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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科64巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

特集 第63回日本臨床眼科学会講演集(9) 原著

糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の治療経過

著者: 山田達生 ,   星合繁 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1851 - P.1854

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の成績の報告。対象と方法:糖尿病黄斑浮腫に対してベバシズマブを硝子体内に投与した11例11眼を対象とした。全例に硝子体手術の既往はなく,術後3か月間の視力と中心窩厚を検索した。視力はlogMARで評価した。結果:投与前の中心窩厚は平均438±107μmで,術後3か月間に有意差がなかった。平均視力は術後1か月までは変化がなく,3か月後に1眼で0.2以上に改善し,10眼で不変であった。ベバシズマブの再注入は6眼で行われ,中心窩厚が300μm以下の2眼ではこれを必要としなかった。結論:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブの硝子体内注入では,3か月間の観察で視力と中心窩厚に有意な変化がなかった。黄斑浮腫が軽度な症例にはこれが有効である可能性がある。

急速に拡大する虹彩囊腫に対し囊腫全幅切除術を行った1例

著者: 戸田利絵 ,   杉本洋輔 ,   原田陽介 ,   横山知子 ,   高松倫也 ,   木内良明

ページ範囲:P.1855 - P.1858

要約 目的:急速に拡大する先天虹彩囊腫に囊腫の摘出と虹彩全幅切除術を行った症例の報告。症例:生後3か月の女児の左眼に虹彩の異常があることを両親が発見して受診した。所見:左眼鼻下側の虹彩に4mm×4mmの腫瘤があり,1か月後に5mm×5mmに増大した。初診から6週間後の検査で腫瘤は囊腫様であり,その前壁が広範囲に角膜後面に接触していた。囊腫と虹彩を切除した。病理組織学的に多数の杯細胞があり,虹彩実質の囊胞と診断された。囊腫が接触していた部位に一致して,角膜混濁が残った。結論:粘液分泌性の虹彩実質の囊胞は急速に大きくなる。虹彩囊腫が角膜後面に長期間接触すると角膜内皮障害が続発することがある。

眼内レンズ表面にアルブミン膜の形成が疑われた1例

著者: 熊代俊 ,   小早川信一郎 ,   長岡朋子 ,   有村哲 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.1859 - P.1862

要約 目的:眼内レンズ(IOL)挿入直後に前房出血が生じ,17日後に摘出したIOLの表面にアルブミン様の膜状物が付着していた症例の報告。症例:59歳女性の右眼後極部に網膜下出血があり,加齢黄斑変性と診断した。初診の8日後に硝子体出血が生じ,その1週間後に硝子体手術,水晶体乳化吸引術,IOL挿入をした。術中に強い脈絡膜下出血があり,シリコーンオイルを注入した。術後に前房出血が持続した。17日後に摘出したIOLの前面に膜状物が強固に付着し,その解析でウシ血清アルブミンに近似するスペクトルが得られた。結論:IOLの表面に付着した膜状物はアルブミンである可能性が高く,前房出血に起因すると推定される。

硝子体手術前後に発症した血管新生緑内障に対するベバシズマブ硝子体注入

著者: 田中久美子 ,   大井彩 ,   片山雄治 ,   杤久保哲男 ,   渡辺博

ページ範囲:P.1865 - P.1868

要約 目的:増殖糖尿病網膜症への硝子体手術前後に発症した血管新生緑内障へのべバシズマブ硝子体内注入の成績の報告。対象と方法:過去68か月間に増殖糖尿病網膜症に対して硝子体手術を行った17例23眼を対象とした。13眼には手術前に血管新生緑内障があり,ベバシズマブ注入を行った。10眼には手術後に血管新生緑内障が発症し,ベバシズマブを注入した。結果:ベバシズマブ注入により,虹彩新生血管は全例で1週間後に消退し,10眼(45%)で再発した。眼圧下降幅は術前よりも術後注入群で有意に大きかった。ベバシズマブ注入から2か月後の眼圧下降幅は両群間に差がなかった。結論:血管新生緑内障に対するベバシズマブ硝子体内注入は,硝子体手術前と後で同様な眼圧下降効果を示した。

Rosai-Dorfman病に合併したぶどう膜炎の1例

著者: 澤明子 ,   戒田真由美 ,   楠谷尚 ,   田宮久詩 ,   山本学 ,   山口真 ,   森脇光康 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1869 - P.1873

要約 目的:顔面に皮疹がある両眼性ぶどう膜炎患者が,皮膚生検でRosai-Dorfman病と診断された症例の報告。症例:56歳女性が両眼のぶどう膜炎として紹介され受診した。9か月前に嘔気と両眼の充血があり,急性緑内障として手術を受けた。8か月前から顔面に皮疹,6か月前から虹彩炎と硝子体混濁があった。所見:矯正視力は右0.5,左0.05で,両眼に虹彩炎の所見と黄斑浮腫があった。皮膚の生検で組織球増殖があり,Rosai-Dorfman病と診断された。プレドニゾロン内服で眼病変と皮疹は4か月後に寛解し,視力は右0.8,左0.4に改善した。白内障手術で,左右眼とも視力は0.9に回復した。結論:頻度は稀であるが,皮疹を伴う両眼性ぶどう膜炎ではRosai-Dorfman病が関与している可能性がある。

連載 今月の話題

眼疾患の臨床と動物モデル

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1821 - P.1825

 ヒトを対象とする医学研究を行うためには,一般に受け入れられた科学的原則に従うだけでなく,動物実験などで十分に証明された実験結果に基づかなければならないとヘルシンキ宣言にも示されている。ヒトの眼疾患の病態解明や治療の開発のために眼科研究者が用いる主な動物モデルの特徴について解説する。

眼科図譜・357

頸動脈ステント留置術後に発症した網膜中心動脈閉塞症の2例

著者: 西野和明 ,   吉田富士子 ,   新田朱里 ,   齋藤三恵子 ,   齋藤一宇

ページ範囲:P.1826 - P.1828

緒言

 頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)は,脳梗塞発症のハイリスクである高度な頸動脈狭窄症に対する低侵襲血行再建術(カテーテルインターベンション)として近年急速に発展している1,2)。わが国では2008年4月から保険診療が承認され,従来の内科的治療や外科的な治療としての頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)に加え新しい選択肢が増えた。しかしながら頸動脈ステント留置術を施行している最中に生じた塞栓が脳内に流れて脳梗塞を発症し,半身麻痺や言語障害などの後遺症を残すこともある。

 一方,眼科的な問題についてはYamasakiら3)の網膜動脈塞栓の症例報告などはあるものの数は少なく,今回筆者らは頸動脈ステント留置術施行後に発症した網膜中心動脈閉塞症の2例を経験したので報告する。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・32

多巣性脈絡膜炎

著者: 董震宇 ,   齋藤航 ,   北市伸義 ,   石田晋 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1830 - P.1834

はじめに

 多巣性脈絡膜炎(multifocal choroiditis:MFC)は,網脈絡膜に多巣性の滲出斑を生じる原因不明の疾患である。本病の疾患概念はいまだ確立されているとはいえず,汎ぶどう膜炎を伴う症例はMFC with panuveitis1),進行性の網膜下線維化を伴う症例はMFC associated with progressive subretinal fibrosis2)あるいはdiffuse subretinal fibrosis syndrome3)などと呼ばれている。また,点状脈絡膜内層症(punctate inner choroidopathy:PIC)との異同の議論4)やAZOOR(acute zonal occult outer retinopathy)complexの一疾患であるとの報告もある5)。本稿では,現在までのMFCの疾患概念,臨床像を整理してみたい。

視野のみかた・8

後期視野障害

著者: 松本長太

ページ範囲:P.1836 - P.1841

はじめに

 視野障害には,病早期における非常に軽微な障害からquality of vision(QOV)に大きく影響を及ぼす進行期の視野障害まで,さまざまな障害程度がある。特に進行した視野障害を評価する場合,われわれが日常診療で用いている自動視野計の標準的なプログラムでは,十分な病態の把握ができないことが多い。今回は,特にこの進行期の視野障害を中心に,その検査手法,評価方法について考えていきたい。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・11

IL-6

著者: 鈴木幸彦

ページ範囲:P.1842 - P.1844

 サイトカインは,標的細胞の性質などを変化させるための伝達の役割を担っている可溶性タンパクであり,その構造の違いから,インターロイキン(interleukin:IL),インターフェロン,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)ファミリーおよびケモカインに分類される。そのうち,IL-6は,多くのリンパ球やマクロファージから産生されるサイトカインで,B細胞が抗体産生細胞へと分化するために誘導することで,液性免疫を制御する点で重要な働きをしていると考えられている。

つけよう! 神経眼科力・8

見落としがちな瞳孔の異常

著者: 石川均

ページ範囲:P.1846 - P.1848

見逃してはいけない瞳孔異常!

 瞳孔の異常は大きく,形(形態)の異常と反応の異常に分けられる。また両者を合併する疾患も存在する。近年の白内障手術を含めた屈折矯正手術では1mm以下の瞳孔径が視機能へ与える影響を問題にしているが,本項で紹介する瞳孔異常は,視神経管骨折を除くと自覚症状に乏しく,ともすれば眼科医だからこそ見逃す可能性もあるので注意をしたい。

臨床報告

前囊収縮によって生じたアクリルレンズ挿入眼の視機能低下

著者: 宮本麻起子 ,   清水一弘 ,   宋由伽 ,   飯田知子 ,   石崎英介 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1905 - P.1909

要約 背景:眼内レンズ(IOL)挿入眼での前囊収縮は,水晶体の上皮細胞が筋線維芽細胞に変化することで生じるとされている。目的:シングルピースIOL挿入眼に強い前囊収縮が生じ,視機能が低下した2症例の報告。症例と所見:症例は67歳女性と73歳女性で,いずれも両眼に白内障手術とアクリル製IOL挿入を受けた。IOLは症例1では右眼に3ピース,左眼にシングルピースであり,症例2では両眼ともシングルピースであった。症例1では術前からZinn小帯が脆弱であり,手術の5か月後に左眼の前囊が強く収縮して前囊窓が閉鎖し,YAGレーザーで切開した。症例2では手術の2か月後に左眼の前囊が収縮し,上方のIOL支持部が瞳孔領に移動して視力が低下し,IOL整復術を必要とした。結論:Zinn小帯が脆弱なIOL挿入眼では前囊収縮の可能性があり,IOLの選択や術式に注意する必要がある。

最近2年間(2007~2008)の増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績

著者: 吉田茂生 ,   松本時子 ,   鍋島崇寛 ,   佐伯有祐 ,   向野利寛

ページ範囲:P.1911 - P.1915

要約 目的:過去2年間の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の成績の報告。対象と方法:2008年までの2年間に20ゲージ硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症70例76眼を対象とした。男性44眼,女性32眼で,年齢は35~78歳(平均59歳)である。全例がインスリン非依存性糖尿病であり,術後6~30か月(平均11か月)の経過を追った。視力はlogMARで評価し,0.2以上の変化を改善または悪化とした。結果:術後視力は改善55眼(72%),不変19眼(25%),悪化2眼(3%)で,平均視力は有意に改善した(p=0.0005)。硝子体再手術は3眼に行われ,これを含めた解剖学的な手術成功率は98.7%であった。年齢が若いほど術後視力が良好であった(p=0.01)。結論:増殖糖尿病網膜症に対する20ゲージ硝子体手術で,視力の改善または維持が97%の症例で得られた。

単純糖尿病網膜症患者の網膜電図に対するカリジノゲナーゼ内服の影響

著者: 照井隆行 ,   近藤峰生 ,   杉田糾 ,   上野真治 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1917 - P.1920

要約 背景:糖尿病網膜症がある眼では,網膜電図(ERG)の律動様小波の潜時が延長する。目的:単純糖尿病網膜症がある網膜機能に対するカリジノゲナーゼ内服の影響をERGで評価した報告。対象と方法:HbA1c値が10.0%未満の単純糖尿病網膜症がある32例32眼を対象とした。17例にはカリジノゲナーゼ1日量150単位を経ロ投与し,15例には投与せず対照とした。投与前と6か月後に全視野ERGを記録し,a波,b波,律動様小波と潜時を検索した。結果:投与群では6か月後にa波とO2の潜時が有意に短縮した。対照群では,ERGの全項目に有意な変化がなかった。結論:単純糖尿病網膜症がある症例へのカリジノゲナーゼの経ロ投与で,ERG成分の一部の潜時が短縮した。

加齢黄斑変性occult脈絡膜新生血管に対する光線力学療法

著者: 正健一郎 ,   尾辻剛 ,   津村晶子 ,   有澤章子 ,   永井由巳 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1921 - P.1925

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学療法の成績の報告。対象と方法:過去3年間に光線力学療法を行った加齢黄斑変性でoccult脈絡膜新生血管(CNV)がある43眼を対象とした。24眼は線維血管性網膜色素上皮剝離(FVPED),19眼は原因部位が不明な後期蛍光漏出(UDS)で,年齢は54~89歳(平均74歳)であった。全例で1年以上の経過を観察した。結果:症例全体の視力は,治療前と1年後とで有意差がなく,1年以上の最終観察時では低下した(p=0.0001)。平均視力は,どの時点でもFVPEDよりもUDSの視力が良かった。UDS群の視力は,治療前と1年後,1年後と最終観察時とで有意差がなかった。FVPED群の視力は,治療前と1年後とで差がなく,1年後よりも最終観察時で有意に低下した(p=0.00002)。結論:滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学療法では,1年間は視力維持効果があり,線維血管性網膜色素上皮剝離では1年以降は視力転帰が不良であった。

内頸動脈閉塞に虹彩毛様体炎を合併した血管新生緑内障の1例

著者: 桑田満喜 ,   小林かおる ,   平本裕盛 ,   大津弥生 ,   松原孝 ,   西川憲清

ページ範囲:P.1927 - P.1933

要約 目的:血管新生緑内障と虹彩毛様体炎が発症した内頸動脈閉塞症の症例の報告。症例:64歳の男性が両眼の眼圧上昇と右眼の前房出血で紹介され受診した。所見:矯正視力は右0.5,左0.6で,眼圧は右44mmHg,左55mmHgであった。両眼に前房内細胞があり,右眼に虹彩と隅角のルベオーシス,左眼に角膜後面沈着物があった。両眼とも糖尿病網膜症の所見はなかった。蛍光眼底造影による腕網膜循環時間が延長していた。脳外科の検査で右内頸動脈が99%閉塞していた。薬物治療で左右眼とも眼圧は低下した。右眼の隅角は2か月後に全周が癒着閉塞し,眼圧は大幅に上下し,2年の間に視野欠損が進行した。結論:本症例では内頸動脈閉塞により同側の眼虚血状態が生じ,続発した虹彩毛様体炎の経過とともに眼循環と房水産生が変化して,眼圧が大幅に変動したと考えられる。

片側下四半盲をきたした下垂体卒中の1例

著者: 田上雄一 ,   大野新一郎 ,   岡本紀夫 ,   三村治

ページ範囲:P.1935 - P.1939

要約 目的:片眼に下四半盲が生じた下垂体卒中の症例の報告。症例:50歳男性が前日からの頭痛,左眼の視力障害と眼瞼下垂で受診した。所見:矯正視力は右1.0,左0.2で,左眼に眼瞼下垂,内転と上転障害,中心フリッカ値の低下があった。両眼とも前眼部や眼底に異常はなかった。Goldmann視野検査で,左眼に右下の四半盲に似た所見があった。磁気共鳴画像検査(MRI)でトルコ鞍上部に出血を含む腫瘤があり,視神経と視交叉を上方に圧迫し,下垂体卒中と診断した。10日後に手術を行った。その15日後に視野は正常化し,視力は1.0になり,動眼神経麻痺は消失した。結論:本症例での四半盲は,腫瘍内の出血で拡大した下垂体腫瘍が視交叉後方を圧迫して生じた可能性がある。

カラー臨床報告

ろう者および中途失聴者に対する白内障手術の術前説明と同意

著者: 浅野裕美 ,   武藤康司 ,   古橋篤 ,   平岩二郎 ,   ショーンFハケット ,   吉田絢子 ,   吉田統彦

ページ範囲:P.1885 - P.1890

要約 背景:聴覚障害者は医療行為に不安をもちやすく,十分な説明と同意が必要である。目的:意思疎通の方法が異なる2名の聴覚障害者に白内障手術を行った報告。症例:1例は62歳の中途で失聴した女性で,意思疎通は口話と筆談を常用していた。白内障手術の術前説明はパーソナルコンピュータ(PC)による筆談が有用であった。他の1例は75歳の先天的な聴覚障害がある男性で,意思疎通は筆談とジェスチャーを常用していた。手術の説明にはPCモニターは有用でなかった。結論:これら2症例では,意思疎通の方法が異なり,それにあわせた説明と同意を得る方法が必要であった。聴覚障害者への術前説明では,それぞれの意思疎通方法を考慮したガイドラインを作成することが望ましい。

セプラフィルム®併用線維柱帯切除術を施行した1例

著者: 柴田真帆 ,   杉山哲也 ,   小嶌祥太 ,   長松俊次 ,   林田素子 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1891 - P.1895

要約 目的:ヒアルロン酸を主成分とするフィルム状の癒着防止剤であるセプラフィルム®を使用して線維柱帯切除術を行った血管新生緑内障の症例の報告。症例:58歳男性が両眼の血管新生緑内障で受診した。高血圧,糖尿病,右側の内頸動脈狭窄症があった。右眼にはマイトマイシンCを併用した線維柱帯切除術,濾過胞再建と白内障手術,2回の硝子体手術を行った。左眼には白内障手術と網膜光凝固を行った。両眼とも眼圧コントロールが不良なため,セプラフィルム®を用いた線維柱帯切除術を行った。その後右眼は23か月,左眼は12か月の間,眼圧は良好で,濾過胞は維持されている。結論:難治性の血管新生緑内障2眼に対し,セプラフィルム®を用いた線維柱帯切除術は,強膜弁と強膜結膜間の癒着防止に有効であった。

サイバーナイフ治療を行った脈絡膜悪性黒色腫の4例

著者: 田平瑛美 ,   吉川洋 ,   川野庸一 ,   上野一郎 ,   向野利一郎 ,   長谷川裕平 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.1897 - P.1904

要約 目的:脈絡膜悪性黒色腫に対し,ロボットとリニアックを組合わせた定位放射線治療であるサイバーナイフ治療を行った4症例の報告。症例と経過:片眼に脈絡膜悪性黒色腫が発症した男性3例と女性1例で,年齢は57~82歳である。腫瘍の高さは2.8~6.7mm(平均5.3mm)であった。サイバーナイフ治療として,1回線量が10Gyで,5回の照射をした。6~36か月の経過観察で,腫瘍は全例で縮小し,高さが0.2~5.2mm(平均3.9mm)になった。1例で硝子体出血が生じたが,局所再発または血管新生緑内障は皆無であった。結論:脈絡膜悪性黒色腫4例に対するサイバーナイフ治療が奏効した。

今月の表紙

網膜脂血症

著者: 山﨑伸吾 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1829 - P.1829

 症例は39歳,男性。2008年12月25日,近医で網膜血管の白線化を指摘され,当科を紹介され受診した。視力は右0.1(1.2),左0.15(1.2)で,眼圧は右12mmHg,左16mmHgであった。前眼部,中間透光体に異常はなかった。既往歴として2年前に糖尿病と診断され,現在はインスリンを使用中である。血糖値443mg/dl,HbA1c 11.8%で,コレステロール,中性脂肪も高いとのことであった。眼底検査では出血白斑はないものの,網膜血管の色調が明らかに正常とは異なり,あたかもクリーム色の色調であった。

 網膜脂血症では血清中性脂肪が2,000mg/dl以上の高値となり,網膜血管の色調は淡紅色からクリーム色に変化し,動静脈の区別がつきにくくなる。またその値が下がれば,その色調も正常に戻る。本症例の血液検査では総コレステロール1,140mg/dl,中性脂肪3,150mg/dlを示し,臨床所見を考え網膜脂血症と診断した。慢性的に血清脂質が高かったと思われる。

べらどんな

遮光眼鏡

著者:

ページ範囲:P.1834 - P.1834

 チリの鉱山の落盤事故で,700メートルの地下から33人全員が無事に救出されたのは,世紀の快挙であった。

 この救出作業では,チリだけでなく,外国からの支援がめざましい成果を発揮した。救援用の穴Bを掘ったのはアメリカ人である。アフガニスタンで井戸掘りをしていたが,この事故の話を聞いて,急遽チリに駆けつけたのである。

右と左

著者:

ページ範囲:P.1863 - P.1863

 子供に右と左を教えるのはむつかしい。「お茶碗を持つのが左で,お箸は右」というのが多いが,「ジャンケンで出すのが右手」というスタイルもある。ただし左利きの人とジャンケンをしたことがないので,これで良いのかどうかはわからない。

 辞書では右と左の定義にいろいろな工夫をしている。「南を向いたときに東になるのが左」と広辞苑にはあるが,北極と南極ではこれは通用しない。「この辞書を開いたとき,偶数のページが右で奇数が左」というのもある。しかし,『臨床眼科』ではこれが逆になるし,日本眼科学会の『眼科用語集』第5版の序文にはページそのものがついていない。

やさしい目で きびしい目で・131

私と小児眼科

著者: 村木早苗

ページ範囲:P.1877 - P.1877

 そもそも私が眼科を選択した理由は,臨床実習のときに硝子体手術をみて感動し,こんな手術をできる人になりたいと思ったからです。

 入局してすぐの頃は,とにかく眼という組織の宇宙さながらの美しさに感動しました。前房から水晶体,さらにその奥に広がる世界に魅了されました。そして,若い先生たちがそうであるように,日々雑用に追われ,朝早くから夜遅くまで働きました。大学の特性上,多くの斜視患者さんを受け持ち,執刀の機会も早くから与えていただきました。しかし,特別に興味を持っていたわけではなく,とにかく,日々の臨床を面白く感じていました。

ことば・ことば・ことば

ざくろ石

ページ範囲:P.1881 - P.1881

 尖閣諸島での騒ぎの最中に,中国がレアアースの輸出を停止するという噂があり,ちょっとした問題になりました。レアアースとは希土類元素のことで,周期表では3Aに属し,56番のバリウムBaの右側の枠に入っている15個の元素です。通常はこの上にある39番のイットリウムYと21番のスカンジウムScを入れて17個をさします。

 眼科で希土類と深い関係があるのは,まずヤグレーザーでしょうか。

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あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.1948 - P.1948

 暑い夏が続きましたが,あっという間に秋が深まってきました。

 本号にも大変ためになる総説や論文がたくさん掲載されています。すべてに目を通されることと思いますが,今月の話題として「眼疾患の臨床と動物モデル」があります。動物モデルというと,実験研究のイメージがあり,取りつきにくいように思われるかもしれませんが,とてもわかりやすく,実際の疾患に則して書いてくださっています。動物モデルについては,昨年の日本眼科学会総会での評議員会指名講演で,3人の演者から素晴らしい研究発表がありました。今回の著者はそのお一人です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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