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特集 第62回日本臨床眼科学会講演集(4) 専門別研究会報告
日本強度近視眼底研究会
著者: 生野恭司1
所属機関: 1大阪大学
ページ範囲:P.1004 - P.1006
文献購入ページに移動はじめに
強度近視眼の研究は近年,目ざましい発展を遂げている。1つは画像診断方法の進歩で,光干渉断層計(OCT)や眼底自発蛍光(FAF)診断装置など新しい技術を用いた眼底検査法の登場によるところが大きい。OCTの登場により,以前は明瞭でなかった中心窩分離症の病態が明らかとなり,また網膜分離から網膜剝離を生じていく典型的な進行形式や,最終的に黄斑円孔網膜剝離(MHRD)に至る様子など,従来の検眼鏡では捕捉しづらい微細な所見の変化も,OCT画像では手に取るようにわかる。また,近視性脈絡膜新生血管(mCNV)も,近視による失明の大きなウエイトを占めるが,OCTは,フルオレセイン蛍光眼底造影の補助的診断,活動性の評価,再発病変の同定などmCNVの診断治療にも力を発揮している。
OCTはさらに,これら近視性黄斑疾患の病因の解明にも大きく貢献している。中心窩分離症の病因に,硝子体牽引が強く疑われていたが,後部ぶどう腫内における内境界膜や網膜血管における伸展不全によって網膜内層が牽引され,中心窩分離症が発症することがOCTを用いた研究で明らかになった。実際にOCTで強度近視眼を観察すると,内境界膜が網膜神経細胞層から剝離したり,網膜血管走行に沿って微小な皺襞を生じていることが確認できる。つまり,強度近視眼では潜在的にこういった牽引力が存在することがOCTで解明されたのである。特に網膜血管微小皺襞は中心窩分離症の硝子体手術後に高頻度にみられ,これら潜在的牽引力が,中心窩分離症を生じさせると考えられる。このように中心窩分離症の病因の理解はOCTの存在なしには不可能であったであろう。
mCNVの発症機序はいまだ明らかではない。従来からlacquer crackや限局性萎縮の存在,そして眼軸延長との関連が指摘されてきた。がしかし,lacquer crackの本数にかかわらずmCNVが生じることや,眼軸長が長いほど頻度が上がるわけではないことから,これらが単一で関連しているのではないと思われる。したがって,例えば脈絡膜の循環障害など他の要因で生じている可能性はある。
FAFは波長488nmで,網膜色素上皮(RPE)内のリポフスチンを励起させて,蛍光信号を検出するものである。蛍光色素の注入をせず,非侵襲的に色素上皮の活動性を評価することができる。Best病やStargardt病では非常に特徴的なFAF過蛍光を呈することが知られており,逆にRPEの機能が低下している場合は低蛍光を示すことから,RPEの機能的変化を早期に検出すると注目されている。強度近視ではRPEの機能だけでなく,網膜剝離と網膜分離の鑑別あるいは黄斑円孔網膜剝離における剝離境界の同定など,さまざまな用途に利用できることがわかっている。
前述したような診断技術の進歩や近年の基礎研究に基づいた新しい薬剤の登場は,強度近視における難治性黄斑疾患の治療法を一変させた。ひとつには中心窩分離症が黄斑円孔網膜剝離の前駆状態と認識されるようになり,硝子体手術が積極的になされるようになったことである。術式の細部はいまだ議論されている部分もあるが,筆者らのグループでは,後部硝子体剝離作製を行い,その後,内境界膜剝離,ガスタンポナーデを施行し良好な手術成績を得ている。
また従来はmCNVに対し光凝固がなされていたが,術後の瘢痕拡大が大きな問題であった。欧米で主流の光線力学療法(PDT)はわが国では保険適応がなく,また術後の脈絡膜血管閉塞が大きな問題で,必ずしも満足する治療法ではない。そういった意味で抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が期待されている。なかでもベバシズマブは多くの施設でmCNVの治療に用いられるようになり,良好な成績が報告されている。いまだ無作為前向き比較試験がなされていないためエビデンスとしては強くないが,今後mCNVに対する治療の中心として期待されている。
上記のような状況を踏まえ,本年度の強度近視研究会は90分の持ち時間を3つのパートに分けて行った。最初のセッションは「検査・病態」と題し生野(大阪大学)が,2つめは「治療」で大野京子先生(東京医科歯科大学)が,最後は「合併症」で平形明人先生(杏林大学)がそれぞれ座長を務めた。
強度近視眼の研究は近年,目ざましい発展を遂げている。1つは画像診断方法の進歩で,光干渉断層計(OCT)や眼底自発蛍光(FAF)診断装置など新しい技術を用いた眼底検査法の登場によるところが大きい。OCTの登場により,以前は明瞭でなかった中心窩分離症の病態が明らかとなり,また網膜分離から網膜剝離を生じていく典型的な進行形式や,最終的に黄斑円孔網膜剝離(MHRD)に至る様子など,従来の検眼鏡では捕捉しづらい微細な所見の変化も,OCT画像では手に取るようにわかる。また,近視性脈絡膜新生血管(mCNV)も,近視による失明の大きなウエイトを占めるが,OCTは,フルオレセイン蛍光眼底造影の補助的診断,活動性の評価,再発病変の同定などmCNVの診断治療にも力を発揮している。
OCTはさらに,これら近視性黄斑疾患の病因の解明にも大きく貢献している。中心窩分離症の病因に,硝子体牽引が強く疑われていたが,後部ぶどう腫内における内境界膜や網膜血管における伸展不全によって網膜内層が牽引され,中心窩分離症が発症することがOCTを用いた研究で明らかになった。実際にOCTで強度近視眼を観察すると,内境界膜が網膜神経細胞層から剝離したり,網膜血管走行に沿って微小な皺襞を生じていることが確認できる。つまり,強度近視眼では潜在的にこういった牽引力が存在することがOCTで解明されたのである。特に網膜血管微小皺襞は中心窩分離症の硝子体手術後に高頻度にみられ,これら潜在的牽引力が,中心窩分離症を生じさせると考えられる。このように中心窩分離症の病因の理解はOCTの存在なしには不可能であったであろう。
mCNVの発症機序はいまだ明らかではない。従来からlacquer crackや限局性萎縮の存在,そして眼軸延長との関連が指摘されてきた。がしかし,lacquer crackの本数にかかわらずmCNVが生じることや,眼軸長が長いほど頻度が上がるわけではないことから,これらが単一で関連しているのではないと思われる。したがって,例えば脈絡膜の循環障害など他の要因で生じている可能性はある。
FAFは波長488nmで,網膜色素上皮(RPE)内のリポフスチンを励起させて,蛍光信号を検出するものである。蛍光色素の注入をせず,非侵襲的に色素上皮の活動性を評価することができる。Best病やStargardt病では非常に特徴的なFAF過蛍光を呈することが知られており,逆にRPEの機能が低下している場合は低蛍光を示すことから,RPEの機能的変化を早期に検出すると注目されている。強度近視ではRPEの機能だけでなく,網膜剝離と網膜分離の鑑別あるいは黄斑円孔網膜剝離における剝離境界の同定など,さまざまな用途に利用できることがわかっている。
前述したような診断技術の進歩や近年の基礎研究に基づいた新しい薬剤の登場は,強度近視における難治性黄斑疾患の治療法を一変させた。ひとつには中心窩分離症が黄斑円孔網膜剝離の前駆状態と認識されるようになり,硝子体手術が積極的になされるようになったことである。術式の細部はいまだ議論されている部分もあるが,筆者らのグループでは,後部硝子体剝離作製を行い,その後,内境界膜剝離,ガスタンポナーデを施行し良好な手術成績を得ている。
また従来はmCNVに対し光凝固がなされていたが,術後の瘢痕拡大が大きな問題であった。欧米で主流の光線力学療法(PDT)はわが国では保険適応がなく,また術後の脈絡膜血管閉塞が大きな問題で,必ずしも満足する治療法ではない。そういった意味で抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が期待されている。なかでもベバシズマブは多くの施設でmCNVの治療に用いられるようになり,良好な成績が報告されている。いまだ無作為前向き比較試験がなされていないためエビデンスとしては強くないが,今後mCNVに対する治療の中心として期待されている。
上記のような状況を踏まえ,本年度の強度近視研究会は90分の持ち時間を3つのパートに分けて行った。最初のセッションは「検査・病態」と題し生野(大阪大学)が,2つめは「治療」で大野京子先生(東京医科歯科大学)が,最後は「合併症」で平形明人先生(杏林大学)がそれぞれ座長を務めた。
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