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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科65巻9号

2011年09月発行

雑誌目次

特集 第64回日本臨床眼科学会講演集(7) 原著

滲出型加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内投与の成績

著者: 池森左也佳 ,   加藤亜紀 ,   安川力 ,   森田裕 ,   芦苅正幸 ,   高瀬綾恵 ,   吉田宗徳 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1407 - P.1411

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ硝子体内投与の治療成績の報告。対象と方法:過去12か月間にラニビズマブ硝子体内投与を行った94例97眼を対象とした。平均年齢は74.9±9.3歳で,典型的AMDが68眼,ポリープ状脈絡膜血管症が21眼,網膜血管腫状増殖が8眼であった。視力はlogMARで評価し,0.3以上の変化を改善または悪化とした。全例で6か月以上の経過を追った。結果:術前平均視力は0.68±0.40,術後の最高平均視力は0.41±0.40で,有意差があった(p<0.05)。光干渉断層計で測定した中心窩網膜厚は有意に減少した(p<0.05)。経過中に光線力学的療法を14眼に行った。結論:AMDに対するラニビズマブ硝子体内投与後6か月間に,平均視力が有意に改善し,中心窩網膜厚が有意に減少した。

円錐角膜に対する全層角膜移植と深層表層角膜移植の術後経過の比較

著者: 植松恵 ,   横倉俊二 ,   大家義則 ,   目黒泰彦 ,   針谷威寛 ,   布施昇男 ,   西田幸二

ページ範囲:P.1413 - P.1417

要約 目的:円錐角膜に対する全層角膜移植と深層表面角膜移植の成績を比較した報告。対象と方法:過去3年間に角膜移植を行った27例27眼を対象とした。16眼には全層移植,11眼には深層表面移植を行った。視力はlogMARで評価し,6か月以上の経過を追った。結果:術後の最終矯正視力は,全層角膜移植群が有意に良好であった(p<0.05)。角膜形状については,surface regularity index(SRI)のみが全層角膜移植群で有意に高値であり,それ以外には両群間に差はなかった。結論:術後の最終矯正視力は全層角膜移植群が深層表面角膜移植群よりも良好であったが,これ以外には差はなかった。

間欠性外斜視におけるコントロールスコアの信頼性の検討

著者: 大矢吉美 ,   前田真理子 ,   片山美幸 ,   磯谷実希 ,   矢ケ崎悌司 ,   津久井真紀子

ページ範囲:P.1419 - P.1423

要約 目的:間欠性外斜視に対するコントロールスコアの信頼性の検討。対象と方法:間欠性外斜視15例を対象とした。年齢は6~36歳で中央値が9歳である。コントロールスコアとしてMayo Clinic Office-based Scale(MCS)とNewcastle Control Score(NCS)を用いた。2名の視能訓練士が同時に計測したのち,医師が再計測した。各スコアの検者間の信頼性と両スコア間の相関をSpearmanの順位相関係数で検討した。結果:両スコアとも,視能訓練士2名の点数間に有意な相関があった(MCS:r=0.99,p=0.0002。NCS:r=1,p=0.0003)。両スコアとも視能訓練士2名と医師の点数との間に有意な相関があった(MCS:r=0.83,p=0.0018。NCS:r=0.98,p=0.0004)。MCSとNCSのスコアによる点数間に有意な相関があった(r=0.85,p=0.0020)。結論:MCSとNCSのスコアには相互間に相関があり,検者間の信頼性が高く,間欠性外斜視のコントロールを評価する共通の基準となりうる。

上転障害以外に眼所見が乏しかった甲状腺眼症の2例

著者: 伊藤友香 ,   西田保裕 ,   村木早苗 ,   柿木雅志 ,   大路正人

ページ範囲:P.1425 - P.1429

要約 目的:上転障害を主な眼症状とする甲状腺眼症の2症例の報告。症例と所見:それぞれ65歳と67歳男性で,1例には1か月前から複視があり,左眼上転障害のみがあった。眼窩の磁気共鳴画像検査(MRI)で下直筋と内直筋の腫大があり,甲状腺眼症と診断された。他の1例は4年前に他医で右眼の動眼神経麻痺と診断されていた。右眼の上転障害のみがあり,MRIで右下直筋の腫大があり,甲状腺眼症と診断された。結論:甲状腺眼症には眼球運動障害が主症状である症例がある。眼球運動障害の原因精査では,MRIを含む眼窩の画像診断が重要である。

15年間のVogt-小柳-原田病の検討

著者: 井上留美子 ,   田口千香子 ,   河原澄枝 ,   山川良治

ページ範囲:P.1431 - P.1434

要約 目的:過去15年間の原田病自験例の報告。対象と方法:2009年までの15年間に初期治療を行った原田病117例を対象とした。男性42例,女性75例で,年齢は15~76歳(平均45歳)である。結果:初期治療として,ステロイド大量漸減療法を55例,ステロイドパルス療法を53例,ステロイド点眼を7例,ステロイド内服を2例に行った。再発と再燃は33例にあり,うち22例が遷延化した。最終視力0.5以下は18眼にあり,再発,再燃または遷延例に多かった。複数回の再発または再燃と夕焼け眼底は,ステロイド大量漸減療法を行った症例に多かった。結論:再発,再燃または遷延化した原田病では,最終視力が不良になる可能性が高い。複数回の再発または再燃と夕焼け眼底は,ステロイドパルス療法よりもステロイド大量漸減療法を行った症例に多かった。

再発翼状片に対する初回手術の影響

著者: 髙山徹也 ,   佐々木香る ,   宇野毅 ,   出田隆一 ,   真島行彦

ページ範囲:P.1435 - P.1440

要約 目的:再発翼状片の初回手術による影響の検討。対象と方法:再発翼状片28例29眼(21眼は再手術施行)を対象とし,初回術式と再発部位,再発までの日数,ステロイド点眼の種類と期間を検討した。再手術症例では術式,直筋を巻き込む血管線維性組織による高度癒着の有無,ステロイド点眼の種類と期間・ステロイド内服,再再発につき検討した。結果:再発はすべて結膜弁辺縁から開始しており,再発まで平均3.7か月,初回術後デキサメタゾンないしベタメタゾン点眼期間は平均1.8か月であった。再手術21眼中17眼に直筋を巻き込む血管線維性組織による高度癒着があった。結論:翼状片初回手術は直筋周囲への侵襲の回避,術後の十分な消炎,結膜弁辺縁に注意した経過観察が再発予防に重要である。

全層角膜移植後拒絶反応に関する要因の検討

著者: 北崎理沙 ,   梅田尚靖 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1441 - P.1444

要約 目的:全層角膜移植後の拒絶反応に関係する諸要因について多変量解析を行った結果の報告。対象と方法:過去5年間に行った全層角膜移植51例54眼を対象とした。男性28眼,女性26眼で,年齢は13~84歳(平均57歳)である。移植角膜は31眼では国内から,23眼では国外から得られた。結果:拒絶反応は54眼中10眼(18.5%)に生じ,1年生存率は81.4%,3年生存率は66.8%で,提供者が国内または国外であるかは関係しなかった。50歳以上の被移植者では拒絶反応が有意に低かった(p<0.05)。これ以外の8要因は拒絶反応の発症と有意な関連がなかった。結論:全層角膜移植後の拒絶反応は,50歳以上の被移植者で有意に低かった。

硝子体手術既往のある血管新生緑内障に対する経毛様体扁平部挿入型インプラントの短期成績

著者: 植木麻理 ,   柴田真帆 ,   小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1445 - P.1449

要約 目的:硝子体手術後に発症した血管新生緑内障に対する経扁平部インプラント挿入の短期成績の報告。対象と方法:Ahmedの緑内障インプラントを挿入した4例4眼を対象とした。3例に増殖糖尿病網膜症,1例に網膜中心静脈閉塞症があり,硝子体手術が行われ,血管新生緑内障が発症していた。インプラント挿入後4~11か月(平均8.8か月)の経過を追った。術前眼圧は平均33.5±4.4mmHgであった。結果:3眼で術後一過性に眼圧が上昇したが,眼球マッサージで下降した。観察期間の最終時の眼圧は,3眼では無投薬,1眼では点眼のみで21mmHg以下になった。結論:硝子体手術の既往がある眼に発症した血管新生緑内障に対し,経扁平部緑内障インプラント挿入で眼圧下降が得られた。術直後の眼圧上昇に眼球マッサージが奏効した。

増殖糖尿病網膜症術後に残存増殖膜の牽引により黄斑円孔が生じた1例

著者: 塩野陽 ,   向後二郎 ,   徳田直人 ,   井上順 ,   高木均 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1451 - P.1454

要約 目的:増殖糖尿病網膜症への術後に黄斑円孔が生じた症例の報告。症例:50歳女性が糖尿病網膜症として紹介され受診した。5年前に糖尿病と診断され,無治療であった。所見:両眼とも約-2Dの近視があり,矯正視力は左右眼とも0.7であった。両眼に汎網膜光凝固を行った。1年後に増殖糖尿病網膜症と硝子体出血のため視力が低下し,硝子体手術を行った。左眼では中心窩付近のepicenterを完全に除去せず,右眼では内境界膜剝離を併用し,中心窩近くのepicenterを除去した。左眼には手術の19日後に黄斑円孔網膜剝離が発症し,再手術を行った。右眼には術後に黄斑円孔は生じなかった。結論:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の黄斑円孔には,中心窩近くの線維血管性膜のepicenterの牽引が関与した可能性があり,内境界膜剝離がその予防に有効であると思われた。

眼球破裂眼の術後視力に対する術前因子の重回帰分析

著者: 西出忠之 ,   早川夏貴 ,   加藤徹朗 ,   野村英一 ,   安原美紗子 ,   安藤澄 ,   上本理世 ,   水木信久

ページ範囲:P.1455 - P.1458

要約 目的:眼球破裂後の術後視力に関連する術前の諸因子を解析した報告。対象と方法:過去5年間に眼球破裂で受診した26例26眼を検索した。男性14例,女性12例で,年齢は30~93歳(平均68歳)である。平均年齢は男性よりも女性が17歳高かった。外傷の原因は転倒50%,打撲35%などであった。初診時視力は,光覚なし5眼,光覚弁11眼,手動弁8眼,指数弁以上2眼であった。年齢,創傷範囲,術前視力,手術回数,前房出血,硝子体出血,網膜剝離,脈絡膜下出血を目的変数とし,重回帰分析を行った。結果:術前の網膜剝離の程度のみが術後視力と有意に相関した。結論:眼球破裂では,術前の網膜剝離の程度から術後視力を予測することができる。

正常な電気生理学的所見で白点状眼底様所見を呈する1例

著者: 江本宜暢 ,   堀田順子 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.1459 - P.1464

要約 目的:高解像度光干渉断層計(OCT)で白点状眼底様の眼底所見を呈し,電気生理学的に正常な症例の報告。症例:65歳女性が健康診断で緑内障様の視野異常を発見され,精査を求めて受診した。所見:矯正視力は左右眼とも1.5で,両眼の眼底に無数の白点があった。蛍光眼底造影で白点の部位に一致して淡い過蛍光があった。視野,暗順応,網膜電図には異常がなく,高解像度光干渉断層計では網膜色素上皮から視細胞の内外節接合部に向かう高反射があった。以後5年間の経過中に所見の変化はない。結論:本症例は停在性の白点状眼底様の眼底所見を呈し,視機能には異常がなく,網膜色素上皮に変性があることが推定される。

乳癌術後のリンパ節腫大で転移巣との鑑別に眼所見が寄与したサルコイドーシスの2例

著者: 野田康子 ,   長谷川善枝 ,   田中正則

ページ範囲:P.1465 - P.1471

要約 目的:乳癌への手術後にリンパ節腫大があり,精査の結果サルコイドーシスと判明した2症例の報告。症例:51歳と57歳の女性が,それぞれ2年前と6年前に乳癌の手術を受けた。陽電子放射線撮影(PET)とコンピュータ断層撮影(CT)で胸部などに造影剤の集積があり,癌転移が疑われた。所見と経過:両症例とも眼科的にサルコイドーシスを強く示唆する所見があり,1例では組織診断,他の1例では臨床診断によるサルコイドーシスとされた。それぞれ15か月と12か月後の現在まで乳癌の再発はなく,経過は良好である。結論:乳癌手術の既往とリンパ節腫大がある2症例で,眼所見からサルコイドーシスであることが判明した。

A型インフルエンザ罹患後に視神経炎症状のみを呈した急性散在性脳脊髄炎の1例

著者: 石川友佳子 ,   山口昌彦 ,   坂根由梨 ,   松田久美子 ,   林正俊 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.1473 - P.1476

要約 目的:A型インフルエンザ罹患後に視神経炎のみを呈した急性散在性脳脊髄炎の症例の報告。症例:8歳女児が10日前からの両眼視力障害で受診した。40日前にA型インフルエンザに罹患していた。所見と経過:視力は両眼とも眼前指数弁で,両眼に乳頭の発赤腫脹があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で両側の非対称性の散在性脱髄性病変があった。他には神経学的異常はなく,インフルエンザA抗体価が上昇していた。急性散在性脳脊髄炎と診断し,ステロイドのパルス療法を開始した。20日後に左右眼とも視力は1.2に改善し,乳頭の腫脹と脱髄性病変も軽快した。以後11か月後の現在まで再発はない。結論:本症例は視神経炎のみを症状とする急性散在性脳脊髄炎と考えられる。

眼腫瘍患者における視覚関連QOLの検討

著者: 増田綾美 ,   平岡孝浩 ,   岡本芳史 ,   岡本史樹 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.1477 - P.1482

要約 目的:眼腫瘍患者での視覚に関連した生活の質(QOL)の評価。対象と方法:眼腫瘍患者66例を対象とした。男性35例,女性31例で,年齢は20~89歳(平均58歳)である。26例に悪性腫瘍があり,内訳はリンパ腫16例,脂腺癌5例,基底細胞癌3例などであった。40例に良性腫瘍があり,内訳は母斑8例,囊胞8例,乳頭腫6例などであった。QOLはVFQ-25日本語版で評価した。健康人91例を対照とした。結果:悪性腫瘍群では対照群よりも視覚関連QOLが低く,総合得点と下位尺度における自立と心の健康で有意差があった(p<0.05)。眼窩腫瘍群では結膜または眼瞼腫瘍群よりも近見視力と心の健康が有意に低下し,腫瘍の大きさとQOLとには有意な負の相関があった(p<0.05)。結論:悪性腫瘍患者では視覚関連QOLが低い。眼窩腫瘍では結膜または眼瞼腫瘍よりもQOLが低い。腫瘍が大きいほどQOLが低い。

血管内治療で改善した頸動脈海綿静脈洞瘻の2例

著者: 権田恭広 ,   飯田裕太郎 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.1483 - P.1487

要約 目的:血管内治療が奏効した頸動脈海綿静脈洞瘻の2症例の報告。症例:それぞれ69歳男性と85歳女性で,片眼の結膜浮腫と著明な血管蛇行があり,眼球運動障害と眼圧上昇があった。1例には1か月前,他の1例には4日前に眼症状が生じた。両症例とも脳血管造影で頸動脈海綿静脈洞瘻と診断され,カテーテルによる血管内治療で眼症状が軽快した。結論:頸動脈海綿静脈洞瘻にはカテーテルによる血管内治療が奏効する。その診断では,眼症状から脳血管障害を疑うことが重要である。

トリアムシノロンアセトニド局所注射が著効した甲状腺眼症による上眼瞼腫脹の1例

著者: 柴智子 ,   三戸秀哲 ,   井出醇 ,   奥島健太郎 ,   眞野俊治 ,   安積淳

ページ範囲:P.1489 - P.1492

要約 目的:甲状腺眼症による眼瞼腫脹にトリアムシノロンアセトニドの局所注射が奏効した症例の報告。症例:54歳女性が3か月前からの右眼上眼瞼腫脹で受診した。所見:右眼の上眼瞼腫脹とGraefe徴候があり,眼球突出度は左右眼とも10mmであった。抗甲状腺ホルモンレセプタ抗体値の上昇があり,甲状腺眼症と診断した。トリアムシノロンアセトニド40mgを上眼瞼円蓋部結膜下に注射した。1週間後から眼瞼腫脹は軽減しはじめ,2か月後には前頭眼瞼溝が明瞭化し,投与から7か月後の現在まで再発はない。結論:甲状腺眼症による眼瞼腫脹にトリアムシノロンアセトニドの局所注射が奏効した。

両側涙腺腫脹を生じたIgG4関連涙腺炎の2例

著者: 中村洋介 ,   武田憲夫 ,   八代成子 ,   星本和種 ,   高橋葉子 ,   中谷行雄 ,   麻薙薫 ,   山本修一 ,   田山二朗

ページ範囲:P.1493 - P.1499

要約 目的:両側の涙腺腫脹を呈した抗免疫グロブリンG4(IgG4)関連涙腺炎の2症例の報告。症例:症例は68歳女性と69歳男性で,1例は両側の上眼瞼と顎下腺腫脹,他の1例は片側の上眼瞼腫脹で受診した。両症例とも磁気共鳴画像(MRI)で両側の涙腺腫脹があった。1例では顎下腺の生検でリンパ球と形質細胞のびまん性浸潤,他の1例では摘出した涙腺にリンパ組織の過形成があり,両症例とも免疫染色で多数のIgG4陽性細胞があった。両症例とも血清IgG4値が高値を示した。1例は副腎皮質ステロイド薬の経口投与で改善し,他の1例は無治療で29か月間悪化はない。結論:両側の涙腺腫脹がある症例では,血清IgG4の測定と,涙腺または顎下腺の生検がIgG4関連涙腺炎の診断に有効である。

急性涙囊炎により自然寛解した涙囊ヘルニア

著者: 松本直 ,   権田恭広 ,   杤久保哲男 ,   枝松秀雄

ページ範囲:P.1501 - P.1504

要約 目的:急性涙囊炎を契機として先天性涙囊ヘルニアが自然寛解した3症例の報告。症例:それぞれ生後4日,10日,24日の女児が片側性の涙囊部腫脹で受診した。いずれも妊娠と分娩の経過に問題はなかった。諸検査の結果,先天性涙囊ヘルニアと診断した。それぞれ5日後,9日後,18日後に涙囊部の発赤腫脹などの急性涙囊炎の症状が出現し,それに伴って先天性涙囊ヘルニアが自然寛解した。以後,再発はない。結論:急性涙囊炎が発症した結果として囊腫の内圧が上昇し,鼻腔に破囊して自然寛解したと推定される。

複視を訴え眼科を受診する患者の原因と特徴

著者: 太田勲男 ,   片岡信也

ページ範囲:P.1505 - P.1510

要約 目的:複視があり,眼科をまず受診する患者の原因と特徴の報告。対象と方法:過去3年間に複視を訴え,当眼科を受診した174例を対象とした。最初に受診した医療施設が眼科であるか否かで2群に分け,眼球運動障害,複視の原因疾患,全身随伴症状を調査した。結果:全身随伴症状を伴う複視患者では,15%が眼科を初診し,50%がその他の科を受診していた。外転神経麻痺の患者では71%が眼科を初診した。非外傷性外眼筋麻痺の67%と脳動脈瘤の100%が眼科を初診した。脳梗塞では21%,外傷性眼運動神経麻痺では15%が眼科を初診した。脳腫瘍患者の56%と脳動脈瘤患者の57%に外転神経麻痺があった。結論:複視を訴えて眼科を受診する患者,とくに外転神経麻痺では,悪性疾患または緊急疾患が含まれていることがあるので,注意を要する。

連載 今月の話題

酸化ストレスと眼疾患

著者: 谷戸正樹

ページ範囲:P.1383 - P.1393

 酸化ストレスとは,生体内の高分子(脂質・蛋白質・核酸)が,酸化還元反応により修飾を受け,その機能が変化することである。臨床検体での酸化ストレスマーカー測定により,種々の眼疾患への酸化ストレスの関与が指摘されている。また,無作為化割付試験により,眼疾患への抗酸化治療の効果について知見が集積されつつある。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・21

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―網膜色素変性

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1394 - P.1397

はじめに

 本項では,網膜色素変性と生理活性物質とのかかわりを視細胞保護の観点から簡単にまとめてみたい。

 網膜内では,いろいろな細胞同士がさまざまな生理活性物質を介して情報や指令を伝達しあっている。これらの因子は細胞増殖因子,サイトカイン,ケモカインなど多種類に及び,それぞれについて日進月歩で研究が進行している。

 一方,網膜色素変性は視細胞や網膜色素上皮細胞に特異的ないし,かなり特異的に発現する遺伝子の異常(多くは変異)によって,視細胞に構造上または機能上のストレスがかかる病気である。そのストレスがある時点で閾値に達したときに,細胞死(アポトーシス)の機構にスイッチが入ることにより視細胞変性が始まると考えられる。網膜全体が変性に陥ってしまうような状況では本来視細胞を保護しているようなさまざまな生理活性物質の発現量も減少し,視細胞死が加速度的に促進されることも考えられる。つまり,生理活性物質は網膜色素変性の根本的な原因ではないものの視細胞変性の進行度を修飾する因子となっている。これを逆手にとれば,網膜色素変性の治療法開発という目標にとって,生理活性物質を利用する視細胞保護という観点も1つの重要な柱となりうる。

 視細胞保護の要点は細胞死(アポトーシス)をいかに抑制するかという点である。この作用をもつことが知られるいくつかの増殖因子のうち,線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor 2:FGF2),毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor:CNTF),色素上皮由来因子(pigment epithelium-derived factor:PEDF)と血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)についてその作用をまとめる。また,杆体から分泌される錐体保護因子(rod-derived cone viability factor:RdCVF)についても最近の知見を紹介する。

つけよう! 神経眼科力・18

視神経疾患における血液からの情報

著者: 中馬秀樹

ページ範囲:P.1398 - P.1403

まずは臨床診断が大事

 のっけからこのようなことを言うのは恐縮ですが,血液検査だけに頼ってはいけません。正確な診断のためには,まず臨床診断をしっかりすることが大切です。

 例えば,感度が40%,特異度が96%の検査があるとしましょう。病歴や臨床所見による検査前確率が90%である場合,その検査が陽性であれば検査後確率は99%に上がり,検査が陰性であれば85%になります。検査前確率が0.5%の場合,検査が陽性であれば検査後確率は5%で,検査が陰性であれば0.3%になります。検査前確率が50%の場合,検査が陽性であれば検査後確率は91%に上がり,検査が陰性であれば38%になります。

『眼科新書』現代語訳

その6

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1512 - P.1519

『眼科新書』巻之二(続々)

 前号に掲載した『眼科新書』巻之二の十八折裏までが「涙管病篇第四」で,12疾患が扱われている。十九折表から三十三折裏までの30ページが「白膜病篇第五」である(「白膜」とは結膜のこと)。

 『解体新書』(1774)では,「眼を包む諸膜」について,「上膜者白也。又謂之結膜。」(上膜ハ白シ。コレヲマタ結膜トイフ。)となっている。しかし,『眼科新書』では「結膜」ではなく,「白膜」と呼んでいる。原書では,結膜はbindvlies(蘭),weisse Augenhaut(独),membrana conjunctiva(羅)である。それぞれ「結膜」,「白膜」,「結膜」の意味になる。

書評

基礎から読み解くDPC 第3版―実践的に活用するために

著者: 堺常雄

ページ範囲:P.1404 - P.1404

 2003年にDPCが特定機能病院に先行導入されてから8年が過ぎ,大きな変革の時期を迎えている。DPCの変遷に合わせて刊行されてきた本書も第3版となり,その存在意義は版を重ねるごとに大きくなっている。今後の大きな変革を予期させる2010年度改定後に刊行された本書は,サブタイトルもこれまでの『正しい理解と実践のために』から『実践的に活用するために』に変わり,著者の意気込みが感じられる。

 病院の運営でいちばん大切なのは診療の質と経営の質であり,2つが相まって初めて健全な医療を提供することが可能である。公的病院が次々と独立法人化し,民間病院も社会医療法人化されるなかでこのような考えはますます重要になってきている。著者はまえがきで「……したがって,それを用いることで臨床面・経営面で各施設を共通の視点から評価することが可能……」と述べているが,まさにDPCが良質な医療を担保するうえでのツールであることを示しているものといえる。

今月の表紙

von Recklinghausen病

著者: 山口純 ,   天野史郎

ページ範囲:P.1405 - P.1405

 症例は33歳,男性。幼少時にvon Recklinghausen病の診断を受け,1996年に当院形成外科から精査目的で紹介され受診した。現在の視力は右(1.2),左(0.5)で,眼圧は右13mmHg,左19mmHg。Lisch虹彩結節以外に前眼部・中間透光体に異常はなく,眼底にも検眼鏡的には明らかな異常はみられなかった。初診時から左眼視力は不良であった。

 前眼部写真はTOPCON社製スリットランプSL-D7にNikon社製デジタルカメラD2xを搭載したもので,Lisch虹彩結節が確認できるように倍率を上げて撮影した。カラー眼底写真はKowa社製眼底カメラRC-XV3で,IR(赤外)光写真はHeidelberg Engineering社製の共焦点レーザー走査型眼底検査装置Heidelberg Retina Angiograph 2(HRA2)で撮影を行った。

やさしい目で きびしい目で・141

教科書を信じてはいけません

著者: 寺田佳子

ページ範囲:P.1511 - P.1511

 「教科書を信じてはいけません」。もう30年ほど前のことだが,中学校に入って初めての理科の授業で聞いた一言が今も忘れられない。先生は物理学が専門だった。ちょうど私のクラスの担任だったからその他にもたくさんの言葉を交わしたはずなのに,この一言だけがずっと心に残っている。「自然科学は,これまでにわかったことを最も辻褄が合うように説明しているお話なのです」という先生を,「変な人!」と思っていた。また,その学校は,教員を目指す教育実習生をたくさん受け入れていた。学生さん達の努力を間近で見ていて,自分にはとても教員は務まらないと子供心に強く感じていた。

 ところが,医師となり,年月が流れ,気がついてみると学生さんの前や看護学校などで講義をする機会をいただくようになった。大学病院でなくても身近には「研修医」と呼ばれる若者がいて,私は指導医と呼ばれる立場にもなった。自分では何気なくしゃべった一言を必死に赤いペンでメモしている人の姿を見ると,「嘘かもしれないよ,鵜呑みにしちゃだめよ」と私の心の声はささやく。さすがに講義中にそんなことは言えないので,もっともらしくしゃべる。一生懸命聴いてくれるのは嬉しいが,実はちょっと怖い。それなりに話の準備はしてきたつもりなのに,日々の診療でも当たり前になっていることなのに,素朴な質問が一番恐ろしい。理由を知らず,結論だけを記憶してしまっていることが,多分たくさんある。忙しさにかまけて,自分で考えることを忘れてしまっているかもしれない。世の中にはまだわからないことが山ほどあって,でも目の前の患者さんの希望もできるだけかなえたい。去年まではあきらめないといけなかったけど,今は新しい薬があることもある。反対に,これまでみんなが良いと思っていたのに,気付いたら「効果なし」とばっさり斬り捨てられてしまったこともある。私が知らないだけかもしれない。科学は日々進歩している(はず)。医療は単なる自然科学ではないが,医学を正しく理解したい。目の前の患者さんも,もしかしたら病院に来てちょっと緊張して,言いたいことの半分もしゃべれていないかもしれない。ほんとは別に気になることがあるのかもしれない。

臨床報告

高齢者の中心性漿液性脈絡網膜症様所見を呈した原田病の1例

著者: 小池直子 ,   尾辻剛 ,   中内正志 ,   木村元貴 ,   西村哲哉 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1523 - P.1529

要約 目的:初診時に高齢者に特有な中心性漿液性脈絡網膜症に似た所見を示し,経過とともに原田病の典型像を呈した報告。症例:62歳男性が6か月前からの右眼の変視症と視力低下で紹介され受診した。所見:矯正視力は右0.6,左1.2であった。右眼黄斑部に漿液性網膜剝離があり,蛍光眼底造影で1個の点状の過蛍光と網膜下への強い色素貯留があった。インドシアニングリーン蛍光眼底造影早期に充盈遅延があった。光干渉断層計で漿液性網膜剝離とフィブリン様の中等度反射があった。無治療での経過観察で,7か月後に右眼視力が1.0に回復したが,左眼に網膜剝離が生じ,両眼に乳頭浮腫が起こった。その2か月後に網膜剝離は消褪し,さらに3か月後には両眼が夕焼け状眼底になった。結論:原田病の初期では,高齢者に特有な中心性漿液性脈絡網膜症に似た所見を呈することがある。

片眼特発性黄斑円孔症例のHaidinger's brushesの認知形態

著者: 鵜飼喜世子 ,   平井淑江 ,   伊藤逸毅 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1531 - P.1537

要約 目的:特発性黄斑円孔患者での患眼と健眼によるHaidinger brushの認知形態の比較。対象と方法:特発性黄斑円孔に対する硝子体手術を受けた20例20眼を対象とした。男性6例,女性14例で,年齢は52~71歳(平均64歳)である。Haidinger brushの認知形態をコージナトールで調べ,視力と光干渉断層計の所見を術前後で比較した。結果:Haidinger brushの認知は,術前後を通じ,不可,ぼける,中心欠損,ずれる,正常の5型があり,経過を通じて一定の段階を踏む傾向があった。手術から6か月以上が経過した症例の視力は良好で,すべて“ずれ”または“正常”になった。Haidinger brushの認知形態と光干渉断層計による所見には相関がなかった。結論:特発性黄斑円孔でのHaidinger brushの認知形態は,黄斑円孔の治癒過程と連動している可能性がある。

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欧文目次

ページ範囲:P.1380 - P.1381

べらどんな ピンク

著者:

ページ範囲:P.1423 - P.1423

 なでしこジャパンの優勝はすばらしい快挙であったが,日本人のほとんどは金メダルを予想していなかった筈である。

 日露戦争でも同じようなことがあった。日本海海戦で,東郷平八郎司令長官の連合艦隊がロシヤのバルチック艦隊に完勝したのがそれである。

ことば・ことば・ことば セシウム

ページ範囲:P.1522 - P.1522

 色彩と関係がある名前がついた元素がいくつかあります。

 「そのものズバリ」なのがクロム(chromium;Cr)でしょうか。「色」という意味だからです。精製されたクロムは銀白色の金属ですが,その化合物が赤になったり青になったりするので命名されました。フランス革命が終わりかけた1797年に発見されました。

べらどんな 日本住血吸虫

著者:

ページ範囲:P.1537 - P.1537

 ヒトに感染する熱帯病のなかで,頻度がもっとも高いのがマラリアである。2番目が住血吸虫症で,2億人の患者がいるという。

 その日本住血吸虫Schistosoma japonicumの話があちらの週刊誌に出ていた。ただし日本ではなく,中国のことである。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1539 - P.1547

アンケート

ページ範囲:P.1549 - P.1549

投稿規定

ページ範囲:P.1550 - P.1550

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1551 - P.1551

希望掲載欄

ページ範囲:P.1552 - P.1552

次号予告

ページ範囲:P.1553 - P.1553

あとがき

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.1554 - P.1554

 『臨床眼科』の2011年9月号をお送りします。この文を書いている現在は夏の真っ盛りで,東京も猛暑日が続いています。9月号が発行されるころにはこの酷暑からも解放されている事でしょう。

 9月号は,6本の連載コーナー,2本の臨床報告,19本の臨床眼科学会原著からなります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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