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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻8号

2011年08月発行

雑誌目次

特集 第64回日本臨床眼科学会講演集(6) 原著

重症未熟児網膜症に対しベバシズマブ硝子体内投与を行った症例の検討

著者: 有田直子 ,   林英之 ,   内尾英一 ,   近藤寛之

ページ範囲:P.1225 - P.1229

要約 目的:重症未熟児網膜症に対してベバシズマブの硝子体投与を行った症例群の報告。対象と方法:過去30か月間に治療した未熟児網膜症12例21眼を対象とした。ベバシズマブは,6眼には初回治療として,9眼には硝子体手術前に,2眼には僚眼への光凝固後に,4眼には強膜輪状締結術と同時に投与した。結果:初回治療としてベバシズマブを単独投与した6眼では正常血管が伸展し,寛解した。硝子体手術前に投与した9眼中6眼では網膜復位が得られた。僚眼への光凝固後に増殖膜が生じた2眼ではその進行が停止した。強膜輪状締結術と同時に投与した4眼では網膜剝離が復位した。硝子体手術前に投与した9眼中2眼では牽引性網膜剝離が進行した。結論:重症未熟児網膜症に対するベバシズマブの硝子体投与は有効であったが,その安全性は未定である。

涙腺生検を施行した免疫グロブリンG4関連慢性涙腺炎(Mikulicz病)の1例

著者: 千原智之 ,   城信雄 ,   永井由巳 ,   高橋寛二

ページ範囲:P.1231 - P.1235

要約 目的:両側の涙腺腫脹があり,生検でMikulicz病と診断された症例の報告。症例:70歳女性が2か月前からの両側の上眼瞼腫脹と唾液分泌低下で受診した。糖尿病と胃潰瘍の既往歴があった。所見:両側の上眼瞼耳側に弾性硬の腫瘤と両側の顎下腺腫脹があった。眼内には異常所見はなかった。血清のIgG4値が588mg/dlと高値であった。生検で得られた涙腺の免疫染色で,多数のIgG4陽性の形質細胞の浸潤があり,IgG4関連慢性涙腺炎と診断した。プレドニゾロンの内服で1か月後に涙腺腫脹は寛解した。6か月後に涙腺炎が再発し,硬化性胆管炎が生じ,IgG4関連多臓器疾患と診断された。結論:慢性涙腺炎ではIgG4関連多臓器疾患との鑑別が必要である。

緑内障患者と糖尿病網膜症患者の手帳持参率の比較

著者: 小林博

ページ範囲:P.1237 - P.1241

要約 目的:緑内障と糖尿病網膜症手帳の持参率の比較。対象と方法:年に数回受診する予定があり,手帳を所持していない患者424例を対象とした。緑内障患者は256名で平均年齢は68歳,糖尿病網膜症患者は168名で平均年齢は66歳である。これらの患者に緑内障手帳または糖尿病眼手帳を新規に交付し,その持参率を調査した。結果:手帳の持参率は,緑内障患者では1,536回の受診中1,346回(87.6%),糖尿病患者では831回中650回(78.2%)で,両群間に有意差があった(p<0.0001)。2,6,12か月後の持参率は,緑内障患者では65%,81%,88%,糖尿病患者では66%,90%,94%であり,受診回数とともに持参率が向上した。持参率が低い緑内障患者では点眼をしない回数が有意に増加した(p<0.0001)。結論:緑内障と糖尿病患者での手帳持参率は,病識の状態を反映している。

American Medical AssociationのVisual Field ScoreのHumphrey視野計のカスタムプログラムによる静的視野とGoldmann視野の結果の比較の試行

著者: 加茂純子 ,   原田亮 ,   宇田川さち子 ,   松本行弘 ,   仲泊聡

ページ範囲:P.1243 - P.1249

要約 目的:Goldmann視野(視標Ⅲ4e),動的視野と静的視野(今回開発したHumphreyカスタムプログラムColenbranderグリッドテスト。視標Ⅲ,10dB)で測定後に視野スコア,機能的視野スコア,機能的視覚スコアを算出し,両者の一致性と測定時間を知る。対象と方法:同意後,動的視野と静的視野を測定した44例(男性27例,女性17例,平均66.3±14.6歳)。疾患は緑内障14例,糖尿病網膜症12例,同名半盲6例,加齢黄斑変性5例,網膜色素変性4例,その他3例。動的視野と静的視野の視野スコア,機能的視野スコア,機能的視覚スコアを算出した。統計的解析にはPearson Rを用いた。結果:動的視野対静的視野の相関は視野スコア:r=0.92,機能的視野スコア:r=0.93,機能的視覚スコア:r=0.97(p<0.001)と有意で,75%で機能的視覚スコアクラスが一致した。各眼の測定時間は両眼で779±186秒であった。結論:機能的視野スコアは動的視野対静的視野でよく相関した。測定時間は両眼で約13分と耐えられる時間であった。視野機能スコアを測る静的視野検査としてColenbranderグリッドテストは有用である可能性が示された。

多施設における緑内障患者の実態調査2009年度版―正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障

著者: 添田尚一 ,   井上賢治 ,   塩川美菜子 ,   増本美枝子 ,   澤田英子 ,   若倉雅登 ,   富田剛司

ページ範囲:P.1251 - P.1257

要約 目的:正常眼圧緑内障(NTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)に対する薬剤の使用状況の報告。対象と方法:国内30施設の外来を2009年11月の7日間に受診した緑内障と高眼圧症3,074例につき,薬剤の使用状況を調査した。結果:病型はNTG 1,395例(45.4%),POAG 996例(32.4%)であった。薬剤数はNTG 1.4±0.7剤,POAG 2.1±1.0剤で,有意差があった。単剤使用例では,両群ともラタノプロストが最も多く,第2位としてウノプロストンがNTG,チモロールがPOAGに多かった。2剤使用例では,両群ともプロスタグランジン関連薬+β遮断薬が68%以上で用いられていた。2007年に行った同様の調査と比較し,単剤使用例ではNTGでのラタノプロストが減少し,2剤使用例には差がなかった。結論:緑内障の病型ではNTGが多く,両群でラタノプロストが最も頻用されていた。NTGとPOAGでは使用薬剤に差があった。

治療歴のない加齢黄斑変性に対するラニビズマブ療法の治療成績―東京医科大学3病院共同研究

著者: 川上摂子 ,   三浦雅博 ,   片井直達 ,   若林美宏 ,   永瀬聡子 ,   村松大弐 ,   阿川毅 ,   木村圭介 ,   馬詰和比古 ,   岩崎琢也 ,   後藤浩

ページ範囲:P.1259 - P.1264

要約 目的:東京医科大学3施設で行った滲出性加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ療法の結果の報告。対象と方法:治療歴のないAMD 103例104眼を対象とした。男性78眼,女性26眼で,年齢は51~96歳(平均75歳)である。脈絡膜新生血管(CNV)の型と治療前視力に基づいて治療方法と再投与の基準を決めてラニビズマブ硝子体注射を行い,6か月以上の成績を検討した。視力はlogMARで評価し,0.3以上の変化を改善または悪化とした。結果:平均視力は3か月後と6か月後に有意に改善した(それぞれp<0.01)。6か月後の視力は20%で改善し,90%で維持された。CNVの型別では,classic AMDとポリープ状脈絡膜血管症で3か月後と6か月後の視力は有意に改善した。結論:統一基準にしたがって行われたラニビズマブ硝子体注射で,3か月後と6か月後の視力が維持または改善した。

加齢黄斑変性に対するラニビズマブの投与成績

著者: 岩渕成祐 ,   吉田真人 ,   恩田秀寿 ,   齋藤雄太 ,   小出良平

ページ範囲:P.1265 - P.1268

要約 目的:滲出性加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注射の結果の報告。対象と方法:34例36眼を対象とした。男性14例,女性20例で,平均年齢は75.4±9.5歳である。全症例に3回以上のラニビズマブ硝子体内注射を行った。16眼がラニビズマブを初回治療として受け,9眼が以前に光線力学的療法,8眼がベバシズマブ,3眼がその両治療を受けていた。平均135日の治療後経過を追った。結果:初回治療群では平均視力が0.26から0.31に,中心窩網膜厚は404μmから286μmになった。両治療群では平均視力が0.11から0.07に,中心窩網膜厚は431μmから353μmになり,改善が最も少なかった。結論:滲出性加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注射により,他の方法による治療歴があっても,視力が維持され,中心窩網膜厚が減少した。

加齢黄斑変性に対するラニビズマブ投与後における早期中心網膜厚の変化

著者: 藤原篤之 ,   白神千恵子 ,   山下彩奈 ,   白潟ゆかり ,   中野裕貴 ,   白神史雄

ページ範囲:P.1269 - P.1273

要約 目的:加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ硝子体内注射後早期の中心網膜厚と経過の報告。症例:過去15か月間に治療した滲出性AMD 66例66眼を対象とした。男性51例,女性15例で,平均年齢は75.2±7.3歳である。35例が初回治療例,31例が過去に治療歴があった。月1回のラニビズマブ硝子体内注射を計3回行い,治療前後の中心網膜厚を測定した。結果:初回注射から1週間後の中心網膜厚は,初回治療群では減少63%,不変34%,増加3%であり,治療歴がある群では減少68%,不変32%であった。初回治療群での不変または増加例はoccult AMDの症例に多かった。3回目の治療から1か月後の中心網膜厚の平均値は,両群とも初回治療1週間後の中心網膜厚が減少した例でのみ有意に減少していた。結論:加齢黄斑変性(AMD)に対する初回のラニビズマブ硝子体内注射から1週間後の中心網膜厚が不変または増加した症例は,以後のラニビズマブ治療に抵抗性を示す可能性がある。

多発性後極部網膜色素上皮症に対してベバシズマブ硝子体内注射を行った1例

著者: 松岡里美 ,   井上麻衣子 ,   小林聡 ,   山根真 ,   渡邉洋一郎 ,   荒川明 ,   門之園一明

ページ範囲:P.1275 - P.1278

要約 目的:多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)に対し,ベバシズマブ硝子体内注射が奏効した症例の報告。症例:51歳男性が両眼の視力低下で紹介受診した。13年前から動揺する両眼視力低下を認め,前医でMPPEの診断で光凝固を受けていた。所見:矯正視力は右0.6,左0.4で,両眼に漿液性網膜剝離があり,左眼には網膜色素上皮剝離が併発していた。初診から3か月後に右眼の網膜浮腫が増悪し,視力が0.03に低下した。中心窩厚は1,134μmであった。ベバシズマブ硝子体内注射を1か月ごとに4回行った。視力は0.09に改善し,中心窩厚は120μmに減少した。左眼は漿液性網膜剝離が自然寛解し,視力は0.6に改善した。結論:MPPEの難治例にベバシズマブ硝子体内注射が奏効することがある。

手術を要した未熟児網膜症のインスリン様成長因子1と血管内皮増殖因子の血清濃度推移を測定した1例

著者: 齋藤雄太 ,   伊藤勇 ,   中西孝子 ,   村瀬正彦 ,   瀬上友見 ,   宮沢篤生 ,   佐々木寛 ,   水野克己 ,   植田俊彦 ,   板橋家頭夫 ,   安原一 ,   小出良平

ページ範囲:P.1279 - P.1283

要約 目的:重症未熟児でインスリン様成長因子-1(IGF-1)と血管内皮増殖因子(VEGF)を測定した報告。症例:女児の眼科的管理を日齢24から始めた。在胎27週1日で生まれ,出生時体重は409gであった。日齢87に両眼の未熟児網膜症がzone Ⅱ,stage 3になり,光凝固を行った。日齢108に両眼にベバシズマブを硝子体内投与した。日齢214に右眼輪状締結術,左眼硝子体手術,両眼光凝固追加を行い,最終的に良好な経過になった。結果:生直後から日齢108までIGF-1は20ng/ml以下であった。生直後から日齢77までVEGFは215~440pg/mlであり,日齢84に1,320pg/mlになった。結論:重症未熟児でのIGF-1とVEGF濃度は,修正週数約40週までは低値であり,以後VEGF濃度が上昇した。

網膜中心静脈閉塞症の長期観察例の検討

著者: 門屋講司 ,   鈴木利根 ,   筑田眞

ページ範囲:P.1285 - P.1288

要約 目的:網膜中心静脈閉塞症の長期経過の報告。対象:網膜中心静脈閉塞症がある71例72眼を対象とした。男性37例,女性34例で,初診時の年齢は22~84歳(平均61歳)であった。5~24年(平均9.1年)の経過を追った。結果:治療として汎網膜光凝固を67眼(93%),硝子体手術を11眼(15%),血栓溶解薬を17例(23%)に用いた。眼合併症として,硝子体出血が初診から平均8.5か月,最長3年6か月後に11眼(15%),血管新生緑内障が初診から平均7.6か月,最長2年後に8眼(11%)に生じた。僚眼に網膜静脈分枝閉塞症が5眼,網膜中心静脈閉塞症が3眼に発症した。最終視力は17眼(24%)で改善し,14眼(19%)で不変,41眼(57%)で悪化した。結論:網膜中心静脈閉塞症では発症から4年間は硝子体出血や血管新生緑内障などの重篤な合併症に注意し,僚眼については長期間の経過観察が必要である。

Churg-Strauss症候群による両眼性網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 国分沙帆 ,   岩瀬由紀 ,   武田英之 ,   林孝彦 ,   竹内聡 ,   水木信久

ページ範囲:P.1289 - P.1293

要約 目的:両眼に網膜中心動脈閉塞症が生じ,Churg-Strauss症候群と診断された症例の報告。症例:55歳女性が2日前からの左眼視力低下で受診した。5年前から気管支喘息があり,気管支拡張薬を使用していた。所見:矯正視力は右1.0,左0.1で,左眼には網膜中心動脈閉塞症の所見があった。蛍光眼底造影で網膜は再灌流していた。2週間後に右眼視力が0.01に低下し,網膜中心動脈閉塞症の所見があった。好酸球増加,末梢血管炎,多発神経炎などからChurg-Strauss症候群と診断された。ステロイドの大量投与で好酸球は減少した。初診から1年後の現在,右0.03,左0.8の視力を維持している。結論:気管支喘息の既往がある患者の網膜中心動脈閉塞症では,Churg-Strauss症候群の可能性がある。

両眼とも同時期に自然閉鎖した特発性黄斑円孔の1例

著者: 山内紗代子 ,   中川喜博 ,   河合憲司

ページ範囲:P.1295 - P.1298

要約 目的:両眼の特発性黄斑円孔が自然閉鎖した症例の報告。症例:64歳女性が3か月前からの左眼視力低下で受診した。大動脈弁閉鎖不全の手術後にワルファリンを服用していた。所見:矯正視力は右1.2,左0.4で,強い屈折異常はなかった。右眼に第1期,左眼に第2期の黄斑円孔があり,光干渉断層計でもこれが確認された。後部硝子体剝離はなかった。2か月後に左眼視力は0.6になり,黄斑円孔は第3期になった。初診から12か月後に右眼視力は0.3になり,黄斑円孔は第2期になった。15か月後に後部硝子体剝離が生じ,両眼とも視力は1.2になり,黄斑円孔は自然閉鎖した。結論:本症例では,後部硝子体剝離に伴い両眼の黄斑円孔が自然閉鎖した。

原田病に対する治療法についての検討

著者: 山田晴彦 ,   平本裕盛 ,   星野健 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1299 - P.1304

要約 目的:原田病に対する3治療法の効果の比較。対象と方法:過去54か月間に治療した新鮮な原田病25例を検索した。16例にステロイド剤のパルス療法,6例に徐放性ステロイドのテノン囊下注射,3例にパルス療法後に徐放性ステロイドのテノン囊下注射を行った。全例で6か月以上の経過を追った。結果:プレドニゾロンに換算したステロイド総量は,テノン囊下注射群で1,372mg,パルス療法群でその3倍,両者併用群でその5倍であり,有意差があった。初診時視力はテノン囊下注射群が他の2群よりも有意に良好で,最終視力は両者併用群が他の2群よりも有意に悪かった。両者併用群での最終視力は初診時視力よりも改善せず,他の2群では改善した。両者併用群では平均2回の再発があった。結論:ステロイド剤のパルス療法とテノン囊下注射では治療成績に差がなく,後者ではステロイド投与量が少なかった。両者の併用は重篤例に多かった。

乳頭浮腫と虹彩毛様体炎を合併した成人発症Still病の1例

著者: 野田聡実 ,   池田史子 ,   岸章治

ページ範囲:P.1305 - P.1308

要約 目的:両眼に虹彩毛様体炎と乳頭浮腫が生じた成人発症Still病の症例の報告。症例:16歳女性が両眼の結膜充血で受診した。3か月前に発熱して全身に皮疹が生じ,川崎病と診断された。膝関節痛と腫脹が2週間前から生じた。所見:矯正視力は左右とも1.2で,両眼に軽度の虹彩毛様体炎の所見と乳頭浮腫があった。成人発症Still病と診断した。全身的にプレドニゾロンとメトトレキサートを投与し,ベタメタゾンを点眼した。虹彩毛様体炎は寛解し,乳頭浮腫は軽快した。乳頭浮腫と乳頭神経線維層が軽快する過程の評価には,光干渉断層計により数値化した資料が有用であった。結論:成人発症Still病では,稀ではあるが虹彩毛様体炎や乳頭浮腫が生じることがある。

新型未熟児鈎の作製と使用経験

著者: 関根新 ,   遠藤勝久 ,   田辺直彦 ,   阿部圭哲

ページ範囲:P.1309 - P.1311

要約 目的:新型未熟児鈎を作製し,臨床に使用した報告。対象と方法:新型未熟児鈎を試作し,補助呼吸器を装着している新生児の診療を行い,従来の未熟児鈎と比較した。結果:従来の未熟児鈎では,鼻側では補助呼吸器が障害となり診療が困難になるが,試作した新型未熟児鈎では補助呼吸器を装着したままで十分診療が行えた。結論:新型未熟児鈎は補助呼吸器を装着中の未熟児の診療に有効である。

部分的に著しい低形成を認めた片眼性視神経低形成の1例

著者: 阿部綾子 ,   高橋淳士 ,   長岡泰司 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1313 - P.1317

要約 目的:中枢神経系に異常のない片眼性視神経低形成の症例の報告。症例:正常産で出生し,神経または身体的な発達異常のない4歳男児が右眼の外斜視で受診した。所見:裸眼視力は右光覚なし,左0.9で,右眼にdouble ring signを伴わない視神経乳頭の低形成があった。磁気共鳴画像検査(MRI)では,右側の視神経低形成があり,眼窩部で特に顕著であった。中枢神経系には異常所見はなく,透明中隔も正常であった。結論:視神経低形成では,眼窩内で特に顕著な部分的低形成を示すことがある。

感染性心内膜炎を契機に発症した両眼の前部虚血性視神経症の1例

著者: 大門佳奈美 ,   小山田剛 ,   林英之 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1319 - P.1323

要約 目的:感染性心内膜炎の治療中に前部虚血性視神経症が両眼に発症した症例の報告。症例:73歳男性が左眼の急激な視力低下で受診した。1週間前から発熱し,感染性心内膜炎として抗菌薬の投与を受けていた。高血圧,糖尿病,貧血,腎不全があり,透析中であった。所見:矯正視力は右0.8,左光覚なしで,対光反射に左右差はなかった。両眼の乳頭が蒼白浮腫状で,境界が不鮮明であった。右眼に下方水平半盲があった。蛍光眼底造影で左右眼とも腕-網膜時間が約30秒に延長していた。両眼の前部虚血性視神経症と診断し,ステロイド剤の全身投与を行った。発症から6か月後の現在,右1.2,左0.3の視力を維持している。結論:感染性心内膜炎が前部虚血性視神経症の発症に関与した可能性がある。

150kHzフェムトセカンドレーザーでフラップを作製して施行したLASIKの治療成績

著者: 山村陽 ,   稗田牧 ,   脇舛耕一 ,   中村葉 ,   木下茂

ページ範囲:P.1325 - P.1330

要約 目的:周波数が60と150kHzのフェムトセカンドレーザーでフラップを作製して行ったLASIKの成績の報告。対象と方法:過去16か月間にLASIKを行った40例80眼を対象とした。20例40眼には60kHz,20例40眼には150kHzレーザーを用いた。結果:フラップ作製時間は60kHzでは25.2±0.8秒,150kHzでは16.0±0.9秒で,両者間に有意差があった。裸眼視力,矯正視力,矯正精度,屈折度数,コントラスト感度,高次収差増加量,フラップ厚については両群間に有意差がなく,合併症もなかった。結論:フェムトセカンドレーザーでフラップを作製して行ったLASIKでは,周波数が60と150kHzの間に成績の差がなく,フラップ作製時間のみが後者で有意に短かった。

白内障術後に不満を訴えた眼瞼けいれんの5例

著者: 髙木美昭 ,   小谷博和 ,   黒住浩一 ,   峯克彰 ,   奥田隆章

ページ範囲:P.1331 - P.1335

要約 目的:両眼に白内障手術を受けたあとに強い不満を訴え,その原因が眼瞼けいれんであった5症例の報告。症例:過去18か月間に両眼への白内障手術を224例に行った。術後の屈折と視力が良好で,ほかに疾患がない148症例中,12例が強い不満を訴えた。結果:12例中5例で,当初はドライアイが原因として疑われ,ドライアイに対する治療を行った。男性2例,女性3例で,年齢は67~78歳(平均74歳)であった。A型ボツリヌス毒素による治療が奏効し,白内障手術から平均8.8か月後に眼瞼けいれんが不満の原因であると判明した。結論:白内障手術後に不満を訴える場合には,眼瞼けいれんが原因である可能性がある。

連載 今月の話題

緑内障の網膜電図異常

著者: 町田繁樹 ,   金子宗義

ページ範囲:P.1205 - P.1211

 網膜電図(ERG)には網膜神経節細胞(RGC)に由来する応答が含まれている。これらを記録することで,RGC機能を他覚的に評価できる。これらのRGCの応答は視野検査で得られた網膜感度,網膜神経線維層あるいは視神経乳頭の形態変化と相関する。このことから,ERGに含まれたRGCの応答は緑内障の視機能検査の1つとなる可能性がある。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・20

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―緑内障

著者: 北岡康史

ページ範囲:P.1212 - P.1215

はじめに

 緑内障は古典的には,高眼圧により視神経軸索が篩状板付近で機械的絞扼を受けるために起こる,もしくは脳からの逆行性軸索輸送に乗った神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)がそこでブロックされるため起こるとされている。さらに近年はグリアの活性説,微小循環障害説,炎症性サイトカイン説,免疫異常説,活性酸素説に加え,加齢と遺伝的背景が組み合わさって緑内障は発症すると考えられている。本項では,これら多因子の原因のなかでも,緑内障の病態生理に関与していると考えられている生理活性物質を中心に解説したい。

つけよう! 神経眼科力・17

視野で何がわかるか,視神経疾患

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.1216 - P.1221

はじめに

 CTやMRI画像で,視路の病変が明確に映し出される以前には,対座法,黒板法,Foerster視野計,Goldmann視野計などを利用した視野診断が,視路の局在診断として極めて重要な位置にあった。以前の眼科医は同名半盲,両耳側半盲とそのバリエーションを読む力量を問われたものだ。

 一方,視神経疾患あるいは視神経症といえば,視力低下があり,視野では図1に示すような中心暗点,盲斑中心暗点が出現するというのが相場である。そうした中で,病巣局在診断としての視野の意義はやや低下し,定性視野から定量視野が主流になった今日では,臨床医の関心は疾患ごとに視野に何らかの特異性はないだろうか,そしてそれが臨床診断の根拠のひとつとして使えないだろうかということに移り,それに対応する研究が少なからず行われるようになった。

 本稿ではそうしたものを取り上げながら,視野を用いた特異的臨床診断がどこまで可能かを考えてみたい。

『眼科新書』現代語訳

その5

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1340 - P.1345

『眼科新書』巻之二(後半)

 『眼科新書』第2巻は鼻涙管関係の12疾患を扱う「涙管病篇第四」と,10疾患を扱う「白膜病篇第五」とからなる。白膜とは球結膜のことである。先月号では「涙管病」のうち「大眥潰瘍」までの6疾患を扱ったので,この号では後半の6疾患がその対象である。

 『眼科新書』に載っている119疾患の扱いには,項目により繁簡の差が大きい。ページ数がもっとも多いのは,第4巻にある水晶体病篇第十の「内翳眼」[白内障]の章であり,22丁,すなわち現代風の数え方で44ページが当てられている。

今月の表紙

白点状眼底(左眼)

著者: 掛上謙 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.1223 - P.1223

 症例は56歳,女性。暗所での視力低下を自覚し,当科を受診した。視力は右(1.5),左(1.5)で,前眼部,中間透光体に異常はなかった。眼底カメラ所見では,両眼ともに血管アーケードの外側の網膜,視神経乳頭の色調は正常であったが,黄斑部を除き眼底全体に白点が散在していた。網膜血管の狭細化はみられなかった。OCT所見では,網膜の菲薄化や黄斑変性はなく正常であった。既往歴,家族歴はなかった。

 撮影はトプコン社製眼底カメラTRC-50LX(トプコン社製35mmフィルムカメラMT-10搭載)を用い,画角50°で行った。視神経乳頭がわずかにハレーションを起こしていたが,白点に合わせフラッシュ光量を調整し,後極の色調,明るさに合わせて周辺網膜を撮影した。

やさしい目で きびしい目で・140

2人目の出産,その後の育児や仕事,何とかなるさ!?

著者: 榛村真智子

ページ範囲:P.1339 - P.1339

 「あら,どうしよう」。その数秒後→「まあ,何とかなるさ」。

 本欄の執筆依頼をいただいたとき,原稿締切日がなんと2人目の子供が生まれる予定日の2日前でした! そのときの私の正直な感想が上記です。でも,せっかくいただいたお話ですので,執筆させていただくことにしました。

臨床報告

広範囲の乳頭周囲病変を認めた非典型的多発消失性白点症候群の1例

著者: 岡野喜一郎 ,   酒井勉 ,   神前賢一 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1347 - P.1350

要約 目的:広範囲の乳頭周囲に病変がある非典型的なmultiple evanescent white dot syndrome(MEWDS)の症例の報告。症例:28歳女性が1週間前からの右眼視力低下で受診した。所見:矯正視力は右0.15,左1.2で,右眼には乳頭周囲に黄斑を含む8乳頭径大の白色病変があり,その周辺部には1/2乳頭径以下で大小不同の融合性白色病巣が多数散在していた。蛍光眼底造影では病変部に一致して網膜深層から網膜色素上皮にかけての過蛍光が早期から出現した。視野には右眼の中心暗点と盲点の拡大があった。2週間後に眼底の白色病変が消失し,MEWDSと診断した。視力は55週間後に回復した。結論:本症例の初診時の眼所見と視機能回復の過程はMEWDSとしては非典型的であった。

真菌性眼内炎による牽引性網膜剝離に対し網膜切除により網膜下肉芽腫を摘出した1例

著者: 上田麻奈美 ,   馬場高志 ,   船越泰作 ,   山崎厚志 ,   井上幸次 ,   井東弘子

ページ範囲:P.1351 - P.1355

要約 目的:牽引性網膜剝離が生じた真菌性眼内炎に対し,網膜切除と網膜下肉芽腫を摘出した症例の報告。症例:57歳男性が左眼の眼内炎で紹介され受診した。12週間前に食道癌の手術と経中心静脈高カロリー輸液を受け,真菌感染による熱発があった。所見:矯正視力は右1.0,左0.8で,左眼に硝子体混濁と下鼻側周辺部に牽引性網膜剝離を伴う腫瘤があった。抗真菌薬が奏効せず,13日後に硝子体手術を行った。牽引性網膜剝離を復位させるために腫瘤の周囲の網膜を切除し,肉芽腫様の腫瘤を切除した。液空気置換,光凝固とガスタンポナーデを行い,牽引性網膜剝離は復位した。摘出した肉芽腫にはリンパ球と形質細胞の浸潤があり,真菌は検出されなかった。結論:真菌性眼内炎において抗真菌薬が使われていても,眼内肉芽腫形成による牽引性網膜剝離があれば,消炎と網膜復位のために硝子体手術と肉芽腫切除が奏効することがある。

書評

基礎から読み解くDPC 第3版―実践的に活用するために

著者: 秦温信

ページ範囲:P.1355 - P.1355

 松田晋哉氏の著書『基礎から読み解くDPC第3版―実践的に活用するために』が刊行された。著者は評価システムともいうべきDPCについて設計・開発から普及まで厚生労働省の作業を中心的に主導してきた研究の第一人者である。

 初版から筆者も含め当院職員が利用しており,対象病院にとっては診療や病院運営の見直しや今後の方向を考える際の参考書として,新たに導入を検討されている病院には座右の書としてぜひ購入をお勧めしたい。

文庫の窓から

『内外傷弁惑論』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1356 - P.1358

後世派の起源,李東垣

 今回は李東垣(1180-1251)の『内外傷弁惑論』を取り上げる。わが国では,江戸時代に至って後世派と称する医家の集団ができるが,その源となるのはこの李東垣と朱丹渓のいわゆる「李朱医学」である。服部敏良『室町安土桃山時代医学史の研究』(参考文献1)第5章には「当代医学の概況」として,次のように述べられている。

 「従来の医学は,ただ症状を知り,これに適合する治方を挙げると言うきわめて単純な局方医学に依存し,医師自らが経験し,勘案して治療するごときことはほとんどみられなかった。

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欧文目次

ページ範囲:P.1202 - P.1203

べらどんな もっと仮説を

著者:

ページ範囲:P.1215 - P.1215

 正しい学説を提唱しても,すぐに学界で承認されるとは限らない。その典型例がウェーゲナー(Alfred Wegener,1880-1930)が提唱した大陸移動説である。

 世界地図を見ていると,アフリカの西海岸と,これに対する南アメリカの東海岸の凹凸の具合がよく似ている。この両大陸が昔は1つだったのではと思いたくなるが,これを理論化したのがウェーゲナーである。

第29回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1224 - P.1224

 第65回日本臨床眼科学会(東京)会期中の2011年10月7日(金)~10日(月)に開催される「第29回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな 肥満のすすめ

著者:

ページ範囲:P.1317 - P.1317

 今から半世紀ばかり前には,「緑内障患者への生活指導」があった。緑内障が治るわけではないが,視神経や視野にこれ以上の障害を与えないための注意である。

 コーヒーは飲んではならない。開放隅角緑内障ではカフェインを摂取すると一過性に眼圧が上昇する。紅茶と緑茶はよろしかったようだ。

ことば・ことば・ことば ゲージ

ページ範囲:P.1346 - P.1346

 英語は,中学,高校,大学と,すくなくとも8年間は教わり,そのあと何十年も読んだり書いたりしています。「英語ならなんでも知っている」と思いたくなりますが,意外なところに穴があるものです。

 「ガーゼを英語ではどう言うのか」が急に気になりました。これは少し古くられ,gazaと呼ばれていました。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1359 - P.1366

アンケート

ページ範囲:P.1369 - P.1369

投稿規定

ページ範囲:P.1370 - P.1370

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1371 - P.1371

希望掲載欄

ページ範囲:P.1372 - P.1372

次号予告

ページ範囲:P.1373 - P.1373

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.1374 - P.1374

 『臨床眼科』8月号をお届けする。今号でも第64回臨床眼科学会講演集を特集しており,特にラニビズマブおよびベバシズマブ関連の力作が多い。有田論文では12例21眼の重症未熟児網膜症に対してのベバシズマブ投与の有用性に関する検討がなされており,貴重な報告である。ベバシズマブのような抗VEGF抗体によって重症未熟児網膜症の治療予後が改善すれば,眼科診療において大きな進歩となると考えられるが,そうはいっても超低出生体重児に対して投与するのは副作用発現の可能性を考慮すると,やはり勇気がいるものである。このような詳細な症例報告が多く蓄積されていくことにより,より安全かつ有効な使用法が明らかになっていくことが期待される。その意味で,齋藤論文にあるような血清IGF-1濃度およびVEGF濃度の経時的測定データも貴重な資料になると思われる。一方,松岡論文では多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)に対するベバシズマブの有用性が報告されており,これもまた重要な知見である。加齢黄斑変性の治療の主役は完全にラニビズマブとなったが,川上論文,岩渕論文,藤原論文それぞれにおいてアプローチの異なる解析がなされていて興味深いものとなっている。

 そのほかにも多くの講演論文や投稿論文,連載記事を読むことができる。「今月の話題」で町田先生が執筆されている緑内障の網膜電図異常に関するレビューは,近年OCTで注目を集めることになった緑内障早期における網膜神経節細胞異常に関する研究の基礎となるものであり,これまであまりERGにかかわりがなかったというか,あえて避けていた人間(私である)としては,かなり理解するのに苦労したが非常にためになるものであった。どうか皆様もじっくり8月号を楽しんでください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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