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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 第64回日本臨床眼科学会講演集(8) 原著

網膜血管腫様増殖に対するベバシズマブまたはラニビズマブ併用光線力学的療法の比較

著者: 袖山博健 ,   松本英孝 ,   佐藤拓 ,   堀内康史 ,   渡辺五郎 ,   森本雅裕 ,   向井亮 ,   羽生田直人 ,   須藤功治 ,   広江孝 ,   岸章治

ページ範囲:P.1583 - P.1589

要約 目的:網膜血管腫様増殖(RAP)に対するベバシズマブまたはラニビズマブの硝子体内投与を併用した光線力学療法の効果の報告。対象と方法:初回治療として光線力学療法を行ったRAP 24例26眼を対象とした。男性6眼,女性20眼で,年齢は69~91歳(平均79歳)である。光線力学療法の1週間前に,14眼にはベバシズマブ,12眼にはラニビズマブを硝子体内に投与した。結果:術後視力は改善し,両群間に有意差はなかった。治療から6か月以内の再発は,ベバシズマブ群では14眼中3眼(21%),ラニビズマブ群では12眼中8眼(67%)にあり,有意差があった(p=0.02)。結論:RAPに対する光線力学療法1週間前のベバシズマブ硝子体中投与は,ラニビズマブ投与よりも6か月間の治療効果が高かった。

裂孔原性網膜剝離に対する小切開硝子体手術における強膜縫合と術後眼圧

著者: 高階博嗣 ,   渡辺朗 ,   三戸岡克哉 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1591 - P.1594

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する小切開硝子体手術で,徹底的な硝子体切除と積極的な強膜縫合を行ったときの術後眼圧と手術成績の報告。対象と方法:過去25か月間に初回手術として23ゲージ小切開硝子体手術を行った網膜剝離の連続症例70例71眼を対象とした。年齢は20~79歳(平均54歳)であった。術中に硝子体を可能な限り切除し,強膜創を積極的に縫合した。結果:網膜の初回復位は70眼(99%),強膜縫合は174か所(82%)に行った。術後の低眼圧は発症しなかった。結論:裂孔原性網膜剝離に対する小切開硝子体手術での積極的な強膜縫合は,初回復位率を向上させ,術後の低眼圧防止に有効であった。

眼窩サルコイドーシスの1例

著者: 柏木広哉 ,   原田隆文 ,   伊藤以知郎 ,   渡邊麗子 ,   内藤立暁 ,   西井宏明

ページ範囲:P.1595 - P.1600

要約 背景:眼窩サルコイドーシスは眼窩腫瘍のなかでも頻度が低く,眼内病変の併発も少ないため,認知度が低い疾患である。目的:眼窩サルコイドーシスの1症例の報告。症例:61歳男性が3か月前からの左側眼窩腫瘍の疑いで紹介され受診した。磁気共鳴画像検査(MRI)で左側眼窩の下方に腫瘍陰影があった。所見:左下眼瞼に腫脹があり,腫瘤が触知された。視力は正常で,眼内に病的所見はなかった。コンピュータ断層撮影(CT)で両側の眼窩に腫瘤があり,陽電子放射断層撮影(PET)で両側の眼窩と耳前リンパ節に集積があった。ツベルクリン反応は陰性であった。左側の眼窩腫瘤の生検で肉芽腫病変,肺門部にリンパ節腫脹があり,眼窩サルコイドーシスと診断した。プレドニゾロン内服開始から1か月後に眼窩腫瘤は右側は消失し,左側は縮小した。6か月後の現在まで病変の再発はない。結論:サルコイドーシスにより眼窩腫瘤が生じることがある。

眼科用薬剤感受性プレートの臨床的有用性

著者: 藤紀彦 ,   子島良平 ,   池田欣史 ,   堀裕一 ,   佐々木香る ,   坂本雅子 ,   宮田和典 ,   井上幸次 ,   田原昭彦 ,   野口ゆかり ,   藤原弘光 ,   本田雅久

ページ範囲:P.1601 - P.1607

要約 目的:新しい眼科用薬剤感受性測定オーダープレート(SG07)の臨床的評価。対象と方法:国内の5施設で眼感染症と診断された患者82例から分離された98株を対象とした。細菌培養と同定,および薬剤感受性を5施設それぞれの方法で実施した。得られたすべての菌株の薬剤感受性を阪大微生物病研究会でSG07により判定した。64症例で薬剤感受性と治療効果を比較した。結果:2施設で11株についてSG07により調べた11薬剤への感受性は84.3%で一致した。治療薬の感受性を測定できたのは,各施設で32.8%,SG07で95.3%であった。67.2%の症例で各施設での判定よりもSG07が優れていた。結論:新しい眼科用薬剤感受性測定オーダープレート(SG07)により,主要抗菌点眼薬の薬剤感受性を測定できた。これは眼感染症の治療に有用である。

網膜静脈分枝閉塞症における静脈血流速度と黄斑浮腫

著者: 小暮朗子 ,   田村明子 ,   三田覚 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.1609 - P.1614

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症での網膜動静脈血流動態と黄斑浮腫との関係の報告。対象と方法:3か月以内に網膜静脈分枝閉塞症が発症した2例2眼を対象とした。いずれも女性で,年齢は64歳と70歳である。レーザースペックルフローグラフィで,動静脈交差部前後の血流動態を複数回測定した。結果:網膜静脈では血流速度差と中心窩網膜厚に負の相関があり,動脈では血流歪度と中心窩網膜厚に正の相関があった。結論:網膜静脈分枝閉塞症では,動静脈交差の中枢と末梢側の不均衡により黄斑浮腫が増悪する。レーザースペックルフローグラフィによる血流動態の計測で,黄斑浮腫を予測できる可能性がある。

日本人palisades of Vogtにみられる加齢変化の研究

著者: 松原稔

ページ範囲:P.1615 - P.1622

要約 目的:日本人でのVogt柵(palisades of Vogt)の加齢変化の報告。対象と方法:6~95歳の外来患者802例1,286眼を対象とした。5時から7時までの角膜輪部を細隙灯顕微鏡に装着したカメラで撮影し,Vogt柵の本数と長さを測った。結果:0.5mm当たりのVogt柵の本数は2~6本,平均は3.5本であった。長さは0.2~2.2mm,平均0.8mmであった。本数と長さは年齢と共に減少した。20歳代後半からVogt柵の球結膜側端で架橋が起こり,柵間帯が切断されてVogt柵が短くなり,本数が減った。切断された柵間帯は球結膜に水玉模様をつくった。Vogt柵の14%はその中間でも架橋をつくった。色素沈着は10歳代にはじまり,年齢と共に増加した。結論:Vogt柵は加齢と共に球結膜側端の架橋で柵間帯が切断されて短くなり,本数が減った。

角結膜上皮内癌の組織学的検討

著者: 北野愛 ,   白井久美 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1625 - P.1629

要約 目的:角結膜上皮内癌の病理組織所見の報告。症例:81歳女性が左眼の翼状片と上方からの角膜混濁で紹介され受診した。5年前に右眼に翼状片手術を受けていた。左眼に翼状片と上方結膜から角膜に侵入するゼラチン様の半透明な膜があり,上皮内癌が疑われた。組織を切除し,病理学的に検索した。所見:上皮は扁平・肥厚し,異形上皮細胞の増生があり,部位により上皮内癌または異形成を示した。上皮層の基底部がビメンチン陽性,P53はびまん性に陽性で,Ki-67細胞があった。角膜基底膜と実質は正常で,病的変化は上皮層に限定していた。結論:本症例での角結膜上皮内癌は増殖のマーカーが陽性であり,上皮層の基底部分で間葉性の性質を獲得した細胞増殖能が高い組織であると考えられる。

瘢痕期未熟児網膜症,第1次硝子体過形成遺残に続発閉塞隅角緑内障をきたした2例

著者: 勝村宇博 ,   田辺佐智子 ,   尾関直毅 ,   結城賢弥 ,   谷野富彦 ,   芝大介 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1631 - P.1634

要約 目的:瘢痕期未熟児網膜症および第一次硝子体過形成遺残において続発閉塞隅角緑内障を発症し,水晶体摘出により眼圧が下降した2例を検討する。症例:症例1は第一次硝子体過形成遺残の28歳女性。水晶体の前方偏位,Shaffer 0°の閉塞隅角を認め,続発閉塞隅角緑内障を発症し,右眼眼圧が48mmHgと上昇した。症例2は瘢痕期未熟児網膜症の20歳男性。14歳時に続発閉塞隅角緑内障を発症し,周辺虹彩切除術を施行されたが,20歳時に水晶体が前方偏位し,水晶体後部線維増殖を認め,眼圧が34mmHgと上昇した。2例とも水晶体の摘出により前房深度の増加と隅角の開大を認め,眼圧下降が得られた。結論:水晶体後部線維増殖を伴う眼圧上昇では,レーザー虹彩切開術や周辺虹彩切除術によっても瞳孔ブロックの解除が奏効しない可能性があるため,水晶体摘出を考慮すべきである。

スペクトラルドメイン光干渉断層計による視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚と緑内障性視野障害の関連

著者: 森脇光康 ,   上野洋祐 ,   芳田裕作 ,   矢寺めぐみ ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1635 - P.1640

要約 目的:緑内障性視野障害と乳頭周囲の網膜神経線維層厚との関係の報告。対象と方法:広義の開放隅角緑内障40例50眼を対象とした。年齢は48~83歳(平均67歳)である。視野はHumphrey自動視野計のglaucoma hemifield testで測定し,スペクトラルドメイン光干渉断層計で乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定した。結果:全症例で,上耳側・下耳側の網膜神経線維層厚はセクター2・3の視野と相関があり,耳側の網膜神経線維層厚はセクター5と相関を示した。早期の25眼では,上耳側・下耳側の網膜神経線維層厚はセクター3のみと相関を示した。結論:乳頭上耳側と下耳側の網膜神経線維層厚は,緑内障の早期診断の指標となる可能性がある。

滲出型加齢黄斑変性へのトリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射併用ラニビズマブ硝子体注射の短期成績

著者: 藤﨑竜也 ,   齊藤了一 ,   齊藤あゆみ

ページ範囲:P.1641 - P.1644

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体注射と治療の短期成績の報告。対象と方法:滲出型加齢黄斑変性17例17眼を対象とした。男性7眼,女性10眼で,平均年齢は76.2±6.7歳である。約1か月ごとに上記の併用療法を3か月以上行い,平均9.6か月の経過を追った。視力はETDRS法で評価した。結果:治療開始から全期間を通じ,有意水準である0.05以上の視力改善または悪化はなかった。治療開始から3か月以上の中心窩圧は治療前に比べ有意に減少した(p<0.01)。20mmHg以上の眼圧上昇が3例にあり,点眼薬でコントロールできた。結論:トリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射の併用は,滲出型加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体注射の効果を増強している可能性がある。

心因性視覚障害と診断されていたAZOORの1例

著者: 大野新一郎 ,   岡本紀夫 ,   田上雄一 ,   沖波聡 ,   三村治

ページ範囲:P.1645 - P.1649

要約 目的:心因性視覚障害と診断されていた急性帯状潜在性外層網膜症(AZOOR)の症例の報告。症例:15歳女性が左眼の視野障害で紹介受診した。3か月前から左眼に光視症があり,心因性視覚障害と診断されていた。所見:矯正視力は左右とも1.2で,前眼部,中間透光体,眼底に異常がなく,左眼に求心性視野狭窄があった。多局所網膜電図で視野に一致した振幅の低下があり,AZOORと診断した。初診から6か月後の現在まで視野の改善はない。結論:AZOORでは求心性視野障害が生じることがあり,心因性視野障害と誤認されることがある。鑑別には網膜電図,特に多局所網膜電図が有用である。

ステロイド治療を行ったAZOORの1例

著者: 西内貴史 ,   中茎敏明 ,   松下恵理子 ,   西野耕司 ,   岸茂 ,   福島敦樹 ,   近藤峰生

ページ範囲:P.1651 - P.1655

要約 目的:両眼性の急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の1症例の報告。症例:22歳女性が6週間前からの両眼視力低下と下方視野の欠損で受診した。所見:矯正視力は右0.9,左0.8で,下方視野の欠損が両眼にあった。前眼部,透光体,眼底に異常はなく,頭部磁気共鳴画像検査(MRI)と蛍光眼底造影でも異常はなかった。多局所網膜電図で視野欠損に一致して振幅低下があり,AZOORと診断した。初診から6週間後にステロイドパルス療法を開始し,漸減後プレドニゾロン内服に切り替えた。治療開始から6か月の間,視力と視野に変化または改善はない。結論:AZOORにはステロイドの全身投与が奏効しない症例が存在する。

網膜静脈分枝閉塞症の非観血的治療での視力と中心網膜厚

著者: 藤井友起子 ,   白木幸彦 ,   梅基光良 ,   植田良樹

ページ範囲:P.1657 - P.1664

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症の2年以内の経過中での視力と中心網膜厚との関連の報告。対象と方法:新鮮な網膜静脈分枝閉塞症44例44眼を対象とした。男性18例,女性26例で,年齢は42~87歳(平均69歳)である。35眼に抗凝固薬,23眼に光凝固,5眼にベバシズマブ硝子体注射などを行った。34例で12か月,24例で24か月間,中心網膜厚などを測定した。結果:視力は6~12か月で安定した。視力と中心網膜厚値は緩やかに相関した。12か月以降の視力は,初診時視力と3か月以上の中心網膜厚値を反映した。中心窩に網膜下液があると,視力とその後の最高視力は相関しなかった。結論:黄斑浮腫がある網膜静脈分枝閉塞症で中心網膜厚の高値が6か月以降も持続する症例では,中心網膜厚値が早期に正常化した症例よりも視力転帰が不良であった。

眼科診療における顔面打診の有用性の検討

著者: 飯田文人

ページ範囲:P.1665 - P.1668

要約 目的:眼科的に異常がなく,副鼻腔炎などが疑われる眼痛患者に対する顔面打診の効果の報告。対象と方法:過去12年4か月間に眼深部痛または眼周囲痛を訴え,眼科的に異常がない外来患者114例を対象とした。これらの症例は耳鼻科医,神経内科医,歯科医によりさらに精査を受けた。114例すべてに顔面を打診し,左右の前頭洞と上顎洞に相当する部位の痛みを記録した。結果:114例中109例(96%)で眼痛に関する異常が同定された。副鼻腔炎95例(83%),アレルギー性鼻炎6例(5%),咽頭炎3例(3%),歯科疾患3例(3%),片頭痛2例(2%)がそれである。顔面打診痛は77例(68%)にあり,うち71例(92%)は副鼻腔炎であった。結論:眼科的に異常がない眼痛患者では,顔面打診が有用である。

Short-pulsed炭酸ガスレーザーによる低侵襲眼瞼下垂症手術

著者: 檀之上和彦 ,   宮田信之 ,   高木均 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1669 - P.1672

要約 目的:炭酸ガスレーザーによる低侵襲眼瞼下垂手術前後の視機能の報告。対象と方法:宮田法に準拠してMüller筋タッキングを行った21例40眼を対象とした。炭酸ガスレーザーで余剰皮膚を切除した。術前後にmargin reflex distance(MRD)とGoldmann視野を測定し,上方視野を評価した。結果:MRDは術前0.55±0.73mm,術後2.42±0.73mmであり,上方垂直視野は術前19.4±8.9°,術後39.7±7.8°で有意に改善した(p<0.001)。従来の方法と比べ,術中の出血が少ないために解剖学的視認性が向上し,術後の腫脹と皮下出血が軽度であった。眼瞼下垂の再発はなく,整容的な満足が得られた。結論:炭酸ガスレーザーによる低侵襲眼瞼下垂手術は有効で,術中の出血と術後の合併症が少なかった。

連載 今月の話題

緑内障配合剤のメリットとデメリット

著者: 相原一

ページ範囲:P.1563 - P.1568

 緑内障配合剤のメリットはアドヒアランスを高めることにある。点眼回数の減少,点眼時間の短縮,副作用の軽減により患者のquality of life(QOL)を高めることで,より正しい点眼への参加を促し,ひいては治療効果の向上に反映することができる。ただし,初回処方ではなく基本は単剤併用後に,眼圧下降効果と副作用に注意し,また患者の生活習慣,性格なども十分留意して処方にあたることが肝要である。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・22

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―緑内障濾過手術

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1572 - P.1575

はじめに

 近年,各種の緑内障治療薬が開発され,臨床的にも使用されるようになってきたが,最大限に点眼・内服治療を行っても視野障害が進行する場合は手術を考慮せざるをえない。手術方法にもいくつかの術式があるが,中でも最も選択される術式が線維柱帯切除術であることは異論のないところであろう。この手術の成否を左右するのは術後濾過胞の適正な維持である。濾過胞を機能的かつ形態的に,適切に維持するための鍵を握るのが結膜組織の線維化,すなわち瘢痕形成である。したがって,いかに術後の瘢痕形成を抑制するかが機能的な濾過胞を維持するためのポイントになる。

 近年,結膜およびテノン囊の線維芽細胞(および筋線維芽細胞)増殖を抑制するためにマイトマイシンC(mitomycin-C:以下,MMC)やフルオロウラシル(5-FU)を術中に使用することが一般に行われている。しかし,MMCは正常細胞にも代謝拮抗作用を及ぼすため,筋線維芽細胞の増殖を抑制するのみならず,正常結膜上皮細胞やテノン囊の線維芽細胞,血管内皮細胞などを傷害して濾過胞結膜の非薄化や房水の漏出をきたし,感染症などの重篤な合併症を発生させる危険性をもった薬物である。このため,現在のMMC併用線維柱帯切除術もさらに改良の余地があることは明白である。可能ならばMMCを併用せずとも効果的な濾過胞を維持したいというのは多くの眼科医にとって共通の思いであろう。

 近年,緑内障手術後の濾過胞や結膜下での筋線維芽細胞の増殖に関して,生理活性物質の視点からみた病態の理解が進んでいる。それらの生理活性物質を制御することで濾過胞の適正な維持を成し遂げようとする方向性をもった研究も多数行われている。今回はそれらの一部を紹介する。

つけよう! 神経眼科力・19

画像による視路の局所診断

著者: 橋本雅人

ページ範囲:P.1576 - P.1582

視路の局所診断は視野をどう読むかが最大のカギとなる

 神経眼科疾患に対し画像検査をするうえで最も重要なことは,臨床所見から病巣を推定して撮影することである。これは神経眼科疾患の多くは,責任病巣が非常に小さいために,脳ドックのようなスクリーニング的画像検査では見落とされることが多いからである。実際,神経眼科疾患患者で「脳外科でMRIを撮ったが異常はないと言われた」という症例を数多く拝見する。

 視神経疾患において,責任病巣を特定できる有力な手がかりは視野所見である。視路病変では,視野の特徴から球後から眼窩先端部,視交叉前部,視交叉,視索,外側膝状体,視放射線,視中枢に病変を特定でき,画像診断をより限局した正確なものにすることができる(表1)。

『眼科新書』現代語訳

その7

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1676 - P.1682

 『眼科新書』第3巻は,他の5巻と同様な黄表紙で,表紙の右上に「眼科新書 三」と縦書きの白紙が貼られている。

 半紙を半折にしてあり,折り目になる背の部分には「眼科新書 巻之三目録」が上半に刷られ,下にはページに相当する一と二の数字がある。これに続く本文の各ページの背には,眼科新書 巻之三」が上半部にあり,下に一から三十二までの数字が書かれている。現代風の数え方では,本文は64ページあることになる。

今月の表紙

水晶体脱臼

著者: 薄井紀夫 ,   鈴木健司 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 症例は64歳,女性。右眼硝子体腔への水晶体落下(過熟白内障)に関して硝子体手術予定であったが,再診時,水晶体がひょっこり前房内に現れた。そこで同日,水晶体を全摘したのちに眼内レンズを縫着し,現在も経過良好である。後日,左眼にも水晶体膨化を認めたため白内障手術を行った。

 撮影にはトプコン社製のSL-D7を使用した。バックグラウンドはoff,スリット幅をやや太めにして正面から光を入れ,真横から観察した。前房内に脱臼した水晶体(過熟白内障)の様子を表現するために深度を浅くして水晶体に焦点を絞り,水晶体がオーバーにならないようにフラッシュ光量に注意して撮影した。

やさしい目で きびしい目で・142

未熟児の赤ちゃんからのメッセージ

著者: 平岡美依奈

ページ範囲:P.1675 - P.1675

 私は眼科に入局してから最初の4年間は成人を中心とした診療をしていましたので,医局人事で突然未熟児網膜症を診るように言われた当時は,未熟児に対するイメージがまったく湧きませんでした。そこでいくつかの施設にお邪魔し,先輩方から指導していただきながら試行錯誤で未熟児網膜症の診療を開始したのです。

 小さく生まれた子どもたちは,まず呼吸不全,循環不全,感染症など,乗り越えなければならないたくさんの壁に直面します。その後もさまざまな命の危険にさらされながら,生後1か月を過ぎやっと全身状態が安定した頃に初回の眼底検査を行うことになります。ご両親にとっては厳しい状態からやっと安定して,少し気持ちも落ち着いた頃に眼底検査が始まるわけです。未熟児が生まれたとき,多くの母親は自分の抱いていたイメージと実際のお子さんとのギャップから喪失感を感じます。しかし,赤ちゃんは日ごと成長しており,赤ちゃんに対する愛情も日々強くなっていくのです。私は,そんなお母さんに向かって「失明するかもしれない」話をしなければならないわけですが,できるだけその愛情を途切れさせることのないように細心の注意を払います。

書評

プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.1683 - P.1683

 Vesaliusの『人体構造論(ファブリカ)』(1543)は,それを境として医学史が二つに分けられるほどの偉大な図書といわれる。自分の眼で確かめた所見に基づく詳細な記載はもとより素晴らしいが,芸術的価値も高い約300の見事な図版が含まれていなかったら,それほど喧(けん)伝されることもなかったのではなかろうか。これ以後,正確で美しい解剖アトラスを提供することが,解剖学者の重要な役目となったのである。その極致として,木版画ではToldtの『人体解剖学アトラス』(初版1897-1900),そして近代的なカラー印刷図譜ではPernkopfの『臨床局所解剖学アトラス』(初版1963-/日本語版医学書院,『人体局所解剖学』全4巻7分冊[1937-1960]から図版を抜粋して編集)を挙げることができよう。この2点は共に,ウィーン大学解剖学教授の企画・指導により,ドイツで印刷された作物である。解剖学アトラスに関する限り,ドイツ語圏への信頼はゆるぎないものであった。しかし,1914年,第一次世界大戦が勃発してドイツから多数の米国留学生が帰国の途についたことと呼応して,ドイツ医学の衰退がはじまったと解釈することもできよう。Toldtはドイツ解剖学の爛熟の極点,Pernkopfは偉大なる残光とでもいえようか。ともかく20世紀前半の30年余りの間に,2度の世界大戦により継続性が断たれたことが大きい。世紀後半は,過去の遺産の図版を,手を変え品を変えて新企画のなかに巧みに取り入れて糊塗してきたという感が強く,歯がゆい時期がだいぶ続いた。そこへ,このアトラスの発刊である。ドイツ解剖学のアトラス製作の伝統が連綿として生き続けて,突如として大輪として復活したことを心から喜びたい。

 それにしても“プロメテウス”とは,穏やかでない。この神話名から派生して「先に考える男」という意味があると聞く。ここで思い出すのは,ドイツ解剖学が前世紀はじめに機能解剖学をいち早くとり入れ,Braus(初版1924)やBenninghoff(初版1939)が魅力的でいささか理屈っぽい教科書を制作してきたことである。これらはまさに当時の先駆けであった。今度の先駆けはどんな意義を持つのだろう,書名が単なるAtlas der Anatomie(解剖学アトラス)ではなく,Lernatlas(学習アトラス)とうたっているところに表されていると思う。上述のPernkopfの大著には副題として『局所層序的剖出アトラス』とあり,実際に一層ずつ丹念に剖出を繰り返し忠実に描写した記録の集成である。このような場合,その特定の解剖体の所見に依拠する程度が高くなるから,必ずしも標準的とは称しがたいこともありうる。“プロメテウス”の図版は伝統に立脚しながらも近年のコンピュータ支援の成果も巧みにとり入れ,典型的・標準的かつ割り切りのいい美しい図版に仕上げられており,学生にとっても理解しやすいのではないか。

話題

Purkinjeメータの可能性

著者: 西悠太郎

ページ範囲:P.1687 - P.1689

はじめに

 眼内レンズの偏位は,非球面眼内レンズ,トーリック眼内レンズおよび多焦点眼内レンズ挿入眼における術後成績を悪化させうる1~7)。これまではスリットランプによる主観的な評価法や,Scheimpflugカメラ8)を用いて眼内レンズの偏位が測定されたが,前者による評価法では検者により測定値のばらつきが出る可能性があり,後者の方法では角膜のmagnificationにより誤差が生じうる9)。Adobe Photoshop®を用いたレトロイルミネーション画像分析による眼内レンズ偏位の測定も試されたが10),傾斜が測定できなかった。

 最近,Purkinjeの光反射を用いて眼内レンズの偏位を評価する方法,いわゆるPurkinjeメータが開発された11~16)(図1)。この機器は,角膜と眼内レンズにおけるPurkinjeの光反射をデジタルカメラを用いて撮影し,精密なソフトウェアにより眼内レンズの位置を計算するものである9)。画像撮影は非接触型でフラッシュを用いず,簡便で瞬時に施行できる。このシステムを改良することで正確に眼内レンズの位置を測定し,術後成績に眼内レンズ偏位がどのような影響を与えるのかを評価することが将来可能になるかもしれない。

 本稿の目的は,Purkinjeメータを簡潔に紹介することである。

臨床報告

網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術あるいはベバシズマブ硝子体内注入の効果

著者: 松下五佳 ,   新田憲和 ,   相馬利香 ,   森田啓文 ,   久保田敏昭 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1691 - P.1694

要約 目的:黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対し,硝子体手術またはベバシズマブ硝子体内注入を行った結果の比較。対象と方法:過去53か月間に治療した黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症27例27眼を対象とした。最初の33か月間の12眼には硝子体手術を行い,それ以後の15眼にはベバシズマブの硝子体内注入を行った。結果:術前視力と比較し,硝子体手術群では1か月後に変化がなく,3か月後に改善し,以後12か月後まで維持した。ベバシズマブ群では1か月後に有意に改善し,3か月以降では有意差がなかった。結論:黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症では,硝子体手術後には視力が緩やかに改善し,12か月後も維持される。ベバシズマブ硝子体内注入後には視力が速やかに改善するが,効果は持続しない。

網膜静脈分枝閉塞症における硝子体手術の長期効果

著者: 桐井枝里子 ,   山本禎子 ,   三浦瞳 ,   神尾聡美 ,   後藤早紀子 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1695 - P.1702

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対し,早期または発症から3か月経過観察した後に硝子体手術を行った長期効果の検討。対象と方法:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫を認め,術前視力0.5以下,浮腫改善目的で硝子体手術を行った52例52眼を対象とした。発症から手術までの期間が120日以内の群を早期群(27眼),120日を超えた群を後期群(25眼)と2群に分け,術前後の矯正視力および中心窩網膜厚を測定し比較検討した。結果:視力経過では,早期群と後期群とも,術前と比較し術後12~24か月で有意な改善を認めた。網膜厚の経過では,2群とも術前と比較し術後6~24か月で有意な減少を認めた。術後視力および術後網膜厚の推移については2群間に差はなかった。結論:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術は,発症からの経過時間による効果の差はなかった。

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欧文目次

ページ範囲:P.1560 - P.1560

べらどんな 昆虫図譜

著者:

ページ範囲:P.1568 - P.1568

 神保町の古本屋さんから定期的に厚いカタログが送られてくる。生物関係が専門だが,なかなか面白く,世界が広くなったような気がする。

 聖書や源氏物語に出てくる動植物を扱った本が何種類もあるのは当然だ。ところが芭蕉だけでなく,『蕪村俳句集の植物』があったりする。万葉集関係では14冊の本があり,『原色万葉植物図鑑』も読んでみたいが,価格は医学書なみである。

第16回日本網膜色素変性症協会(JRPS)研究助成

ページ範囲:P.1582 - P.1582

 日本網膜色素変性症協会(Japanese Retinitis Pigmentosa Society:JRPS)は,患者,支援者,研究者の協力により1994年5月に設立されました。本来の目的である網膜色素変性症とその類縁疾患の治療法開発のための研究に対し,助成を行っております。また,社会に網膜色素変性症を広く知っていただき,さらには研究助成への募金を呼びかけるため2008年8月に特定非営利活動法人網膜変性研究基金が設立され,2010年からはJRPSと協同で研究助成制度の運営に当たっています。第16回の応募要項は以下の通りです。

ことば・ことば・ことば 柵

ページ範囲:P.1623 - P.1623

 キリスト教神学では「あの世」の地図がきちんとできています。仏教には極楽と地獄しかありませんが,キリスト教では地獄の手前にlimboという場所があり,どちらにも属しない人々が居ることになっています。洗礼を受けなかった異教徒や,キリストよりも前に生きた人,すなわちアリストテレスやクレオパトラがこれに属します。

 角膜のlimbusもこれと関係があります。本来は角膜でも球結膜でもない部位で,これを「輪部」としたのは医学用語でも傑作のひとつです。

公益信託須田記念緑内障治療研究奨励基金 平成22年度(第24期)奨励金受給者決定

ページ範囲:P.1634 - P.1634

 平成22年度は,多くの応募者の中から厳正なる審査の結果,下記の方々に研究奨励金として各100万円を給付し,「第22回日本緑内障学会」で報告いたしました。

べらどんな 中国の鉄道

著者:

ページ範囲:P.1640 - P.1640

 上海によく行かれる方から,中国の列車時刻表をいただいている。実に面白い。中国が着実に近代化している姿とその問題点が見えるのである。

 北京-天津間の京津線に,高速鉄道が4年前に開通した。走行時間は以前の69分が30分になり,便数も1日12本から53本に増えた。両都市の距離が137kmなので,平均時速は274kmになる。料金は一等で69人民元,約500円である。

財団法人 高齢者眼疾患研究財団 平成22年度研究助成交付対象者決定

ページ範囲:P.1649 - P.1649

 平成22年度研究助成の助成金交付対象者を募集いたしましたところ,多数のご応募をいただきました。選考委員会による厳正な審査のうえ,理事会の承認を得て,下記の6名の方を助成金の交付対象者とすることに決定しました。

ことば・ことば・ことば どぜう

ページ範囲:P.1686 - P.1686

 テレビのニュースを見ていて,急に「どじょうを英語ではどういうのか」が気になりました。中学のときから50年以上も英語を使っていても,「どじょう」にはまだ出会っていないのです。

 「英語が難しいこと」を示す例は数多くあります。われわれ日本人にとっては,「イモ」はごく普通の野菜であり,その下位分類としてサツマイモ,ヤマイモ,ジャガイモなどがあります。ところが英語には「イモ一般」を指す単語がありません。Potatoはジャガイモだけのことで,サツマイモならsweet potato,ヤマイモだと日本のとは種が違いますが,yamになります。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1703 - P.1708

アンケート

ページ範囲:P.1711 - P.1711

投稿規定

ページ範囲:P.1712 - P.1712

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1713 - P.1713

希望掲載欄

ページ範囲:P.1714 - P.1714

11号(増刊号)予告

ページ範囲:P.1716 - P.1719

12号(11月号)予告

ページ範囲:P.1721 - P.1721

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1722 - P.1722

 東日本大震災による電力不足のために,今夏は電力使用制限令が発動され,節電が叫ばれました。たまに訪れる東京では電車やビルの冷房が弱められているだけでなく,街全体が暗く,私も節電を実感することができました。そして,それらの努力により,電力不足に陥ることもなく夏を乗り切ることができ,ついに9月9日,電力使用制限令が解除されました。このことは,日本人は目標に向かって一致団結できる国民性を持っていることを示したと同時に,今までいかに不要な電力を使用していたかをも示したといえます。わが国は,発電のために常に資源を輸入し続けていますが,少なくとも今回使用を控えることができた分は不要なものであった可能性があります。資源が限られていることを考えると,よい教訓になったのではないでしょうか。

 さて,今月の話題は「緑内障配合剤のメリットとデメリット」です。現在,多くの種類の緑内障点眼薬がありますが,1人が3種類以上の点眼をする場合,点眼の苦労もさることながら,資源保護の観点からも無駄という印象を拭い去ることができません。ですから,緑内障配合剤が開発されたのは当然のことです。しかし,処方箋を書く側としては,単剤だけでも薬の種類が多いうえに数種類の配合剤が出現した今,それぞれのメリットとデメリットが十分に理解できていないのではないでしょうか。学会のランチョンセミナーや研究会で緑内障点眼薬についての講演を聞く機会は多いのですが,昨今の常として会には共催企業がありますので,内容にバイアスがないかというと否と言わざるをえません。そのことがさらに,点眼薬本来の理解を妨げているようです。本誌の内容はバイアスが排除された科学的なものが厳選されており,読者の信頼に応えることを第一としています。本号における相原先生の簡潔かつ直截的解説により,緑内障点眼薬についての理解が進んだ方も多いでしょう。学会やセミナーの聴講だけでは十分に理解できないことも,本誌を紐解くことで理解が進むことを期待いたします。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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