していました。

ことば・ことば・ことば

硬化

ページ範囲:P.353 - P.353

 強膜のことを以前は鞏膜と書いていました。『小眼科学』の戦前の版には,「鞏膜ハ鞏靭ナル腱様ノ膜ニシテ主トシテ結締織及弾力繊維ヨリ成ル」と出ています。Lederhautがドイツ語での強膜です。Lederは英語のleatherに相当しますので,「鞏膜」は名訳なのです。

 話が変わりますが,昔の印刷所ではすべて,手で活字を拾っていました。印刷が終わると,活字はまた元の位置に戻され,再使用されます。印刷所では,眼科の論文はあまり歓迎されなかったそうです。「膜」が頻繁に出てくるので,「膜」の活字がすぐ品切れになるというのがその理由でした。確かに,結膜,角膜,強膜,脈絡膜,網膜など,「膜」が豊富にあります。

文庫の窓から

『千金翼方』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.376 - P.379

『千金方』の続編医方書

 「翼」にはつばさで守る,という意味がある。そこから,この字を「たすける」と読み,翼翼(傷つけられぬようにかばうさま),輔翼(そばについてかばう)のようにも使われる(『学研新漢和大字典』)。『千金翼方』は『千金方』を補う目的で作られた書物である。

 前回ご紹介した『千金方』の著者,孫思邈(?581-682)が,晩年に至って著わした続編,それが『千金翼方』である。これは『新修本草』成立以後の657年から681年の間に成ったと推定されている(参考文献3,小曽戸洋氏の説)。他の多くの有名な医書同様,この書物も北宋の林億らが校勘を行っているが,その時点で「今伝わるものは訛舛尤も甚しく,洪儒碩学でもこれを弁ずることはできない」というほど乱れた資料しかなかったという。宋の治平3年(1066)に『千金方』が刊行された後,『千金翼方』も手がけられ,今に伝わるものは皆この北宋版をもととしている。

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あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.392 - P.392

 『臨床眼科』3月号をお送りします。本号が届く頃は卒業式のシーズンたけなわで,北国にも春の気配が感じられる頃かと思います。そして,今月号から第62回日本臨床眼科学会講演集の掲載が始まります。学会にて発表された演題のうち,今月は13篇の原著論文をお届けします。いずれの報告も大変有益な内容です。

 田中住美氏らの「硝子体手術既往のある増殖硝子体網膜症における残存硝子体皮質」では,裂孔原性網膜剝離に対する初回硝子体手術で完全に除去できない硝子体皮質が,その後に発症する増殖硝子体網膜症の病態に関与しているとしており,網膜剝離の治療に硝子体手術を用いる場合の注意点を提示しています。また,遺伝子異常が確認された小口病症例で,金箔様眼底反射に加えてアーケード周辺の網膜色素上皮萎縮がみられたという林 孝彰氏らの「63歳時に輪状暗点を契機に診断されSAG遺伝子変異(1147delA)が認められた小口病」では,本来は停止性夜盲という範疇にある小口病の中には,稀ではあるものの進行性の視野異常をきたす例があることを論じています。同じ遺伝子異常をもった網膜色素変性もありますので,小口病と網膜色素変性という2つの遺伝性疾患の類似性を示唆する報告でもあります。

 さらにおすすめなのは今月の話題,中村 誠氏の「緑内障性視神経症は構造障害が機能障害に先行するのか」と題する総説です。通常「緑内障での構造障害は機能障害に先行する」とよく言われますが,はたして本当なのかという疑問に果敢に挑む著者の洞察力には感銘しました。デシベルという単位のからくりを知るだけでも十分に楽しめる内容となっています。緑内障とは本当に奥の深い病気なのですね。読者の皆様もぜひご一読ください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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