術後感染症の実態
著者:
井上幸次
ページ範囲:P.52 - P.59
頻 度
白内障手術に伴う眼内炎は,白内障手術の最も忌むべき合併症であるが,その頻度は歴史的には術式などの改善とともに減少し,1800年代後半10%であったものが,1900~1925年1.8%,1925~1950年0.58%,1950~1990年0.35%(0.056~0.7%)と確実に減少してきている1)。最新のEuropean Society of Cataract & Refractive Surgeons(ESCRS)の多施設研究では,感染予防の手段によって群間差があるものの0.049~0.345%となっている2)。これは16,000例近い症例数を集めた前向き研究(prospective study)であることから,きわめて信頼性の高い値であるといえる。
一方,わが国では大規模な調査はあまり行われていなかったが,2004年に日本眼科手術学会が会員を対象に前年の手術についてアンケート調査を行い,白内障手術100,539件中眼内炎発症52件との回答を得た,つまり0.052%の発症率ということになる3)。現在一般にわが国の眼内炎の頻度は0.05%と考えられているのはこの数値によっている。また1990年代以降日本眼内レンズ屈折手術学会会員によるアンケートが毎年行われており,年次推移をみることができる4)。0.045%(1994年),0.059%(1996年),0.044%(1998年),0.044%(1999年),0.046%(2000年),0.048%(2001年),0.036%(2002年),0.026%(2003年),0.036%(2004年),0.028%(2005年),0.025%(2006年),0.032%(2007年),0.032%(2008年)と,大きな流れとしてはやや低下傾向があり,頻度は低いもののコンスタントに一定の発症があるようである。ただし,これらの結果はアンケートに回答した人の集計であるため,何らかのバイアスがかかっている可能性があることに留意が必要である。