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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科66巻11号

2012年10月発行

雑誌目次

特集 オキュラーサーフェス診療アップデート

ページ範囲:P.3 - P.3

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.5 - P.5

 眼科の臨床および基礎研究において,この10年ほどの間に急速な進歩があり,眼科疾患の病態理解や治療面において,目覚ましい変化が起きていることを皆様も実感されていると思います。オキュラーサーフェスの診療・研究も急速な進歩を遂げています。『臨床眼科』増刊号「オキュラーサーフェス診療アップデート」では,こうしたオキュラーサーフェスの診療・研究における最近の急激な進歩を皆様に紹介することを目的として,オキュラーサーフェスの検査法,治療法,角膜移植,屈折矯正手術,基礎研究の各領域を牽引する比較的若手の先生方に執筆をお願いし,詳細な記述をしていただきました。

 ここに15年前に発刊された『臨床眼科』増刊号「オキュラーサーフェスToday」の目次があります。1997年当時のオキュラーサーフェス診療・研究の最先端を扱った内容であると思います。その項目を今回の「オキュラーサーフェス診療アップデート」の目次と比較すると,この15年間においてオキュラーサーフェスの診療面,基礎研究面において,非常に大きな進歩があったことがよくわかります。15年前にはなかった内容が本号の大きな部分を占めています。例えば診断面ではOCT,波面収差解析,共焦点顕微鏡,マイボグラフィー,PCRの感染症診断への導入があり,治療面ではフェムト秒レーザーの角膜移植・屈折矯正手術・白内障手術への応用,DSAEKやDALKなどの角膜lamellar surgery,再生医療,コラーゲンクロスリンキング,有水晶体眼内レンズがあり,基礎研究面ではiPS細胞の角膜上皮細胞導入や培養角膜内皮細胞移植などをはじめとした多くの領域での進歩があります。各項目を読んでいただければ,私が今ここに挙げた以外にも,それぞれの執筆された項目においてさまざまな発展があったことがわかります。こうした臨床面での進歩にタッチアップしていくこと,自分の知識や技術を更新・アップデートし普段の診療に生かしていくことが,臨床家としての責務であることは言うまでもないでしょう。また現在の臨床での問題点を解決し,さらに医療のレベルを発展させていくためには基礎研究の理解も大変重要です。ぜひ,今回の増刊号「オキュラーサーフェス診療アップデート」をお読みいただくことで最新のオキュラーサーフェスの診療・研究について学んでいただき,それぞれの先生方の日々の臨床に役立てていただければ幸いです。

1.病態理解に役立つ新しい検査法

ページ範囲:P.9 - P.9

細隙灯

細隙灯顕微鏡検査アップデート

著者: 水野嘉信 ,   山田昌和

ページ範囲:P.10 - P.14

Point

1.疾患の特徴を踏まえて適切な観察法を選択し,そこにある「はず」の所見の有無を確認する。

2.ブルーフリーフィルターを使用した観察法ではより微細な角結膜上皮病変が観察できる。

3.LED光源など時代のニーズに合わせた製品が開発されている。

涙液

生体染色検査アップデート

著者: 横井則彦

ページ範囲:P.15 - P.18

Point

1.眼表面疾患の診断や鑑別診断に生体染色は必須である。

2.主な生体染色には3種類(フルオレセイン染色,ローズベンガル染色,リサミングリーン染色)ある。

3.フルオレセイン染色では,ブルーフリーフィルターの使用で病変の明瞭な観察が可能である。

4.フルオレセイン染色では,涙液層の動的な観察が可能で,ドライアイの病態把握に有用である。

5.ローズベンガル染色は,その刺激性のため,近年,リサミングリーン染色にとって替わられている。

最近の涙液検査

著者: 山口昌彦

ページ範囲:P.19 - P.24

Point

1.最近の涙液検査では,ドライアイのスクリーニングから病態究明に迫る検査まで,さまざまな角度から涙液の状態を把握できるようになってきた。

2.最近の涙液検査としては,涙液貯留量,角膜上涙液膜(涙液層安定性),マイボーム腺機能,実用視力,涙液浸透圧,眼表面温度などによる評価方法がある。

3.近年,ドライアイの診断は,涙液量のみならず,涙液層としての安定性を評価することも重要視され,また油層やムチンなど涙液層の層別診断,さらには涙液層と視機能との関連についても注目されている。

最近の涙道検査

著者: 宮崎千歌

ページ範囲:P.27 - P.31

Point

1.涙管通水検査は真剣に!

2.内視鏡は涙道と鼻との両方が必須である。

3.涙道周辺の解剖に知悉していることが大切である。

マイボグラフィー

著者: 有田玲子

ページ範囲:P.33 - P.38

Point

1.ドライアイの主因はマイボーム腺機能不全である。

2.マイボーム腺は涙液の油層を分泌している。

3.マイボグラフィーはマイボーム腺の形態を非侵襲的に観察できる装置である。

4.ドライアイを層別に診断するためにもマイボーム腺の形態観察は重要である。

画像解析・視機能

前眼部OCT

著者: 森秀樹

ページ範囲:P.39 - P.43

Point

1.前眼部OCTは眼表面の内部構造や層構造をイメージングすることができる。

2.健常な眼表面においては,上皮と上皮組織の基本構造が保持されている。

3.眼表面の構造変化から,病態の成り立ちや機能障害を推測することができる。

角膜形状解析アップデート

著者: 渕端睦 ,   前田直之

ページ範囲:P.45 - P.48

Point

1.プラチド型角膜形状解析装置は,角膜屈折力分布を色分けして表示することが可能で,角膜不正乱視の有無とその形状を把握することができる。

2.スリットスキャン型角膜形状解析装置は,角膜前面の形状解析と同時に角膜後面の形状や角膜厚の分布を表示できる。

3.スリットスキャン型角膜形状解析装置では,角膜前後面での屈折から,角膜全体の屈折力や角膜の高次収差を測定することができる。

4.前眼部OCTによる角膜形状解析では,涙液や混濁の影響を受けにくい。角膜移植後や円錐角膜の進行例でも角膜形状測定ができる。

波面収差解析

著者: 湖﨑亮

ページ範囲:P.49 - P.58

Point

1.波面収差解析は,wavefront-guided LASIKが報告1,2)され,注目されるようになった。

2.さらに術後の球面収差を軽減する非球面IOLが開発されると,波面収差解析は,屈折矯正手術の術者のみならず,白内障術者にも広く一般的に普及するようになった。

3.現在の波面センサーには白内障手術のためのプログラムが用意されている。

共焦点顕微鏡検査

著者: 森重直行 ,   高橋典久

ページ範囲:P.59 - P.64

Point

1.共焦点顕微鏡は,角膜とその周囲に存在する細胞形態を非侵襲的に観察できる画像診断機器である。

2.機器の改良に伴い,撮影画像の画質が格段に改善され,多くの情報が得られるようになってきた。

3.共焦点顕微鏡を用いることにより,角膜疾患の診断では組織観察から細胞観察を行うことが可能となった。

コントラスト感度の活用

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.65 - P.71

Point

1.ドライアイなど涙液の安定性が低下している状態では光学的質が損なわれ,視機能も低下するが,その変化は必ずしも大きくないので,微細な変化を鋭敏にとらえることができるツールを用いる必要がある。

2.従来の視力検査は視機能のごく一部を評価しているにすぎない。視覚の質を広く,かつ深く評価するにはコントラスト感度検査が有用である。オキュラーサーフェスの診療においてもきわめて有用である。

3.目的によってチャートを使い分ける。時間の制約がなければ縞視標コントラスト感度チャートを用い,より詳細な評価を行う。経時的に繰り返して測定する必要がある場合や,検査時間が限られている場合は,文字コントラスト感度チャートを使用したほうがよい。

4.新型文字コントラスト感度チャートはきわめて短時間での測定が可能であり,視標が数字に変更されたため幅広い年齢層に活用できる。

感染症

最近の微生物検査

著者: 鈴木崇

ページ範囲:P.73 - P.77

Point

1.PCRを用いることで高感度に微生物DNAを検出できる。

2.Real-time PCR法を用いることで微生物DNAを定量できる。

3.DNAマイクロアレイを使用することで微生物DNAを網羅的に検出できる。

最近のウイルス検査

著者: 檜垣史郎

ページ範囲:P.78 - P.80

Point

1.眼科学の分野では単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルス,アデノウイルス感染症に対する検査が積極的に施行されている。

2.PCR法,real-time PCR法,LAMP法,免疫クロマトグラフィ法について述べる。

3.Real-time PCR法は定量が可能であり,疾患の原因ウイルスであるかどうか,PCR法に比べて判定しやすいと考える。

アレルギー

最近のアレルギー検査

著者: 庄司純

ページ範囲:P.81 - P.86

Point

1.涙液総IgE検査は,アレルギー性結膜疾患の準確定診断に用いる。

2.涙液ECP値は,アレルギー性結膜疾患における眼局所のアレルギー炎症の指標となる検査法で,重症度判定や治療効果判定に有用である。

3.涙液サイトカイン・ケモカインプロファイルは,アレルギー性結膜疾患における眼表面の免疫学的病態解析に有用である。

遺伝子

オキュラーサーフェス疾患の遺伝子検査

著者: 辻川元一

ページ範囲:P.88 - P.91

Point

1.遺伝子検査の必要性については診断医が判断する。

2.遺伝子検査は万能ではない。

3.遺伝子検査は個人だけでなく家族にも影響を及ぼす。

病理

病理組織検査の原則

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.93 - P.97

Point

1.観察したい部位を標本にするため切り出しが重要である。

2.小さい検体が多いためマーキングをする。

3.結膜は固定液に入れる前に濾紙の上に伸展する。

4.HE染色のほかにPAS染色をオーダーする。

Topics

角膜知覚測定の活用

著者: 東原尚代

ページ範囲:P.98 - P.100

眼表面の知覚

 眼表面の外的刺激に対する防御機構のうち,最も重要なものに反射性涙液分泌がある。これは長い神経経路からなる“reflex loop”と涙腺により構成させるシステムによって制御される1)。なかでも角膜は身体の中で最も神経が多く分布した組織で,角膜には裸の神経終末として“nociceptor”と呼ばれる侵害受容器が分布し,痛みなどの刺激を伝達する。

 このnociceptorには3種類あることが知られている(表1)2)

角膜厚測定の活用

著者: 戸田良太郎 ,   前田直之

ページ範囲:P.101 - P.103

はじめに

 角膜厚の測定の目的は,角膜内皮細胞の機能評価や屈折矯正手術前における適応決定などである。測定原理も複数存在し,標準的な光学式や超音波式に加え,近年では角膜トポグラファーも使用され,中心角膜厚のみならず角膜全域をマップとして表示することが可能になった。

 本稿では,角膜厚測定の各種測定法,臨床活用について新しい知見を含めて述べてみたい。

角膜バイオメカニクス

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.104 - P.107

はじめに

 角膜厚が薄い症例ほど,Goldmann眼圧計による眼圧値は低くなる傾向があり,眼圧を正確に評価するためには角膜生体力学(バイオメカニクス)特性を考慮に入れる必要がある。また,本特性は屈折矯正手術における安全性や予測精度にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。さらに屈折矯正手術後の重篤な合併症の1つとして角膜拡張症(keratectasia)が挙げられるが,角膜生体力学特性が著しく低下することが原因と考えられている。しかしながら,これまでin vivoにおける測定方法が十分に確立されておらず,臨床において本特性の評価はきわめて困難であった。Ocular Response AnalyzerTM(Reichert社)の登場によって,角膜生体力学特性を定量的に評価することが可能となった。

 本稿では,この装置によって得られた角膜生体力学特性に関する知見について概説する。

2.オキュラーサーフェス疾患に対する新しい治療法

ページ範囲:P.109 - P.109

ドライアイ

ドライアイの内科的治療

著者: 小室青

ページ範囲:P.111 - P.114

Point

1.ドライマウスの治療薬であるアセチルコリンM3受容体アゴニストは,涙腺にも働き,涙液分泌を促進する。

2.オメガ3,6脂肪酸サプリメントの内服は,涙液分泌,BUTの改善だけでなく抗炎症作用も期待できる。

3.内服薬のドライアイに対する効果は限定的であり,点眼治療に付加的に行うものである。

ドライアイの外科的治療(プラグなど)

著者: 渡辺仁

ページ範囲:P.115 - P.118

Point

1.点眼による治療が困難な場合,外科的治療選択となるが,まずはシリコン製プラグ,症例に応じてコラーゲンによる液状プラグを選択する。

2.シリコン製プラグはプラグの種類によって留置率は大きく異なるので,留置率の高いプラグを選定する。

3.プラグ選定の際,フリーサイズ型涙点プラグではフィットする涙点径か,サイズ別のものではフィットするサイズかを見きわめる意味から,涙点径の測定はより安定した効果を生み出す。

4.液状プラグはその特性からLASIKや白内障の術後のドライアイが最適応例である。

5.涙点閉鎖手術はプラグで治療困難な例で適応となるが,プラグの性能向上により対象症例は減少している。

円錐角膜

円錐角膜に対する新しい治療:クロスリンキング

著者: 加藤直子

ページ範囲:P.119 - P.123

Point

1.クロスリンキングは円錐角膜の進行を停止させるための治療であり,屈折矯正効果はほとんどない。

2.手術手技は簡単であるが,適応の見極めと術後経過観察は慎重にする必要がある。

3.Dresdenプロトコールの有効性と安全性については,海外では一定の評価が出たと考えてよい。しかし,新しい方法については効果,安全性ともデータが乏しい。

円錐角膜に対する新しい治療:角膜リング

著者: 荒井宏幸

ページ範囲:P.124 - P.128

Point

1.角膜リング手術の主目的は円錐角膜の進行を予防することであり,裸眼視力の向上ではない。

2.フェムト秒レーザーを使用することにより安定した術式となった。

3.角膜クロスリンキングやphakic IOL手術との併用も可能である。

感染症

感染性角膜炎:細菌

著者: 佐佐木香る

ページ範囲:P.129 - P.133

Point

1.感染症治療としてクロスリンキングが応用されつつある。

2.MRSA,MRSEに対する新しい治療薬として,局所はバンコマイシン眼軟膏,全身はダプトマイシンが認可された。

3.キノロンが効かないコリネバクテリウム,淋菌,クラミジアに対する新しい治療薬,アジスロマイシン点眼液の認可が待たれる。

4.キノロン耐性菌に対する治療薬のパラダイムシフト=高濃度キノロンで攻める。

5.症例を選べば,ステロイドと抗菌薬の合剤も有効である。

感染性角膜炎:真菌

著者: 江口洋

ページ範囲:P.135 - P.138

Point

1.治療の基本は病巣角膜の掻爬である。

2.ピマリシンを第一選択として全身投与も組み合わせる。

3.新しい治療法としてボリコナゾールの角膜実質注射と前房内投与がある。

感染性角膜炎:アメーバ

著者: 子島良平

ページ範囲:P.139 - P.142

Point

1.アカントアメーバはtrophozoiteとcystの2つの形態をもち,薬剤抵抗性を示す微生物である。

2.コンタクトレンズユーザーでの感染例が多く,角膜真菌症や角膜ヘルペスと誤診されやすい。

3.治療にはビグアナイド系消毒薬が有効である。

4.ステロイド投与は慎重に行う。

ヘルペス性角膜炎

著者: 井上智之

ページ範囲:P.144 - P.148

Point

1.上皮型ヘルペス性角膜炎は上皮でのヘルペスウイルスの増殖が原因で,実質型はウイルスに対する宿主の免疫反応により生じる。

2.角膜内皮炎はHSV,VZV,CMVなどにより生じる。

3.角膜内皮炎症例で,繰り返す角膜ぶどう膜炎の治療既往があり,ステロイド治療や上記のHSVなどを疑ったものの,アシクロビル治療に抵抗性を示す場合,CMVを考えなければならない。

内皮障害

角膜内皮炎

著者: 蕪城俊克

ページ範囲:P.149 - P.152

Point

1.角膜内皮に炎症の主座がある病態で,角膜実質,上皮浮腫の部位に一致した白色小型の角膜後面沈着物を特徴とする。

2.単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスなどの感染が原因と考えられており,角膜内皮細胞障害が起きる。

3.診断は眼所見に加え,PCR検査による前房水中のウイルスDNAの検出による。

4.抗ウイルス薬の全身投与あるいは局所投与に加えて,ステロイドの局所点眼が基本的な治療法である。

Topics 内皮機能不全に対する新しい治療(Rhoキナーゼ阻害薬)

著者: 奥村直毅

ページ範囲:P.153 - P.155

角膜内皮細胞とその特徴

 角膜内皮細胞はポンプ機能とバリア機能を有する細胞である。六角形の形態であり,細胞密度は2,500~3,000個/mm2程度である。角膜実質の「水を吸う性質」である吸水圧に対して,ポンプ機能による前房内への水分の汲み出しと,バリア機能による角膜実質に流入する水分の制限により角膜の透明性を維持している。

 臨床上最も問題となる角膜内皮細胞の特徴は,増殖能が非常に乏しいことである。角膜内皮が障害されると,創傷周辺部の角膜内皮は非常に限られた細胞増殖を伴い,伸展と遊走によって創傷部位を修復する。特に生体内での増殖が著しく制限されているヒトなどの霊長類においては,主に細胞の伸展と遊走により創傷部位の修復が行われる。そのため,創傷治癒の後には六角形以外のいろいろな形の細胞の出現や細胞の大小不同を生じ,細胞密度が減少する。重篤な角膜内皮障害により,細胞密度が500個/mm2以下に低下すると,代償しきれず,角膜は不可逆的に混濁し,水疱性角膜症と呼ばれる病態に至る。

アレルギー

アレルギー性結膜疾患

著者: 松田彰 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.156 - P.160

Point

1.免疫抑制薬の点眼応用で重症アレルギー性結膜炎の治療法の選択肢が増えた。

2.しかし,いまだにコントロールが難しい症例が存在する。

3.2型免疫反応の基礎研究が将来のアレルギー治療を進歩させる原動力になると予想される。

羊膜

羊膜移植の現状

著者: 稲富勉

ページ範囲:P.161 - P.165

Point

1.羊膜は角膜上皮基底膜との相同性が高く,組織移植として創傷治癒の促進と瘢痕抑制効果が期待できる。

2.羊膜移植は再発翼状片手術,瘢痕性角結膜疾患の結膜囊再建や眼表面再建術に臨床応用されている。

3.遷延性角膜上皮欠損に対しては羊膜パッチ,角膜穿孔では充填組織として治療効果が期待できる。

4.羊膜の採取および保存は日本角膜学会の定める「羊膜取扱いガイドライン」に準じて適切に行う必要がある。

3.角膜移植の新しい展開

ページ範囲:P.167 - P.167

全層角膜移植

広範囲な前眼部障害に対する角膜移植

著者: 山上聡

ページ範囲:P.168 - P.171

Point

1.角膜移植術が禁忌とされていた角膜輪部上皮幹細胞疲弊症眼に対して,培養自己輪部上皮,口腔粘膜上皮移植後に角膜移植を行うことが可能となっている。

2.本治療法はドライアイが極端に強い場合や高度の瞼球癒着がある場合は予後が必ずしも良好ではない。

3.角膜および強膜の広範囲な障害に対して強角膜移植術が適応となる場合があるが,術後の高眼圧と高い拒絶反応発生率の問題があるため,高い視機能を期待する手術ではない。

角膜移植後乱視への対処法

著者: 五十嵐羊羽

ページ範囲:P.172 - P.176

Point

1.連続縫合による角膜移植後の乱視軽減には,術中および術後早期のアジャストが重要である。

2.端々縫合による角膜移植でも,Meyer像を確認しながら縫合することで術後乱視をある程度抑えることができる。

3.移植後の乱視調整はネビアスライト®やケラトリングを用いて,患者を寝かせて顕微鏡下でじっくり行ったほうが簡単で,効果的である。

全層角膜移植と白内障同時手術

著者: 森洋斉 ,   宮田和典

ページ範囲:P.177 - P.180

Point

1.全層角膜移植術(PKP)と白内障同時手術のメリット・デメリットを理解して,手術適応を判断する。

2.術中合併症のリスクを軽減させるために,硝子体圧を低い状態に維持しなければならない。

3.眼内レンズ(IOL)度数計算に使用する角膜曲率半径は,過去のデータの経験値をもとに算出する。

治療的角膜移植

著者: 外山琢

ページ範囲:P.181 - P.186

Point

1.治療的角膜移植の原疾患には感染性と非感染性があり,それぞれ治療目的が異なる。

2.感染性角膜疾患に対する治療では病巣除去が治療の目的となる。

3.感染性角膜疾患に対する治療的角膜移植では感染コントロールを優先し,ステロイドは極力使わないようにする。

4.非感染性の角膜疾患では角膜の菲薄部の補強や穿孔部の閉鎖が目的となる。

5.非感染性角膜疾患に対する治療的角膜移植では,角膜の菲薄化や穿孔に至る原疾患の治療も重要である。

角膜層状移植

深層層状角膜移植(DALK)

著者: 島崎聖花

ページ範囲:P.187 - P.191

Point

1.実質が障害されているものが適応となる。

2.レシピエントのDescemet膜を残すところが習熟を要する。

3.内皮型拒絶反応が生じないため術後のステロイド使用が短期間でよく,ステロイドによる術後合併症が少ない。

フェムト秒レーザーを用いた角膜移植

著者: 妹尾正

ページ範囲:P.192 - P.198

Point

1.フェムト秒(FS)レーザーは超短パルス近赤外線レーザーである。

2.FSレーザーは正確な深さで,あらかじめ設定した無制限の形状で角膜を切開できることが利点である。

3.角膜手術への応用はLASIK,ALK,DALK,PKPと多彩である。

4.FSレーザーの眼科手術応用は始まったばかりで,今後の新機種参入やバージョンアップを繰り返すことにより新たな効用が期待されている。

角膜上皮移植アップデート

著者: 大家義則 ,   西田幸二

ページ範囲:P.199 - P.202

Point

1.角膜上皮移植の適応疾患は角膜上皮幹細胞疲弊症である。

2.角膜上皮幹細胞疲弊症に対して,以前から行われている輪部移植は拒絶反応のため,長期予後が不良であることが知られている。

3.角膜上皮幹細胞疲弊症に対して培養口腔粘膜上皮細胞シート移植が臨床応用されている。

角膜内皮移植

角膜内皮移植の適応

著者: 門田遊

ページ範囲:P.203 - P.206

Point

1.水疱性角膜症,全層あるいは角膜内皮移植術後の移植片不全が適応であり,第一選択となりつつある。

2.強い角膜実質混濁のある症例は術後も混濁が残存して視力に影響を及ぼす。

3.前房の浅い症例および空気タンポナーデが困難と予想される症例は難症例である。

4.難症例であっても,工夫することで角膜内皮移植術が可能となる場合がある。

角膜内皮移植の術式

著者: 小林顕

ページ範囲:P.207 - P.210

Point

1.角膜内皮移植はDLEK/PLK,DSEKと近年飛躍的に発展し,現在DSAEKが主流の術式である。

2.Descemet膜のみの移植を行うDMEKやDMAEK,ultra-thin DSAEKなどの新しい術式も開発され,さらなる発展が期待される。

角膜内皮移植の合併症

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.211 - P.214

Point

1.DSAEKは全層移植と比べて術中および術後早期の合併症への対応が重要である。

2.グラフト固定に使用する空気注入に関する合併症が重要である。

3.多くの術中合併症は症例の経験が増えるにしたがって減っていく。

難症例に対する角膜内皮移植

著者: 矢野香 ,   中村孝夫

ページ範囲:P.215 - P.219

Point

1.ダブルグライド法は前房深度の浅い症例では特に有効である。

2.硝子体手術用インフュージョン装着は無水晶体眼に対して有効である。

3.無水晶体眼で眼圧が1桁前半の場合,ドナー角膜脱落の危険がある。

4.濾過手術後,硝子体手術後はドナー角膜脱落のリスクファクターである。

5.ドナー角膜縫着は接着不良時に有効である。

Topics 角膜内皮移植におけるマイクロケラトームの使用

著者: 宮井尊史

ページ範囲:P.220 - P.222

はじめに

 角膜内皮移植(Descemet's stripping automated endothelial keratoplasty:DSAEK)は,水疱性角膜症に対する全層角膜移植に代わる角膜移植の方法として現在普及しつつある。

 入手経路別に,海外のアイバンクによって事前に移植片を加工してもらうprecut角膜を用いる方法と,マイクロケラトームを用いて国内ドナー角膜から移植片を自前で作製する方法に大別できる。国内で自前で作製する場合に比べて,海外のprecut角膜を使う場合は輸入に時間がかかるため状況は異なるが,Terry1)の報告では,precut角膜と術者の作製する移植片とでの手術成績は変わらないとされている。

 筆者の施設では主として国内ドナー角膜を用いた移植片を用い,Moria社の人工前房装置およびマイクロケラトーム(回転式)を使って移植片作製を行っている。

 本稿では国内ドナー角膜を用いた移植片作製の実際について,手順別にそのポイントを述べる。

Topics 角膜内皮移植におけるドナー挿入器具

著者: 横川英明 ,   小林顕

ページ範囲:P.223 - P.225

はじめに

 角膜内皮移植術(Descemet's stripping automated endothelial keratoplasty:DSAEK)の問題点の1つとして,ドナー挿入時に生じる大幅な内皮障害が挙げられる。この問題点を克服し,安全・確実に角膜内皮ドナーを前房内へ挿入するために,DSAEK専用のドナー挿入器具の開発が急ピッチで進んでいる。

人工角膜

OOKP(歯根部利用人工角膜)

著者: 福田昌彦

ページ範囲:P.226 - P.230

Point

1.歯根部利用人工角膜(OOKP)とは患者自身の犬歯の根元をPMMA製の光学部の固定に利用する人工角膜である。

2.重症のStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡で両眼性の高度の視力障害患者の視力回復の最後の手段である。

3.手術は全身麻酔で8時間程度の手術が2回必要であり,眼球および口腔内の障害も大きい。

4.成功率は約80%であり,術後の審美性の問題があるため症例の選択には注意が必要である。

Boston Keratoprosthesis(Boston KPro)

著者: 森洋斉

ページ範囲:P.231 - P.235

Point

1.人工角膜はPKPのハイリスク症例に対する治療法として開発されてきた。

2.Boston Keratoprosthesisは,これまでの人工角膜と比べて,手術手技が簡便である。

3.術後合併症の予防には,Boston Keratoprosthesisの手術適応と術後管理について十分な理解が必要である。

移植後視機能

角膜移植と視機能

著者: 高静花

ページ範囲:P.236 - P.239

Point

1.角膜移植眼において角膜前後面の収差,散乱,形状は視機能に影響を及ぼす因子である。

2.DSAEK眼の角膜前面高次収差はPKP眼,DALK眼に比べて低い。

3.PKP眼の角膜混濁パターンはその3/4が正常パターンであったのに対して,インターフェイスを有するDALK,DSAEK眼では正常パターンはみられず,正常眼ではみられない角膜混濁のパターンを示した。

Topics

アイバンク・アップデート

著者: 﨑元卓

ページ範囲:P.240 - P.243

わが国における眼球銀行のこれまでと現状

 「角膜移植に関する法律」が昭和33年に施行され,現在まで54のアイバンクが全国に設立されている。その活動は献眼登録,啓蒙活動などを通じ,安全な角膜を公平・公正に供給することにある。これらの目的を達成するため,昭和40年に日本眼球銀行協会が設立されたが,実際のアイバンク活動は昭和54年の国庫補助金の交付,同年に施行された「角膜及び腎臓の移植に関する法律」以降まで待たなければならなかった。

 献眼によるドナー角膜の有効利用と中核アイバンクとして,昭和63年,全国5地区に中核アイバンク(岩手医科大学眼球銀行,順天堂大学アイバンク,愛知県眼衛生協会,大阪アイバンク,福岡県医師会眼球銀行)が設立され,各地域で角膜広域斡旋活動を行い,ドナー角膜の全国的な有効利用の体制が54のアイバンクで整えられた。

角膜穿孔への対処法

著者: 宇野敏彦

ページ範囲:P.244 - P.246

はじめに

 角膜穿孔の原因はさまざまである。切創をはじめとする外傷によるものは周囲の角膜の剛性が十分保たれているため,角膜縫合で対応することができる。

 本稿では感染性角膜炎あるいはMooren潰瘍をはじめとする周辺部角膜潰瘍の穿孔など,角膜縫合では対応できない状況への対処法に絞って解説したい。角膜穿孔部位によっては中央部角膜の透明性が保たれているため,視機能を妨げない工夫もきわめて重要な課題となる。

4.屈折矯正手術

ページ範囲:P.247 - P.247

屈折矯正手術全般

屈折矯正手術の新しい展開

著者: 岡本茂樹

ページ範囲:P.248 - P.252

Point

1.PRKはLASIKに比べて短期成績で劣るが,長期成績では近視化が少なく,屈折状態が長期に安定している可能性がある。

2.フェムト秒レーザーの応用により,屈折矯正手術のみならず,白内障手術,角膜移植でより精度の高い手術が可能になる。

3.有水晶体眼内レンズは,今後,レンズの改良により合併症が少なくなる可能性が高い。

適応・術前検査

著者: 脇舛耕一 ,   稗田牧

ページ範囲:P.253 - P.258

Point

1.屈折矯正手術の適応については,日本眼科学会が提示したガイドラインが指針となっている。

2.術前に十分なインフォームドコンセントを行い,患者との相互理解を確認しておく。

3.術後ケラテクタジア予防のため,切除量と角膜厚の判断,角膜形状解析により慎重に術式の選択を行う必要がある。

屈折矯正手術の周術期管理

著者: 福岡佐知子

ページ範囲:P.259 - P.264

Point

1.術後予測される感染症の発症を予防する。

2.使用機器の動作確認や滅菌など,安全に手術を行うことができる環境を整える。

3.数過程および複数人で治療プログラムを確認し,人為的ミスを回避する。

屈折矯正手術後の視機能

著者: 山村陽

ページ範囲:P.265 - P.270

Point

1.術後の視機能は,視力だけでなくコントラスト感度や高次収差で評価することが重要である。

2.LASIKの角膜フラップは,フェムト秒(FS)レーザーで作製するほうがマイクロケラトームで作製するより誘発される高次収差が少ない。

3.FSレーザーで角膜フラップを薄く作製することで,術後の視機能を損なうことなく,残存角膜ベッド厚が多く確保できる。

LASIK

LASIKアップデート

著者: 市橋慶之 ,   戸田郁子

ページ範囲:P.271 - P.275

Point

1.LASIKは屈折矯正手術おけるレーザー治療の主流である。

2.フェムト秒レーザーの登場でよりLASIKが安全になった。

3.カスタムLASIKにより,術後の視機能が向上している。

4.老眼治療への応用も期待される。

エキシマレーザー手術の合併症

著者: 堀好子

ページ範囲:P.276 - P.279

Point

1.最近はフェムト秒レーザーで角膜フラップを作製するLASIKが主流となってきている。

2.以前に比べて合併症の発生率はかなり低くなっている。

3.しかし,合併症はゼロではなく,適応診断,手術機器の整備,手術手技,術後管理には十分な注意を払う必要がある。

老視矯正

角膜で行う老視矯正

著者: 福本光樹

ページ範囲:P.280 - P.283

Point

1.屈折矯正手術の増加とともに老視に対する手術を望む患者が増加してきた。

2.それぞれの手術についてきちんと理解していただいたうえで手術を受けてもらうことが重要である。

3.角膜に対する老視手術は,現時点では決定的な治療法とはいえない。

4.さらなる長期的な経過観察が必要である。

眼内レンズを使った老視矯正

著者: 根岸一乃

ページ範囲:P.284 - P.288

Point

1.眼内レンズを用いて行う老視矯正法には,老視矯正眼内レンズ挿入術と単焦点眼内レンズによるモノビジョンがある。

2.眼内レンズを用いて行う老視矯正の視機能は若年者の視機能にははるかに及ばないため,術前の説明・同意が重要である。

フェムト秒レーザー

フェムト秒レーザーによる屈折矯正手術

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.289 - P.293

Point

1.ReLExは,フェムト秒レーザーのみを用いて,角膜の一部をレンチクルとして抜去する新たな屈折矯正手術である。

2.フラップを作製するFLExとフラップを作製しないSMILEに分類される。

3.初期臨床成績では,安全性・有効性が高く,予測性や安定性にも優れる。

4.眼球運動の影響や周辺部レーザー照射効率の悪化がなく,高次収差への影響が比較的少ない。

5.理論的背景からも術式のメリットが多く,今後の普及が期待されている。

フェムト秒レーザーによる白内障手術

著者: ビッセン宮島弘子

ページ範囲:P.294 - P.297

Point

1.フェムト秒(FS)レーザーで角膜以外に水晶体照射が可能になった。

2.前眼部光干渉断層計(OCT)の測定結果に基づいて手術をデザインする新しい概念である。

3.白内障手術において角膜切開,前囊切開,水晶体核分割が行われている。

4.精度の高い手術により,現在よりさらに良好な術後視機能が期待されている。

5.保険適応の白内障手術に今後どのように組み入れられるかは大きな課題である。

有水晶体眼内レンズ

有水晶体眼内レンズの現状

著者: 五十嵐章史

ページ範囲:P.299 - P.304

Point

1.有水晶体眼内レンズ(phakic IOL)には虹彩支持型,隅角支持型,後房型の3種類がある。

2.現在,国内で承認されているphakic IOLは後房型のICLのみである。

3.ICLは適切なレンズサイズを決定するため,white to whiteの計測が重要である。

Topics 後房型有水晶体眼内レンズの合併症

著者: 中村友昭

ページ範囲:P.305 - P.307

はじめに

 後房型有水晶体眼内レンズ(Implantable Collamer Lens:ICL)は1997年に現行のタイプ(バージョン4)が発売された。2005年に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が認可し,わが国でも2010年のICLの認可に引き続き,2011年には乱視矯正可能なトーリックICL(T-ICL)も認可され,強度乱視まで矯正可能なことから,その適応の幅がさらに広がった。登場以来15年を経過し,数多くの報告によりその有効性とともに安全性も確認されている。

 今回,合併症に関して最近の報告も含めて述べてみたい。

5.基礎研究と臨床とのつながり

ページ範囲:P.309 - P.309

ドライアイ

酸化ストレス・加齢とドライアイ

著者: 川島素子

ページ範囲:P.310 - P.313

Point

1.涙液分泌量は加齢とともに減少し,ドライアイの発症率は加齢とともに上昇する。

2.加齢のメカニズムとして酸化ストレス仮説が提唱されているが,ドライアイの発症においても酸化ストレスが少なからず関与していることがわかってきている。

3.ドライアイは加齢だけでなくVDT負荷などさまざまな要因によって,涙液の減少や涙液の質の変化,眼表面の障害などを引き起こす多因子疾患である。

4.さまざまな原因のドライアイの背景にも酸化ストレスの関与があることが示唆されており,ドライアイにより引き起こされた酸化ストレスがさらにドライアイを増悪させるという悪性サイクルの存在が考えられている。

5.基礎研究のデータをもとに,酸化ストレスのコントロールを主眼にしたドライアイ治療の臨床応用の可能性がある。

ムチン分泌とドライアイ

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.314 - P.317

Point

1.ムチンは涙液中および角結膜上皮細胞の表層に存在し,眼表面において重要な役割を担っている。

2.眼表面には結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチン(MUC5AC)と角結膜上皮が発現している膜型ムチン(MUC1,MUC4,MUC16)がある。

3.ここ数年,ムチン分泌を促進させる点眼薬が,ドライアイ治療薬として世界ではじめてわが国で使用できるようになった。

再生医療

培養角膜内皮移植アップデート

著者: 山口昌大 ,   島伸行 ,   山上聡

ページ範囲:P.318 - P.322

Point

1.培養ヒト角膜内皮移植はドナー角膜不足の解決策として期待されている。

2.培養ヒト角膜内皮移植の臨床応用はさまざまな基準を満たす必要がある。

3.筆者らが作製した培養内皮細胞シートはドナー角膜とほぼ同等の細胞密度,機能蛋白発現を有している。

iPS細胞からの角膜上皮誘導

著者: 羽藤晋 ,   吉田悟 ,   榛村重人

ページ範囲:P.323 - P.326

Point

1.iPS細胞から角膜上皮細胞シートを大量に作製して提供する,あるいは患者由来iPS細胞から拒絶反応を起こさない角膜上皮細胞シートを作製する,といった治療法が,現在の培養角膜上皮移植の限界を克服できる可能性がある。

2.ヒトiPS細胞から重層上皮細胞への分化誘導は達成されつつあるが,臨床適用のためには角膜上皮幹細胞の誘導や角膜上皮幹細胞ニッチの問題など解決すべき課題が残されている。

角膜上皮幹細胞ニッチ

著者: 林竜平

ページ範囲:P.327 - P.330

Point

1.組織幹細胞は成体組織に存在し,各組織のメンテナンスに寄与している。

2.角膜上皮の組織幹細胞(角膜上皮幹細胞)は輪部上皮の基底部に存在している。

3.幹細胞を維持するための微細環境は「幹細胞ニッチ」と呼ばれる。

4.角膜上皮の幹細胞ニッチは輪部に存在すると考えられる。

角膜上皮培養法の進歩

著者: 横尾誠一

ページ範囲:P.331 - P.334

Point

1.従来必要だった血清とフィーダー細胞はレチノールの添加で排除できる。

2.KGFの添加で角膜輪部上皮の特徴を発揮できる。

3.細胞シートを移植する際のキャリアとして羊膜,フィブリン糊の上に細胞が培養され,キャリアを用いない方法としては温度応答性培養皿とPVDF膜を使用した移植法が開発されている。

感染症と免疫

眼表面疾患におけるTLRs

著者: 上田真由美

ページ範囲:P.335 - P.340

Point

1.Toll-like receptors(TLRs)とは,さまざまな病原微生物の構成成分を認識する受容体であり,自然免疫において中心的な役割を担っている。

2.眼表面上皮細胞にもTLRsは発現しているが,その機能は単球などの免疫担当細胞とは異なり,細菌などの菌体成分に対して容易に炎症を惹起しない機構を保持している。

3.重篤な眼表面炎症性疾患であるStevens-Johnson症候群では,TLR3遺伝子多型が有意に相関を示し,その発症に自然免疫応答の異常が関与している可能性がある。

4.TLR3はウイルス由来二本鎖RNAを認識する受容体であるが,アレルギー性結膜好酸球浸潤を促進する作用もある。

5.一方,プロスタグランジン(PG)E2の受容体の1つであるEP3受容体には,アレルギー性結膜好酸球浸潤を抑制する作用もある。

6.TLR3とEP3の間にはEP3がTLR3を介した炎症を抑制するという相互作用があり,その破綻が眼表面の炎症に関与している可能性がある。

角膜実質融解におけるMMP

著者: 﨑元暢

ページ範囲:P.341 - P.345

Point

1.さまざまな病態における角膜実質の融解にMMPと呼ばれるコラーゲン分解酵素がかかわっている可能性がある。

2.病的環境下では上皮欠損近傍の角膜上皮細胞,上皮-実質相互作用を介した角膜実質細胞,炎症細胞や緑膿菌などからMMPは産生される。

3.非感染性角膜潰瘍や再発性角膜上皮びらんでは涙液中のMMP発現も亢進している。

眼表面の免疫特権

著者: 国重智之 ,   堀純子

ページ範囲:P.346 - P.350

Point

1.免疫特権とは,過剰な炎症を自動制御して組織の恒常性を保護する特別な性質である。

2.眼表面には,角膜上皮側よりも内皮側に免疫特権がある。

3.角膜の免疫特権の仕組みとしては,① 解剖学的・細胞分子学的なバリア,② 前房関連免疫偏位(ACAID),③ 眼内免疫抑制性微小環境が挙げられる。

4.免疫特権は眼表面炎症の新しい治療法に応用できる。

形状・構造解析

水疱性角膜症の上皮下混濁

著者: 森重直行 ,   守田裕希子

ページ範囲:P.351 - P.356

Point

1.水疱性角膜症では内皮機能不全による実質浮腫をきたすが,種々の病理組織学的変化をきたしている。

2.上皮下に線維性組織形成や筋線維芽細胞の発現など,瘢痕形成を示す変化が現れる。

3.瘢痕性変化は実質浮腫発生後12か月以降に生じることが多いことから,水疱性角膜症は病理組織学的には進行性疾患であると考えている。

4.この病理組織学的変化は角膜内皮移植後の視機能にも影響していることがある。

創傷治癒

角膜血管新生のメカニズムと治療

著者: 臼井智彦

ページ範囲:P.357 - P.361

Point

1.角膜血管新生は主として角膜炎症性疾患,輪部機能不全で発症する病態で,角膜の透明性を脅かす。

2.角膜血管新生に対する治療は,新生血管抑制療法と血管退縮療法に大別できる。

3.新生血管抑制療法には,原疾患に対する治療が原則であるが,近年VEGFをターゲットとした標的分子薬が使用されつつある。

4.血管退縮療法は現時点で決定的な方法はなく,今後の検討が待たれる。

角膜神経再生

著者: 大本雅弘

ページ範囲:P.362 - P.364

Point

1.LASIKの普及により,角膜神経の切断による角膜知覚低下と,これに続発するドライアイや角膜上皮障害が増加している。

2.レーザー共焦点顕微鏡を用いて生体角膜の神経を観察することが可能になった。

3.神経再生を促進する薬剤の研究が進められている。

フィブロネクチンの上皮化促進作用

著者: 近間泰一郎

ページ範囲:P.365 - P.369

Point

1.フィブロネクチンは細胞接着・伸展・移動を促進する糖蛋白である。

2.遷延性角膜上皮欠損は角膜上皮細胞の接着・伸展・移動が停滞した状態である。

3.フィブロネクチン点眼液は自己血から精製する。

4.フィブロネクチンの部分ペプチドであるPHSRNも臨床的に上皮化促進効果が確認されている。

アレルギー

アレルギー性結膜疾患重症化のメカニズム

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.370 - P.374

Point

1.肥満細胞再構築マウスを用いた研究により肥満細胞の結膜アレルギーにおける解析が進んできている。

2.肥満細胞の活性化にはケモカインレセプターからの補助刺激が必要である。

3.Th2反応の活性化に関与するIL-33は結膜アレルギーにおける炎症の増幅に関与する。

4.好塩基球は抗原提示細胞として働くことにより,結膜アレルギーを遷延化させる。

角膜変性症

角膜ジストロフィに対する新しい治療

著者: 加治優一

ページ範囲:P.375 - P.378

Point

1.角膜ジストロフィを変異型TGFBIによるアミロイド形成ととらえることでin vitroモデルをつくることができる。

2.アミロイドに親和性の高いチオフラビンTを用いることで,TGFBI由来アミロイドを分子レベルで断片化できる。

3.角膜ジストロフィによる光線力学療法の道が開かれた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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