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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科63巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

特集 第62回日本臨床眼科学会講演集(6) 原著

落屑症候群に対する白内障手術は非落屑症候群に比べて何倍合併症が多いのか

著者: 家木良彰 ,   三浦真二 ,   西村衛 ,   田中康裕

ページ範囲:P.1263 - P.1267

要約 目的:落屑症候群がある眼に対する白内障手術時の所見と術中合併症の検討。対象:過去6年間に当院で白内障単独手術を行った9,609眼を診療録に基づき検索した。うち603眼には落屑症候群があり,9,006眼にはなかった。結果:Zinn小帯断裂が落屑症候群では3.6%,その他では0.3%にあり,後囊破損がそれぞれ3.0%と1.7%で生じた。水晶体乳化吸引術が問題なく終了まで実施できたのは,落屑症候群では92.4%,その他では97.6%であった。落屑症候群では,核硬度が高い例と散瞳不良な例で合併症が多かった。結論:落屑症候群眼に対する白内障手術では,これがない眼に比べ,Zinn小帯断裂の頻度が12倍多く,後囊破損が1.8倍多かった。落屑症候群がある眼に対する白内障手術では,核硬度が高いか散瞳が不良な例で合併症が生じやすく,注意が必要である。

滲出型加齢黄斑変性への光線力学療法に対する同時期白内障手術の影響

著者: 日江井佐知子 ,   芦苅正幸 ,   安川力 ,   櫻井英二 ,   吉田宗徳 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1269 - P.1274

要約 目的:加齢黄斑変性に対する光線力学療法の直前に行った白内障手術が治療経過に及ぼす影響の報告。対象と方法:白内障手術をまず行い,14日以内に滲出型加齢黄斑変性に対し,トリアムシノロン併用で光線力学療法を施行した16例19眼を対象とした。男性13眼,女性6眼で,年齢は63~87歳(平均75歳)である。小数視力は平均0.073であり,手術6か月後の視力をlogMARで評価し,0.3以上の変化を改善または悪化とした。結果:治療回数は,平均1.1回であり,視力は1眼(5%)で改善,16眼(84%)で不変,2眼(11%)で悪化した。手術3か月後の黄斑の平均体積は有意に減少した。重篤な合併症はなかった。結論:光線力学療法と同時期に白内障手術を行っても,6か月後の視力と黄斑体積に悪影響はない。

年長児に発生した網膜芽細胞腫の3例

著者: 大場久美代 ,   吉川洋 ,   向野利一郎 ,   狩野久美子 ,   村上祐介 ,   山中時子 ,   吉田倫子 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.1275 - P.1279

要約 目的:8歳の女児3例に発症し,非典型的な所見を呈した網膜芽細胞腫の報告。症例:3例とも片眼性で,主訴は1例が患眼の充血,2例が視力低下であった。患眼の視力は1例が1.5でぶどう膜炎様の眼内炎があり,2例が手動弁で硝子体混濁または出血があった。全例を通じ,画像診断で眼内の腫瘤または石灰化はなかった。いずれも眼球摘出を行い,硝子体播種がある網膜芽細胞腫の診断が確定した。それぞれ7年,4年,16か月の経過観察で再発または転移はない。結論:これら年長児に発症した網膜芽細胞腫は,いずれも非特異的な臨床所見を呈し,注意が必要である。

ぶどう膜炎と月経との関係に関する調査

著者: 高橋任美 ,   杉田直 ,   山田由季子 ,   鴨居功樹 ,   高瀬博 ,   望月學 ,   丸山和一 ,   木下茂

ページ範囲:P.1281 - P.1283

要約 目的:ぶどう膜炎の発症と経過などに及ぼす月経の影響の報告。対象と方法:ぶどう膜炎で通院中の女性54名に,月経周期とぶどう膜炎の自覚症状について問診を行った。年齢は12~51歳(平均31歳)で,内訳はサルコイドーシス8名,原田病8名,Behçet病7名,特発性ぶどう膜炎26名,その他5名である。結果:9名(17%)が月経がぶどう膜炎の自覚症状に関係すると答えた。うち8名では月経直前から月経期間中に症状が悪化した。54名中8名にぶどう膜炎の発症後に妊娠した経験があり,うち出産した5名全例で出産後にぶどう膜炎が一時的に悪化した。結論:ぶどう膜炎がある女性では,月経周期により女性ホルモン動態が変化し,ぶどう膜炎の発症または経過に影響する可能性がある。

コンタクトレンズ装用による感染性角膜炎

著者: 鎌田理佳 ,   門田遊 ,   杉田稔 ,   岩田健作 ,   上原浩嗣 ,   山川良治

ページ範囲:P.1285 - P.1289

要約 目的:感染性角膜炎が発症したコンタクトレンズ装用者が使っている保存液を検索した報告。対象と方法:過去7年間に感染性角膜炎が発症したコンタクトレンズ使用者20例21眼を対象とした。男性15眼,女性6眼で,年齢は15~58歳(平均27歳)である。20眼がソフトコンタクトレンズを用いていた。13眼は受診前に他医で治療を受けていた。病巣部の角膜擦過物とコンタクトレンズ保存液の鏡検または培養を行った。結果:8眼の病巣と13眼の保存液から菌が検出された。緑膿菌が最も多かった。検出菌を参考に治療し,それぞれ8眼中6眼(75%)と13眼中11眼(85%)で軽快した。両群間に有意差はなかった。結論:コンタクトレンズ保存液から分離された病原菌は,感染性角膜炎の治療の参考になる。

長期間経過し混濁したハイドロジェル眼内レンズの摘出

著者: 宮久保寛 ,   宮久保純子

ページ範囲:P.1291 - P.1298

要約 目的:ハイドロジェル眼内レンズ(IOL)の長期経過と石灰沈着したIOLの摘出法の報告。対象と方法:ハイドロジェルIOLとしてH60Mを2000年に挿入した451眼のうち,315眼について挿入から4年後に石灰沈着の有無を検索した。結果:石灰沈着は236眼(52.3%)にあり,その頻度は挿入からの期間につれ増加した。患者の希望と混濁の程度から設定した摘出条件に従い,78眼(17.3%)でIOLを摘出した。摘出時に合併症としてZinn小帯断裂が12眼(15%)に起こった。前囊を多数切開し,IOLの支持部を回転しない手技を用いてから,その頻度が減った。IOLの再挿入では,後囊切開がされた38眼中31眼(81%)と,していない40眼中16眼(41%)で囊外に固定した。結論:H60M挿入後に石灰沈着が高頻度に発生し,現在なお増加中である。IOL摘出の術式を改良し,摘出時の合併症が減少した。

感覚性外斜視の術後経過

著者: 河本庄平 ,   阿部考助 ,   白根授美 ,   楠部亨 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.1299 - P.1302

要約 目的:感覚性外斜視に対して行った眼位矯正手術の経過の報告。対象と方法:過去8年間に眼位矯正手術を行った感覚性外斜視18例を対象とした。男性13例,女性5例で,年齢は21~62歳(平均37歳)である。患眼の視力は0~0.4であった。Krimsky法による術前眼位は20~70プリズムジオプトリー(PD)であった。結果:手術1週間後の眼位は正位~35PDの範囲にあり,全例で整容的な満足が得られた。1年以上の経過を追えた8例では,術後1年目の眼位のもどりは平均6.9 PDであった。結論:感覚性外斜視への手術では,術後の眼位が良好に保たれている症例があり,手術は積極的に実施してよい。

ポリープ状脈絡膜血管症における光線力学療法後に増加した出血に関する検討

著者: 宮本紀子 ,   大音壮太郎 ,   箔本潤子 ,   木村大作 ,   井上貴美子 ,   椋野洋和 ,   秋元正行 ,   高木均

ページ範囲:P.1303 - P.1306

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学療法後に生じる出血増加の検討。対象:過去31か月間に光線力学療法を行い,6か月以上の経過観察ができた72例74眼を対象とした。男性53例,女性19例で,年齢は52~87歳(平均73歳)である。結果:10眼(14%)で出血が増加した。出血の増加は,抗凝固薬の使用と中心窩厚の変化が相関し,性別,年齢,治療までの期間,病巣の最大径,術前の視力,網膜色素上皮剝離の大きさ,出血の大きさ,術前の中心窩厚は出血の増加とは相関しなかった。結論:ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学療法後に生じる出血の増加は,中心窩厚の減少が少ない例と抗凝固薬の全身投与例で起こりやすい。

同一術者による20,23,25ゲージ硝子体手術の比較

著者: 山田晴彦 ,   山田英里

ページ範囲:P.1307 - P.1311

要約 目的:同じ術者による20,23,25ゲージ(G)硝子体手術の比較。対象と方法:過去58か月間に同一術者が行った硝子体手術のうち,増殖糖尿病網膜症など周辺部硝子体の郭清を必要としない66例66眼を診療録の記述に基づいて検索した。34眼には20G,15眼には23G,17眼には25Gを使用した。術後6か月以上の経過を追った。結果:手術時間は20G群で有意に長かった。術後の視力と眼圧には3群間に差がなかった。術中合併症として20G群中9眼に赤道部の医原性裂孔が生じ,25G群中2眼に後極部の裂孔が生じた。術中合併症は3群間に差がなく,術後合併症としての眼内出血が20G群に多かった。結論:23Gと25Gによる硝子体手術は,20Gよりも侵襲と合併症が少ない。

輪状締結術と毛様体冷凍凝固術が奏効した外傷性低眼圧黄斑症の1例

著者: 柴田朋宏 ,   渡辺朗 ,   高階博嗣 ,   月花環 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1313 - P.1316

要約 目的:輪状締結術と毛様体冷凍凝固術で回復した外傷性低眼圧黄斑症の症例の報告。症例:30歳男性が水球の試合中に相手の指が右眼に当たった。直後からの眼痛と霧視で受診した。所見:矯正視力は右0.06,左1.0,眼圧は右6mmHg,左16mmHgであった。右眼に前房出血と網膜振盪症があった。ステロイドの点眼と内服後も低眼圧が持続し,受傷52日後に毛様体を冷凍凝固し,シリコーンスポンジを強膜に縫着した。その6日後に視力は0.9になり,毛様体解離が改善し,9か月後の現在1.5の視力と眼圧16mmHgを維持している。結論:黄斑症を伴う外傷性低眼圧に対し,毛様体冷凍凝固と輪状締結術が有効であった。

ベバシズマブの硝子体内注射とトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射を併用し硝子体手術を早期に行った若年性糖尿病網膜症の1例

著者: 遠藤和人 ,   三上武則 ,   鈴木仁美 ,   佐伯宏三

ページ範囲:P.1317 - P.1320

要約 目的:糖尿病網膜症に対しベバシズマブの硝子体注入,トリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射,硝子体手術を早期に行った若年例の報告。症例:1年前に糖尿病と診断された31歳男性が2週間前からの視力低下で受診した。所見:矯正視力は右0.4,左0.7で,両眼に囊胞様浮腫を伴う糖尿病網膜症があった。汎網膜光凝固が奏効せず,初診の6週間後に右眼,その1週間後に左眼に硝子体手術を行い,術中にトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射とベバシズマブの硝子体注射をした。黄斑浮腫は軽快し,手術1年後の現在,視力は左右とも1.2を維持している。結論:囊胞様黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症に対する硝子体手術,ベバシズマブの硝子体注入,トリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射による同時治療は有効であった。

硝子体腔内に巨大な凝血塊が生じた真性多血症の1例

著者: 鎌尾浩行 ,   家木良彰 ,   渡邊一郎 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1323 - P.1326

要約 目的:硝子体腔内に巨大な凝血塊が生じた真性多血症の症例の報告。症例:58歳男性が早朝からの右眼視力低下で受診した。7年前に真性多血症と診断され,加療中であった。所見:矯正視力は右0.06,左1.2で,眼圧は右66mmHg,左21mmHgであった。右眼に角膜浮腫と硝子体中の大きな凝血塊があった。末梢血液では白血球増多のみがあり,赤血球は正常範囲であった。高浸透圧薬の点滴で眼圧はさらに上昇した。ただちに水晶体乳化吸引術と硝子体切除術を行い,凝血塊と硝子体との境界が鮮明であることを確認した。複数回の硝子体手術を必要としたが,発症から1週間後に視力は1.0に回復し,眼圧も正常化した。結論:真性多血症に巨大な硝子体出血が生じる可能性がある。

急性骨髄性白血病にみられた黄斑病変の組織所見

著者: 戸田亜以子 ,   坂口紀子 ,   山本和彦 ,   村上一郎 ,   宮本加織

ページ範囲:P.1327 - P.1331

要約 目的:急性骨髄性白血病の黄斑部の剖検所見の報告。症例:52歳女性が3週間前からの右眼中心視野欠損で受診した。4か月前に貧血があり,8週間前に急性骨髄性白血病と診断され,加療中であった。矯正視力は右0.2,左1.0で,右眼黄斑部に出血を伴う滲出性病変,その下方に滲出性網膜剝離があった。著しい白血球減少と免疫不全があり,受診の5週間後からサイトメガロウイルス腸炎による下血が生じ,受診の9週間後にショックと腎不全で死亡した。所見:剖検で得られた眼球には,脈絡膜血管と間質に白血球の浸潤,網膜黄斑部に血管閉塞とその周囲に好酸性物質の遺残があった。結論:滲出性網膜剝離は白血球浸潤による脈絡膜の循環障害に続発した可能性がある。

Behçet病に対する生物学的製剤インフリキシマブの使用経験

著者: 多田憲太郎 ,   山本由美子 ,   西野耕司 ,   福島敦樹

ページ範囲:P.1333 - P.1336

要約 目的:インフリキシマブをBehçet病に投与した4症例の報告。症例:4例とも男性で,年齢は31,36,37,47歳である。全例が不全型Behçet病であり,2例には神経Behçet病が併発していた。年間の眼発作の回数は,1.16~4.6回であった。これまでにコルヒチン,副腎皮質ステロイド,シクロスポリンなどを投与されていたが,眼発作を繰り返していた。結果:4症例すべてで,インフリキシマブの投与開始後はぶどう膜炎を含むBehçet病の症状の再燃はなく,従来使用していたシクロスポリンなどの他剤を中止できた。結論:インフリキシマブは難治性Behçet病の眼発作を抑制する。

感染性角膜炎34例の分離菌と視力予後

著者: 相澤奈帆子 ,   横倉俊二 ,   久保田享 ,   西田幸二

ページ範囲:P.1337 - P.1340

要約 目的:感染性角膜炎の分離菌と菌別の視力転帰の報告。対象と方法:過去13か月間に受診した感染性角膜炎34例34眼を対象とした。男性16例,女性18例で,年齢は15~87歳(平均64歳)である。視力はlogMARで評価した。結果:培養により19例で菌が分離され,細菌12例,真菌5例,アカントアメーバ2例であった。治療により細菌群8例,真菌群1例,アカントアメーバ群2例で2段階以上の視力改善が得られた。結論:感染性角膜炎の56%で菌が分離され,細菌,真菌,アカントアメーバが含まれた。真菌群では細菌群よりも視力回復が困難であった。

健常人に発症したヘルペスウイルス初感染による壊死性ヘルペス性網膜症の1例

著者: 藤川亜月茶 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1341 - P.1345

要約 目的:健常人のヘルペスウイルス初感染による緩慢な経過をとった壊死性網膜炎の報告。症例:68歳男性が6か月前からの左眼視力障害で紹介され受診した。真菌性眼内炎として抗真菌薬を含む灌流液で硝子体手術を受けたが,眼内病変は拡大していた。所見:矯正視力は右0.9,左0.08で,左眼に虹彩炎,硝子体混濁,周辺部網膜に滲出性病変があった。水痘・帯状疱疹ウイルスに対する血清IgM抗体値の上昇があり,アシクロビルとプレドニゾロンの全身投与で炎症が消退した。結論:ヘルペス属ウイルスの初感染が本症例の壊死性網膜炎の原因であり,緩慢な経過をとった理由であると推定される。

梅毒感染が原因と考えられた視神経網脈絡膜炎の1例

著者: 西内貴史 ,   中茎敏明 ,   松下恵理子 ,   西野耕司 ,   岸茂 ,   福島敦樹

ページ範囲:P.1347 - P.1351

要約 目的:梅毒性と推定される視神経網脈絡膜炎の症例の報告。症例:55歳男性が9日前からの右眼,4日前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.02,左0.1で,中心暗点があった。両眼に乳頭の発赤,腫脹と後極部網膜の混濁があった。梅毒血清反応が陽性で,TPHA法で20,480倍の高値であった。ステロイドを併用したアモキシシリンによる駆梅療法で,10日後に網膜混濁が消失し,6週間後に中心暗点がなくなり,3か月後に左右眼とも視力が1.2に回復した。初診から6か月後の現在まで再発はない。結論:本症例の視神経網脈絡膜炎は,梅毒血清反応が強陽性で駆梅療法に反応したことから梅毒性であり,免疫反応に伴う炎症が関与した可能性がある。

初診から48年後に診断された壊死性ヘルペス性網膜症の1例

著者: 福田泰子 ,   高瀬博 ,   菅本良治 ,   杉田直 ,   望月學

ページ範囲:P.1353 - P.1357

要約 目的:発症から48年後に診断が確定した壊死性ヘルペス性網膜症の報告。症例:58歳男性が左眼の霧視で受診した。39年前に左眼,その2年後に右眼にぶどう膜炎が発症し,右眼は網膜剝離で失明した。20年前に左眼が眼トキソプラズマ症と診断され,加療中であった。所見と経過:矯正視力は右光覚なし,左0.7であった。硝子体混濁と網脈絡膜炎が左眼にあり,眼トキソプラズマの再燃と診断した。3年後に網膜剝離が発症し,手術で復位した。その5年後に網膜剝離が再発し,硝子体手術を行った。硝子体から単純ヘルペスウイルス(HSV-2)遺伝子が検出され,壊死性ヘルペス性網膜症の診断が確定した。パラシクロビルの内服で炎症は寛解した。結論:両眼性ぶどう膜炎ではウイルス性網膜症の可能性があり,眼内液の生検が診断に有用である。

増殖糖尿病網膜症に原田病が合併した1例

著者: 津田メイ ,   尾辻剛 ,   木村元貴 ,   中内正志 ,   木本高志 ,   西麗子 ,   西村哲哉

ページ範囲:P.1359 - P.1363

要約 目的:両眼に硝子体出血がある増殖糖尿病網膜症の症例に原田病が発症した報告。症例:41歳男性が両眼の硝子体出血への手術を目的として紹介され受診した。20年前から糖尿病があり,血糖コントロールは不良であった。4年前に糖尿病網膜症を指摘され,光凝固を受けていた。所見:矯正視力は左右とも0.1であった。両眼に虹彩炎の所見,虹彩後癒着と虹彩ルベオーシスがあった。初診の2週間後に硝子体手術を行い,広範囲の胞状網膜剝離を発見し,シリコーンオイルで復位させた。5日後に左眼に同様の手術を行った。トリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射で消炎し,6か月後に右0.2,左0.4に回復した。結論:増殖糖尿病網膜症に原田病が併発する可能性があることを本症例は示している。

連載 今月の話題

網膜色素変性に対する遺伝子治療

著者: 忍足俊幸 ,   山本修一

ページ範囲:P.1239 - P.1243

 網膜色素変性の原因遺伝子に対する遺伝子治療は,根本的治療法として注目されているが,治療の効果や安全性,適応などの点で,問題点は少なくない。そのなかでも可能性のある遺伝子治療戦略は研究が進行している。また神経保護を組み合わせた,より広い意味での遺伝子治療は,対象の異常遺伝子が同定されなくても使用できる治療戦略として注目されてきている。本稿ではこれらの遺伝子治療を問題点も明らかにしながら解説する。

日常みる角膜疾患・77

角膜移植後の問題点―(3)乱視に対するコンタクトレンズ処方

著者: 柳井亮二 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1244 - P.1247

症例

 患者:32歳,男性

 既往歴:喘息

 家族歴:特記すべきことはない。

 現病歴:18年前に両眼の円錐角膜と診断された。15年前(17歳時)に右眼の全層角膜移植術を施行され,術後の経過は良好であった。右眼は視力補正の目的でハードコンタクトレンズを処方されたが,装用感や見え方に満足できなかったため当科を受診した。

 初診時所見:視力は右0.2(矯正不能)(1.0×HCL),左0.15(矯正不能)(1.2×HCL)で,眼圧は右15mmHg,左9mmHg(非接触型眼圧計)であった。細隙灯顕微鏡検査において,右眼の角膜は透明で,角膜上皮障害や角膜後面沈着物などはみられなかった(図1)。角膜内皮細胞密度は右433個/mm2,左2,216個/mm2で,涙液分泌検査(Schirmer試験第1法)は両眼とも1mmであった。角膜形状検査では,右眼のマイヤー像は縦長の楕円形,左眼は角膜中央部から外下方にマイヤー像の不整を認めた(図2)。ハードコンタクトレンズのフィッティングはスティープで涙液交換が不十分であった。

 治療経過:右眼の角膜移植後の角膜形状異常に伴う角膜不正乱視に対し,視力補正のためハードコンタクトレンズを再処方した。再処方したハードコンタクトレンズはlarge and flat法に類似した方法でレンズをフィッティングさせることで,レンズのセンタリングを保ちながら涙液交換が増加し,装用感も改善した(図3)。視力は右(1.2×HCL)であった。現在までに感染などのハードコンタクトレンズによる重篤な眼障害,拒絶反応はみられておらず,内皮細胞密度も500~600個/mm2と維持されている。

網膜硝子体手術手技・32

増殖硝子体網膜症(1)

著者: 牛田宏昭 ,   浅見哲 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1248 - P.1252

はじめに

 増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy:PVR)は,裂孔原性網膜剝離の5~10%に続発する。その発生に重要な役割を果たしているのが網膜色素上皮(retinal pigment epithelium)細胞であり,裂孔形成に伴う網膜色素上皮細胞の硝子体腔への遊走,増殖が増殖硝子体網膜症の主因と考えられている。網膜上や網膜下に形成された増殖膜が収縮することで網膜に不規則な皺襞を生じたり,術後の再剝離の原因1)になる。

 Tsengら2)は,裂孔原性網膜剝離への増殖硝子体網膜症の合併には剝離の持続期間,術前視力,剝離の範囲が危険因子として関係していると述べている。また他の危険因子として,硝子体出血,大きな裂孔,硝子体手術・冷凍凝固・気体注入などの手術の既往,外傷などがある。

 本稿では,増殖硝子体網膜症の分類と硝子体手術の実際的な手技に関して述べる。

説き語り論文作法・5

論理的な文

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.1254 - P.1259

前号までのあらすじ

 学会発表を論文にまとめるよう指導医の小古田から言われた伊集院は,発表スライドを持って直接教授室を訪ねた。初めての体験で,どこから手を着けてよいかすらわからないのに,小古田は忙しくて相手にしてくれなかったからだ。教授は小古田も呼びつけ,2つのテーマが混在していると内容を整理した。テーマを1つに絞って伊集院は原稿をまとめ,1週間後に小古田とともに教授室を訪れた。原稿を見た教授はプリントアウトのしかたがおかしいと,問題点を次々に指摘する。タイトル頁でも足踏みが続き,緒言の検討に入ったのは1時間以上経ってからだった。

もっと医療コミュニケーション・20

クレーマー患者さんをファンに変える方法

著者: 佐藤綾子 ,   綾木雅彦

ページ範囲:P.1368 - P.1371

 「この頃,医師や看護師に対して何かと文句を言う患者さんが増えて本当に疲れてしまいます。本来の診療のほかに,この文句に対してどう答えるか,こちらの患者さんとあちらの患者さんでは,性格が違うから同じ答え方ではよくないのではないか,そんなことを気にして専門外のことにたくさん時間を使うこともあります。」

 親しくお付き合いをさせていただいている,眼科のO先生のボヤキともつかない悩みのお言葉です。

臨床報告

低眼圧時でのICare®眼圧計の信頼性

著者: 岡本全弘 ,   湯川英一 ,   池田仁英 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.1381 - P.1383

要約 目的:低眼圧眼に対するICare®眼圧計の信頼性の報告。対象と方法:緑内障に対して線維柱帯切除術または線維柱帯切開術後に,ICare®眼圧計で9mmHg以下の眼圧を示した44眼の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定した。結果:眼圧平均値と標準偏差は,ICare®では7.1±1.6mmHg,圧平眼圧計では8.6±2.5mmHgであり,有意差があった(p<0.01)。両者間には強い正の相関があり,単回帰分析でy=1.300x-0.679の一次式が成立した。44眼中33眼では圧平眼圧計による測定値のほうが高かった。結論:9mmHg以下の低眼圧時では,ICare®眼圧計による測定値が圧平眼圧計よりも低い値を示すことがある。

アカントアメーバ角膜炎の臨床像の推移

著者: 能美典正 ,   近間泰一郎 ,   守田裕希子 ,   原田大輔 ,   山田直之 ,   柳井亮二 ,   森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1385 - P.1390

要約 目的:過去12年間のアカントアメーバ角膜炎の臨床像と治療経過の変遷の報告。対象と方法:1996~2008年の期間に治療したアカントアメーバ角膜炎22例25眼を対象とし,診療録の記録を検索した。男性10例11眼,女性12例14眼で,年齢は14~85歳(平均32歳)である。結果:2006年以降の2年間に19眼が発症し,急増する傾向があった。25眼中23眼(92%)がコンタクトレンズ(CL)装用眼であり,最初の10年間ではハードCL,後半の2年間ではソフトCLが多かった。ソフトCLの装用者では初期例が多かった。初期の段階で治療を開始した17眼では,15眼(88%)で1.0以上の最終視力が得られた。移行期または完成期に治療を開始した8眼では,6眼(75%)で最終視力が0.1未満であった。結論:アカントアメーバ角膜炎では,早期に診断され治療を開始した症例で視力転機が良好であった。

べらどんな

仮性同色表

著者:

ページ範囲:P.1252 - P.1252

 「石原色覚検査表」の決定版が出た。「国際版38表」と付記され,印刷の鮮やかさも製本も従来の版とは段違いに立派である。

 この表の歴史は古く,もうすぐ100年になる。そもそもは日本の陸軍がこれを要求した。軍隊では「視力が良いこと」がとくに要求されるが,色も多数派と同じように見えることが望ましい。大正3年(1914)に,陸軍が色覚異常を検査する表を作ることを軍医の石原忍に依頼した。

近視の予防

著者:

ページ範囲:P.1357 - P.1357

 戦前の日本では男子が20歳になると徴兵検査があった。不合格はなく,全員が甲種,乙種,丙種,丁種合格のどれかに格付けされる。

 体格と健康に問題がないひとは名誉ある甲種合格である。乙種合格は「少々難あり」を意味し,近視と扁平足がその代表である。近視があると小銃が撃てないし,扁平足だと行軍ができない。

今月の表紙

脳回状脈絡網膜萎縮

著者: 永野幸一 ,   中澤満

ページ範囲:P.1253 - P.1253

 症例は9歳,女児。以前から夜盲を自覚していた。2002年4月12日前医を受診し,網膜色素変性症の疑いで4月19日当院初診となった。視力は右0.02(1.0),左0.03(0.8),眼圧は右22mmHg,左21mmHg,前眼部,中間透光体に明らかな異常所見はなかった。眼底所見では,両眼の網膜周辺部に変性を認め,脳回状脈絡網膜萎縮の診断となった。家族歴はない。Goldmann視野計では求心性の視野狭窄を認め,網膜電図では両眼ともnon-recordable,色覚検査では異常は認めなかった。ビタメジン(25)2錠内服を開始し,3か月後に視力が右(0.8),左(0.7)と軽度低下を認めたが,診察所見には著変はなかった。その後の定期受診では,視力検査,視野検査ともに明らかな進行は認めていない。

 撮影にはKowa-RC XV3を使用し,眼底写真の合成にはパノラマ画像合成ソフトウェアKowa VK-AP25Dを使用し,広画角の眼底写真をイメージさせるようにフォトレタッチソフトウェアAdobe®Photoshop CS2を使用して円形にトリミグした。

書評

小児科学(第3版)

著者: 澤田淳

ページ範囲:P.1365 - P.1365

 『小児科学第3版』は1,924頁の分厚い教科書です。私も編集を担当した初版(1997年発行)の1,680頁に比べて約13%増え,執筆者も204名から350名に増えており,専門性が高められ,充実した内容の本になっています。執筆者は第一線の小児科開業医から大学医学部小児科学の臨床系教授のほか,社会学系,栄養学系,リハビリ関連,行政職の方まで,幅広く,深く専門性が高められています。世界的に有名な英文の小児科学教科書,通称『ネルソン小児科学』(Nelson's Textbook of Pediatrics)に内容的には匹敵する教科書です。医学生にはちょっと重いけれど,研修医,修練医(後期研修医)には小児科全般の知識の詰まった宝石箱として,小児科専門医には新知見を習得できる必読の書として座右に置いてほしいと思います。小児科以外の専門医には,自分の専門分野の知識と比較しながら小児科全般の知識の取得に役立てていただけるでしょう。また,学生時代に勉強したことがどのように変化してきたかを知るための百科事典的利用にも役立つでしょう。新しい疾患概念,病態の新知見,診断技術・治療の進歩を教えてくれ,学ぶことができます。きっと,時代とともに変化するスピードに驚かれることと思います。

 第3版では巻頭に16頁のカラーグラフがあり,代表的な疾患を目で見つけることができるようになるかもしれません。目次は27章に分かれ,初版の38章から一見縮小されたようにみえますが,知識の分散を避け,うまくまとめられた結果と思われます。

日本人のための医学英語論文執筆ガイド[CD-ROM付]―Thinking in EnglishでネイティブレベルのPaperを書く(How to Write an English Medical Paper that will be Published:A Guide for Japanese Doctors)

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.1373 - P.1373

 畏友相川教授が書かれた本ということに大きな期待を抱きつつ,手元に届いた本書を早速読み始めた。親切なことに,本書の冒頭には,「本書の使い方」という章があり,そこには「使用法の実際」という読み方のガイドが書かれている。そこにある「一般的な使い方」というほうの読み方の指示に従って,ざっと読んでみることにした。

 このガイドによれば,まずは英文のほうは読まずに日本語の部分だけを読むこと,となっており,そうすれば45分間で読了するはずなのだが,ガイドのなかでは,本書を読むうえでの禁忌としている英文の部分までも熟読してしまったために,一応目を通すのには結構な時間がかかってしまった。それというのも,英文の部分も,読み飛ばすにはあまりにも面白かったからである。

やさしい目で きびしい目で・116

角膜移植に思う

著者: 原祐子

ページ範囲:P.1367 - P.1367

 私は愛媛大学医学部附属病院で勤務をしており,一応,角膜移植を専門?としています。

 角膜は透明で単純な組織にみえますが,いまだに完全な人工角膜はなく,現在も慢性的な角膜不足が生じています。角膜移植を受けようと一大決心をされて大学病院に来られた患者さんにも,まず待機リストに登録し,手術の順番をお待ちいただかざるを得ないのが現状です。

ことば・ことば・ことば

序数詞

ページ範囲:P.1375 - P.1375

 色の見え方が多数派とは違う人々がいます。しかし本人はこれをほとんど自覚せず,偶然のできごとで発見されるのが普通です。

 19世紀のイギリスでは,機関士がそれぞれ自分専用の蒸気機関車を持っていました。ある機関士が監督から機関車を濃い緑に塗るように指示されました。ところがその結果は,明るいオレンジ色でした。美しいのでそのまま使うことにしましたが,この機関士は色覚異常者でした。この機関車はいまでもロンドンからエジンバラに行く線の途中にあるDarlingtonの鉄道博物館に展示されています。

文庫の窓から

『外台秘要方』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1392 - P.1394

母の病をみる孝行息子

 『外台秘要方』(脱稿752年)は唐の王燾が編纂した医書である。『中国醫書本草考』(参考文献2)によると,この王燾は『新唐書』王珪伝に,珪の孫として記事があり,「孫の燾は性至孝で,徐州の司馬となり,母の疾のために年中帯を廃さずに湯剤を作って仕え,しばしば名医に交わって遂にその術を窮め,学んだところによって書を作り外台秘要と名付けたが,討繹精明で世人はこれを宝とした。給事中,鄴郡太守を歴任し,その治績は時に聞こえた。」という。王燾の弟であるらしい旭という人物は,多くの人々を殺したために新・旧の唐書の酷吏伝にその名が挙がっているが,王燾については『旧唐書』に記事はない。

 この『外台秘要方』の一番の特徴は,引用した文献の巻次までを含めた書名が明らかにされていることである。こうした編集方法は,王燾が医師ではなく,国家の図書館に自由に出入りできる名家出身の役人であったことと関係していると思われる。自序には「余幼多疾。長好醫術。七登南宮。両拝東掖。便繁臺閣二十餘載。久知弘文館図藉方書等。由是覩奥升堂。皆探其秘要。」とあり,自身の身体が弱かったために書籍を調べ,人に教えを乞うて医術を学んだことが述べられているが,そうした自主的な勉強であるならば,調べ上げた出典を記して,またいつでも読み返せるようにしたかったのではあるまいか。自分の勉強に都合のよいように書き留めてあったものを,最後には後の時代の人へ託すという形にまでまとめ上げたのが『外台秘要方』なのかもしれない。

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あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1408 - P.1408

 『臨床眼科』63巻8月号をお届けします。南北に長い日本では,8月は残暑の厳しい西日本と中旬過ぎにはそろそろ涼しく感じられる北日本と気候の差が激しいですが,今年はいかがなりましょうか。本号は第62回日本臨床眼科学会講演集の6回目です。それぞれ大変貴重な研究成果が原著論文となって掲載されています。

 「今月の話題」は忍足俊幸氏らの「網膜色素変性に対する遺伝子治療」です。昨年報告され脚光を浴びたRPE65遺伝子変異症例に対する遺伝子治療や,現在日本で九州大学の池田康博氏らにより計画されている遺伝子治療の基本概念などがわかりやすく解説されています。これらは実際に患者さんにも説明できる情報です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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