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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻1号

2011年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

霰粒腫―日常診療で遭遇する疾患と病理

著者: 後藤浩

ページ範囲:P.7 - P.10

 霰粒腫は日頃よくみる代表的な外眼部疾患であり,治療の機会も少なくない。しかし,その発症機序については不明な点も多く,治療法についてもいまだに議論の多い不思議な眼疾患の1つである。霰粒腫の病理組織像は巨細胞を伴った肉芽腫性炎症であるが,臨床像を反映するかのように病理学的にもバリエーションがみられる。霰粒腫の臨床と病理をしっかりと理解しておくことは,しばしば問題となるマイボーム腺癌(脂腺癌)などの悪性腫瘍との鑑別のうえからも重要である。

眼科図譜・358

LCAT(lecithin-cholesterol acyltransferase)欠損症に伴った角膜混濁の1例

著者: 石崎こずえ ,   竹澤美貴子 ,   牧野伸二 ,   小幡博人 ,   茨木信博

ページ範囲:P.12 - P.15

緒言

 レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(lecithin-cholesterol acyltransferase:以下,LCAT)は遊離コレステロールをエステル化する酵素で,脂質代謝において重要な役割を担う。LCAT活性の先天性欠損による家族性LCAT欠損は世界で26家系50例,わが国で8家系15例が報告されている常染色体劣性遺伝形式の稀な疾患である1)。臨床的にはコレステロールエステル低値,HDLコレステロール低値を呈し,コレステロール沈着により角膜混濁,貧血,腎機能障害を合併する2,3)。近年,LCAT遺伝子は16q22に存在し,6つのエキソンより構成され,エキソン5に位置するSer181,エキソン6に位置するAsp325,His377が活性中心であることが知られ4,5),LCAT遺伝子変異に関しては現在までに70種類以上が報告されている6)

 今回筆者らはLCAT欠損症による角膜混濁の1例を経験し,共焦点顕微鏡による角膜の観察や赤外光による眼底検査をする機会を得たので報告する。

視野のみかた・10

―視野の進行評価(2)―イベント解析

著者: 松本長太

ページ範囲:P.16 - P.21

はじめに

 日常診療における視野検査の役割には,疾患の診断ならびに経過観察がある。前回は視野進行評価の一般的な手法の1つであるトレンド解析について述べてきた。MDスロープに代表されるトレンド解析は,時系列解析により長期変動を考慮に入れた,ある一定期間内における視野進行傾向を評価することができる。しかしながらこの手法では,例えば本日測定された視野の結果が治療開始前などのベースラインと比較して進行しているかどうかを比較判定することはできない。現在の視野と過去のある時点の視野を比較して視野変化の有無を評価するためには,時系列解析とは異なった統計学的手法を用いる必要がある。今回は,現在臨床的に広く普及している自動視野計を用いたイベント解析についてみていきたい。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・13

HGF

著者: 町田繁樹

ページ範囲:P.22 - P.26

 肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)は肝細胞に特異的に作用する増殖促進因子と考えられていたが,さまざまな細胞に多様な作用を有するmultifunctional cytokineである。血管新生作用があることから,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)や塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)とともに冠動脈疾患などの閉塞性血管疾患の治療に応用されている。本稿では,HGFの基礎知識から眼疾患へのかかわりまでをまとめてみた。

つけよう! 神経眼科力・10

見落としがちな瞬目の異常―眼瞼けいれんを中心に

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.28 - P.31

はじめに

 眼瞼からの情報は,神経眼科の臨床では非常に大切で,眼瞼下垂や眼瞼腫脹については前号で中馬氏が詳しく触れている。今回は,その瞼の大事な機能の1つである「瞬目」を取り上げてみたいと思う。

 瞬目は「またたき」という日本語からもわかるように,非常に短い過程の動きであり,自然瞬目が始まってから終るまでは200~300ミリ秒程度である。それをわれわれは,1分間に15~20回程度行っている。

 瞬目の役割は主として涙液層の維持など眼表面の問題として理解されてきた。しかし,瞬目はそれだけでなく,種々の環境や疾患において変化をもたらすことが明らかになっている。そういう観点でみていくと,瞬目が神経眼科の臨床に役立つ情報はかなり多い。

今月の表紙

von Hippel-Lindau病

著者: 佐藤敦子 ,   根木昭

ページ範囲:P.11 - P.11

 症例は23歳,男性。17歳時に脊髄腫瘍を指摘されている。20歳時の小脳腫瘍の手術に際し,眼病変の精査のため眼科に紹介された。初診時視力は右1.5(矯正不能),左1.5p(1.5)で,眼圧は右13mmHg,左13mmHgであった。前眼部・中間透光体に異常はなかった。眼底所見では両眼に複数の網膜血管腫を認め,拡張・蛇行した流入・流出血管を伴っていた(写真は右眼)。初診から3年間経過観察を行っているが,現在まで黄斑前膜や網膜剝離の合併などはみられず,視力も両眼(1.5)を保っている。

 撮影にはHeidelberg Engineering社製Spectralis®HRA+OCTを用いた。患者はフルオレセインアレルギーのため,造影剤はインドシアニングリーンを使用している。レンズは画角55°の広角レンズを用い,撮影の後,Heidelberg Eye Explorerで画像の合成を行った。右眼の4個の血管腫のうち,周辺部の1個を除いた3個が確認できる。

やさしい目で きびしい目で・133

女性に生まれて(1)

著者: 上田真由美

ページ範囲:P.33 - P.33

 私は,兄と弟の3人兄弟の真ん中に生まれました。古い考えをもつ母は,常に男子優先で,兄弟げんかをすれば「女の子が負けないといけません」と私をしかり,食事の時にも,数の少ないおいしい食べ物は,まず父,その次は兄,弟,そのあとに私と母という順番でした。そのなかで,私は,男の子に生まれたかったとずっと思っていました。それ故,小学生の時は常にズボンをはいて男の子のようにふるまっていました。中学生になると制服であるスカートをはかなければならず,男の子になることを諦めました。そして大学に入学する際に実家のある京都から高知に転居し,1990年に高知医科大学を卒業,眼科医になりました。その時はじめて,医師として仕事をするうえでの男女の立場の違いを感じるようになりました。

 私は,大学5年生のときに10歳年上の内科医の夫と結婚し,国家試験を第一子(長女)出産後に受けることになりました。夫と両親の助けのもと国家試験は無事に合格でき研修医になりましたが,何も考えずに第一子を出産した私は,その後の苦労は予測していませんでした。子供を朝7時から夜10時までおもりさん(自宅で子供をみてくれる個人のベビーシッター)に預け,他の先生方と同じように仕事をしたつもりですが,入局して3か月で高知赤十字病院に転勤になりました。研修医が3か月で他の病院に出るのは稀だったようですが,今になって考えてみると子持だったからなのかもしれません。確かに,仕事は朝9時に始まり夕方6時には終わるので,生活は楽になりました。

臨床報告

外傷後に高度な滲出性網膜剝離を呈した小児原田病の1例

著者: 工藤朝香 ,   鈴木幸彦 ,   盛泰子 ,   鈴木香 ,   宮川靖博 ,   目時友美 ,   中澤満

ページ範囲:P.47 - P.52

要約 目的:原田病で両眼に高度な滲出性網膜剝離を呈した小児の報告。症例:7歳女児が3週間前からの両眼の視力低下と充血で受診した。眼症状が生じる前日に顔面を打ち,歯肉に受傷した。所見:矯正視力は左右とも0.03で,両眼に球結膜の充血,前房混濁,虹彩後癒着,高度の滲出性網膜剝離があった。点眼治療は本人が拒否し,6日後に左右とも視力が手動弁になった。ベタメタゾン点眼を開始し,9日後からプレドニゾロン内服を始めた。10週間後に網膜剝離は消失し,視力は右0.6,左0.3になり,夕焼け眼底,白髪,背中の白斑が生じた。以後虹彩炎の再発があったが,初診から14か月後に消炎し,右0.3,左0.4の最終視力を得た。結論:10歳以下では稀であるが,本症例は原田病と診断され,プレドニゾロンの全身投与が奏効した。外傷との関係は不明である。

眼内レンズ摘出術後に再発した黄斑円孔網膜剝離の1例

著者: 草薙聖 ,   宮城秀考 ,   中野賢輔

ページ範囲:P.53 - P.56

要約 目的:11年前に手術で復位した黄斑円孔網膜剝離が,眼内レンズ(IOL)摘出後に再発した症例の報告。症例:80歳女性が10日前からの右眼視力低下で受診した。11年前に右眼の黄斑円孔網膜剝離に対し硝子体手術,白内障手術,IOL挿入が行われていた。所見:矯正視力は右0.05,左0.5で,眼軸長は右29.10mm,左26.36mmであった。右眼ではIOLが下方に亜脱臼し,黄斑円孔は閉鎖していた。右眼のIOLを摘出し,その10日後に黄斑円孔網膜剝離が再発した。硝子体手術とシリコーンオイル挿入術を行ったが,網膜剝離は復位しなかった。結論:本症例で網膜剝離が再発した原因として,IOL摘出術中の眼圧変動と強度近視に特有な眼球剛性の脆弱性が推定される。

急性原発閉塞隅角症の初期治療としての角膜圧迫法の有用性の検討

著者: 長松俊次 ,   田邊晶代 ,   齋藤伊三雄

ページ範囲:P.57 - P.62

要約 目的:急性原発隅角閉塞症への初期治療としての角膜圧迫法の評価。対象と方法:過去8か月間の急性原発隅角閉塞症5例5眼を対象とした。男性1例,女性4例で,年齢は63~80歳(平均74歳)である。眼圧は38~70mmHg(平均55mmHg)であった。ピロカルピンとキシロカインを点眼し,角膜周辺部と瞳孔付近を1秒間隔で約20回圧迫し,これを8方向に行った。結果:24時間以内に加療した3眼では隅角閉塞が解除され,眼圧が下降した。48時間以後に加療した2症例では解除されず,外科的治療を必要とした。結論:急性原発隅角閉塞症への角膜圧迫法は簡便かつ低侵襲であり,早期例での初期治療として有用である。

白内障術後眼内炎の発症および予後に影響する因子の検討

著者: 川上秀昭 ,   末森晋典 ,   望月清文 ,   堅田利彦

ページ範囲:P.63 - P.69

要約 目的:白内障術後の眼内炎の発症と予後に関する因子の報告。対象と方法:本研究は13年間に岐阜大学眼科を受診した白内障術後眼内炎18例と,岐阜県下24施設で過去5年間に行われた白内障手術20,964件での眼内炎8施設14例について行われた。結果:いずれも片眼性であった。自験例18例については,受診時の視力が手動弁以下,または強毒菌が検出された症例では転帰が不良であった。受診の遅れ,看護師による眼瞼皮膚消毒,眼内炎が鎮静した後の眼合併症が最終経過に関係した。県下で発症した術後眼内炎の頻度は0.067%で,「睫毛切除をしないこと」が発症に関与した。結論:白内障手術後の眼内炎には迅速な対応が必要であり,消炎後の眼合併症にも留意するべきである。

多焦点眼内レンズ挿入術の術後成績と満足度

著者: 高橋洋子 ,   柴琢也 ,   高橋現一郎 ,   今野公士 ,   山田英明 ,   北澤世志博 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.71 - P.77

要約 目的:両眼への多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後の成績と患者の満足度の報告。対象と方法:両眼に白内障がある75例150眼を対象とした。年齢は60~78歳(平均64歳)である。中間視を優先する42例には屈折型IOL,近方視を優先する33例には回折型IOLを挿入した。術後3か月までの経過を追い,患者の満足度をアンケートで評価した。結果:裸眼視力は,遠方と近方では屈折型と回折型IOLとで有意差がなく,中間距離で前者が有意によかった(p<0.05)。近方での見え方と夜間のグレアについての満足度は,回折型IOLで有意に高かった(p<0.01)。結論:白内障手術で多焦点眼内レンズを挿入するときには,術前の患者の希望を考慮して眼内レンズを選択することで,術後の成績と満足度の向上が期待できる。

生体吸収性骨固定プレートを用いたKrönlein手術の1例

著者: 宮崎賢一 ,   藤田識人 ,   友寄勝男 ,   田中才一 ,   山中修 ,   森田展雄 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.79 - P.83

要約 背景:Krönlein法では眼窩の側壁を切開して骨窓を作り,眼窩内腫瘍などを摘出したのち骨片を金属線などで固定する。目的:骨片の代わりに生体吸収性プレートを用いた症例を報告する。症例:80歳男性が左眼窩部腫脹で受診した。13年前に右涙腺腫瘍摘出を受け,悪性リンパ腫であった。所見:左眼に眼球突出と,眼窩の上外側に腫瘤があった。悪性リンパ腫を疑い,眼窩外側壁切開によるKrönlein手術を行った。あらかじめ切開部の骨形状を記憶させ,生体吸収性ポリマー板を加熱整形し,ネジで固定した。病理組織診断は悪性リンパ腫であり,2年後の現在まで炎症反応や感染がなく,経過は良好である。結論:Krönlein法により眼窩内悪性リンパ腫を摘出し,眼窩側壁の欠損部を生体吸収性プレートで置き換え,良好な結果を得た。

ラタノプロスト単独療法におけるタフルプロスト点眼変更による眼圧下降効果の検討

著者: 安達京

ページ範囲:P.85 - P.89

要約 目的:ラタノプロスト単剤点眼をタフルプロスト点眼に切替えたときの眼圧下降効果の報告。対象と方法:ラタノプロストを単剤として両眼に3か月以上点眼中の広義原発開放隅角緑内障患者62例を対象とした。片眼のみをタフルプロスト点眼に変更し,以後3か月間の眼圧,角膜所見,涙膜,結膜充血を比較し,使用感を調査した。結果:試験開始前の眼圧は両群ともに14.9±2.5mmHgであった。以後1か月ごとの平均眼圧は両群で基準値と有意差がなく,他の眼所見にも差がなかった。ラタノプロストに比し,タフルプロストは冷蔵が不要であり,点眼瓶の使用感がよく,9%がラタノプロスト点眼の継続を希望し,31%がタフルプロストを希望した。結論:広義の原発開放隅角緑内障に対し,タフルプロスト点眼はラタノプロスト点眼と同等の眼圧下降効果があり,使用感の評価が高かった。

硝子体手術を行って視神経乳頭マッサージを試みた網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 伊藤忠 ,   鈴木幸彦 ,   竹内侯雄 ,   横井由美子 ,   木村智美 ,   山崎仁志 ,   中澤満 ,   吉田恒一

ページ範囲:P.91 - P.95

要約 目的:糖尿病網膜症による硝子体出血を伴った網膜中心動脈閉塞症に対し,硝子体手術と視神経乳頭マッサージを行った報告。症例:58歳男性に左眼の視力障害が突発し,即日受診した。2年前に糖尿病が発見され,3か月前に硝子体出血があった。所見:矯正視力は右1.5,左0.01で,左眼に桜実紅斑と硝子体出血があった。フルオレセインの静注後8分を経ても左眼網膜への流入はなかった。経過:硝子体手術を即日行い,装置の先端部で乳頭の網膜中心動脈のマッサージをした。これにより,網膜動脈内の血栓が周辺部に移動する所見が観察された。翌日の蛍光眼底造影で,腕-網膜循環時間が20秒,静脈の層流が10秒持続した。視力は6か月後に0.1に改善した。結論:高度の網膜中心動脈閉塞症では,乳頭部での網膜中心動脈のマッサージが奏効する可能性がある。

特発性黄斑円孔手術後の腹臥位時間短縮の試み

著者: 望月典子 ,   山本禎子 ,   西塚弘一 ,   山下英俊

ページ範囲:P.97 - P.101

要約 背景:特発性黄斑円孔に対する硝子体手術では,従来は術後に4日間の腹臥位をとらせていた。目的:術後の腹臥位を4日間と6時間にした2群での有効性と安全性の報告。対象と方法:硝子体切除と液空気置換術を行った円孔径が400μm未満の黄斑円孔23例23眼を,診療録の記述により検討した。腹臥位の期間は11例では術後4日間,12例では6時間であった。術後3か月以上の経過を追った。結果:全例で黄斑円孔の初回閉鎖が得られた。術後視力の経過は両群の間に差がなかった。網膜裂孔形成が4日群で1例,6時間群で2例にあったが,術中の光凝固で処理した。結論:小さな特発性黄斑円孔に対する硝子体手術では,術後6時間の腹臥位で有効かつ安全な網膜復位が得られる可能性がある。

網膜静脈分枝閉塞症における硬性白斑と高脂血症

著者: 三宅悠三 ,   谷川篤宏 ,   田中秀典 ,   水口忠 ,   中村彰 ,   堀口正之

ページ範囲:P.103 - P.108

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症における硬性白斑と血中脂質の関係の報告。対象と方法:硝子体手術を行った網膜静脈分枝閉塞症89例89眼を対象とした。男性40例,女性49例で,年齢は平均67.1歳であった。経過中に硬性白斑が生じた12眼と生じない77眼について,諸検査値を比較検討した。結果:年齢,罹病期間,視力,黄斑網膜厚については両群間に有意差がなかった。白斑がある群は,総コレステロール値は有意に高く(p=0.005),術6か月後の黄斑浮腫の改善が有意に悪かった(p=0.002)。結論:網膜静脈分枝閉塞症で硬性白斑がある群は,ない群に比べ総コレステロール値が高く,黄斑浮腫の改善が悪かった。

カラー臨床報告

強膜炎を契機に梅毒およびヒト免疫不全ウイルス感染が発見された1例

著者: 水野嘉信 ,   八代成子 ,   武田憲夫 ,   菊池嘉 ,   岡慎一

ページ範囲:P.41 - P.45

要約 目的:強膜炎を契機として梅毒とヒト免疫不全ウイルス(HIV)が発見された症例の報告。症例:30歳男性が3週間前からの左眼の充血を主訴として受診した。海外渡航歴とペットの飼育歴はなかった。所見:結節性強膜炎が左眼の上耳側にあり,顔面と上肢に皮疹があった。点眼薬は奏効せず,壊死性強膜炎になった。初診から10日後にHIV感染と梅毒血清反応陽性が判明した。駆梅療法と多剤併用療法で皮膚所見は軽快し,強膜は菲薄化を残して治癒した。結論:結節性強膜炎は梅毒の第三期に好発するゴム腫であった可能性がある。梅毒とHIVによる混合感染では,病変が重篤化または非典型的な経過をとりうることに留意する必要がある。

書評

眼科マイクロサージェリー 第6版

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.77 - P.77

 永田誠先生の監修,黒田真一郎先生以下5名の永田門下の先生方の編集で『眼科マイクロサージェリー 第6版』が出版された。世界にいろいろな眼科手術の教科書が出版されているが,過去にこれだけ多くの版を重ねた例は皆目ないだろう。それだけではない。1985年の初版から2005年の第5版まですべてがベストセラーである。恐らく2010年の第6版も多くの人々に読まれることであろう。これはまさに特筆すべきことで,その“秘密”を考えながらこの書を読むだけでもおもしろいし,十分に読む価値がある。

 私はこの書の第4版,第5版,第6版の3回にわたり書評を書かせていただき誇りに思っているが,上記した“秘密”を最初から意識していた。その基幹となるものは,永田誠先生の手術理念であることは間違いない。初版で荻野誠周先生が編集者を代表して述べておられるように,永田誠先生の「患者の眼にとって不利なことは一切しない」という一貫した理念は,いろいろな手術法,考え方の変遷はあったものの,第6版に至るまですべて貫かれていることが伝わってくる。第5版から永田門下ではない執筆者を加えておられるが,おそらくその人選で一番大切な基準は,この理念を持っているかどうかではなかったかと推察する。学会,論文,個人的会話で人それぞれのこの理念の持ち合わせの程度は,大体感じ取れるものである。その意味でこの名著は手術技術や周辺機器の使用法を学べるだけではなく,手術を行う人の良心を磨くうえでも,必読の書である。

文庫の窓から

『素問玄機原病式』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.110 - P.113

 医の門戸は金元に分かる

 『素問玄機原病式』の著者,劉完素は金の天会4~10年(1126~1132年)の頃生まれたとされている。字を守真,号は通玄處士といい,またの号を宗真子という。出身地が河北省の河間県であったことから,河間居士とも号したので,後に彼に連なる学派は河間派と名づけられる。幼い時に父を喪い,母もまた病に倒れ亡くなったという。こうした辛い体験を経て自らも医学を志したのだが,それ以前の医師たちが方剤に関する研究に熱心だったのに対し,劉完素は医学理論の研究に向かった。

 当時,かの地は南北に分かれ,北宋から金・元と連なる流れと南宋から元へといく流れが並存していたが,医学発展の中心となったのは華北であったとみられている。そこには宋代の旧を打破して新しい学問を創り出したり,あるいは分化させていくような力が加わっていたと思われる。たとえば,同じ科挙といっても,金と南宋では異なる価値観で選抜が行われ,南北それぞれの社会が抱く空気というものには違いがあったようだ。『四庫提要』の医家類で「儒家の門戸は宋に分かれ,医の門戸は金元に分かる」と述べるとおり,この時代は多くの名医を輩出したが,金元の四大医家のうち3人は華北の出身であり,新しいものを生み出す力がこの地にあったことを示している。

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欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

ことば・ことば・ことば ウサギ

ページ範囲:P.37 - P.37

 英語には「ウサギ一般」を意味する単語はありません。Hare(ノウサギ)かrabbit(カイウサギ)のどちらであるかを特定します。

 西ヨーロッパに昔からいたのがノウサギで,lepus(羅),lagos(希),lièvre(仏),Hase(独)がその名前でした。

投稿規定

ページ範囲:P.38 - P.38

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.39 - P.39

希望掲載欄

ページ範囲:P.40 - P.40

べらどんな ベストセラー

著者:

ページ範囲:P.52 - P.52

 「洛陽の紙価を高める」という言い方がある。本が売れまくった結果として紙が不足し,価格が上がったという,ちょっと誇張した表現である。

 これが具体的に何かを決めるのはむつかしい。英語だとシェイクスピアが該当しそうだが,作品が38もあるので,そんな大きな全集があまり売れるはずがない。これに加え,「正しい本文はなにか」という問題がある。作品によってはいくつもの異本があるので,校訂の作業が必要であり,版権の問題も出てくる。

べらどんな 光凝固の発祥地

著者:

ページ範囲:P.83 - P.83

 人工雪は札幌,国産ウイスキーは山崎で創始された。つくったのはそれぞれ中谷宇吉郎と竹鶴政孝である。

 光凝固を発明したのはドイツのMeyer-Schwickerath(マイアー・シュビッケラート)である。この先生はHamburg(ハンブルク)大学の助手をしていた。

第15回日本網膜色素変性症協会(JRPS)研究助成のご案内

ページ範囲:P.108 - P.108

 日本網膜色素変性症協会(Japanese Retinitis Pigmentosa Society:JRPS)は,患者,支援者,学術研究者の協力により,1993年4月に設立されました。本来の目的である網膜色素変性症治療法開発のための研究に対し,助成を行っております。第15回の応募要項は以下のとおりです。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.115 - P.119

アンケート

ページ範囲:P.122 - P.122

次号予告

ページ範囲:P.123 - P.123

あとがき

著者: 根木昭

ページ範囲:P.124 - P.124

 新年あけましておめでとうございます。本年も『臨床眼科』をよろしくお願い申し上げます。昨秋,神戸で日本臨床眼科学会を主催させていただきました。7,200名を超えるご参加をいただき感謝申し上げます。また学会原著も多数ご投稿いただき重ねて御礼申し上げます。学会には招待講演演者として山中伸弥先生をお招きしました。眼科の学会では初めてのご講演でしたが大変好評でした。私の宝物といって,大学新卒の時から山中先生のもとで研究を続けている若い研究者を紹介されたことが印象的でした。ノーベル賞候補者にそこまで言われるとやりがいも出てくるでしょう。これを聞いた若い人はきっと,研究意欲を鼓舞されたものと思います。

 近年,眼科専攻医の数は減少の一途であり,それに伴い大学院への進学者も減少しています。学位取得にかける時間が専門医取得を遅らせるということが大きなネックになっています。学位よりスキルを早く上達させたいという声を聞きます。眼科診療に卓越したスキルは重要ですが,それを適正に施行しさらに高めるためにはサイエンティフィックな思考の裏付けが必要です。12月号でも特集しましたが,分子標的薬や遺伝子治療,再生医療など,治療に直結するトランスレーショナルな研究が結実しつつあります。現に一部の領域では,新治療の登場により診療ガイドラインが短期間に一変することを経験しています。新しい治療成果を体現して,単にそれを追随するだけでなく,医療創造に夢を馳せる若者は多いはずです。研究志向の学生が少ないと嘆くよりも,基礎研究の必要性とその魅力を実感させる教育方法を我々が磨かねばならないと反省します。今年は卯年,眼科も大きく飛躍したいものです。

全国大学医学部・医歯薬系大学 眼科学教室名簿

ページ範囲:P. - P.

原則として2010年11月1日現在。教室名(大学院がある場合は大学院名)およびその英語の正式名称は大学名の下に記載。

〔 〕:教授外来日,*:客員(非常勤含む)。専門外来欄:( )は担当または責任者,(月)などは受付曜日,(予)は予約制。


北海道大学

北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野

Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine

〒060-8638 札幌市北区北15条西7丁目

Tel 011-706-5944 Fax 011-706-5948

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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