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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科64巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

特集 第63回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

向精神薬内服中の患者における眼瞼けいれんの検討

著者: 髙木美昭 ,   小谷博和 ,   黒住浩一 ,   峯克彰 ,   園真 ,   国本善昌 ,   永松孝志 ,   奥田隆章 ,   中平洋政

ページ範囲:P.297 - P.301

要約 目的:向精神薬の服用者での眼瞼けいれんと原因薬剤の報告。対象と方法:過去2年間に眼科を受診した向精神薬の使用者110例を診療録の記録から解析した。男性31例,女性79例で,年齢は16~94歳(平均67歳)である。47例が抗精神病薬と抗不安薬を併用し,23例が抗不安薬のみ,15例が抗精神病薬を服用していた。結果:52例(47%)が眼瞼けいれん,17例(15%)がその疑いと診断された。これら69例では,抗精神病薬と抗不安薬の併用が35例(51%)にあり,抗不安薬の単独使用が16例(23%),抗精神病薬の単独使用が10例(14%)にあった。結論:向精神薬の内服者には眼瞼けいれんが多い。抗不安薬が最も重要で,抗精神病薬でもこれが発症する。

老人ホームにおける高齢者の視機能検査と知能検査との関係

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   平沼帝子 ,   小田真弓

ページ範囲:P.303 - P.306

要約 目的:老人ホームに入居している高齢者での知能指数(IQ)と視力との関係の報告。対象と方法:当眼科に往診を依頼された18例を対象とした。男性2例,女性16例で,年齢は73~98歳(平均85歳)である。近見視力と知能指数を検査した。15例には18か月後に再検査をした。結果:18例での知能指数は,11歳以上が6例(33%),2~11歳が9例(50%),2歳以下が3例(17%)であった。18か月後の検査では,脳または精神疾患による知能指数が2~11歳の7例中,改善4例,不変2例,低下1例であった。知能指数の改善は視力の改善者に多かった。2歳以下の3例では視力測定の不能者が多く,知能指数が不変であった。結論:脳または精神疾患で知能指数が2~11歳の高齢者では,18か月後の知能指数と視力双方の改善者が多く,知能指数が2歳以下では視力測定不能者が多かった。

正常人における眼圧と血圧の関係

著者: 澤田有 ,   石川誠 ,   佐藤徳子 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.307 - P.310

要約 目的:正常人での眼圧と血圧の関係と,眼圧に影響する因子の報告。対象と方法:健康診断を兼ねた緑内障検診の参加者のうち,異常なしと判定された543人を対象とした。男性312人,女性231人で,年齢は30~80歳(平均53歳)である。結果:血圧が高いほど眼圧が高かった(収縮期:p=0.013,拡張期:p=0.044)。眼圧は,女性よりも男性が高く(p<0.0001),体脂肪係数(BMI)と正の相関があり(p=0.0001),近視の度数と正の相関があった(p=0.0004)。眼圧は,年齢または血液のHbA1c値とは相関しなかった。結論:正常人では血圧が高いほど眼圧が高い。血圧は眼圧に影響する因子である。

多焦点眼内レンズ挿入前後の網膜感度と読書スピード

著者: 高須貴美 ,   高須逸平 ,   正本小也香 ,   林祥子

ページ範囲:P.311 - P.315

要約 目的:多焦点眼内レンズ挿入前後の網膜感度と読書スピードの報告。対象と方法:AcrySofTMReSTORTMの両眼挿入を受けた連続10例20眼を対象とした。年齢は57~79歳(平均69歳)である。術前と術後1か月にHumphrey自動視野計による中心30-2 SITA-fastTMと,MNREAD-JTMによる読書スピードを測定した。結果:網膜感度の平均偏差とパターン標準偏差には,術前よりも術後にばらつきが多かった。平均偏差は術後に改善した(p<0.03)。術前矯正に対する術後裸眼による最大読書スピードは,+39~-33%の間に変化し,有意差はなかった。結論:多焦点眼内レンズの挿入眼では,網膜感度はやや向上し,読書スピードにはばらつきがあり,有意な変化はない。

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の視野変化

著者: 毛塚剛司 ,   松永芳径 ,   小林昭子 ,   盛武由香里 ,   高木峰夫 ,   田中惠子 ,   後藤浩

ページ範囲:P.317 - P.322

要約 目的:抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性の視神経炎での視野障害の報告。対象と方法:抗AQP4抗体が陽性である視神経炎患者9例14眼を対象とした。すべて女性で,年齢は35~71歳(平均48歳)であった。発症からの期間は0~16年(平均4.8年)で,5眼が視神経乳頭炎,9眼が球後視神経炎であった。視野測定にはGoldmannまたはHumphrey自動視野計を用いた。結果:視力は0~0.8で,7眼が0.01以下であった。視野は中心暗点2眼,耳側欠損5眼,水平半盲2眼,全視野欠損3眼であり,非調和性半盲が1例にあった。結論:中心暗点以外の視野障害,特に耳側半盲がある視神経炎では抗AQP4抗体陽性視神経炎の可能性がある。

両眼急速に盲となった胃癌による髄膜癌腫症の1例

著者: 一色佳彦 ,   松本美保 ,   田中春花 ,   吉武信 ,   上原口まゆみ ,   井上亮 ,   秋田譲 ,   栗山晶治 ,   木村徹

ページ範囲:P.323 - P.327

要約 目的:胃癌が転移して髄膜癌腫症になり,急速に失明した症例の報告。症例:58歳男性が1週間前からの複視で受診した。2年前にスキルス胃癌と診断され,胃全摘を受け,抗癌薬で治療中であった。所見:矯正視力は左右とも1.2で,眼底に異常所見はなく,左眼に外転障害があった。初診から17日後に午後の仮眠後に視力低下を自覚した。視力は左右とも10cm指数弁で,磁気共鳴画像検査(MRI)で視神経周囲の浸潤と,髄膜癌腫症を示唆する所見があった。髄液圧亢進があり,2か月後に不帰の転機をとった。結論:眼底は正常所見であったが,胃癌から転移性髄膜癌腫症になり,これが視力障害の原因であると推定される。

先天眼皮膚白皮症に合併した増殖硝子体網膜症にトリパンブルー併用硝子体手術を施行した1例

著者: 田中住美 ,   河野智子 ,   上村文 ,   新井歌奈江 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.329 - P.333

要約 目的:眼皮膚白皮症に生じた増殖硝子体網膜症(PVR)の症例の報告。症例:50歳女性が右眼の飛蚊症で受診した。眼球と皮膚に色素がまったくない眼皮膚白皮症であった。所見:矯正視力は右0.09,左0.1で,右眼には-13D,左眼には-14Dの近視があった。水平眼振があった。右眼には上耳側に網膜裂孔と網膜剝離があった。10か月間の6回の手術でPVR化した網膜は復位し,最終手術から7か月後の現在,0.07の視力を維持している。第4回の手術ではトリパンブルーを用い,増殖膜の視認性が高まり,処理が容易になった。結論:眼皮膚白皮症に合併したPVRへの手術で,トリパンブルーを併用することで,増殖膜の処理と網膜裂孔の同定が容易になった。

水晶体関連合併症に1ポート硝子体手術を施行した2例

著者: 小鹿倉瞳 ,   田中住美 ,   豊口光子 ,   河野智子 ,   宇井恵里 ,   樋口かおり ,   堀貞夫

ページ範囲:P.335 - P.339

要約 目的:水晶体に関連した合併症に硝子体手術を行った2症例の報告。症例:1例は69歳男性で,左眼に白内障手術を受け,緑内障が発症した。複数回の手術ののち水疱性角膜症が生じ,全層角膜移植が行われた。虹彩が脱出し,眼圧上昇で受診した。他の1例は67歳女性。白内障手術と黄斑プロンベ縫着術後に後発白内障が生じた。これに対する手術でプロンベ偏位の危険があった。経過:灌流用20Gカニューラに閉鎖弁つき25Gトロカールカニューラを接続し,25G硝子体カッターを挿入する1ポート硝子体手術をこの2例2眼に行った。結果:2眼とも,術中の眼圧変動と合併症はなく,眼内レンズ周囲の病巣を切除できた。症例1では落下した水晶体皮質を除去した。結論:1ポート硝子体手術により,眼内レンズ挿入眼で前部と後部硝子体切除を行うことができた。

涙囊鼻腔吻合術後に悪臭症が生じた1例

著者: 大西通広 ,   加藤祐司

ページ範囲:P.341 - P.342

要約 目的:涙囊鼻腔吻合術後に悪臭症が生じた症例の報告。症例:74歳女性の右涙囊炎に対し,鼻外法による涙囊鼻腔吻合術を行った。ヌンチャク型シリコーン管を留置し,軟膏ガーゼを3日間留置した。通水は良好であった。3か月後に鼻閉感と悪臭が生じた。内視鏡でシリコーン管に付着した痂皮と,総鼻道底部に黒色で悪臭のある堆積物があった。これを除去することで,鼻閉と悪臭症は消失した。結論:涙囊鼻腔吻合術後では,鼻内観察と清掃が望ましい。

低ナトリウム血症による眼症状を初発症状とした肺癌の1例

著者: 善本三和子 ,   松元俊

ページ範囲:P.343 - P.347

要約 目的:近方視力低下を初発症状とした肺癌症例の報告。症例:68歳男性が16日前からの両眼の近方視力低下で受診した。高血圧の既往があり,1週間前に低ナトリム血症が発見された。所見:矯正視力は左右とも1.2で,約+4Dの遠視があった。3か月前に作製した眼鏡は,約+3Dであった。全身検査で肺腫瘍が発見され,生検で肺小細胞癌であり,多発性肝転移が認められた。初診から9か月後,新たに脳転移が発見され,放射線照射で消失した。血清Na値は正常化し,屈折は右+1.75D,左+1.62Dになった。結論:肺癌により異所性抗利尿ホルモンが分泌され,低ナトリウム血症が生じたことが遠視化の原因であったと推定される。

専門別研究会報告

オキュラーサーフェス研究会―第18回日本眼科アレルギー研究会

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.348 - P.349

 第18回日本眼科アレルギー研究会は10月9日に日本臨床眼科学会の専門別研究会であるオキュラーサーフェス研究会の1つのセッションとして執り行われた。オキュラーサーフェス研究会は眼科アレルギー研究会とドライアイ研究会の2つの研究会が合同で開催する会であり,眼表面の臨床・研究についての先端情報を入手できる研究会である。

 眼科アレルギー研究会は8時10分スタートで,台風の影響もあり参加者が集まるのか不安であったが,広い会場にもかかわらず,比較的多くの先生方に参加していただけた。

強度近視眼底研究会

著者: 大野京子

ページ範囲:P.350 - P.352

 強度近視眼底研究会は,昨年から新規に加えられた専門別研究会であり,今回で2回目の開催になる。今年は,昨年よりさらに多数の施設から演題を応募いただき,多施設間で非常に活発な質疑応答がなされた。会全体を通じて,この分野に対する眼科医の関心の高さがうかがえる研究会であった。

 今回は強度近視眼底研究会を,強度近視で視覚障害を惹起する眼底病変に基づいて分け,1.近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV),2.近視性牽引黄斑症,の2つのセッションに加え,強度近視の重要な合併病変である緑内障については,緑内障のスペシャリストによる特別講演をお願いした。以上の構成により,強度近視で直接視覚障害に結びつくCNV,牽引黄斑症,緑内障の3つの病態について,診断から治療に至るまで種々の観点から網羅することを目的とした。

連載 今月の話題

眼科診療とインフォームド・コンセント

著者: 前田正一

ページ範囲:P.265 - P.270

 医療におけるインフォームド・コンセントの重要性は早くから指摘されており,特に近年では,医療技術の高度化・複雑化などと相まって,いっそう重視されるようになっている。そこで,眼科診療に関する裁判例も紹介しつつ,インフォームド・コンセントの要件について概説する。なお,ここでは主として法律上の観点から上記の点を示すが,インフォームド・コンセントの実施は,それが医療従事者と患者との間の良好なコミュニケーションの確立につながってこそ意味があることをまず指摘する。

眼科図譜・356

網膜海綿状血管腫の1例

著者: 岡本紀夫 ,   大野新一郎 ,   三村治

ページ範囲:P.272 - P.273

緒言

 網膜海綿状血管腫は比較的稀な疾患であり,わが国では石川ら1)の報告以降,数例が報告されたに過ぎない。通常は無症状であるため偶然に発見されることが多いが2,3),稀に硝子体出血をきたすことで発見されることもある4,5)。筆者らは,検診で網膜血管異常を指摘された女性の片眼に,多数の網膜血管瘤とフルオレセイン蛍光眼底検査で血漿血球分離を認め網膜海綿状血管腫と診断し,長期に経過をみることができた症例を経験したので報告する。

公開講座・炎症性眼疾患の診療・24

急性網膜壊死

著者: 吉沢史子 ,   北市伸義 ,   大野重昭

ページ範囲:P.276 - P.279

はじめに

 急性網膜壊死(acute retinal necrosis:ARN)は健康な成人に突然発症し,急激な視力低下をきたす難治性の疾患である。1971年に東北大学の浦山晃・山田酉之らは桐澤長徳教授の名を冠し「桐沢型ぶどう膜炎」として,「網膜動脈周囲炎と網膜剝離を伴う特異な片眼性急性ブドウ膜炎について」1)という論文を世界で初めて発表した。後に世界的にも同様の報告がなされ,その後,本疾患は急性網膜壊死と呼ばれるようになった。頻度はぶどう膜炎全体の1~2%前後と多くはないが,特徴的な臨床像を示す。

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)1型および2型,水痘帯状ヘルペスウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が原因と考えられ,治療は抗ウイルス薬,ステロイド薬が投与される。近年は硝子体手術の進歩に伴い予後は改善されつつあるが,未だ予後良好とは言い難い疾患である。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・3

VEGF

著者: 野田航介

ページ範囲:P.280 - P.283

 近年,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)に対する阻害薬の臨床応用によって,滲出型加齢黄斑変性や糖尿病網膜症の治療は大きく変化しつつある。今後は,各VEGF阻害薬をどのように使用するか,そして従来行われてきた治療法とどのように併用するかが課題となっていくであろう。多種多様な選択肢が生じていくなかで適切な治療戦略を確立していくために,VEGFおよびその阻害薬の基本的な性質についてよく理解しておくことは臨床上重要となる。本稿では,VEGFの基本的事項について簡潔に述べる。

説き語り論文作法・12

論文を書く意味

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.288 - P.295

教授 普通は,1つの論文でここまでの議論はせぇへんな。

小古田 伊集院君,よかったねぇ。こんな幸運は滅多にない……。

教授 そうや。

小古田 だいたい,ここにくるまでだって,君が書いて,僕がみて,それを吉野先生(准教授)にみていただいている……。

伊集院 皆さんの時間をすごく使わせてしまって。……申し訳ありません。

―素直に出た言葉だった。

もっと医療コミュニケーション・27

コミュニケーションの技術を覚えると医師の満足感が上がる

著者: 綾木雅彦 ,   佐藤綾子

ページ範囲:P.354 - P.357

 私が医師になった1982年頃は,医師が笑顔でいましょうとか,目を合わせましょうなどと聞くと,そんな小手先のことでごまかすような医師になってはいけない,医師はポーカーフェイスでいつも冷静沈着でいるのが美徳,と信じていました。一方では,“Listen to the patient, he is talking diagnosis”という言葉が教科書に載っていましたが,どうすればよいのか教わることはできませんでした。

 その背景には医学や医療の歴史がありますが,それは別の機会に譲るとして,コミュニケーション技術は医療を行ううえでの基本であるにもかかわらず,わが国では21世紀になってから医学部での教育が全国規模でやっと始まりました。そんな時代の節目に,私たちは医療をしています。これは,時代や患者からの要請などではなく,注射や触診のように本来医師に必修とされる知識・技術が,ようやく体系立って学問として成立してきただけなのです。

 本連載の最終回となる今回は,きちんとコミュニケーションの講義を受けたわけでもない40歳代の医師が,ゆっくり習得していった過程を紹介します。

臨床報告

NICUにおける新生児涙囊炎と新生児用新作ブジーの検討

著者: 五嶋摩理 ,   松原正男

ページ範囲:P.365 - P.368

要約 目的:新生児の涙囊炎に対し,新作したブジーで治療した報告。対象と方法:新生児集中治療室(NICU)に入院中で涙囊炎が発症した男児4例5側を対象とした。日齢は29~35日であった。長さが26・28mmで27Gのブジー型涙管洗浄針を鼻涙管に挿入した。結果:涙点を切開または拡張せずにブジーを挿入することができ,16~21mmの挿入長で全例で閉塞部を開放できた。涙囊洗浄液から,真菌とMRSAを含め,耐性菌が多く検出された。治療の翌日から涙囊炎は軽快した。副作用は皆無であった。結論:遷延した新生児涙囊炎に対する専用ブジーを挿入する治療は,有効で安全であった。

白内障の術前説明:患者は何を知りたいのか

著者: 佐々木秀憲 ,   大山晃弘 ,   平塚義宗 ,   村上晶

ページ範囲:P.369 - P.373

要約 目的:白内障の術前説明で,患者またはその家族が知りたい内容について調査した結果の報告。対象と方法:浅間総合病院で白内障手術を予定した126名に対し,術前説明の前にアンケート調査をした。男性54例,女性72例で,平均年齢は76歳,94人が初回手術,32人が2回目の手術であった。説明に必要と思われる13項目を挙げ,各項目ごとに関心度の5段階評価を依頼した。手術を受けることを決めた理由についても,5つの選択肢から回答を得た。結果:「手術中と術後の注意点」が最も関心があり,「眼の構造」が最も関心が低かった。86名(68%)が手術を受けることを自分で決定した。結論:白内障の術前説明では,手術中と術後の注意点に重点を置く必要がある。

今月の表紙

乳化シリコーンオイル

著者: 鈴木健司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.275 - P.275

 症例は58歳男性,右眼の180°に及ぶ巨大裂孔網膜剝離に対し,輪状締結併用の硝子体切除術を行ったものである。本例は11時~5時まで及ぶ裂孔で網膜が反転していたため,硝子体切除後,液体パーフルオロカーボンで網膜を復位させシリコーンオイルを注入して終了した。写真は術後経過観察中にシリコーンオイルの乳化を起こしたもので,術後3か月のものである。

 撮影にはトプコン社製の眼底カメラTRC-50IXを使用した。あらかじめパノラマ写真を作ることを想定しながら,網膜や乳化したシリコーンオイルにピントを合わせて撮影した。パノラマソフトで合成したが,全体のトーンを合わせるのが難しく,今後の課題である。

べらどんな

神の怒り

著者:

ページ範囲:P.283 - P.283

 ハイチはさまざまな意味で運が悪い国である。

 最初の不運はコロンブスが上陸したこと。コロンブスが「発見」したのはこの島だとされ,新世界ではじめての植民地もこの地につくられた。ところがスペイン人は天然痘などの伝染病を持ちこみ,免疫をもたない島民は短期間で絶滅してしまった。

薄い紙

著者:

ページ範囲:P.352 - P.352

 本は厚くなると急に扱いにくくなる。「広辞苑」の机上版はB5の大きさだが,10年前の第5版までは菊判で一冊だった。それが今度の第6版は3冊になった。B5サイズの本は6cmが厚さの上限らしい。

 現代版のDuke-Elderみたいな本がある。アメリカのSaundersが出版社で,「眼科のことならなんでも書いてある」と言いたくなる。

書評

今日からはじめられるボダージュ先生の医学英語論文講座

著者: 新保卓郎

ページ範囲:P.284 - P.284

 今やあまたのコミュニケーション技術が利用され,個人は多数の表現手段で社会とつながっている。論文を作成するというのも,1つのコミュニケーションの手段であろう。自分の経験や思考を自分の中だけにとどめず,皆が共有できる情報として伝えていく。

 論文を書くことそのものが,コミュニケーション技能を磨くための重要な医学研修の方法であろう。論文を書こうと思えば,読者の思考の流れに思いをはせなければまとめることができない。この方法の習得に,近道はないものと思われる。多数の医学文献を読み,論文作成の経験を積み,同僚や上司から指摘を繰り返し受け,多数のreject letterを積み重ねて,修得されるものであろう。しかし手引きがあればありがたい。本書はこのような論文作成の優れた手引書である。ポイントが簡潔に整理され,まとめられている。恐らく半日で読み終える分量であろう。その中に重要なエッセンスが多数盛り込まれている。

やさしい目で きびしい目で・123

基礎研究の突破口

著者: 柏木佳子

ページ範囲:P.353 - P.353

 私は農学部出身で,在学中は種子形成とジベレリン(種なしブドウ作りに利用される化学物質です)の関係について研究していました。動物細胞のことも学びたいと思っていた矢先に,縁あって山形大学附属病院寄付講座・眼細胞工学講座に奉職が叶い,眼科学研究を行う機会をいただいています。医師ではない私がこのような場を与えられ何を伝えられるかと考えましたが,やはり研究のことかと思いましたので,眼科研究に従事しながら,眼科の先生方と研究について感じたこと考えたことをお話させていただきます。

 農学部では生命科学や栄養化学について学ぶものの,疾患については生活習慣病を除いてほとんど学ぶことはありませんでしたので,眼科研究を始めた頃,眼疾患の多種多様さ,治療法が確立している疾患についても熱心に研究が続けられていることに驚きました。後に,まだ解明されていない疾患や確立されていない治療法が多くあることを知りますが,見えるということは,痛みと同様にとても個人的なことであり,だからこそ多角的なアプローチが必要で,その技術を発展させるための努力が,絶え間なく続いていることにいまでも感動しています。

ことば・ことば・ことば

早とちり

ページ範囲:P.361 - P.361

 英語でscurvyと言えば「壊血病」だと思うのが常識ですが,シェークスピアの作品には全部でこの単語が24回出てきます。彼は1600年前後に活躍し,1616年に亡くなっているので,「壊血病がそんなに多かったのか」と気になりました。

 答は簡単でした。Scurvyの単語には名詞と形容詞の2通りがあり,シェークスピアが使ったのは,“A most scurvy monster”の例が示すように,すべて形容詞なのです。これは名詞のscurfから来ています。皮膚や頭髪にできる「ふけ」のことで,これが形容詞になり,「卑劣な」といった意味になりました。

文庫の窓から

『東医宝鑑』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.374 - P.377

海東第一といわれる朝鮮の医書

 岡西為人は『中国醫家本草考』の第二章の最後である第二四節を『東医宝鑑』で締めくくっている。年代的には第二一節の『医宗金鑑』のほうが後の時代のものになるが,『医方類聚』と『東医宝鑑』は朝鮮の書物であるため,中国の書と区別して章の終わりにまとめて2節を置いたのであろう。

 『医方類聚』は世宗が命じて作らせた266巻の巨編で,1443年から1477年にかけて編纂,校正,印刷が行われたとされている。残念ながら朝鮮では失われたが,日本に伝存するものがあって,江戸時代,天明4年に多紀氏の所蔵となって文久元年には活字本として刊行された。1965年にはソウルの東洋医科大学から写真版で出版されているが,当図書館には所蔵がないので,『医方類聚』については割愛させていただく。

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あとがき

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.398 - P.398

 昨年開催されました第63回日本臨床眼科学会で発表された原著論文の掲載が,今月号から始まります。学会で発表された多くの素晴らしい臨床研究の成果を原著という形で掲載させていただき,沢山の眼科医の先生方の日常診療に広くお役に立てることを祈念しています。前々回から,学会原著をより速やかに査読するために新しい制度を導入し,編集委員以外にも多くの先生方に査読に参加していただいています。より適切な査読が速やかにできるようになったのではと考えています。

 私事で恐縮ですが,3月末をもって編集委員を退任させていただくことになりました。『臨床眼科』の編集委員として,多くの論文を査読させていただき,また企画を立てさせていただき,大変勉強になりました。中でも「日常みる角膜疾患」を長期にわたり連載する機会をいただき,山口大学の教室員とともに角膜疾患の知識を整理しながら多くのことを学ばせていただきました。また先生方の沢山の論文を読ませていただいたことは,単に査読をさせていただくのみではなく,論文とはどうあるべきかを自分なりに考える機会でもありました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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