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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

特集 第62回日本臨床眼科学会講演集(3) 原著

線維柱帯切除術後の高次収差

著者: 松葉卓郎 ,   豊田恵理子 ,   辻野千栄子 ,   松田弘之 ,   吉田昭子 ,   長谷川琢也 ,   狩野廉 ,   桑山泰明

ページ範囲:P.653 - P.657

要約 目的:線維柱帯切除術後に生じた高次収差と関連因子の報告。対象と方法:男性21例,女性12例の33例33眼を対象とした。年齢は平均65歳である。全例に線維柱帯切除術を行い,28眼では水晶体再建術を同時に実施した。角膜形状測定は術前と術後96.6±63.1日目に行った。結果:全高次収差は0.367±0.163μm,コマ収差は0.210±0.144μm,矢状収差は0.181±0.124μm,球面収差は0.119±0.075μmであった。瞳孔径と全高次収差,瞳孔径と球面収差の間に正の相関があった。矢状収差が大きい例は,強膜弁縫合が5本以上の場合に多かった。結論:線維柱帯切除術の術後には高次収差が増加し,視力の質が低下する可能性がある。

後期高齢者の緑内障診療における網膜神経線維層厚解析(GDxVCC)の有用性

著者: 真壁健一 ,   武井一夫 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.659 - P.664

要約 目的:後期高齢者の緑内障診断での網膜神経線維層厚解析の評価。症例と方法:緑内障が疑われた273名544眼にHumphrey視野検査と網膜神経線維層厚解析(GDxVCC)を行った。40~59歳の中高年齢者380眼と,75~100歳の後期高齢者164眼の結果を比較した。結果:信頼できる視野は,中高年齢者の75.3%,後期高齢者の46.3%で得られ,有意差があった(p<0.001)。信頼できるGDxVCC結果は,それぞれ90.3%と65.9%で得られ,有意差があった(p<0.001)。緑内障が確定した80眼では,視野の平均偏差とGDxVCCの神経線維指数との間に相関があった(中高年齢者r=-0.65,後期高齢者r=-0.68,p<0.001)。結論:GDxVCCによる網膜神経線維層厚解析は,結果の信頼性が高く,視野と相関し,後期高齢者の緑内障診断に有用である。

小児の経眼窩的頭蓋内穿通外傷の2例

著者: 川田浩克 ,   大庭正裕 ,   日景史人 ,   大黒浩

ページ範囲:P.665 - P.669

要約 目的:眼窩を貫通して頭蓋内に穿孔性外傷が生じた小児の2症例の報告。症例:1例は5歳女児,他の1例は1歳女児で,いずれも左眼に受傷した。第1例は箸が内眼角近くを貫通し,CTで先端部が頭蓋内にあった。開頭手術で異物を除去した。第2例ははさみを持ったまま転倒し,上眼瞼に裂傷を生じた。嘔吐が続き,受傷翌日のCTで貫通性脳挫傷があり,さらに外傷性脳動脈瘤が発見された。開頭手術が実施され,2症例とも以後の経過は良好である。結論:眼瞼または眼窩の外傷では,異物が頭蓋内に穿通している可能性があり,注意が必要である。

低出生体重児における視力および屈折の変化

著者: 太刀川貴子 ,   上野里都子 ,   松生寛子 ,   小野まどか ,   勝海修

ページ範囲:P.671 - P.678

要約 目的:低出生体重児の視力と屈折の報告。対象と方法:出生時体重が1,500g未満であった171例342眼を検索した。屈折は等価球面度数で評価した。結果:光または冷凍凝固を受けない110眼では,2~5歳時の屈折は+1.45±1.82D,半周に凝固を受けた88眼では-2.03±3.39D,全周に凝固を受けた94眼では-6.13±3.39Dであった。全周凝固群での5D以上の近視の頻度は在胎週数と反比例した。6歳時に矯正視力が1.0以上である頻度は,自然治癒群89.5%,半周凝固群83.3%,全周凝固群21.7%であった。5D以上の近視の頻度は,凝固の範囲と正の相関があった。全周凝固群の視力は半周群よりも有意に低かった(p<0.01)。結論:光または冷凍凝固を受けない低出生体重児には強度近視が生じない。強度近視と視力発達遅延は全周凝固例に多い。

網膜静脈分枝閉塞症に対するベバシズマブ硝子体内注射治療の効果

著者: 柚木達也 ,   武田祥子 ,   藤田和也 ,   御手洗慶一 ,   北川清隆 ,   柳沢秀一郎 ,   渡辺一彦 ,   三原美晴 ,   林篤志

ページ範囲:P.679 - P.682

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に対するベバシズマブ硝子体内注射の効果の報告。対象と方法:黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症34例34眼を対象とした。男性10例,女性24例で,平均年齢は70歳である。ベバシズマブは1.25mgを硝子体内に注射した。6か月以上の経過を追跡し,logMAR 0.3以上の変化を改善または悪化とした。結果:視力は20眼(59%)で改善し,中心窩厚は532±216μmから315±144μmに有意に変化した(p<0.01)。27眼(79%)で黄斑浮腫が再発した。ベバシズマブの追加治療を19眼(56%)に行い,黄斑部の光凝固を14眼(41%)に行った。結論:網膜静脈分枝閉塞症に続発した黄斑浮腫に,ベバシズマブ硝子体内注射は短期的には有効である。

網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫へのベバシズマブ硝子体内投与

著者: 加藤睦子 ,   中山正 ,   熊瀬有美 ,   寺石友美子 ,   高畠まゆみ

ページ範囲:P.683 - P.687

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫へのベバシズマブ硝子体内投与の結果の報告。対象と方法:網膜静脈分枝閉塞症22例22眼を対象とした。男性12例,女性10例で,年齢は47~81歳(平均64歳)である。ベバシズマブ1.25mgを硝子体内に注入し,6か月以上の経過を追った。結果:視力は16眼で改善し,3眼で不変,3眼で悪化した。最終診察時の中心窩網膜厚,初回投与後の視細胞内外節の接合部の状態,浮腫再燃の有無が最終視力に有意に影響した。6眼では再燃がなく,15眼では投与後平均2.75か月で再燃し,うち10眼には平均2.5回の投与をした。再燃は65歳未満で,黄斑浮腫の期間が3か月未満であるときに多かった。結論:網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対し,ベバシズマブ硝子体内投与は有効である。

近視性脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果

著者: 豊川紀子 ,   木村英也 ,   黒田真一郎

ページ範囲:P.689 - P.693

要約 目的:近視性脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果の報告。対象と方法:近視性脈絡膜新生血管がある16例16眼を対象とした。男性2例,女性14例で,年齢は32~80歳(平均62歳)である。屈折は全例が-6D以上であった。視力はlogMARで評価した。結果:1.25mgベバシズマブを1~4回(平均1.3回)投与し,14例(88%)で新生血管が非活性化した。新生血管が瘢痕化したあと,1眼で視力が0.3以上悪化した。結論:近視性脈絡膜新生血管に対しベバシズマブの硝子体内投与は有効であるが,病巣周囲の網脈絡膜萎縮の進行により視力が悪化することがある。

眼付属器MALTリンパ腫10例の検討

著者: 岡本全弘 ,   松浦豊明 ,   小島正嗣 ,   湯川英一 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.695 - P.699

要約 目的:眼付属器粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫10例の治療成績の報告。対象と方法:過去5年間のMALTリンパ腫10例を診療録の記述に基づいて検索した。結果:男性5例,女性5例で,全例が眼部に限局していた。4例が片眼,6例が両眼発症で,年齢は35~72歳(平均58歳)である。腫瘍は6例では結膜に限局し,4例は眼窩結合織原発であった。8例は放射線治療,3例がリツキシマブによる化学療法を受けた。放射線総量は病変部局所で32~38Gyであった。6~48か月(平均26か月)の経過観察で,治療を受けた全例で病変が縮小し,再発はなかった。結論:眼付属器MALTリンパ腫に対し,放射線照射は有効である。

日本医科大学付属病院眼科における内眼炎患者の統計的観察

著者: 伊藤由紀子 ,   堀純子 ,   塚田玲子 ,   河上花子 ,   高橋浩

ページ範囲:P.701 - P.705

要約 目的:過去4年間の内眼炎の解析。対象:2008年までの4年間に当科を受診した内眼炎患者433名を対象とした。男性208名,女性225名であり,平均年齢は51歳である。結果:前眼部ぶどう膜炎47%,汎ぶどう膜炎27%,後部ぶどう膜炎19%,中間部ぶどう膜炎4%であった。272例(63%)で確定診断ができた。疾患別では,サルコイドーシス19%,強膜炎14%,Vogt-小柳-原田病5%,へルペス性角膜ぶどう膜炎5%,急性前部ぶどう膜炎4%,Behçet病3%などである。小児では若年性虹彩毛様体炎,成人ではサルコイドーシスが最も多かった。緑内障の併発が30%にあり,うち約30%がステロイド緑内障であった。結論:当科ではサルコイドーシス,原田病,Behçet病の三大ぶどう膜炎に強膜炎,ヘルペス性角膜ぶどう膜炎,急性前部ぶどう膜炎が続いた。ぶどう膜炎の37%が分類不能であった。

眼部帯状疱疹の涙液中の水痘・帯状疱疹ウイルスDNA量

著者: 山本紗也香 ,   杉田直 ,   森尾友宏 ,   清水則夫 ,   望月學

ページ範囲:P.707 - P.710

要約 目的:眼部帯状疱疹の涙液中の水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)-DNA量の報告。対象と方法:対象は眼部帯状疱疹に伴う角結膜炎患者6例。両眼から涙液を採取し,マルチプレックス定性PCRでヘルペスウイルス属をスクリーニングし,リアルタイムPCRでVZV-DNA量を測定した。結果:患眼の涙液(n=6)から高値のVZV-DNA(平均2.4×109copy/ml)が検出された。僚眼の涙液(n=4)からもVZV-DNA(平均1.0×106copy/ml)が検出された。患眼のウイルス量は僚眼より有意に高値を示した。涙液中のウイルス量と眼所見とに有意な関係はなかった。結論:眼部帯状疱疹で,患眼および僚眼の涙液から高値のVZV-DNAが検出された。患眼のウイルス量は僚眼より有意に高かった。

高齢者の視覚障害が配色に与える影響―色相表示記号による検討

著者: 明尾潔 ,   小田真弓 ,   植田好美 ,   平沼帝子 ,   明尾庸子

ページ範囲:P.711 - P.715

要約 目的:視覚障害がある高齢者で色相再現を試みた報告。対象と方法:高齢者3名を対象とした。年齢は83,87,95歳で,視力はそれぞれ0.9と1.0,1.0と0.5,0.4と0.4である。赤いリンゴと緑のミカンを見せ,色相表示記号を使ってコンピュータ上でその色彩を再現した。結果:核白内障がある症例1では,リンゴの赤とミカンの緑が薄く表示された。褐色白内障がある症例2では,リンゴの赤は認識でき,ミカンの緑には暗い灰色が混ざった色彩を選んだ。皮質白内障がある症例3では,赤と緑のどちらにも薄い色を選んだ。結論:視力低下に左右差がない白内障でも,選ぶ色合いには左右差があり,進行した白内障では緑の色相の認識が低下する。掲示物などでの緑色の配色には,これについての配慮が望まれる。

β遮断点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較

著者: 冨田隆志 ,   池田博昭 ,   櫻下弘志 ,   塚本秀利 ,   木平健治

ページ範囲:P.717 - P.720

要約 目的:緑内障に対するβ遮断点眼薬の先発と後発医薬品での費用の比較。方法:2%カルテオロール,0.5%チモロール,0.5%ベタキソロール,0.25%ニプラジロールの点眼薬28銘柄につき,点眼回数と薬価から1日あたりの薬剤費を算出し,先発品と後発品とを比較した。結果:28銘柄の1日あたりの薬剤費は11.9~107.8円(平均44.0円)であった。先発品に対する後発品の薬剤費の比率は,カルテオロールでは0.55~0.95倍,チモロールでは0.23~0.44倍,ベタキソロールでは0.68~0.71倍,ニプラジロールでは0.69~1.02倍であった。結論:β遮断点眼薬として先発品の代わりにジェネリック製品である後発品を用いることで,薬剤費の大幅な低下が期待できる。製品によっては先発と後発品間の費用がほとんど変わらないことに注意が必要である。

小児におけるアレルギー性結膜疾患の臨床像と疾患別比較

著者: 鈴木岳人 ,   佐藤新兵 ,   渡邉洋一郎 ,   門之園一明 ,   内尾英一

ページ範囲:P.721 - P.723

要約 目的:小児のアレルギー性結膜炎の臨床像と疾患別特徴の報告。対象と方法:過去2年間に受診した15歳以下のアレルギー性結膜炎84例を対象とした。男児56例,女児28例で,10項目の臨床所見をそれぞれ4段階に分類し,その合計を臨床スコアとして評価した。結果:アレルギー性結膜炎49例(58%),アトピー性角結膜炎10例(12%),春季カタル25例(30%)で,成人例よりも春季カタルが多かった。平均年齢は,アレルギー性結膜炎よりも春季カタルが有意に高かった。臨床スコアには3疾患間それぞれに有意差があった。結論:小児のアレルギー性結膜炎には,3疾患の臨床像に明らかな差がある。春季カタルは発症年齢が高く,増殖性病変が形成されるときの再構築(リモデリング)の過程を反映している可能性がある。

日本人角膜鉄線の形と分布にみる角膜鉄線発生機序の細隙灯顕微鏡写真による研究

著者: 松原稔

ページ範囲:P.725 - P.730

要約 目的:細隙灯顕微鏡写真に基づいた角膜鉄線の発症機序の検討。対象と方法:外来患者5,342名を対象とした。角膜を細隙灯顕微鏡に装着したビデオで記録し,印画紙に焼き付けて鉄線の形と分布を検索した。結果:鉄線の両側と両端に表層細胞からの表面反射がない透明域があった。この透明域は鉄線がない角膜でも観察された。透明域は表層細胞表面の絨毛が多い細胞群であると推定した。鉄線と透明域の分布は渦状角膜の形と一致した。角膜片雲周辺の透明域の形は,水流が障害物の間で淀んだり流れを変えたりする形に類似した。鉄線と透明域には渦があり,渦の中心部と鉄線と透明域の交差部で鉄線が太くなった。結論:角膜鉄線では,基底細胞の移動と分化の速度変化がその発症に関与する可能性がある。

最近20年間における未熟児網膜症の発症率と治療率の検討

著者: 樋口明宏 ,   矢部文顕 ,   加畑隆通 ,   小平奈利 ,   毛利陽子 ,   新井順一 ,   宮本泰行

ページ範囲:P.731 - P.735

要約 目的:未熟児網膜症の発症率と治療率の,過去20年間の変遷の報告。対象と方法:1988~2007年に眼科的に検索した極低体重児960例を調査した。1996年までを前期,1997年以後を後期とした。結果:全例が出生体重1,500g以下で,403例が1,000g未満の超低出生体重児であった。未熟児網膜症の発症率は,前期では454例中250例(55.1%),後期では506例中204例(40.3%)であり,後期で有意に低かった(p<0.05)。治療率は,前期16.8%,後期26.1%であった。超低体重児では,発症率が前期85.4%,後期64.2%であり,治療率は前期20.9%,後期34.9%であった。結論:未熟児網膜症の発症率は,1996年以前よりも1997年以後で低かった。治療を必要とした症例は,超低体重児と在胎週数28週未満児で前期よりも後期で多かった。

乳糜胸を合併した未熟児網膜症の1例

著者: 馬場高志 ,   船越泰作 ,   金田周三 ,   山﨑厚志 ,   井上幸次 ,   堂本友恒 ,   長田郁夫 ,   神﨑晋

ページ範囲:P.737 - P.742

要約 目的:先天性乳糜胸があり,出生体重が2,400gを超える新生児に未熟児網膜症が発症した症例の報告。症例:症例は在胎34週4日で生まれた女児で,体重は2,453g,Apgarスコア1/3点であった。在胎26週頃から胎児水腫が進行したため,胸腔穿刺を行い,帝王切開で出生した。出生後,胸腔穿刺,長期間の高濃度酸素投与,NO吸入療法,ステロイド投与を行った。生後50日目に眼科的な検査を受け,zone Ⅱ,stage 3の未熟児網膜症が発見された。両眼の耳側無血管領域に光凝固を行い,網膜症は鎮静化した。結論:高度な呼吸循環障害など全身的なリスクが高い新生児には,できるだけ早期の眼底検査が望まれる。

一過性に糖尿病網膜症の悪化を認めた1例

著者: 徳川英樹 ,   西川憲清 ,   坂東勝美 ,   津村朋子 ,   田中康夫

ページ範囲:P.743 - P.747

要約 目的:急激に眼底所見が変化した糖尿病網膜症の症例の報告。症例:64歳男性が交通外傷を機に糖尿病が発見され,その翌日に眼科を受診した。矯正視力は右0.9,左0.7で,眼底に軟性白斑と,線状としみ状出血があった。血圧は136/76mmHg, HbA1cは8.5%であった。1か月後の再診で出血斑と軟性白斑がやや増加し,2か月後にはさらに増加した。血液検査で糖尿病の状態に大きな変化はなく,初診時から赤血球267万/μl,ヘモグロビン8.5g/dl,ヘマトクリット値26.9%の貧血があったことが判明した。4か月後から貧血の回復とともに眼底出血と白斑は減少した。結論:糖尿病網膜症が急激に悪化する場合には,貧血が原因として存在する可能性がある。

網膜芽細胞腫に対する治療成績

著者: 佐久間雅史 ,   久保田敏信

ページ範囲:P.749 - P.751

要約 目的:網膜芽細胞腫に対する治療成績の報告と国際分類(2003)の評価。対象と方法:2008年までの7年間に網膜芽細胞腫21例29眼が受診した。初診時の年齢は1~106か月(平均18か月)で,男児13例(62%),女児8例(38%)であり,13例が片眼,8例が両眼発症であった。初回治療として眼球を摘出しなかった24眼に,化学療法と経瞳孔温熱療法による保存治療を行った。国際分類による24眼の内訳は,A群0眼,B群11眼,C群1眼,D群9眼,E群3眼であった。結果:24眼のうち眼球が温存できたのは,B群11眼(100%),C群1眼(100%),D群2眼(22%),E群0眼であった。結論:網膜芽細胞腫に対する化学療法を主とする治療成績は,国際分類をよく反映している。

小児急性リンパ性白血病に対する骨髄移植後の完全寛解期に起こった眼内再発

著者: 濱島紅 ,   森秀夫

ページ範囲:P.753 - P.756

要約 目的:小児急性リンパ性白血病の完全寛解期に眼内再発が起こった症例の報告。症例:7歳の男児が左眼網膜剝離として紹介され受診した。5歳時に急性リンパ性白血病と診断され,6歳時に同胞から骨髄移植を受け,完全に寛解した。所見:矯正視力は右1.5,左手動弁で,左眼に硝子体混濁,網膜全剝離,乳頭腫脹があった。1か月後に眼圧が上昇し,新生血管緑内障が生じた。化学療法と放射線照射で眼圧は正常化したが視力は失われ,眼球癆になった。受診から2年後に右聴神経,動眼神経,三叉神経などに腫瘍の浸潤が生じ,全脳照射ののち再度の骨髄移植を行った。以後3か月後の現在まで頭蓋内病変と全身状態は良好である。結論:小児急性リンパ性白血病は治癒率と生存率が高いが,完全寛解した後でも眼領域に再発することを本症例は示している。

両眼球摘出に至った頭蓋底脊索腫の1例

著者: 長田佐智子 ,   吉田紀子 ,   村田敏規 ,   酒井圭一

ページ範囲:P.757 - P.761

要約 目的:頭蓋底脊索腫が発症し,複数回の摘出を行ったのち,両眼の眼球摘出を必要とした1例の報告。症例:49歳男性が脊索腫の精査のため紹介され受診した。3年前から鼻閉感と左眼視力の低下があり,頭蓋内腫瘍が発見され,脊索腫の診断が確定した。2度の腫瘍の亜全摘が行われた。所見と経過:矯正視力は右1.2,左0.02で,左眼に視神経萎縮と中心暗点があった。以後6年間に13回の腫瘍摘出が行われた。初診の3年後から右眼窩内に腫瘍が拡大し,その3年後に左眼突出が生じた。初診から6年後に15回目の腫瘍摘出が行われ,その2か月後に両眼とも光覚弁が消失した。角膜障害と疼痛があり,さらに眼球周囲の腫瘍摘出が必要であることを考慮し,両眼の眼球摘出が実施された。結論:頭蓋底の脊索腫が眼窩に伸展し,眼球摘出が必要になった稀有な症例である。

甲状腺眼症に対するステロイドパルス療法中に急性肝機能障害を認めた1例

著者: 三河貴史 ,   斎藤了一 ,   新川恭浩 ,   笠木寛治

ページ範囲:P.763 - P.767

要約 目的:甲状腺眼症に対するステロイドパルス療法中に急性肝機能障害が生じた1症例の報告。症例:38歳女性が4か月前にBasedow病と診断され,眼科を受診した。視力は左右とも1.5で,眼位と眼球運動に障害はなく,上眼瞼腫脹があった。21か月後の磁気共鳴画像検査(MRI)では上直筋と内直筋の腫脹が増大した。メチルプレドニゾロン1gを3日間投与し,4日間休薬するパルス療法を3回行った。その後のプレドニゾロン内服中に,肝酵素の著明な上昇がみられた。幸い肝機能障害の臨床症状はなく,プレドニゾロンの早期減量で肝酵素も正常化した。結論:甲状腺眼症に対するステロイドパルス療法は,急性肝機能障害を起こす危険があり,慎重に行うべきである。

先天眼トキソプラズマ症の再発時における治療前後の光干渉断層計所見変化

著者: 伊藤はる奈 ,   高橋淳士 ,   長岡泰司 ,   福井勝彦 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.769 - P.774

要約 目的:先天眼トキソプラズマ症再発に対する治療前後の光干渉断層計(OCT)による所見の報告。症例:17歳女性が4日前からの右眼中心暗点で受診した。所見:矯正視力は右1.0,左1.5で,右眼の黄斑部耳側に色素沈着を伴う網脈絡膜の瘢痕と網膜滲出斑があった。OCTで網膜滲出斑は肥厚し,蛍光眼底造影による低蛍光領域に一致して硝子体中に多数の点状物が浮遊していた。先天眼トキソプラズマ症の再発と診断し,アセチルスピラマイシンの内服で4週間後に自覚症状はなくなった。OCTでは滲出部が平坦化し,低蛍光領域に一致する黄斑上方に網膜の菲薄化があった。結論:先天眼トキソプラズマ症の再発時には,OCTで網膜の滲出病変よりも広い範囲に変化があり,診断と経過の観察に有用であった。

点眼治療のみで軽快した壊死性強膜炎の1例

著者: 河野真穂 ,   西田朋美 ,   稲森由美子 ,   神尾美香子 ,   湯田健太郎 ,   野村英一 ,   水木信久

ページ範囲:P.775 - P.779

要約 目的:点眼治療のみで軽快した壊死性強膜炎の症例の報告。症例:79歳男性が左眼の眼脂と充血で受診した。15年前から関節リウマチで加療中であり,前日から汎血球減少を伴う熱発と皮疹があった。所見:左眼の鼻側上方で強膜が菲薄・融解し,ぶどう膜が透見され,壊死性強膜炎と診断した。全身状態から副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の全身投与が不可能であり,ベタメタゾンと2%シクロスポリンの点眼を中心に治療を行った。治療開始から3週間後に強膜と結膜の炎症が鎮静化した。結論:全身的な理由から副腎皮質ステロイドの全身投与ができない壊死性強膜炎では,ベタメタゾンやシクロスポリンの点眼のみで軽快する症例がある。

専門別研究会報告

視野研究会

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.782 - P.783

はじめに

 昨年までは日本眼科学会総会で開催されていた専門別研究会である「視野研究会」は,今年から日本臨床眼科学会に移り,2008年10月23日午前に開催された。参加者は200名を越し,盛会であった。

 研究会会長である北原健二先生は,この会を最後に会長を降りられることを春の日本眼科学会総会での世話人会で表明されていた。しかし北原先生は今回の会に欠席されており,会の後で開かれた世話人会で,「体調を崩しており,皆様によろしく」との伝言が報告された。日本臨床眼科学会が終わった直後の10月28日に,ご逝去されたとの知らせを受けた。北原先生は長きにわたって視野研究会に多大の貢献をされ,2005年から会長を務められた。この場をお借りして先生の視野研究会に対するご遺徳を偲び,心よりご冥福をお祈り申しあげる。

 今回の研究会は一般演題6題,シンポジウムで5題,特別講演1題を企画した。各演者の内容を簡記する。敬称は省略する。

オキュラーサーフェス―眼科アレルギー研究会

著者: 熊谷直樹

ページ範囲:P.784 - P.785

はじめに

 第17回日本眼科アレルギー研究会の学術講演会が,「免疫抑制剤点眼液の新展開」をテーマに,第62回日本臨床眼科学会においてオキュラーサーフェス研究会のなかで行われた。内尾英一(福岡大学)・熊谷直樹(くまがい眼科)が座長を務めた。

 春季カタルは重症の増殖性結膜炎であり,上眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部結膜の堤防状隆起などの増殖性変化を特徴とする。さらに春季カタル患者の多くでは遷延性角膜上皮欠損,角膜プラークなどの角膜上皮病変が生じ視機能が損なわれる。春季カタルの治療薬としては従来,抗アレルギー薬の点眼液と副腎皮質ステロイド剤の点眼液が中心的な役割を果たしてきた。しかし,前者は有効性が低く,後者にはステロイド緑内障の誘発などの副作用が生じるという問題点があった。

 近年,免疫抑制薬であるシクロスポリンおよびタクロリムスの点眼液が春季カタルの治療薬として相次いで認可され,春季カタルの薬物治療は新たな時代を迎えた。本学術講演会では5人の専門家に免疫抑制点眼薬の作用機序,臨床的評価,使用方法,今後の展望などについてのご講演・ご討議いただいた。

DNAチップ研究会

著者: 西塚弘一

ページ範囲:P.786 - P.787

 日本臨床眼科学会専門別研究会「第9回DNAチップ研究会」は10月23日(木)午前に開催された。一般講演5題,教育演題1題,特別講演1題と内容の豊富なプログラムであり,眼科分野におけるバイオインフォマティクスに関する高度な研究内容を聞くことができた。

連載 今月の話題

小切開硝子体手術と術後眼内炎

著者: 島田宏之

ページ範囲:P.629 - P.636

 23ゲージや25ゲージ硝子体手術は,20ゲージ硝子体手術と比較して小さな切開創から手術ができることから,小切開硝子体手術と呼ばれている。結膜や強膜創を縫合しないため術後の異物感や乱視が少なく,手術時間も短縮できることから低侵襲手術とされ,適応の拡大とともに広く普及してきている。しかし最近,小切開硝子体手術の術後眼内炎が問題となってきている。細菌が硝子体に直接侵入する硝子体手術後眼内炎は,網膜,視神経の障害が早期に生じ視力予後が不良である。術後眼内炎を予防するためには,術野の細菌を繰り返し洗浄する,確実に創を作製・閉鎖し細菌の迷入を予防する,硝子体を周辺まで切除し細菌の足場をなくすといった術中感染対策が必要である。

日常みる角膜疾患・74

Descemet膜前角膜ジストロフィ

著者: 近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.638 - P.640

症 例

 患者:58歳,男性

 主訴:両眼の視力低下

 現病歴:会社の検診で視力低下を指摘された。近医で両眼の白内障と角膜内皮側の混濁がみられたため,角膜の精査を目的として当科を紹介された。

 既往歴:高血圧と糖尿病を内服薬で加療中で,いずれもコントロール良好であった。

 初診時所見:視力は右0.08(0.5),左0.03(0.8p),眼圧は右12mmHg,左15mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査では,両眼の角膜実質深層に顆粒状の淡い混濁が散在しており(図1),前房内炎症はなかった。角膜内皮細胞密度はスペキュラマイクロスコープで右2,631 cells/mm2,左2,777 cells/mm2で,角膜後面沈着物や内皮面の不整はなかった。

 レーザー生体共焦点顕微鏡(HRTⅡ-RCM®)を用いた観察では,Descemet膜直上の実質深層に輝度の高い細胞質をもつやや大型の実質細胞が散在していた。細胞質内にのみ高輝度のやや大小不同を有する顆粒状物質の散在が認められ,細胞間にはなかった(図2a)。顆粒状物質は実質深層でのみ認められ,実質浅層および中層ではほとんどみられなかった(図2b)。上皮層には異常所見はみられず,Descemet膜と実質深層の境界を断層で捉えた像からは,顆粒状物質は実質内のみに存在しDescemet膜には存在していないことが明らかであった(図2c)。また,スペキュラマイクロスコープの所見と同様に角膜内皮の所見にも異常所見は認めなかった(図2d)。

 治療経過:両眼に中等度の白内障があり,白内障手術を施行したところ,術後に矯正下で両眼とも1.2の視力が得られた。

網膜硝子体手術手技・29

裂孔原性網膜剝離(4)―硝子体手術(1)

著者: 浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.642 - P.646

はじめに

 最近では,裂孔原性網膜剝離に対して強膜内陥術ではなく硝子体手術を選択する術者が増えている。しかし,非常に粘稠な網膜下液を有する萎縮性円孔による網膜剝離では,術中に排液しきれない可能性があり,また若年者の網膜剝離に硝子体手術を選択した場合には,術後の白内障の発生が問題になることがある。そういった症例には強膜内陥術を選択したほうが賢明であろう。

 硝子体手術による網膜復位の不成功は,そのまま増殖硝子体網膜症への急速な進行を意味し,特に術前に黄斑が未剝離で視力良好な場合には不幸な結果となる。したがって慎重な症例選択を行うことが必要である。

説き語り論文作法・2

緒言に書くべきこと

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.648 - P.651

教授 論文のメッセージを1つに絞り込めと言うたよね。伊集院君の研究では,われわれの眼科で経験したアカントアメーバ角膜炎20例,これを研究の場として統計解析をした結果,初診時の病期によって治療成績が大きく変わることが明らかになった,ということやった。

 次はそれを報告する価値があるかということや。文献は調べてあるか。

伊集院 はい,いくつかは調べました。

教授 いくつかは……? まあいい。どうせ書きながら,あれが足りない,これが足りないということになるんやから,書きながら必要なものを加えていくことにしようや。

もっと医療コミュニケーション・17

医師に必要なエトスの表現―今もギリシア時代もリーダーは不変

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.790 - P.793

 私たちが人間関係をつくるときに,相手を信用して,「この人だったら信じられる」という気分でいられることが,関係づくりの大前提であることは当然のことでしょう。この人間関係づくりの基本である「信頼性」の獲得について,医師と患者という立場に限定してみると,面白いことがわかります。

 医師を訪ねてくる患者は,何らかの病気のために,何とかして治りたいという欲求(need)があると同時に,その回復欲求がもしかしたら目の前の医師によって完全に満たされないかもしれないという,心理学でいう「予期不安」または「期待不安」をもっていることが多いものです。

臨床報告

ベバシズマブ硝子体内注射が奏効したIrvine-Gass症候群の2例

著者: 白潟ゆかり ,   白神千恵子 ,   野本浩之 ,   藤村貴志 ,   白神史雄

ページ範囲:P.801 - P.805

要約 目的:ベバシズマブの硝子体内注射が奏効したIrvine-Gass症候群2例の報告。症例:73歳と69歳の男性が超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ移植術を受けた。術直後の視力は0.8と1.2であったが,それぞれ3週間後と2か月後に0.2と0.6に低下した。いずれにも囊胞様黄斑浮腫と中心窩の肥厚があり,Irvine-Gass症候群と診断された。ベバシズマブ1.25mgを2例の硝子体内に注射した。いずれも2週間後と1週間後に囊胞様黄斑浮腫は消失し,視力はそれぞれ0.4と1.2に改善した。13か月後と22か月後まで再発はない。結論:Irvine-Gass症候群に対し,ベバシズマブの硝子体注射が奏効する可能性がある。

原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象としたラタノプロスト・チモロール配合剤(KP2035)の第Ⅲ相二重盲検比較試験

著者: 北澤克明 ,   KP2035共同試験グループ

ページ範囲:P.807 - P.815

要約 目的:0.005%ラタノプロストと0.5%チモロール配合剤(KP2035)の有効性と安全性の評価と0.005%ラタノプロスト単剤との比較。対象と方法:原発開放隅角緑内障195例と高眼圧94例の計289例を対象とした。Run-in期間としてラタノプロストを4週間点眼した後,KP2035群とラタノプロスト単独群とに無作為に割り付け,1日1回の点眼を8週間行った。Run-in期間終了後の眼圧をベースラインとした。結果:点眼を8週間行った後の眼圧変動は,KP2035群では2.59±2.40mmHg,ラタノプロスト単独群では1.61±2.19mmHgで,両群間に有意差があった(p<0.001)。KP2035群ではラタノプロスト群よりも眼刺激の発現が多かったが軽度であった。その他の眼局所の有害事象の頻度と程度は両群間でほぼ同程度であった。心・血管系と呼吸器系に有害事象は発生せず,眼科的所見を含め安全性で特に問題になる所見はなかった。結論:開放隅角緑内障と高眼圧症に対し,KP2035はラタノプロストよりも大きな眼圧下降効果を示し,認容性が高いと評価される。

今月の表紙

円錐角膜

著者: 鶴留康弘 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.637 - P.637

 症例は30歳,男性。2006年5月に左眼の円錐角膜の精査および治療のため,大阪大学眼科に紹介され受診した。初診時の左眼視力は0.01(0.4)であった。細隙灯顕微鏡のブルーフィルタ下でFleischerリングを認めたが,急性水腫はきたしていなかった。ペンタカム®の結果を示す(a)。高さデータから角膜前面,後面ともに下方の突出を認めた。曲率半径は広範囲に急峻化し,角膜頂点は瞳孔から下方にずれていた。角膜厚は角膜中央から下方にかけて菲薄化し,角膜頂点のやや下方が最も薄く182μmであった。ビサンテTM OCTでの角膜断層像も,ペンタカム®の所見に一致した角膜の菲薄化と突出を認めた(b)。ハードコンタクトレンズを装用して経過観察していたものの装用が困難となり,2008年10月に全層角膜移植術を施行した。

 移植後5か月が経つが経過は順調で,左眼視力は(1.0)に向上した。写真cは,TOPCON SL-D7+写真撮影装置SL-P T54Nを用い,スリット幅1~2mm,長さ14mm,背景照明ON,絞り9に設定した。患者の顔を60°ほど右に傾け,視軸方向からスリットを当て,耳側から撮影した。自然な眼の様子になるようにスリット光を見えない位置にやや偏心させた。また絞りを開放し,睫毛や球結膜などの背景をぼかすことで,より急峻に突出した角膜を写し出すことができた。

べらどんな

先覚者

著者:

ページ範囲:P.646 - P.646

 光凝固が有効であることが発表されてから,未熟児網膜症の治療方針と予後が一変した。

 これが報告されたのは昭和42年(1967年)に東京で開催された日本臨床眼科学会で,永田 誠先生が発表者である。この画期的な知見は翌年4月の本誌に掲載された(臨眼22:419-427,1968)。

墨汁

著者:

ページ範囲:P.710 - P.710

 6・3・3の新学制は昭和22年に始まったが,そのときに占領軍から指令が出た。「道」がつく科目はすべて学校から追放せよというのである。

 剣道や柔道ならわかるが,書道もこれに該当することになった。やっと昭和28年から小中学校で書道を教えることが認められたが,それよりも前の世代の方々は筆でものを書くことを習わなかったのである。

書評

臨床医のための症例プレゼンテーションAtoZ[英語CD付]

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.756 - P.756

 このたび,自治医科大学客員教授であり東京医科大学の総合臨床科教授でもある齋藤中哉教授の執筆と,自治医科大学教授のAlan T. Lefor教授の編集協力により,『臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z』が医学書院から出版された。これには英語のCDが付いている。

 本書の内容は,2003年以来,ハワイ大学の医学教育フェローシップ・プログラム・ディレクターをされていた齋藤中哉氏が『週刊医学界新聞』紙上において2004年から1年間,12回にわたって連載した「英語で発信! 臨床症例提示―今こそ世界の潮流に乗ろう」に,大幅な加筆・修正を加えたものだ。連載は,カンファレンスにおける症例提示(case presentation)の実例を分析し,テキストとして教育的,効率的な症例の提供の仕方を教えてくれる,読者にあたかも米国での症例検討会に出席しているような感を与える記事であった。

医療事故初期対応

著者: 中西成元

ページ範囲:P.781 - P.781

 虎の門病院泌尿器科小松秀樹部長の危惧した「医療崩壊」は現実のものとなりとどまるところを知らない。彼は「最も大きな問題は,医療は本来どういうものかについて患者と医師の間に大きな認識のずれがあることである」としている。「具体的対策を考える前に総論で認識を一致させる努力が必要であり,一致できなくとも,どのように認識が違うかを互いに理解する必要がある」と述べている。医療事故とその後の対応で患者さんの医療に対する不信を強めたことは疑いない。これまでの医療の安全対策や事故後の対応などには大きな問題があった。

 今回『医療事故初期対応』という本が出された。本書の「はじめに」に「医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる」と記されている。このことは疑う余地はない。

やさしい目で きびしい目で・113

育児中の女医支援を

著者: 高原真理子

ページ範囲:P.789 - P.789

 3年前に東京医科歯科大学眼科学教室女性医師の会が発足し,年に1回会合をもつようになりました。幅広い年齢層の女医が集い,1人ずつ仕事や育児などの苦労話をしていきます。先輩たちが困難を乗り越え今もたくましく仕事に取り組んでいる姿は,若い先生たちのよい励みになっているようです。教授や講師など男性陣にもご出席いただくようにしています。

 会の発起人である荏原病院眼科部長秋澤尉子先生のご尽力により,メーリングリストも同時に立ち上げられました。新聞から抜粋した医学関係のニュースが先生から配信されてきます。社会の動向の理解に役立ち,視野が広がります。先生の後輩教育の熱意に頭の下がる思いです。同じく会の発起人である日本眼科医会常任理事で烏山眼科医院院長の福下公子先生は,眼科女性医師支援のためのさまざまな運動にご尽力されており,毎回そのご報告をいただいております。

ことば・ことば・ことば

名前と実体

ページ範囲:P.797 - P.797

 猫や犬を小さいときから飼っていると,可愛らしいので「チビ」と命名することがあります。はじめはよろしいのですが,もっと大きくなるとこの名前は似合わなくなります。「名は体を表す」という話が通用しないことを示す例です。

 「ポチ」もこれと似ているようです。フランス語のpetitは「小さい」という意味の形容詞で,「プチ」と発音されます。横浜あたりのフランス人が,自分の犬を「チビちゃん」というつもりで「プチ」と呼んだのを,「犬はポチ」と近くの日本人が早合点したらしいのです。

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あとがき

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.832 - P.832

 長い歴史を経た先人の医学や医療の記録をもとに,私たちの日常診療では安全かつ有効な治療法を選択していきます。薬剤も手術の方法も,その時代その時代の科学の進歩に依存して刻一刻と変遷していきますが,すべての知識には長い歴史が秘められているわけです。原田病に代表されるように,たった1つの症例報告が大きな疾患概念を作り上げていくことも稀ではありません。

 本号でも,昨年秋の第62回日本臨床眼科学会での貴重なご報告を原著論文として掲載しています。人間を対象とする医療では,機械を対象とする学問のように常に同じ変化が生じるものではありません。1人ひとりの症例で,大小さまざまな違いがありながらも,疾患概念としての普遍性を求めていくことが,明日の同じ疾患で苦しんでいる患者さんの役に立つはずです。1例報告から,本号で掲載しているような第Ⅲ相多施設二重盲検比較試験に至る幅の広い臨床研究がありますが,それぞれが臨床的な意義をもっています。

 大切なのは,いずれかの時代に役立つように,その症例の経過や著者の先生のお考えが記録されていることです。メディアは紙から電子媒体に変化しつつありますが,そこに入力する内容は私たち眼科医の責任であることに変わりがありません。いつの時代であれ,どのようなメディアであれ,いわゆる論文として記録することの大切さに変わりはないと考えます。社会によりよい眼科診療サービスを提供する一助として,雑誌『臨床眼科』がお役に立てばと考えます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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