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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻6号

2011年06月発行

雑誌目次

特集 第64回日本臨床眼科学会講演集(4) 原著

Bilateral pinhole法が診断に有効であった3例

著者: 長島弘明 ,   河上なつみ ,   山川良治 ,   児玉良太郎 ,   照屋健一

ページ範囲:P.799 - P.802

要約 目的:通常の視力検査表と検眼レンズセットで行うことができ,片眼の心因性視力障害や詐病の診断に有効とされているbilateral pinhole法を,片眼の視力障害3例に行った報告。症例:対象は,心因性視力低下が疑われた10歳男児と18歳女性,および詐病が疑われた44歳男性である。罹患眼の視力はそれぞれ0.2,手動弁,光覚弁で,諸検査の結果と視力とが一致しなかった。各症例とも通常の視力検査やトリック法では良好な視力が得られなかったが,bilateral pinhole法で良好な視力が得られ,診断が確定した。結論:原因不明の片眼性視力障害に対するbilateral pinhole法は,心因性視力障害または詐病の診断に有効であった。

若年者外傷性黄斑円孔の硝子体手術

著者: 井石涼 ,   鈴木三保子 ,   岩橋千春 ,   大浦嘉仁 ,   澤田浩作 ,   佐藤達彦 ,   坂東肇 ,   池田俊英 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.803 - P.807

要約 目的:若年者に生じた外傷性黄斑円孔に対して行った硝子体手術の成績の報告。対象:過去4年間に硝子体手術を行った外傷性黄斑円孔の7例7眼を検討した。全例が男性で,年齢は10~24歳(平均17歳)である。初診時から光干渉断層計で検査し,円孔縁に立ち上がりがあるものを手術の適応とした。術後6~12か月(平均10か月)の経過を追った。視力は小数視力で評価した。結果:術前視力は0.07~0.4(平均0.19)であり,術後の最終視力は0.4~1.2(平均0.85)で,有意に改善した(p=0.016)。5例(71%)は術後視力が1.0以上であった。手術の成績は,既報の自然閉鎖例と比較し有意に良好であった(p=0.022)。結論:若年者の外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術の術後視力は良好であった。

結核性ぶどう膜炎の診断におけるクォンティフェロンの有用性

著者: 澁谷悦子 ,   石原麻美 ,   竹尾悟 ,   竹内正樹 ,   安藤澄 ,   中村聡 ,   水木信久

ページ範囲:P.809 - P.815

要約 目的:眼所見,ツベルクリン皮内テスト,クォンティフェロン反応から結核性ぶどう膜炎と診断し,治療した2症例の報告。症例:症例は35歳と36歳の男性で,いずれも両眼の網膜血管炎として紹介され受診した。所見:矯正視力はいずれも1.2以上で,前眼部に炎症所見はなく,出血を伴う閉塞性網膜血管炎があった。蛍光眼底造影で広範な無血管領域があった。両症例ともツベルクリン皮内反応とクォンティフェロン反応が陽性であった。眼外結核はなかった。網膜光凝固と抗結核薬を経口投与した。1例では眼病変が寛解し,他の1例では網膜血管炎が遷延し,虹彩ルベオーシスが出現し,視力が左右とも0.1に低下した。結論:結核性ぶどう膜炎の補助診断法としてクォンティフェロン反応は有用であるが,総合的に判断することが必要である。

非接触型眼軸長測定装置を用いた小児の眼軸長変化の検討

著者: 土井洋 ,   中澤徹 ,   布施昇男 ,   加藤圭一

ページ範囲:P.817 - P.820

要約 目的:小児の眼軸長を非接触型眼軸長測定装置(IOLマスター)で測定し,6~12か月後の変化を年齢別に解析した結果の報告。対象と方法:視力低下を主訴として受診し,眼軸長を測定できた6~15歳の児童2,514人2,514眼と,6~12か月後に再測定ができた710眼を対象とした。これらの眼軸長とその変化を算出し,その結果をSpearman順位相関係数で解析した。結果:眼軸長と等価球面度数との間には負の相関があった(r=-0.64,p<0.0001)。眼軸長とその変化率とには,小学校低学年では正の相関があり(r=0.32,p=0.0002),小学校高学年(r=0.15,p=0.0025)と中学生(r=0.25,p=0.2376)には有意の相関がなかった。結論:小学校低学年者で視力低下があり,眼軸が長い症例では,急速に近視が進む可能性がある。

奈良県立医科大学付属病院における未熟児網膜症の統計学的検討

著者: 西智 ,   峯正志 ,   太田丈生 ,   松浦豊明 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.821 - P.826

要約 目的:未熟児網膜症の自験例の統計学的報告。対象と方法:2009年までの3年間に当院で診察した出生体重2,000g未満の新生児257症例を対象とし,未熟児網膜症の頻度と治療率,発症と治療に関係する重症化因子を検索した。結果:未熟児網膜症の発症は23.7%にあり,10.1%の症例が治療を必要とした。未熟児網膜症の発症例と非発症例との間には,在胎週数,出生体重,Apgarスコア1分値と5分値,脳室内出血につき,それぞれ有意差があった。結論:未熟児網膜症の発症と重症化には,網膜の未熟性とともに,脳血管の未熟性が関係していると推定される。

中枢神経系悪性リンパ腫眼内転移の確定診断に網膜下生検が有用であった1例

著者: 横田怜二 ,   星和栄 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.827 - P.832

要約 目的:網膜下組織の生検で中枢神経系悪性リンパ腫の眼内転移が確定できた症例の報告。症例:57歳女性が左眼視力低下で受診した。3年前に脳に原発した悪性リンパ腫と診断され,化学療法と放射線治療で寛解した。所見:矯正視力は右1.5,左0.5で,左眼後極部の耳側に融合する網膜下白濁斑があり,これを囲む網膜浮腫と脱色素斑があった。悪性リンパ腫転移の診断的治療としての化学療法で網膜病変は縮小したが再発した。確定診断のために初診から3か月後に硝子体手術を行い,網膜下の標本から異型リンパ球が得られた。免疫染色で脳病変と同様な表現型を示し,悪性リンパ腫の眼内転移と診断した。結論:網膜下細胞診により,悪性リンパ腫眼内転移の診断が確定した。

ネパールアイキャンプでの超音波乳化吸引術と水晶体囊外摘出術の合併症の比較

著者: 松山加耶子 ,   松岡雅人 ,   久保木香織 ,   畔満喜 ,   西村哲哉 ,   髙橋寛二 ,   松村美代 ,   内藤毅 ,   飽浦淳介

ページ範囲:P.833 - P.837

要約 目的:ネパールでのアイキャンプで行った3種類の白内障手術の合併症の比較。対象と方法:2010年3月の3日間に,65例65眼に白内障手術を行い,1か月後に再診をした。水晶体囊外摘出術を5眼,小切開水晶体囊外摘出術を32眼,水晶体乳化吸引術を28眼に行った。結果:術中合併症が3眼に生じたが,全例に眼内レンズを挿入できた。1か月後の再診には,48名48眼が来院した。水晶体囊外摘出術を行った1眼に虹彩脱出,小切開水晶体囊外摘出術を行った1眼に眼内炎があった。結論:ネパールでのアイキャンプで水晶体乳化吸引術が可能であった。合併症の防止には医療設備の充実と患者教育が必要であり,今後の継続的な医療支援が重要な課題である。

トーリック眼内レンズ挿入眼の術後短期成績

著者: 渡辺一彦 ,   渡辺このみ ,   梅澤さゆり ,   西島ちひろ ,   田原友香里

ページ範囲:P.839 - P.842

要約 目的:角膜乱視がある白内障に手術を行い,トーリック眼内レンズを挿入した短期成績の報告。対象と方法:48例70眼にトーリック眼内レンズSN6AT3,4,5を挿入し,3か月以上の経過を追った。結果:術前の角膜乱視は,SN6AT3挿入の24眼では0.96±0.47D,AT4挿入の26眼では1.25±0.35D,AT5挿入の20眼では2.28±0.61Dであり,術後はそれぞれ1.16±0.53D,1.35±0.42D,2.2±0.91Dで変化がなかった。術後の自覚的屈折はそれぞれ0.64±0.57D,0.76±0.52D,1.05±0.71Dで,いずれも術後の角膜乱視よりも有意に小さかった。結論:トーリック眼内レンズには角膜乱視の矯正効果があり,白内障術後の視機能の改善に有効と思われる。

多焦点眼内レンズの片眼挿入例と両眼挿入例の比較検討

著者: 樋口亮太郎 ,   平田菜穂子 ,   竹内正樹

ページ範囲:P.843 - P.846

要約 目的:片眼白内障手術症例に多焦点眼内レンズを挿入し両眼挿入例と比較検討すること。対象と方法:当院で多焦点眼内レンズを挿入された白内障症例17例28眼(男性8例12眼,女性9例16眼)。僚眼健常な片眼症例6例6眼(片眼群)と,両眼症例11例22眼(両眼群)について,患者背景,裸眼遠方,近方視力の改善およびハロー,グレアの有無と程度,満足度について検討した。結果:片眼群は両眼群より若年者が多かった(平均年齢が片眼群48.5±13.9歳,両眼群69.8±9.2歳)。片術後の裸眼遠方,近方視力は全例で向上した。ハロー,グレアは両群とも80%以上みられたが,日常気になると答えた症例はなかった。Waxy visionは両群ともにみられなかった。満足度は,両群とも全員が満足で,不満例はなかった。結論:片眼への多焦点眼内レンズ挿入は両眼挿入と比べ遜色ない患者満足が得られることが示された。

スペクトラルドメイン光干渉断層計による黄斑部網膜神経節細胞層複合体厚測定における白内障の影響

著者: 中谷雄介 ,   大久保真司 ,   武田久 ,   東出朋巳 ,   杉山和久

ページ範囲:P.847 - P.851

要約 目的:黄斑部の網膜神経節細胞層複合体厚(GCC)の光干渉断層計(OCT)による測定値の,水晶体の有無による違いの報告。対象と方法:スペクトラルドメインOCTで,白内障手術前後でのシグナル強度(SSI)とGCC厚を22眼で測定した。平均年齢は75.2歳,術前の平均視力は0.5±0.2であった。結果:GCCの平均厚は術前82.1μm,術後98.0μmで,有意差があった(p<0.0001)。術前後のSSIの差と水晶体混濁指数との間には有意差があった(r=0.47,p<0.02)。SSIとGCCそれぞれの術前後の差には有意な相関があった(r=0.70,p<0.0001)。結論:スペクトラルドメインOCTで測定したGCC厚とSSIは,白内障眼では小さい値が得られる。

網膜中心動脈閉塞症の発症9か月後に出現した滲出型加齢黄斑変性の1例

著者: 小笠原幹英 ,   林孝彰 ,   久保寛之 ,   常岡寛

ページ範囲:P.853 - P.858

要約 目的:網膜中心動脈閉塞症の発症後に滲出型加齢黄斑変性が生じた症例の報告。症例:80歳男性が左眼に視力低下が突発して受診した。心筋梗塞が12年前,脳梗塞が7年前にあった。所見:矯正視力は右1.5,左手動弁で,左眼に桜実紅斑があった。蛍光眼底造影で網膜動脈の造影開始が著しく遅延し,網膜中心動脈閉塞症と診断した。治療により11日後の左眼視力は40cm指数弁になった。その9か月後に黄斑出血が左眼に生じ,加齢黄斑変性と診断した。硝子体出血が頻発し,ベバシズマブの硝子体注射を行った。22か月後に黄斑は線維性瘢痕病巣になった。結論:網膜中心動脈閉塞症の既往がある眼に活動性が高い加齢黄斑変性が発症することがある。

近視性脈絡膜新生血管に対する治療後に黄斑円孔網膜剝離が生じた2例

著者: 櫻井寿也 ,   田野良太郎 ,   坂本理之 ,   草場喜一郎 ,   宮浦卓 ,   福岡佐知子 ,   高岡源 ,   竹中久 ,   真野富也

ページ範囲:P.859 - P.862

要約 目的:強度近視に併発した脈絡膜新生血管の治療後に黄斑円孔網膜剝離が発症した2症例の報告。症例:いずれも女性で,年齢は70歳と61歳,眼軸長はそれぞれ28.82mmと29.61mmであった。それぞれ片眼の黄斑部に脈絡膜新生血管があった。1例には光線力学療法を行い,矯正視力が0.2から0.4に上昇したが,3年後に黄斑円孔網膜剝離が発症した。他の1例にはベバシズマブの硝子体注入を3回行い,矯正視力が0.1から0.2に改善したが,3回目の硝子体注入から3か月後に黄斑円孔網膜剝離が発症した。両症例とも硝子体手術で復位が得られた。結論:強度近視眼での脈絡膜新生血管の治療では,新生血管の縮小または拡大による黄斑部の牽引により,黄斑円孔が生じる可能性がある。

レーザースペックルフローグラフィを用いた光線力学療法後の血流解析

著者: 新田文彦 ,   國方彦志 ,   中澤徹 ,   鬼怒川次郎 ,   安田正幸 ,   阿部俊明

ページ範囲:P.863 - P.868

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症を光線力学療法で治療した後の脈絡膜血流の変化の報告。対象と方法:インドシアニングリーン蛍光眼底造影でポリープ状脈絡膜血管症と診断された6例6眼を検索した。全例が男性で,年齢は62~83歳(平均74歳)である。レーザースペックルフローグラフィで眼底の病変部とその他の照射部での脈絡膜血流を,照射前と1週間後に測定した。結果:光線力学療法の1週間後の脈絡膜血流は,病変部では平均44.3±33.1%,その他の照射部では40.2±25.5%減少し,いずれも有意であった(p=0.028)。結論:ポリープ状脈絡膜血管症に対する光線力学療法の1週間後に,病変部とその他の照射部での脈絡膜血流が有意に減少した。

Coats病に対するベバシズマブ硝子体内注射を併用した網膜光凝固

著者: 藤谷顕雄 ,   齋藤航 ,   石田晋

ページ範囲:P.869 - P.873

要約 目的:Coats病に対して網膜光凝固とベバシズマブ硝子体注射を併用した3症例の報告。症例:症例は19歳女性,20歳男性,37歳男性で,いずれも片眼性でstage 2AのCoats病である。罹患眼の矯正視力はそれぞれ1.5,0.15,1.5であった。視力不良例には黄斑浮腫があった。全例にベバシズマブ硝子体注射後,網膜異常血管に低出力の光凝固を行った。黄斑浮腫と硬性白斑は消失し,全例で1.0以上の矯正視力が得られた。治療後6~28か月後の現在まで再発はない。結論:ベバシズマブ硝子体注射と網膜光凝固の併用療法は,早期のCoats病に対し有効であった。

ガンシクロビルの点滴と点眼が奏効したサイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例

著者: 猪俣武範 ,   武田淳史 ,   本田理峰 ,   松井麻紀 ,   土至田宏 ,   太田俊彦 ,   小池道明 ,   矢田清身 ,   村上晶

ページ範囲:P.875 - P.879

要約 目的:サイトメガロウイルスによる角膜内皮炎にガンシクロビルの点滴と点眼が奏効した症例の報告。症例:45歳男性が3か月前からの左眼角膜の混濁で紹介され受診した。15か月前から左眼に眼圧上昇があり,Posner-Schlossman症候群と診断されていた。所見:矯正視力は右1.2,左0.9で,眼圧は右13mmHg,左30mmHgであった。左眼には上方から瞳孔領にかけて角膜浮腫があり,これに一致して角膜後面沈着物があった。前房水からPCR法でサイトメガロウイルスのDNAが検出され,サイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した。ガンシクロビルの点滴と点眼で角膜混濁は2週間後に軽快し,眼圧は正常化した。結論:サイトメガロウイルス角膜内皮炎では,前房水のPCR法による検査が有効で,ガンシクロビルの点滴と点眼が奏効することを示す症例である。

急性網膜壊死に伴う牽引性網膜剝離の治療に光干渉断層計が有用であった1例

著者: 岩見久司 ,   山本学 ,   河野剛也 ,   戒田真由美 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.881 - P.884

要約 目的:急性網膜壊死に続発した網膜剝離の治療にスペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)が有用であった症例の報告。症例:17歳男性が右眼の充血と眼痛で受診した。矯正視力は左右とも1.2であり,右眼に前眼部の炎症所見と周辺部網膜の白濁と出血,乳頭の発赤があった。急性網膜壊死として抗ウイルス薬と消炎薬を投与したが,硝子体液混濁が増強し,1か月後に硝子体手術を行った。その3週間後に乳頭黄斑領域に網膜剝離が生じ,SD-OCTで乳頭前のWeiss輪による牽引が原因と判断した。硝子体手術で牽引を解除し,網膜剝離は消失した。結論:SD-OCTによる所見は,急性網膜壊死への硝子体手術後に続発した増殖性病変の病態診断に有用であった。

早期治療で改善した急性外眼筋麻痺を伴った無疱疹性眼部帯状疱疹の2例

著者: 丸本達也 ,   小野浩一 ,   平塚義宗 ,   村上晶

ページ範囲:P.885 - P.890

要約 目的:急性外眼筋麻痺を伴う疱疹のない眼部帯状疱疹2症例の報告。症例:症例は66歳女性と67歳男性で,それぞれ症状自覚から2日後と20日後に受診した。所見:1例には激しい右顔面痛と右眼の内転・上転・下転制限があり,上下複視があった。他の1例には左眼外転制限と複視があった。両症例とも眼窩上孔Valleix圧痛点に圧痛があり,病歴と問診から無疱疹性帯状疱疹と診断した。1例にはアシクロビル,他の1例にはバラシクロビルを全身投与した。両症例とも約1週間後に眼球運動制限と複視が消失した。結論:急性外眼筋麻痺があり,眼窩上孔Valleix圧痛点に圧痛があり,病歴と問診から帯状疱疹ウイルスの関与が疑われるときには,抗ウイルス薬の早期投与が奏効することがある。

東北大学病院におけるぶどう膜炎の臨床統計

著者: 大友孝昭 ,   阿部俊明 ,   劉孟林 ,   渡邉亮 ,   津田聡 ,   岡村知世子 ,   千葉真生 ,   布施昇男

ページ範囲:P.891 - P.894

要約 目的:過去1年間に受診したぶどう膜炎患者の統計の報告。対象と方法:2010年3月までの1年間に東北大学病院眼科を初診したぶどう膜炎患者171例を病型別に解析した。結果:男性81例,女性90例で,平均年齢は48歳であり,男女間に年齢の差はなかった。128例(75%)で病型分類が可能で,43例(25%)は分類不能であった。サルコイドーシスが23例(14%)で最も多く,原田病が13例(8%),ヘルペス性虹彩毛様体炎が13例(8%),Behçet病が8例(5%)で続いた。1965年からの3年間,1985年からの3年間,1993年からの9年間の当科での結果と比較し,Behçet病とトキソプラズマ病が有意に減少していた。結論:ぶどう膜炎ではサルコイドーシスが最も多く,Behçet病が減少している。

強膜開窓術後23年経過し再発したぶどう膜滲出の1例

著者: 岡村知世子 ,   國方彦志 ,   阿部俊明 ,   中澤満 ,   布施昇男

ページ範囲:P.895 - P.900

要約 目的:小眼球に伴うぶどう膜滲出(uveal effusion)に対して強膜開窓術が行われ,その23年後にぶどう膜滲出が再発した症例の報告。症例:70歳男性が右眼視力低下で受診した。生来視力が不良であり,24年前に右眼,18年前に左眼にぶどう膜滲出があり,いずれも4象限への強膜開窓術で網膜が復位した。所見:+14Dの矯正で,視力は右0.09,左0.1であった。眼軸長は左右眼とも約17mmで,右眼の下方眼底に非裂孔原性胞状網膜剝離があった。ぶどう膜滲出の再発と診断し,24年前と同じ4象限に,3mm×3mmの拡大強膜全層切除を行った。3か月後に網膜は復位した。結論:真性小眼球に生じたぶどう膜滲出に対し強膜開窓術が有効であるが,長期間後に再発することがある。これに対し,強膜開窓術は選択肢の1つである。

特発性黄斑上膜が経過中に自然剝離した小児の1例

著者: 藤田太一 ,   根岸貴志 ,   澤田麻友 ,   彦谷明子 ,   堀田喜裕 ,   佐藤美保

ページ範囲:P.901 - P.905

要約 目的:特発性黄斑上膜が自然剝離した小児例の報告。症例:6歳9か月の女児が学校健診で左眼視力低下を指摘されて受診した。矯正視力は右1.2,左0.1で,左眼黄斑部に線維性の増殖組織があった。光干渉断層計(OCT)でこれに相当する網膜の外顆粒層にびまん性の肥厚があった。梅毒とトキソプラズマを含む諸検査は陰性であった。初診から1年後に黄斑上膜が自然剝離し,OCTで網膜厚が減少していた。屈折矯正と健眼遮蔽を行い,8歳1か月のとき0.15の左眼視力が得られた。結論:特発性黄斑上膜は自然剝離することがあるが,本症例はいままで報告されたなかでは最年少である。

光干渉断層計を施行した真性小眼球症児の1例

著者: 鈴木恵奈 ,   中塚秀司 ,   佐川宏恵 ,   伊藤博隆 ,   杢野久美子

ページ範囲:P.907 - P.909

要約 目的:真性小眼球症児に行った光干渉断層計による所見の報告。症例:母親が視力不良を疑い,6歳女児が受診した。所見:矯正視力は右0.08,左0.09で,左右眼とも+18.25Dの遠視があった。角膜径は左右とも10.0mmで,眼軸長は右15.35mm,左15.33mmであった。両眼の眼底に偽乳頭浮腫と黄斑反射の消失があった。光干渉断層計による平均網膜厚は右380μm,左386μmで,平均黄斑部厚は右376μm,左369μmであった。眼鏡を装用させ,2年後に左右眼とも0.6の矯正視力が得られた。結論:本症例では,光干渉断層計により網膜厚と黄斑部網膜厚の増加,および浅い中心窩陥凹があり,成人の真性小眼球症と同様であった。

2種類のマイクロケラトームによるLASIK手術成績の比較

著者: 福永崇樹 ,   坪井俊児

ページ範囲:P.911 - P.914

要約 目的:LASIKに用いる2種類のマイクロケラトームの成績の比較。対象と方法:過去22か月間にLASIKを行った187眼を対象とした。95眼にはM2 Single Use 90®(M2),92眼には薄い角膜フラップを作製できるOne Use-Plus SBK®(SBK)を用いた。これら2群について,術後視力,角膜フラップ厚と残存ベッド厚,高次収差を検討した。結果:術後の裸眼視力は,軽度近視ではM2群,高度近視ではSBK群が良好で,中等度近視では両群間に差がなかった。角膜フラップ厚は,SBK群では110±11μm,M2群では128±13μmで,前者が後者よりも薄く,残存ベッド厚と高次収差については両群間に差がなかった。結論:LASIKでSBKを用いると,M2よりも薄い角膜フラップを作製できた。

角膜屈折矯正手術後に眼位が増悪し斜視手術を施行した2例

著者: 伊丹優子 ,   田中明子 ,   山下牧子 ,   望月學

ページ範囲:P.915 - P.918

要約 目的:角膜屈折矯正手術後に斜視が増悪した2症例の報告。症例:症例はそれぞれ21歳女性と43歳男性で,1例は1年前にLASIK,他の1例は16年前に不同視に対し,一眼に屈折矯正角膜切除術(PRK)を受けた。1例では手術後に両眼が遠視化し,術前からあった間欠性内斜視が恒常化して斜視手術を必要とした。他の1例には近視性不同視と間欠性外斜視があった。眼精疲労を伴う斜位近視と診断し,斜視手術を行った。結論:角膜屈折矯正手術では術後に眼位または両眼視機能が増悪することがあり,術前に眼位と両眼視機能を評価し,複視を含む病歴聴取が必要である。

眼瞼・結膜悪性腫瘍における眼球非温存症例の検討

著者: 鶴田奈津子 ,   久保田敏信 ,   廣瀬浩士

ページ範囲:P.919 - P.923

要約 目的:眼瞼または結膜の悪性腫瘍により,手術不能であるか眼窩内容除去術を必要とした症例の報告。対象と方法:過去9年間に経験した眼瞼または結膜を発生母地とする悪性腫瘍108例108眼を検索した。結果:組織学的診断は,脂腺癌46眼,基底細胞癌34眼,扁平上皮癌15眼,悪性黒色腫10眼,Merkel細胞癌2眼,ムチン産生癌1眼であった。6眼(5.6%)には眼窩内容除去術が行われ,3眼(2.8%)では手術ができなかった。手術不能3眼の内訳は,手術拒否1眼,全身状態不良1眼,重度の認知症1眼であった。結論:眼瞼または結膜の悪性腫瘍の症例の約8%では眼球温存ができなかった。

涙腺多形腺腫再発例の検討

著者: 藤田陽子 ,   吉川洋 ,   田中栄治 ,   朝隈朋子 ,   川野庸一 ,   名取良弘 ,   大西克尚 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.925 - P.927

要約 目的:涙腺の多形腺腫の再発例と悪性転化例の特徴の報告。対象と方法:2010年までの39年間に当科で手術した涙腺多形腺腫41例を検索した。結果:総計41例のうち初回手術例は男性14例,女性22例の36例で,年齢は16~83歳(平均49歳)である。良性再発は6例で平均初発年齢は39.7歳であり,悪性転化は3例で平均発症年齢は24.3歳であった。無再発例に比べ,良性再発と悪性転化は若年であった。無再発は1:2で女性に多く,悪性転化は2:1で男性に多かった。結論:涙腺の多形腺腫では,再発または悪性化は男性かつ若年者に多い。

若年者に認めた両眼の結膜MALTリンパ腫の1例

著者: 髙野晶子 ,   山田麻里 ,   玉井一司 ,   横尾夏代

ページ範囲:P.929 - P.934

要約 目的:若年成人の両眼に発症した結膜のMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫の報告。症例:28歳女性が3か月前からの両眼結膜下の腫瘤で受診した。2年前から右慢性涙囊炎があり,ガチフロキサシンの点眼をしていた。所見:右眼には上方と下方の瞼結膜,左眼には鼻側の結膜下に表面平滑なサーモンピンク色の腫瘤があった。両眼に生検を行い,病理組織学,免疫組織学,フローサイトメトリー,遺伝子再構成などからB細胞性のMALTリンパ腫と診断した。腫瘤は球結膜下に限局し,stage IAと判断された。左右眼それぞれ計30Gyの電子線照射で腫瘤は消失し,以後12か月後の現在まで再発はない。結論:結膜に原発するMALTリンパ腫は50歳以上に多いとされるが,20歳代でも生じることを本症例は示している。放射線照射が有効であった。

12年前の外傷が起因と思われる下眼瞼に生じた腫瘤の1例

著者: 新井英介 ,   田村薫 ,   工藤大介 ,   小倉加奈子 ,   松本俊二 ,   横山利幸 ,   沖坂重邦 ,   村上晶

ページ範囲:P.935 - P.937

要約 目的:下眼瞼に異物と肉芽腫が発見され,12年前の外傷が原因と推定された症例の報告。症例:33歳男性が2か月前から増大した右眼の下眼瞼の腫瘤で受診した。所見:下眼瞼の腫瘤は,磁気共鳴画像検査(MRI)で8mm大の結節があり,粉瘤が疑われた。1か月半後に2cm×1cm大の腫瘤を摘出した。病理学的に異物があり,肉芽腫と診断された。巨細胞はなかった。12年前に喧嘩で右眼の下眼瞼に裂傷があり,縫合を2針受けていた。結論:非生物性の異物が組織中に残存すると,刺激性物質として周囲に層状炎症反応を生じ,異物巨細胞による貪食像がない非典型的な異物肉芽腫を形成することがある。本症例は過去の外傷による異物刺入が原因であると推定される。

球結膜下にみられたgiant cell angiofibromaの1例

著者: 頼田圭輔 ,   鶴丸修士 ,   森光洋介 ,   山川良治

ページ範囲:P.939 - P.943

要約 目的:球結膜下に生じた巨細胞血管線維腫(giant cell angiofibroma)の症例の報告。症例:51歳男性が3年前からの左眼結膜の腫脹と充血で受診した。所見:左眼鼻側の球結膜下に2cm×3cmの大きさの囊胞状で軟らかい腫瘤があった。6か月間に変化がなく,診断的治療として腫瘤を単純切除した。病理組織学的に,紡錘形細胞の増殖と多核の巨細胞からなり,腫瘍細胞による偽血管腔形成があった。免疫組織化学で,これらの腫瘍細胞はCD34(+),CD99(+),bcl-2(+)であり,巨細胞血管線維腫と診断した。18か月後の現在まで再発はない。結論:巨細胞血管線維腫が球結膜下に生じた報告は少なく,ごく稀な症例であると考えられる。良性腫瘍とされているが,再発の報告があり注意を要する。

急性涙腺炎を初発症状とした眼部帯状疱疹の1例

著者: 横山千秋 ,   森祥平 ,   鎌田麻子 ,   加瀬諭 ,   石田晋

ページ範囲:P.945 - P.948

要約 目的:急性涙腺炎を初発症状とした眼部帯状疱疹の1例の報告。症例:82歳女性が2日前からの右眼周囲の痛みで受診した。圧痛を伴う右眼瞼の発赤と腫脹があり,皮疹はなかった。磁気共鳴画像検査(MRI)の所見から急性涙腺炎を疑い,抗生物質を点滴した。4日後に涙腺腫脹が増悪し,その2日後に右角膜上皮に点状混濁と前房炎症が生じ,抗ウイルス薬治療を開始した。さらに2日後に右前額部に痂皮を伴う皮疹とびらんが生じ,帯状疱疹と診断した。初診から15日後に涙腺炎,前房の炎症,皮疹は寛解した。結論:典型的な皮疹や眼病変がなく,抗生物質に反応しない急性涙腺炎では,稀ではあるが眼部帯状疱疹による可能性がある。

Eagle涙道チューブ使用例の検討

著者: 五嶋摩理 ,   杉原紀子 ,   松原正男

ページ範囲:P.949 - P.952

要約 目的:涙点プラグつき単管型涙道ステントであるEagle涙道チューブの使用経験の報告。対象と方法:涙小管閉塞がある女性7例7側を対象とした。年齢は40~76歳(平均64歳)である。上下の涙小管へのステント留置は困難であった。鼻涙管閉塞が5例,涙囊炎が2例にあった。結果:Eagle涙道チューブの留置期間は1~12か月(平均6か月)であり,全例で涙管の通水が可能になった。抜去の1か月後に涙囊炎による再閉塞が1例,涙点の肉芽形成,プラグの偏位,通水時のプラグ埋没が各1例にあった。結論:Eagle涙道チューブは涙小管閉塞に対するステントとして有効であるが,通水時のプラグ埋没などに留意する必要がある。

専門別研究会

オキュラーサーフェス研究会―日本眼科アレルギー研究会

著者: 深川和己

ページ範囲:P.954 - P.956

 第64回日本臨床眼科学会において,ドライアイ研究会と日本眼科アレルギー研究会の共催により,専門別研究会「オキュラーサーフェス研究会」が開催された。今回は,より臨床にフォーカスしたテーマを設定した。眼科テーマセッションは「オキュラーサーフェス疾患とQOL」,他科テーマセッションは「知っていると役立つ関連他科疾患」であった。さらに,アワードでは,例年のドライアイアワードに加え,今回新設された日本眼科アレルギー研究会最優秀賞の記念講演も行われた。

 ドライアイとアレルギー性結膜疾患という,同じオキュラーサーフェスを舞台とした疾患で,お互いが影響しあう疾患を研究する2つの研究会によって,非常に有意義な発表,ディスカッションが行われた。

連載 今月の話題

網膜硝子体癒着と加齢黄斑変性

著者: 柳靖雄

ページ範囲:P.783 - P.789

 網膜硝子体癒着はさまざまな網膜疾患に関与しており,それらの疾患では,治療のために網膜硝子体牽引の解除が行われている。近年,網膜硝子体癒着と加齢黄斑変性との関連が注目されるようになり,いくつかの事実が明らかになってきた。網膜硝子体癒着の解除が加齢黄斑変性の病態を改善するのではないかと期待されている。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・16

IFN

著者: 山木邦比古

ページ範囲:P.790 - P.792

 インターフェロン(interferon:IFN)はファミリーを形成し,大別するとタイプⅠ,タイプⅡ,IFN様サイトカインがある。ヒトではタイプⅠは5つのクラスからなり,IFN-α,IFN-β,IFN-ε,IFN-κ,IFN-ωから,タイプⅡはIFN-γのみ,IFN様サイトカインはIL-28A,IL-28B,IL29からなる。

つけよう! 神経眼科力・15

視神経炎と虚血性視神経症はこうして見分ける

著者: 三村治

ページ範囲:P.794 - P.798

突発する視力障害では視神経炎と虚血性視神経症を鑑別診断に

 突然重篤な視力障害で発症する眼疾患は数多くみられるが,なかでも視神経炎と虚血性視神経症(ischemic optic neuropathy:ION)は高率に中心視力を侵すため,必ず鑑別診断に入れる必要がある。両者とも視神経を障害するため,対光反射が減弱し〔片眼性なら相対的求心性瞳孔障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)が陽性となり〕,限界フリッカ(CFF)値が低下する。ただ,視神経炎と虚血性視神経症はその臨床像が似ているために,しばしば誤診されることがある。

 これまでは両者を正確に鑑別しなくとも,治療に際して特に問題になることはないとされていた。しかし,視神経炎の中に,従来の視神経炎患者よりはるかに高齢の患者にみられ,しかも従来の治療では予後不良となる抗アクアポリン4(AQ-4)抗体陽性視神経炎の存在が明らかになった現在,この両者を誤診することがあってはならない。

『眼科新書』現代語訳

その3

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.960 - P.971

 『眼科新書』第1巻では,序文,眼球略説(構造の概略)と眼球略図のあと,眉毛,睫毛,眼瞼に生じる36疾患が取り上げられている。

 これら36疾患についての本文を,以下に現代語に翻訳する。なお,病名の前に#3などとある数字は,ラテン語またはオランダ語の原著にはない。これはドイツ語版に付けられた番号で,便宜のために用いた。角カッコ[ ]で囲まれた部分は『眼科新書』にはなく,追加した注釈である。

今月の表紙

軟性ドルーゼン

著者: 松橋さやか ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.793 - P.793

 71歳,女性。2010年5月,歪視を訴え近医を受診,両眼の加齢黄斑変性を疑われ,当科を紹介され受診した。1日約20本の喫煙者である。視力は右0.3(0.5),左0.5(矯正不能)で,眼圧は右14mmHg,左13mmHg,両眼ともに前眼部や中間透光体に異常はなかった。両眼黄斑部の軟性ドルーゼンの集簇に加え,左眼に黄斑を含む約1乳頭径の網膜色素上皮剝離を認めた。フルオレセイン,インドシアニングリーンのいずれの蛍光造影でも,両眼ともに脈絡膜新生血管は描出されなかった。

 散瞳薬使用下で,ニデック社製共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡F-10を使用し,IR(赤外)レーザー光のAP7(ダークフィールドLモード)で撮影した。影がより鮮明となるよう,通常撮影時(AP2:絞り開口状態2.5mm径)よりもコントラストを高くした。

書評

ティアニー先生の臨床入門

著者: 今井裕一

ページ範囲:P.807 - P.807

 『ティアニー先生の臨床入門』が,前作の『ティアニー先生の診断入門』の続編として,ティアニー先生と松村正巳先生の共著で出版された。前作と同様に,名医の診断へのアプローチがわかりやすく解説されている。実は,英語のタイトルは,“Principles of Dr. Tierney's medical practice”であるので,「ティアニー先生の臨床現場での原則」とでもいうべき内容である。

 医師は,病態が理解できないいわゆる「むずかしい患者」「わけのわからない患者」を目の前にしたときにどのように問題を解決するのであろうか? その解決方法にのっとって,経験が蓄積されれば,比較的短期間に名医あるいは良医になれるはずである。残念ながらハリソンのテキストブックを精読しても,UpToDateをいくら調べても,PubMedでいくら検索しても答えは得られない。本書は,ずばり,その解答を示している。

やさしい目で きびしい目で・138

私のお手本

著者: 五藤智子

ページ範囲:P.959 - P.959

 私は愛媛県の山の中の小さな町で生まれ,高校までそこで育ちました。実家は貧しい自営業でしたから,父も母も忙しく働いていました。母は隣り町からお嫁に来たその日から,やったこともない家業を手伝い覚え,すべてを家に捧げて子供を3人育て上げました。母は自分のことを自慢することは一度もありませんが,母の実家に行くと母がとても優秀で運動でも頭角を現すような活発な女性であったと自然に知ることになりました。当時は女性が進学することはなく,地元に就職してお見合いで父と結婚したのです。

 思春期の私は,決して恵まれているとは言えない,生活の中で埋もれているようにみえた母にやりきれず腹を立てていました。母のような聡明な人が,父に怒鳴られたり,近所の奥さまに嫌味を言われたり……,それでも言い返すこともなくいつでも何もなかったかのようにカラカラと笑っている母が,理解できませんでした。プライドがないように思えていたのです。今自分が一人の女性として,家庭をもち仕事もし,多くの人と関わり生きてきて,母がどんなに素晴らしい女性であったか,自分がその足元にも及ばないことを思い知らされます。

臨床報告

眼窩筋炎の治療に血清補体価測定が有用であった1例

著者: 柘植千佳 ,   高井佳子 ,   鵜飼喜世子 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.975 - P.980

要約 目的:眼窩筋炎の治療に血清補体価が有用であった1症例の報告。症例:62歳男性が眼痛で受診した。霧視と視野障害を訴え,名古屋大学病院で検査を行っていたが,訴えに見合う所見は得られていなかった。糖尿病網膜症に対して右眼の光凝固,両眼の白内障手術の既往があった。所見:矯正視力は両眼とも0.03で,糖尿病網膜症があったが,中心窩厚は正常範囲にあった。視覚障害の一部は心因性であることが示唆された。眼痛時,結膜充血,浮腫,眼球運動障害を呈し,画像検査で外眼筋の肥厚があったため,眼窩筋炎と診断した。プレドニゾロン内服で眼痛が消失し,減量で再発した。シクロスポリンAを併用し,プレドニゾロンを減量した。訴えが誇張される傾向があったため血清補体価(CH50)から炎症の状態を確認した。CH50の値はプレドニゾロンの量,痛みの変動と同期した。結論:CH50は,眼窩筋炎の活動性の推定とプレドニゾロンの減量の指針として有用であった。

両眼で同時に乳頭血管炎を発症した1例

著者: 中泉敦子 ,   佐藤孝樹 ,   石崎英介 ,   南政宏 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.981 - P.985

要約 目的:両眼に同時に発症した乳頭血管炎の症例の報告。症例:63歳女性が1週間前からの右眼視力低下で受診した。11年前にIgA腎症と診断され,6年前から糸球体腎炎で腹膜透析を受けていた。所見:矯正視力は右0.4,左1.0で,右眼の黄斑部に赤い隆起性病変と網膜下出血があった。右眼のポリープ状脈絡膜血管症と診断した。10か月後に左眼の視力が0.5に低下した。両眼に出血を伴う乳頭の発赤腫脹があった。両眼のⅠ型乳頭血管炎と診断し,プレドニゾロン30mg/日の内服を開始した。左眼視力は5週間後に1.2に回復した。結論:本症例では基礎疾患として,自己免疫性のIgA腎症が存在し,乳頭血管炎の発症に免疫学的な機序が関与した可能性がある。

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欧文目次

ページ範囲:P.780 - P.781

べらどんな 光は有害

著者:

ページ範囲:P.789 - P.789

 いまから60年前に未熟児網膜症が急増して大問題になった。ただしアメリカでの話である。

 原因についてさまざまな説が提出された。牛乳が悪いとか,ビタミンEの不足などもいわれ,次のような説明もあった。そもそも胎児は40週を過ぎてから目を使うようにできている。それなのに在胎30週とか32週の未完成の目でものを見るから網膜症が発症するのである。

第29回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.816 - P.816

 第65回日本臨床眼科学会(東京)会期中の2011年10月7日(金)~10日(月)に開催される「第29回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな 査 読

著者:

ページ範囲:P.832 - P.832

 「論文を投稿すれば次は査読」というのは常識だが,その歴史は浅い。

 「広辞苑」第6版(2008年)では,査読は「投稿論文などを審査するために読むこと」と定義してある。ところが第5版(1998年)までの版にはこの項目はなく,さどぎつね(佐渡狐)の次はさどくでなく,さとくだり(里下り)になっているのがその端的な例である。

財団法人 金原一郎記念医学医療振興財団 平成23年度上期助成事業募集要項

ページ範囲:P.837 - P.837

助成種目:第26回基礎医学医療研究助成金。基礎医学研究に関する一定の目的をもったプロジェクトに必要な資材,機材,書籍の購入や,人材の確保のための費用に対して助成を行います。

助成金額:1件につき規模に応じて10万~100万円。

ことば・ことば・ことば 新しい

ページ範囲:P.974 - P.974

 出版業界では「新」がついた本は売れないという説があります。医学関係でもそうらしいのですが,真偽には触れません。

 例外はもちろん山のようにあります。旧約聖書に対する新約聖書がそうですし,新古今和歌集もそうです。古今和歌集が出たのが905年で,ちょうどその300年後に刊行されました。いま読んでも「これは」という名歌がいくつもあります。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.987 - P.994

アンケート

ページ範囲:P.997 - P.997

投稿規定

ページ範囲:P.998 - P.998

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.999 - P.999

希望掲載欄

ページ範囲:P.1000 - P.1000

次号予告

ページ範囲:P.1001 - P.1001

あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.1002 - P.1002

 『臨床眼科』6月号をお送りいたします。東日本大震災で被災されました方々にお見舞い申し上げますとともに,復興に大変なお力を注がれていらっしゃる多くの眼科医の先生に感謝申し上げます。先の日本眼科学会総会では,開催の是非が論議されましたが,会長ならびに多くの評議員のご英断により開催が決定され,実際5,500人以上が参加して大変な盛会裏に終了いたしました。

 『臨床眼科』は登録すれば電子的にも読むことができ便利ですが,やはり伝統あるこの本のサイズや質感は『臨床眼科』ならではです。内容は,しかし,とても斬新に変化しています。毎号連載の「眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本」は,臨床医にわかりやすく最近耳にする取りつきにくいサイトカインなどの物質を解説し,身近にさせてくれます。4月号より始まった『眼科新書』現代語訳のシリーズは,漢文で書かれた眼科版『解体新書』を清水弘一編集顧問が現代文に翻訳されて掲載されるものであり,この先の展開が楽しみです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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