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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科66巻7号

2012年07月発行

雑誌目次

特集 第65回日本臨床眼科学会講演集(5) 原著

バセドウ病眼症の斜視に対する手術成績

著者: 前田祥史 ,   関向大介 ,   安積淳

ページ範囲:P.981 - P.986

要約 目的:バセドウ病眼症斜視の手術成績の検討。対象と方法:過去3年間に,神戸海星病院で調節糸法による斜視手術を行ったバセドウ病眼症患者を対象として後ろ向きに検討した。治療成績は,遠見眼位と両眼単一視野機能採点法(BSVスコア)で評価した。結果:術後評価を行った40例を解析した。上・下直筋単回手術群27例,内直筋単回手術群5例,複数回手術群8例であり,術半年後の遠見眼位は中央値0~9Δ,BSVスコアは40~71%と改善していた。結論:調節糸法による斜視手術はバセドウ病眼症の眼位異常,複視の改善に有効な方法であった。

上下直筋全幅移動術が奏効した動眼神経不全麻痺の1例

著者: 増谷洋子 ,   友松威 ,   高村佳弘 ,   稲谷大

ページ範囲:P.987 - P.990

要約 背景:上下直筋の全幅移植術は,通常は高度な外転神経麻痺に対して行われる。目的:上下直筋の全幅移植術が,動眼神経不全麻痺で生じた内直筋麻痺に奏効した症例の報告。症例:31歳女性が6年前からの左眼の内転障害で受診した。3年前に左眼外直筋の10mm後転術を受けている。視力は両眼とも良好で,左眼に中等度の散瞳,内転制限,85Δの外斜視があった。上下直筋の全幅移動術を行い,筋腹を鼻側に移動させた。眼位は25Δに改善した。結論:上下直筋の全幅移植術が,動眼神経不全麻痺で生じた高度な内直筋麻痺に奏効した。

甲状腺眼症の下眼瞼後退と内反に対する多孔性ポリエチレンの使用経験

著者: 神前あい ,   井上立州 ,   鈴木淳子 ,   伊藤学 ,   舟木智佳 ,   西山功一 ,   井上吐州 ,   井上洋一

ページ範囲:P.991 - P.995

要約 目的:甲状腺眼症による下眼瞼後退や眼瞼内反症例に対して,瞼板の補強を目的として多孔性ポリエチレン(Medpor®)を使用した手術の治療成績を報告する。対象と方法:下眼瞼後退や眼瞼内反を認めた29例41眼を対象とした。年齢は平均44歳。6眼に眼窩減圧術,12眼に下直筋後転術の既往があった。術式は皮膚切開後,瞼板下縁にMedpor®を縫合した。結果:41眼中37眼に瞼裂高の改善を認め,平均瞼裂高は,術前10.7mmから術後9.1mmに減少した。改善のない4眼も内反の改善をみた。術後,5眼はMedpor®の露出により再縫合を要し,4眼に入れ替えを施行した。結論:甲状腺眼症の下眼瞼後退や眼瞼内反に対してMedpor®の挿入は有効な手術方法であると考えられた。

『先天色覚異常の方のための色の確認表』の検証

著者: 中村かおる ,   岡島修

ページ範囲:P.997 - P.1001

要約 目的:先天色覚異常の無意識の色誤認を本人が納得する形で示すために出版した『先天色覚異常の方のための色の確認表』(色の確認表)の有用性の検証。対象と方法:15~39歳の1型2色覚71名,2型2色覚175名,1型3色覚65名,2型3色覚120名および正常色覚20名に対し,誤読の頻度と傾向を検討した。結果:全表正答者率は2色覚0,異常3色覚31.9,正常色覚100%。正答数は6表すべて2色覚,異常3色覚,正常色覚の順に大きく(p<0.01),先天色覚異常では緑と灰色の混同,赤を緑,青・青緑を紫,黄緑・茶を橙とする誤答が多かった。結論:色の確認表は色名の判断の誤りを容易に確認でき,当事者に色誤認を自覚させるための資料として有用である。

生後3か月の乳児に発症したニューキノロン耐性淋菌性結膜炎の1例

著者: 岡島行伸 ,   小早川信一郎 ,   柿栖康二 ,   長村洋徳 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.1003 - P.1007

要約 目的:ニューキノロン耐性の淋菌性結膜炎が発症した乳児の報告。症例:生後3か月の男児が両眼の眼瞼腫脹,眼脂と充血で救急受診した。ウイルス性結膜炎が疑われた。ニューキノロン薬のモキシフロキサシン点眼は無効であった。眼脂の鏡検にてグラム陰性双球菌が認められた。第2病日からセフェム系のセフメノキシム点眼,セフトリアキソン点滴,セフジニル内服を行い,病像が改善した。眼脂からNeisseria gonorrhoeaeが培養され,ニューキノロン耐性であった。家族に行った血液のPCR検査はすべて陰性であった。結論:淋菌性結膜炎が疑われる症例では,眼脂の塗抹検査による迅速診断と,薬剤耐性株による感染を考慮した抗菌薬の選択が重要である。

感冒様症状後に発症した眼窩筋炎の1例

著者: 石崎典彦 ,   栗本拓治 ,   佐藤陽平 ,   戸成匡宏 ,   松尾純子 ,   奥英弘 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1009 - P.1014

要約 目的:感冒様症状後に発症した眼窩筋炎の症例を報告する。症例:43歳男性。咽頭痛,発熱などの感冒様症状の出現1か月後に眼痛と複視が出現した。所見と経過:両眼の結膜充血,浮腫,眼球運動障害,CT上,両眼4直筋肥厚を認め,眼窩筋炎と診断した。プレドニゾロン120mg/日の投与で速やかに眼所見は改善した。ステロイド漸減中に再発したが,増量により軽快した。結論:インフルエンザウイルス感染が眼窩筋炎の誘因となった可能性がある。眼窩筋炎は急性期にステロイド全身投与が著効するが,本症例のように両眼4直筋が罹患した場合は,再発の危険性が高く,ステロイドの漸減には注意が必要である。

涙道の形態からみた機能的涙道閉塞の病態

著者: 大野木淳二

ページ範囲:P.1015 - P.1019

要約 目的:涙道の通水状態が良好にもかかわらず流涙を訴える機能的涙道閉塞の病態について,鼻内視鏡所見をもとに考察した。対象と方法:流涙症患者158名316側を対象に調査した。結果:鼻内視鏡を用いて鼻涙管下部開口を形態学的な特徴から分類すると,円形開放型40側,弁状型26側,袖状型43側および癒着型207側であった。癒着型における機能的涙道閉塞57側では瞬目運動とともに蛍光色素液が下鼻道へ流出したものは7側であり,通水時に膜性鼻涙管下鼻道部が膨隆したものが39側,ほかに膿の流出12側,涙石の流出8側,出血5側などがみられた。結論:機能的涙道閉塞の原因として癒着型の鼻涙管下部開口の形態が関与するため,鼻内視鏡検査は有益である。

重症ドライアイに合併した涙囊炎に対する涙囊摘出の効果

著者: 廣瀬浩士 ,   佐久間雅史 ,   鶴田奈津子 ,   服部友洋 ,   久保田敏信

ページ範囲:P.1021 - P.1024

要約 目的:重症ドライアイに併発した涙囊炎に対して涙囊摘出を行った結果の報告。対象:過去6年間に重症ドライアイに併発した涙囊炎に対して涙囊摘出を行った6例8側を検索した。男性1側,女性7側で,平均年齢は70歳である。結果:術前の涙管通水は全例が陰性で,膿の逆流があった。フルオレスチン染色スコア,涙液三角(tear meniscus)の高さ,Schirmerテスト1法,涙膜破壊時間など,他覚的所見は全例で改善した。自覚症状としては,YAGレーザーを使った2例で,創傷治癒に伴う疼痛があった。結論:重症ドライアイに併発した涙囊炎に対する涙囊摘出術で,術後の涙液動態が安定した。本術式は治療法として有用である。

5年以上長期経過観察が可能であった高齢者の視機能検査と知能検査の推移

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   加藤帝子 ,   小田真弓

ページ範囲:P.1025 - P.1028

要約 目的:老人ホームに住む高齢者の,5年以上の期間での知能と視機能の変化の報告。対象と方法:過去6年間に往診診察を行い,5年以上の経過が観察できた高齢者10例を対象とした。男性1例,女性9例で,観察終了時の年齢は,82~94歳,平均88歳であった。知能は知能指数(IQ),視機能は通常の眼科的検査とひらかな万国式近点検査表で評価した。結果:良好な側の片眼視力は,84歳時では0.8以上が5例,0.3~0.7が5例あった。85歳では0.8以上が7例,0.3~0.7が3例であり,88歳では0.8以上が2例,0.3~0.7が6例,0.1以下が2例であった。知能指数は,84歳では11歳以上が4例,2~12歳が5例,2歳以下が1例であり,85歳ではそれぞれ6,3,1例で,88歳ではそれぞれ1,6,3例であった。結論:平均年齢が85歳までは視力検査と知能検査によく応答したが,88歳に達すると反応が急減した。

両眼に発症した輪部デルモイドの1例

著者: 中村友美 ,   戸田良太郎 ,   曽根隆志 ,   近間泰一郎 ,   木内良明

ページ範囲:P.1029 - P.1033

要約 目的:全身合併症がなく,両眼に発症した輪部デルモイドの症例の報告。症例:17歳女性が30か月前に両眼の輪部デルモイドと診断され,治療のため受診した。両眼に強度近視があり,矯正視力は右1.0,左1.5であった。右角膜の下方に径6mm,左角膜の下耳側に径7mmの楕円形で黄白色の隆起性腫瘤があった。両眼とも腫瘤に毛髪が数本あり,輪部デルモイドと診断した。全身麻酔下で両眼の腫瘤を摘出し,1個の新鮮角膜から採取した移植片で両眼に表層角膜移植術を行った。病理所見からデルモイドと診断した。術後矯正視力は右1.5,左1.2である。結論:全身合併症がない症例に,輪部デルモイドが両眼に発症することがある。本例では1個の新鮮角膜から両眼に表層角膜移植術を行うことができた。

緑内障配合剤点眼薬と患者アドヒアランス

著者: 山田愛 ,   菅谷哲史 ,   堀眞輔 ,   佐々木淳 ,   古作和寛 ,   山崎芳夫

ページ範囲:P.1035 - P.1038

要約 目的:多剤併用療法から配合剤点眼薬へ切り替え後の点眼アドヒアランスと眼圧の検討。対象と方法:多剤併用療法から配合剤点眼薬へ切り替えた高眼圧症または緑内障35例について,切り替え前後の点眼アドヒアランスと眼圧変化を検討した。結果:切り替え後,1か月間に点眼忘れが1回以上あった症例(点眼忘れあり群)が20例から12例に減少した。点眼忘れなし群では,切り替え後の平均眼圧が切り替え前と比較し有意(p=0.019)に上昇した。点眼忘れあり群では眼圧変化はなかった。結論:切り替えはアドヒアランス不良例を対象とすることが望ましいと考えられた。

手帳持参による緑内障治療のアドヒアランスの変化

著者: 小林博

ページ範囲:P.1039 - P.1044

要約 目的:緑内障患者に手帳を持参させることでアドヒアランスが変化した報告。対象と方法:1年間にわたり2か月ごとの受診予約があり,緑内障手帳を持っていない緑内障患者230名を対象とした。男性114名,女性116名で,年齢は18~87歳,平均67歳である。手帳を新規に交付し,以後1年間の持参率を調査し,交付前と1年後の点眼治療の状況を面接調査した。結果:12か月間の調査を204名が完了した。2,6,12か月後の手帳の持参率は,73%,90%,98%であり,有意に増加した(p<0.0001)。アドヒアランス不良患者は,調査開始時の69名(34%)から12か月後の55名(27%)に減少したが,有意差はなかった(p=0.1)。調査開始時と12か月後の1か月間に点眼しなかった平均回数は,2.1±4.5回と1.1±1.8回で,有意に減少した(p=0.0083)。どの時点でも,手帳の持参回数と1か月間に点眼しなかった回数は有意に相関していた。結論:手帳を持参させることで,緑内障への点眼治療のアドヒアランスが改善したが,不十分であった。

長期的な外傷性低眼圧症に対して低侵襲小切開経強膜毛様体縫合術が奏効した1例

著者: 愛新覚羅維 ,   三嶋弘一 ,   唐川綾子 ,   相原一

ページ範囲:P.1045 - P.1051

要約 目的:長期間続いた外傷性低眼圧症に奏効した低侵襲小切開経強膜毛様体縫合術の症例の報告。症例:17歳女子の右眼を校庭に捲く散水が直撃し,その1週間後に低眼圧になった。受傷から4か月後に紹介受診した。所見:矯正視力は右0.2,左1.2で,眼圧は右2mmHg,左10mmHgであった。右眼に散瞳,乳頭浮腫,低眼圧性黄斑症,毛様体解離が全周にあった。隅角解離はなかった。低侵襲小切開経強膜毛様体縫合術を行い,手術は45分で終了した。眼圧は12mmHg,視力は1.0に回復した。結論:長期間続いた外傷性低眼圧症に対し,低侵襲小切開経強膜毛様体縫合術が奏効した。

他覚的屈折度を30年以上追えた571眼症例の屈折度の変化

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.1053 - P.1057

要約 目的:初診時より30年以上の経過を追った571眼での他覚的屈折の変化の報告。対象と方法:眼科の1診療所で30年以上の経過を観察した294名571眼を対象とした。白内障,緑内障,強度乱視などの症例は除外した。調節麻痺状態で全例を他覚的屈折計で検査した。初診時年齢は1~59歳で,240眼(42%)が18歳未満,156眼(27%)が40歳以上であった。全例を初診時年齢により7群に分け,30年間の屈折の変化を検索した。結果:18歳未満の240眼では,30年後の屈折が217眼(90%)で近視側に変化した。40歳以上の156眼では,30年後の屈折が99眼(63%)で遠視側に,40眼(26%)で不変,17眼(11%)で近視側に変化した。19~29歳までの年齢層では,屈折はほぼ安定していた。結論:30年間の観察で,近視化の傾向は初診時年齢が18歳までは高く,30歳を過ぎると遠視化の傾向が生じた。

広角観察システムを使用したアトピー網膜剝離に対する強膜バックリング術の1例

著者: 春田真実 ,   佐藤達彦 ,   池田俊英 ,   坂東肇 ,   澤田浩作 ,   大浦嘉仁 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.1059 - P.1062

要約 目的:広角観察システムを使って手術をしたアトピー網膜剝離の症例の報告。症例:37歳男性が5か月前からの左眼視力低下で受診した。アトピー性皮膚炎の既往があった。所見:矯正視力は右1.5,左0.3で,両眼に耳側鋸状縁付近の裂孔と網膜剝離があった。左眼に超音波水晶体乳化吸引術を施行したのち,25Gシステム硝子体手術用カニューラを通してシャンデリア照明を設置し,広角観察システム下で冷凍凝固を行い,シリコーンスポンジを設置し,シリコーンバンド輪状締結術を行い,眼内レンズを挿入した。その1週間後に右眼に同様の手術を行った。両眼とも網膜が復位し,1年後の現在まで経過は良好である。結論:広角観察システムを使うことで,眼底全体の観察と裂孔の同定が容易であった。

卵黄状黄斑ジストロフィに伴う脈絡膜新生血管に対しベバシズマブ硝子体内注射を施行した1例

著者: 安田千映子 ,   近藤峰生 ,   上野真治 ,   吉田茂生 ,   石橋達朗 ,   寺﨑浩子

ページ範囲:P.1063 - P.1067

要約 目的:卵黄状黄斑ジストロフィに伴う脈絡膜新生血管に対してベバシズマブ硝子体注射を行った1症例の報告。症例:23歳女性が右眼に突発した視力低下で受診した。8年前に眼球打撲を契機として眼科を受診し,卵黄状黄斑ジストロフィと診断された。当時の視力は左右眼とも1.2であった。所見:矯正視力は右0.5,左1.2であり,右眼黄斑部に網膜下出血があった。蛍光眼底造影で黄斑部に脈絡膜新生血管を示す所見があった。ベバシズマブの硝子体注射を4週間の間隔で2回行い,3か月後に右眼視力は1.0に回復した。以後6か月間,脈絡膜新生血管の再発はない。結論:卵黄状黄斑ジストロフィに伴う脈絡膜新生血管に対してベバシズマブ硝子体注射が奏効した。

経口抗癌剤エルロチニブによる薬剤性ぶどう膜炎が疑われた1例

著者: 川口亜佐子 ,   武信二三枝 ,   山崎厚志 ,   井上幸次

ページ範囲:P.1069 - P.1072

要約 目的:エルロチニブの経口投与後に発症した両眼性前部ぶどう膜炎の症例の報告。症例:85歳男性が両眼の霧視と充血で紹介受診した。15か月前に非小細胞肺癌と診断され,1次と2次の化学療法を受けたが病巣が拡大した。6週間前から3次治療として1日量150mgのエルロチニブの経口投与が開始された。10日の休薬後に内服を再開したが,4日前に霧視と充血が生じた。所見:矯正視力は右0.8,左1.0で,両眼の瞳孔縁に結節形成,右眼に虹彩後癒着があった。副腎皮質ステロイドの点眼2日後には病像に変化がなく,エルロチニブの投薬中止から4日後に虹彩炎症状はほとんど消失した。結論:本症例では,肺癌による全身病変があり,エルロチニブの投与が加わってぶどう膜炎が生じた可能性がある。

連載 今月の話題

抗加齢医学の最近の進歩と眼科疾患

著者: 綾木雅彦 ,   坪田一男

ページ範囲:P.953 - P.956

 抗加齢医学の科学的エビデンスが着実に蓄積されつつあり,従来は不可能とされてきた加齢疾患の予防や治療が現実的なものになりつつある。本稿では,最近めざましい研究成果が出てきているカロリス仮説とROS仮説について解説する。特にカロリス仮説は老化への全体的介入を可能にした画期的な学説であり,今後の発展が注目される。

網膜剝離ファイトクラブ・Round 9

強度近視黄斑円孔網膜剝離

著者: 喜多美穂里 ,   木村英也 ,   日下俊次 ,   栗山晶治 ,   斉藤喜博 ,   塚原康友 ,   安原徹

ページ範囲:P.958 - P.968

ファイトクラブにようこそ!

今回は,強度近視黄斑円孔網膜剝離の症例を検討します。

このような症例に遭遇したら,どう対処するか一緒に考えましょう。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・31

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―未熟児網膜症

著者: 中澤満

ページ範囲:P.970 - P.973

はじめに

 未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)は,主として出生体重1,500g未満の極低出生体重児(または極小未熟児)や,そのなかでも1,000g未満の超低出生体重児(または超未熟児)に発症しやすく,小児の重篤な視覚障害の原因疾患の代表である。網膜血管は,胎生期に視神経乳頭に存在する血管芽細胞から徐々に血管内皮細胞が分化し,分裂と増殖を繰り返しながら網膜周辺部へ向けて伸展する。乳頭から鼻側は比較的距離が短いので胎生32週ごろまでには網膜血管は最周辺部まで到達するが,耳側は比較的距離が長いため36週ごろまでかかってしまう。したがってこの時期より早く出生した場合は,網膜血管は最周辺部まで到達しておらず出生後にさらに伸長する必要がある。生理的にこの網膜血管の発達を促すのが血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)であり,通常,分化・発達しつつある血管の先端部に位置する内皮細胞から分泌され,その濃度勾配に反応してさらに血管が伸長する。

 一方,早産で出生した新生児は呼吸不全や貧血などで全身の低酸素状態であることが多く,酸素投与が必要となる。このため,酸素投与中は網膜も相対的な高酸素状態となり,酸素による血管収縮が起こるが,網膜自体の酸素需要は物理的に賄えられるため,VEGF分泌は抑制され網膜血管の伸長も停止する。問題は酸素投与が終了した後であり,網膜血管が収縮した状態で空気呼吸に移行すると,血管がまだ完成していない網膜(無血管帯)は相対的な低酸素状態となる。よって無血管帯からはVEGFがさかんに合成・分泌されることになる。このため,いまだ未熟な網膜血管にVEGFシグナルが過剰に加わり,場合によっては硝子体中への過剰な血管増生(Stage 3以降,図1)から牽引性網膜剝離の発症という予後不良なROP(Stage 4以降)へと進展する危険をはらんでくる。

つけよう! 神経眼科力・28

眼窩内疾患の診かたと治療―慢性炎症

著者: 三村治

ページ範囲:P.974 - P.980

はじめに

 眼窩の炎症でも,身体の他の部位と同じく炎症の3徴である発赤,腫脹,疼痛がみられる。しかし,眼窩炎症では感染性の眼窩蜂巣炎のような炎症の強いタイプから偽腫瘍を形成する腫瘤性病変の強いタイプまでさまざまなタイプがあり,慢性炎症では腫瘤性病変が強く現れることが多く,発赤はそれほど目立たないが,稀に非常に強い疼痛を訴えることがある。慢性眼窩炎症で最も頻度が高いものは甲状腺眼症であるが,それ以外にもさまざまなものがある(表1)1,2)。最近では自己免疫性のIgG4関連眼窩症3,4)やビスホスホネートなど骨粗鬆症予防薬投与に伴うものが注目されている5,6)。本シリーズではすでに甲状腺眼症を取り上げているので,本稿では主として特発性眼窩炎症,特発性外眼筋炎,IgG4関連眼窩症などの甲状腺眼症以外の疾患について述べる。

今月の表紙

白血病網膜症の経時的変化

著者: 反保宏信 ,   天野史郎

ページ範囲:P.957 - P.957

 症例は59歳,男性。急性骨髄性白血病の診断で当院血液内科より,眼底検査依頼にて当科を受診した。眼底には白血病に特徴的なRoth斑を伴う眼底出血を認め,出血の形態として黄斑上の網膜前出血,網膜表層の火焔状出血,斑状の網膜下出血があった。一時,出血の増加を認めたが,化学療法開始後は徐々に出血が消退していった。視力は眼底所見の改善に伴い,(0.3)→(1.2)と改善した。

 今回の症例では初診時から眼底出血の経過が観察でき,最終的にRoth斑を伴う眼底出血が完全に消失するまで約4か月間の期間を要した。

やさしい目で きびしい目で・151

仕事と子育て奮闘中

著者: 植木麻理

ページ範囲:P.1073 - P.1073

 眼科医になりたてのころから「手術でヒトの目を守れるようになりたい」と思っていました。眼科医になって8年目,池田恒彦教授就任後に池田硝子体学校の一期生として大学に戻りました。朝早くから夜遅くまで網膜硝子体手術にどっぷりと浸かり,家に帰るのは寝るときだけ。このときには男女の差などは考えたこともありませんでした。

 結婚10年目,38歳にして妊娠,出産。子供ができて初めて男の先生と女医の違いを感じました。主人が単身赴任をしており,育児は一人で行わなくてはなりません。手術が終わらず,保育園に1時間以上遅れて迎えにいったとき,保育士さんにやさしくされ泣いたことや夜中に涙囊鼻腔吻合術後の患者さんが大量の鼻出血を起こしたときには子供をだっこしながら病院に行き,帰りは夜中の2時をすぎてしまったこともありました。

臨床報告

ハンセン病性ぶどう膜炎既往者の白内障術後炎症再燃と抗lipoarabinomannan-B抗体

著者: 上甲覚 ,   並里まさ子 ,   堀江大介

ページ範囲:P.1077 - P.1080

要約 目的:ハンセン病によるぶどう膜炎の白内障術後の再燃と,抗酸菌の共通抗原であるlipoarabinomannan-B(LAM-B)に対する抗体値との関連の報告。対象と方法:ハンセン病によるぶどう膜炎の既往があり,1995年7月までの17か月間に同一術者が白内障手術を行った症例のうち,5年以上の術後観察ができ,術前のらい菌検査が10年以上陰性で,術前に抗LAM-B抗体価が検索できた13例16眼を対象とした。結果:前房内炎症が5例6眼で再燃した。うち4例5眼では抗LAM-B IgGとIgM抗体価がともに陽性であった。炎症の再燃がない8例10眼では,両抗体価がともに陽性の例はなかった。結論:ハンセン病によるぶどう膜炎の既往があり,抗LAM-B IgGとIgM抗体価がともに陽性である症例では,白内障術後にぶどう膜炎が再燃する可能性が高く,長期間の経過観察が必要である。

外眼筋麻痺における乳頭-中心窩傾斜角

著者: 若杉恵子 ,   渡辺ひとみ ,   伊佐敷靖

ページ範囲:P.1081 - P.1085

要約 目的:視神経乳頭の中心と中心窩を通る直線と,水平線との角度を「乳頭-中心窩傾斜角」と定義し,これを正常者と外眼筋麻痺眼について測定した。対象と方法:動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺などを含む外眼筋麻痺12例と,健常者46例の眼底写真から乳頭-中心窩傾斜角を測定した。結果:乳頭-中心窩傾斜角は,健常者では6.9±3.8°であった。動眼神経麻痺3眼では病側への外旋過剰,滑車神経麻痺または上斜筋麻痺では健側への外旋過剰があった。Ocular tilt reactionでは両眼に右回りの異常回旋があった。結論:乳頭-中心窩傾斜角の測定は,外眼筋麻痺の鑑別診断に有用である。

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欧文目次

ページ範囲:P.950 - P.951

日本網膜色素変性症協会(JRPS)研究助成 第16回(2012年度)受賞者のお知らせ

ページ範囲:P.980 - P.980

第16回JRPS研究助成は,JRPS学術理事の厳正な審査の結果,以下の2件に決定致しました。

べらどんな 蝶の色覚

著者:

ページ範囲:P.995 - P.995

 昆虫の種類は全世界でざっと100万あると推定されている。蝶と蛾の鱗翅類には12万の種があるらしいが,蛾にくらべると蝶はずっと少なく,日本には230の在来種しかいない。

 それでも,飛んでいる蝶の種類を当てるのは容易ではない。黄色と黒を基調とするアゲハにしても,これと似たキアゲハがいるし,タテハチョウ科のウラギンヒョウモンには,これとそっくりのオオウラギンヒョウモンやヒョウモンモドキまでいる。

第30回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.996 - P.996

 第66回日本臨床眼科学会(京都)会期中の2012年10月25日(木)~28日(日)に開催される「第30回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな 投稿規定

著者:

ページ範囲:P.1044 - P.1044

 学術原稿を生のかたちで拝見することがよくある。現役だった頃,医局員が書いた原稿を見るときには,恩師のH教授を見本にしていた。実に丁寧に論文を読んでくださり,テニオハにまで手を入れていただいた。

 どの雑誌にも投稿規定があるが,とてもすべてを規定できるものではない。

ことば・ことば・ことば 虹は6色

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 色の呼び名が昔とは違ってきました。「ももいろ」とは言わなくなり,「ピンク」に統一されています。「くさいろ」も好きな色ですが,「きみどり」が一般的です。

 日本語には色をあらわす単語が実に豊富です。ちょっと考えるだけでも,柿色,桜色,珊瑚色,薄墨色(うすずみいろ),臙脂色(えんじいろ),錆色(さびいろ),小豆色(あずきいろ),浅葱色(あさぎいろ),若竹色(わかたけいろ)など,スラスラ出てきます。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1087 - P.1094

投稿規定

ページ範囲:P.1096 - P.1097

希望掲載欄

ページ範囲:P.1098 - P.1098

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1099 - P.1099

アンケート

ページ範囲:P.1100 - P.1100

次号予告

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あとがき

著者: 天野史郎

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 『臨床眼科』2012年7月号をお送りします。「今月の話題」では綾木先生,坪田先生が「抗加齢医学の最近の進歩と眼科疾患」について解説しています。抗加齢医学の分野では,多くの動物種でカロリー制限が長寿遺伝子と言われるサーチュイン遺伝子の活性化などを通して寿命の延長を引き起こすことがわかり,また活性酸素種の過剰産生が寿命の短縮につながり抗酸化酵素の過剰発現が寿命の延長を起こすなど,加齢・抗加齢の分子メカニズムが解明されつつあります。緑内障,加齢黄斑変性,白内障など多くの眼科疾患は加齢に関連しており,加齢・抗加齢のメカニズムの解明が,こうした眼科疾患の克服につながることが期待されます。

 連載である「網膜剝離ファイトクラブ」,「眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本」,「つけよう!神経眼科力」,はいずれも読みごたえのある内容です。連載を継続して読むことでそれぞれの領域の知識がぐんとアップすること間違いありません。7月号が発売される頃には眼科専門医試験も終わり合格者が発表されていることでしょう。眼科医になる人の数が10年前の半分になってしまっており,眼科医不足,眼科医療崩壊が危惧されています。皆様とともに,色々な機会において眼科の大切さ,面白さを医学生や研修医に訴えるようにしていきたいと考えています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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