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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 第64回日本臨床眼科学会講演集(5) 特別講演

糖尿病網膜症診療の戦略

著者: 山下英俊

ページ範囲:P.1027 - P.1041

 糖尿病患者は世界中で急速に増加しており,厚生労働省によると,糖尿病が強く疑われる人は2006年で820万人に達している。2005年の調査では,糖尿病網膜症は日本人の後天性視覚障害の第2位を占め,視力障害者の約2割を占めていた。疫学研究の積み重ねから,失明を防ぐのみならず生涯にわたる良好な視力を保持するためには,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療による発症予防(一次予防),重症化の予防(二次予防)の進歩が重要であることが明らかとなった。また,糖尿病網膜症は,心疾患・脳血管疾患などの大血管症の独立した危険因子であることも判明してきた。われわれ眼科医は,糖尿病網膜症の診療戦略のなかで,重要な機能を発揮することが期待されている。

原著

新生児の外眼部細菌感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討

著者: 宮永嘉隆 ,   東範行 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1043 - P.1049

要約 目的:トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液の新生児に対する効果と安全性の報告。対象と方法:過去27か月間に外眼部細菌感染症の治療に本剤を投与した新生児48例を調査した。有効性は担当医の判定と評価基準に基づく改善率で評価した。結果:本剤に抗菌薬を併用した4例を除く44例を評価の対象とした。本剤は44例中43例(97.7%)で有効,32例中23例(71.9%)で改善と判定され,検出菌は16例中13例(81.3%)で消失した。未熟児を含む全48例に有害事象はなかった。結論:新生児の外眼部細菌感染症に対し,トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液は有効で安全であった。

網膜中心静脈閉塞症に対する組織プラスミノゲン活性化因子硝子体投与の量的検討

著者: 宮脇貴也 ,   谷口重雄 ,   小沢忠彦 ,   川原敏行

ページ範囲:P.1051 - P.1056

要約 目的:網膜中心静脈閉塞症に対する組織プラスミノゲン活性化因子硝子体投与の至適使用量の検討。対象と方法:矯正視力が0.5未満の網膜中心静脈閉塞症37眼を対象とし,溶解後5分以内の組織プラスミノゲン活性化因子を硝子体に注入した。最初の18眼には4万単位,次の19眼には2万単位を用いた。結果:術前視力と比較し,4万単位群では術後6か月の視力が有意に改善し(p=0.018),2万単位群では有意な改善がなかった(p=0.51)。結論:網膜中心静脈閉塞症に対して組織プラスミノゲン活性化因子を硝子体に投与した。4万単位投与では6か月後の視力が有意に改善し,2万単位では改善しなかった。

緑内障眼の黄斑部網膜神経節細胞複合体厚,網膜神経線維層厚,乳頭形態と視野指標

著者: 山下力 ,   家木良彰 ,   後藤克聡 ,   春石和子 ,   桐生純一 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.1057 - P.1064

要約 目的:黄斑部神経節細胞複合体厚,乳頭周囲の網膜神経線維層厚,乳頭形態と緑内障視野障害との関係の報告。対象と方法:広義の原発開放隅角緑内障147眼を対象とし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)により黄斑部神経節細胞複合体厚,乳頭周囲の網膜神経線維層厚,乳頭形態を測定した。これら計測値と,Humphrey視野計によるMD,PSD,VFIを指標とした視野障害との関係を回帰分析で評価した。結果:初期と中期の緑内障では,視野のMD値と網膜神経線維層厚との間の決定係数R2が最も高かった。視野のPSD値とVFI値は黄斑部神経節細胞複合体厚と有意に相関した。視野の各指標とrim volumeとの間に有意な相関があった。結論:黄斑部神経節細胞複合体厚と視野のVFIとには関連があり,緑内障眼で進行する中心視野障害の評価に有用である。

涙道内視鏡で巨大涙石を認めた2例

著者: 吉田祥子 ,   廣瀬美央

ページ範囲:P.1065 - P.1068

要約 目的:涙道内視鏡で巨大な涙石が発見された2症例の報告。症例:症例は38歳と54歳の男性で,2年前から片側性の流涙と眼脂があった。所見:涙囊部に圧痛があり,通水試験で膿性貯留物が逆流した。涙道内視鏡で2症例とも涙石があり,鼻外法による涙囊鼻腔吻合術を行った。涙石の大きさはそれぞれ25mmと32mmで,1例には緑膿菌,他の1例には大腸菌が検出された。両症例とも術後の再発はない。結論:涙道内視鏡により,涙囊と鼻涙管の内部が観察でき,涙石を発見することができた。

眼内悪性リンパ腫の鑑別のため硝子体生検を施行した21例の検討

著者: 林勇樹 ,   江川麻理子 ,   内藤毅 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.1069 - P.1073

要約 目的:眼内悪性リンパ腫の鑑別診断のために硝子体生検を行った21例の報告。対象と方法:過去78か月間に硝子体生検を行った21例23眼を対象とした。術前診断は眼内悪性リンパ腫の疑い7例とぶどう膜炎14例である。採取した硝子体につき細胞診を行い,インターロイキン6と10(IL-6とIL-10)との濃度を測定した。結果:7例でIL-10値が773pg/ml以上,IL-6/IL-10比が10以上であり,眼内悪性リンパ腫と診断した。これら7例のうち,細胞診で2例のみがclass Ⅴであった。その他のぶどう膜炎では,IL-10値が188pg/ml以下で,IL-6/IL-10比が0.09以下であった。全例が細胞診ではclass ⅡまたはⅢであった。結論:生検による硝子体内のIL-6とIL-10の濃度測定は眼内悪性リンパ腫の鑑別診断に有用であった。

栗イガによる角膜外傷の1例

著者: 越智順子 ,   渡邊一郎 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1075 - P.1078

要約 目的:栗のイガによる角膜異物を安全に摘出した症例の報告。症例:栗拾い中にイガグリが落下し,右眼に受傷した6歳男児が即日受診した。右眼の角膜に4か所の刺入傷があり,うち2か所にイガが残留していた。房水流出はなかった。全身麻酔下で手術顕微鏡による異物摘出を試みた。角膜に切開を加え,27ゲージの注射針で引っかける方法と鑷子で把持する方法は失敗した。彎曲した8-0バイオソルブ®の角針を角膜に刺入することでイガの線維を確保し,刺入方向に逆らわずに抜去できた。結論:栗のイガによる角膜異物を,彎曲した角針により摘出できた。

ラタノプロスト点眼液の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較

著者: 櫻下弘志 ,   冨田隆志 ,   池田博昭 ,   塚本秀利 ,   木平健治

ページ範囲:P.1079 - P.1082

要約 目的:ラタノプロスト点眼液の先発医薬品と後発医薬品につき,点眼可能な日数と1日あたりの薬剤費の比較。方法:ラタノプロスト点眼液の先発医薬品であるキサラタン®と,後発医薬品22銘柄について総滴数を測定して点眼可能な日数と,1日あたりの薬剤費を算出した。結果:点眼薬1滴あたりの容量は,先発医薬品では31.9μl,後発医薬品では28.4~38.7μlであった。点眼可能日数は,先発医薬品では45日,後発医薬品では34~49日であった。1日あたりの薬剤費は,先発医薬品では50.8円,後発医薬品では31.2~45.5円であった。後発医薬品の薬価は先発医薬品の70%であった。結論:1滴容量と点眼可能回数を考慮したラタノプロスト点眼液の1日薬剤費は,後発医薬品では先発医薬品の61~89%の範囲にあり,薬価の差を反映していない。

正常眼圧緑内障におけるビマトプロスト点眼薬の短期効果

著者: 新井歌奈江 ,   井上賢治 ,   塩川美菜子 ,   増本美枝子 ,   若倉雅登 ,   富田剛司

ページ範囲:P.1083 - P.1087

要約 目的:正常眼圧緑内障に対するビマトプロスト点眼薬の6か月間の眼圧下降効果と安全性の報告。対象と方法:正常眼圧緑内障54例54眼を対象とした。0.03%ビマトプロストを1日1回点眼し,1,3,6か月後の眼圧と副作用を調査した。結果:点眼開始前の眼圧は平均16.7±2.2mmHgで,1か月後では12.9±2.3mmHg,3か月後では12.6±2.2mmHg,6か月後では12.8±2.0mmHgであり,いずれも有意に下降した(p<0.0001)。眼圧下降率と下降幅は,1,3,6か月後で同等であった。9例(16.7%)が副作用により点眼を中止した。重複を含む内訳は,充血5例,異物感1例,目のくぼみ1例,下眼瞼色素沈着3例,眼痛1例,睫毛多毛1例であった。結論:ビマトプロスト点眼薬は,正常眼圧緑内障に対して6か月間にわたり有意の眼圧下降効果を示した。副作用による点眼中止が16.7%にあったので,安全性に配慮する必要がある。

タフルプロスト点眼による眼局所副作用の検討

著者: 増本美枝子 ,   井上賢治 ,   塩川美菜子 ,   菅原道孝 ,   澤田英子 ,   若倉雅登 ,   富田剛司

ページ範囲:P.1089 - P.1094

要約 目的:タフルプロストの長期点眼による眼副作用の頻度と関連事象の報告。対象と方法:緑内障または高眼圧症で6か月以上タフルプロスト点眼をしている58例58眼を対象とした。男性33例,女性25例で,年齢は31~81歳(平均56歳)である。点眼開始前と6か月後に開瞼時と閉瞼時の状態を細隙灯で撮影記録した。アンケートで自覚的評価を調査した。結果:写真判定で,睫毛伸長が47%,睫毛剛毛化が28%,眼瞼多毛が28%,眼瞼色素沈着が26%,虹彩色素沈着が35%にあった。他覚的所見と自覚的評価は必ずしも一致しなかった。結論:タフルプロストの6か月間の点眼で,眼瞼または虹彩の副作用が26~47%の頻度で生じた。これに対する患者の認容度は比較的良好であった。

磁気共鳴画像を用いた網膜剝離の診断

著者: 森口裕子 ,   木内良明 ,   曽根隆志 ,   佐々木崇暁 ,   出口香穂里

ページ範囲:P.1095 - P.1098

要約 目的:磁気共鳴画像検査(MRI)により,シリコーンオイル注入眼で網膜剝離と関連する所見を検索した報告。方法:MRIでは表面コイルとハーフフーリエ法で撮像し,撮影時間を短縮すると同時に高い解像度を得た。結果:網膜剝離手術の既往がある水疱性角膜症の1例ではMRIで網膜剝離がないことが判明した。黄斑円孔手術を行った1眼では,仰臥位でシリコーンオイルが前方に移動する所見がMRIで得られ,網膜剝離が確認された。緑内障インプラントの既往がある1眼では,シリコーンオイルがインプラント経由で眼外に流出する所見が得られたが,網膜剝離は復位していた。結論:表面コイルとハーフフーリエ法を用いるMRIは,視認が困難なシリコーンオイル充填眼の眼底状態の評価に有用であった。

ピット黄斑症候群の硝子体手術後に生じた黄斑円孔が閉鎖した1例

著者: 大野晋治 ,   籠川浩幸 ,   高橋淳士 ,   石子智士 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1099 - P.1103

要約 目的:ピット黄斑症候群に硝子体手術を行った後に生じた全層黄斑円孔が追加治療を要さずに閉鎖した症例の報告。症例:78歳女性が1か月前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.8,左0.1で,左眼視神経乳頭から黄斑にかけて網膜分離,乳頭耳側に乳頭小窩,黄斑部に網膜剝離と外層円孔があり,ピット黄斑症候群と診断した。硝子体手術とSF6によるガスタンポナーデを行った。経過:術後2か月で黄斑の外層円孔が全層円孔になった。黄斑部の網膜剝離の減少に伴い,術後7か月で黄斑円孔は閉鎖した。術後21か月の現在まで経過は良好で,左眼視力は0.7を維持している。結論:ピット黄斑症候群に硝子体手術を行った後に生じた全層黄斑円孔は,黄斑部網膜剝離の減少により閉鎖する可能性があることを本症例は示している。

前囊染色に用いたインドシアニングリーンが原因と考えられた白内障術後toxic anterior segment syndromeの1例

著者: 渡邊一郎 ,   越智順子 ,   家木良彰 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1105 - P.1109

要約 目的:白内障術後にtoxic anterior segment syndrome(TASS)が生じ,硝子体手術を必要とした症例の報告。症例:70歳女性が右眼の感染性眼内炎の疑いで紹介され受診した。2日前にインドシアニングリーン(ICG)を併用する白内障手術を受けていた。所見:右眼矯正視力は0.15で,角膜浮腫,Descemet膜皺襞,前房にフィブリン析出と細胞増加があった。炎症に比べて重症感がなく,TASSを疑った。ステロイド点眼で消炎せず,前房洗浄で起炎菌は同定されず,眼内炎が持続した。初診から7日後に硝子体手術を行った。9日後に退院し,1.5の最終視力を得た。結論:原因が手術で除去できる場合には,早期の手術を行うべきである。

ベバシズマブ硝子体注入および線維柱帯切除術が奏効した結核性ぶどう膜炎の1例

著者: 杉田征一郎 ,   西原裕晶 ,   白井正一郎

ページ範囲:P.1111 - P.1116

要約 目的:ベバシズマブの硝子体注入と線維柱帯切除術が奏効した結核性ぶどう膜炎の1例の報告。症例:41歳男性に6か月前から発咳と倦怠感があり,2週間前からの血管新生緑内障と網膜静脈炎を契機として肺結核が発見された。所見:矯正視力は右1.5,左0.6で,眼圧は右16mmHg,左48mmHgであった。両眼に網膜静脈の白鞘化,左眼に硝子体出血と虹彩ルベオーシスがあった。左眼にベバシズマブの硝子体注入,両眼に光凝固を行い,左眼にマイトマイシン併用の線維柱帯切除術を行った。6か月後の現在,左眼は1.2の視力と16mmHgの眼圧を維持している。結論:血管新生緑内障を併発した結核性ぶどう膜炎に対し,ベバシズマブの硝子体注入と網膜光凝固が奏効した。

関節症性乾癬によるぶどう膜炎にインフリキシマブ治療が奏効した1例

著者: 飛鳥田有里 ,   河越龍方 ,   石原麻美 ,   西田朋美 ,   中村聡 ,   林清文 ,   水木信久

ページ範囲:P.1117 - P.1121

要約 目的:乾癬性ぶどう膜炎にインフリキシマブの静注が奏効した症例の報告。症例:58歳男性が3年前からの両眼ぶどう膜炎で受診した。28年前に仙腸関節炎が発症し,11年前に関節症性乾癬と診断された。所見:両眼に前部ぶどう膜炎があり,乾癬性ぶどう膜炎と診断した。以後14年間,ステロイド点眼をしても眼炎症が遷延し,シクロスポリン内服も奏効しなかった。初診から15年後に皮膚症状が悪化し,インフリキシマブの点滴静注を開始した。静注開始後すみやかに皮膚症状は改善し,眼炎症も軽快した。結論:ステロイド点眼やシクロスポリン内服で十分な効果が得られなかった乾癬性ぶどう膜炎が,インフリキシマブ点滴静注により皮膚症状とともに改善した。

網膜芽細胞腫の診断と臨床経過の検討

著者: 野崎真世 ,   加瀬諭 ,   吉田和彦 ,   石嶋漢 ,   野田実香 ,   鈴木茂伸 ,   東範行 ,   石田晋

ページ範囲:P.1123 - P.1127

要約 目的:網膜芽細胞腫の診断と臨床経過の報告。症例:過去8年間の網膜芽細胞腫の自験例7症例を検索した。結果:男児2例,女児5例で,5例が片眼性,2例が両眼性であった。年齢は6例が4歳以下で,1例が7歳であった。主訴は白色瞳孔と斜視が5例,視力低下が1例,結膜充血と眼瞼腫脹が1例にあった。国際分類での病期はB~Eの範囲にあり,3例がE期であった。初回治療として眼球摘出術を5眼,眼窩内容除去術を1眼に行った。眼球を温存した3眼中,2眼では後に眼球摘出を必要とし,1眼では再発がなかった。眼球摘出術または眼窩内容除去術を行った6眼では転移はなかった。眼球外に浸潤した2例は不帰の転帰をとった。この2例は,初診時に網膜芽細胞腫の典型的所見がなかった。結論:網膜芽細胞腫の初診時の臨床像は,必ずしも予後を示さない。

未熟児における屈折および角膜曲率半径の長期的変化と強度近視の考察

著者: 窪野裕久 ,   太刀川貴子 ,   上野里都子 ,   野田徹 ,   勝海修

ページ範囲:P.1129 - P.1135

要約 目的:未熟児の屈折と角膜曲率半径に成長と光凝固が及ぼす影響の報告。対象と方法:2009年1月までに生まれた低出生体重児155例310眼を,最低0週から最長8年まで観察した。在胎期間は160眼が22~26週,150眼が27~34週までであった。6歳時での屈折が-5D以上の強度近視が18例29眼であった。結果:屈折は修正21か月まで近視化し,角膜曲率半径は9か月まで増加した。在胎期間は屈折に影響せず,光凝固眼では非光凝固眼よりも有意に近視化した。光凝固の既往は角膜曲率半径に影響せず,在胎期間が短い非光凝固眼では曲率半径が有意に小さかった(Tukey-Kramer法,p<0.01)。強度近視眼での角膜曲率半径は他の群と差がなかった。結論:未熟児の屈折は修正21か月まで近視化し,以後6歳までは変化が小さい。角膜曲率半径は修正9か月まで扁平化し,以後は変化が小さい。在胎期間は屈折に影響せず,光凝固の既往があると近視化する。光凝固の既往は角膜曲率半径に影響せず,在胎期間が短い非光凝固眼では曲率半径が小さい。

楕円フーリエ記述子に基づく水晶体形状発達の定量的解析

著者: 中岫典子 ,   石井晃太郎 ,   岩田洋佳 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.1137 - P.1142

要約 目的:6歳までの小児水晶体の形状を磁気共鳴画像検査(MRI)で得られた画像から定量的に解析した報告。対象と方法:1か月~6歳の27例27眼を対象とした。MRIのT2強調画像から,標準化楕円フーリエ記述子に基づいて水晶体の形状を80個の数列として記述した。MRI画像から,眼軸長,前房深度,水晶体厚を計測した。Pearson相関係数で相関関係を評価した。結果:有意な相関が年齢と眼軸長(r=0.756,p<0.001),年齢と前房深度(r=0.673,p<0.001)との間にあった。水晶体の楕円フーリエ記述子の第1主成分は,年齢(r=-0.614,p<0.001),眼軸長(r=-0.765,p<0.001),前房深度(r=-0.777,p<0.001)と有意に相関した。結論:MRIで得られた小児水晶体の形状と発達過程を,楕円フーリエ記述子による解析で数量的に解析できた。

外傷性眼窩内血腫に対し経皮的眼窩内血腫除去術を行った1例

著者: 津田聡 ,   中村政彦 ,   土井洋 ,   布施昇男

ページ範囲:P.1143 - P.1148

要約 目的:左眼打撲後に眼窩内骨膜下血腫を生じ,経皮的眼窩内血腫除去術を施行された症例の報告。症例と経過:45歳男性が左眼を打撲し,翌日に眼痛と視力障害で受診した。左眼の矯正視力は30cm指数弁,眼圧は33mmHgであった。眼球突出と眼球運動障害,相対的入力瞳孔反射異常,網膜浮腫と桜実紅斑,視神経乳頭の軽度発赤を認めた。コンピュータ断層撮影で左眼窩上壁の骨折と同部の骨膜下血腫を認め,眼窩内圧の上昇による眼循環障害が疑われ,経皮的眼窩内血腫除去術が施行された。矯正視力は0.3と改善し,眼球突出と眼球運動障害は消失した。結論:眼循環障害による高度な視力障害を伴う眼窩内骨膜下血腫では,早期の血腫除去が重要と考えられる。

Dynamic contour tonometerを用いたソフトコンタクトレンズ上の眼圧測定

著者: 松澤亜紀子 ,   工藤昌之 ,   伊勢ノ海一之 ,   徳田直人 ,   針谷明美 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1151 - P.1156

要約 目的:Dynamic contour tonometer(DCT)および非接触型眼圧計(NCT)を用いてソフトコンタクトレンズ上の眼圧測定を行い評価した。方法:対象は,健常者6名12眼である。対象レンズは,1 day ACUVUE®moist,Medalist®plus,O2OPTIXを使用した。使用度数はプラスレンズのあるものは+5.0Dと,マイナスレンズは-3.0Dと-9.0Dを用いた。眼圧測定はDCTとNCTを使用し,レンズ装用時,非装用時各3回測定を行った。結果:1 day ACUVUE®moist,Medalist®plusの-9.0DおよびO2OPTIX+5.0Dの各レンズ装用時のNCTの眼圧は,装用前の眼圧に対しそれぞれ平均-2.05mmHg,-1.32mmHg,+7.19mmHg変化し,有意差(p<0.01)があった。DCTを用いた眼圧測定では,対象レンズ装用時の眼圧は装用前の眼圧に対し平均-0.68~+1.30mmHgの変化があり有意差はなかった。結論:DCTによる眼圧測定は,レンズの性状に左右されにくく,NCTより有用であると考える。

海外医療協力活動に携行する眼内レンズ度数の検討

著者: 浅野宏規 ,   岡田明 ,   柏瀬光寿 ,   籠谷保明 ,   黒田真一郎 ,   飽浦淳介

ページ範囲:P.1157 - P.1160

要約 目的:海外の医療協力活動で使用された眼内レンズ(IOL)の度数の報告。対象と方法:インド北西部での2回のアイキャンプで白内障手術を施行された138例138眼を対象とした。IOLの度数はA定数を118.5としたSRKⅡ式で決定した。結果:IOL度数の平均値は,インド人111眼では22.37±2.19D,チベット人27眼では22.41±1.27Dで,両群間に有意差はなかった。両群の51.4%が21.0~23.0D,87.7%が19.0~25.0Dの範囲にあった。結論:アイキャンプでは,19.0~25.0Dの範囲で22.0Dを中心にした正規分布をするIOLを用意すれば,約90%の患者に対応できる。

連載 今月の話題

AZOORとその近縁疾患

著者: 近藤峰生

ページ範囲:P.1011 - P.1017

 AZOORは,眼底が正常であるにもかかわらず急激に視力低下や視野欠損をおこす網膜疾患である。眼底が正常であるために,視神経炎や頭蓋内疾患と間違えられやすい。近視を有する若年女性に好発し,発症初期に光視症を伴うことが多い。確定診断には,網膜電図と光干渉断層計が特に有用である。AZOORの病因は不明であるが,自己免疫とウイルスの関与が示唆されている。重症のAZOORにステロイドや抗ヘルペス薬が奏効したという報告があるが,確立された治療法はないのが現状である。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・19

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―Behçet病

著者: 阿部俊明

ページ範囲:P.1018 - P.1020

はじめに

 Behçet病はシルクロードに沿う地域に好発するが,ヒポクラテスの時代から知られているにもかかわらず,いまだに原因は完全には明らかにされていない。しかし,生理活性物質の解析はたくさん報告され,眼疾患のなかでも最も研究されてきた疾患の1つといえる。これらの生理活性物質は直接組織の障害に関与するとされるが,この生理活性物質の発現を誘発するBehçet病には遺伝的背景,酸化ストレス,過酸化脂質,環境因子などとともに免疫複合体や補体の増加・活性化,異常なリンパ球・好中球の働きなどの免疫反応異常が複雑に組み合わさっていると思われる。本項ではBehçet病にかかわる生理活性物質,およびこの生理活性物質にかかわる最近の治療法を中心にまとめる。

つけよう! 神経眼科力・16

視神経乳頭の診かた

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.1022 - P.1026

はじめに

 視神経乳頭を観察するという行為は,眼科医が非常に多くの頻度で行うことのひとつである。乳頭の色,形状,大きさ,陥凹や辺縁の状態,乳頭上や周囲の神経線維や血管走行など,種々の要素を瞬時に見分けることが,多忙な日常診療では要求されている。しかし,乳頭はバリエーションが多く,いかに訓練を受け,専門家と称される眼科医でも,上記の各要素を,症例によらず瞬時に判断することは不可能に近いことである。

 「観察」とはただ見ることではなく,文字通り考えながら観ることであり,問題意識を持って,要素ごとに評価をすることが重要である。

『眼科新書』現代語訳

その4

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1164 - P.1168

「眼科新書」巻之二

 『眼科新書』第2巻は黄表紙の本で,表紙には「眼科新書 二」と縦書きの書名が貼ってある。本文は半紙版和綴であり,それぞれ半折りにした背中の上部に「眼科新書巻之二」とあり,それぞれにページ番号が漢数字で一から二十三までついている。

 表紙の次に扉はなく,すぐに目次で,「眼科新書巻之二(改行)目録」とある。本文と同じ縦書きであるが,目次だけは10行2段である。

今月の表紙

眼球打撲により網膜出血をきたした網膜色素線条

著者: 後藤克聡 ,   水川憲一 ,   根木昭

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 症例は31歳男性。2009年11月18日,サッカーボールが右眼に当たり受傷した。視力低下を自覚したため近医を受診。経過観察を行っていたが視力改善を認めないため,精査目的で当科を紹介され受診した。

 12月14日,初診時視力は右0.4(0.7p×-0.50D()cyl-0.75D 40°),左1.5(1.5×+1.00D),眼圧は右12mmHg,左13mmHgであった。前眼部,中間透光体に異常はなかった。両眼底に網膜色素線条を認め,右眼は色素線条に沿った網膜出血がみられた。また,中心窩に黄白色の脈絡膜新生血管を疑わせる所見がみられ,光干渉断層計では中心窩下に高反射の隆起性病変を認めた。網膜下出血が器質化したものか脈絡膜新生血管によるものかを鑑別するために,フルオレセイン蛍光眼底造影検査を施行した。脈絡膜新生血管による過蛍光はみられず,眼球打撲による単純出血と考えられた。

書評

ティアニー先生の臨床入門

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.1161 - P.1161

 大好評だった前著『ティアニー先生の診断入門』に続いて本書が世に出た。「名匠に学ぶに勝るものなし!!」のキャッチフレーズに思わず読書欲がかき立てられる。

 第1部「臨床入門」では豊富な臨床経験をもとにティアニー先生が,医学の神髄をわかりやすく解説される。「より多くの時間を患者とともに過ごした医学生・研修医こそが優れた臨床医として成長していく」「同僚が主治医である患者をも観察できる機会にできるだけ参加し,病棟・外来・救命救急室で最大限時間を過ごすべき」……,これらの姿勢は臨床能力を極めようとする者の不易の姿である。職人の年季奉公と同じく,良き指導医から導きを受け,額に汗し貪欲に患者さんから直接学ぶことの重要性が強調されている。さらに,指導医の心得に対しては,「最良の教育者のゴールは,生徒が教育者よりも,より良き医師に成長すること。教育者は常に,生徒の知識欲,より経験しようとする意欲を刺激しなければならない」と述べられている。心深くに楔を打ち込まれた,そんな強い印象を受けた。

やさしい目で きびしい目で・139

信頼の上に築かれるもの

著者: 天野珠美

ページ範囲:P.1163 - P.1163

 毎年,正月になると患者さんから年賀状をいただきます。中には駆け出しの医者だった頃に診ていた患者さんもいて,長年お会いしていないのに毎年年賀状で近況を報告して下さいます。皆,私を医師として,人間として育ててくれた患者さんたちです。

 私事ですが,昨年父が心疾患で入院しました。元来健康人でしたので,家族はあわてました。医師である私も「専門外」ということで不安でいっぱいでしたが,循環器医師の説明は常に明確で,安心感を与えてくれ,循環器治療の進歩に感謝しつつ病院を後にしました。今回の経験を自分の眼科診療に照らし合わせて考えました。「自分は患者さんに安心感を与えることができているだろうか?」。思えば卒後2年目になり,初めて外来を担当することになって一番心配だったのは患者さんに納得して帰っていただけるかでした。最善をつくしても結果が思わしくない場合,そこに信頼関係がなければ医療訴訟に発展する時代です。今ではインフォームドコンセントはすっかり浸透した言葉ですが,最近よく使われるコンプライアンス,アドヒアランスも以前からその概念は常に診療の中に存在しているのです。根底にあるのは人間同士の信頼関係だと思います。

臨床報告

血小板減少を伴った結核性ぶどう膜炎の1例

著者: 藤田恭史 ,   高井七重 ,   多田玲 ,   勝村ちひろ ,   竹田清子 ,   奥野高司 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1171 - P.1175

要約 目的:血小板減少を伴った結核性ぶどう膜炎の1症例の報告。症例:29歳女性が1週間前からの飛蚊症で受診した。所見:矯正視力は右0.6,左1.0であった。右眼に軽度の前房混濁と角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜静脈周囲炎があった。ツベルクリン反応が強陽性であった。血小板が初診時には13.6万/μlであったが,5週後に1.2万/μlに急減し,全身に紫斑が生じた。骨髄穿刺で骨髄低形成があった。大量免疫グロブリン療法で血小板値が上昇した。縦隔リンパ節の生検で乾酪壊死があり,結核菌は培養されなかった。結核菌に対するアレルギー反応と診断し,抗結核療法とプレドニゾロンの全身投与を開始した。1週間後に眼底所見は改善し,6か月後に投薬を打ち切った。結論:結核性ぶどう膜炎または網膜静脈周囲炎では,血小板減少症が続発することがある。

加齢黄斑変性に対するペガプタニブ硝子体内投与の治療効果

著者: 澤田有 ,   神大介 ,   阿部早苗 ,   早川真弘 ,   石川誠 ,   藤原聡之 ,   吉冨健志

ページ範囲:P.1177 - P.1181

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性に対するペガプタニブ硝子体内投与の成績の報告。対象と方法:過去17か月間にペガプタニブ硝子体内投与が2回以上行われ,3か月以上の経過を追えた加齢黄斑変性70例70眼を対象とした。男性57例,女性13例で,年齢は平均73歳である。治療効果の判定では視力を指標とした。結果:術前値と比較し,20%で視力は改善,48%で不変,32%で悪化した。Occult型27眼での視力改善率は,ポリープ状脈絡膜血管症31眼よりも有意に高く,網膜出血または浮腫がない小さな病変で高い傾向があった。治療に伴う眼局所または全身の重篤な副作用はなかった。結論:滲出型加齢黄斑変性に対するペガプタニブ硝子体内投与により,68%の症例で視力が維持された。視力改善効果はoccult型を含む早期の加齢黄斑変性で顕著である可能性がある。

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欧文目次

ページ範囲:P.1008 - P.1009

べらどんな 両・銭・厘

著者:

ページ範囲:P.1049 - P.1049

 小学5年のときに,出張のおみやげを父からもらった。小さな棹秤で,250グラムまで量れる。銀色のきれいな金属製で,そもそもは薬を計量するためだったらしい。

 戦争中なので,家では鶏を飼っていた。生んだ卵の重さを量り,ノートにつけていた。50~53グラムが多かったのを覚えている。外地に住んでいたので,引き揚げるとき,この棹秤はリュックに入れて持って帰った。いまではこれが当時の唯一の記念品である。

日本網膜色素変性症協会(JRPS)研究助成 第15回(2011年度)受賞者のお知らせ

ページ範囲:P.1056 - P.1056

 第15回JRPS研究助成は,JRPS学術理事の厳正な審査の結果,以下の2件に決定いたしました。

財団法人 高齢者眼疾患研究財団 2011年度「研究助成」応募のご案内

ページ範囲:P.1103 - P.1103

 財団法人 高齢者眼疾患研究財団は,1993年11月に設立しました。

 この研究助成は,「悪性糖尿病網膜症等高齢者の視力障害をきたす疾患の予防および治療に関する調査研究」を対象に,高齢化社会において高齢者の視力障害をきたす疾患に関する研究を行い,国民の健康の増進および眼科学の進歩に寄与することを目的としております。

第29回眼科写真展作品募集

ページ範囲:P.1128 - P.1128

 第65回日本臨床眼科学会(東京)会期中の2011年10月7日(金)~10日(月)に開催される「第29回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな 晩学の天才

著者:

ページ範囲:P.1148 - P.1148

 だれもが「あの人は偉かった」という学者がいる。プルキニェ(Jan Evangelista Purkinje,1787-1869)がそのひとりである。

 プルキニェはプラハで生まれ,最初は神学者になろうとした。しかし卒業を前にした21歳のときに方針を変え,プラハ大学の医学部にはいった。家が豊かでなかったので,家庭教師をして学資をまかなったという。

ことば・ことば・ことば 光る悪魔

ページ範囲:P.1170 - P.1170

 2008年のノーベル化学賞は,在米の下村 脩 氏ほか2名に授与されました。緑色蛍光蛋白質(green fluorescent protein:GFP)の研究に対するものです。

 下村氏は長崎薬専の出身で,名大に国内留学をしました。そこでの最初の仕事はウミボタルの発光物質であるルシフェリン(luciferin)の結晶化と化学構造の決定でした。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1183 - P.1189

アンケート

ページ範囲:P.1193 - P.1193

投稿規定

ページ範囲:P.1194 - P.1194

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1195 - P.1195

希望掲載欄

ページ範囲:P.1196 - P.1196

次号予告

ページ範囲:P.1197 - P.1197

あとがき

著者: 根本昭

ページ範囲:P.1198 - P.1198

 東日本大震災も3か月を経て,ようやくその全貌が明らかになってきたものの未だ行方不明者は1万人に近い数字です。あらためて亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに,1日も早い復旧・復興に協力したいと思います。日本眼科学会と日本眼科医会は共同で義援金募集口座を開設しました。既に8,000万円を超す入金があり,被災地の眼科医会災害対策本部を通じて眼科医療復旧にむけて支援金を配分しました。当初は6月15日をもって締め切りの予定でしたが,太平洋岸の被害復旧は未だめどが立っておらず,12月末まで募集期間を延長いたしましたのでご協力をお願いいたします。

 今回の大震災は巨大津波や原子力発電所の崩壊など,1995年の阪神・淡路大震災とは全く異なる様相を呈しており,想定外の大規模地震とはいえ,その対応を十分に検証することで,今後の世界災害に向け予防対策を発信することがわが国の責務であると思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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