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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻4号

2009年04月発行

雑誌目次

特集 第62回日本臨床眼科学会講演集(2) 原著

特発性黄斑上膜に対する硝子体手術後の光干渉断層計所見と視力の検討

著者: 山下力 ,   後藤克聡 ,   渡邊一郎 ,   水川憲一 ,   桐生純一

ページ範囲:P.429 - P.433

要約 目的:黄斑上膜に硝子体手術を行った後の視力,中心窩厚,黄斑部体積の報告。対象と方法:特発性黄斑上膜36例36眼を対象とした。年齢は57~81歳(平均69歳)であり,23ゲージ硝子体手術を行い,14眼ではトリアムシノロン併用の内境界膜を剝離した。中心窩厚の計測には光干渉断層計を使い,術後6か月までの経過を追った。結果:術後1か月と3か月では視力が有意に改善し,中心窩厚と黄斑部体積は減少した。術後3か月と6か月とでは差がなかった。中心窩厚または黄斑部体積の減少例では,視力改善が有意に多かった。術後視力は年齢が高いほど不良であった。結論:特発性黄斑上膜への硝子体手術では,術後3か月まで視力が改善し,中心窩厚と黄斑部体積が減少する。

術後うつぶせ姿勢をしない特発性黄斑円孔の手術成績

著者: 八木文彦 ,   佐藤幸裕 ,   高木誠二 ,   富田剛司

ページ範囲:P.435 - P.438

要約 目的:術後にうつぶせ姿勢をしない黄斑円孔手術の結果の報告。対象と方法:過去15か月間に硝子体手術を行った特発性黄斑円孔21例21眼を対象とした。男性3例,女性18例で,年齢は53~75歳(平均65歳)である。手術までの罹病期間は1~6か月(平均2.3か月)であった。円孔はステージ2が5眼,ステージ3が11眼,ステージ4が5眼であった。内境界膜を剝離しSF6ガスで硝子体を置換した。術後の就寝時は側臥位とした。視力はlogMARで評価した。結果:19眼(91%)で円孔の初回閉鎖,最終的に全例で閉鎖が得られた。平均視力は術前の0.65が術後1か月の0.46に有意に改善し,術後6か月まで維持された。結論:特発性黄斑円孔に対する硝子体手術では,術後にうつぶせ姿勢をとらなくても円孔が閉鎖し,視力が向上した。

網膜細動脈瘤の血腫部位別手術成績

著者: 舘奈保子 ,   黒川由加 ,   植田芳樹 ,   芳村賀洋子 ,   高井豊子 ,   柴田崇志 ,   橋本義弘

ページ範囲:P.439 - P.444

要約 目的:網膜細動脈瘤に硝子体手術を行い,血腫の部位別に視力を検討した結果の報告。対象と方法:網膜細動脈瘤の破裂による出血または黄斑浮腫に対し硝子体手術を行い,3か月以上の経過を追った39眼を対象とした。男性12例12眼,女性26例27眼で,年齢は55~92歳(平均75歳)である。有水晶体眼には水晶体を摘出し眼内レンズを挿入した。結果:術後視力は網膜下出血がある14眼ではこれがない25眼よりも有意に不良であった。網膜下出血がある14眼での術後視力は,網膜下の洗浄の有無とは関係しなかった。滲出による黄斑浮腫は術後に寛解し,視力が向上した。結論:網膜細動脈瘤破裂では,中心窩下に血腫があると視力転帰が不良であった。黄斑浮腫による視力低下がある症例にも硝子体手術が奏効した。

涙道疾患に対するシリコーンプローブの応用

著者: 芳賀照行

ページ範囲:P.445 - P.448

要約 目的:ヌンチャク型シリコーンチューブとその付属ブジーを一体化したプローブを涙道疾患に応用した報告。対象と方法:下鼻道法による涙囊鼻腔吻合術でレーザーを照射するときのガイドとして18側,急性涙囊炎による鼻涙管閉塞1側,先天性鼻涙管閉塞4側の計23側に本プローブを使用した。結果:涙囊鼻腔吻合術ではレーザー照射により鼻涙管下部の開口部を拡張でき,急性涙囊炎と鼻涙管閉塞では1回のプローブ挿入で閉塞が開放できた。結論:本プローブは涙道疾患に有用である可能性がある。

網膜色素変性症の告知について考える

著者: 佐渡一成 ,   石井雅子 ,   小野峰子

ページ範囲:P.449 - P.453

要約 背景:網膜色素変性症であることの適切な告知の方法はない。安易な告知が行われたために,長期間にわたる精神的な苦痛を強いられている患者が跡を絶たない。目的:網膜色素変性症の告知のあり方の報告。対象と方法:視能訓練士13名と視能訓練士を目指している学生78名を対象として,「自覚症状がない20歳代女性に網膜色素変性症が見つかった場合に,これを眼科医はどう伝えるべきか」という設問をした。結果:「発見したときに告知する」「告知は明確に行う」「家族が同席して伝える」などの回答が得られ,「告知は患者の気持ちに十分配慮して行うべきである」という意見が多かった。結論:網膜色素変性症の患者への告知については,がん緩和ケアガイドブックを参考に,さらに検討する必要がある。

Octopus視野計TOP/white-on-white, blue-on-yellow, flicker strategyによる緑内障眼の測定比較

著者: 鈴木愼太郎

ページ範囲:P.455 - P.458

要約 目的:Octopus視野計の3種類の方法で緑内障眼を測定比較した報告。対象と方法:開放隅角緑内障26例26眼を対象とした。男性15例,女性11例で,平均年齢は59歳である。Octopus視野計のtendency-oriented algorismで,white-on-white(WW),blue-on-yellow(BY),flicker(CFF)で測定した。測定値はWWを基準として比較した。結果:3種の平均異常測定点数間に有意差がなかった。WWとの5%以下の一致率は,BYで66.3%,CFFで62.8%であり,0.5%以下ではそれぞれ62.8%,61.0%であった。結論:WWで検出した異常点のうち30~40%はBYまたはCFFで検出されず,両者の緑内障の視野異常検出度は必ずしも高いとはいえない。

耳側楔状視野欠損を呈した多症例の臨床的特徴

著者: 大黒幾代 ,   片井麻貴 ,   田中祥恵 ,   鶴田みどり ,   橋本雅人 ,   大黒浩

ページ範囲:P.459 - P.463

要約 目的:耳側楔状視野欠損を呈する症例に多い臨床的特徴の報告。対象と方法:耳側楔状視野欠損を呈する22例35眼を対象とした。男性10例18眼,女性12例17眼で,年齢は26~78歳(平均57歳)である。内訳は緑内障17眼,乳頭陥凹14眼,偽乳頭浮腫4眼であった。結果:屈折は-1D~-17D(平均-5.4D)で,29眼(83%)が-3D以上の近視であった。乳頭が小さく,鼻側境界が不整または蒼白な例が多く,鼻側の乳頭網膜神経線維層厚が30眼(86%)で広範に減少していた。先天性視神経鼻側低形成と緑内障の合併例が多かった。結論:近視眼で鼻側境界が不整な耳側に傾斜した小乳頭は,耳側楔状視野欠損に特徴的である。先天性視神経鼻側低形成は緑内障に併発することがある。

片眼失明のハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障手術成績

著者: 上甲覚 ,   堀江大介

ページ範囲:P.465 - P.469

要約 目的:僚眼が失明しているハンセン病患者に行った白内障手術の成績の報告。対象と方法:僚眼が失明しているハンセン病患者8例8眼に白内障手術として,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。全例ぶどう膜炎の既往があり僚眼の視力は全例が手動弁以下で,5眼には光覚がなかった。術後20~157か月(平均104か月)の経過を追った。結果:術後の最高視力は全例で4段階以上改善し,0.5以上になった。最終視力は5眼で2段階以上改善し,3眼が0.5以上になった。視力が0.5未満の原因は,角膜障害と黄斑変性であった。結論:僚眼が失明して,ぶどう膜炎の既往があっても,ハンセン病患者での白内障手術の短期成績は良好であった。長期観察では視力が低下する症例があり,ぶどう膜炎以外の眼疾患にも注意する必要がある。

大学病院でのヤギー文書・画像による眼科診療管理と専用電子カルテの構築

著者: 松尾俊彦 ,   合地明 ,   平川毅 ,   伊藤忠司 ,   甲野義久

ページ範囲:P.471 - P.477

要約 背景:大病院では,内科系を中心に電子カルテが構築され,患者の動線が複雑な眼科は対応に苦慮する。目的:全診療科用の電子カルテに,文書と画像管理を主目的とするサーバを全科用に追加導入した診療システムと専用カルテの報告。対象と方法:岡山大学病院眼科に導入した新システムを1か月間の新患103人,再診2,396人に対して使用し,評価した。結果:デュアルモニタを設置し,左に富士通カルテ,右にヤギーカルテを表示した。視力,屈折,眼圧は自動的に取り込んだ。眼科カルテには初診版,再診版,入院版を用意し,眼底写真,OCT,細隙灯写真などの画像を貼り付ける枠を設けた。再診予約,処方,検査所見,会計処理は富士通画面で行った。結論:電子カルテ本体と並列して眼科外来での診療進捗状況を画面に表示し,視力などの検査結果を眼科カルテに自動的に取り込むことで,多人数の外来診療が可能になった。

眼底出血を伴う被虐待児症候群の4例

著者: 小野まどか ,   松生寛子 ,   太刀川貴子 ,   大坪豊 ,   勝海修 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.479 - P.483

要約 目的:眼底出血がある被虐待児症候群の4症例の報告。症例:4例すべてが生後2~3か月の乳児で,2例は父親による虐待,2例は偶発性の外傷が原因であった。所見:全例に急性硬膜下血腫があり,網膜下出血が4例7眼,黄斑前出血が2例2眼,硝子体出血が2例2眼にあった。眼底出血は1~4か月で自然に吸収されたが,脳障害のために視力は不良であった。黄斑前出血がある1例には形態覚遮断弱視が発症したが,健眼遮蔽治療で視力が向上した。結論:被虐待児症候群では頭蓋内と眼底出血が併発しやすい。再発防止のため,早期診断が必要であり,継続的な観察と加療が必要である。

シンナー吸入離脱後に生じた中毒性視神経症の1例

著者: 上野久美子 ,   平岡孝浩 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.485 - P.489

要約 背景:シンナー吸引では有機溶媒が通常用いられる。トルエン,キシレンなどがその成分で,メタノールを含むことがある。目的:シンナー吸引を8か月前に離脱した後に中毒性視神経症が発症した症例の報告。症例:24歳男性が前日からの視力喪失で受診した。6年間シンナーを吸引していたが,8か月前に離脱した。6日前から3日間,ラッカー薄め液で車の塗装を落とす業務に従事していた。所見:視力は左右とも光覚なしで散瞳し,眼底は正常で対光反射はなかった。磁気共鳴画像検査(MRI)で大脳深部皮質にトルエン中毒に特有な高信号域があった。ステロイドパルス療法で視力は10日後に手動弁,8週間後に0.02に改善し,視野が拡大した。結論:過去にシンナー吸引歴があり,すでに離脱していても,新規の受動的な吸引で中毒性視神経症が生じる可能性がある。

亜急性連合性脊髄変性症およびWernicke脳症に伴った欠乏性視神経症の1例

著者: 柴玉珠 ,   山﨑広子 ,   西宮仁 ,   岩村晃秀

ページ範囲:P.491 - P.496

要約 目的:亜急性連合性脊髄変性症とWernicke脳症に併発した欠乏性視神経症の症例の報告。症例:67歳男性が2週間前からの両眼視力障害で受診した。10年前に舌癌で放射線治療,9年前に胃癌で胃切除を受け,1年前からふらつきがあり,最近は極端な小食と偏食をしていた。所見:矯正視力は右0.08,左0.09で,中心暗点があった。血中の総ホモシステインが高くビタミンB12不足が考えられ,亜急性連合性脊髄変性症の疑いでビタミンB12の投与を受けた。初診から2週間後に意識障害が生じ,磁気共鳴画像検査(MRI)でWernicke脳症と診断され,ビタミンB1とB12の点滴で意識を回復した。1か月後に視力が左右とも0.5になり,初診時に記録不能であった視覚誘発電位が記録可能になった。結論:視神経症の診断では,欠乏性視神経症の可能性を考慮し,ビタミンB群の検査が重要である。視機能の経過観察に視覚誘発電位が有用であった。

両眼に発症した特発性脈絡膜新生血管の1例

著者: 竹内智一 ,   林孝彰 ,   岡野喜一朗 ,   戸田和重 ,   常岡寛

ページ範囲:P.497 - P.503

要約 目的:両眼に発症した特発性脈絡膜新生血管(CNV)の症例の報告。症例:35歳男性が19か月前に左眼,13か月前に右眼の脈絡膜新生血管と診断され,当科を受診した。6年前に肝炎に罹患した。所見:両眼とも約-4Dの近視で,矯正視力は右0.2,左1.2であった。右眼の中心窩に活動性,左眼の黄斑部に瘢痕化した脈絡膜新生血管があった。血清学的検査と眼球電図に異常はなかった。ベバシズマブの硝子体注を両眼に行い,短期的に新生血管が退縮し視力は改善した。その後新生血管が再燃し,初診から18か月後の現在,右0.6,左0.5の視力を維持している。卵黄様黄斑ジストロフィの原因になるBEST1VMD2)の遺伝子変異は検出されなかった。結論:本症例は両眼の特発性脈絡膜新生血管で,ベバシズマブの硝子体注で短期的に新生血管が退縮し視力が向上したが,その後血管新生が再燃した難治例である。

比較的視力良好な加齢黄斑変性眼の光線力学療法前後におけるコントラスト感度変化

著者: 渡邉亜希 ,   田邊樹郎 ,   星合繫 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.505 - P.509

要約 目的:加齢黄斑変性に対する光線力学療法前後のコントラスト感度の報告。対象と方法:光線力学療法を行った加齢黄斑変性で術前視力が0.2以上の21例25眼を対象とした。男性21眼,女性4眼で,年齢は54~88歳(平均70歳)である。視力はlogMARで評価した。結果:矯正視力は術前と術後3か月で有意に改善した(p=0.029)。コントラスト感度曲線下の面積も有意に改善した(p=0.0004)。治療前後のコントラスト感度の変化量と病変部の最大径の間には有意な負の相関があった(rs=-0.5366,p=0.0012)。結論:加齢黄斑変性に対する光線力学療法では,コントラスト感度がより敏感に術後効果を反映する。この改善は病巣が小さいほど良好なので,早期治療が重要である。

光線力学療法前後でのポリープ状脈絡膜血管症の異常血管網の変化

著者: 上山数弘 ,   森圭介 ,   米谷新

ページ範囲:P.511 - P.514

要約 目的:光線力学療法後のポリープ状脈絡膜血管症(PCV)でのポリープ状病巣と異常血管網の変化の報告。対象と方法:光線力学療法で浮腫や出血が消退したPCV 13例13眼を対象とした。全例に術前と術後3か月以内にインドシアニングリーン蛍光造影を行った。結果:ポリープ状病巣は12眼(92%)で消失または減弱した。異常血管網は3眼(23%)で血管径が狭細化し,4眼(31%)で微小血管の閉塞と再構築があったが,異常血管網の完全な閉塞はなかった。結論:PCVに対する光線力学療法で,ポリープ状病巣は消失したが,異常血管網は閉塞しなかった。

硝子体手術後早期にガスを抜去した裂孔原性網膜剝離の短期経過

著者: 植田良樹 ,   木村忠貴 ,   梅基光良 ,   山口泰孝

ページ範囲:P.515 - P.519

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に硝子体手術を行い,硝子体中のC3F8ガスを早期に抜去した成績の報告。対象と方法:上方または鼻側周辺部に原因裂孔がある新鮮な網膜剝離13眼を対象とした。年齢は48~67歳(平均58歳)である。硝子体手術で裂孔を閉鎖し,15%C3F8ガスを硝子体腔に充填し,最低1夜の伏臥位をとらせた。術後5~11日目にガスを抜去した。結果:全例で網膜が復位し,ガス抜去の直後に再剝離した症例はなかった。術後約1か月目に2眼で再剝離があったが,ガス抜去との因果関係は不明であった。結論:裂孔原性網膜剝離に硝子体手術を行い,裂孔を閉鎖してガスで網膜が復位すれば,以後早期にガスを抜去しても,直後の再剝離はない。

マイラゲル(MIRAgel®)術後障害に対し水流を用いた除去法を試みた1例

著者: 春山知子 ,   井上浩太 ,   須田考一 ,   小池昇 ,   高橋春男

ページ範囲:P.521 - P.525

要約 目的:網膜剝離に対し,ハイドロゲルであるマイラゲル®で強膜内陥術が行われた後,水流でバックルを除去した症例の報告。症例:66歳男性の右眼に他医により網膜剝離手術が10年前に行われた。5か月前から異物感が生じ,眼球の下方偏位が強くなった。経過:右眼の上方結膜下にマイラゲル®が突出していた。結膜を切開し,バックルを鑷子で把持すると細かく砕けたので,水晶体乳化吸引術用のI/Aハンドピースで水流噴射と吸引を繰り返し,可視範囲にあるバックルを除去することができた。これによりバックルの視認性を確保でき,出血がなく,組織の損傷を回避できた。磁気共鳴画像検査(MRI)で,赤道部後方のバックルは残留していた。結論:水晶体乳化吸引術用のI/Aハンドピースによる水流と吸引を使うことで,ハイドロゲルによるバックルを除去できた。残留バックルの確認にはMRIが有用であった。

糖尿病網膜症の汎網膜光凝固奏効例における網膜血行動態

著者: 岡野正

ページ範囲:P.527 - P.531

要約 目的:糖尿病に汎網膜光凝固を行った前後の網膜血行動態の報告。対象と方法:汎網膜光凝固が奏効した前増殖または増殖糖尿病網膜症47眼を対象とし,正常29眼と比較した。網膜中心動脈に色素が出現してから中心窩周囲の毛細血管に達するまでの時間を乳頭黄斑到達時間と定義した。蛍光眼底造影には走査レーザー検眼鏡(SLO)を用い,毎秒30駒の頻度で記録した。結果:光凝固後の観察期最終視力は,47眼中20眼(42%)で2段階以上向上,22眼(47%)で不変,5眼(11%)で低下した。乳頭黄斑到達時間は,正常眼では3.7±0.7秒,対象とした糖尿病網膜症眼では光凝固前9.3±3.0秒が光凝固の効果出現後6.6±2.4秒で有意に短縮した(p<0.01)。結論:進行した糖尿病網膜症眼では,乳頭黄斑到達時間が正常眼よりも延長している。汎網膜光凝固が奏効するとこれが短縮するが,正常眼よりもまだ延長している。

自然閉鎖を認めた黄斑円孔のフーリエドメイン光干渉断層計による閉鎖過程の検討

著者: 太田裕之 ,   佐藤新兵 ,   井上麻衣子 ,   木村育子 ,   小林聡 ,   伊藤理会子 ,   渡邉洋一郎 ,   門之園一明

ページ範囲:P.533 - P.538

要約 目的:自然閉鎖した黄斑円孔のフーリエドメイン光干渉断層計による経過の報告。対象と方法:特発性黄斑円孔が自然閉鎖した5例5眼を対象とした。男性2例,女性3例で,年齢は65~78歳(平均73歳)である。結果:フーリエドメイン光干渉断層計による観察で,まず網膜表層に架橋が形成され,次に視細胞の欠損が縮小し,視細胞内外節間の線の連続性が確保されて完全閉鎖に至った。視力改善は,網膜表層の架橋形成時ではなく,視細胞層の欠損が縮小する初期で主に起こった。結論:黄斑円孔が自然閉鎖するときには,網膜表層の架橋形成,視細胞欠損の縮小,内外節間の連続性の回復の過程を経る。

特発性黄斑円孔術前後視力と光干渉断層計所見の関連性の検討

著者: 草野真央 ,   宮村紀毅 ,   前川有紀 ,   隈上武志 ,   北岡隆

ページ範囲:P.539 - P.543

要約 目的:特発性黄斑円孔の術前後の視力と光干渉断層計(OCT)による関連の報告。対象と方法:硝子体手術を行った特発性黄斑円孔31眼を対象とした。男性10眼,女性21眼で,年齢は51~78歳(平均67歳)であった。発症から手術までの期間は0.1~9か月(平均2.7か月)と推定された。27眼には白内障手術を同時に行った。術後1年以上の経過を追跡した。結果:術後視力は術前視力と正の相関があった。術後視力は,術後のOCTによる視神経細胞の内外節間境界線の形状と正の相関があり,円孔径と負の相関があった。結論:特発性黄斑円孔では術前の視力が良好で,円孔が小さく,術後のOCTによる内外節間の境界線が明瞭な症例では,術後視力が良好である。

19歳若年者に発症した網膜中心静脈閉塞症に伴う漿液性網膜剝離の1例

著者: 亀山大希 ,   高橋淳士 ,   長岡泰司 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.545 - P.549

要約 目的:19歳で発症した網膜中心静脈閉塞症に漿液性網膜剝離が併発した症例の報告。症例:高血圧や糖尿病などの全身疾患がない19歳男性が4週間前からの左眼霧視で受診した。矯正視力は右1.5,左0.7で,左眼に網膜静脈の拡張と蛇行,網膜出血,乳頭腫脹,黄斑浮腫があった。光干渉断層計で黄斑部に網膜の膨化と漿液性剝離があった。蛍光眼底造影所見は非虚血型であった。漿液性網膜剝離は1か月後に増加,2か月後に消失し,視力は1.0になった。4か月後に網膜の出血,静脈拡張,漿液性剝離は消失した。結論:本症例は副腎皮質ステロイドの投与なしに寛解した若年発症の網膜中心静脈閉塞症に併発した高度の漿液性網膜剝離である。

共焦点走査型レーザー検眼鏡(F-10)の眼底所見

著者: 築城英子 ,   脇山はるみ ,   鈴間潔 ,   北岡隆

ページ範囲:P.551 - P.554

要約 目的:共焦点走査型レーザー検眼鏡で記録した眼底所見の報告。対象と方法:装置としてニデック社製の走査型レーザー検眼鏡F-10を使用し,特にそのRetroモードで,糖尿病網膜症,網膜色素上皮剝離,母斑症などの症例を検索した。結果:Retroモードを使うことで,造影せずに囊胞様黄斑浮腫の範囲を平面像として描出できた。正常または病的眼底に黒い斑点が散在していた。これは若年者やまったく正常な眼底には少なく,ドルーゼンや網膜色素上皮剝離などがある病的眼に多かった。結論:今回用いた共焦点走査型レーザー検眼鏡では,Retroモードを使うことで,加齢変化などの病変を低侵襲かつ高感度で記録できた。

網膜芽細胞腫におけるMedpor®可動性義眼台の使用経験

著者: 金子明博 ,   金子卓 ,   高木誠二

ページ範囲:P.555 - P.559

要約 目的:網膜芽細胞腫で眼球を摘出した後に挿入した可動性義眼台(Medpor®)の使用経験の報告。対象:過去3年間に網膜芽細胞腫で眼球を摘出し,可動性義眼台としてMedpor®を挿入した12例12眼を対象とした。摘出時の月例は11~107か月(平均34か月)であった。8例では摘出前に眼球保存療法が行われ,1例ではCoats病の診断で強膜輪状締結術が行われていた。結果:平均18か月の術後観察期間中,義眼台の動きは良好で,義眼台の露出や感染症はなかった。しかしペグを使用していないので,義眼の動きは不十分であったが,第一眼位での外観は良好で,保護者の満足度が高かった。結論:可動性義眼台Medpor®は,手術法などに注意すれば露出の頻度が低く,網膜芽細胞腫の眼球摘出後にも有用である。

ローリスク群ヒトパピローマウイルスが検出された結膜乳頭腫の1例

著者: 大竹慎也 ,   淺野俊哉 ,   岡崎嘉樹

ページ範囲:P.561 - P.564

要約 背景:結膜の乳頭腫と扁平上皮癌との臨床的な鑑別は困難である。目的:結膜乳頭腫からヒトパピローマウイルスが検出された症例の報告。症例:34歳男性が2か月前からの右眼腫瘤で受診した。右眼の球結膜鼻側に径12mmの乳頭状有茎腫瘍があり,瞼結膜に4個のやや扁平な有茎状腫瘍があった。経過:切除した腫瘍は,術中の迅速組織診で扁平上皮癌と診断され,術後の病理検査で低分化ないし中分化した乳頭腫の診断が確定した。検体には,ヒトパピローマウイルスDNAハイブリダイゼーション法で,ローリスク群が陽性であった。結論:結膜乳頭腫は,ローリスク群ヒトパピローマウイルス感染による可能性がある。

ボリコナゾール内服中に著明な視力低下をきたした強度近視の1例

著者: 神尾美香子 ,   河野真穂 ,   西田朋美 ,   岡田徹 ,   永川博康

ページ範囲:P.565 - P.569

要約 目的:強度近視があり,ボリコナゾール内服中に顕著な視力低下が生じた症例の報告。症例:74歳男性が6日前からの両眼の霧視で受診した。強度近視と色覚異常があり,11年前の白内障手術後も視力が不良であった。16か月前から肺炎で加療中であり,3週間前にアスペルギルスが気管支から検出され,7日前にボリコナゾールの内服を開始した。所見:矯正視力は右0.04,左0.01で,両眼とも乳頭が蒼白であった。受診の2日後にボリコナゾール内服を中止した。その直後から霧視が減少し,6週間後に視力が右0.08,左0.1になり発症前の状態に戻った。結論:ボリコナゾール内服で視力低下が起こる可能性があり,低視力者では特に留意する必要がある。

光干渉断層計で網膜色素上皮層の不整の再発を認めた交感性眼炎の1例

著者: 石羽澤明弘 ,   加藤祐司 ,   高橋淳士 ,   長岡泰司 ,   木ノ内玲子 ,   籠川浩幸 ,   石子智士 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.571 - P.575

要約 目的:光干渉断層計(OCT)で経過を追った交感性眼炎の症例の報告。症例:67歳男性が鈍性外傷で右眼角膜が穿孔し,角膜縫合,水晶体切除,硝子体切除を受けた。合併症なしに治癒した。その1年後,数日前からの頭痛,難聴,両眼の視力低下で受診した。所見:両眼に前房の炎症細胞,角膜後面沈着物,後極部に広範囲の漿液性剝離があった。OCTで網膜色素上皮の皺状不整があった。ステロイドのパルス療法を行い,1か月後に炎症は軽快し,OCT所見は正常化した。その6週間後,視力,前眼部,眼底に異常はなかったが,OCTで網膜色素上皮の不整像が再発した。経口プレドニゾロンを増量し,1か月後にOCT所見は正常化した。以後7か月後の現在まで経過は順調で,眼底は夕焼け状を呈している。結論:OCT所見から交感性眼炎の再発が予測できた。

専門別研究会報告

再生医療・生体材料研究会―眼科再生医療研究会

著者: 久保田享 ,   西田幸二

ページ範囲:P.576 - P.577

はじめに

 再生医療は21世紀の新しい医療として注目されており,眼科領域は自家の角膜輪部細胞や口腔粘膜を用いた角膜上皮の再生医療がすでに臨床応用されているのをみてもわかるように,世界をリードする立場にある。網膜,視神経,緑内障,角膜(実質・内皮)などの分野においても多くの優れた研究が精力的に進められており,今後は臨床応用を目指した研究が急速に進むと期待されている。

 新規の治療法の開発に至るまでは,基礎研究,前臨床試験,臨床試験というステップを踏んでいくものであるが,これまでは眼科における再生医療についての情報交換や最新の成果を発表する場が少なく,いい基礎研究があってもそれらを包括的・効率的に前臨床試験や臨床試験にまで成熟させることが難しかった。これらの問題点を解決するために,平成20年度から,文部科学省の「橋渡し研究支援推進プログラム」が開始された。これは,医療としての実用化が見込まれる有望な基礎研究の成果を開発している研究機関を対象に,シーズの開発戦略策定や,薬事法に基づく試験物製造のような橋渡し研究の支援を行う機関を拠点的に整備するとともに,これら拠点の整備状況を把握し,拠点間のネットワーク形成などによりサポートする体制を整備するために,全国で6つの拠点と1つのサポート機関を整備することを目的としている。このように,基礎研究成果が臨床応用されるための環境は国からも支援されており,再生医療が臨床応用されるチャンスは今後ますます大きくなっていくものと思われる。

 一方で,無秩序な臨床研究を規制するために,2006年9月から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が厚生労働省より施行され,ES細胞やiPS細胞のみならず,ヒト幹細胞を使用する臨床研究はすべて厚生労働大臣への報告と承認が義務づけられるようになった。また,ヒトに使用する医薬品についてはGMP(Good Manufacturing Practice)対応のものが求められたりと,ヒトへの臨床応用を目指すためには研究段階からこのような法的環境を理解しておくことが非常に重要であるが,これらのことはとても一人の研究者のみで理解し解決していけるレベルではなくなっている。

 本研究会では,これらの問題を解決すべく,眼科の再生医療に関する有益な情報交換の場と最新の研究成果を発表できる場をつくることを趣旨として,昨年から新しく始まった専門別研究会である。

 再生医療においては組織工学とも密接に関連しており,生体材料との関連も深いことから,本年も昨年と同様に「日本眼科生体材料および再生医学研究会」と合同で開催する研究会とし,合計180分のプログラムのうちの半分である90分を眼科再生医療研究会が担当した。

 今回の研究会では,講演を一般演題と特別講演に分けて行った。一般講演には眼科の再生医療に関する質の高い演題が5演題登録され,質の高いディスカッションが行えた。

再生医療・生体材料研究会―日本眼科生体材料および再生医学研究会

著者: 後藤憲仁 ,   松島博之

ページ範囲:P.578 - P.579

はじめに

 近年の眼科診療では,さまざまな生体材料が使用されるようになっている。本研究会は,角膜,水晶体,網膜,眼窩周辺など多種領域で研究開発されている生体材料の効果と展望について,眼科再生医療の分野も含めて研究・検討することを目的としている。参加者として眼科医だけでなく実際に生体材料の開発にかかわっている企業研究者も対象にしている。生体材料の臨床的意義を理解している医師と,生体材料の性質を熟知している企業研究者・理工系研究者のコミュニケーションを強化し,お互い異なった領域から刺激しあうことで新しいアイディアの出現や眼科生体材料研究の発展を目指している。国際的な情報収集のために,米国のInterdisciplinary Club for Biomaterial and Regenerative Medicine in Ophthalmology(ICBRO)と共同して活動している。

 本年は第62回日本臨床眼科学会の初日に「眼科再生医療研究会」と合同で開催した。前半は各研究者による一般演題,後半は特別講演として大阪大学の不二門尚先生に人工網膜の現況についてご講演いただいた。本年のプログラムを報告する(以下敬称略)。

黄斑研究会

著者: 加地秀 ,   石川浩平 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.580 - P.581

 2001年からスタートし8年目を迎えた黄斑研究会は,今年は日本臨床眼科学会初日の10月23日に東京国際フォーラム第2会場にて,約300人の参加者のもとで開催された。まず会に先立って,本会の発展に多大なる貢献を果たし,残念ながら2008年に亡くなられた杏林大学・樋田哲夫先生への黙祷が捧げられた。

 研究会は今年も,シンポジウムとして昨年に引き続き加齢黄斑変性(AMD)に対する光線力学療法(PDT)と薬物療法について広く討論が行われたが,最初に一般演題として,大路正人先生(滋賀県立医科大学)の座長のもと,2題の口演が行われた。1題目は「日本人の加齢黄斑変性に対する光線力学的療法の長期成績」(萩野哲夫・他,市立札幌病院)のタイトルのもと,日本人に対する光線力学療法の36か月という長期経過の報告であった。これまでに報告されてきた2年までの成績をそのまま維持でき,再発に対し再治療を多く行った症例は悪化していることが示された。2題目では「Idiopathic Macular Telangiectasia―emerging new concept」(古泉英貴,京都府立医科大学)のタイトルのもと,2006年にYannuzziらが報告したidiopathic macular telangiectasiaの分類についてわかりやすく解説が行われ,多くの症例とともにその病態についての考察がなされた。

眼創傷治癒研究会

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.582 - P.583

はじめに

 眼創傷治癒研究会は,眼組織におけるさまざまな生体反応を創傷治癒として捉え,臨床的および基礎的研究の発展を目指している研究会です。種々の眼疾患の病態をさまざまな角度から考察し,新しい診断法や治療法の開発の糸口を見つけるための最新の情報交換と会員相互の研鑽を目的にしています。

 1994年に神戸市で開催された第60回中部眼科学会の際に,関連研究会として第1回眼創傷治癒研究会が開かれました。中部眼科学会の休会に伴い,第10回から日本眼科学会の専門別研究会として参加させていただいており,第13回の研究会を2008年10月23日(木)に開催させていただきました。

 今年も,開催時間が1時間半でしたので特別講演を設けず,会員による一般講演を中心に行いました。下記の9演題が発表され,さまざまな侵襲に対する生体反応についての基礎的または臨床的な講演に対して活発な討論がなされました。

連載 今月の話題

仮面症候群

著者: 後藤浩

ページ範囲:P.401 - P.408

 仮面症候群とは,本来の臨床所見が隠蔽・修飾されてしまい,まったく異なる疾患を想起させる病態をいう。眼科領域では,悪性腫瘍が炎症性疾患や裂孔原性網膜剝離を思わせる臨床像を呈するために診断に苦慮することがある。本稿では,眼内悪性リンパ腫の診断を中心に仮面症候群について解説する。

日常みる角膜疾患・73

屈折矯正術後の感染症

著者: 能美典正 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.410 - P.412

症例

 [症例1]

 患者:41歳,女性

 主訴:左眼の充血,眼痛

 現病歴:両眼の近視に対しepi-LASIK(epipolis laser in situ keratomileusis)を前医で施行された。術後,0.1%フルオロメトロン点眼を継続していた。術後4か月目に入り,左眼の充血,眼痛の自覚が出現した。左眼に角膜潰瘍を認め,オフロキサシン点眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼で加療されたが改善せず,精査・加療目的で当院を紹介され受診した。

 初診時所見:視力は右1.0(1.2×+0.75D()cyl-1.50D 180°),左1.0(1.0×+0.25D()cyl-1.00D 180°)であった。左眼角膜下方に感染病巣と思われる小白色混濁を認めたが,周囲の角膜浸潤や結膜充血はなかった(図1)。

 治療経過:感染性角膜炎を疑い病巣部の搔爬を行った。ガチフロキサシン点眼(1日4回)を行い経過をみたところ,当科初診から1週間後には感染病巣は消失した。検体の培養でCorynebacterium macginleyiが検出された。

網膜硝子体手術手技・28

裂孔原性網膜剝離(3)―強膜内陥術(3)輪状締結術併用のバックリング手術

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.414 - P.420

はじめに

 前号では部分的バックリングの手技について解説した。本号では輪状締結術を併用したバックリング手術の手技について述べる。

説き語り論文作法・1【新連載】

論文のメッセージ

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.422 - P.426

 あの学会で発表せよ,この雑誌に論文を書け,上の先生からいくら言われても,こんなに忙しい毎日で,どうしてそんな時間がつくれるの。それにそもそも,どこからどうやって手を着けたらいいのか見当すらつかない。あれこれ聞いてみたくても,先輩たちだって忙しそう……。

 そんな悩みにお答えしましょう。これから始まるこの連載では,学会発表をもとに論文をゼロからつくっていく指導過程を「実況中継」しながら,論文を書く際の心構えを伝授いたします。しくみを知って作法を理解し,心配りをほんの少しするだけで,ずっとスムーズに事が進み,論理的な思考力が鍛えられます。行きつ戻りつ,道草,寄り道いっぱいの説き語りに,少しお耳をお貸しいただけませんか。

もっと医療コミュニケーション・16

「思いやりの人間関係スキル」は医師を救う―思いやり表現の三つの構造

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.586 - P.589

 誰でも思いやりがほしいことに変わりはありませんが,普通の状態の人(健常者)にとって思いやりが必要である以上に,身体や心を病んで苦しみ病院を訪れるさまざまな患者には人の何倍もの思いやりが必要です。そして,その思いやりの表現は,実は患者のためだけではなく医師のためにもなるのだということを,今回は具体的かつ科学的に,しかも省エネで実行できるようにわかりやすく解説しましょう。

 たとえば,私がよく行く聖路加国際病院は,ナースのほかに薄いピンク色の服を着たボランティアが外来スペースのあちこちに立っています。会計をする自動精算機のところ,ちょっと場所がわかりにくい廊下の曲がり角にこのボランティアが立っているのです。そして,バッグの中からゴソゴソと老眼鏡を探し出し,やっとの思いで自動精算機に指を伸ばしたものの,さてどこを触っていいのやらわからない,という様子をしている高齢の患者がいると,すぐに駆けつけて,「このようにやったらいいのですよ」と文字通り手取り足取り教えてくれます。そのときの患者のホッとした顔は横で見ていても嬉しいものです。

臨床報告

A型ボツリヌス毒素治療時のリドカインテープと冷却麻酔併用による鎮痛効果

著者: 渡部暁也 ,   西起史 ,   有本佐知子

ページ範囲:P.601 - P.604

要約 目的:ボツリヌスA毒素の注射前に,局所冷却をリドカインテープ貼付に併用したときの鎮痛効果の報告。対象と方法:眼瞼けいれんに対してボツリヌスA毒素注射を行った9例を対象とした。全例が女性で,年齢は49~78歳(平均66歳)である。両眼のボツリヌスA毒素の注射予定部位にリドカインテープを30分間貼り,続いて片眼のみにアイスパックを2分間当てて冷却した。注射時の痛みを11段階で評価した。結果:主観的な痛みは,リドカインテープ単独では6.9,局所冷却を併用した側では2.8であり,59.4%の鎮痛軽減効果があった(p=0.0003)。結論:ボツリヌスA毒素注射時に行うリドカインテープ貼付に局所冷却を併用すると,相乗的な鎮痛効果が得られる。

カラー臨床報告

光線力学療法を施行した成人発症型卵黄様黄斑ジストロフィの1例

著者: 西智 ,   松浦豊明 ,   湯川英一 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.597 - P.600

要約 目的:血管新生を伴う成人発症型卵黄様黄斑ジストロフィに光線力学療法を行った症例の報告。症例と経過:48歳男性が夜間の視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.8で,隆起性の白色斑が両眼の黄斑部にあった。成人発症型卵黄様黄斑ジストロフィと診断した。2年後に左眼視力が0.5に低下し,蛍光眼底造影で脈絡膜新生血管があり,光線力学療法を行った。11日後に視力は0.8になり,3年後の現在までこの視力を維持している。結論:卵黄様黄斑ジストロフィに併発した新生血管に光線力学療法が奏効する可能性がある。

今月の表紙

アミオダロン角膜症

著者: 山川曜 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.409 - P.409

 症例は60歳女性。拡張型心筋症で,2007年にペースメーカー装着術も施行している。塩酸アミオダロン200mgが投与されており,副作用に対する定期検査目的で,関西と東京の複数の眼科を受診しているとのことだった。今回,白内障の手術予約を他の眼科でしたことを機に,手術の適否についてのセカンドオピニオン目的で当院を受診した。

 右眼は,9年前に網膜剝離の既往があり,初診時の視力は,右0.04(0.9),左0.04(1.2)であった。患者自身は「見えにくさは感じていない」とのことだったが,細隙灯顕微鏡で両眼角膜に塩酸アミオダロンによるものと思われる淡い渦巻状の混濁が認められた。

べらどんな

百人百色

著者:

ページ範囲:P.448 - P.448

 『眼科新書』という本がある。オランダ語の原書を翻訳したもので,1815年に出版された。はじめて西洋の眼科学を知ることが可能になり,その意義は『解体新書』(1774)に肩を並べることができよう。

 和綴じの黄色い表紙の本で,本文5冊と付録1冊からなる。現在われわれが使っている眼科用語のうち,かなり多くがこの本に由来する。『解体新書』では玲瓏角膜,羅紋膜となっていた訳語が,本書ではそれぞれ角膜,網膜になったのがその例である。

有機水銀

著者:

ページ範囲:P.496 - P.496

 ニューヨークのすし屋さんで出しているトロをあちらの保健所が調べたら,かなり高濃度の水銀を含んでいたというニュースがあった。なんでも1週間に6個の握りを食べると,許容量いっぱいになるのだそうだ。

 環境に放出された水銀による中毒には古い歴史がある。

多発硬化症

著者:

ページ範囲:P.543 - P.543

 この2月に桑島治三郎先生が逝去された。享年95歳である。

 先生の最大の業績は,多発硬化症(multiple sclerosis:MS)についてである。今から50年ばかり前に,当時の定説が誤っていることを指摘し,数多くの具体例を挙げて論じられた。

書評

加齢黄斑変性

著者: 岸章治

ページ範囲:P.453 - P.453

 加齢黄斑変性(AMD)は,近年,高齢者の失明の最大の原因となり,社会的な関心も急速に高まっている。一方で,その実体を明確に説明できる人はほとんどいないであろう。AMDの概念と治療はめまぐるしく変わり,とにかくわかりにくいのである。この度,上梓された𠮷村長久氏(京都大学眼科教授)執筆による『加齢黄斑変性』は,AMDをめぐる「もやもや」を吹き飛ばす快書である。

 本書は5章からなる。第1章は基礎知識で,混乱しているAMDの疾患概念を明快に分類している。AMDのとらえ方は日本と欧米では異なっている。欧米ではドルーゼンの関与が大きいこと,日本ではインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影や光干渉断層計(OCT)の新技術が導入されてからAMDを扱うようになったことがその違いであるという。たとえばポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はICG造影なくしては診断できない。このことが日本でPCVが多い一因であるという。本邦からの論文が多く,わが国の貢献度の高さがうかがえる。血管新生の項は著者の基礎研究者としての素養がうかがえる。読者は第1章だけでAMDの全体像が把握できるようになったと感じるであろう。

がん医療におけるコミュニケーション・スキル 悪い知らせをどう伝えるか[DVD付]

著者: 木澤義之

ページ範囲:P.469 - P.469

 さわやかな秋の風に運ばれて,この本は私の前にやってきた。正直,書評はあまり気乗りする仕事ではなかったが,読み始めるうちにぐいぐい引き込まれた。本書はタイトルに,『がん医療におけるコミュニケーション・スキル』とあるが,その内容は癌医療の枠にとどまらずコミュニケーションの基本にも触れられており,わが国独自の,根拠に基づいたコミュニケーションの実践書であるということができよう。

 付属しているDVDを参照しながら本書を読破すると,編者でいらっしゃる国立がんセンター東病院臨床開発センターの内富庸介先生,藤森麻衣子先生が臨床研究をもとに開発された,SHAREプロトコールを用いた癌医療におけるコミュニケーションの基本と実際を臨場感を伴って学習することが可能である。

臨床医のための症例プレゼンテーションAtoZ[英語CD付]

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.520 - P.520

研修医の症例発表の内容を吟味

 医学書院からこのたび,自治医科大学客員教授・齋藤中哉先生による臨床医のための症例プレゼンテーション法を説いた教則本が出版された。

 齋藤教授は日本の医療界では数少ない,医学教育学を修めた臨床家である。臨床医学の指導医の立場から本書を出版し,日本の医学界に「臨床医学教育の基礎」を敷衍し,その普及に努めんとしているのである。

やさしい目で きびしい目で・112

「育児短時間勤務制度」は私の救世主

著者: 国松志保

ページ範囲:P.585 - P.585

 自治医大では,2007年秋から「育児短時間勤務制度」が導入されました。これは,自治医大が「自治医科大学における女性医師支援の取り組み」というテーマで,文部科学省の「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」(いわゆる「医療人GP」)に応募し,採択されたのを受けて導入された制度で,就学前の乳幼児をもつ医師が対象です。労働時間は週20時間(給料は半額)ですが,身分(職名)や各種手当は変わりません。

 それまでの私は……,2007年1月に長女を出産,続いて,内定をもらった保育園は徒歩30分かかる所でした。職場を変えることも考えたのですが,折しもわが職場は超人手不足で,産休明けの4月から復帰しました。ほぼ同時期に夫は東北大へ異動となり,東京で娘と2人の生活でした。午前7時に自宅を出発しても,徒歩30分かかる保育園に子供を預け,自治医大に到着するのは午前10時すぎ。授乳を続けたため,通勤中や仕事中は胸が張って痛いし,搾乳に時間をとられます。ギリギリまで仕事をして,電車に乗ること1時間40分,保育園からの大荷物と疲れた子供を連れて帰宅してからは,食事,お風呂を済ませ,寝かしつけと同時に寝てしまい,朝5時に起きて洗濯,保育園の支度をして……という毎日でした。職場では,保育園の送迎のために遅くに出勤して,早々に帰ることに,常に負い目を感じていました。

ことば・ことば・ことば

吻合

ページ範囲:P.593 - P.593

 明治41年に福岡で第12回の日本眼科学会総会があり,その席で高安右人が「奇異ナル網膜中心血管ノ変化ノ一例」の講演をしました。いわゆる「高安病」の最初の報告です。

 そのときの質疑応答で,大西克知が「私も同じような症例を診た。その患者には脈絡膜がなかった」という趣旨の発言をしました。この疾患を「高安病・大西病」と呼ぶようになったのは,これがきっかけです。

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あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.620 - P.620

 今年,名古屋ではほとんど雪を見ることなく春を迎えました。本号では,前号に引き続き昨年秋の第62回日本臨床眼科学会の原著論文,ならびに専門別研究会の報告が掲載されております。注目すべきは,新しい連載「説き語り論文作法」が始まったことです。論文にはいろいろな書くためのコツや作法があり,せっかくいい材料があってもこの作法を守らないと受け入れてもらえないということがあるかもしれませんし,それ以前にどのように書き始めたらいいか手もつかないという場合もあるでしょう。会話形式の連載を楽しく読んでいるうちに自然とノーハウが身についてくるかもしれません。

 「今月の話題」では,最近増えてきている印象がある悪性リンパ腫についてまとめられています。眼科は命にかかわらない科という印象がありますし,腫瘍のようなものがあれば他院に紹介してしまえばすむとお思いかもしれませんが,この悪性リンパ腫,ひょっとして先生の診ているぶどう膜炎の患者さんに含まれてはいませんか。ある日突然,ろれつが回らなくなったり,見当識障害が生じたり,視野が欠けたりして脳転移の所見を呈するかもしれません。臨床的特徴をつねに念頭においておきましょう。

 「医師のためのパーフォマンス学」も11回目となり,医師以外の方からみたわれわれの姿が浮かび上がってきています。4月になり新入のあるいは新しく交代した医師を迎えて教育に当たる先生も多いかと思います。前号までの分も参考にしていただけると幸いです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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