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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻11号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 眼科診療:5年前の常識は,現在の非常識!

ページ範囲:P.3 - P.3

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.5 - P.5

 今の眼科医は忙しい。猛烈にといってもよいほどである。診断や治療が進歩するのは素晴らしいことであるが,そのために以前より診療に多くの時間が必要になっている。筆者の専門の網膜領域に限っても,以前は眼底検査,蛍光眼底造影検査で十分であったものが,眼底自発蛍光検査,光干渉断層計検査,多局所網膜電図検査などが加わり,診断に要する時間は確実に増加している。また社会からの要求が高まり,治療前後には患者・家族に対して十分な時間をかけて説明することが求められている。さらに,開業医であれば収益維持へのプレッシャー,大学勤務医であれば学生教育や研究に対する過剰な要求もある。この環境下で,眼科すべての領域について,最新知識の習得が求められているのである。

 現在,眼科関連の専門書が数多く出版され,インターネットから最先端情報の取得も可能である。しかし,時間に余裕のないこの状況下で,自分の専門外の領域について専門書を紐解くというのは容易なことではない。インターネット情報は玉石混淆であり,その中には明らかな誤りも少なくない。このようなときに,ある眼科医から「自分は少なくとも眼科診療の基礎を備えている自信はあるが,専門外領域については最先端知識があるという自信はない。専門外領域について,最近変化した点についてだけまとめた本があれば,非常に助かる」という言葉をいただいた。確かに,眼科専門医であれば,少なくとも各疾患についての教科書的知識はあるので,そこに最近変化した情報が加わるだけで,各領域の基礎から最新までの知識が備わることになる。

1 屈折・調節の異常,白内障

ページ範囲:P.11 - P.11

■検査

視力・屈折検査

著者: 長谷部聡

ページ範囲:P.12 - P.17

ここが変わった!

以前の常識

●視力検査は小数視力がやはり便利である。

●研究には小数視力を対数またはlogMAR変換すればOKである。

現在の常識

●log MARによる視力測定を正しく行うには,ETDRSチャートが必要である。

●視力をアウトカムとする臨床研究では,log MARスコアによる統計解析が不可欠である。

●医療情報の国際的標準化の流れを受けて,今後ETDRSチャートのニーズはますます高まるであろう。

調節機能検査

著者: 梶田雅義

ページ範囲:P.18 - P.22

ここが変わった!

以前の常識

●白内障手術後の眼内レンズ(IOL)眼は,屈折力を変化させることができないので,調節は起こらない。したがって,調節検査を行うことは無意味である。

●調節が起こらないIOL眼では,調節異常は発症しないので,調節の治療も無効である。

現在の常識

●白内障手術後のIOL眼でも,毛様体筋は健全であるので,ピントを合わせたいという要求が起これば,毛様体筋は緊張する。毛様体筋の緊張がIOLを後方にシフトさせて,近くをみようとする調節努力が,かえって眼屈折力を低下させている症例が存在する。

●IOL眼では,ピント合わせの要求に応えるために毛様体筋が収縮しても,期待通りの屈折値の変化は起こらないので,毛様体筋の過剰な収縮が高じて,調節けいれんを発症している症例が存在する。

コントラスト感度・コントラスト視力・実用視力

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.24 - P.31

ここが変わった!

以前の常識

●白内障手術をはじめとしてさまざまな治療の効果を判定する際に,従来はスタンダードな視力検査(明室において100%コントラストの視標を用いて測定)で視機能評価を行うのみであった。つまり,非常によい条件下での視機能評価にとどまっていた。

●コントラスト感度検査も行われていたが,非常に限られた使用であり,多くは研究目的であった。

現在の常識

●視覚の質は従来の視力検査だけでは評価できない。

●多焦点眼内レンズや非球面レンズ,またwavefront-guided LASIKの登場など,白内障手術や屈折矯正手術においても,より高度化・複雑化した器具や手法が臨床応用され,コントラスト感度を用いた詳細な視機能評価が不可欠となってきた。

●波面センサーの開発により高次収差の定量化が可能となり,眼球の光学特性を詳細に評価することが可能となった。これを背景として視機能についてもより詳細な評価を行おうとする潮流が加速され,コントラスト感度測定の臨床応用が急速に広まってきた。そして,さまざまな病態において高次収差とコントラスト感度の深い関連が確認されるようになった。

●視機能を連続的に評価できる実用視力計が開発され,時間というファクターが加味された視機能評価が可能となった。現在,さまざまな疾患や治療において臨床応用が進んできている。

眼軸長測定

著者: 須藤史子

ページ範囲:P.32 - P.37

ここが変わった!

以前の常識

●眼軸長測定といえば,超音波Aモード法が主流であり,接触式で等価音速測定のみであった。

現在の常識

●超音波Aモード法の中でも,核硬化の程度や眼軸長を考慮した区分音速測定や,非接触式である水浸法が注目されている。

●光学式眼軸長測定装置の登場により,非接触で簡便に正確な眼軸長測定が可能になった。ただし,測定不能例が約10%程度存在するため,超音波Aモード法の研鑚も忘れてはならない。

■屈折異常の治療

眼鏡処方

著者: 鈴木武敏

ページ範囲:P.38 - P.43

ここが変わった!

以前の常識

●自動屈折計の進歩で信頼性が増し,眼鏡処方は容易になり,レチノスコピーは不要になった。

現在の常識

●社会環境の変化により,眼鏡処方は視力検査の延長ではなく,調節機能を重視した高度な技術となった。

●レチノスコピーの使い方が変わり,自動屈折計を越える必須の検査となった。

●累進屈折力レンズの進歩が著しく,適応が拡がり,レンズの知識も不可欠になった。

コンタクトレンズ処方

著者: 植田喜一

ページ範囲:P.44 - P.47

ここが変わった!

以前の常識

●使い捨てレンズは安全である。

現在の常識

●使い捨てレンズによる眼障害が多い。

●その原因として,コンタクトレンズの処方,定期検査,装用方法,ケア方法が挙げられる。

エキシマレーザー角膜屈折矯正手術

著者: 荒井宏幸

ページ範囲:P.48 - P.51

ここが変わった!

以前の常識

●視力1.5が出れば大成功である。

●患者の固視が上手くいかず偏心照射になってしまった。

●角膜フラップはマイクロケラトームで作製する。

現在の常識

●視力とともに高次収差・コントラスト感度などの視機能が大切。

●赤外線によるアイトラッキング(瞳孔中心捕捉)と虹彩紋理認識による回旋補正が可能になった。

●角膜フラップ作製にはフェムトセカンドレーザーに優位性がある。

老視に対する外科的治療法

著者: 坂西良彦

ページ範囲:P.52 - P.55

ここが変わった!

以前の常識

●わが国における老視矯正の主流は眼鏡あるいはコンタクトレンズである。

●老視に対する外科的治療法はモノビジョン法を用いた眼内レンズ手術やLASIKあるいは強膜手術などが一部の術者により行われているに過ぎない。

現在の常識

●老視の外科的治療法としてはモノビジョン法のほか,白内障のある症例には多焦点眼内レンズや調節眼内レンズ,白内障のない症例には熱伝導角膜形成術(CK),角膜内インレー,多焦点LASIKなど多彩な術式が行われている。

●どの術式にも一長一短があり,決め手となる術式はない。

■白内障の治療

白内障手術の概念の進歩

著者: ビッセン宮島 弘子

ページ範囲:P.56 - P.59

ここが変わった!

以前の常識

●白内障手術は術後の矯正視力が良好であればよい。

現在の常識

●白内障手術は患者の生活スタイルに合った良好な裸眼視力を考慮して眼内レンズを選択する。

単焦点眼内レンズ

著者: 柴琢也

ページ範囲:P.60 - P.64

ここが変わった!

以前の常識

●眼内レンズの選択は利点と問題点を天秤にかけて行う。

現在の常識

●明らかな問題点を有する眼内レンズはもはやなくなり,レンズが有する付加価値を評価してレンズ選択を行う。

●さらに同じ付加価値でもその詳細を吟味して,症例に最も適切なレンズ選択を行う。

老視矯正眼内レンズ

著者: 中村邦彦

ページ範囲:P.66 - P.70

ここが変わった!

以前の常識

●白内障手術後の眼内レンズ(IOL)挿入眼では,調節力はないので,遠方狙いの場合には近用眼鏡が必要となることはやむをえない。多焦点IOLはグレア,ハロー,コントラスト感度低下の問題が大きく,適応となることが少ない。

現在の常識

●新世代の多焦点IOLが使用可能になり,以前の問題が軽減されて,適応となる症例が増加し,多くの症例で眼鏡への依存度が軽減できる。

白内障術後乱視

著者: 松永次郎 ,   宮田和典

ページ範囲:P.71 - P.75

ここが変わった!

以前の常識

●白内障手術後に良好な裸眼視力を得るための術後乱視の目標は1.5~2.0Dであった。

●1.5~2.0D以上の乱視に対しては,角膜輪部減張切開術(LRI)が行われていたが,用手的な手術であるため,矯正精度が劣ることが問題であった。

現在の常識

●非球面眼内レンズ(IOL)や多焦点IOLなどの高機能IOLの機能を発揮するために,術後乱視の目標は1.0D未満になり,より厳密な乱視矯正が必要となった。

●LRIはaxis registration法により矯正精度が向上し,さらにトーリックIOLが利用できるようになったため,より精密な乱視矯正を行うことができるようになった。

スペシャルレクチャー

オルソケラトロジーによる視力矯正

著者: 吉野健一

ページ範囲:P.77 - P.79

歴史

 オルソケラトロジー(orthokeratology:以下,オルソK)は,「高酸素透過性コンタクトレンズを用いて意図的に角膜形状を変化させて屈折異常を一時的に除去または軽減する手法」と定義される。その歴史は1960年代にさかのぼり,すでに半世紀を経ている。100を超える高酸素透過性素材の出現,CNC(computer numeric-controlled)旋盤機の導入による精密なレンズデザインの実現,トポグラファーを駆使した処方の確実性と効果の評価などにより現在のオルソKは第3世代を迎え,予測性,再現性,即効性,安全性において格段の進歩がみられた(図1)。

有水晶体眼内レンズ

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.80 - P.82

後房型有水晶体眼内レンズの有用性

 後房型有水晶体眼内レンズ(phakic IOL:Visian ICLTM:STAAR Surgical社)は2010年2月2日に厚生労働省より正式に認可を受けた。これまで屈折矯正手術のスタンダードであるlaser in situ keratomileusis(LASIK)に比較して,高い安全性・有効性だけでなく,術後視機能の優位性が報告1,2)されている。

 理由としては,第1にLASIKは角膜中央部の切除により,prolateからoblateへの角膜形状変化に伴い球面収差が増加することや,フラップ作製や照射ずれによりコマ収差が増加すること,第2にphakic IOLでは瞳孔面上で矯正を行うため,網膜像の倍率変化を生じにくいことが考えられる。角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性も極めて良好であり3),もちろん調節力も温存可能である4)。当初,高度近視における屈折矯正方法として注目されていたが,中等度近視まで適応が拡大しつつある。また,新たな治療法として非進行性円錐角膜5),ペルーシド角膜変性症6)やLASIK・放射状角膜切開術(radial keratotomy:RK)後の屈折異常7,8)に対する有用性も報告されている(ただし,現在,円錐角膜や他の屈折矯正手術歴のある患者は適応外とされている)。

2 眼表面・角膜疾患

ページ範囲:P.83 - P.83

■検査

前眼部OCT

著者: 川名啓介

ページ範囲:P.84 - P.88

ここが変わった!

以前の常識

●光干渉断層計(OCT)は眼底(網膜)の検査機械である。

●OCTは光による検査なので,半透明の構造しかみることができない。

●OCTは断面しかみることができない。

現在の常識

●前眼部OCTは角膜(角膜切開創),前房,虹彩,水晶体,隅角,強膜,線維柱帯切除術後の濾過胞内部などの前眼部に存在する透明・不透明組織を描出できる。

●前眼部OCTは三次元撮影することにより,OCTトポグラフィやOCTゴニオメトリーなどを含めた包括的な前眼部形態の理解が可能である。

前眼部画像解析装置(ペンタカムなど)

著者: 川守田拓志 ,   魚里博

ページ範囲:P.91 - P.100

ここが変わった!

以前の常識

●従来のトポグラフィは角膜前面曲率半径のみから角膜全体の屈折力を推定していた。

現在の常識

●前眼部画像解析装置は,角膜前面形状だけでなく,角膜厚,角膜後面形状も考慮した角膜全屈折力の算出が可能となった。

●前眼部画像解析装置は,再現性や操作性が向上し,多目的な機器として臨床でのニーズが増加している。

波面収差解析装置

著者: 二宮欣彦

ページ範囲:P.103 - P.108

ここが変わった!

以前の常識

●波面収差解析は,円錐角膜などの角膜・水晶体の形状異常を対象にした特殊検査や角膜屈折矯正手術の術前検査などとして,臨床上稀な高次収差の増大の検出に有用である。

現在の常識

●角膜の高次収差解析は白内障手術のスクリーニングとして用いられ,非球面眼内レンズや乱視矯正眼内レンズといった付加価値眼内レンズの適応の判断・効果の評価に有用である。

●涙液の変化による視機能異常の解析など,動的な波面収差解析がドライアイの診断などに応用されている。

■診断・治療

ドライアイの考え方,診断方法,治療選択

著者: 渡辺仁

ページ範囲:P.109 - P.113

ここが変わった!

以前の常識

●ドライアイは涙液の異常(だけ)で生じる疾患である。

●診断において眼表面上皮の障害をみる場合,フルオレセイン染色で判定する際,角膜の上皮障害だけみて判断する。

●ドライアイの治療に関してはほとんどの場合,人工涙液とヒアルロン酸ナトリウム点眼で治療を開始する1)

現在の常識

●ドライアイは涙液と眼表面上皮のinteractionに異常が生じて発症する疾患である。

●診断で眼表面上皮の障害をみる場合,フルオレセイン染色で判定する際にも角膜上皮だけでなく結膜上皮もみて,眼表面上皮全体で上皮障害を判定する。

●治療に関しては,すでに発売されたP2Y2受容体アゴニストや今後発売されるムチン分泌点眼薬により多様な治療が可能となり,ドライアイを発症させる原因となる涙液の成分補給というtear film-oriented therapyの考え方が導入されつつある。

ドライアイに対する治療法

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.115 - P.118

ここが変わった!

以前の常識

●ドライアイの治療薬はヒアルロン酸点眼薬と人工涙液であり,有効でない患者には涙点プラグを挿入する。

●涙点プラグは有効ではあるが,脱落が多く,迷入の危険性も多い治療である。

現在の常識

●ドライアイ治療の点眼薬としてヒアルロン酸点眼薬,人工涙液に加えて,ムチン分泌促進薬が選択できるようになった。

●涙点プラグは迷入のリスクが減少し,脱落率も減少している。固形プラグのほかにコラーゲンプラグも登場し,選択の幅が広がっている。

●Sjögren症候群のドライマウスに対する内服治療がドライアイ治療にも効果があるといわれており,今後新しい治療薬として使用できる可能性が出てきた。

マイボーム腺機能不全の考え方

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.119 - P.123

ここが変わった!

以前の常識

●マイボーム腺機能不全(MGD)により蒸発亢進型ドライアイや眼不快感を引き起こすといわれていたが,定義や診断基準に一定の見解がなかった。

現在の常識

●国内および海外の研究グループによりMGDの定義や診断基準などが報告された。

●MGDが眼表面に与える影響やMGDの治療について今後の検討を要する点も多い。

円錐角膜の治療

著者: 加藤直子

ページ範囲:P.124 - P.128

ここが変わった!

以前の常識

●円錐角膜眼は先天性の疾患であり,進行を停止させることはできない。

●円錐角膜眼の屈折矯正はハードコンタクトレンズを装用できる限り装用させ,どうしても装用困難な重症例に限って角膜移植を考える。

現在の常識

●角膜クロスリンキングの開発により円錐角膜眼の進行を停止させることが可能になった。したがって,円錐角膜を早期に診断し,時機を逃さず角膜クロスリンキングを行うことにより角膜移植症例を減らすことができる。

●円錐角膜眼の屈折矯正方法としてコンタクトレンズ以外にも角膜内リング,有水晶体眼内レンズ,topography-guided conducntive keratoplastyなどが開発され,重症度とニーズに応じて選択することができるようになった。

水疱性角膜症に対する角膜内皮移植術

著者: 小林顕

ページ範囲:P.129 - P.134

ここが変わった!

以前の常識

●水疱性角膜症に対する外科的治療法としては全層角膜移植術が唯一の選択肢であった。

現在の常識

●水疱性角膜症に対する外科的治療法の選択肢として,全層角膜移植術に角膜内皮移植術が加わり,第一選択の外科的治療法になりつつある。

フェムトセカンドレーザーを用いた角膜移植術

著者: 稗田牧

ページ範囲:P.136 - P.139

ここが変わった!

以前の常識

●フェムトセカンドレーザーはLASIK(laser in situ keratomileusis)専門施設のみで使われる特殊な機器である。

現在の常識

●フェムトセカンドレーザーは角膜移植に用いるレーザーとして厚生労働省に承認され,角膜移植保険適応加算点数も認められた。

●フェムトセカンドレーザーを使った角膜移植はサイズが同一で,接着面積が広く,早期視力回復に効果がある。

角膜内皮炎の病態と治療

著者: 井上智之

ページ範囲:P.140 - P.144

ここが変わった!

以前の常識

●角膜内皮炎は臨床症状による診断からステロイド薬による消炎治療か,単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスに対するアシクロビル治療であったが,原因不明で治療困難なことがしばしばであった。

現在の常識

●前房水に対するPCR診断の導入で,サイトメガロウイルスをはじめとするヘルペスウイルスによる角膜内皮炎の診断および治療効果モニタリングが可能になった。

●治療には消炎薬に加えて,ヘルペスウイルスの種類に応じた抗ヘルペスウイルス薬の選択が必要である。

アカントアメーバ角膜炎の薬物療法

著者: 加治優一

ページ範囲:P.145 - P.148

ここが変わった!

以前の常識

●アカントアメーバ角膜炎は稀な疾患であり,薬物療法には抗真菌薬を用いる。

現在の常識

●アカントアメーバ角膜炎は,コンタクトレンズ装用者に生じる角膜潰瘍において真っ先に鑑別に挙げるべき疾患になった。

●点眼に用いる薬剤としては,PHMBやクロルヘキシジンなどの消毒薬が中心となり,抗真菌薬は補助的に用いられる。

春季カタル患者の実態と治療

著者: 海老原伸行

ページ範囲:P.149 - P.153

ここが変わった!

以前の常識

●春季カタルは年少の男子に多い疾患と考えられているが,日本における調査はない。点眼療法には抗アレルギー点眼薬とステロイド点眼薬を使用する。ステロイド点眼薬使用時には眼圧上昇に注意を要する。

現在の常識

●春季カタルは10歳前後の年少の男子に多い疾患であり,点眼療法には抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬を使用し,それでも改善しない場合にステロイド点眼薬を追加処方する。思春期に向けて寛解していくが,アトピー性皮膚炎合併例では遷延化することもある。

ソフトコンタクトレンズのケア用品

著者: 糸井素純

ページ範囲:P.154 - P.158

ここが変わった!

以前の常識

●過酸化水素の消毒システムではソフトコンタクトレンズはこすり洗いをしなくてもよい。

●消毒終了後のソフトコンタクトレンズはレンズケースから取り出し,そのまま装用する。

●ソフトコンタクトレンズのレンズケア用品は,容器,外箱に記載されている有効期限を越えない範囲で使用可能である。

●ソフトコンタクトレンズの消毒剤は,どのソフトコンタクトレンズにも使用可能である。

現在の常識

●過酸化水素による消毒システムにおいても,多目的用剤(MPS)と同様,ソフトコンタクトレンズをこすり洗いしなくてはならない。

●消毒終了後のソフトコンタクトレンズであっても,レンズケースから取り出した後に,MPS,あるいは滅菌された保存液でレンズをすすいでから装着する。

●ソフトコンタクトレンズのレンズケア用品は,開封後1か月を目安に使用する。それ以上過ぎたものは使用しない。

●ソフトコンタクトレンズの消毒剤,特にMPSはソフトコンタクトレンズとの相性がある。

スペシャルレクチャー

人工角膜の臨床応用

著者: 森洋斉

ページ範囲:P.159 - P.161

はじめに

 人工角膜は,複数回の移植片不全症例や重症な瘢痕性角結膜上皮症など,通常の全層角膜移植術(penetrating keratoplasty:PKP)では良好な予後が期待できない症例に対して臨床使用されてきた。以前の人工角膜は,脱落や周辺組織の融解,感染性眼内炎,緑内障など重篤な術後合併症を短期間で起こすことが多かったため,普及しなかった。しかし,素材・デザインや術式の改良を重ねることで,術後合併症の頻度は徐々に減少し,良好な術後成績が報告されている。

 現在,本邦で主に使用されている人工角膜は,Boston Keratoprosthesis(以下,Boston KPro),Alpha CorTM,歯根部利用人工角膜Osteo-odonto-keratoprosthesisの3種類があり,本稿ではBoston KProについて紹介する。

シリコーンハイドロゲルを用いたソフトコンタクトレンズ

著者: 岩崎直樹

ページ範囲:P.163 - P.164

シリコーンハイドロゲルレンズの長所と短所

 シリコーンハイドロゲルを用いたソフトコンタクトレンズ(silicone hydrogel contact lens:SHCL)とは,シリコーンを含有する高酸素透過性,低含水率のソフトコンタクトレンズ(soft contact lens:SCL)である。従来素材のSCLは素材に含まれる水の率,すなわち含水率が上がるほど酸素透過係数Dk値が上昇する。それに対してSHCLでは全体にDk値が高いうえに,含水率が下がるほどDk値が上昇する(図1)。そのため,商品化されているSHCLでのDk値は80~150と,従来素材の20前後よりずっと高い。また,含水率が低ければSCL表面からの水分蒸発が少なく,より乾燥感が少ないという特徴を持っている。

 その裏返しとして,素材が硬く異物感が出ることがある。また,そのままでは素材が疎水性で水を弾いてしまい,SCLが曇ってしまうため,何らかの表面処理を必要とする。

3 緑内障

ページ範囲:P.167 - P.167

■検査

眼圧測定計―各機種の使い分け

著者: 芝大介

ページ範囲:P.168 - P.173

ここが変わった!

以前の常識

●過去50年間の眼圧測定といえば,精密な測定時にはGoldmann圧平眼圧計,簡易な測定でよい場合には非接触眼圧計と決まっていた。

現在の常識

●各眼圧計の長所・短所が正確に理解され,それぞれの問題点を克服した眼圧計が登場してきた。

Humphrey静的視野計の解析法

著者: 中野匡

ページ範囲:P.174 - P.178

ここが変わった!

以前の常識

●緑内障の視野進行は,時系列データを視野サマリーなどで判定することが多く,時に視野変化解析や緑内障視野変化確率解析,MDスロープなどが治療方針の参考に使用されていた。

現在の常識

●パターン偏差を用いたGPA(Guided Progression Analysis)やVFI(Visual Field Index)が利用できるようになり,さらにファイリングシステムが普及するにつれて,これらの解析ソフトを総合的に活用できるようになってきた。

■診断

緑内障視神経症の判定法

著者: 今野伸介

ページ範囲:P.179 - P.183

ここが変わった!

以前の常識

●緑内障の眼底変化の判断基準は主観的判断に委ねられる面があった。

現在の常識

●緑内障は緑内障性視神経症と定義された。

●原発閉塞隅角症の概念が加わった。

●緑内障性視神経乳頭・網膜神経線維層変化ガイドライン,緑内障診断基準などが明確になり,共通の判断基準での評価ができるようになった。

緑内障視神経症の画像診断―緑内障も黄斑部解析

著者: 大久保真司

ページ範囲:P.184 - P.189

ここが変わった!

以前の常識

●緑内障視神経症の画像診断といえば乳頭および乳頭周囲である。

現在の常識

●緑内障視神経症の画像診断における黄斑部の重要性が増してきている。

●黄斑部において網膜全層厚および網膜神経線維層(RNFL)厚のみならず,網膜内層厚の解析が可能となった。

●黄斑部の網膜内層厚と乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の診断力は同等で,かつ相補的である。

原発開放隅角緑内障の進行予後因子

著者: 新田耕治 ,   中谷雄介

ページ範囲:P.190 - P.195

ここが変わった!

以前の常識

●原発開放隅角緑内障(狭義)はもとより正常眼圧緑内障でも進行予後因子として眼圧を第1に考えていた。

現在の常識

●正常眼圧緑内障における長期経過から十分な眼圧下降を得られても進行する症例が多く存在する。

●正常眼圧緑内障では,進行予後因子として眼圧非依存性因子も念頭において治療をすべきである。

●さまざまな進行予後因子の中で特に視神経乳頭出血の出現は進行予後因子として際立っている。

原発閉塞隅角緑内障の診断と隅角検査

著者: 酒井寛

ページ範囲:P.196 - P.200

ここが変わった!

以前の常識

●原発閉塞隅角緑内障は隅角の閉塞により診断していた。

●隅角閉塞を細隙灯顕微鏡の光が瞳孔領に入った状態で診断していた。

●隅角閉塞は主に周辺虹彩前癒着による器質的閉塞を指していた。

現在の常識

●原発閉塞隅角緑内障は隅角の閉塞と緑内障性視神経症のある症例として診断する。

●隅角閉塞は暗室で細隙灯顕微鏡の光を瞳孔領に入れずに診断する。これを静的隅角鏡検査という。

●隅角閉塞は線維柱帯と虹彩が接触しているだけの機能的隅角閉塞も含めて診断する重要性が認識されている。

●暗室で施行可能な超音波生体顕微鏡検査により機能的隅角閉塞を診断することが可能である。

■治療

緑内障治療薬

著者: 金本尚志

ページ範囲:P.201 - P.205

ここが変わった!

以前の常識

●眼圧下降点眼薬として,β遮断薬や炭酸脱水素酵素阻害薬に加えて,ラタノプロスト点眼薬が有用であった。

現在の常識

●ラタノプロスト以外のプロスタグランジン製剤点眼薬があり,それぞれの特性を生かして使い分けることが可能

点眼治療のアドヒアランス

著者: 廣岡一行

ページ範囲:P.206 - P.209

ここが変わった!

以前の常識

●コンプライアンス(服薬遵守)が重要視されていた。

●決められたとおりに患者が正しく服薬することが大切である。

●医療者側から患者側への一方通行になりかねない。

現在の常識

●アドヒアランス(治療への参加と継続性)が重要視されている。

●患者が服薬意義を理解し,主体的に治療方針を選択する。

●患者と医師が相互に合意した治療方針に従って,患者が自発的に治療を実施,継続する。

緑内障に対するレーザー治療

著者: 井上俊洋

ページ範囲:P.210 - P.214

ここが変わった!

以前の常識

●急性原発閉塞隅角緑内障治療は,まずレーザー虹彩切開術を計画する。

現在の常識

●急性原発閉塞隅角症の治療に際してはレーザー虹彩切開術が基本ではあるが,薬物療法である程度の寛解が得られた場合,症例と施設によっては初期手術としての白内障手術も考慮に入れる。

線維柱帯切除術の基本手技とその術後管理

著者: 三木篤也

ページ範囲:P.215 - P.219

ここが変わった!

以前の常識

●丈の高い胞状の濾過胞を形成することが眼圧下降にとって重要である。

現在の常識

●術後感染のリスク軽減のため,有血管性でびまん性の濾過胞を形成することが重要である。

線維柱帯切開術およびその近縁手術の基本手技とその術後管理

著者: 陳進輝 ,   新明康弘

ページ範囲:P.221 - P.227

ここが変わった!

以前の常識

●線維柱帯切開術(トラベクロトミー)は,金属プローブ(トラベクロトーム)を用いて切開する。

●トラベクロトームを使った切開範囲は最大120°までである。

●トラベクロトームを回転させて切開するときには抵抗があり,正しく回転させなければDescemet膜剝離を起こす危険もある。周辺虹彩前癒着があると,更にリスキーとなる。

●トラベクロトミーを行うには,ある程度緑内障手術に習熟する必要がある。

●さらなる眼圧下降を求めるなら,サイヌソトミー(濾過手術の一種)や深層強膜弁切除術などを併用したハイブリッド手術を行う。

●ぶどう膜炎などによる続発緑内障にはあまり有効ではない。

現在の常識

●線維柱帯切開はトラベクトーム(trabectome®)や糸など金属プローブ以外のツールによっても切開できるようになった。

●糸を用いる変法は,360°全周切開はもちろん,180°切開など任意の範囲を切開することが可能である。

●トラベクトーム®やアイ・ステント(iStent®)の登場により,緑内障手術の経験がない術者でも,トラベクロトミーと同様な手術を行うことができるようになった。

●糸を用いた変法では,切開時にまったく抵抗を感じることなく安全に切開でき,たとえ周辺虹彩前癒着があっても可能である。

●全周切開する360°トラベクロトミー変法では,ハイブリッド手術を併用しなくても高い眼圧下降効果が得られ,ぶどう膜炎による続発開放隅角緑内障にも有効である。

インプラント手術

著者: 石田恭子

ページ範囲:P.228 - P.232

ここが変わった!

以前の常識

●難治性緑内障に対して毛様体光凝固術と並んで,最後の手段として用いる手術であった。

現在の常識

●インプラント器具および手術法の改良により,手術成績が向上し,より早期から導入される手術法となった。

血管新生緑内障と抗VEGF治療

著者: 齋藤代志明

ページ範囲:P.233 - P.237

ここが変わった!

以前の常識

●血管新生緑内障は緑内障の中でも非常に予後不良で,失明の危険性が高い疾患である。

●虹彩および隅角新生血管の退縮には汎網膜光凝固術を行うが,即効性がなく新生血管の退縮に時間がかかるため隅角閉塞が拡大してしまう。

●薬物による眼圧下降療法では効果不十分なことが多く,トラベクレクトミーを行っても眼圧コントロールが不良な症例が多い。

現在の常識

●抗VEGF治療により,ほとんどの症例で前眼部新生血管の速やかな退縮を認め,なかには一時的に眼圧が下降する症例さえあり,汎網膜光凝固術を行う時間的余裕ができた。

●抗VEGF治療を併用することにより,トラベクレクトミーでの術中・術後の出血性合併症が抑制され,術後の眼圧コントロールが良好になった。

スペシャルレクチャー

緑内障の遺伝子

著者: 池田陽子 ,   中野正和 ,   森和彦

ページ範囲:P.238 - P.242

緑内障関連遺伝子の探索

 最初の緑内障関連遺伝子は1993年に同定,報告1)された。この時代の遺伝子解析は,緑内障家族歴を持つ家系患者の血液検体を多数集め,ゲノム上の反復配列の多型解析から原因となる遺伝子を割り出す連鎖解析の手法がとられた。ミオシリン2),オプチニューリン3)WDR364)などの遺伝子はこのような手法を経て同定された染色体領域から発見されている(図1a左)。その後,2002年に始まる国際HapMap計画*注1を経てDNAマイクロアレイ*注2/GWAS(Genome-Wide Association Study)*注3の時代となる。

 アレイ導入以前の遺伝子多型解析に必要な費用は非常に高く,国家プロジェクトでなければ研究を行うことができなかったが,国際HapMap計画のアレイの導入によって価格崩壊が起きたため,一般研究者の参入が可能となった。アレイ自体も発展しており,2007年に報告された落屑緑内障のLOXL15)は300Kアレイ〔30万個の一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)解析が可能〕が,2009年に筆者らが報告した広義原発開放隅角緑内障(primary open angle glaucoma:POAG)解析6)には500Kアレイ〔50万個のSNP〕が用いられている。現在は1,000Kアレイを使用する解析例が増加しつつある(図1a中央)。さらに第2世代シーケンサーの登場により,遺伝子解析は新たな時代となった(図1a右)。

緑内障の疫学調査

著者: 齋藤瞳

ページ範囲:P.243 - P.245

代表的な緑内障疫学調査

 緑内障疫学調査は通常,データ収集が数年にわたって行われ,その後得られた膨大なデータを整理・解析して論文発表になるまでさらに数年のタイムラグがあるので,5年前と今を的確に比較するのは非常に難しい。あえて分けると,データ収集が行われた時期に着目し,ここ5年の2002~2007年頃(論文化されている最新のスタディはおおよそこの時期に開始されている)と,それ以前の疫学調査に分けることができる。

 10年以上前の代表的な疫学調査にはBeaver Dam Eye Study(1988~1990)1),Barbados Eye Study(1988~1992)2),Blue Mountains Eye Study(1992~1994)3),Rotterdam Study(1990~1993)4)などが挙げられる。しかし,これらは主に欧米人を対象としたものばかりで,アジアからはこの当時は大規模な報告はインドのAndhra Pradesh Eye Study(1996~2000)5)くらいであった。

緑内障と眼血流

著者: 間山千尋

ページ範囲:P.246 - P.247

5年前の常識は今も常識のまま?

 緑内障の病態における眼血流の関与についての議論は古くから続いている。緑内障性視神経障害には視神経乳頭とその灌流血管である短後毛様動脈,網膜中心動脈などの血流が主に寄与すると考えられるが,血流の測定方法は1990年代に大きく進歩した。基礎実験で利用される侵襲的な方法のほかに,レーザー機器などの進歩によって後眼部組織の非侵襲的な血流測定が可能となり,実験動物とともにヒトの正常眼,緑内障眼を対象とした臨床研究が行われるようになった。超音波を利用したcolor Doppler imagingは,後眼部の眼動脈,網膜中心動脈と短後毛様動脈の血流速度が測定できる。レーザー光を利用したlaser Doppler velocimetryとlaser Doppler flowmetryにより,それぞれ網膜血管の血流速度・血流量の絶対値と視神経乳頭の血流速度・血流量の相対値を評価することができる。laser speckle法は視神経乳頭や網脈絡膜の血流速度の相対値が測定できるなど,複数の方法によって人眼でも眼血流を評価することができる。

 これらの血流測定方法の結果に基づいて,緑内障眼における視野障害の程度と相関した眼血流量の低下や,血管や血流の反応性の障害などが報告されている。また,点眼薬や血管拡張作用を持つ内服薬の投与により眼血流が増加することが報告され,特に神経保護作用も有するカルシウム拮抗薬の緑内障治療薬としての可能性が示唆された1)

4 網膜・硝子体疾患

ページ範囲:P.249 - P.249

■検査

スペクトラルドメインOCT

著者: 佐藤拓

ページ範囲:P.250 - P.252

ここが変わった!

以前の常識

●タイムドメインOCTが基本であった。

●2Dで観察していた。

●網膜の内部構造が一部わかる(視細胞内節外節接合部IS/OSが見える場合がある)。

●脈膜膜の情報はあまりない。

現在の常識

●スペクトラルドメインOCTが基本となった。

●3Dでの観察により硝子体網膜界面の情報量が増加した。

●網膜の内部構造が詳細にわかる(IS/OSのみならず,外境界膜,第3のラインなど)。

●脈絡膜の厚みの測定が可能になった。

網膜自発蛍光

著者: 野本浩之

ページ範囲:P.255 - P.260

ここが変わった!

以前の常識

●非侵襲的な眼底検査として再注目されていた。

現在の常識

●黄斑疾患への応用は現時点では限局的である。

●網膜剝離や網膜上膜術後の網膜の位置ずれを検出できる。

眼底から得られる全身疾患情報

著者: 川崎良

ページ範囲:P.261 - P.267

ここが変わった!

以前の常識

●高血圧や細動脈硬化に伴い網膜血管には変化がみられ,眼底検査は循環器検診に用いられている。

●循環器検診における眼底検査は主観に基づく判定が主であり,再現性に難がある。

●さらに重症高血圧患者が減少した現在では,循環器検診における眼底検査の占める臨床的意義は低くなった。

現在の常識

●定量的に網膜血管の変化を評価する方法が確立されつつあり,より微細な変化をとらえることが可能となった。

●その結果,高血圧の有病を示すだけでなく,高血圧の発症予測や治療効果判定にも応用が可能となった。

●さらに脳卒中などの循環器疾患の発症に,眼底の変化が高血圧とは独立して関連することがわかってきた。

●網膜血管には高血圧や細動脈硬化だけでなく,糖尿病,メタボリックシンドロームや肥満,慢性腎臓病,炎症性疾患などさまざまな疾患との関連が示されるようになり,今後も全身疾患の血管変化を評価するうえで重要な指標となりうる。

■診断・治療

強度近視眼の新知見

著者: 大野京子

ページ範囲:P.268 - P.272

ここが変わった!

以前の常識

●強度近視は一種の変性疾患であり,視覚障害をきたしても特に治療法はない。

現在の常識

●強度近視患者が視覚障害を生じた場合,その原因が近視性脈絡膜新生血管によるものであれば,抗VEGF療法が有用である。

●視力良好な強度近視患者にも黄斑分離症があることがあるため,光干渉断層計(OCT)による定期検査が必要である。

網膜血管腫状増殖

著者: 髙橋寛二

ページ範囲:P.274 - P.281

ここが変わった!

以前の常識

●網膜血管腫状増殖(RAP)は網膜新生血管が主病態であり,難治性が極めて高い。

現在の常識

●網膜血管腫状増殖(RAP)の概念に脈絡膜新生血管(CNV)から生ずる病態が加わった。Type 3 neovascularizationとも呼ばれるようになった。

●抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)の登場によって,視力改善を狙うことができ,比較的長期間視力保持が可能な治療を行うことができるようになった。

ポリープ状脈絡膜血管症

著者: 丸子一朗

ページ範囲:P.282 - P.287

ここが変わった!

以前の常識

●ポリープ状脈絡膜血管症は加齢黄斑変性に含まれる特殊型である。

●予後良好例が多く,治療は光線力学的療法が最適である。

現在の常識

●ポリープ状脈絡膜血管症は日本人の加齢黄斑変性の最も主要な病型である。

●治療は光線力学的療法だけでなく,抗VEGF剤を併用することを考慮する。

黄斑浮腫に対する治療

著者: 辻川明孝

ページ範囲:P.288 - P.293

ここが変わった!

以前の常識

●網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫に対しては光凝固が第一選択である。

現在の常識

●トリアムシノロンの時代を経て,現在では黄斑浮腫の治療は抗VEGF薬の硝子体内注入が第一選択の時代になった。

加齢黄斑変性における抗VEGF療法

著者: 沢美喜

ページ範囲:P.294 - P.298

ここが変わった!

以前の常識

●加齢黄斑変性に対する内科的治療は光線力学療法である。

現在の常識

●第一選択は抗VEGF治療である。

●抗VEGF治療と光線力学療法の併用療法,あるいは光線力学療法単独も選択肢の1つとなる。

未熟児網膜症の治療

著者: 佐藤達彦 ,   日下俊次

ページ範囲:P.299 - P.301

ここが変わった!

以前の常識

●網膜剝離を伴う未熟児網膜症に対して硝子体手術を行う場合,血管活動性が沈静化してから手術を行う。

現在の常識

●現在ではstage 4A(黄斑外部分剝離)の段階で早期に手術を行う。

■網膜・硝子体手術手技

小切開硝子体手術

著者: 島田宏之

ページ範囲:P.302 - P.306

ここが変わった!

以前の常識

●硝子体カッターの切除効率・灌流量・器具の剛性が低く,眼内照明が暗く,手術合併症の問題もあったことから,小切開硝子体手術は硝子体手術の脇役であった。

●小切開硝子体手術の手術適応は,黄斑疾患,単純硝子体出血など比較的手術操作の単純な疾患に限られていた。

現在の常識

●硝子体カッターの切除効率・灌流量・器具の剛性が高まり,手術手技の進歩,新しい照明系や観察系の開発,手術合併症の減少によって小切開硝子体手術が硝子体手術の主役となった。

●小切開硝子体手術の手術適応は,裂孔原性網膜剝離,増殖糖尿病網膜症,増殖硝子体網膜症などに拡大した。

バックリング手術と20ゲージ硝子体手術の適応

著者: 上村昭典

ページ範囲:P.308 - P.312

ここが変わった!

以前の常識

●網膜剝離手術の基本は強膜バックリング手術である。

●重症網膜硝子体疾患は従来の20ゲージ硝子体手術で行う。

現在の常識

●後部硝子体剝離に伴う網膜剝離は硝子体手術のよい適応である。

●重症網膜硝子体疾患の多くは小切開硝子体手術でも対応可能である。

眼内組織染色法

著者: 江内田寛

ページ範囲:P.313 - P.317

ここが変わった!

以前の常識

●内境界膜の染色はインドシアニングリーン(ICG),硝子体の可視化にはトリアムシノロン(TA)によるものが一般的であった。

●日本国内には認可された染色剤は存在しなかった。

現在の常識

●現在は使用可能な染色剤の種類が増え,選択肢が増えたが,これまで報告されている手術補助剤については網膜に対する組織障害の報告がなされているものもあるため,十分に注意して選択,使用する必要がある。

●各種染色剤を使用した眼内染色法は有用である反面,いまだそのほとんどの染色剤は国内では未認可か,オフラベルでの使用を行っている現状であるため,所属施設の倫理委員会の承認や患者への十分なインフォームド・コンセントが必要である。

●各染色剤の特性を生かした組み合わせによる使用法も効果的で,より難治な疾患ほど手術補助剤使用の有用性は際だつ。

●眼内組織染色法が認知されてからかなり時間が経過しているが,認可を受けた生体染色剤はいまだ極めて少ない。

レーザー網膜光凝固の進歩

著者: 志村雅彦

ページ範囲:P.318 - P.323

ここが変わった!

以前の常識

●光凝固の照射数や照射パターンは経験がものをいう。

●糖尿病網膜症は無灌流領域がみられたら,とにかく早めに光凝固をしておく。

●静脈閉塞をみたら,とにかく光凝固をしておく。

現在の常識

●光凝固は新しい装置(マイクロダイオードレーザー,PASCAL®)や薬物併用によって簡便に安全に施行できる。

●糖尿病網膜症は黄斑浮腫の合併に注意しながら,トリアムシノロンや抗VEGF抗体を併用して光凝固を施行する。

●静脈閉塞は,黄斑浮腫があれば,まず抗VEGF抗体の硝子体内注射を施行する。無灌流領域が広範囲にみられない限り光凝固はしない。

スペシャルレクチャー

網膜硝子体疾患の疫学

著者: 安田美穂

ページ範囲:P.324 - P.325

はじめに

 厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の研究班によるわが国の視覚障害の原因疾患の報告では,1991年の第1位:糖尿病網膜症,第2位:白内障,第3位:緑内障,第4位:網膜色素変性,第5位:高度近視であったが,2005年では第1位:緑内障,第2位:糖尿病網膜症,第3位:網膜色素変性,第4位:黄斑変性,第5位:高度近視となり,網膜硝子体疾患が視覚障害の主原因を占めるようになってきた。

 進行した黄斑変性や糖尿病網膜症による視覚障害は不可逆性の場合も多く,少なくとも現時点においては予防的治療が最も重要であるものの,いまだ確立された予防法はない。予防的治療を確立するために,網膜硝子体疾患の現状を把握するとともに,危険因子や予防因子を同定し,早期発見,早期治療に努めることが重要である。

加齢黄斑変性と遺伝子

著者: 山城健児

ページ範囲:P.326 - P.328

はじめに

 2005年にCFH遺伝子が加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であることが発表されて以来,加齢黄斑変性に関する遺伝子研究が急速に進んできた。この5年程度の期間に,ゲノム研究によって加齢黄斑変性に対する治療がどのように変わろうとしてきたかを述べたい。

 近年行われてきているゲノム研究の方向性は大きく分けて3つに分けられる。1つはCFH以外の疾患感受性遺伝子を探すことであり,もう1つは見つかった感受性遺伝子の加齢黄斑変性病態における役割を研究することであり,残りの1つは治療の反応性や予後に関係のある遺伝子を探すことである。

人工網膜の現状

著者: 神田寛行 ,   不二門尚

ページ範囲:P.329 - P.330

はじめに

 人工網膜は,電子機器により人工的に視覚を再建することを目的とした埋込み型の医療機器である。将来の失明治療法として期待されており,現在,各国で研究開発が進められている。ここでは,人工網膜の仕組みおよび現在の開発状況について紹介する。

5 ぶどう膜炎・強膜炎・感染症

ページ範囲:P.331 - P.331

■ぶどう膜炎・強膜炎

ぶどう膜炎の網羅的診断法

著者: 杉田直

ページ範囲:P.332 - P.338

ここが変わった!

以前の常識

●眼内液を用いたぶどう膜炎の診断検査では,得られる検体はごく微量しかなく,PCRを行っても1~2項目が限度であり,また検査感度もよくなかった。

現在の常識

●このような微量検体でも迅速に網羅的に多くの項目の核酸を検査できるシステムが構築され,臨床応用された(マルチプレックスPCR)

●さらにその核酸の量を定量化する検査が出現した(リアルタイムPCR)。

●また,細菌全般,真菌全般を網羅するPCR検査も可能になった(ブロードレンジPCR)。

サルコイドーシスの診断と治療

著者: 石原麻美

ページ範囲:P.339 - P.343

ここが変わった!

以前の常識

●組織学的に類上皮細胞肉芽腫があれば組織診断群,1臓器にサルコイドーシスを疑う臨床所見があり,かつ検査所見を満たせば臨床診断群である。

●両側肺門リンパ節腫脹(BHL)は,全身反応を示す検査所見の項目には含まれていない。

現在の常識

●診断には2臓器以上にサルコイドーシス病変があることが必須である。

●2臓器にサルコイドーシスを疑う臨床所見があり,かつ検査所見を満たせば臨床診断群である。

●サルコイドーシスを疑う臨床所見は,各臓器病変の「診断の手引き」に記載されている。

●全身反応を示す検査所見の項目にBHLが加わった。

●「サルコイドーシスの治療に関する見解―2003」を参考に,ステロイド全身治療を行う。

Behçet病の診断と治療

著者: 南場研一

ページ範囲:P.344 - P.348

ここが変わった!

以前の常識

●Behçet病はぶどう膜炎の原因として最も多い疾患で,多くの患者が眼炎症発作を繰り返して失明に至る疾患である。

現在の常識

●Behçet病は減少傾向にあり,サルコイドーシス,原田病に次ぐ第3位のぶどう膜炎の原因疾患である。また,インフリキシマブ治療の登場により多くの患者において視力の維持が可能である。

原田病の診断と治療

著者: 中井慶

ページ範囲:P.350 - P.353

ここが変わった!

以前の常識

●原田病の臨床所見は典型的であり,治療は全身ステロイドパルス療法である。

現在の常識

●原田病の典型例は両眼の胞状漿液性網膜剝離であるが,非典型例として浅前房と視神経発赤を中心とする病型があり,その場合は診断が困難であり,治療開始が遅れる場合がある。

●治療は第1に全身ステロイド大量療法であるが,それができない場合にはケナコルトの後部Tenon囊内注射が用いられる。また,炎症が再発,遷延化した場合には,免疫抑制薬の併用も考慮に入れるべきである。

強膜炎の診断と治療

著者: 堀純子

ページ範囲:P.354 - P.357

ここが変わった!

以前の常識

●結膜下注射は禁忌である。

●非ステロイド系抗炎症薬は鎮痛目的で内服する。

●ステロイド薬の点眼が第一選択で,無効ならステロイド薬の内服が定番である。

現在の常識

●症例に応じて結膜下注射も有用である。

●非ステロイド系抗炎症薬は痛みがなくても消炎目的で内服する。

●ステロイド薬が無効でも,免疫抑制薬の点眼/内服,生物学的製剤の輸液療法など選択肢が多い。

ぶどう膜炎の外科的治療

著者: 齋藤航

ページ範囲:P.358 - P.363

ここが変わった!

以前の常識

●ぶどう膜炎に対する手術は,炎症をコントロールしたうえで必要最小限の症例に行うべきである。

現在の常識

●小切開手術の導入により術後炎症の軽減が期待できるため,ぶどう膜炎に対してより積極的に手術治療が行われるようになった。

ステロイド薬の投与と副作用への対処

著者: 丸山耕一

ページ範囲:P.364 - P.368

ここが変わった!

以前の常識

●ステロイド薬の全身投与に際しては,副作用対策として消化器系薬剤の併用を主としていた。

現在の常識

●ステロイド薬の3か月以上にわたる長期投与ではステロイド骨粗鬆症の予防的治療を行う。

●近年,耐糖能異常を有する患者は確実に増加しており,ステロイド薬の長期投与開始前に糖負荷試験など糖尿病精査の実施が推奨される。

●高血圧,脂質代謝異常の合併は心血管系疾患のリスクとなる。ステロイド薬の投与期間中は定期的な全身検査を行う。

スペシャルレクチャー

眼炎症疾患と免疫抑制薬

著者: 鈴木重成

ページ範囲:P.369 - P.371

はじめに

 今から5年ほど前,ぶどう膜炎全国疫学調査結果が報告1)された。わが国におけるぶどう膜炎の疾患構成が初めて示され,非感染性ぶどう膜炎の比率が高いことが明らかとなった。

 本稿では,非感染性ぶどう膜炎の代表的な治療薬である免疫抑制薬について,この5年間の話題を交えて解説する。

眼炎症疾患と生物製剤

著者: 慶野博

ページ範囲:P.372 - P.375

はじめに

 Behçet病はぶどう膜炎,口腔内アフタ,皮膚症状,外陰部潰瘍の4つの主症状を特徴とする全身性の難治性炎症性疾患である。これまでBehçet病網膜ぶどう膜炎における炎症発作予防の標準的な治療として,わが国では第一選択薬としてコルヒチンを用い,それでも発作を抑制できない場合はシクロスポリンへの切替え,あるいは追加投与を行ってきた。これらの薬剤は眼発作の予防にある一定の効果を上げてきたものの決定的な治療法とはいえず,より有効な治療薬の登場が待たれていた。そして,2007年1月,Behçet病難治性網膜ぶどう膜炎に対して生物学的製剤である抗ヒト腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-α抗体製剤インフリキシマブ(レミケード®)が世界に先駆けてわが国において承認された。

 本稿では自己免疫疾患領域で現在使用されているTNF-α阻害薬を中心とした生物学的製剤の特徴,Behçet病難治性網膜ぶどう膜炎に対する臨床効果,副作用について紹介する。

■感染症

ウイルス性虹彩毛様体炎

著者: 蕪城俊克

ページ範囲:P.376 - P.378

ここが変わった!

以前の常識

●サイトメガロウイルスは免疫不全患者ではサイトメガロウイルス網膜症の原因となるが,健常人のぶどう膜炎の原因となることはない。

現在の常識

●サイトメガロウイルスは健常人の前部ぶどう膜炎・角膜内皮炎の原因となる。これまでPosner-Schlossmann症候群と診断されていた症例の約半分はサイトメガロウイルスによる前部ぶどう膜炎である。

内因性眼内炎

著者: 肱岡邦明

ページ範囲:P.379 - P.383

ここが変わった!

以前の常識

●内因性眼内炎は日常診療で滅多に遭遇しない疾患であった。

●診断は眼内液の塗抹,培養,鏡検が中心であり,結果が出るまでに時間を要した。

現在の常識

●患者背景の変化や医療技術の進歩により内因性眼内炎は増加傾向にある。

●PCRの臨床応用で迅速な診断が可能になった。

後眼部寄生虫感染症

著者: 高瀬博

ページ範囲:P.384 - P.388

ここが変わった!

以前の常識

●トキソプラズマ,トキソカラなどの寄生虫感染による後眼部炎症性疾患は,臨床像,生活歴に加え,血清抗体価検査により総合的に診断する。

現在の常識

●上記に加えて,前房水,硝子体液などの眼内液検体を用いた抗体価測定やPCR法による遺伝子の検索が,後眼部寄生虫感染症の確定および除外診断のために重要なオプションとなった。

6 神経,外眼部,腫瘍などの疾患

ページ範囲:P.389 - P.389

■神経

視神経炎の分類・診断・治療

著者: 毛塚剛司

ページ範囲:P.390 - P.393

ここが変わった!

以前の常識

●視神経炎は単発のことが多く,繰り返す頻度は少ない。

●視神経炎は多発性硬化症などの全身疾患に伴うことが多く,副腎皮質ステロイド薬の大量療法で軽快する。

現在の常識

●視神経炎には,視神経脊髄型多発性硬化症に伴うタイプのほかに,抗アクアポリン-4抗体陽性の視神経炎があり,脊髄炎を伴うことが多い。また,抗アクアポリン-4抗体以外にも病因に関する新規抗体が発見されつつある。

●視神経の三次元画像解析を行うことにより,視神経炎の既往を推測できる。

●視神経炎の視野変化は一様ではなく,特に抗アクアポリン-4抗体陽性視神経炎では種々の視野異常をきたす。

●抗アクアポリン-4抗体陽性の視神経炎は,多くのケースにおいて副腎皮質ステロイド薬の投与に加えて,血漿交換療法が有効である。

視神経炎における抗アクアポリン-4抗体

著者: 植木智志

ページ範囲:P.394 - P.397

ここが変わった!

以前の常識

●特発性視神経炎の病態機序は,多発性硬化症でみられる脱髄に類似した機序と長い間考えられており,特異的な自己抗体については不明である。また,治療についてはステロイドパルス療法によって視機能回復までの期間を短縮できることが知られている。

現在の常識

●多発性硬化症の一型である視神経脊髄炎の特異的な自己抗体として発見された抗アクアポリン-4抗体が特発性視神経炎の約10%程度に陽性である(抗アクアポリン-4抗体陽性視神経炎)。この抗体が陽性であると再発が多く,視力予後が不良であるため,ステロイドパルス療法に血漿交換療法を加えるなど新たな治療プロトコールの確立が急務である。

脱髄性視神経炎に対する画像診断の意義

著者: 中馬秀樹

ページ範囲:P.398 - P.401

ここが変わった!

以前の常識

●脱髄性視神経炎に対する画像診断はMRIしかなく,その意義は将来多発性硬化症移行への予測因子のみであった。

現在の常識

●光干渉断層計(OCT)の出現により視神経炎による網膜神経節細胞からの神経線維の変化を評価できるようになった。

●MRIの撮像法の進歩により,脱髄と軸索損失の区別ができるようになった。

●より詳細な視神経炎の病態や視力,神経学的予後を探求するために研究が進められている。

強度近視性内斜視の手術療法

著者: 八子恵子

ページ範囲:P.402 - P.407

ここが変わった!

以前の常識

●強度近視を合併する後天内斜視は,眼球の拡大により外直筋が眼窩壁と強く接触して外転制限を起こし,二次的に内直筋の拘縮が起きて発症,やがて固定内斜視となる。

●強度近視を合併する固定内斜視の手術には,前後転術あるいは上下直筋移動術を行う。

現在の常識

●強度近視性内斜視の原因は,拡大した眼球が上直筋と外直筋の間で筋円錐外に脱臼することである。それにより,外直筋は外下方に,上直筋は内方に偏位し,やがて固定内斜視を呈する。

●診断にはMRI(冠状断)が有用である。

●手術は,上直筋と外直筋の筋腹を縫合することで,眼球を筋円錐内に収めることである。

●固定内斜視になる前の手術が望ましい。

機能弱視の診断と治療

著者: 林孝雄

ページ範囲:P.408 - P.414

ここが変わった!

以前の常識

●器質的変化がないものが機能弱視である。

●弱視眼を使うための近業は,「のの字拾い」や「お絵かき」などである。

現在の常識

●機能弱視といえども器質的変化が証明されてきている。

●弱視眼を使うための近業に,コンピューターによるバーチャルリアリティを利用した方法が取り入れられ始めている。

先天性眼振の手術療法

著者: 三村治

ページ範囲:P.415 - P.418

ここが変わった!

以前の常識

●先天眼振の手術では頭位は矯正できるが,視力は改善しない。

●先天眼振の手術は頭位異常の矯正が主であり,頭位異常のない眼振は手術適応とはならない。

現在の常識

●頭位異常のある先天眼振では,異常頭位の改善だけでなく,視力の改善もみられる。

●頭位異常のある眼振の手術にはさまざまな方法があるが,Anderson-Kestenbaum法やその変法が使いやすく効果的である。

●典型的な周期性交代性眼振では,水平4直筋大量後転術が劇的な効果を上げる。

●水平4直筋の切腱あるいは縫合だけでも眼振が減弱し,視機能が改善する可能性がある。

■外眼部疾患

甲状腺眼症における眼窩減圧術の適応

著者: 高橋靖弘 ,   柿﨑裕彦

ページ範囲:P.419 - P.423

ここが変わった!

以前の常識

●眼窩下壁や内側壁をターゲットとした眼窩減圧術が施行されてきたが,術後複視を高率に合併した。

●上記合併症のため,眼窩減圧術の適応は圧迫性視神経症や眼球突出に伴う角膜障害に限定されていた。

現在の常識

●術後複視の発生が非常に少ない外側深部眼窩減圧術や眼窩脂肪除去による減圧術が報告されて以降,眼窩減圧術の適応は眼球突出による醜形や眼窩内うっ血に伴う諸症状にも拡大した。

●外側深部眼窩減圧術単独または内側眼窩減圧術との併施,さらに眼窩脂肪除去を追加することによって,最小限の合併症で効果的な減圧が可能となった。

下眼瞼牽引筋腱膜縫着術

著者: 野田実香

ページ範囲:P.424 - P.429

ここが変わった!

以前の常識

●これまで老人性下眼瞼内反症の手術治療として,主にHotz変法やWheeler法などが行われ,簡便なわりに高い効果が得られていた。これらは前葉に着目した手術であった。

現在の常識

●老人性下眼瞼内反症の主な原因は,後葉である下眼瞼牽引筋腱膜の断裂であることが認識され,それを整復する治療であるJones法が合目的的であると考えられるようになった。ただし,従来の前葉を標的とした治療は現在でも広く行われており,Jones法の効果を高めるために併用されることも多い。

血清IgG4値とMikulicz病の関連

著者: 高比良雅之

ページ範囲:P.430 - P.435

ここが変わった!

以前の常識

●Mikulicz病は,涙腺,唾液腺の対称性腫脹をきたす病態を意味し,Sjögren症候群との異同が議論されていた。

現在の常識

●Mikulicz病では高IgG4血症を伴い,Sjögren症候群とは明らかに異なる。IgG4関連疾患は全身の多臓器にわたり,Mikulicz病はその部分症である。

●涙腺以外にも外眼筋腫脹や血管周囲腫瘤などのIgG4関連眼窩病変がみられる。眼窩リンパ増殖疾患の約2~3割はIgG4関連であると考えられる。

■腫瘍

眼内腫瘍の手術による組織診断

著者: 小島孚允

ページ範囲:P.436 - P.440

ここが変わった!

以前の常識

●眼内悪性腫瘍の手術は腫瘍細胞を播種する危惧があり,できる限り避けるべきである。

●眼内悪性リンパ腫は稀な疾患であり,原因不明の慢性ぶどう膜炎として漫然とステロイドで治療されている例が多かった。

現在の常識

●手術法の進歩により,悪性腫瘍の手術も以前より安全に行うことができるようになった。

●眼内悪性リンパ腫は近年増加傾向にある1)うえに悪性度が高く,早期治療のために硝子体手術による早期診断が極めて重要である。

スペシャルレクチャー

脈絡膜悪性黒色腫におけるモノソミー3

著者: 臼井嘉彦 ,   後藤浩 ,   西山千春

ページ範囲:P.441 - P.443

はじめに

 脈絡膜悪性黒色腫は欧米と比較してわが国では頻度は低いものの,中高年に多い眼内悪性腫瘍の代表的疾患である。生命予後については年齢,腫瘍サイズ,組織型,強膜浸潤の有無など多くの予後因子が報告されているが,近年ではこれらの予後因子に加え,遺伝子や染色体異常のパターンを考慮した総合的判断が重要となっている。

角結膜腫瘍におけるマイトマイシンC・インターフェロン局所投与

著者: 藤田陽子 ,   吉川洋

ページ範囲:P.444 - P.446

はじめに

 角結膜の悪性腫瘍の治療は従来手術治療が基本で,浸潤範囲が広い場合は切除後の眼表面再建に苦慮することがある。近年,マイトマイシンC(mitomycin C:MMC)や5-フルオロウラシル(5-fluorouracil:5-FU)などの抗癌剤,またインターフェロン(interferon:IFN)の点眼や病巣周囲注射が,角結膜上皮内新生物(corneal/conjunctival intraepithelial neoplasia:CIN)や結膜悪性黒色腫(conjunctival malignant melanoma:CMM)の治療のオプションとして注目されている1~4)

 ここでは筆者らがよく行っている治療法として,①CINに対するMMC点眼治療と②CMMに対するIFN治療を紹介する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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