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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科66巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

特集 第65回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

結膜下腫瘍と視神経乳頭腫脹を伴ったRosai-Dorfman病の1例

著者: 高綱陽子 ,   水鳥川俊夫 ,   渡辺可奈 ,   麻薙薫 ,   尾崎佳世 ,   原暁 ,   尾崎大介 ,   忍足俊幸 ,   山本修一

ページ範囲:P.265 - P.270

要約 背景:Rosai-Dorfman病は原因不明の良性の組織球増殖性疾患で,sinus histiocytosis with massive lymphadenopathyともいう。目的:眼症状を伴ったRosai-Dorfman病の1例の報告。症例:47歳男性が2年前からの両眼の視力低下で受診した。矯正視力は右0.06,左0.3で,右眼に鮭紅色の結膜下腫瘤,両眼に軽度の虹彩毛様体炎,視神経乳頭腫脹,黄斑浮腫があった。鼠径リンパ節が腫脹し,下腿に色素斑と皮膚下結節があった。リンパ節の生検でリンパ球を貪食した組織球増殖があり,本病と診断した。プレドニゾロンの全身投与で皮膚と眼病変が軽快した。結論:皮膚病変とリンパ節腫脹を伴う結膜下腫瘤とぶどう膜炎の症例では,Rosai-Dorfman病の可能性がある。

TS-1®による涙道障害の多施設研究

著者: 坂井譲 ,   井上康 ,   柏木広哉 ,   佐々木次壽

ページ範囲:P.271 - P.274

要約 目的:TS-1®による涙道障害の多施設検討の報告。対象と方法:流涙症研究会に所属する施設にアンケート調査を行った。TS-1®はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムを配合した経口抗癌薬である。結果:32施設から107症例の有効回答を得た。男性71例,女性35例,不明1例で,両側が92名,片側が15名であった。角膜障害が34例(32%)にあり,2007年以降では投与から発症までの期間と,治療開始までの期間が短縮していた。涙点と涙小管が高頻度に障害され,高度なものには涙囊鼻腔吻合術などが行われたが,成績は不良であった。チューブ留置が行われた131側では16側(13%)に再閉塞があった。予防的にチューブ留置が行われた5例では経過がよかった。結論:TS-1®の経口投与では涙道通過障害が好発する。

瞼裂輪部と下方輪部のpalisades of Vogtの形態の細隙灯顕微鏡による比較研究

著者: 松原稔

ページ範囲:P.275 - P.280

要約 目的:瞼裂露出部のVogt柵(palisades of Vogt)は下方よりも不明瞭である。その形態を細隙灯顕微鏡で比較した。対象と方法:3~97歳の外来患者284名のVogt柵を細隙灯顕微鏡に装着したCCDカメラで撮影し,瞼裂露出部と下方のVogt柵の数を検索した。結果:Vogt柵は,瞼裂露出部では細い断裂した線で強膜に密着し,下方では太い連続した直線で強膜から浮いていた。瞼裂露出部では色素で縁どりされたVogt柵はなかった。混濁がないVogt柵は,0.5mm当たり瞼裂露出部では4.1本で長さが1.7mmであり,下方では4.2本,1.4mmであった。混濁があるVogt柵は瞼裂露出部では本数で22%,長さで76%減少し,下方のVogt柵では本数で12%,長さで36%減じた。瞼裂斑と翼状片の部位にはVogt柵はなかった。結論:瞼裂露出部のVogt柵は平面的で断続した細い線を呈し,色素の縁どりがなく不明瞭であった。混濁がないVogt柵の本数と長さは下方と差がなく,混濁があるVogt柵は本数が少なく,短かった。

眼内レンズ光学系の鑷子痕に感染が疑われて眼内レンズ交換に至った2例

著者: 渡辺一彦 ,   渡辺このみ

ページ範囲:P.281 - P.285

要約 目的:眼内レンズ(IOL)光学系の鑷子痕に感染が疑われ,IOLの交換をした2例の報告。症例:症例は70歳と61歳の女性で,ともに白内障手術後6日目にIOL前面に鑷子痕に一致して白色沈着物が出現,前房炎症の悪化がみられた。抗菌薬,ステロイドの頻回点眼を行ったが悪化したため,その翌日IOLを摘出,交換した。房水および摘出IOLからは菌は検出されなかった。術後,再発なく,視力は改善した。結論:術後感染が疑われたIOLへの白色付着物に対し,IOLを交換することで,良好な視力予後を得ることができた。

タフルプロスト使用患者における1年間の治療継続率に関する調査結果

著者: 吉田紳一郎

ページ範囲:P.287 - P.289

要約 目的:タフルプロストによる点眼治療の継続率の報告。対象と方法:過去7か月間にタフルプロストによる治療を開始した緑内障または高眼圧症271例520眼を対象とし,1年間の治療継続率を調査した。男性127例,女性144例で,年齢は22~93歳,平均70歳である。タフルプロストから別の薬剤への変更,併用薬の追加,薬剤に起因するタフルプロストの中止を治療中止と定義した。結果:65例を除いた206例での1年間の治療継続率は84%(173例)であった。除外した65例は,来院中止45例,続発緑内障の治療終了8例,死亡や転居など12例であった。結論:タフルプロストによる点眼治療は,1年間で高率に継続された。

眼精疲労に対する湿熱シートと直線偏光近赤外線星状神経節近傍照射の効果

著者: 板倉麻理子 ,   板倉宏高 ,   小島由加利 ,   後藤英樹

ページ範囲:P.291 - P.294

要約 目的:湿熱シートと直線偏光近赤外線星状神経節近傍照射(SGR)による調節力と自覚症状の変化を調べた。対象と方法:眼精疲労を有する15例30眼に湿熱シートを,15例30眼にSGRを10分間施行し,近点計で調節力を測定した。結果:調節力は,湿熱シート群(p<0.05),SGR群(p<0.001)ともに有意に改善し,眼精疲労も軽減した。ドライアイ症状の改善率は湿熱シート群(p<0.05)が,頭痛の改善率はSGR群(p<0.01)が高かった。結論:湿熱シートおよびSGRはともに調節力を回復させ,眼精疲労を軽減させた。湿熱シートはドライアイ症状の改善に優れ,SGRは頭痛の改善に優れていた。

治療歴のないポリープ状脈絡膜血管症に対するラニビズマブ併用光線力学療法の治療成績

著者: 根本怜 ,   三浦雅博 ,   岩崎琢也 ,   塚原林太郎 ,   後藤浩

ページ範囲:P.295 - P.298

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症に初回治療として行ったラニビズマブ硝子体注射と光線力学療法の併用療法の12か月後の成績の報告。対象と方法:治療歴のないポリープ状脈絡膜血管症25例25眼を対象とした。男性21例,女性4例で,年齢は60~86歳,平均74歳である。治療前と治療後3,6,12月目の視力と,光干渉断層計(OCT)による中心窩網膜厚を検索した。結果:治療前視力の中央値は0.2であった。0.2以上の視力良好群では1年後の視力と中心窩網膜厚は改善し,これ以下の視力不良群では中心窩網膜厚は減少し,視力は悪化した。結論:ポリープ状脈絡膜血管症に対するラニビズマブ硝子体注射と光線力学療法の併用療法で,1年後の中心窩網膜厚が減少し,0.2以上の視力良好群では視力が改善し,これ以下の視力不良群では視力が悪化した。

中心性漿液性脈絡網膜症に類似した加齢黄斑変性の眼底自発蛍光

著者: 田中隆行

ページ範囲:P.299 - P.306

要約 目的:中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)に類似した加齢黄斑変性(AMD)2症例の自発蛍光所見の報告。症例:2例とも女性で,年齢は64歳と70歳である。1例には5年前から1眼にAMDがあり,1週前に他眼に中心暗点を自覚し,黄斑部に漿液性網膜剝離があった。蛍光眼底造影では色素漏出はなく,自発蛍光の低下と増強があった。4か月後の再発時には円形の蛍光漏出があり,この部位に自発蛍光の著しい低下とこれを囲む過自発蛍光があった。他の1例には,吹き上げ型の蛍光漏出があり,この部位に枝状の低自発蛍光とこれを囲む過自発蛍光があった。両症例とも,光干渉断層計で1型脈絡膜新生血管(CNV)が推定された。結論:CSCに類似するAMD2症例での眼底自発蛍光検査で,蛍光眼底造影では確認できない網膜色素上皮の情報が得られた。

完全型先天停在性夜盲の経過中にdome-shaped maculaを合併した13歳男子

著者: 水川憲一 ,   近藤峰生 ,   春石和子 ,   後藤克聡 ,   桐生純一

ページ範囲:P.307 - P.311

要約 背景:Dome-shaped macula(DSM)は強度近視眼の後部ぶどう腫で黄斑部が前方凸に隆起する形態異常である。目的:DSMを生じた完全型先天停在性夜盲の症例の報告。症例:13歳男子が1歳時から内斜視,強度近視,左眼の弱視で加療中であった。7歳時に星が見えないことを自覚して受診した。矯正視力は右1.2,左0.15であり,それぞれ-8Dと-10Dの近視があった。眼軸長はそれぞれ26.18mmと26.37mmであった。光干渉断層計で両眼黄斑部が前方凸に隆起し,左眼中心窩下に漿液性網膜剝離があった。網膜電図での所見とから,DSMが併発した完全型先天停在性夜盲と診断した。結論:強度近視を伴う完全型先天停在性夜盲ではDSMが併発することがある。

樹氷状網膜血管炎を呈したヒトT細胞型白血病ウイルス陽性の1例

著者: 岡本紀夫 ,   張野正誉 ,   富永明子 ,   山岡青女

ページ範囲:P.313 - P.315

要約 目的:樹氷状血管炎の症例の報告。症例:66歳女性が右眼の霧視で受診した。所見:矯正視力は右0.4,左0.7で,眼圧,前眼部,中間透光体に異常所見はなかった。右眼に網膜の樹氷状血管炎があった。光干渉断層計(OCT)で,血管炎に一致して網膜の内層が高輝度であった。血液検査でヒトT細胞型白血病ウイルスが陽性であり,熊本県の出身であることから,ヒトT細胞型白血病ウイルスによるぶどう膜炎と診断した。リンデロン®点眼で血管炎は消失した。初診から4か月後に左眼にも同様の病変が発症した。結論:樹氷状血管炎の原因として,ヒトT細胞型白血病ウイルスが関与する可能性がある。

専門別研究会

オキュラーサーフェス研究会―ドライアイ研究会

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.316 - P.317

 専門別研究会「ドライアイ研究会」はアレルギー研究会と合同でオキュラーサーフェス研究会として行われた。一般演題9題(うちドライアイ関連が5題,アレルギー関連が4題),ドライアイリサーチアワード受賞講演2題,アレルギー優秀研究1題,合同特別講演1題という構成であった。

日本強度近視眼底研究会

著者: 大野京子

ページ範囲:P.318 - P.319

 日本強度近視眼底研究会は今年が最後の開催となり,来年以降はspecial interest group(SIG)に移行する形となるが,専門別研究会として最後の開催にふさわしい,今後の発展に直結する素晴らしい講演と活発な討論がなされた。

連載 今月の話題

黄斑部毛細血管拡張症の病態と治療

著者: 古泉英貴

ページ範囲:P.233 - P.238

 黄斑部毛細血管拡張症は特発性に片眼性あるいは両眼性に黄斑部の網膜毛細血管拡張所見を呈する疾患群の総称であり,Yannuzziらは臨床所見により3つのサブタイプに分類している。しかしそれらのサブタイプは背景に存在する病態から考えておのおの全く異なる疾患といっても過言ではない。本稿では黄斑部毛細血管拡張症の正確な確定診断のために必要な事項および現状での治療戦略につき概説する。

網膜剝離ファイトクラブ・Round 5

眼球打撲による網膜剝離

著者: 喜多美穂里 ,   木村英也 ,   日下俊次 ,   栗山晶治 ,   斉藤喜博 ,   塚原康友 ,   安原徹

ページ範囲:P.242 - P.248

ファイトクラブにようこそ!

今回は,若年の外傷の網膜剝離例を検討します。

このような症例に遭遇したら,どう対処するか一緒に考えましょう。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・27

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―角膜上皮創傷治癒

著者: 中澤満

ページ範囲:P.250 - P.253

はじめに

 角膜は涙液を介して外界と接している眼組織であるため,外界から受ける物理的,化学的および生物学的な侵襲にさらされる危険性が高い。特に角膜上皮はさまざまな刺激により表面が傷害され,角膜びらんとなりやすい。これに対応して上皮の基底細胞さらには輪部の幹細胞が分裂増殖することで,上皮の欠損部を修復する機構が備わっている。そしてその反応には種々の生理活性物質がかかわっていることが知られている。

 角膜上皮の創傷治癒と生理活性物質の作用については西田輝夫先生とその研究グループによる一連の研究により多数の知見が報告されており,その内容は成書『角膜テキスト』1)にまとめられている。本編では『角膜テキスト』を参照しつつ,筆者なりの理解で角膜上皮創傷治癒について,前号の涙液に引き続きまとめてみた。

つけよう! 神経眼科力・24

頭蓋内病変と神経眼科的所見

著者: 橋本雅人

ページ範囲:P.254 - P.260

頭蓋内病変における神経眼科の役割とは?

 頭蓋内病変で生じる神経症状は多彩であり,特に眼にかかわる症状は多く眼科的評価が必要となる場合が少なくない。我々眼科医は,正確に神経眼科的所見を取り,そこから責任病巣を推定し診断につなげていくという重要な役割を担っている。

 眼科的な神経症状としては,visual pathwayの障害による視覚系の問題,複視や動揺視の原因となる眼球運動系の問題,そして瞳孔障害にかかわる自律神経系の問題が挙げられる。これらの神経眼科所見を総合的に捉え,頭蓋内病変を解明していくことが神経眼科医の役目である。

『眼科新書』現代語訳

その12

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.322 - P.330

『眼科新書』巻之五 網膜病篇(続)

 [前号に掲載した網膜病篇の羞明眼,黒障眼,強過眼に続く項目を以下に掲げる。]

今月の表紙

低眼圧黄斑症

著者: 薄井紀夫 ,   鈴木健司 ,   天野史郎

ページ範囲:P.239 - P.239

 56歳男性。視力は右0.06(0.5×-5.00D()cyl-2.50D 180°),左0.01(矯正不能),眼圧は右19mmHg,左18mmHgであった。両眼とも白内障を認め,左眼水晶体は亜脱臼し,前房内に硝子体脱出を認めた。左眼に対して,水晶体囊内摘出および前部硝子体切除,眼内レンズ縫着術を施行した。術後眼圧は5~7mmHgと低めを推移し,2週間目には黄斑部に皺襞を認め,低眼圧黄斑症と診断した。この時点での左眼視力は0.03(0.1×+6.50D()cyl-2.00D 180°)であった。写真には脈絡膜剝離もみられる。その後,自然経過で徐々に眼圧は上昇し始め,術後1か月目には左眼の眼圧は14mmHg,視力は0.1(0.3×+1.50D()cyl-4.00D 100°)となった。脈絡膜剝離も消失し,黄斑皺襞もわずかになった。術後3か月で左眼視力は0.3(1.0×+1.50D()cyl-2.25D 100°)に回復した。

 撮影にはトプコン社製のTRC-50IXを使用した。撮影で最も注意したことは各部位のフォーカス・色調をきちんと合わせること,周辺部まで撮影することの2点である。毎日の業務の中で色調にまで気を配ることは大変であるが,今後も努力していきたい。

やさしい目で きびしい目で・147

運動でアンチエイジング その2

著者: 戸田郁子

ページ範囲:P.321 - P.321

 腰痛と肩こり,そしてアンチエイジングのために一念発起し,定期的な運動を決意した私はジムに入会することにした。自宅か職場の至近距離でなければ絶対に継続できないと思い,周辺を探したところ,職場から歩いて3分のところにジムがあることを発見し,早速見学に行ってみた。隠れ家的な高級ジムで多少高額であったけれど,パーソナルトレーニングが充実していてしっかり指導してくれそうで,私のように1人でがんばり続けられるかいまいち自信がない人にはいいのでは? と思った。周りを見渡せば,どこかの社長風おじさまばかりで若いイケメン君は皆無だけれど,この際,実をとることにした(入会後に,隣の大手芸能プロダクションのアーティストさんをはじめ芸能人セレブが何人もいらしているのに遭遇し,得した気分にはなったが)。

 入会後は,何人かのトレーナーさんのお世話になったが,入会後半年くらいから現在もお世話になっているKさんに専属でご指導いただくことになった。自分の希望①腰痛を治したい,②肩こりを治したい,③姿勢をよくしたい,④ブラジル人のようなお尻になりたい(注:ぷるんと上がったお尻),⑤O脚を治したい,⑥とにかく若返りたい,とほぼ全身総改造の無茶な注文を出し,プログラムを組んでもらっている。

臨床報告

緑内障患者のdriving performanceにおけるvisual field indexとquality of visionの関連

著者: 松本行弘 ,   宇田川さち子 ,   佐藤香

ページ範囲:P.349 - P.353

要約 目的:緑内障患者の自覚的運転能力と,視野と視覚の質との関連の報告。対象と方法:自動車を日常的に運転し,通院中の緑内障患者36名を対象とした。男性25名,女性11名で,年齢は41~86歳,平均61歳である。運転能力はアンケート,視野はHumphrey視野計のVFI,視覚の質はNEIのVFQ-25で評価した。左右眼の視野に差があるときには,VFIが良好な眼の値を採用した。結果:運転能力とVFIには有意の相関があり(r=-0.40,p<0.05),日中よりも薄暮と夜間の相関が有意に高値であった(ともにp<0.001)。運転能力の総得点と視覚の質は有意に相関し(r=-0.49,p<0.01),遠見視力,周辺視力,運転とも相関した。結論:緑内障患者の自覚的運転能力は優位眼のVFIと関連がある。アンケートとVFIは本研究に有用であった。

全身悪性リンパ腫の視神経乳頭浸潤に対してメトトレキサート硝子体腔注射が有効であった1例

著者: 大湊絢 ,   植木智志 ,   尾山徳秀 ,   高木峰夫 ,   張大行 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.355 - P.360

要約 目的:全身悪性リンパ腫の視神経乳頭浸潤にメトトレキサートの硝子体注射が奏効した1例の報告。症例:61歳女性が1週前からの右視力低下で受診した。22か月前に後頭蓋窩に原発した悪性リンパ腫に対し,腫瘍切除と化学療法を受けた。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫で,部分寛解中であった。所見:矯正視力は右0.4,左05で,右眼の視神経乳頭に発赤腫脹があった。同時期に悪性リンパ腫の頸髄転移が発見された。内科による4種類の抗がん剤治療は奏効せず,右眼視力はさらに低下した。初診から2か月後にメトトレキサートの硝子体注射を開始した。右眼視力は一旦改善したのち0.05に低下した。初診から5か月後にリンパ腫の脳幹への転移で不帰の転帰をとった。結論:全身悪性リンパ腫の視神経乳頭浸潤に対し,メトトレキサートの硝子体注射が奏効する可能性がある。

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼の短期使用成績

著者: 林泰博

ページ範囲:P.361 - P.365

要約 目的:1mlあたりチモロール5mgとラタノプロスト50μgを含む点眼薬を1日1回3か月間点眼した結果の報告。対象と方法:緑内障13例25眼を対象とした。内訳は原発開放隅角緑内障14眼,正常眼圧緑内障10眼,落屑緑内障1眼である。年齢は58~90歳,平均78歳であった。結果:平均眼圧は治療前には19.0±4.6mmHgで,3か月後には13.3±2.5mmHgに有意に低下した(p<0.0001)。点状表層角膜炎には有意な変化はなかった。有害事象として眼刺激感が13眼(52%)に生じた。結論:チモロールとラタノプロスト配合点眼薬は,3か月間の点眼で,正常眼圧緑内障を含む開放隅角緑内障眼に対し,有意の眼圧下降効果を示した。

炎症が遷延化し硝子体手術で寛解した眼トキソカラ症の1例

著者: 塩谷尚子 ,   薄井紀夫 ,   浪川雄一 ,   内海通

ページ範囲:P.367 - P.371

要約 目的:遷延化した眼トキソカラ症が硝子体手術で寛解した症例の報告。症例:29歳女性が12日前からの左眼視朦で受診した。2年前から子猫を飼育していた。所見:矯正視力は右1.5,左1.2で,左眼に硝子体混濁と上耳側周辺部に白色塊があった。副腎皮質ステロイド薬の点眼と内服で炎症はコントロールされていたが,6年後に悪化し,白内障が併発した。血清のトキソカラ抗体が陽性であった。硝子体切除と光凝固で炎症は寛解し,眼底の白色塊は瘢痕化した。結論:眼トキソカラ症は炎症が遷延化し,急速に増悪することがある。硝子体手術と光凝固がこれに奏効した。

カラー臨床報告

白内障術中の内視鏡による毛様体と虹彩後面の所見

著者: 松原倫子 ,   千速知子 ,   小池昇 ,   高橋春男

ページ範囲:P.337 - P.341

要約 目的:白内障手術中に内視鏡で観察した毛様体と虹彩後面の所見の報告。対象と方法:過去42か月間に白内障手術を行った1,287眼を対象とした。男性519眼,女性768眼で,平均年齢は73歳であった。緑内障が113眼(8.9%)にあった。水晶体除去後に眼科用内視鏡を強角膜創から挿入し,下方120°の毛様体と周辺網膜を観察した。結果:毛様体突起部の腫瘤が17眼(1.3%),毛様体扁平部の囊胞が124眼(9.6%)にあった。腫瘤と囊胞のいずれの頻度にも性差はなく,緑内障の併発との関連はなかった。腫瘤の有無については年齢差がなく,囊胞は高年齢者に有意に多かった(p<0.05)。結論:毛様体扁平部の囊胞の発症機序に加齢が関与している可能性がある。

巨大虹彩結節とCD4陽性Tリンパ球の著しい減少を呈したサルコイドーシスの1例

著者: 幸野敬子 ,   前田利根 ,   八代成子 ,   中山永子 ,   山口哲生 ,   廣江道昭

ページ範囲:P.343 - P.347

要約 目的:虹彩の巨大結節とCD4陽性Tリンパ球の著しい減少を示したサルコイドーシスの1例の報告。症例:19歳女性が2か月前からの光視症で受診した。3か月前の健康診断で肺門リンパ節腫脹があり,肺と縦隔生検でサルコイドーシスと診断された。所見:矯正視力は右0.4,左0.8で,右眼の前房に炎症所見があり,虹彩の隅角部に径6mmと1mmの2個の結節があった。左眼に異常はなかった。全身のリンパ節が腫脹し,血液のCD4陽性Tリンパ球が著しく低下し,HIV偽陽性であった。デキサメタゾンの点眼とトリアムシノロンのテノン囊下注射で眼病変は10か月後に軽快し,右眼視力は1.2に回復し,全身所見も改善した。結論:本症例での悪性リンパ腫に類似した諸所見は,活動性サルコイドーシスに関連していると解釈される。

書評

神経眼科―臨床のために 第3版

著者: 石川哲

ページ範囲:P.348 - P.348

 今回,東京医科歯科大学眼科江本博文氏,清澤源弘氏2人のスタッフを中心に,1991年初版の藤野貞氏(故人)による『神経眼科』改訂第3版が出版された。今回書評を依頼されたので本書を紹介すると同時に,2012年に第50回を迎える日本神経眼科学会の発展も知っておいてほしいので以下に紹介する。

 本邦では1974年に石川哲編・著で『神経眼科学:NEURO-OPHTHALMOLOGY(以下,N-Oと略)』が日本で初めて医学書院から発刊された。『N-O』は,故藤野氏を含む北里大学眼科教室員により執筆された。当時,神経眼科学の教科書は評者が留学したニューヨーク大学のKestenbaum(眼科臨床専門),ジョンズ・ホプキンス大学のWalsh(神経病理学)およびカリフォルニア大学のHoyt(脳神経外科・眼科)らの著書が米国から出版されていた。そのころ日本では水俣病,神経Behçet病など日本人に数多く発症した眼症を含む特異な疾患もあったので,上記の教科書『N-O』は,それら疾患の紹介と病態の解明,診断,治療などに重点が置かれた。これら難病患者から得られる情報は複雑で,新たに開発された他覚的所見に基づく症例の神経眼科的分析法,つまり眼球運動,瞳孔,調節,輻湊などの分野に立ち入り他覚的分析法を駆使して疾患を詳述した書籍は当時世界にもみられず,日本独特の神経眼科教科書であった。

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欧文目次

ページ範囲:P.231 - P.231

べらどんな 絶滅危惧種

著者:

ページ範囲:P.253 - P.253

 この10年ばかりの間に次第に影が薄くなり,いまでは完全に姿を消したものがある。赤電話がそれで,「赤電話」と言ってもそれが通じないことすらある。

 ピンク電話というのもあった。赤電話は発信専用だが,こちらは受信もできるので,喫茶店や集合住宅で重宝された。

ことば・ことば・ことば ペン

ページ範囲:P.331 - P.331

 ほとんどの中学生が最初に覚える英語が“This is a pen”という文です。日本語でもpenはペンなので,べつに不思議にも思わずにいたのですが,考えてみるとペンは変な単語です。

 英語のpenの語源はラテン語のpennaで,同じ形のフランス語を経由して入りました。この意味は「羽」です。理由は簡単で,インクで字を書くのに使ったのが鳥の羽ペンだったからです。ペンナイフpenknifeも,本来は「羽ペンを削るナイフ」のことでした。

投稿規定

ページ範囲:P.334 - P.334

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.335 - P.335

希望掲載欄

ページ範囲:P.336 - P.336

べらどんな 強迫神経症

著者:

ページ範囲:P.360 - P.360

 「シェイクスピアにはなんでも書いてある」という説がある。小説の題名にも,さりげなく引用してある例がよくあり,モームの小説「お菓子とビール」Cakes and Aleもそれで,シェイクスピアの喜劇「十二夜」からの引用である。あちらの教養人にはこういったことは常識らしい。

 たまたまある人と「強迫神経症」の話をした。なにかが強く気になって,いつもそのことだけを考え,無意識の行動に出るという精神医学の用語である。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.373 - P.380

アンケート

ページ範囲:P.382 - P.382

次号予告

ページ範囲:P.383 - P.383

あとがき

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.384 - P.384

 『臨床眼科』2012年3月号をお送りします。本号から2011年10月に東京で行われた第65回日本臨床眼科学会の原著論文の掲載が始まります。発表演題全体の約20%の投稿をいただき,本号からしばらくの間,掲載されてまいります。

 臨床眼科学会の原著論文の中の一つ,坂井譲先生らによる「TS-1®による涙道障害の多施設研究」では,抗癌剤であるTS-1による涙道障害107例の報告がされています。TS-1は国内メーカーが開発した経口抗癌剤で,胃癌,結腸・直腸癌を初めとして多くの癌に対して適応があり,国内での投与患者数が増加しています。TS-1投与患者の角結膜や涙道に障害が発生することは数年前から学会や論文で報告されてきましたが,この論文では100例を超える多数例での臨床像が報告されています。TS-1投与では細胞増殖抑制効果による角結膜や涙道における上皮細胞障害が起こると考えられますが,他の抗癌剤よりも角結膜や涙道の障害が起きやすい原因についてはまだ不明な点があります。TS-1による角結膜・涙道障害については,現在,日本角膜学会と日本涙道学会が共同研究調査を進めているところです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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